説明

パウダー化粧料用ブラシ

【課題】頬紅、おしろいやパウダーファンデーション等のパウダー化粧料を皮膚面に伸ばし拡げながら塗布するための合成繊維毛材を使用した、粉化粧料の捕集性及び塗布性のよい化粧用ブラシを提供すること。
【解決手段】S撚りとZ撚りの合成繊維毛材を穂先部に備えたパウダー化粧料用ブラシのブラシの穂先部のS撚りとZ撚りのピッチが10mm〜30mmであって、該ブラシの穂先部を撓ませることによってパウダー化粧料を捕集してパウダーを穂先部に含ませたとき、毛材先端のほぼ全面に亘って、パウダーを均一にブラシ毛に捕集することの可能なパウダー化粧料用ブラシ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウダー化粧料のピックアップ性ないし捕集性、さらにはパウダーの塗布性に適当な化粧用ブラシに関する。
さらに詳しくは、本発明は、頬紅、おしろいやパウダーファンデーションのようなパウダー化粧料を容器よりまんべんなくピックアップもしくは捕集し、さらにはブラシ毛材表面に捕集したパウダー化粧料を皮膚面に伸ばし拡げ塗布するのに適するパウダー化粧料用ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ブラシ毛材といわれるブラシ毛を束ねた集合体を穂先部とした化粧用ブラシは、ベースメイク用、仕上げ用そして化粧直し用として多用されている。用途別では、フェイス用、チーク用、ハイライト用、アイシャドー用などの化粧用ブラシが一般消費者のみならず、メイクアップアーティストなどの専門美容師にも多用されている。
ブラシを使用してパウダー化粧料でメイクする場合、パフを使う場合とは異なり、パウダー化粧料を皮膚面に薄くのせることができるという利点を有し、重厚で粉っぽい印象を与えず、自然に仕上がる点で優れている。また、ブラシを使用する場合、ポイントメイクが容易であり、化粧料の塗り方によっては顔にメリハリの利いた印象を付与することもできる。
【0003】
かかる化粧用ブラシは、これまでは、山羊毛、リス毛、馬毛、イタチ毛などの獣毛が毛材として使用されてきた。その理由は、毛材が柔軟で肌触りが良い上に、これら獣毛がキューティクルと呼ばれる表面に微細な凹凸構造を有し、頬紅、おしろい、パウダーファンデーションのような粒径の細かいパウダー化粧料の捕集性に特に優れること、そして捕集後は、穂先部において化粧料が毛材間の空間部内に十分量保持され、化粧時には少しずつブリードされることから、薄く自然な色調に近づけて塗るという、いわゆるボカシ塗りにも特に適するものであった。そして、化粧時、皮膚面上に穂先を当てながら掃くようにパウダー化粧料を薄く伸ばしながら塗布する際、獣毛が適度の柔軟性とコシの良さを具備しており、肌当たりがソフトで優しいことから、プロ美容師の高評価も得ていた。
【0004】
しかし、これらの獣毛からなる毛材は利点もある反面、獣特有の臭いが随伴しやすいこと、衛生面で好ましくない微生物や虫などが付着、繁殖する場合があり、保管条件に配慮が必要なこと、さらに使用者の体質によっては、皮膚アレルギーの原因ともなる可能性もあり、これを防止するために様々な後加工を要していた。さらに最近では、毛材の供給源となる動物が自然破壊、気候変動など様々な環境要因により減少していることや、動物保護の思想が国際的に広まっており、獣毛の入手そのものが困難になってきたことなどの理由により、ブラシ毛材を獣毛から合成繊維のモノフィラメントに代替する技術が開発され、実用化されつつある。
【0005】
通常の紡糸・延伸法で製造されたストレートな合成繊維をブラシ毛材とした場合では、毛材同士が密着しやすく、毛材間の空隙が少ないためにパウダー化粧料の捕集性が悪いし、その保持性も悪いことから、実用面で限界があった。
そこで、合成繊維からなるブラシ毛材を使用したときに、パウダー化粧料の捕集性と保持性を向上するために種々の改良技術が提案されている。
例えば、毛材間に空隙部を設けるために規則的なピッチを有するクリンプを付与した合成繊維フィラメントと、真っ直ぐな合成繊維フィラメントとを混合して得られた穂先を備えた化粧用ブラシが、特開2007−319314号公報(特許文献1)に開示されている。
【0006】
また、特殊ギヤ等を用いて不規則なピッチと振幅からなる特殊クリンプを付与した合成繊維フィラメントを毛材とした化粧用ブラシが、米国特許第5195546号公報(特許文献2)に開示されている。
そして、撚糸とヒートセットにより特定のピッチを形成したヘリックス構造を有する合成繊維フィラメントを毛材とした化粧用ブラシが、特開平11−235230号公報(特許文献3)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−319314号公報
【特許文献2】米国特許第5195546号公報
【特許文献3】特開平11−235230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の特許文献1の技術は、ストレートな合成繊維フィラメントと、クリンプが付与され規則的なピッチを有する合成繊維フィラメントとからなる毛材を特定比率で混合してブラシ穂先部としたものである。しかしながら、この技術では、毛材のフィラメント間に十分な空隙を形成することは難しく、パウダー化粧料の捕集に際して穂先が十分開かず、穂先部の全体に亘って均等にパウダーをピックアップすることは困難である。それゆえ、捕集したパウダー化粧料は穂先の限られた部分にのみ捕集され、かつ毛材間隙の奥までパウダーが移行することも難しく、粉含み性は不十分であった。このため、化粧料を皮膚面に薄く伸ばしながら塗り広げることは難しく、またパウダーを補給するために何回も化粧料容器に皮膚に接触したブラシを戻してパウダーをすくい取って捕集せねばならず、衛生面でも好ましくなかった。
【0009】
