説明

パイプライン網のカソード防食設備管理方法及びカソード防食設備管理装置

【課題】カソード防食設備が複数接続されたパイプライン網において、その特定位置でカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除する方法を提供する。
【解決手段】パイプライン網Pnの特定位置Sから設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備C1を選択し、カソード防食設備C1の電源を設定された開始時刻から終了時刻の間オン・オフ制御する。設定された開始時刻から終了時刻の時間内でパイプライン網Pnにおける特定位置Sの防食管理値(管対地電位)を計測する。防食管理値(管対地電位)の計測結果にオン・オフ制御の影響があるか否かを判定する。防食管理値(管対地電位)の計測結果にオン・オフ制御の影響があると判定した場合には、選択したカソード防食設備を電源オフの対象にする。設定距離を順次拡大してカソード防食設備C2,C3,…を対象に同様の判定を行い、電源オフの対象となる全てのカソード防食設備を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプライン網のカソード防食設備管理方法及びカソード防食設備管理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設された金属パイプライン(以下、パイプラインという)は、幹線から分岐すると、複数箇所で分岐或いは結合して面状に広がった状態で敷設され、パイプライン網を形成している。このようなパイプライン網は、自然腐食リスクと直流電気鉄道のレール漏れ電流などの迷走電流による電食リスクに曝されており、自然腐食リスクと電食リスクを解消するために、パイプライン網には複数のカソード防食設備が分散配備されている。パイプライン網に設置されるカソード防食設備は、パイプラインに防食電流を流入させてカソード防食を行うための設備(外部電源カソード防食システムの変圧器/整流器、ここでは外部電源装置と称する、や流電陽極カソード防食システムの流電陽極)と、パイプラインと電気鉄道レールとを電気的に接続して電気鉄道レールからパイプラインに防食電流を流入させてカソード防食を行うための設備(強制排流器)がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】電気学会・電食防止研究委員会編「電食防止・電気防食ハンドブック」株式会社オーム社,2011年1月20日,p.227〜232
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したカソード防食設備の中で、人為的にオン・オフ自在な電源を備える設備であって、且つパイプライン網の比較的広範囲に亘って防食効果を及ぼす設備は、外部電源カソード防食システムのカソード防食設備と強制排流器のカソード防食設備である。これらのカソード防食設備は、面状に広がった状態で敷設されているパイプライン網の複数箇所に分散して設置されており、1Aを超えるような比較的大きい防食電流や排流電流を流している。
【0005】
このようなカソード防食設備が複数設置されたパイプライン網において、パイプライン網の特定位置でカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除したい場合がある。例えば、パイプラインの切断工事では、作業時の安全面を考慮して切断工事を行う箇所に電気的な影響を及ぼしていると考えられるカソード防食設備の電源を工事の期間だけオフにすることが行われている。この際、パイプライン網の特定位置では、複数のカソード防食設備の影響を重複して受けていることがあり、パイプライン網の特定位置でカソード防食設備の電気的な影響を排除するためには、影響のある複数のカソード防食設備を全てオフにすることが必要になる。
【0006】
従来、このような場合には、パイプラインの配管状況図を参照しながらより安全面を考慮して広範囲に亘って複数のカソード防食設備の電源をオフにすることが行われている。これによると、複数のカソード防食設備の電源をオフにすることで、パイプライン網において自然腐食リスクと電食リスクが一時的に高くなる範囲が広くならざるを得ない問題があった。
【0007】
一方、絶縁性の高いプラスチック被覆の普及によって、一旦パイプラインに流入した電流はパイプラインを流れて遠隔箇所まで到達し易くなっており、パイプライン網の特定位置から距離的に大きく離れているカソード防食設備であっても、特定位置に大きな電気的影響を及ぼしていることがある。特に、強制排流器は防食効果範囲が広い設備であり、一つの強制排流器からかなり離れた地点であっても、強制排流器の設置位置との電気的な接続があれば防食電流がパイプラインに流れている。したがって、特定位置からの距離によって比較的広範囲に亘ってカソード防食設備の電源をオフにしたとしても、遠隔地に設置されている強制排流器の影響を見逃していることがあり、特定位置におけるカソード防食設備の電気的な影響を適正に排除することができない問題があった。
【0008】
