説明

パイル織じゅうたん

【課題】従来のバッキングを不要とし、リバーシブル性と柔軟性を与えて軽量化および折畳みを可能にし、かつ床面との接触をソフトに改善し、床上歩行移動時の騒音発生や床面に対する傷つきを防止する。
【解決手段】
地経糸11、地緯糸12、芯経糸13、パイル経糸15からなり、芯経糸13の上下に地緯糸12を交互に配し、芯経糸13に地緯糸12を地経糸11で密接させて基層部を形成し、パイル経糸15でわなパイルを形成したパイル織じゅうたんにおいて、上記の芯経糸13に熱融着繊維14が複合されており、上記のわなパイルが芯経糸13の上下両側に形成され、このわなパイルの基部が上記熱融着繊維14の溶融によって基層部に接着、固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パイル織じゅうたんに関し、従来のラテックスコンパウンドなどによるバッキング加工を廃し、表裏両面に経糸パイルを形成することにより、リバーシブル性と柔軟性を与えて折畳みを可能にし、かつ床面との接触をソフトに改善し、使用時や歩行時の騒音発生や床面の傷つきを防止できるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
地経糸、芯経糸(覆い経糸ともいう)、パイル経糸および地緯糸からなり、芯経糸の上下に地緯糸を交互に配し、芯経糸に地緯糸を地経糸で密接させて基層部を形成し、パイル経糸でわなパイルを形成したじゅうたん、いわゆるパイル織じゅうたんとして、下記の特許文献1に記載されたものが知られている。このパイル織じゅうたんは、地経糸、地緯糸および芯経糸からなる基層部の表側にパイル経糸が地緯糸数本にまたがる浮き部分を形成し、筬打ちの際、上記地緯糸のスレーに対する圧縮抵抗によって芯経糸および地経糸が引き締められて緊張するのに対し、パイル経糸には緊張力が加わらないことを利用して上記のパイル経糸を外側に膨出させてわなパイルを形成するものであり、従前のパイル織じゅうたんの製織に用いられたワイヤーが不要になるという特長を備えている。
【特許文献1】特公昭53−47430号公報
【0003】
しかしながら、従来のパイル織じゅうたんは、その裏面にラテックスコンパウンドをコーティングし、さらに不織布生地などを貼り付ける二次バッキング加工を行ない、パイルと基布を接着してパイルの引き抜きを防ぎ、かつじゅうたんに弾性と重厚さを付与していたので、リバーシブル性に欠けていた。また、裏面のバッキング層が各種配合剤の硬化現象に伴って硬くなり、使用中に床面を傷つけたり、接着剤に含まれる溶剤による空気汚染が生じたり、また重く硬いため扱い難く、畳めない等の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、従来のラテックスによるバッキング加工や不織布生地等による二次基布バッキング加工を不要とし、リバーシブル性と柔軟性を与えて軽量化および折畳みを可能にし、かつ床面との接触をソフトに改善し、歩行使用時の騒音発生や床面に対する傷つきの防止を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係るパイル織じゅうたんは、地経糸、芯経糸、パイル経糸および地緯糸からなり、芯経糸の上下に地緯糸を交互に配し、芯経糸に地緯糸を地経糸で密接させて基層部を形成し、パイル経糸でわなパイルを形成したパイル織じゅうたんにおいて、上記の芯経糸が熱融着繊維と複合されており、上記のわなパイルが芯経糸の上下両側に形成され、このわなパイルの基部が上記熱融着繊維の溶融により上記の基層部に融着されていることを特徴とする。
【0006】
上記のパイル織じゅうたんは、芯経糸に複合させた熱融着繊維すなわち低融点の熱可塑性合成繊維を除き、従来型のパイル織じゅうたん用素材をそのまま使用することができる。例えば、地経糸および地緯糸にはジュート糸や合成繊維糸その他の織物繊維糸を用いることができ、芯経糸には羊毛糸、合成繊維糸、羊毛・合繊混紡糸で、パイル経糸よりも強伸度に優れた織物繊維糸を用いることができ、またパイル経糸には羊毛糸、綿糸、合成繊維の加工糸等を用いることができる。
【0007】
