説明

パイ類の製造方法、パイ類

【課題】加熱処理による表面荒れが低減され、食感に優れたパイ類を得られるパイ類の製造方法、並びに該方法により得られたパイ類の提供。
【解決手段】パイ生地を成形してなる生パイの表面に糖類を付着させた後、加熱することにより該糖類からなるガラス状の被膜を形成することを特徴とするパイ類の製造方法;前記加熱は、油ちょうにより行われることが好ましい;前記糖類は粉体状であることが好ましい;前記糖類はショ糖を含むことが好ましい;前記パイ類の製造方法を用いて得られたパイ類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理による表面荒れが低減され、食感に優れたパイ類を得られるパイ類の製造方法、並びに該方法により得られたパイ類に関する。
【背景技術】
【0002】
パイ類は、穀物粉、油脂、水等を含む原料を用いて作製した生地に、必要に応じて果実、クリーム、チョコレート等のフィリングを包み込んだ後、加熱処理して得られる食品である。パイ類の生地はその生地に油脂を多く含み、該油脂が生地内で層状の構造を形成するように製造される。そのため、パイ類は、該層状の油脂が焼成時に溶解して生地中に層状の気泡が生じることによる、サクサクとした良好な食感を特徴とするものである。
従来、パイ類の加熱処理としてはオーブンを用いた焼成が一般的であったが、近年では、製造時間の短縮や新たな食感を求めて、油ちょう調理によるパイ類の製造も行われている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−219793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、パイ類の製造においては、加熱処理によりパイ生地の表面から水分が失われるため、パイ類の表面に荒れが生じ、外観の美麗さが損なわれやすいという問題があった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、加熱処理による表面荒れが低減され、食感に優れたパイ類が得られるパイ類の製造方法、並びに該方法により得られたパイ類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、加熱処理前に生地の表面に糖類を付着させることにより、加熱処理中のパイ生地表面からの水分喪失を低減することができ、加熱処理後のパイ類の表面荒れが低減され、且つ、食感に優れたパイ類が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、下記の特徴を有するパイ類の製造方法、及びパイ類を提供するものである。
(1)パイ生地を成形してなる生パイの表面に糖類を付着させた後、加熱することにより該糖類からなるガラス状の被膜を形成することを特徴とするパイ類の製造方法。
(2)前記加熱が、油ちょうにより行われる(1)のパイ類の製造方法。
(3)前記糖類が粉体状である(1)又は(2)のパイ類の製造方法。
(4)前記糖類がショ糖を含む(1)〜(3)のいずれかのパイ類の製造方法。
(5)(1)〜(4)のいずれかのパイ類の製造方法を用いて得られたパイ類。
【発明の効果】
【0007】
本発明のパイ類の製造方法によれば、加熱処理による表面荒れが低減され、食感が向上したパイ類を得ることができる。該パイ類の製造方法により得られたパイ類は、加熱調理による表面荒れが低減され、食感が良好なものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において「パイ類」とは、穀物粉と油脂とを主原料として含み、油脂が多層構造を形成するように製造してなる生地を成形し、加熱処理して得られる食品をいう。
本発明において「生パイ」とは、成形後且つ加熱処理前のパイ類をいう。
本発明において「ガラス状の被膜」とは、ガラスのような硬さと光沢とを有する薄い被膜をいう。
【0009】
本発明のパイ類の製造方法は、パイ生地を成形してなる生パイの表面に糖類を付着させた後、加熱することにより該糖類からなるガラス状の被膜を形成するものである。本発明のパイ類の製造方法により得られるパイ類は、表面にガラス状の被膜を有するため、外観の美麗さに優れ、且つ、喫食した際に良好な食感を有するものとなる。
【0010】
本発明においてパイ生地としては特に限定されるものではなく、穀物粉及び油脂の主原料と、食塩、イースト、砂糖、澱粉、植物性タンパク質等の副原料と、水とを用いて、常法により製造されるものを用いることができる。
穀物粉としては、特に限定されるものではなく、例えば、小麦、ライ麦、大麦、米、トウモロコシ等の粉が挙げられる。なかでも安価に入手可能であることから、小麦粉が好ましく、強力粉と薄力粉とを組み合わせて用いることが好ましい。油脂としては、バター、マーガリン、ショートニング等が挙げられる。