また、パイプラインの配管状況図には一般に絶縁継手の設置状況が示されており、特定位置からの距離だけでなく絶縁継手の設置状況を考慮してカソード防食設備の電気的な影響を判断することが可能になっている。しかしながら、パイプラインの配管状況図からは故障などによる絶縁継手の性能低下を把握することができないため、絶縁性能が低下している絶縁継手が存在するような場合にはパイプラインの配管状況図のみでは、特定位置におけるカソード防食設備の電気的な影響を正確に把握できない問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、カソード防食設備が複数設置されたパイプライン網において、パイプライン網の特定位置でカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除するに際して、パイプライン網の自然腐食リスクと電食リスクが一時的に高くなる範囲を最小限に抑えることができること、パイプライン網の特定位置におけるカソード防食設備の電気的な影響を定量的な判定に基づいて適正に排除することができること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明は、以下の構成を少なくとも具備するものである。
【0011】
パイプライン網の特定位置で当該パイプライン網に設置された複数のカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除するカソード防食設備の管理方法であって、パイプライン網の特定位置から設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備を選択し、当該カソード防食設備の電源を設定された開始時刻から設定された終了時刻の間オン・オフ制御する電源オン・オフ制御工程と、前記開始時刻から前記終了時刻の時間内でパイプライン網における前記特定位置の防食管理値を計測する防食管理値計測工程と、前記防食管理値の計測結果に前記オン・オフ制御の影響があるか否かを判定する判定工程を有し、前記判定工程で前記防食管理値の計測結果に前記オン・オフ制御の影響があると判定した場合に、選択したカソード防食設備を電源オフの対象にすることを特徴とするパイプライン網のカソード防食設備管理方法。
【0012】
パイプライン網の特定位置で当該パイプライン網に設置された複数のカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除するカソード防食設備の管理装置であって、前記特定位置の位置情報とパイプライン網に設置された複数のカソード防食設備のそれぞれの位置情報に基づいて、前記特定位置から設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備を選択するカソード防食設備選択手段と、選択されたカソード防食設備の電源を設定された開始時刻から設定された終了時刻の間オン・オフ制御する電源オン・オフ制御手段と、前記開始時刻から前記終了時刻の時間内でパイプライン網における前記特定位置の防食管理値を計測する防食管理値計測手段と、前記防食管理値の計測結果に前記オン・オフ制御の影響があるか否かを判定する判定手段を備えることを特徴とするパイプライン網のカソード防食設備管理装置。
【発明の効果】
【0013】
このような特徴を有する本発明は、パイプライン網の特定位置の周囲にあるカソード防食設備に対して、これを一つずつ選択してオン・オフ制御し、パイプライン網の特定位置における影響を防食管理値の計測によって把握し、防食管理値の計測結果にオン・オフ制御の影響があるか否かを判定する。これにより、パイプライン網の特定位置におけるカソード防食設備の電気的な影響を定量的な判定に基づいて適正に排除することができる。また、選択するカソード防食設備をパイプライン網の特定位置から徐々に離していくことで、無闇に広範囲に亘ってカソード防食設備をオフにすることが無く、カソード防食設備を一時的にオフすることでパイプライン網の自然腐食リスクと電食リスクが一時的に高くなる範囲を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るパイプライン網のカソード防食設備管理方法を説明する説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るパイプライン網のカソード防食設備管理方法における判定工程を示した説明図である。
【図3】本発明の実施形態に係るカソード防食設備管理方法の具体的な工程例を示した説明図である。
【図4】本発明の実施形態に係るパイプライ網のカソード防食設備管理装置のシステム構成例を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。図1は本発明の一実施形態に係るパイプライン網のカソード防食設備管理方法を説明する説明図である。パイプライン網Pnは、地中に埋設された金属パイプラインであり、幹線から分岐して、複数箇所で分岐或いは結合して面状に広がった状態で敷設されている。ガス導管を例にすると、高圧の幹線から分岐した中圧導管がこのようなパイプライン網Pnを形成している。本発明の実施形態におけるパイプライン網Pnは、ガス導管だけでなく、水道管、電線ケーブル配管など、様々な種類のパイプライン網を含んでいる。
