説明

パウチ及びその製造方法

【課題】収納された流体を短時間で注出できる、立体的なノズル部を備えたパウチ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム20で構成され、内部の流体を注出するノズル部16が形成されたパウチ10において、該ノズル部16の表面に、前記流体の注出方向に向かって伸び、かつ該注出方向に対する横断面の形状が略楔形の複数の溝を密に設け、該複数の溝のそれぞれの形状保持力によって、前記ノズル部16を膨らんだ形状とすることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体的なノズル部を備えたパウチ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、液体や粉体などの流体(液体や粉体など、流動性を有するもの、例えば詰め替え用の洗剤)を収納するために、フィルムのみで構成されたパウチが知られている。また、かかるパウチにおいては、例えばパウチコーナー部にノズル部が設けられ、収納された流体を短時間で注出可能にしている。
【0003】
かかるパウチは、収容された流体の影響を受けてフィルムが容易に変形してしまうため、その注出口の形状が安定しないという問題点があった。この対策として、フィルムにおけるノズル部となる部位を予め膨らましておくことで、ノズル部を立体的にした技術が知られている(特許文献1,2参照)。このような従来例に係るパウチについて、図6及び図7を参照して説明する。図6は従来例に係るパウチの正面図である。図7は従来例に係るパウチの模式的断面図である。なお、図7は図6におけるAA断面図に相当する。
【0004】
例えば、図6に示すパウチ100においては、ノズル部110が立体的に構成されている。これにより、易開封溝Lに沿って、パウチ100の一部が切断されると、ノズル部110の先端が開放され、略円形の注出口が形成される。このように、外力を加えなくても、予め開口された注出口が形成されるため、比較的容易に流体を注出することが可能となる。また、ノズル部110における膨らみは、その立体的形状を保てる程度の強度を有しており、その形状は比較的安定していることが一般的である。
【0005】
しかし、その一方で、外側から力が加わると、例えば、図7(a)中の点線201aに示すように、膨らみ部201が逆側に凹んだままとなり、元の形状に戻りにくいという短所がある。そして、膨らみ部201,301が凹んだ状態では、パウチ100の一部を切断しても、ノズル部100の先端の注出口が閉じたままであるため、その流路断面積は設定より著しく小さいものとなってしまう。そのため、ノズル部の膨らみ形状を維持したまま前記パウチを大量に箱詰めする、または搬送や出荷を行うことに制限を設ける必要があった。
【0006】
さらに、かかるパウチ100は、その構造上の理由から、ノズル部110における前記流路断面積を大きくするのが難しいという問題もある。
【0007】
すなわち、上記のように構成されたパウチ100は、(1)加熱により軟化した一対のフィルム200,300のそれぞれに、膨らみ成形加工が行われた後、(2)膨らみ成形加工部(膨らみ部201,301)を冷却により安定させ、(3)前記膨らみ部の位置が一致するように前記フィルムを密着させた状態で、トップシール部を除く各シール部をヒートシールした後、(4)各シール部を冷却、その後に所望のパウチ100の形状に裁断される、といった製法工程を経ることにより製造されることが一般的である。
【0008】
ここで、上記(1)乃至(4)工程は、長いフィルムを送り出しながら行われるが、その際にフィルムの蛇行やロール間の引っ張り力に起因するフィルムの伸びによって、フィルムを貼り合わせる際に位置ずれが生じることがある。そして、この状態でヒートシールを行うと、一対のフィルム200,300にそれぞれ形成された膨らみ部201,301は、位置ずれが生じた状態で貼り合わされてしまい、ノズル部110におけるフィルム内面の断面周長が長くなり、収容された流体との境界層領域が増加して、流体の注出に時間
がかかってしまう。なお、図7(a)は位置ずれが生じていない場合を示し、図7(b)は位置ずれが生じた場合を示している。
【0009】