また、本発明におけるパイ生地は、折パイにより得られる生地であっても、練りパイにより得られる生地であってもよい。折りパイの場合、折り込み用の油脂を除く原料と副原料とを混捏、圧延してシート状とした後、ブロック状又はシート状とした折り込み用の油脂を成形したシートで包み、圧延と折り畳みとを繰り返すことにより、穀物粉等からなる層と、油脂の層とが交互に複数層形成されたパイ生地を得ることができる。練りパイの場合、細断した油脂と、他の原料とを軽く捏ね上げてシート状とした後、圧延と折り畳みとを繰り返すことにより、パイ生地を得ることができる。上記の様にして得られるパイ生地の厚さは特に限定されるものではないが、1〜20mmであることが好ましい。
【0011】
パイ生地を成形して生パイを得る方法は特に限定されるものではなく、シート状のパイ生地を所望の形状に打ち抜いて成形する方法や、打ち抜いた生地の端部を張り合わせて成形する方法等が挙げられる。
また、本発明の生パイは、パイ生地のみからなるものであってもよく、パイ生地がフィリングを内包したものであってもよい。フィリングは特に限定されるものではないが、例えば、リンゴ、アンズ、洋ナシ等の果物やその加工品、サツマイモ、カボチャ等の野菜類やその加工品、チョコレート類、クリーム類、餡類、惣菜、魚肉、畜肉等が挙げられる。
成形後の生パイ類の形状は特に限定されるものではなく、三角形状、四角形状、円形状、筒状等を適宜選択することができる。また、成形後の大きさは特に限定されるものではなく、形状やフィリングの有無に応じて適宜決定することができる。
【0012】
成形された生パイは、表面に糖類を付着させた後に加熱される。生パイ表面に付着した糖類は、生地中の微量の水分又は該糖類の含む水分にその一部が溶解する。そして、加熱時に短時間で生パイ表面が高温となることにより、該水分に溶解した糖類の粘度が上昇し、水分に溶解していた糖類はアメ衣となる。さらに加熱を続けた後、パイ類を冷却すると、アメ衣はガラス状の被膜となる。パイ類の表面にガラス状の被膜が形成されることにより、パイ生地の水分が失われづらくなり、パイ類表面が乾燥して荒れることなく、外観が良好になると考えられる。
【0013】
付着させる糖類としては、一般的に食用に用いられる糖類であれば特に限定されるものではなく、単糖類、二糖類、少糖類、多糖類、糖アルコール類のいずれであってもよい。
糖類として具体的には、ショ糖、上白糖、麦芽糖、ブドウ糖、乳果オリゴ糖、オリゴ糖等の粉体状の糖類、水あめ、還元水あめ等の液状の糖類が挙げられ、これらの組み合わせを用いてもよい。なかでも糖類としては、含有する水分が少ないことにより、ガラス状になりやすいため、粉体状の糖類であることが好ましく、より結晶化しやすい粉体状の糖類(具体的には、ショ糖、上白糖、粉糖)であることがさらに好ましい。
【0014】
表面に付着させる糖類の量は、生パイを加熱処理した際にパイ生地表面からの水分喪失を抑え、良好な外観及び食感のパイ類が得られるものであれば特に限定されるものではなく、パイ類の大きさ、加熱処理の種類や条件を考慮して決定することができるが、生パイの表面全面を覆う程度であることが好ましく、パイ類1個あたり1g〜10gであることが好ましい。
【0015】
生パイ類に糖類を付着させる方法は特に限定されるものではないが、糖類が粉体状である場合には、生パイ類に少量の水分を刷毛やローラー等を用いて塗布又はスプレー等で噴霧した後、糖類を塗すことにより糖類を付着させることができる。また、糖類が液状である場合には、生パイ類に直接糖類を刷毛やローラー等を用いて塗布又はスプレー等で噴霧することにより、付着させることができる。また、粉体状の糖類の付着の際に用いた水や、液体状の糖類の含有する水分を揮発させることを目的として、付着の後に乾燥の工程を設けてもよい。乾燥は常法により行うことができる。
【0016】
また、糖類を付着させる際、糖類と共に他の原料を付着させることも好ましい。糖類と共に付着させるものとして具体的には、風味付けのためのチョコレート、シナモン等や、糖の固結防止のためのコーンスターチ等が挙げられる。
【0017】
上記のようにして糖類を付着させた生パイは、すぐに加熱処理を行ってもよく、冷凍又は冷蔵保存し、その後加熱処理を行ってもよい。冷凍又は冷蔵保存する場合、該保存中に、糖類が含有する水分又は生地の水分に糖類が溶解し、良好に生パイの表面を被覆することができる。
冷凍又は冷蔵の方法は特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば冷凍保存の場合、エアーブラスト式凍結法、セミエアーブラスト式凍結法、コンタクト式凍結法等の凍結法に基づくフリーザーを用いて生パイを凍結した後に、−18℃以下で保存する方法や、液化窒素や液化炭酸を噴霧して生パイを凍結した後に、−18℃以下で保存する方法を用いることができる。
【0018】
生パイを加熱処理する方法は特に限定されるものではなく、油ちょうする、オーブン等の赤外線装置を用いて焼成する、過熱水蒸気発生装置を用いて焼成する等の方法が挙げられる。加熱処理の時間及び温度は特に限定されるものではなく、加熱処理の方法に応じて適宜決定することができるが、付着させた糖類を特に好適にガラス化できることから、150℃以上の温度で加熱することが好ましい。
【0019】