【0016】
このようなパイプライン網Pnには、複数のカソード防食設備C1,C2,C3,…が分散して設置されている。ここで対象となるカソード防食設備C1,C2,C3,…は、比較的広い防食効果範囲を有すると共に、人為的にオン・オフすることができる電源を備える設備であり、主に、外部電源カソード防食システムのカソード防食設備と強制排流器のカソード防食設備がこれに該当する。
【0017】
このように複数のカソード防食設備C1,C2,C3,…が分散して設置されているパイプライン網Pnにおいて、特定位置Sを定める。この特定位置Sは、例えば、切断工事などを施工する位置であり、その周辺に分散して設置されているカソード防食設備C1,C2,C3,…の電気的な影響を一時的に排除することが必要なパイプライン網上の位置である。
【0018】
本発明の実施形態に係るカソード防食設備管理方法は、パイプライン網Pnの特定位置Sから設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備を一つ選択し、選択したカソード防食設備の電源を設定された開始時刻から設定された終了時刻の間オン・オフ制御する(電源オン・オフ制御工程)。これと同時に、前述した開始時刻から終了時刻の時間内でパイプライン網Pnにおける特定位置Sの防食管理値を計測する(防食管理値計測工程)。ここで計測される防食管理値は、管対地電位P/Sやクーポン直流電流密度IDCなど、パイプラインの防食管理状態が定量的な時系列変化で把握できる値であればよい。以下の説明では、防食管理値として管対地電位P/Sを計測することを例にして説明する。
【0019】
そして、管対地電位P/Sの計測結果に選択したカソード防食設備をオン・オフ制御したことによる影響があるか否かを判定し(判定工程)、この判定工程で管対地電位P/Sの計測結果にオン・オフ制御の影響があると判定した場合に、選択したカソード防食設備を電源オフの対象にする。
【0020】
図2は、前述した判定工程の具体例を示した説明図である。電源オン・オフ制御工程では、同図(a)に示すように、カソード防食設備の電源をオン・オフ制御する。この例では、オン時間が8.5sでオフ時間が1.5sの切り替え周期でカソード防食設備の電源をオン・オフしている。このように、選択したカソード防食設備の電源をオン・オフ制御した場合に、特定位置Sにおける管対地電位P/Sの計測結果が、同図(b)に示すように変化した場合にはオン・オフ制御の影響があると判定することができる。すなわち、計測された管対地電位P/Sがオン・オフ制御の切り替え周期に対応して変化していると共に、オン・オフ制御のオフ時に設定シフト電位(例えば、50mV)以上プラス側にシフトしている場合に、オン・オフ制御の影響があると判定する。これに対して、選択したカソード防食設備の電源をオン・オフ制御したにも拘わらず、特定位置Sにおける管対地電位P/Sの計測結果が、同図(b)に示すように変化しなかった場合には、オン・オフ制御の影響が無いと判定することができる。
【0021】
パイプライン網Pnの特定位置Sにおけるカソード防食設備の電気的な影響を適正に排除するには、特定位置S周辺に設置されているカソード防食設備を順次選択して、前述した電源オン・オフ制御工程、防食管理値計測工程、判定工程を行い、選択されたカソード防食設備が特定位置Sに電気的な影響を及ぼしているか否かを判定し、選択されたカソード防食設備が特定位置Sに電気的な影響を及ぼしている場合には、その選択されたカソード防食設備を電源オフの対象にする。
【0022】
この際の、カソード防食設備の選択は、特定位置Sの位置情報とパイプライ網Pnに設置された複数のカソード防食設備のそれぞれの位置情報に基づいて行うことで効率的な選択が可能になる。カソード防食設備の位置情報は、カソード防食設備に設けたGPS受信機の出力情報によって得ることができる。
【0023】
具体的な選択手順を説明すると、図1に示すように、先ず、パイプライン網Pnの特定位置Sから設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備C1を選択する。最初に選択するカソード防食設備C1は、特定位置Sに直近のカソード防食設備である必要は無く、配管状況図からの判断や経験的な判断で特定位置Sに防食効果を及ぼしていると判断できるものであれば、特定位置Sからある程度離れているものであってもよい。選択したカソード防食設備C1に対して、前述した電源オン・オフ制御工程、防食管理値計測工程、判定工程を行い、選択されたカソード防食設備が特定位置Sに電気的な影響を及ぼしているか否かを判定し、選択されたカソード防食設備が特定位置Sに電気的な影響を及ぼしている場合には、その選択されたカソード防食設備を電源オフの対象にする。
【0024】