上記のような問題を解消するため、かかるパウチ100のノズル部110においては、形成された膨らみ部201,301の両側に所定のマージンが設けられていることが一般的である(図7(a)(b)参照、幅Xはノズルシール部分、幅Yはマージン部分)。このマージンを設けることにより、多少の位置ずれであれば、膨らみ部201,301ではなく前記マージンがヒートシールされるため、膨らみ部201,301の形状は確保され、立体的なノズル部を形成することができる。
【0010】
しかしながら、この構成によれば、ノズル部110の膨らみ部201,301は上記マージン幅の分だけ設定を小さくしなければならず、流路断面積を十分に確保することが難しい。たとえば、開口部内径が24mmのボトルに流体を充填する場合、前記パウチ100のノズル部におけるノズルシールのうちノッチ側シール幅を3.5mm、対向シール幅を2.5mm、上記のマージンを各2.0mmとすると、位置ずれが生じない場合の注出口の内径を14mm以下に設定することとなる。
【0011】
また、流路断面積を大きくするため、ノズル部110の幅いっぱいに膨らみ部201,301を形成することにより、前記マージンがないノズル部を形成することは可能であるが、この場合には、比較的形状の安定した立体的な膨らみ部201,301の両側端を押し潰しながら貼り合わせなければならないため、膨らみ部を位置ずれなくヒートシールすることが難しい。
【0012】
このように、従来の製法によって製造されたパウチ100の場合には、ノズル部110における流路断面積を十分に大きくするのが難しく、短時間で収容物を注出できるノズル部の構成について、改良の余地が残されている。
【0013】
また、特許文献3には、フィルムにおけるノズル部の注出管路部分を切断して注出口を形成するための切断予定線を含む位置に、該切断予定線に略直交する複数の半切れ線を設けた包装体が開示されている。このようなパウチは、注出が始まってしまえば、内容物の勢いによって半切れ線が引き伸ばされ、ノズルを大きく開口できるが、開封直後の、ノズルの表裏フィルムが密着している状態においては、内容物が流れ出しにくい状況は改善されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−11498号公報
【特許文献2】特開2008−74479号公報
【特許文献3】特開2004−299718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、収納された流体を短時間で注出できる、立体的なノズル部を備えたパウチ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0017】
すなわち、本発明のパウチは、
フィルム(単数、複数を問わない)で構成され、内部の流体を注出するノズル部が形成
されたパウチであって、
前記ノズル部の表面に、前記流体の注出方向に向かって伸び(直線状に伸びる場合も曲線状に伸びる場合も含む)、かつ該注出方向に対する横断面形状が略楔形の複数の溝を密に設け(前記パウチの両面のフィルムに設けられる場合の他、一方の面のフィルムにのみ設けられる場合も含む)、該複数の溝のそれぞれの形状保持力によって形成された膨らみ部により、前記ノズル部を立体的な形状としたことを特徴とする。
【0018】
本発明によれば、前記ノズル部の表面に密に設けられた前記複数の溝の形状保持力によって形成された膨らみ部により、前記ノズル部は立体的な形状となる。従って、前記立体的なノズル部に外力が加わったとしても、前記膨らみ部が逆側に凹んでしまったままとなり難く、元の形状に戻り易いため、前記パウチの一部を切断した際に、注出口が閉じてしまっていることを防止できる。
【0019】
また、前記パウチは、
前記フィルムが多層樹脂フィルムであって、
前記複数の溝が外層フィルムを突き抜け、その溝底が、前記外層フィルムの内層側フィルムの厚み途中に至るように設けられていることを特徴とする。
【0020】
これにより、前記多層樹脂フィルムに形成された前記複数の溝による形状保持力が発揮され、前記立体的なノズル部を形成する前記膨らみ部の膨らんだ状態を維持できる。
【0021】
さらに、前記パウチは、
前記ノズル部に、易開封溝が設けられていることを特徴とする。
【0022】
これにより、ノズル部の端部にノッチだけを設けた場合に比べて、開封時に、前記ノズルの一部を切断するのに伴い、注出方向に向かって伸びる前記複数の溝に沿ってフィルムが破断してしまうのを抑制することができる。
【0023】
また、本発明のパウチの製造方法は、
