説明

パイ生地及びパイ

【課題】パイ生地の調製に際し作業性が優れており、焼成後内層が均一で、浮きが良好で軽い食感、口溶けが良いパイ及び当該パイを得るためのパイ生地を提供する事にある。
更にパイ生地を含水物と共に焼成しても浮きが良好で軽い食感、口溶けの良いパイを提供することにある。
【解決手段】小麦粉及び油脂を含むパイ生地であって、パイ生地中の油脂の一部が油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物由来であることを特徴とするパイ生地であり、パイ生地全体に対して水中油型乳化物が1〜40重量%であり、当該パイ生地を焼成してなるパイであり、当該パイ生地と含水物とを焼成してなる焼成食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイ生地及びパイに関し、詳しくは軽い食感で口溶けの良いパイ及び当該パイを得るためのパイ生地に関する。
【背景技術】
【0002】
パイは菓子の中にあって、外観が層状に浮いていて軽そうであり食した際に崩れ易い食感で独特の存在感を示しており、広く人々に好まれている。このような品質は特に原料である油脂とその製法に由来していると思われる。
製法の違いにより大きく分けて「練りパイ」、「折りパイ」そして、「練り折りパイ」がある。「練りパイ」は、小麦粉に油脂を目視できなくなる程度小さくなるまで小麦粉ドウ中に細かく分散した生地を作成し、その後、展延、成型して焼成する。一方「折りパイ」は、あらかじめシート状に加工された折り込み油脂を小麦粉ドウにサンド後展延し、折り込みを行いパイに仕上げる。「練り折りパイ」は、小麦粉に油脂を目視できる程度の小さな小片状に練りこんだ後水を加え、油脂を小麦粉ドウ中に点在分散した生地を作成しその後折り込みを行いパイに仕上げる。
何れにしても出来上がったパイは層状に浮いており、食感が軽く、口溶けの良い物である。特許文献1には生地層と油脂層から成る折りパイ生地であって、該生地層中に固形状油脂が分散していることを特徴とする、前記折りパイ生地が提案されている。又、特許文献2では食した際にボロボロ落ちにくくカリカリした独特な食感を呈するパイなどのペーストリー食品を製造することができるロールイン用油脂組成物及び当該油脂組成物を用いたペーストリー食品が提案されている。そして特許文献3では油脂を含む多層焼菓子又は揚げ菓子の製造に際し、(A)小麦粉40〜95重量部に対して、(B)可溶性デンプン及び/又は架橋デンプンを5〜60重量部の割合で配合するか、又は小麦粉で作った生地に、可溶性デンプン及び/又は架橋デンプンの粉、或いは可溶性デンプン及び/又は架橋デンプンの懸濁液、を塗布することにより配合することを特徴とする油脂を含む多層焼菓子又は揚げ菓子の製造法が提案されている。
このように従来パイの食感、口溶け等の改良にはある特殊な折り込み油脂(ロールイン用油脂組成物)やある種のデンプンが使用されてきた。
パイは人気のある菓子だけに更なる改善が望まれている。
【0003】
【特許文献1】WO2002/017727号公報
【特許文献2】特開2002−101810号公報
【特許文献3】特開2007−037539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、パイ生地の調製に際し作業性が優れており、焼成後内層が均一で、浮きが良好で軽い食感、口溶けが良いパイ及び当該パイを得るためのパイ生地を提供する事にある。
更にパイ生地を含水物と共に焼成しても浮きが良好で軽い食感、口溶けの良いパイを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
出来上がったパイは層状に浮いており、食感が軽く、口溶けの良い物であるが、経時的に硬くヒキが出てきて口溶けも悪くなる。そしてパイ生地をジャム、アップルプレザーブ、オレンジピール等の含水物と共に焼成した際にはパイの軽さが失われ食感が悪くなるといった現象が見られる。
本発明者らは上記課題に対して鋭意研究を行った結果、パイ生地中にある特定の水中油型乳化物を使用することによって、本発明の目的を達成し、本発明を完成するに至った。
即ち本発明の第1は、小麦粉及び油脂を含むパイ生地であって、パイ生地中の油脂の一部が油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物由来であることを特徴とするパイ生地である。第2は、パイ生地全体に対して水中油型乳化物が1〜40重量%である、第1記載のパイ生地である。第3は、パイ生地中に水中油型乳化物由来の油脂分を0.5〜25重量%含む、第1記載のパイ生地である。第4は、水中油型乳化物が油脂、蛋白質及び水を含むものである、第1記載のパイ生地である。第5は、水中油型乳化物の油相のSFCが10℃で45〜90%、20℃で15〜65%、30℃で8.0%以下である、第1記載のパイ生地である。第6は、折り込み油脂以外の小麦粉及び油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物を含む原料を予め混合し、その後折り込み油脂を折り込んで生地を調製する、パイ生地の製造法である。第7は、第1〜第6何れか1に記載のパイ生地を焼成してなるパイである。第8は、第1〜第6何れか1に記載のパイ生地と含水物とを焼成してなる焼成食品である。
【発明の効果】
【0006】