その後、特定位置Sの位置情報とパイプライン網Pnに設置された複数のカソード防食設備C2,C3,…のそれぞれの位置情報に基づいて、設定距離を拡大して新たなカソード防食設備C2を選択し、前述した電源オン・オフ制御工程、防食管理値計測工程、判定工程を行う。そして、判定工程において、オン・オフ制御の影響が無いと判定されるカソード防食設備が少なくとも一つ以上選択されるまで、設定距離を順次拡大する。図1に示すように、カソード防食設備C1,C2,C3,C4,C5,C6,C7,C8,C9が順次選択されるように設定距離を拡大して、例えば、カソード防食設備C9を選択した場合に、オン・オフ制御の影響が無いと判定された場合には、特定位置Sにおけるカソード防食設備の電気的な影響を適正に排除するには、カソード防食設備C1〜C8の電源をオフにすることが必要になる。この際、設定距離の拡大は、カソード防食設備として防食効果範囲の広い強制排流器を優先して選択することが好ましい。
【0025】
このようなパイプライン網Pnのカソード防食設備管理方法によると、パイプライン網Pnの特定位置Sでカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除する場合に、個々のカソード防食設備が特定位置Sに及ぼす影響を特定位置Sによる防食管理値(管対地電位)の計測によって定量的に把握して、電源オフ対象のカソード防食設備を決定することができるので、無闇に広範囲に亘ってカソード防食設備の電源をオフにすることがなく、パイプライン網Pnの自然腐食リスクと電食リスクが一時的に高くなる範囲を最小限に抑えることができる。
【0026】
図3は、本発明の実施形態に係るカソード防食設備管理方法の更に具体的な工程例を示した説明図である。先ず、パイプライン網Pnにおける特定位置(例えば、切断工事位置)Sが決定すると(STEP1)、特定位置の位置情報と複数のカソード防食設備C1,C2,C3,…の位置情報に基づいて、設定距離のカソード防食設備C1を選択し(STEP2)、選択されたカソード防食設備C1に対して、電源オン・オフ制御を行い、同時に特定位置Sにおける管対地電位計測を行う(STEP3)。そして、判定工程により、管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響があると判定された場合には(STEP4:YES)、選択されたカソード防食設備C1を電源オフ対象の設備に決定し(STEP5)、設定距離を拡大して(STEP6)、次のカソード防食設備C2を選択する(STEP2)。
【0027】
その後は、判定工程において管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響がある(STEP4:YES)と判定される限り、STEP2〜STEP6の工程を繰り返し、拡大された設定距離の内側に存在するカソード防食設備を全て電源オフ対象の設備に決定する。そして、判定工程において管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響が無いと判定された場合(STEP4:NO)には、最後の設定距離の外側に強制排流器があるかどうかを、カソード防食設備の位置情報に基づいて判定し(STEP7)、その設定距離の外側に強制排流器が無い場合には、工程を終了する。
【0028】
一方、最後の設定距離の外側に強制排流器がある場合(STEP4:YES)には、その外側にある直近の強制排流器を選択して、電源オン・オフ制御を行い、同時に特定位置Sにおける管対地電位計測を行い(STEP9)、管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響があるかどうかを判定する(STEP10)。判定により、管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響が無い場合(STEP:NO)は、工程を終了する。一方、管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響がある場合(STEP10:YES)は、選択された強制排流器を電源オフ対象の設備に決定し(STEP11)、複数のカソード防食設備の位置情報に基づいて、更に外側の強制排流器を選択する(STEP12)。そして、選択された強制排流器に対して、電源オン・オフ制御を行い、同時に特定位置Sにおける管対地電位計測を行い(STEP9)、管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響があるかどうかを判定する(STEP10)。この判定で管対地電位の計測結果にオン・オフ制御の影響が無いと判定されるまで、更に遠方の強制排流器が選択されて、STEP9〜STEP12が繰り返される。
【0029】
このような工程を有するカソード防食設備管理方法によると、特定位置Sからかなり離れている位置に設置された強制排流器が特定位置Sに電気的な影響を及ぼしている場合にも、これを見逃すこと無く電源オフ対象の設備にすることができる。これによって、強制排流器が設置されている場合にも、パイプライン網Pnの特定位置Sにおけるカソード防食設備の電気的な影響をほぼ確実に排除することが可能になる。
【0030】