なかでも、本発明のパイ類の製造方法では、加熱処理を油ちょうによって行うことが好ましい。通常、層状の生地に油が浸透し過度に油っぽくなることで食感に劣り、また、表面荒れも特にひどくなるという油ちょうパイの問題を解決することができるためである。これは、パイ類の表面に形成された糖類からなるガラス状の被膜が、パイ生地への油の過度の染み込みを抑制するためと考えられる。
生パイの油ちょうは常法により行うことができ、具体的には、160〜200℃の食用油脂中で、30〜600秒間油ちょうすることにより、油ちょう済みのパイ類を得ることができる。上記範囲を超えて油ちょうを行うと、表面に付着させた糖類がカラメル状となるため、表面が褐色となり、独特の風味をもつようになり、焦げ易くなる。なお、油ちょう前の生パイを少量の水分で湿らせておいてもよい。また、このように生パイの加熱処理を油ちょう調理により行う場合、オーブン等による焼成に比べて加熱処理時間を短縮することができ、工業生産や、食品の迅速な提供が求められる外食産業において有用である。
【0020】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
[実験例1]
表面に糖類を付着させて油ちょうした場合の、外観、油の染み出し及び食感について評価を行った。
まず、表1に示す生地原料のうち、折り込み用バターを除く原料を、ミキサーを用いて低速で4分間混捏した後、中速で5分間混捏した。混捏時の温度は18〜20℃とした。次いで、折り込み用バターを生地に折り込み、圧延と3つ折りを4回繰り返し、計81層の油脂層を有するパイ生地を製造した。パイ生地の厚さは約3.5mmとした。
得られたパイ生地を100mm×100mmの正方形に裁断し、50箇所程度ピケ穴を開けた後、2つ折りにして周辺を押圧して封止し、1個15gの長方形の生パイを製造した。
得られた生パイの表面に少量の水を噴霧した後、表1に示す糖類を1個あたり5g付着させた。
得られた生パイを、180℃の食用油脂で5分間潜行油ちょうして、パイを得た。得られたパイの外観、油の染み出し、及び食感を評価した結果を表2に示す。
表2の結果から、糖類としてグラニュー糖又は上白糖を付着させた場合には、パイ類が油っぽくなくサクサクしており、食感が良好であった。また、生地の水分も失われることなく外観が良好であった。一方、糖類を付着させていない場合には、表面が乾いて荒れており、且つ、ひどく油っぽく、パイの風味が失われていた。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
[実験例2]
様々なフィリングを用いてパイ類を製造し、油っぽさ及び食感について検討した。
(2−1)
上記実施例1と同様にして、パイ類の生地を得た。得られた生地を100mm×100mm、1枚あたり35gの正方形に裁断し、50箇所程度ピケ穴を開けた後、中央部分に、アップルプレザーブを含むアップルフィリング15gを載せ、正方形の対角線で2つ折りにし、押圧及び封止して三角形に成形した。
得られた生パイの表面に少量の水を噴霧した後、上白糖:シナモンパウダー=100:1(質量比)のシナモンシュガーを1個あたり3g付着させた。得られた生パイのサイズは、140mm×100mm×25mmであり、重量は約58gである。その後、−20℃で120分間凍結処理を施し、冷凍生パイを得た。
得られた生パイを凍ったまま180℃の食用油脂で5分間潜行油ちょうして、アップルパイを得た。
【0025】
(2−2)
上記(2−1)において、アップルフィリングに替えてココア及びクリームを含むチョコフィリングを用い、シナモンシュガーに替えて上白糖:ココアパウダー=100:1.5(質量比)のココアシュガーを用いた以外は上記(2−1)と同様にして、チョコパイを得た。
【0026】
(2−3)
上記(2−1)において、アップルフィリングに替えてカットアプリコットを含むアプリコットフィリングを用い、シナモンシュガーに替えて上白糖:コーンスターチ=100:1.5(質量比)のシュガーパウダーを用いた以外は上記(2−1)と同様にして、アプリコットパイを得た。
【0027】
上記(2−1)〜(2−3)で得られたパイは、油の染み出しがなく、良好な外観及び食感を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のパイ類の製造方法は、食品製造分野で好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイ生地を成形してなる生パイの表面に糖類を付着させた後、加熱することにより該糖類からなるガラス状の被膜を形成することを特徴とするパイ類の製造方法。
【請求項2】
前記加熱が、油ちょうにより行われる請求項1に記載のパイ類の製造方法。
【請求項3】
前記糖類が粉体状である請求項1又は2に記載のパイ類の製造方法。
【請求項4】
前記糖類がショ糖を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のパイ類の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のパイ類の製造方法を用いて得られたパイ類。