この発明では、わなパイルが地経糸、地緯糸および芯経糸からなる基層部の上下両面に形成されているので、一方のパイル面を上に向けたときは、他方のパイル面が裏面(接地面)として機能し、他方のパイル面を上に向けたときは、一方のパイル面が裏面(接地面)として機能する。しかも、わなパイルの基部が上記芯経糸に複合されている熱融着繊維の溶融により、上記の基層部と接着され、固定されているので、従来のラテックスからなるバッキング加工を採用しないにもかかわらず、パイルの脱落および高さ変化がなく、また床に敷く際に表裏のパイル面のいずれを使用してもよく、リバーシブル性を備えている。したがって、耐久性が向上し、かつ保温性、柔軟性、クッション性および弾力性が良好になって、折畳みが可能になり、床面で歩行移動時の騒音発生がなく、また従来のバッキング加工でなく、パイルを熱融着繊維の溶融で固定するので、バッキング配合剤による空気汚染の発生することがない。
【0008】
なお、この発明のパイル織じゅうたんにおいて、表裏両面のわなパイルは、前記の特許文献1に記載されているように、筬打ち時における地緯糸のスレーに対する圧縮抵抗およびパイル経糸と他の経糸間の張力差を利用して作ることができる。しかも、芯経糸は、パイル経糸よりも強伸度に優れているので、筬打ち終了時に芯経糸が弾性で収縮するのに対してパイル経糸が大きく弛む結果になり、そのためわなパイルが確実に、かつ均一な高さに形成される。
【0009】
織物組織は、表裏両面にパイルを形成するものであれば任意であるが、地経糸、パイル経糸および芯経糸の3種の経糸を地経糸、パイル経糸、地経糸および芯経糸の順で繰返し配列し、これら4本を繰返し単位とする経糸に2本の地緯糸を平織り状に組織して単位組織を構成し、上記パイル経糸の浮き部分および沈み部分でそれぞれわなパイルを形成した場合は、組織が比較的簡単になり、かつわなパイルが表裏両面に等しい密度で、しかも密に形成される。
【0010】
また、パイル経糸として羊毛繊維、綿繊維、合成繊維および半合成繊維等の織物用繊維からなる複数本の撚糸を引揃え状に並列して用い、この複数本の撚糸が同時に浮き沈みして表裏のわなパイルを形成した場合は、パイル面が一層緻密に、かつ美しくなる。また、芯経糸を羊毛繊維および熱可塑性合成繊維の混紡糸、コアスパン糸、混繊糸(羊毛繊維と合繊フィラメントが絡み合った混合糸)その他の複合糸で形成し、この複合糸に熱融着繊維糸を添え糸して用いた場合は、芯経糸を羊毛繊維と熱融着繊維のみで形成した場合に比べ、強伸度が向上してわなパイルの形成が容易となり、かつ接着性が向上する。
【発明の効果】
【0011】
この発明に係るパイル織じゅうたんは、従来型のパイル織じゅうたん用繊維素材に熱融着繊維を付加して用い、かつ従来の織機を用いて製造することができる。そして、表裏両面にわなパイルを有し、このわなパイルの基部が熱融着繊維の溶融により地経糸、地緯糸および芯経糸からなる基層部と接着され、固定されているので、パイルの脱落および形態の変化が防止される。また、リバーシブル性を備え、耐久性、保温性、柔軟性、クッション性および弾力性に優れ、折畳みが可能になり、歩行移動時の騒音が削減され、床を傷つけることがなく、特に熱融着繊維を用い、バッキング剤を用いないので空気汚染が発生しない。
【0012】
特に請求項2に係る発明は、組織が堅牢になり、かつわなパイルが表裏両面に等しい密度で、緻密に形成される。また、請求項3に係る発明は、風合いが良好で、パイル面が美しく、熱融着繊維の溶融による接着性が向上し、形態安定性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1において、11は地経糸、12は地緯糸、13は芯経糸、14は熱融着繊維糸、15はパイル経糸であり、図1の左側から地経糸11、パイル経糸15、15、地経糸11、芯経糸13、熱融着繊維糸14の順で繰返し配列されている。ここで、パイル経糸15は、その2本が引揃え状に並列され、個別にヘルドに通されて同時に開口運動を行なう。また、芯経糸13は熱融着繊維糸14と引揃えて用いられ、これらの地経糸11、2本一組のパイル経糸15、地経糸11および芯経糸13と熱融着繊維糸14の引揃え複合糸が1番目の地緯糸に対しては一本交互に沈みと浮きを繰返し、2番目の地緯糸12に対しては一本交互に浮きと沈みを繰返し、結局2本の地経糸11、2本一組の引揃えパイル経糸15、芯経糸13・熱融着繊維糸14の引揃え複合糸からなる合計4組の縦糸群と2本の地緯糸12とで平織り状の単位組織を形成している。
【0014】