次に、特許文献2の技術によると、特殊ギヤにより、不規則なピッチと振幅を形成するようにクリンプを付与した合成繊維フィラメントをブラシ毛材としている。これを束ねた集合体は、上記に比べるとパウダーを捕集し保持するための空隙は増えるものの、平面的なクリンプであるために毛材間の空隙形成には限界があり、また不規則なクリンプ構造を有するがゆえに、局所的にパウダーの保持量が多い所と、少ない所とが混在することになり、化粧時にパウダーの塗布ムラが起こりやすく、見栄えの良い化粧仕上げは達成できなかった。
【0010】
特許文献3の技術によると、上記のような基本的問題は解消するものの、一般使用者がフェイスブラシやチークブラシとして使用する場合に、皮膚面上で円を描くように穂先をなぞると、右回りで塗る場合と、左回りで塗る場合とで、パウダーの塗布性に差が発生しやすく、巧く均一に塗布しようとすると熟練が必要ともなった。また、毛材の撚りが強いために、毛材が硬くなる場合があり、また、製造面では小さいピッチであるゆえに毛材が絡まりやすくなる方向にあり、毛さばきの点で取り扱いがやや難しいこともあり、未だ改善の余地が残存していた。
【0011】
そこで、本発明は、上記した従来の問題点に鑑み、更なる研究を行った結果、製造性にも優れ、化粧時には頬紅、パウダーファンデーション、おしろいなどパウダー化粧料のピックアップ性又は捕集性(以下、「捕集性」という)に優れ、穂先部の全体に万遍にパウダーを保持できるとともに、一たん穂先部に捕集したパウダーの粉含み性に優れているパウダー化粧料用ブラシを提供するものである。さらには、本発明の化粧用ブラシでは、穂先部に含んだパウダー化粧料を少しずつリリースしながら皮膚面に塗布でき(以下、「リリース性」という)、自然な化粧仕上がり感をもたらすことができる性能を有する、従来高級品とされてきた獣毛ブラシの使用性能をも凌駕し得る化粧用ブラシを合成繊維技術で提供するものである。
【0012】
さらには、フェイスや頬部に穂先を沿わせながらパウダーを薄く伸ばすときに、ソフトでタッチのよい化粧感を味わうことのできる高級グレードの化粧用ブラシを提供しようとするものである。
また、化粧操作にあまり熟練していない一般使用者であっても、塗りムラを生じることなく自然な仕上がり感に優れ、ボカシ塗りのように高度な技を必要としていた化粧仕上げが熟練度に関係なくできる化粧用ブラシをも提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、以下の構成の化粧用ブラシによって本発明の課題を解決することができた。
(1)S撚りとZ撚りの合成繊維毛材を穂先部に備えたパウダー化粧料用ブラシであって、該毛材のS撚りとZ撚りにおける撚りのピッチが10mm〜30mmであって、該ブラシの穂先部を撓ませることによってパウダー化粧料を捕集してパウダーを穂先部に含ませたとき、毛材先端のほぼ全面に亘って、パウダーが均一にブラシ毛材先端部全面に捕集されることを特徴とするパウダー化粧料用ブラシ。
(2)前記穂先部で円を描くように周回させることによりパウダー化粧料を捕集した後、穂先部で円を描くように周回させることにより該パウダーをリリースしながら皮膚面に塗布する場合に、該捕集のために回す周回数の2倍を超える周回数で周回してもパウダー化粧料が穂先部からリリースされて、皮膚面に塗布され、パウダーが塗布された状態が目視判別できることを特徴とする(1)のパウダー化粧料用ブラシ。
(3)前記捕集時の周回数をN1、塗布時の周回数をN2とするとき、4≧N2/N1>3の範囲であっても、パウダーが穂先部からリリースされて、皮膚面に塗布され、パウダーが塗布された状態が目視判別できることを特徴とする(1)又は(2)に記載のパウダー化粧料用ブラシ。
(4)前記パウダー化粧料用ブラシの穂先部で円を描くように周回させてパウダーを塗布したとき、右周回又は左周回の場合の塗布状態と、その逆の左周回又は右周回の場合の塗布状態とがほぼ同等であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
(5)前記S撚りとZ撚りの合成繊維毛材が互いに隣接し合い、かつS撚り毛材とZ撚り毛材が本数比40:60〜60:40の割合で混合されていることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
(6)前記合成繊維毛材が、初期モジュラス20cN/dtex〜40cN/dtex、20%伸長後の伸長回復率35%〜95%の引張特性を備えたものであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
(7)前記合成繊維毛材の沸騰水収縮率が5%〜15%であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
(8)前記合成繊維毛材が、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維及びポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維から選ばれた少なくとも一種の繊維からなることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
(9)前記合成繊維毛材が、先細加工されており、表面に微細な凹凸を有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
(10)前記パウダー化粧料用ブラシが、フェイス用ブラシ、チーク用ブラシ、ハイライト用ブラシ又はアイシャドー用ブラシであることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【発明の効果】
【0014】
本発明のパウダー化粧料用ブラシによれば、毛材が適度の柔軟性とコシを有するとともに、S撚り(右撚り)とZ撚り(左撚り)という、正逆両方向の撚り構造を有する毛材を混合して集束したバンドル体を穂先部としているために、パウダー化粧料を捕集する際に、容器内に配置された化粧料表面に穂先を軽く押さえつけると穂先部が簡単に広がり、広がった穂先の先端全面にほぼ均一にパウダー化粧料を捕集することが出来る。そして、毛材が適度の柔軟性を有するために、化粧時に肌になじみやすく、また柔肌の人であってもソフトでしっとりとした感触を享受することができる。
