説明

パイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法及び計測評価装置

【課題】異なる商用交流周波数を運用する地域で併用できる計測評価方法を提供する。
【解決手段】地中に埋設された金属製のパイプラインにクーポンを接続し、クーポン電流の計測値から求められるクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度によってパイプラインの交流腐食リスクを評価する方法であって、クーポン電流の計測値波形から交流腐食発生源の周波数を特定する周波数特定工程と、特定された周波数の1周期を1単位時間として、1単位時間内のクーポン電流の計測値から1組のクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度を求めるクーポン電流密度算出工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クーポン電流を計測することでパイプラインの交流腐食リスクを計測評価する計測評価方法及び計測評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地中に埋設されている金属製のパイプライン(以下、これを単にパイプラインという)は、外表面が高抵抗率のプラスチックコーティングで被覆されており、また、高圧交流送電線や交流電気鉄道輸送路と長距離にわたって並行して敷設される状況が増えていることから、交流腐食リスクを計測評価することの必要性が高まっている。パイプラインの交流腐食事例の解析結果によると、交流腐食の発生源はパイプラインと並行する高圧交流送電線または交流電気鉄道輸送システムであると言える。交流腐食は、これらの交流腐食発生源の影響を受けてパイプラインに交流誘導電圧が発生している状態でパイプラインのコーティング欠陥部で生じる。したがって、コーティング欠陥部の面積における交流電流密度IAC[A/m2]が交流腐食速度を把握するための指標になる。
【0003】
コーティング欠陥部の面積S[m2]における交流電流密度IAC[A/m2]は、IAC=VAC/(R・S)となり(ここで、VAC:パイプラインに生じている交流誘導電圧,R:コーティング欠陥部の接地抵抗)、コーティング欠陥部を直径d[m]の円形とすると、コーティング欠陥部の接地抵抗R[Ω]は、R=ρ/(2d)で表される(ここで、ρ:電解質の抵抗率[Ω・m];下記非特許文献1参照)。これによって、コーティング欠陥部の面積S[m2]における交流電流密度IAC[A/m2]は、以下の式で表すことができる。
【数1】

ここで、
j:虚数単位
ω:2πf(f:送電線、電車線を流れる電流の周波数)
M:送電線、電車線と埋設されたコーティングパイプラインとの相互インダクタンス
I:送電線電流、電車線電流
L:送電線、電車線と埋設されたコーティングパイプラインとの並行距離
【0004】
この式から明らかなように、交流誘導電圧VACが大きい(すなわち、高圧交流送電線や交流電気鉄道輸送システムの送電線電流,電車電流が大きい、及び/または送電線,電車線とパイプラインとの並行距離が長い)ほど、コーティング欠陥部に接する電解質の抵抗率ρが低いほど、コーティング欠陥部の面積Sが小さいほど、交流電流密度IACは大きくなり、交流腐食速度が大きくなる。また、別の見方をすると、交流電圧VACがそれほど大きくなくても、コーティング欠陥部に接する電解質の抵抗率ρが低く、コーティング欠陥部の面積Sが小さいと交流電流密度IACは大きくなり、交流腐食速度が大きくなる。
【0005】
地中に埋設されているコーティングパイプラインにおけるコーティング欠陥部の交流電流密度は、実際には計測不可能である。そこで、パイプラインの交流腐食リスクは、パイプラインに近接して埋設されたクーポンとパイプラインとを電気的に接続し、その接続電線を流れる電流の計測値から得られるクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度の2つの値(この2つの値を総称してクーポン電流密度という)を、クーポン電流密度を指標としたカソード防食基準と照査することで評価している。ここでいうクーポンとは、パイプラインのコーティング欠陥部を模擬したものであり、パイプラインと同じ金属材料で作られた表面積が既知の金属片である(下記非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W. V. Baeckmann and W. Schwenk:Handbuch des kathodischen Korrosionsschutzes, WILEY-VCH Verlag GmbH, Weinheim, Deutschland, 1999
【非特許文献2】電気学会・電食防止研究委員会編「電食防止・電気防食ハンドブック」株式会社オーム社,2011年1月20日,p.123〜156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図1は、パイプラインにおけるクーポン電流密度の計測方法を示した説明図である。図1(a)に示すように、地中に埋設されたパイプラインPに近接してクーポンCを埋設し、クーポンCとパイプラインPとを電線Wで電気的に接続する。パイプラインPの外表面はプラスチック材料のコーティングP1で被覆されており、クーポンCの先端部C1の表面積AがコーティングP1の欠陥部を模擬している。クーポンCとパイプラインPを電気的に接続する電線Wにはシャント抵抗Rsが設けられ、シャント抵抗Rsに流れる電流(クーポン電流)を計測する計測装置Mによって、クーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACが求められる。
【0008】