フィルム(単数、複数を問わない)で構成され、内部の流体を注出するノズル部が形成されたパウチの製造方法であって、
横断面形状が略楔状の複数の刃によって、前記ノズル部の表面に、前記フィルムの厚み途中に至る複数の溝を、前記流体の注出方向に向けて密に形成(前記パウチの両面のフィルムに形成する場合の他、一方の面のフィルムにのみ形成する場合も含む)し、前記複数の溝のそれぞれの形状保持力によって形成された膨らみ部により、前記ノズル部を立体的な形状とすることを特徴とする。
【0024】
本発明の製造方法によれば、前記立体的なノズル部を形成するために、フィルムを加熱により軟化させる工程や、成形後に冷却させる工程が必要ない。
【0025】
更に、本発明の製造方法によれば、上述した従来例のように膨らみ部の成形後にヒートシールを行う場合、前記膨らみ部を潰さないために設けられるマージンが必要ないため、前記膨らみ部を大きく設定することができる。すなわち、本発明においては、フィルム表面に密に設けられた前記複数の溝のそれぞれの形状保持力によって、フィルムの表面方向に膨らんだ前記膨らみ部が形成されているため、外力により前記膨らみ部が押されたとしても、逆側に凹んでしまったままとなり難く、元の形状に戻り易い。そのため、位置ずれに特段の注意をはらうことなくヒートシールを行うことができる。また、ノズルシール部端から前記膨らみ部を形成でき、流路断面積を大きくすることができる。
【0026】
また、前記製造方法は、
前記フィルムが多層樹脂フィルムであって、前記複数の溝が外層フィルムを突き抜け、その溝底が、前記外層フィルムの内層側フィルムの厚み途中に至るように設けられることを特徴とする。
【0027】
これにより、前記多層樹脂フィルムに形成された前記複数の溝による形状保持力が発揮され、前記立体的なノズル部を形成する前記膨らみ部の膨らんだ状態を維持できる。
【0028】
また、前記製造方法は、
前記パウチをヒートシールした後、前記複数の溝を形成することを特徴とする。
【0029】
すなわち、本発明の製造方法においては、前記フィルムの表面に刃を押し込むことによって、立体的なノズル部を形成できるため、両面のフィルムが貼り合わされた後のもの(ヒートシール工程後のもの)に対して、前記立体的なノズル部を形成することが可能である。
【0030】
また、前記製造方法は、
前記ノズル部に易開封溝が設けられ、前記複数の溝と易開封溝を同時に形成することを特徴とする。
【0031】
これにより、前記パウチの製造工程数を少なくすることができる。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したように、本発明によれば、収納された流体を短時間で注出できる、立体的なノズル部を備えたパウチ及びその製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は本発明の実施例に係るパウチの正面図である。
【図2】図2は本発明の実施例に係るパウチの模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係るパウチにおけるノズル部の形成時の様子を示す図である。
【図4】図4は本発明の実施例に係るパウチにおけるノズル部の具体例を示す正面図の一部である。
【図5】図5は本発明の実施例に係るパウチにおけるノズル部の具体例を示す正面図の一部である。
【図6】図6は従来例に係るパウチの正面図である。
【図7】図7は従来例に係るパウチの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0035】
(実施例)
図1〜図4を参照して、本発明の実施例に係る立体的なノズル部を備えたパウチ及びその製造方法について説明する。
【0036】
<パウチの全体構成>
特に、図1及び図2を参照して、本発明の実施例に係るパウチ10の全体構成等について説明する。図1は本発明の実施例に係るパウチの正面図である。図2は本発明の実施例
に係るパウチの模式的断面図である。なお、図2は図1におけるAA断面図に相当する。また、図2中の幅Xはノズルシール部分の幅を示している。
【0037】
パウチ10は、複数のフィルムが貼り合わされたもので構成されている。すなわち、パウチ10は、両面の一対のフィルム20,30を備えており、これら一対のフィルム20,30が、タブシール部11,トップシール部12,ボトムシール部13、及びサイドシール部14,15にてヒートシールによって貼り合わされている。