【0015】
穂先部が容易に広がることで、化粧料を捕集するとき、穂先部の中央付近の局在化された領域だけにピックアップさせずに、穂先部の毛材先端のほぼ全体にわたって均一にパウダーをピックアップすることができる。このため、皮膚面に塗布するときもスポット的に化粧料が固まって塗布されることはなく、化粧料を皮膚面に薄く伸ばして塗布することができるので仕上がり感が良く、特にボカシ塗りに適した化粧用ブラシを提供することができる。
【0016】
また、穂先部を撓ませるような外力が作用すると、ブラシ毛材が良く広がることにより、毛材間隙の奥深くまで十分な量のパウダー化粧料を取り込むことができ、一たん内部に取り込まれたパウダー化粧料は、少しずつリリースされるのでフェイスブラシのように広い皮膚面に塗布する場合であっても万遍なく薄くパウダー化粧料を伸ばすことができ、広範なボカシ塗りが可能となる。穂先部におけるパウダーの粉含み性がよいので、化粧料容器から化粧料を度々捕集するという面倒な手間が省けるし、衛生的でもある。
このように、合成繊維使いでありながら、従来多用されてきた獣毛使いの化粧用ブラシに匹敵するか、凌駕する塗布性能を有するために、一般消費者のみならず、メイクアップアーティストのような専門美容師の高度な要求にも応えられるパウダー化粧料用ブラシを提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のパウダー化粧料用ブラシの部材構成を示す概念図。
【図2A】本発明のパウダー化粧料用ブラシの穂先部(S撚り毛材の本数/Z撚り毛材の本数=50/50)でパウダー化粧料を捕集した際、パウダーの付着状態を穂先部を天面から見た図である。(破線で示す毛材先端部全面域にパウダーが均一に付着していることを示す)
【図2B】本発明のパウダー化粧料用ブラシの穂先部(S撚り毛材の本数/Z撚り毛材の本数=50/50)でパウダー化粧料を捕集したとき、パウダーの付着状態を穂先部の先端側を横から見た図である。(破線で示す毛材先端部全面にパウダーが均一に付着していることを示す)
【図3A】従来のパウダー化粧料用ブラシの穂先部(ギヤクリンプ方式で二次元状のケン縮を付与した毛材を使用)でパウダー化粧料を捕集した際、パウダーの付着状態を穂先部の天面からみた図である。(破線で囲まれた領域内にパウダーが局在化して付着していることを示す)
【図3B】従来のパウダー化粧料用ブラシの穂先部(ギヤクリンプ方式で二次元状のケン縮を付与した毛材を使用)でパウダー化粧料を捕集したとき、パウダーの付着状態を穂先部の先端側を横側から見た図である。(破線で示す部分にパウダーが局在化して付着していることを示す)
【図4】本発明のパウダー化粧料用ブラシのパウダーリリース性に関するモデル試験結果を示す図である(穂先部で円を描くように周回させる使用法によりパウダー化粧料を捕集し、これを塗布するときのパウダーリリース性を示す。)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態について具体的に説明する。
本発明のパウダー化粧料用ブラシは、図1に例示するように、手に持つ側からハンドル部、口金部(穂先部をハンドル部と連結し固定するための部材)そして穂先部からなる。ブラシの部材構成、形態や大きさについては、図1の構成に限定されるものではなく、任意のブラシ形状、幾何学的形状を採用することができる。
また、コンパクト容器に内蔵する小型ブラシであれば、ハンドル部と口金部とを一つの部材で兼ねるようにすることもできる。
【0019】
さらに、本発明でいう「穂先部」とは、口金部から先端側の部位でブラシ毛材のバンドル体(集束体)からなる部位を意味し、パウダー化粧料を化粧料容器からすくい取って捕集する場合と、該すくい取ったパウダー化粧料を皮膚面にリリースしながら皮膚面に塗布する場合に役立たせる。
【0020】
パウダー化粧料用ブラシを実際使用する場合、ブラシの穂先部で化粧料表面を直線状に往復させるようにスイープしてパウダー化粧料を捕集する用法、円を描くように周回させながらスイープさせることによってパウダー化粧料を捕集する用法とがある。いずれも、穂先部の毛材が撓み、外側に拡がることで、パウダー化粧料は穂先部に捕集される。
かくして、パウダー化粧料は毛材先端部の全面にわたって捕集されるが、さらに穂先部を形成する毛材の間に形成される間隙内部にも取り込まれ保持される。
このように捕集されたパウダーは、ブラシ穂先部で皮膚面上を直線状又は円を描くようにスイープしながら塗布する際には、毛材先端側に付着したパウダーからリリースされ、次いで穂先部が再度広がることにより、毛材間隙に取り込まれ保持されたパウダーが少しずつ穂先先端側へと移動しながらリリースされて皮膚面に塗布されることになる。
【0021】
本発明の化粧料ブラシに用いる穂先部を形成する毛材は、自体が撚り構造を有する合成繊維フィラメントからなり、いわゆる「S撚り毛材(右撚り)」、「Z撚り(左撚り)」の螺旋構造を有しており、ストレートな繊維と異なり、螺旋軸に直交する方向に3次元的な拡がりを有する。
このような撚りによる螺旋構造を有する1本の毛材が占める体積は、ギヤクリンプ方式によって形成される平面的なジグザグ構造の毛材の場合に比べても大きく、撚糸タイプの毛材集合体からなる穂先部は、保管状態でも、毛材同士の重なりや、密着が抑制されて内部に空隙部を多く含むバルキーなものとなる。
【0022】
一方、化粧時には、穂先部を物体に押し付けることによって、毛材を撓ませるような外力を作用させると穂先部の毛材が絡まることなく扇状に簡単に広がり易くなる。この作用によって、広がった穂先には化粧料と接触した部位全面にわたってパウダー化粧料が寄せ集められるように捕集され、かつ毛材間の間隙の奥深くまでパウダーが蓄えられることになる。毛材間に十分空間部が形成され、ブラシ使用中にも保持されるために、好ましくは、穂先部において、S撚り毛材と、Z撚り毛材とがほぼ均等の本数だけ、互いに隣接するように混合されていることにより、毛材が重なって絡まることが抑制され、穂先部にパウダーが十分量保持できるとともに、パウダーを塗布するときには徐々にリリースされるという効果が一層顕著なものとなる。