図1(b)に示した例では、クーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACは、0.1ms間隔でサンプリングされたクーポン電流の計測値(I(1),I(2),I(3),…)から求められる。この際、クーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACは、交流腐食発生源(例えば、高圧交流送電線及び/または交流電気鉄道輸送システム)の交流周期を1サブユニットとして、1サブユニット毎に一組のクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACを求めるように定義されており、複数のサブユニットからなる1ユニット毎に、クーポン直流電流密度IDCの平均値IDCave,最大値IDCmax,最小値IDCmin、クーポン交流電流密度IACの平均値IACave,最大値IACmax,最小値IACminを求めている。
【0009】
図1(b)に示した例は、交流腐食発生源の商用交流周波数が50Hz(周期が20ms)の場合である。この場合には、1サブユニットが20msに設定され、この1サブユニットで200個の計測値(I(1),I(2),I(3),…I(199),I(200))がサンプリングされる。そして、この計測値I(t)(t=1〜200)から、下記(1),(2)式によってクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACが求められる(式中のAはクーポンの表面積)。
【数2】

【0010】
前述した式で定義されるクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACを求める際には、交流腐食発生源の商用交流周波数が予め判っていることが前提になっており、その商用交流周波数の1周期でサブユニットを区切って一組のクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACを求めている。しかしながら、交流腐食発生源の商用交流周波数には、16−2/3Hz,50Hz,60Hzの3種類があり、地域毎と用途毎に異なる周波数で運用されている。例えば、フランスのように高圧交流送電線と交流電気鉄道輸送システムの周波数が同一の50Hzの国もあれば、ドイツのように高圧交流送電線は50Hz、交流電気鉄道輸送システムは16−2/3Hzという国もある。日本の高圧交流送電線の周波数は、東日本が50Hzで西日本が60Hzであるが、東海道新幹線は東京から60Hzで運転されているので、関東地区は50Hzと60Hzが交流腐食発生源の周波数となり得る。
【0011】
これに対して、これまでのクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACの計測は、一つの商用交流周波数を対象にした固定サブユニットで行われており、異なる商用交流周波数を運用する地域間で計測評価装置を併用することができない問題があった。そして、固定サブユニットの計測評価装置を用いて、固定サブユニットの計測時間と異なる周期の商用交流周波数に対してクーポン交流電流密度IACを求めると、交流腐食リスクを評価するために適する精緻なクーポン交流電流密度IACを得ることができない問題があった。
【0012】
また、クーポン電流密度の計測地点で、交流腐食発生源を明確に特定できない場合や、異なる商用交流周波数を用いた交流腐食発生源の影響が混在している場合があり、計測時においてクーポン電流密度を求めるためのサブユニットの計測時間を設定できない場合がある。このような場合にも、予め設定していた固定サブユニットの計測時間とパイプラインに影響している交流腐食発生源の交流周期が異なる場合には、交流腐食リスクを評価するために適する精緻なクーポン交流電流密度IACを得ることができない問題があった。
【0013】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、パイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法及び計測評価装置において、異なる商用交流周波数を運用する地域で併用できる計測評価方法及び計測評価装置を提供できること、一つの計測評価装置で異なる商用交流周波数を運用する地域毎に、交流腐食リスクを評価するために適する精緻なクーポン交流電流密度を得ることができること、クーポン電流密度の計測地点で、交流腐食発生源を明確に特定できない場合や、異なる商用交流周波数を用いた交流腐食発生源の影響が混在している場合であっても、交流腐食リスクを評価するために適する精緻なクーポン交流電流密度を得ることができること、などが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような目的を達成するために、本発明のパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法及び計測評価装置は以下の構成を少なくとも具備している。
【0015】
地中に埋設された金属製のパイプラインにクーポンを接続し、クーポン電流の計測値から求められるクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度によってパイプラインの交流腐食リスクを評価する方法であって、クーポン電流の計測値波形から交流腐食発生源の周波数を特定する周波数特定工程と、特定された周波数の1周期を1単位時間として、当該1単位時間内のクーポン電流の計測値から1組のクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度を求めるクーポン電流密度算出工程を有し、前記周波数特定工程は、商用交流周波数である16−2/3Hz,50Hz,60Hzの中なら一つの周波数を順次選択して、選択した周波数の1周期でクーポン電流の計測値波形を切り出し、切り出した波形の最大値と最小値の出現時刻の差が選択した周波数の1周期の1/2と一致するか否かを判定し、当該判定の結果が一致する場合に、選択した周波数を交流腐食発生源の周波数として特定することを特徴とするパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法。