【0038】
また、本実施例の場合、ボトムシール部13においては、底材用フィルム40が折り畳まれた状態で挟みこまれており、このフィルム40を介して、一対のフィルム20,30は貼り合わされている。これにより、パウチ10の内部に流体を充填すると、底材用フィルム40が開いて、パウチ10の下端に、茶碗の高台のような部分が形成され、パウチ10を床の上に立てることが可能となる。
【0039】
また、パウチ10は、トップシール部12以外のシール部が貼り合わされた後に、トップシール部12となる側の開口部から流体が充填され、その後、トップシール部12が貼り合わされることで、流体がパウチ10の内部に密封される。
【0040】
更に、本実施例に係るパウチ10には、その一部を切断し易くするために、易開封溝Lが設けられている。ユーザは、この易開封溝Lに沿うようにパウチ10の一部を切断することで、流体を注出させるための注出口が形成される。これにより、注出口から、パウチ10に収納された流体を注出させることができる。なお、易開封溝Lはレーザ加工又は機械加工などにより設けることができる。また、易開封溝Lの一端側にはノッチNが設けられており、ノッチN側から容易に開封できるように構成されている(図4及び図5参照)。
【0041】
そして、本実施例に係るパウチ10においては、ノズル部16が予め膨らんでいるように構成されている。これにより、易開封溝Lに沿って、パウチ10の一部が切断されると、ノズル部16の先端が開放されて、略円形の注出口が形成される。このように、外力を加えなくても、予め開口された注出口が形成される。
【0042】
<ノズル部>
図2及び図3を参照して、ノズル部16について、より詳細に説明する。図3は本発明の実施例に係るパウチにおけるノズル部の形成時の様子を示す図である。なお、図3においては、ノズル部が形成される付近の断面図で示している。図3の(a)〜(c)において、図中左側はノズル部が形成される付近の一部を拡大した断面図であり、図中右側は左側の図の一部を更に拡大した断面図である。また、図3(a)は加工前、同図(b)は加工中、同図(c)は加工後の様子をそれぞれ示している。
【0043】
本実施例においては、前記ノズル部16の表面に、流体の注出方向に向かって伸び、かつ該注出方向に対する横断面の形状が略楔形の複数の溝20b,30bが密に設けられている。そして、これら複数の溝20b,30bのそれぞれの形状保持力によって形成された膨らみ部20a,30aによって、立体的なノズル部16が形成されている。
【0044】
ここで、特に、図3を参照して、立体的なノズル部16を形成する方法について説明する。なお、フィルム20とフィルム30は同一の構成であり、フィルム20に設ける膨らみ部20aもフィルム30に設ける膨らみ部30aも同じ方法にて形成するので、ここではフィルム20側を例にして説明する。
【0045】
フィルム20は、内層フィルム21と、内層フィルム21よりも表面側に設けられる外
層フィルム22とを備えるラミネートフィルムである(図3(a)参照)。内層フィルム21の好適な例としては、熱融着性を有し、柔軟性の高い厚さ150μmのポリエチレン製のフィルムを挙げることができる。また、外層フィルム22の好適な例としては、強度の高い厚さ15μmのナイロン製のフィルムを挙げることができる。
【0046】
このフィルム20に対して、フィルム20の表面側(外層フィルム22側)から、刃先間隔の短い複数の略楔状の刃50によって、フィルム20の厚み方向の途中の位置まで刃50を押し込む。本実施例においては、刃50の先端が、内層フィルム21と外層フィルム22との境界面の付近に至る位置まで、刃50を押し込む(図3(b)参照)。
【0047】
これにより、外層フィルム22は切断され、内層フィルム21の表面の一部も裂けて、断面形状が略楔形の溝20bが形成される。このようにして形成された複数の溝20bのそれぞれの形状保持力によって、膨らみ部20aが形成される(図3(c)参照)。
【0048】
ここで、溝20bの形状保持力が発生する理由について説明する。上記のように、刃先間隔の短い複数の略楔状の刃50を押し込むことによって、強度が高く変形しがたい外層フィルム22は切断され、柔軟な内層フィルム21の表面においては、刃先の先端側で楔効果によって僅かに押し広げられた状態となる(図3(b)中の矢印参照)。これにより、内層フィルム21の表面側の長さが元の長さよりも長くなると共に、溝20bのそれぞれに形状保持力が生じて、膨らみ部20aが形成される。