【0023】
本発明の化粧料ブラシの穂先部を形成する毛材の撚り構造は、撚りのピッチが10mm〜30mmの範囲内のS撚り(右撚り)合成繊維毛材と、撚りのピッチが10mm〜30mmの範囲内のZ撚り(左撚り)合成繊維毛材とを、毛材が互いに平行になるように混合し、次いで集束して得られたバンドル体で穂先部を形成する。
撚り加工された繊維は、平面視で一定の規則的周期(波長)を有する波状となり、1波長分に相当する長さをピッチと称する。合成繊維に撚り構造を形成するには、撚糸法などの公知方法で製造することができる。
【0024】
本発明の化粧用ブラシでは、パウダー化粧料を化粧料容器からブラシの穂先部へすくい取る、“捕集する”場合と、穂先部にピックアップ又は捕集されたパウダー化粧料を皮膚面に塗り広げる場合に、ブラシの穂先部で円を描くように何回も周回させながらスイープして化粧する方法によると効果が一層顕著に現れる。
本発明のブラシを用いてスイープ、すなわち、ブラシ穂先で円を描きながら周回させるとき、穂先部を構成する毛材の集束体には、周回運動に伴って各毛材に“ひねり”の外力が作用する。
【0025】
このとき、穂先部の先端を観察すると、恰も水面に発生した渦が、物体を吸引するような運動を呈するのが判る。一方、毛材は適度のコシと、ひねりなど外部から変形を受けたとき復元力を有しているので、穂先部が周回中ずっと、ひねられては戻るという一連の運動が継続され、パウダーは穂先部の表面から毛材間隙の奥深くへと吸い寄せられるように移動していく。さらには、毛材に撚り構造が付与されているので、穂先部の周回運動中、パウダーの一部は集束体全体の運動と相俟ってスクリューに噛み込まれていくように、毛材に沿って先端側からブラシ毛材の根元側へと移動していく。
【0026】
ブラシに捕集したパウダー化粧料を皮膚面に塗り広げるという塗布のときには、穂先部を皮膚面に当て、撓ませながらスイープすると、穂先部が広がることに伴って、該間隙内部に蓄えられていたパウダーが少しずつ先端側へとリリースされることになる。また、頬部をメイクする場合のように、円を描くように周回させながら穂先部で皮膚面をスイープすると、捕集のときとは逆に、パウダーを搾り出すように、穂先部の内奥部から外側へとパウダーが徐々に移動する。
【0027】
ブラシの穂先部は、ブラシのハンドル部側の根元で口金によってカシメているので、先端側に比べて根元側(ハンドル部側)は狭くなっている。このため、パウダーは、捕集時には穂先部の先端側から根元側に向かっては、広い側から狭い側に向かうので移動しやすく、この逆に、塗布に際してパウダーがリリースされるときには、一端狭い側に保持されたパウダーは、毛材間の間隙の拘束を受けながら移動することになるので、一気に放出されることなく少量ずつ出ることとなる。ブラシ毛材は、S撚りとZ撚りの毛材が混合されているので、根元側でも重なって密着することが妨げられるために、粉含み性に優れたものとなる。
【0028】
このような観点から、穂先部を形成する合成繊維毛材の柔軟性と、外力に伴う変形を受けた後の復元性は重要な因子である。そのために好ましい引張特性を具体的に例示すると、合成繊維毛材の柔軟性(剛性)に関しては、引張試験の初期モジュラス値で表すことができ、20cN/dtex〜40cN/dtexであることが好ましく、さらに好ましくは、20cN/dtex〜30cN/dtexの範囲が最適である。この範囲内であると、化粧料容器に保存されたパウダー化粧料表面に穂先部を押し付けたり、円を描くように周回させながらスイープするときに、毛材が撓むことによって容易に穂先部が広がりパウダーを毛材先端の全面にわたって捕集しやすくなるし、穂先部内部の奥深くまでパウダーを取り込みやすくなる。また、パウダーを塗布するときには、奥深くに貯蔵されたパウダーが徐々にリリースされるので粉含み性に優れる。しかも穂先部の肌触りが獣毛に匹敵するくらいソフトで、化粧時にしなやかな触感を得ることもできる。
【0029】
また、合成繊維毛材は、ブラシ使用中に撓んだり、ひねられて変形を受けるが、外力を除去した後は速やかに原状に回復することが適切である。受けた変形に対する復元性に関しては、引張試験において、20%伸長後の伸長回復率で表すことができ、伸長回復率が35%〜95%、さらに好ましくは、40%〜90%の範囲が適切である。この範囲の特性を有する毛材を使用すると、パウダー化粧料捕集時のパウダーの取り込み性が向上するとともに、繰り返しブラシを使用しても耐久性が向上できるので好適である。
また、合成繊維毛材一本の太さは0.02mm〜0.2mm程度、さらに好ましくは、0.05mm〜0.15mm程度がブラシ加工性、肌触り性、化粧料の捕集性の点で最も好ましい。
【0030】
本発明のブラシの実用特性の観点で、ブラシ穂先部で円を描くように周回させる場合を例にとると、化粧料を捕集するときには、上記のように毛材先端側からハンドル部側へとパウダーが毛材の捻り運動に伴って移動し貯蔵される。その後、いったん蓄えられたパウダー化粧料を皮膚面に塗布する時には、一気にリリースされるのではなく、奥側に蓄えられたパウダーほど徐々に穂先部先端側に移動し、皮膚面に転着される。このために、捕集時に行った周回数の2倍を超えて、塗布操作を行ってもパウダーはリリースされ、皮膚面に塗布されることとなる。
【0031】
S撚り毛材と、Z撚り毛材とが、ほぼ等量の本数だけ使用され、これらが相隣接するように均等に混合されていると毛材同士が密着しあうことが抑制されるし、右回り、左回りいずれの方向に円を描きながら周回させて、化粧料のパウダー化粧料の捕集とそのリリース(すなわち、化粧料の皮膚面への塗布)を行っても、捕集性とリリース性とにおいて、右回りであるか、左回りであるかによる左右差はなく、化粧仕上がり感にも差は生じない。
本発明の化粧用ブラシがこのように左右方向に関してバランスが取れていると、使用者の右利き、左利きとに拘わらず良好な化粧仕上がり感をもたらす利点がある。