パイ生地の調製に際し作業性が優れており、焼成後内層が均一で、浮きが良好で軽い食感、口溶けが良いパイ及び当該パイを得るためのパイ生地を提供する事が可能になった。 更にパイ生地を含水物と共に焼成しても浮きが良好で軽い食感、口溶けの良いパイを提供することが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のパイ生地は小麦粉及び油脂を含むパイ生地であって、パイ生地中の油脂の一部が油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物由来であることが必要である。
小麦粉、油脂及び水中油型乳化物以外の原料としては水、食塩、イーストを適宜選択して使用することができる。
通常イーストは使用しないが、パイの食感を柔らかくしようとする場合使用するのが好ましい。
パイ生地としては、練りパイ生地、折りパイ生地、練り折りパイ生地と何れのパイ生地であっても良いが、本発明の目的の一つである出来る限りパイを浮かせるという点では折りパイ生地が好ましい。
折りパイ生地は公知の通常の方法で製造するのであるが、一般的に小麦粉100部に対して3〜30部の練り込み油脂を練り込んだ後、小麦粉100部に対して20〜100部の折り込み油脂を折り込んで調製していく。
水中油型乳化物は練り込み油脂を練りこむ際に水を使用するがこの水と練り込み油脂との代替え的使用で可能である。このようにパイ生地中に油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物を使用することによって、焼成後のパイの浮きが向上し、パイの層を均一な層とすることができる。
【0008】
本発明のパイ生地は水中油型乳化物を練り込むのであるが、パイ生地全体に対して水中油型乳化物が1〜40重量%が好ましく、より好ましくは2〜35重量%であり、更に好ましくは3〜32重量%である。水中油型乳化物が少ないと浮きが悪くなり、若干口溶けも悪くなる。水中油型乳化物が多すぎると生地がベタ付き易くなる。
【0009】
本発明の小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉などが例示でき、これらの単独、又は2種以上を混合使用することができる。
【0010】
本発明のパイ生地に使用する油脂は市販されている練り込み油脂、折り込み油脂が例示でき、これらの油脂原料としては例えば、ナタネ油、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、ゴマ油、月見草油、パーム油、シア脂、サル脂、カカオ脂、ヤシ油、パーム核油等の植物性油脂並びに乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂が例示でき、上記油脂類の単独又は混合油或いはそれらの硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂を使用することが出来る。
【0011】
本発明のパイ生地に使用する水中油型乳化物は油脂、蛋白質及び水を含むものであって、油脂分20〜60重量%であり、好ましくは油脂分が30〜50重量%であり、更に好ましくは35〜50重量%である。水中油型乳化物の油脂分が少ないとパイの浮き、口溶けへの効果が減少する。多すぎると練り込みにくくなり、作業性が悪くなる。
【0012】
パイ生地中に水中油型乳化物由来の油脂分を含むものであるが、パイ生地中に水中油型乳化物由来の油脂分が0.5〜25重量%が好ましく、より好ましくは1.0〜20重量%であり、更に好ましくは1.5〜20重量%である。油脂分が少ないとパイの浮き、口溶けへの効果が減少する。油脂分が多すぎると練り込みにくくなり、作業性が悪くなる。
【0013】
本発明の水中油型乳化物に使用する油脂は動植物性油脂及びそれらの硬化油脂の単独又は2種以上の混合物或いはこれらのものに種々の化学処理又は物理処理を施し得ることができる。かかる油脂としては、大豆油、綿実油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、パーム油、菜種油、米ぬか油、ゴマ油、カポック油、ヤシ油、パーム核油、乳脂、ラード、魚油、鯨油等の各種の動植物油脂及びそれらの硬化油、分別油、エステル交換油等の加工油脂が例示でき、融点15〜40℃、更に20〜38℃が好ましい。
【0014】
本発明の水中油型乳化物は油脂、蛋白質及び水を含むのであるが、油相のSFCが10℃で45〜90%、20℃で15〜65%、30℃で8.0%以下であるのが好ましく、より好ましくはSFCが10℃で50〜88%、20℃で20〜63%、30℃で7.0%以下であり、更に好ましくは、SFCが10℃で55〜85%、20℃で22〜61%、30℃で6.0%以下である。30℃でのSFCが8.0%を超える場合はパイの口溶けが劣るものとなる。
本発明の水中油型乳化物に使用する油脂のなかでもラウリン系油脂が好ましく、ヤシ油、パーム核油、又はその硬化、分別、エステル交換を実施した油脂が例示できる。
水中油型乳化物中の油脂の30%以上、更に50%以上がラウリン系油脂であるのが好ましい。ラウリン系油脂を使用するとパイの浮きが良くなる。
【0015】
本発明の蛋白質は、その乳化特性によって水中油型乳化物を安定な乳化物にすることが出来る。蛋白質としては、牛乳、脱脂乳、加糖練乳、無糖練乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、バターミルク、バターミルクパウダー、ホエー、ホエーパウダー、カゼイン、カゼインナトリウム、ラクトアルブミン、生クリーム等乳由来の蛋白質が例示でき、乳以外の蛋白質として卵蛋白質、大豆蛋白質も例示できる。卵蛋白質としては、液状あるいは乾燥された卵黄、卵白、全卵及びこれらより分離される単一(単純)蛋白質、例えばオボアルブミン、コンアルブミン、オボムコイド、オボグロブリン等がある。大豆蛋白質としては、豆乳、脱脂大豆粉、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白、脱脂豆乳粉末、大豆蛋白加水分解物等がある。