【0016】
地中に埋設された金属製のパイプラインにクーポンを接続し、クーポン電流の計測値から求められるクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度によってパイプラインの交流腐食リスクを評価する装置であって、クーポン電流の計測値波形から交流腐食発生源の周波数を特定する周波数特定手段と、特定された周波数の1周期を1単位時間として、当該1単位時間内のクーポン電流の計測値から1組のクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度を求めるクーポン電流密度算出手段とを有し、前記周波数特定手段は、商用交流周波数である16−2/3Hz,50Hz,60Hzの中から一つの周波数を順次選択して、選択した周波数の1周期でクーポン電流の計測値波形を切り出し、切り出した波形の最大値と最小値の出現時刻の差が選択した周波数の1周期の1/2と一致するか否かを判定し、当該判定の結果が一致する場合に、選択した周波数を交流腐食発生源の周波数として特定することを特徴とするパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、このような特徴を備えることで、異なる商用交流周波数を運用する地域で併用できる計測評価方法及び計測評価装置を提供することができる。また、一つの計測評価装置で異なる商用交流周波数を運用する地域毎に、交流腐食リスクを評価するために適する精緻なクーポン交流電流密度を得ることができる。また、クーポン電流密度の計測地点で、交流腐食発生源を明確に特定できない場合や、異なる商用交流周波数を用いた交流腐食発生源の影響が混在している場合であっても、交流腐食発生源の周波数を特定して、交流腐食リスクを評価するために適する精緻なクーポン交流電流密度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】パイプラインにおけるクーポン電流密度の計測方法を示した説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法を示した説明図(工程フロー)である。
【図3】本発明の実施形態における周波数特定工程の具体例を示した説明図である。
【図4】本発明の実施形態におけるクーポン電流密度算出工程の具体例を示した説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価装置を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。図2は本発明の一実施形態に係るパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法を示した説明図(工程フロー)である。本発明の実施形態に係る計測評価方法は、図1に示した方法と同様に、地中に埋設された金属製のパイプラインPにクーポンCを接続し、クーポン電流の計測値から求められるクーポン交流電流密度によってパイプラインPの交流腐食リスクを評価する方法であって、クーポン電流の計測値波形から交流腐食発生源の周波数を特定する周波数特定工程と、特定された周波数の1周期を1単位時間として、1単位時間内のクーポン電流の計測値波形から1つのクーポン交流電流密度を求めるクーポン電流密度算出工程を有する。
【0020】
周波数特定工程は、パイプラインPに交流誘導電圧を発生させている交流腐食発生源の周波数を特定するための工程である。この工程を設けることで、交流腐食発生源の周波数が予測可能であるか予測不可能であるかに拘わらず、クーポン電流の計測値波形から交流腐食発生源の周波数を特定することができる。
【0021】
具体的には、先ず、所定時間だけ設定されたサンプリング間隔でクーポン電流I(t)を計測する(STEP1)。ここでのサンプリング間隔は、商用交流周波数である16−2/3Hz,50Hz,60Hzの周期変化が明確に把握できる微細な間隔(例えば、0.1ms間隔)が好ましい。計測されたクーポン電流I(t)は、出現時刻と対応した時系列データとして記憶手段に記憶される。
【0022】
次に、商用交流周波数である16−2/3Hz,50Hz,60Hzの中から一つの周波数Fbを順次選択する(STEP2)。そして、選択した周波数Fb[Hz]の1周期T(=1000/Fb)[ms]でクーポン電流I(t)の計測値波形を切り出し(STEP3)、切り出した波形の最大値と最小値の出現時刻差Δtが選択した周波数Fbの1周期Tの1/2と一致するか否かを判定する(STEP5)。Δt≠(1/2)・Tの場合(STEP5:NO)には、選択する周波数Fbを異なる商用交流周波数に換えて、STEP2〜STEP5を行う。これにより、Δt=(1/2)・Tとなった場合(STEP5:YES)には、このときに選択した周波数Fbを交流腐食発生源の周波数として特定する。
【0023】
図3は、前述した周波数特定工程の具体例を示した説明図である。図示のように、クーポン電流I(t)の計測値波形(時系列データ)が得られている場合に、先ず、周波数Fbとして60Hzを選択する。60Hzの1周期T1は16.7msであるから、図3(a)に示すように、1周期T1で計測値波形を切り出し、切り出した波形の最大値の出現時刻tmaxと最小値の出現時刻tminの出現時刻差Δtを求める。そして、求めたΔtが(1/2)・T1と等しいか否かを判定する。図3(a)に示した例ではΔt≠(1/2)・T1であるから、次に、周波数Fbとして50Hzを選択する。50Hzの1周期T2は20msであるから、図3(b)に示すように、1周期T2で計測値波形を切り出し、切り出した波形の最大値の出現時刻tmaxと最小値の出現時刻tminの出現時刻差Δtを求める。そして、求めたΔtが(1/2)・T2と等しいか否かを判定する。図3(b)に示した例ではΔt≠(1/2)・T2であるから、次に、周波数Fbとして16−2/3Hzを選択する。