【0032】
本発明の化粧用ブラシの穂先部を用いて化粧料容器からパウダー化粧料をピックアップ又は捕集するときと、パウダー化粧料を顔に伸ばし塗りするときには、穂先部へ作用する押圧力やひねり力に伴って、毛材が原形から撓むことによって穂先部が広がり、押圧力がなくなると原形へと復元するという、変形と回復のサイクルを反復する。これに伴いパウダーが毛材間隙内に捕集され、皮膚面への塗布操作に応じてパウダーが穂先部内部から徐々にリリースされることになる。
【0033】
S撚りとZ撚りの合成繊維毛材がほぼ等量の本数だけ、互いに隣接するように混合されていると、隣接する毛材の巻き方向が互いに異なるので、このようなサイクルが使用毎に反復されたとしても毛材同士の絡み合いを防止することができ、粉含み性を常に最良の状態に維持することが可能となるので好ましい。さらに、このような構造であれば、ブラシを長期間繰り返し使用しても、毛材同士の絡み合いを持続的に防止することができるのでブラシの耐久性を向上させることができる。
【0034】
これとは反対に、もし、S撚り毛材同士が固まって配置されている部分があると、撚りの方向が同じであるために、毛材が化粧時に重なって絡まりあうこともある。
また、Z撚り毛材同士が隣接する場合も同様である。従って、S撚りとZ撚りの合成繊維毛材が互いに万遍なく隣接するように混合された構造であるのが好ましい。
【0035】
また、このような構造に基づき、パウダー化粧料を容器から捕集するときと、穂先部に捕集した化粧料を皮膚面に塗り広げるとき、ブラシの穂先部は、面に押し当てられると、毛材間の絡み合いによる拘束がほとんどないので容易に広がり易くなり、穂先部の毛材先端部全体にほぼ均一にパウダー化粧料を捕集できるのと同時に、穂先部の毛材間隙の奥深くまで捕集することができる。これによって、パウダー化粧料を皮膚面に塗布するときも、塗布ムラなく、薄く化粧料を伸ばしながら塗り広げることができるし、粉含み性がよいので、内奥部から表面側に少しずつパウダーがリリースされるので度々ブラシを化粧料容器に戻して捕集する手間が軽減される。これによってボカシ塗りも容易にできるようになる。
【0036】
化粧ブラシを使った化粧法には定まった方法はないが、大別すると、Tゾーン、瞼、目元部などの部位において略直線を描くように皮膚面を掃くようにスイープしてパウダーを伸ばす方法と、頬部にアクセントをつけたいときに、穂先部で円を描くように周回させながらパウダーを伸ばし塗る方法がある。前者の場合であっても、後者の場合であっても、捕集とリリースの過程で本発明の効果が発現するものであるが、特に後者の方法による化粧を行ったときにその効果が顕著に現れる。
【0037】
特に後者の場合には、ブラシのハンドル部を手で持ちながら、穂先部が概略円を描くように皮膚面上を滑らせるように操作するが、穂先部がS撚り毛材と、Z撚り毛材との混合体であると右回りに円を描くようにしても、左回りに円を描くようにしても、その差が認識されることはなく、使用者の持ちクセの影響もなく仕上がり感が極めてよくなる。また、このように円を描く化粧法を続けていくと、毛材がその方向に捩れてクセがつく可能性もあるが、S撚り毛材とZ撚り毛材とが相隣接するように配置されていると、このようなクセがつきにくくブラシの耐久性が一層向上するので都合が良い。
【0038】
本発明のブラシにおけるS撚り毛材とZ撚り毛材との混合比率は、上述の理由により、等しい本数比、またはそれに近い本数比であることが好ましい。[S撚り毛材]:[Z撚り毛材]の混合比率は本数比で、40:60〜60:40が好ましいが、さらに好ましくは、45:55〜55:45の範囲が適切である。
【0039】
本発明のブラシの穂先部に使用する毛材の撚りのピッチは、製造面と、パウダーを保持するための空間を毛材間に形成し、使用中も保持する観点でS撚り、Z撚りいずれの場合も10mm〜30mmの範囲内になるように設定する。
ピッチが10mmを下回ると、製造面では、撚りが強くなるので撚糸後の開繊工程やブラシ穂先部を形成するためにバンドル加工をする際、毛材同士が絡まりやすく、毛さばき性が低下しやすくなる。また、強い撚りのため毛材のコシが硬くなり皮膚タッチ感が硬くなりやすい。
【0040】
一方、ピッチが30mmを越えると、製造面での支障はないが、撚りが甘くなって直線状に近くなるために毛材の3次元的な広がりが少なくなり、毛材間の空隙が減るのでパウダー化粧料の捕集量、保持量が低下しやすくなる。撚りのピッチは、好ましくは、11mm〜25mm、さらに好ましくは、12mm〜20mmが最適範囲である。
また、S撚りとZ撚りの毛材は、撚りのピッチが同じ毛材を混合してもよく、あるいはピッチ10mm〜30mmの範囲内の、異なるピッチを有する毛材を混合しても良い。
また、本発明のブラシの穂先部に使用する毛材は平面視で波型形状を呈するが、その振幅は0.5mm〜1.5mm程度であることが、パウダーの捕集性と、リリース性の点で好ましい。
【0041】
本発明で使用するS撚り毛材とZ撚り毛材は、繊維加工分野で公知の任意の製造手段で製造することができるが、撚りのピッチが10mm〜30mmの範囲内の撚りをかけつつ、かつ耐久性の観点で撚りが戻らないように熱固定しやすくするために、毛材を構成する合成繊維フィラメントの沸騰水収縮率は、5%〜15%になるように設定することが好ましい。さらに好ましくは、沸騰水収縮率が6%〜12%の範囲が適切である。この範囲内であると、毛材の撚り構造が戻らないように熱固定しやすく、かつ、ブラシ化の工程でも毛材の取り扱い性がよい。また、使用性能の点でも毛材の特性を十分発揮することができ、耐久性も向上できるからである。これには、原糸製造工程で紡糸・延伸条件で適宜制御設定することができる。
【0042】
毛材を形成する合成繊維素材としては、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、ポリエステル繊維などの代表的合成繊維の1種又は2種以上を選択又は組み合わせて使用できるが、これらの中では、ポリエステルがブラシ毛材として適度の剛性と耐久性を有するとともに、撚り加工、先細加工などの後加工性に優れている。