【0016】
本発明の水中油型乳化物については、各種の乳化剤を使用するのが好ましく、レシチン、モノグリセライド、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等を単独又は2種以上混合使用することが望ましい。
【0017】
本発明の水中油型乳化物については、各種の塩類を使用するのが好ましく、ヘキサメタリン酸塩、第2リン酸塩、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸塩、重曹等を単独又は2種以上混合使用することが望ましい。その他所望により香料、着色剤、保存料等を使用することが出来る。
【0018】
本発明の水中油型乳化物の製造法は、一般的なクリーム類を製造する要領で行うことができる。予備乳化、殺菌又は滅菌、均質化、冷却という製造法であるが、殺菌又は滅菌に前後して均質化処理若しくは攪拌処理することができ、均質化は前均質、後均質のどちらか一方でも、両者を組み合わせた二段均質でもどちらでも良い。
【0019】
本発明のパイ生地の製造法としては、通常のパイ生地の製造法に準じて行えば良く、小麦粉、水中油型乳化物、バター、練り込み油脂、折り込み油脂、糖類、水、食塩、イーストを適宜選択使用して練りパイ生地、折りパイ生地、練り折りパイ生地を得るのであるが、本発明の目的の一つである出来る限りパイを浮かせるという点では折りパイ生地が好ましく、折りパイ生地の製造法としては、折り込み油脂以外の小麦粉及び油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物を含む原料を予め混合し、その後折り込み油脂を折り込んで生地を調製することができる。
【0020】
このように本発明のパイ生地は小麦粉及び油脂を含むパイ生地であって、パイ生地中の油脂の一部が油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物由来であることを特徴し、当該パイ生地を焼成してパイを得るのであるが、水中油型乳化物を使用することによって、パイの浮きが向上し口溶けの良いものとなる。又、従来のパイは経時的に硬くヒキが出てきて口溶けも悪くなったのに対して、本願発明のパイは経時的にも軽くヒキのないものとなる。水中油型乳化物の形態でパイ生地に練りこむことによって上記の優れた効果を発揮することが出来る。このような効果は生地中への油脂の分散が均一であることに起因していると推察している。また、折り込み油脂はシート状に加工しなければならず、その結晶性故にラウリン系油脂は硬くパイ生地への使用が難しいかったが水中油型乳化物にすることによってラウリン系油脂のパイ生地への練り込みが容易になった。
【0021】
本発明の焼成食品は、上記で述べたパイ生地と含水物とを焼成して得ることができる。 含水物としては、含水フィリング、果実、果実加工品、餡類及び蛋白食品が例示でき、具体的に含水フィリングとしては、カスタードクリーム、チョコレートクリーム、抹茶クリーム等各種風味付けしたクリーム類が例示できる。果実としては、杏、イチゴ、いちじく、梅、柿、キウイフルーツ、グァバ、グレープフルーツ、きんかん、ざくろ、桃、、パインアップル、パッションフルーツ、バナナ、パパイア、びわ、ぶどう、ブルーベリー、オレンジ、みかん、レモン、チェリー、マンゴー、メロン、ライム、ラズベリー、りんごなどの果実が例示できる。
【0022】
果実加工品としては、アップルプレザーブ、オレンジピール、レーズンのラム酒漬け、チェリーピール、イチゴジャム、ブルーベリージャム、マーマレードなどジャム類が例示できる。餡類としては、粒餡、漉し餡、小倉餡、白餡、抹茶餡、桜餡、杏餡、さらし餡、大納言が例示できる。蛋白食品としては、豆腐が例示できる。
このようにパイ生地を含水物と共に焼成しても浮きが良好で軽い食感、口溶けの良いパイを得ることが出来る。
【0023】
本発明のパイや焼成食品は上記で得たパイ生地や含水物を焼成して得ることが出来る。具体的には焼成は、例えばオーブン、オーブンレンジ等を用いて行うことが出来る。オーブンの場合通常100〜250℃で5〜60分の範囲にあり、より170〜230℃で10〜50分の範囲が好ましい。焼成温度が低すぎるとパイ生地の火当たり、火抜けが悪くなり、浮き・食感が悪くなる。逆に焼成温度が高すぎると内部が焼けてないにも関わらず、表面に焼色が強くつきすぎるようになる。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を示し本発明をより詳細に説明するが、本発明の精神は以下の実施例に限定されるものではない。なお、例中、%及び部は、いずれも重量基準を意味する。
(A)水中油型乳化物の乳化の安定性評価
・ボテテスト
水中油型乳化物を100ml容ビーカーに50g採り、20℃で2時間インキュベートし、その後10分間攪拌した時のボテの発生の有無を確認した。
(B)水中油型乳化物の油相のSFC値
SFC値は、IUPAC.2 150 SOLID CONTENT DETERMINATION IN FATS BY NMRに準じて測定した。
【0025】
(C)パイ生地及びパイの評価を次の基準で行った。
(イ)パイ生地と含水物との焼成評価
含水物として市場で馴染み深いアップルプレザーブを用いた。
・パイ生地の伸展性