【0049】
上記の理由から、膨らみ部20aを形成するためには、内層フィルム21の表面に形成される溝底部分が、楔効果によって押し広げられるようにして、内層フィルム21の表面側の長さが元の長さよりも長くなるように、伸びた部分が生じることが好適である。刃50の刃先が鋭利な場合、裂け目が生じるだけで伸びが発生せず、溝20bの形状保持力が発生しにくい。従って、刃50の刃先の角度αは、楔効果が生じるように、ある程度、大きくするのが好適である。また、膨らみ部20aを安定的に膨らんだ形状とするためには、溝20bの間隔を極力狭くするのが好適である。
【0050】
具体的には、前記ノズル部16の表面に密に設けられた前記複数の溝の刃先間隔は、0.1mm以上2.0mm以下に設定すると好適である。前記刃先間隔が0.1mm以下となると、溝の形成加工が困難となり、さらにフィルムの強度が低下して破袋の恐れがある。一方、前記刃先間隔が2.0mm以上では、前記複数の溝の形状保持力が弱くなり、所望の膨らみ部を形成しづらく、前記ノズル部16を得ることが難しい。
【0051】
また、前記複数の溝の形成によって、前記ノズル部16の両側のシール部間の直線距離よりも、前記膨らみ部20aに沿ったフィルム表面の距離が1.10倍以上1.60倍以下であると好適である。前記膨らみ部に沿ったフィルム表面の距離が1.10倍以下となると、内部の流体を注出する時に必要とされる注出口の流路断面積を十分に確保することができない。また、前記距離が1.60倍以上であると、膨らみ部が波状に撓んだ形状となることがあり、開封直後に十分な注出口を確保することが難しい。
【0052】
本実施例においては、流体の注出方向に向かって伸びる、前記ノズル部16表面の複数の溝の刃先間隔(ピッチ)を0.1mm以上2.0mm以下とすることにより、ひとつの溝の楔効果は小さくても、間隔を小さく、多数設けることによって内層フィルム21の表面側の長さが元の長さよりも長くなる。従って、そのときに発生した伸びによりノズル部全体として十分な形状保持効果を得ることができる。この場合、刃の本数(溝の本数)は4本以上並んでいると好適である。
【0053】
また、前記刃先角度αが30°以上70°以下、多層樹脂フィルムの場合は、形成され
る溝の溝底が、内層フィルム表面から内層フィルム厚の0.1%以上10%以下の位置に達するようにすることで、内層フィルム21の表面側の長さが元の長さよりも長くなり、発生した伸びにより溝20bの形状保持力が発生し、膨らみ部20aを安定的に膨らんだ形状とすることができる。
【0054】
また、樹脂フィルムが単層の場合は、熱融着性を有し、柔軟性の高いフィルムへの打ち込み深さを該フィルム厚の3%以上30%以下とすることで、上記効果によって膨らみ部20aを安定的に膨らんだ形状とすることができる。
【0055】
本実施例の場合には、内層フィルム21が厚さ150μmのポリエチレン製のフィルムで構成され、外層フィルム22が厚さ15μmのナイロン製のフィルムで構成されたフィルムに対して、刃先間隔(ピッチ)が0.7mm、刃先角度αが50°の複数の略楔形の刃50を、15μmだけ押し込むことによって、刃先の先端側で楔効果により内層フィルム21の表面が僅かに押し広げられた状態となり、安定的な膨らみ部20aを得ることができた。
【0056】
また、該パウチの一部を切断するための易開封溝Lは、略楔状の刃を有する加工部材を用いて、前記複数の溝と同時に形成した。このとき、易開封溝Lは複数の溝によって構成されているが、1本の溝であってもよい。
【0057】
<本実施例に係るパウチ及びその製造方法の優れた点>
本実施例に係るパウチ10によれば、ノズル部16の表面に密に設けられた複数の溝20b,30bのそれぞれの形状保持力によって形成された膨らみ部20a,30aにより、立体的なノズル部16が形成されている。従って、前記ノズル部16に外力が加わったとしても、膨らみ部20a,30aが逆側に凹んでしまったままとなり難く、元の形状に戻り易いため、パウチ10の一部を切断した際に、注出口が閉じてしまっていることを防止できる。
【0058】
また、本実施例に係るパウチ10は、上記の通り、外力が作用しても膨らみ部20a,30aが逆側に凹んでしまったままとなり難く、元の形状に戻り易いため、仮に、ヒートシールの際に膨らみ部20a,30aの一部が押されても問題ない。すなわち、上述した従来例のように、膨らみ部20a,30aを形成した後に、フィルム20,30を貼り合わせて(ヒートシールを行って)、立体的なノズル部16を形成する場合でも、位置ずれを見込んだマージンを設ける必要がない。したがって、膨らみ部20a,30aを大きく設定することができる。