ポリエステル繊維の中でさらに好ましくは、適度の柔軟性と弾性とを具備するポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維やポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維が毛材として最適である。とりわけ、PTT繊維は、ポリトリメチレンテレフタレートの独特の分子構造に基づき、ブラシ毛材としての優れた柔軟性と、変形回復特性を具備するので最も好ましい。
【0043】
例えば、肌触りの観点で、PBT繊維やPTT繊維は、ポリエステルの中でもPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維に比べ剛性が低く、このため肌に押し当ててもソフトでしなやかな感触を有する。また、これらは外力に伴う変形からの復元性にも優れるのでブラシ毛材として使用するのに特に好適である。さらに好ましくは、上記のように、毛材の先端側が細くなるように先細加工(テーパー加工ともいう)をしておくと、肌触りが一層ソフトとなるので好ましい。PBT繊維やPTT繊維の場合は、アルカリ処理により、先細加工を行いやすく、しかも該処理された繊維表面に微細パウダーを保持しやすいように不規則で微細な凹凸構造を形成できるので特に好ましい。この凹凸部における凹部の大きさは、約1〜25μm程度の範囲内に収まるようにすることが、パウダー化粧料分野で多用されているパウダー粒子の粒子径とも合致するので好ましい。このように毛材の一本一本が先端部に凹凸構造を有していると、パウダー化粧料の捕集性が向上するし、塗布時にも、パウダーのリリース性のコントロールに寄与し、従来高級品として使用されてきたリス毛などの獣毛の性能に匹敵するものとなる。
【0044】
本発明のパウダー化粧料用ブラシの主要性能であるパウダーリリース性について、実施例1と比較例1のブラシを夫々用いて穂先部で円を描くようにスイープさせる実際の用法に即して具体的に説明する。
図4は、穂先部で円を描くようにN1回周回させてパウダーを捕集後、パウダーを新たに補給することなく、同じ回転方向にN2回だけ周回させたときの、パウダーリリース性(皮膚面への塗布状態)を表したグラフである。パウダーが穂先部からリリースされた分だけ皮膚面に塗布されることになるので、リリース量は塗布量に等しくなる。この評価で、捕集過程で描く円の直径と、リリース過程で描く円の直径は等しくなるようにしている。
このグラフにおいて、X軸はリリース(化粧料の塗布)過程での周回数を、捕集過程(化粧料のすくい取り)での周回数で割り返した値をとっている。一方、Y軸は、N2回だけ周回後、パウダーがリリースされ皮膚に塗布された状態を5段階評価して数値化している。
この図において、X軸の値が大きくなると、リリース過程での周回数が増えるので、リリースされるパウダーの量は次第に減少し、従って皮膚面へ塗布される量が減じるので右下がりの挙動を示すが、この減少の度合いが緩やかになるほど穂先部でのパウダーの保持性、言い換えると粉含み性が良いことを示す。
【0045】
図4に示すように、本発明のブラシでは、N2/N1が2を超え、好ましくは3を超える範囲であっても、パウダーが穂先部から皮膚面にリリースされ塗布されていることが判る。言い換えるなら、N2/N1が4であるとき、捕集過程での周回数の4倍の周回数でも、未だパウダーがリリースされ、その分量だけ塗布されたことが視認できるレベルであることが示されている。この範囲内であれば、パウダー化粧料が皮膚面に転着されていることが目視で判別できるレベルである。本発明の化粧用ブラシは捕集したパウダーを徐々にリリースできる特性を有するので、4≧N2/N1>3の領域であっても、皮膚面へのパウダー塗布が行え、目視で塗布状態が良く識別できる。
なお、このモデル評価では、塗布状態を判別しやすいように皮膚面の代わりに、気乾状態の白色ティッシュペーパーを使用しているが、実際の顔面のような皮膚面に適用しても、使用するパウダー化粧料が皮膚の色と異なる色調を有していれば、このモデル評価結果と合致するものである。N1の値は、特に制限されるものではないが、穂先部に十分なパウダーを含ませるように、2〜10回程度とするのが適当である。
【0046】
ブラシ製造工程の観点では、公知の任意の方法によって製造できるが、穂先部を構成する合成繊維毛材に対し、シリコン系化合物及び/又は四級アミン系化合物のような表面処理剤を繊維表面に吸着又は固着することにより、毛さばき性を向上できるし、使用時においてもスベスベ感が向上されるために、特に好ましい。
また、公知の任意の方法により帯電防止剤、抗菌剤などを繊維表面に付与することもできる。
【0047】
本発明のパウダー化粧料用ブラシに好ましく適合する化粧料は、特段限定されるものではないが、おしろい、頬紅、パウダーファンデーション、そしてハイライト・シェードのようなフェイスカラー化粧料などを例示することができ、粒子径は0.1〜30μm程度のものを好ましく使用できる。
【0048】
本発明のパウダー化粧料用ブラシによれば、ブラシ毛材がソフトであり、構造上毛材の間に粉を十分量貯蔵できるだけの空隙部が形成されるので、化粧料の捕集時、そして塗布時に毛材が撓み、復元するというサイクルを何回も繰り返しても、穂先部に取り込まれたパウダーは散逸しにくく、粉飛びのような化粧料逸失の問題も抑制することができる。
【0049】
本発明のパウダー化粧料用ブラシは、上述のように、パウダー化粧料を皮膚面上で薄く伸ばしながら塗布する使用法、いわゆる“ボカシ塗り”に特に適している。
また、このような塗布法を多用する、フェイス用ブラシ、チーク用ブラシ、ハイライト用ブラシ又はアイシャドー用ブラシとして使用しても優れた特徴を発揮する。
【実施例】
【0050】
次に本発明のパウダー化粧料用ブラシの製造例と、それを用いたパウダー化粧料用ブラシの特性評価例について以下詳細に説明する。
【0051】
(化粧用ブラシの製造例)