リバースシーターで生地を展延する際の作業性を3段階で評価
○良好 △やや伸びが悪いが折込める ×伸びが悪く折込めない
・パイの焼成品の内層の状態
断面を切った際の層の状態を3段階で評価
○均一 △やや不均一 ×不均一、層にならない
・パイの焼成品の浮きの状態
焼成品の高さを測定し4段階で評価するとともに数値も併記した
◎良好 ○やや良好 △やや悪い ×悪い
・パイの焼成品の食感
包装し24時間後のアップルパイの食感・軽さを官能評価にて4段階で評価
◎良好 ○やや良好 △やや悪い ×悪い
・パイの焼成品の口溶け
包装し24時間後のアップルパイの口溶けを官能評価にて4段階で評価
◎良好 ○やや良好 △やや悪い ×悪い
(ロ)パイ生地の焼成評価
パイ生地のみで焼成したものを以下の項目で評価した。(上記イの評価と同一になります)
・パイ生地の伸展性
リバースシーターで生地を展延する際の作業性を3段階で評価
○良好 △やや伸びが悪いが折込める ×伸びが悪く折込めない
・パイの焼成品の内層の状態
断面を切った際の層の状態を3段階で評価
○均一 △やや不均一 ×不均一、層にならない
・パイの焼成品の浮きの状態
焼成品の高さを測定し4段階で評価するとともに数値も併記した
◎良好 ○やや良好 △やや悪い ×悪い
・パイの焼成品の食感
包装し24時間後のパイの食感・軽さを官能評価にて4段階で評価
◎良好 ○やや良好 △やや悪い ×悪い
・パイの焼成品の口溶け
包装し24時間後のパイの口溶けを官能評価にて4段階で評価
◎良好 ○やや良好 △やや悪い ×悪い
【0026】
実験例1
水中油型乳化物Aの調製
精製パーム核油40部、パームスーパーオレイン5部にレシチン0.2部を添加混合溶解し油相とする。これとは別に水48.5部に脱脂粉乳6部、ショ糖脂肪酸エステル0.1部、クエン酸ナトリウム0.2部を溶解・分散し水相を調製する。上記油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、145℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、100Kg/cm2 の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、水中油型乳化物Aを得た。水中油型乳化物Aの油脂分は45.1重量%であり、ボテテストは5分50秒であった。水中油型乳化物Aの油相のSFCは10℃で70.9%、20℃で43.6%、30℃で0.4%であった。
【0027】
実験例2
水中油型乳化物Bの調製
硬化大豆パーム油30部、精製ヤシ油15部にレシチン0.2部を添加混合溶解し油相とする。これとは別に水48.5部に脱脂粉乳6部、ショ糖脂肪酸エステル0.1部、クエン酸ナトリウム0.2部を溶解・分散し水相を調製する。上記油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、145℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、100Kg/cm2 の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、水中油型乳化物Bを得た。水中油型乳化物Bの油脂分は44.8重量%であり、ボテテストは10分以上でボテが無かった。水中油型乳化物Bの油相のSFCは10℃で58.9%、20℃で31.1%、30℃で5.4%であった。
【0028】
実験例3
水中油型乳化物Cの調製
精製パーム核油20部、パームスーパーオレイン2.5部にレシチン0.2部を添加混合溶解し油相とする。これとは別に水71.0部に脱脂粉乳6部、ショ糖脂肪酸エステル0.1部、クエン酸ナトリウム0.2部を溶解・分散し水相を調製する。上記油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、145℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、100Kg/cm2 の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、水中油型乳化物Cを得た。水中油型乳化物Cの油脂分は25.1重量%であり、ボテテストは10分以上でボテが無かった。水中油型乳化物Cの油相のSFCは10℃で70.9%、20℃で43.6%、30℃で0.4%であった。
【0029】
実験例4
水中油型乳化物Dの調製
精製パーム核油44.5部、パームスーパーオレイン5.5部にレシチン0.2部を添加混合溶解し油相とする。これとは別に水44.5部に脱脂粉乳5部、ショ糖脂肪酸エステル0.1部、クエン酸ナトリウム0.2部を溶解・分散し水相を調製する。上記油相と水相を65℃で30分間ホモミキサーで攪拌し予備乳化した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって、145℃において4秒間の直接加熱方式による滅菌処理を行った後、100Kg/cm2 の均質化圧力で均質化して、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、水中油型乳化物Dを得た。水中油型乳化物Aの油脂分は49.8重量%であり、ボテテストは2分30秒であった。水中油型乳化物Dの油相のSFCは10℃で70.9%、20℃で43.6%、30℃で0.4%であった。
【0030】
実施例1
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水25部に水中油型乳化物Aを60部加え、縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。