【0024】
16−2/3Hzの1周期T3は60msであるから、図3(c)に示すように、1周期T3で計測値波形を切り出し、切り出した波形の最大値の出現時刻tmaxと最小値の出現時刻tminの出現時刻差Δtを求める。そして、求めたΔtが(1/2)・T3と等しいか否かを判定する。図3(c)に示した例ではΔt=(1/2)・T3であるから、この例のクーポン電流I(t)の計測値波形からは交流腐食発生源の周波数を16−2/3Hzに特定することができる。
【0025】
図2において、交流腐食発生源の周波数Fbが特定されると(STEP6)、特定された周波数の1周期を1単位時間として、この1単位時間内のクーポン電流I(t)の計測値波形から1つのクーポン交流電流密度IACを求めるクーポン電流密度算出工程が実行される。
【0026】
具体的には、前述した1単位時間をサブユニットとして設定し、更にこのサブユニットを複数連続させた1ユニットを設定する(STEP7)。そして、このサブユニット毎にクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACを求める(STEP8)。この際、クーポン交流電流密度IACを求めるためには、必然的にクーポン直流電流密度IDCを求めることが必要になる。
【0027】
その後、サブユニット毎に求めたクーポン直流電流密度IDC,クーポン交流電流密度IACを1ユニット内で比較して、1ユニット内での平均値IDCave,IACave,最大値IDCmax,IACmax,最小値IDCmin,IACminを求める(STEP9)。そして、これらの値(IDCave,IDCmax,IDCmin,IACave,IACmax,IACmin)によってパイプラインの交流腐食リスクを評価する(STEP10)。
【0028】
図4は、クーポン電流密度算出工程の具体例を示した説明図である。周波数Fbが特定された後の各周波数Fbにおける1サブユニットと1ユニットは、下記の表1に示すように設定することができる。
【表1】

【0029】
1ユニットの計測時間は、高速鉄道の通過によってパイプラインPに発生する交流腐食リスクを十分把握できるものでなくてはならない。高速鉄道とは、おもな区間を時速200km以上の速度で走行する列車やそのための路線を指しており、これは日本の新幹線の定義とも一致している。高速鉄道の車両の長さが25m、16両編成とすると1編成の長さは400mとなる。この高速鉄道は、時速200kmでクーポン電流密度の計測地点を通過するのに7.2秒を要することになる。よって、1ユニットの計測時間を8.35〜12sに設定しておけば、どの周波数でも高速鉄道の通過によってパイプラインに発生する交流腐食リスクを十分把握できることになる。
【0030】
図4(a)には、周波数Fbが16−2/3Hzに特定された場合のクーポン電流密度の算出例を示している。この場合は、表1に示したように、1サブユニットの計測時間は60msに設定され、1ユニットの計測時間は12sに設定されており、クーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACは下記(3),(4)式によって求められる。
【数3】

【0031】
図4(b)には、周波数Fbが60Hzに特定された場合のクーポン電流密度の算出例を示している。この場合は、表1に示したように、1サブユニットの計測時間は16.7msに設定され、1ユニットの計測時間は8.35sに設定されており、クーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACは下記(5),(6)式によって求められる。
【数4】

【0032】
周波数Fbが50Hzに特定された場合のクーポン電流密度の算出例は、図1(b)に示したとおりであり、算出式は前述した(1),(2)式に示したとおりである。
【0033】
図5は、本発明の一実施形態に係るパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価装置を示した説明図である。この計測評価装置10は、地中に埋設された金属製のパイプラインPにクーポンCを接続し、クーポン電流の計測値から求められるクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度によってパイプラインPの交流腐食リスクを評価する装置であって、周波数特定手段11とクーポン電流密度算出手段12を備えている。
【0034】
周波数特定手段11は、携帯型PCやプログラマブルコントローラなどの制御装置によって構成することができ、クーポン電流密度算出手段12から得られるクーポン電流I(t)の計測値波形によって前述した周波数特定工程を実行するためのプログラムを備えている。周波数特定手段11によって特定された周波数がクーポン電流密度算出手段12に出力される。
【0035】
クーポン電流密度算出手段12は、前述したクーポン電流密度算出工程を実行するためのプログラムを備えており、周波数特定手段11によって特定された周波数から1サブユニットと1ユニットの計測時間が設定され、0.1msのサンプリング間隔で計測されるクーポン電流I(t)から1サブユニット毎にクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACが算出され、1ユニット毎にIDCave,IDCmax,IDCmin,IACave,IACmax,IACminが求められる。