撚りのピッチが16mmの撚糸特性を有し、直径が80μmのポリトリメチレンテレフタレート(PTT)モノフィラメントを毛材とし、S撚りとZ撚りの毛材単糸の本数がそれぞれ7000本で、互いに隣接しあうように混合し、カットしてバンドル体(直径4.5cm、長さ8cm)を形成した。
このバンドル体の片側端部を、水酸化ナトリウム100g/リットル、第四級アミン6g/リットル(DYK−1125:一方社油脂工業製)の処理液に浸漬し、130℃で130分間処理することによって先細加工した。
このバンドル体を、ブラシ穂先形成用の壷に投入し、振動を与えながら壷の内部形状に従い、中央部が盛り上がった穂先部を成形した。
成形された穂先部をブラシハンドル部の先に設けた円筒状口金内に挿入し、口金をかしめてブラシとした。かしめた後の口金の外径寸法は、18mmであった。また、毛材先端部で形成される包絡面は中央部が盛り上がった略球面状であった。
【0052】
(ブラシの使用性能の評価)
【0053】
(捕集性)
パウダー化粧料としてうすい紅色に着色されたチークカラー用化粧料“サイモンピュア”(株式会社資生堂製)の表面を、上記製造例で製造した化粧用ブラシの穂先部で、右周りに円(直径5cm)を描くように7周回(N1)スイープさせてパウダー化粧料を捕集し、穂先の先端部にパウダーをピックアップさせた。そのパウダーの分布状態を、観察することによって捕集性を評価した。
【0054】
(パウダーリリース性)
上述の方法でパウダー化粧料を穂先部に捕集したブラシを用い、白色のティッシュペーパーを皮膚面モデルとして、直径5cmの円内で、穂先部で右回りに円を描くようにティッシュペーパー表面をスイープしながら10周回(N2=10)させ、塗布された部分の状態を、塗布されていない背景部と比べて目視観察した。
次いで、このブラシを用い、パウダー化粧料を補給することなく、同材質の別の新しい白色ティッシュペーパー表面の直径5cmの円内で、穂先部で右回りに円を描くようにティッシュペーパー表面をスイープしながら、さらに10周回(N2=20(累積値))させ、塗布状態を上記と同様に対比観察した。
さらに、このブラシを用いパウダー化粧料を補給することなく、同様の周回操作を10周回(N2=30(累積値))させ、塗布状態を上記同様に対比観察した。
【0055】
(実施例1)
上記製造例で製造したパウダー化粧料用ブラシを用い、上記ブラシの使用性能評価方法に従って、捕集性(ピックアップ性)ならびにパウダーのリリース性(粉含み性)を評価し、その結果を〔表1〕に示す。
捕集性の評価結果を、図2A及び図2Bに示す。
図から判るように、捕集されたパウダー化粧料は穂先部を形成する毛材先端部の全体に亘って均一にピックアップされていた。
一方、パウダーのリリース性については、図4(■印)に示すとおりN2/N1が4を超えてもパウダーがリリースされ、皮膚面に塗布されていることが判った。このことから穂先部の粉含み性が良く、塗布時に緩やかにパウダーがリリースされる特性を有することが判る。
【0056】
(比較例1)
上記製造例で、毛材をPBTとし、ピッチが16mmとなるようにギヤクリンプ法で製造した毛材を用いたパウダー化粧料用ブラシを用い、上記ブラシの使用性能評価方法に従って、捕集性ならびにパウダーのリリース性(粉含み性)を評価した。
捕集性の評価結果を、図3A及び図3Bに示す。図から判るように、捕集されたパウダー化粧料は穂先部の中央部に局在化してピックアップされていた。
一方、パウダーのリリース性については、図4(▲印)に示すとおりN2/N1が2を超えるとパウダーがリリースされなくなり、皮膚面へ塗布することができなくなった。このことから穂先部の粉含み性が悪く、塗布時に急速にパウダーがリリースされてしまう特性を有することが判る。
【0057】
以下、実施例2〜5と、比較例2〜5の評価結果を併せて表1に示す。
(実施例2〜5)
表1に示す実施例2〜5の各項目に対応する毛材を使用し、対応する撚り特性、S撚り毛材/Z撚り毛材の本数比で各々の化粧用ブラシを製造した。
上記したパウダーの捕集性、ならびにパウダーのリリース性の評価法に従ってそれぞれ使用性能を評価し、表1に示す評価結果を得た。いずれも、穂先部の毛材先端全面にわたってほぼ均一にパウダーがピックアップされ、捕集性に優れていた。また、粉含み性に優れ、パウダーが徐々にリリースされていることが判った。
これらの評価結果から、本発明のパウダー化粧料用ブラシはパウダー化粧料の捕集性に優れ、穂先部先端の全体にわたって均一にパウダーがピックアップされ捕集されていた。また、粉含み性にも非常に優れており、徐々にパウダーがリリースされる特性を具備しており、パウダー化粧料を薄く広く伸ばすボカシ塗りに特に優れることが判った。
【0058】
(比較例2〜5)
表1に示す比較例2から5の各項目に対応する毛材を使用し、対応する撚り特性、S撚り毛材/Z撚り毛材の本数比で各々の化粧用ブラシを製造した。
上記した捕集性、ならびにパウダーのリリース性の評価法に従って使用性能を評価し、表1に示す評価結果を得た。いずれも、捕集性については、均一に捕集されるのではなく偏りが見られ、またパウダーのリリース性に関しては、パウダーが穂先部の奥深くまで捕集されていないことから、パウダーが早期にリリースされてしまい、顔面に塗布を行うのにブラシをたびたび化粧料容器に戻して捕集する必要があり使用性が悪かった。
【0059】
[結果の総括]
実施例1〜5のいずれの場合も、ピッチが10mm〜30mmの範囲の撚りでは、ブラシ製造工程で毛材が絡まったりすることなく、毛さばき性が良好であり、取り扱い性に優れていた。
ピッチが上記範囲のS撚り毛材と、Z撚り毛材とを用い、これらを表1の本数比で混合して得られる穂先部を備えた化粧用ブラシは、毛材を構成する素材がPTT、PBTいずれの場合も、パウダー化粧料を毛材先端部の全面に亘って均一に捕集することができ、捕集性に非常に優れるものであった。一方、リリース性をモデル評価すると、実施例1〜5のいずれの場合も、N2/N1が3を超え、少なくとも4以下の領域でパウダーがリリースされており、皮膚面に塗布されることが判った。これにより、熟練しない使用者であってもパウダー化粧料を薄く塗り広げるという、いわゆるボカシ塗りを簡単に行うことができた。