捏ね上げた生地は、リタードをとった後(−8℃30分〜)、折り込み油脂60部(製品名:アートピアGS、不二製油株式会社製)を折り込み、リバースシーターで4つ折りと3つ折りを各1回行った。
再度、リタードをとり(−8℃30分〜)、4つ折りと3つ折りを各1回行った。(計144層)
そしてリタード(−8℃30分〜)をとった後に、生地を展延し、成型を行った。その際に生地は最終生地厚3mmまで展延し、100×120mmにカットし、生地の上にアップルプレザーブを25gのせ、さらに中央にカットを入れた生地を上にかぶせるアップルパイの形状で成型を行った。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Aの含有量は24.0重量%であった。
成型後、20℃で20分間静置し、卵を塗り、上火230℃、下火200℃の固定オーブンで18分間焼成した。
焼きあがったアップルパイは室温にて1時間放冷し、粗熱を取った後、ポリエチレン袋に包装し、20℃で24時間保存し、パイの評価を行った。結果を表1に纏めた。
パイの浮きが良好であり、官能評価においても、食感・口溶けが共に良好であった。
【0031】
実施例2
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水25部、水中油型乳化物Aを38部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表1に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Aの含有量は16.0重量%であった。
実施例3
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部、水中油型乳化物Aを20部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表1に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Aの含有量は8.6重量%であった。
実施例4
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水43部、水中油型乳化物Aを10部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表1に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Aの含有量は4.4重量%であった。
【0032】
実施例1〜4の配合、製造方法及び評価を表1に纏めた。
【表1】

【0033】
実施例5
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水10部、水中油型乳化物Aを80部を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表2に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Aの含有量は31.4重量%であった。
実施例6
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部、生クリーム(製品名:中沢フレッシュクリーム45、中沢乳業株式会社製、乳脂肪分45重量%)を20部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表2に纏めた。この時のパイ生地全体に対する生クリームの含有量は8.6重量%であった。
生クリームの油相のSFCは10℃で46.8%、20℃で17.3%、30℃で5.3%であった。
【0034】
比較例1
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水48部、全卵を5部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表2に纏めた。
【0035】
比較例2
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水40部、練り込み油脂27部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果は表2に纏めた。
【0036】
実施例5、6及び比較例1、2の配合、製造方法及び評価を表2に纏めた。
【表2】

【0037】
実施例7
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部、水中油型乳化物Bを20部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果は表3に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Bの含有量は8.6重量%であった。
【0038】
実施例8
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部、水中油型乳化物Cを20部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表3に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Cの含有量は8.6重量%であった。
【0039】
実施例9