【0059】
また、本実施例に係るパウチ10の製造方法によれば、ノズル部16の表面に刃50を押し込むことによって、立体的なノズル部16を形成できるため、フィルム20,30を貼り合わせた(ヒートシール工程)後に、膨らみ部20a,30aを形成することも可能である。
【0060】
更に、ノズル部16の両面に形成される膨らみ部20a,30aの位置ずれを防止又は抑制することができる。すなわち、フィルム20,30を貼り合わせた(ヒートシール工程)後に、膨らみ部20a,30aを形成する場合、両面側から同時に複数の略楔状の刃50を打ち込めば、位置ずれの問題はない。また、片面ずつ刃50を打ち込んで、膨らみ部20aと膨らみ部30aを順次形成する場合においても、両面のフィルム20,30が貼り合わされたものに対して加工するため、その位置ずれを抑制できる。
【0061】
以上のように、本実施例に係るパウチ10は、加熱工程や冷却工程を必要とすることなく、立体的なノズル部16を形成することができる。そして、位置ずれを見込んだマージ
ンが必要ないため、ノズル部16における流路断面積を、ノズル部16における限られた外寸内で可及的に広くすることができ、収納された流体を短時間で注出することができる。さらに、ノズル部16本体を押しつぶすことが可能なため、パウチ内に収納された流体を最後まで絞り出すことができる。
【0062】
<複数の溝の配置について>
上記の通り、フィルム20,30の表面に、流体の注出方向に向かって伸びる複数の溝20b,30bを形成することによって、立体的なノズル部16を形成することができる。これら複数の溝20b,30bの形状(平面形状)に関しては、特に限定するものではなく、ノズル部16から注出される流体の注出方向に向かって伸びていれば良い。また、複数の溝20b,30bは、開封予定位置近辺からノズル部の基部あたりまで設けるのがよい。そして、複数の溝20b,30bはノズル幅いっぱいに設けるのがよいが、ノズルの中心線沿いに集中して設けたり、両側縁寄りに設けたりすることもできる。さらに、複数の溝20b,30bのそれぞれは、注出方向に向かって連続的に設けても、断続的に設けてもよい。また、ノズル部を復元しやすくするためには、複数の溝20b,30bを密に形成することが好適である。
【0063】
<複数の溝の形状について>
図4及び図5には立体的なノズル部を形成可能な複数の溝の形状の具体例を示している。
【0064】
複数の溝は、図4(a)に示すように、直線状に伸びるように構成してもよいし、図4(b)(c)(d)及び図5(a)(b)(c)(d)に示すように曲線状に伸びるように構成してもよい。図4(b)(c)(d)及び図5(a)(b)(c)(d)に示すように複数の溝に曲線が含まれていると、膨らみが潰れにくく好適である。曲線状に伸びて溝の両端が解放されている構成を採用する場合には、図4(b)に示す波状のもの、図4(c)に示す木目状のもの、また、溝が直線と曲線の組み合わせであって、一方の端が解放されている図4(d)に示す等高線状のもの、更に、溝の両端とも解放されていない図5(a)に示す種形状のもの、図5(b)に示す葉形状のもの、図5(c)に示す蜘蛛の巣状のもの、図5(d)に示すトラック形状のものに限らず、適宜のものを採用できる。さらに、複数の溝はフィルムの両表面に非対称となるように設けられてもよい。
【0065】
<複数の溝と易開封溝の位置関係について>
また、易開封溝Lと複数の溝20b,30bは交差してもしなくてもよく、易開封溝Lを切り取って開口したときに立体的な注出口が形成されればよい。
【0066】
また、上記実施例においては、両面側とボトムシール側の計3枚のフィルムを貼り合わせることによって得られるパウチ10の場合を説明した。しかしながら、本発明が適用されるパウチは、これに限られるものではない。本発明は、1枚のフィルムにより構成されるパウチや、2枚のフィルムにより構成されるパウチの他、4枚以上のフィルムで構成されるパウチにも適用可能である。
【0067】