一方、比較例4に示すように、ピッチが10mmを下回る毛材を使用する場合は、毛材が絡まる場合があり、製造性が必ずしも良いものではなかった。また、ピッチが30mmを超える場合には、取り扱い性は良いが、穂先部が使用時に広がりにくく、パウダーの捕集が局所に限られ、リリース性も不良であった。
また、毛材のケン縮状態が平面的なギヤクリンプ法によって得られた毛材を使用した場合では、比較例1に示すようにパウダーの捕集が局所に限られ、パウダーは早い段階でリリースされてしまい、塗布性能は不良であった。
さらに、穂先部がS撚り毛材、又はZ撚り毛材のみからなる場合では、比較例2、3に示されるようにパウダーの捕集が局所に限られ、パウダーも早期にリリースされてしまい、塗布性能が不良であった。
【0060】
(左周回と右周回の場合の塗布性比較)
(実施例6)
実施例1の方法で製造したブラシを用い、捕集性とパウダーのリリース性の評価法で穂先を廻す周回方向を左周回とした以外は、全く同じ方法で捕集性とパウダーのリリース性に関する使用性能評価を行った。
左周回によりパウダーが塗布された部分を、右周回の場合と対比評価したが、両者に差異は認められなかった。
【0061】
(実施例7)
さらに、実施例2の条件で製造したブラシを用い、上記と同様の方法により左周回の場合と右周回の場合の捕集性ならびにパウダーリリース性を比較評価したが、両者に差異は認められなかった。
【0062】
このように、本発明のパウダー化粧料用ブラシにおいて、Z撚りとS撚りのブラシ毛材がほぼ均等となるように配置されていると、使用性能に関しても左周回の場合と右周回の場合とで差はなく、熟練しない使用者でも仕上がり感の良い化粧を簡単に行うことができた。
【0063】
【表1】

【符号の説明】
【0064】
1 ハンドル部
2 口金
3 穂先部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
S撚りとZ撚りの合成繊維毛材を穂先部に備えたパウダー化粧料用ブラシであって、該毛材のS撚りとZ撚りにおける撚りのピッチが10mm〜30mmであって、該ブラシの穂先部を撓ませることによってパウダー化粧料を捕集してパウダーを穂先部に含ませたとき、毛材先端のほぼ全面に亘って、パウダーが均一にブラシ毛材先端部全面に捕集されることを特徴とするパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項2】
前記穂先部で円を描くように周回させることによりパウダー化粧料を捕集した後、穂先部で円を描くように周回させることにより該パウダーをリリースしながら皮膚面に塗布する場合に、該捕集のために回す周回数の2倍を超える周回数で周回してもパウダー化粧料が穂先部からリリースされて、皮膚面に塗布され、パウダーが塗布された状態が目視判別できることを特徴とする請求項1記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項3】
前記捕集時の周回数をN1、塗布時の周回数をN2とするとき、4≧N2/N1>3の範囲であっても、パウダーが穂先部からリリースされて、皮膚面に塗布され、パウダーが塗布された状態が目視判別できることを特徴とする請求項1又は2に記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項4】
前記パウダー化粧料用ブラシの穂先部で円を描くように周回させてパウダーを塗布したとき、右周回又は左周回の場合の塗布状態と、その逆(左周回又は右周回)の場合の塗布状態とがほぼ同等であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項5】
前記S撚りとZ撚りの合成繊維毛材が互いに隣接し合い、かつS撚り毛材とZ撚り毛材が本数比40:60〜60:40の割合で混合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項6】
前記合成繊維毛材が、初期モジュラス20cN/dtex〜40cN/dtex、20%伸長後の伸長回復率35%〜95%の引張特性を備えたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項7】
前記合成繊維毛材の沸騰水収縮率が5%〜15%であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項8】
前記合成繊維毛材が、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維及びポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維から選ばれた少なくとも一種の繊維からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項9】
前記合成繊維毛材が、先細加工されており、表面に微細な凹凸を有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のパウダー化粧料用ブラシ。
【請求項10】
前記パウダー化粧料用ブラシが、フェイス用ブラシ、チーク用ブラシ、ハイライト用ブラシ又はアイシャドー用ブラシであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のパウダー化粧料用ブラシ。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−56174(P2011−56174A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211949(P2009−211949)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000212005)
【出願人】(595118010)
【Fターム(参考)】