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部、水中油型乳化物Dを20部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表3に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Dの含有量は8.6重量%であった。
【0040】
実施例10
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部、水中油型乳化物Dを60部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例1と同様な処理を行いアップルパイを得、パイの評価を行った。結果を表3に纏めた。この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Dの含有量は26.7重量%であった。
【0041】
実施例7〜10の配合、製造方法及び評価を表3に纏めた。
【表3】

【0042】
実施例11
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部に水中油型乳化物Aを20部加え、縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。
捏ね上げた生地は、リタードをとった後(−8℃30分〜)、折り込み油脂60部(製品名:アートピアGS、不二製油株式会社製)を折り込み、リバースシーターで4つ折りと3つ折りを各1回行った。再度、リタードをとり(−8℃30分〜)、4つ折りと3つ折りを各1回行った。(計144層)
そしてリタード(−8℃30分〜)をとった後に、生地を展延し、成型を行った。その際に生地は最終生地厚3mmまで展延し、50×50mmにカットし、生地の中心に斜めに2本、10mmの切り込みを入れて焼成した。(ピケ打ちの代わり。暴れないようにするため)成型後、20℃で20分間静置し、上火230℃、下火200℃の固定オーブンで15分間焼成した。
焼きあがったパイは室温にて1時間放冷し、粗熱を取った後、ポリエチレン袋に包装し、20℃で24時間保存し、パイの評価を行った。結果を表4に纏めた。
この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Aの含有量は8.6重量%であった。
【0043】
実施例12
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水25部に水中油型乳化物Aを60部加え、縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。
これ以降は実施例11と同様な処理を行いパイを得、パイの評価を行った。結果を表4に纏めた。
この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Aの含有量は24.0重量%であった。
【0044】
実施例13
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水38部に水中油型乳化物Bを20部加え、縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。
これ以降は実施例11と同様な処理を行いパイを得、パイの評価を行った。結果を表4に纏めた。
この時のパイ生地全体に対する水中油型乳化物Bの含有量は8.6重量%であった。
【0045】
比較例3
水中油型乳化物をパイ生地に使用しない従来のパイ生地を以下の要領で調製し評価した。
強力粉70部、薄力粉30部、グラニュー糖2部、生イースト1部、水48部、全卵を5部、練り込み油脂10部(製品名:パンパスLB、不二製油株式会社製)を縦型ミキサーで低速5分のミキシングを行い、生地を捏ね上げた(ミキシング後の生地)。これ以降は実施例11と同様な処理を行いパイを得、パイの評価を行った。結果を表4に纏めた。
【0046】
実施例11〜13及び比較例3の配合、製造方法及び評価を表4に纏めた。
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、パイ生地及びパイに関し、詳しくは軽い食感で口溶けの良いパイ及び当該パイを得るためのパイ生地に関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉及び油脂を含むパイ生地であって、パイ生地中の油脂の一部が油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物由来であることを特徴とするパイ生地。
【請求項2】
パイ生地全体に対して水中油型乳化物が1〜40重量%である、請求項1記載のパイ生地。
【請求項3】
パイ生地中に水中油型乳化物由来の油脂分を0.5〜25重量%含む、請求項1記載のパイ生地。
【請求項4】
水中油型乳化物が油脂、蛋白質及び水を含むものである、請求項1記載のパイ生地。
【請求項5】
水中油型乳化物の油相のSFCが10℃で45〜90%、20℃で15〜65%、30℃で8.0%以下である、請求項1記載のパイ生地。
【請求項6】
折り込み油脂以外の小麦粉及び油脂分20〜60重量%の水中油型乳化物を含む原料を予め混合し、その後折り込み油脂を折り込んで生地を調製する、パイ生地の製造法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6何れか1項に記載のパイ生地を焼成してなるパイ。
【請求項8】
請求項1〜請求項6何れか1項に記載のパイ生地と含水物とを焼成してなる焼成食品。