また、上記実施例においては、パウチ10は少なくとも内層と外層を有する積層樹脂フィルムからなり、熱融着性を有し、柔軟性の高い内層フィルムにはポリエチレン、強度の高い外層フィルムにはナイロンを用いる場合を説明した。しかしながら、本発明におけるパウチを構成するフィルムは、このような構成には限られない。本発明においては、パウチを構成するフィルムは、熱融着性を有し、柔軟性の高いフィルムを備えるものであれば、単層であっても構わないし、3層以上の多層構造のフィルムであっても構わない。つまり、熱融着性を有し、柔軟性の高いフィルムの部位に、断面が略楔形状の溝を形成すれば、膨らみ部を形成できる。
【0068】
また、上記実施例においては、パウチ10の両面に膨らみ部20a,30aを設けて、立体的なノズル部16を形成する場合を示した。しかしながら、本発明は片面側にのみ膨らみ部を設けて、立体的なノズル部を形成する場合にも適用できる。また、ノズル部に前記複数の溝を形成した後、エンボス成型加工を行うことにより、ノズル部の注出口をより確実に形成することもできる。
【0069】
また、上記実施例においては、横断面形状が略楔状の複数の刃を用いて前記複数の溝を形成したが、外層フィルムを突き抜け、その溝底が、前記外層フィルムの内層側フィルムの厚み途中に至るように複数の溝を密に形成可能であれば、前記刃形状が台形、または刃の先端がR形状となっていても、前記複数の溝が形状保持力を発揮し、立体的なノズル部を形成することができる。
【0070】
また、易開封溝Lはレーザ加工又は機械加工などの加工手段によって形成されるが、複数の溝20bを形成するための複数の略楔状の刃と、易開封溝Lを形成するための略楔状の刃とを有する加工部材を用いて、複数の溝20bと易開封溝Lを同時に形成することで、製造工程数を少なくすることも好適である。
【符号の説明】
【0071】
10 パウチ
11 タブシール部
12 トップシール部
13 ボトムシール部
14,15 サイドシール部
16 ノズル部
20,30 フィルム
20a,30a 膨らみ部
20b,30b 溝
21,31 内層フィルム
22,32 外層フィルム
40 底材用フィルム
50 刃
L 易開封溝
N ノッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムで構成され、内部の流体を注出するノズル部が形成されたパウチにおいて、
該ノズル部の表面に、前記流体の注出方向に向かって伸び、かつ該注出方向に対する横断面形状が略楔形の複数の溝を密に設け、該複数の溝のそれぞれの形状保持力によって形成された膨らみ部により、前記ノズル部を立体的な形状としたことを特徴とするパウチ。
【請求項2】
前記フィルムが多層樹脂フィルムであって、前記複数の溝が外層フィルムを突き抜け、その溝底が、前記外層フィルムの内層側フィルムの厚み途中に至るように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のパウチ。
【請求項3】
前記ノズル部に易開封溝を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載のパウチ。
【請求項4】
フィルムで構成され、内部の流体を注出するノズル部が形成されたパウチの製造方法において、
横断面形状が略楔状の複数の刃によって、前記ノズル部の表面に、前記フィルムの厚み途中に至る複数の溝を、前記流体の注出方向に向けて密に形成し、前記複数の溝のそれぞれの形状保持力によって形成された膨らみ部により、前記ノズル部を立体的な形状とすることを特徴とするパウチの製造方法。
【請求項5】
前記フィルムが多層フィルムであって、前記複数の溝が外層フィルムを突き抜け、その溝底が、前記外層フィルムの内層側フィルムの厚み途中に至るように設けられることを特徴とする請求項4に記載のパウチの製造方法。
【請求項6】
前記パウチをヒートシールした後、前記複数の溝を形成することを特徴とする請求項4または5に記載のパウチの製造方法。
【請求項7】
前記ノズル部に易開封溝が設けられ、前記複数の溝と易開封溝を同時に形成することを特徴とする請求項4乃至6の何れかに記載のパウチの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−66853(P2012−66853A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214162(P2010−214162)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】