図4は、本発明の実施形態に係るパイプライ網のカソード防食設備管理装置のシステム構成例を示した説明図である。パイプライン網を形成する個々のパイプラインPには、強制排流器1や外部電源装置2を備えたカソード防食設備Cn1,Cn2,Cn3,…が設置されている。強制排流器1は、パイプラインPと電気鉄道レールRを結ぶ回路に直流電源1Aを入れて電気鉄道レールRからパイプラインPに防食電流を流す装置であり、直流電源1Aはオン・オフ制御可能な構成になっている。外部電源装置2は、パイプラインPと地中に埋められた電極(アノード)2Aを結ぶ回路に直流電源2Bを入れて、電極2Aから発生する防食電流をパイプラインPに流す装置であり、直流電源2Bはオン・オフ制御可能な構成になっている。
【0031】
各カソード防食設備Cn1,Cn2,Cn3,…は、強制排流器1の直流電源1Aや外部電源装置2の直流電源2Bをオン・オフ制御するためのスイッチング手段3Aと個々のカソード防食設備が設置されている位置の位置情報を出力するGPS受信機3Bを備えた管理制御部3を具備している。また、特定位置SにおけるパイプラインPには、パイプラインPの電位を照合電極(例えば、飽和硫酸銅電極)4Aとの電位差(管対地電位)として計測する直流電圧計4が接続されている。
【0032】
これに対して、カソード防食設備管理装置10は、特定位置の位置情報とパイプライン網に設置された複数のカソード防食設備Cn1,Cn2,Cn3,…のそれぞれの位置情報に基づいて、特定位置Sから設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備を選択するカソード防食設備選択手段11と、選択されたカソード防食設備の電源を設定された開始時刻から設定された終了時刻の間オン・オフ制御する電源オン・オフ制御手段12と、前述した開始時刻から終了時刻の時間内で特定位置Sの管対地電位(防食管理値)を計測する管対地電位計測手段(防食管理値計測手段)13と、管対地電位(防食管理値)の計測結果にオン・オフ制御の影響があるか否かを判定する判定手段14を備えている。
【0033】
このカソード防食設備管理装置10は、パイプライン網の特定位置Sでパイプライン網に設置された複数のカソード防食設備Cn1,Cn2,Cn3,…の電気的な影響を一時的に排除するためにカソード防食設備を管理することができる装置であり、パイプライン網の特定位置Sが決められた際に、その周辺に設置されているカソード防食設備Cn1,Cn2,Cn3,…の中で、どのカソード防食設備の電源をオフにすれば特定位置Sでのカソード防食設備の影響を排除できるかを決定することができる装置である。
【0034】
カソード防食設備選択手段11は、カソード防食設備Cn1,Cn2,Cn3,…の位置情報をそれぞれの管理制御部3におけるGPS受信機3Bの出力情報から取得する。この際の情報取得は、GPS受信機3Bの出力情報を予めデータベース化して記憶しておいてもよいし、遠隔的な情報取得手段を介して取得するものであってもよい。特定位置Sの位置情報は、特定位置Sが決定された時点で入力されるか、或いはカソード防食設備管理装置10自体がGPS受信機を備えており、カソード防食設備管理装置10を特定位置Sの現場に配備することでGPS受信機の出力情報から取得する。カソード防食設備選択手段11は、このようにして取得した特定位置の位置情報とカソード防食設備Cn1,Cn2,Cn3,…の位置情報に基づいて、特定位置Sから設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備を一つ選択する。
【0035】
電源オン・オフ制御手段12は、選択されたカソード防食設備の管理制御部3におけるスイッチング手段3Aを設定された開始時刻から設定された終了時刻まで動作させる指示を出力する手段である。これは遠隔的な通信手段を介してスイッチング手段3Aを遠隔動作させるものであってもよいし、選択されたカソード防食設備に派遣された作業者に携帯電話などの通信手段を介して動作指示を送り、作業者によってスイッチング手段3Aを動作させるものであってもよい。また、スイッチング手段3Aが設定開始時刻から設定終了時刻までタイマー動作することが予め設定されている場合には、電源オン・オフ制御手段2は、その設定開始時刻と終了時刻を出力するものであってもよい。
【0036】
管対地電位計測手段(防食管理値計測手段)13は、電源オン・オフ制御手段12が出力する電源オン・オフ制御の設定開始時刻と設定終了時刻の時間内で直流電圧計4の出力データから管対地電位を計測する手段である。この際、直流電圧計4の出力データをリアルタイムに取得するものであってもよいし、直流電圧計4がデータ記憶手段を備える場合には、記憶された出力データから電源オン・オフ制御の設定開始時刻と設定終了時刻の時間内データを切り出して取得するものであってもよい。
【0037】
判定手段14は、前述した判定工程を実行する手段であり、管対地電位計測手段13が得た管対地電位の時系列データを分析することで、管対地電位の計測結果に電源オン・オフ制御の影響があるか否かを判定する。そして、カソード防食設備選択手段11は、判定手段14が管対地電位(計測管理値)の計測結果に電源オン・オフ制御の影響があると判定した場合に、選択されたカソード防食設備を電源オフ対象に決定し、設定距離を拡大して別のカソード防食設備を選択する。このようなカソード防食設備管理装置10を用いることで、前述したパイプライン網のカソード防食設備管理方法を実行することができる。