ただし、上記の芯経糸13は、パイル経糸15よりも強伸度に優れた糸であり、図2に示すように、強い張力で直線状に緊張され、この芯経糸13の上と下に地緯糸12が交互に配置され、地経糸11の張力によって結合され、これらが基層部を構成する。そして、地経糸11の浮き部ではパイル経糸が沈み、芯経糸13の下側に膨出してわなパイルを形成し、地経糸11の沈み部ではパイル経糸15が浮き、芯経糸13の上側に膨出してわなパイルを形成する。なお、このパイル形成は、芯経糸13の上または下に挿入された地緯糸12が筬打ちによって前進する際、芯経糸13がその伸縮弾性によって強く収縮するのに対し、上記地緯糸12の前方で上に浮くか、または下に沈んで横たわるパイル経糸15が収縮することなく弛み、この状態で上記の地緯糸12で圧縮されることによって行なわれる。
【0015】
得られたパイル織じゅうたんは、赤外線乾燥機に導入して上記の熱融着繊維糸を溶融することにより、上記の地経糸11、地緯糸12および芯経糸13からなる基層部に、パイル経糸15からなるパイルの基部が接着、固定される。なお、上記のパイル織じゅうたんは、あらかじめパイル経糸15として先染め糸を用いることにより、縦縞模様を形成することができ、また製織後の捺染により任意の柄模様を形成することができる。
【実施例】
【0016】
実施例1
上記の図1、2において、その地経糸11にポリエステル・レーヨン混紡撚糸(繊度:177TEX)を、地緯糸12にジュート撚糸(繊度:344TEX)を、芯経糸13に羊毛とナイロンの80/20混紡撚糸(繊度:800TEX)を、熱融着繊維糸14に融点85度℃の低融点ポリエステルからなる紡績糸(繊度:88TEX)を、またパイル経糸15に羊毛紡績撚糸(繊度:1333TEX)をそれぞれ用い、図1,2の組織で、表裏両面にわなパイルを有するパイル織じゅうたんを製織し、赤外線乾燥機で熱融着繊維糸14を溶融し、上記わなパイルの基部を基層部に接着、固定した。
【0017】
得られたパイル織じゅうたんは、表面および裏面からの厚み測定結果がいずれも均整であり、わなパイルが基層部に対して強固に固定され、引き抜き強さは、パイルにフックを掛けて引張って測定したところ、41Nであった。そして、軽量であると共に、折畳み可能な柔軟性を備え、表裏両面の風合いもソフトで、床上の歩行移動時も騒音の発生が少なかった。
【0018】
実施例2
図1のパイル経糸15に綿紡績撚糸(繊度:708TEX)を用い、その他は実施例1と同様にして実施例2のパイル織じゅうたんを製造した。この実施例2のパイル織じゅうたんも、実施例1と同様に外観が良好で、パイルの引き抜き強さも43Nと強固であり、軽量、柔軟で、表裏の風合いもソフトであった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態の平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0020】
11:地経糸
12:地緯糸
13:芯経糸
14:熱融着繊維糸
15:パイル経糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
地経糸、芯経糸、パイル経糸および地緯糸からなり、芯経糸の上下に地緯糸を交互に配し、芯経糸に地緯糸を地経糸で密接させて基層部を形成し、パイル経糸でわなパイルを形成したパイル織じゅうたんにおいて、上記の芯経糸が熱融着繊維と複合されており、上記のわなパイルが芯経糸の上下両側に形成され、このわなパイルの基部が上記熱融着繊維の溶融により上記の基層部に融着されていることを特徴とするパイル織じゅうたん。
【請求項2】
地経糸、パイル経糸および芯経糸の3種の経糸が地経糸、パイル経糸、地経糸および芯経糸の順で繰返し配列され、これら4本を繰返し単位とする経糸に2本の地緯糸が平織り状に組織して単位組織を構成し、上記パイル経糸の浮き部分および沈み部分がそれぞれわなパイルを形成している請求項1記載のパイル織じゅうたん。
【請求項3】
パイル経糸として羊毛繊維、綿繊維、合成繊維および半合成繊維等の織物用繊維からなる複数本の撚糸が引揃え状に並列して用いられ、この複数本の撚糸が同時に浮き沈みして表裏のわなパイルを形成し、芯経糸が羊毛繊維および熱可塑性合成繊維の複合糸であり、この複合糸に熱融着繊維糸が添え糸状に複合されている請求項2に記載のパイル織じゅうたん。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−130167(P2006−130167A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324468(P2004−324468)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(593079896)阪野織物株式会社 (1)
【Fターム(参考)】