【0036】
このような特徴を有するパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法或いはこの方法を実行するための計測評価装置10によると、計測されたクーポン電流I(t)によって交流腐食発生源の周波数を特定することができるので、特定された周波数に基づいて1サブユニットと1ユニットの計測時間がその都度設定されることになる。これによって、交流腐食リスクを評価するための指標となるクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACを精緻な値で得ることができる。
【0037】
これによると、如何なる地域で交流腐食リスクの計測評価を行う場合であっても、地域毎の商用交流周波数の違いを問題にすること無く、交流腐食リスクを評価するための指標となるクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACを精緻な値で得ることができる。また、クーポン電流密度の計測地点で、交流腐食発生源を明確に特定できない場合や、異なる商用交流周波数を用いた交流腐食発生源の影響が混在している場合であっても、計測評価を行う際に交流腐食発生源の周波数を特定することができるので、特定された周波数に基づいてクーポン直流電流密度IDCとクーポン交流電流密度IACを精緻な値で得ることができる。
【符号の説明】
【0038】
10:計測評価装置,
11:周波数特定手段,12:クーポン電流密度算出手段,
P:パイプライン,P1:コーティング,C:クーポン,W:電線,
Rs:シャント抵抗,M:計測装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設された金属製のパイプラインにクーポンを接続し、クーポン電流の計測値から求められるクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度によってパイプラインの交流腐食リスクを評価する方法であって、
クーポン電流の計測値波形から交流腐食発生源の周波数を特定する周波数特定工程と、
特定された周波数の1周期を1単位時間として、当該1単位時間内のクーポン電流の計測値から1組のクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度を求めるクーポン電流密度算出工程を有し、
前記周波数特定工程は、
商用交流周波数である16−2/3Hz,50Hz,60Hzの中なら一つの周波数を順次選択して、選択した周波数の1周期でクーポン電流の計測値波形を切り出し、切り出した波形の最大値と最小値の出現時刻の差が選択した周波数の1周期の1/2と一致するか否かを判定し、当該判定の結果が一致する場合に、選択した周波数を交流腐食発生源の周波数として特定することを特徴とするパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項2】
前記1単位時間をサブユニットとして、当該サブユニットを複数連続させた1ユニットを設定し、前記サブユニット毎に求めたクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度を比較して前記1ユニット内での最大値,最小値を求め、当該最大値,最小値によってパイプラインの交流腐食リスクを評価することを特徴とする請求項1に記載されたパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項3】
前記1ユニットの計測時間は、交流腐食発生源の周波数が16−2/3Hzであると特定された場合には12sに設定し、交流腐食発生源の周波数が50Hzであると特定された場合には10sに設定し、交流腐食発生源の周波数が60Hzであると特定された場合には8.35sに設定することを特徴とする請求項2に記載されたパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項4】
前記クーポン電流の計測値波形は、0.1msのサンプリング間隔で計測されたクーポン電流の時系列データであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価方法。
【請求項5】
地中に埋設された金属製のパイプラインにクーポンを接続し、クーポン電流の計測値から求められるクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度によってパイプラインの交流腐食リスクを評価する装置であって、
クーポン電流の計測値波形から交流腐食発生源の周波数を特定する周波数特定手段と、
特定された周波数の1周期を1単位時間として、当該1単位時間内のクーポン電流の計測値から1組のクーポン直流電流密度とクーポン交流電流密度を求めるクーポン電流密度算出手段とを有し、
前記周波数特定手段は、
商用交流周波数である16−2/3Hz,50Hz,60Hzの中から一つの周波数を順次選択して、選択した周波数の1周期でクーポン電流の計測値波形を切り出し、切り出した波形の最大値と最小値の出現時刻の差が選択した周波数の1周期の1/2と一致するか否かを判定し、当該判定の結果が一致する場合に、選択した周波数を交流腐食発生源の周波数として特定することを特徴とするパイプラインにおける交流腐食リスクの計測評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−113742(P2013−113742A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260861(P2011−260861)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】