【符号の説明】
【0038】
Pn:パイプライン網,P:パイプライン,
1,C2,C3,…,Cn1,Cn2,Cn3:カソード防食設備,
1:強制排流器,1A:直流電源,
2:外部電源装置,2A:電極(アノード),2B:直流電源,
3:管理制御部,3A:スイッチング手段,3B:GPS受信機,
4:直流電圧計,4A:照合電極(飽和硫酸銅電極),
S:特定位置,R:電気鉄道レール,
10:カソード防食設備管理装置,
11:カソード防食設備選択手段,
12:電源オン・オフ制御手段,
13:管対地電位計測手段(防食管理値計測手段),
14:判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプライン網の特定位置で当該パイプライン網に設置された複数のカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除するカソード防食設備の管理方法であって、
パイプライン網の特定位置から設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備を選択し、当該カソード防食設備の電源を設定された開始時刻から設定された終了時刻の間オン・オフ制御する電源オン・オフ制御工程と、
前記開始時刻から前記終了時刻の時間内でパイプライン網における前記特定位置の防食管理値を計測する防食管理値計測工程と、
前記防食管理値の計測結果に前記オン・オフ制御の影響があるか否かを判定する判定工程を有し、
前記判定工程で前記防食管理値の計測結果に前記オン・オフ制御の影響があると判定した場合に、選択したカソード防食設備を電源オフの対象にすることを特徴とするパイプライン網のカソード防食設備管理方法。
【請求項2】
前記防食管理値は管対地電位であることを特徴とする請求項1に記載されたカソード防食設備管理方法。
【請求項3】
前記判定工程は、管対地電位の計測結果が前記オン・オフ制御の切り替え周期に対応して変化していると共に前記オン・オフ制御のオフ時に設定シフト電位以上プラス側にシフトしている場合に、前記オン・オフ制御の影響があると判定することを特徴とする請求項2に記載されたパイプライン網のカソード防食設備管理方法。
【請求項4】
前記特定位置の位置情報とパイプライン網に設置された複数のカソード防食設備のそれぞれの位置情報に基づいて、前記設定距離を拡大して新たなカソード防食設備を選択し、前記電源オン・オフ制御工程と前記防食管理値計測工程と前記判定工程を行い、
前記判定工程において、前記オン・オフ制御の影響が無いと判定されるカソード防食設備が少なくとも一つ以上選択されるまで、前記設定距離を拡大することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載されたパイプライン網のカソード防食設備管理方法。
【請求項5】
カソード防食設備の前記位置情報は、カソード防食設備に設けたGPS受信機の出力情報であることを特徴とする請求項4に記載されたパイプライン網のカソード防食設備管理方法。
【請求項6】
前記カソード防食設備は、外部電源方式又は強制排流器のカソード防食設備であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載されたパイプライン網のカソード防食設備管理方法。
【請求項7】
前記設定距離の拡大は、前記カソード防食設備として強制排流器を優先して選択することを特徴とする請求項4に記載されたパイプライン網のカソード防食設備管理方法。
【請求項8】
パイプライン網の特定位置で当該パイプライン網に設置された複数のカソード防食設備の電気的な影響を一時的に排除するカソード防食設備の管理装置であって、
前記特定位置の位置情報とパイプライン網に設置された複数のカソード防食設備のそれぞれの位置情報に基づいて、前記特定位置から設定距離だけ離れた位置に設置されたカソード防食設備を選択するカソード防食設備選択手段と、
選択されたカソード防食設備の電源を設定された開始時刻から設定された終了時刻の間オン・オフ制御する電源オン・オフ制御手段と、
前記開始時刻から前記終了時刻の時間内でパイプライン網における前記特定位置の防食管理値を計測する防食管理値計測手段と、
前記防食管理値の計測結果に前記オン・オフ制御の影響があるか否かを判定する判定手段を備えることを特徴とするパイプライン網のカソード防食設備管理装置。
【請求項9】
前記カソード防食設備選択手段は、前記判定手段が前記防食管理値の計測結果に前記オン・オフ制御の影響があると判定した場合に、選択されたカソード防食設備をオフ対象に決定し、前記設定距離を拡大して別のカソード防食設備を選択することを特徴とする請求項8に記載されたパイプライン網のカソード防食設備管理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104105(P2013−104105A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249017(P2011−249017)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【Fターム(参考)】