説明

パスタ用熱処理デュラム小麦粉及びその製造方法並びにこれを使用したパスタ

【課題】作業性に問題なくパスタ製造が可能であり、食感、色調に優るパスタを調製できるパスタ用熱処理デュラム小麦粉を得ること。
【解決手段】デュラム小麦粉を60℃以上100℃以下の湿り蒸気を使用して1分間以上60分間以下常圧下で湿熱処理するパスタ用熱処理デュラム小麦粉の製造方法である。前記処理温度と時間は70℃以上80℃以下で5分間以上10分間以下であることが好ましい。また、前記パスタ用熱処理デュラム小麦粉の製造方法により調製したパスタ用熱処理デュラム小麦粉を使用したパスタである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パスタ用熱処理デュラム小麦粉及びその製造方法並びにこれを使用したパスタに関する。
【背景技術】
【0002】
食感や二次加工性の改良を目的として、デュラム小麦粉を加熱処理することが知られている。
デュラム小麦粉の加熱処理の例として、菓子類に使用する目的で飽和水蒸気を導入した加圧状態の密閉系撹拌機にデュラム小麦粉を導入し、密閉系撹拌機中での滞留時間2〜20秒の条件下に、密閉系撹拌機からの排出時のデュラム小麦粉の品温が75〜95℃又は100〜130℃であるようにして湿熱処理を行うことを特徴とする熱処理デュラム小麦粉の製造方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−220049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のデュラム小麦粉の熱処理方法ではグルテンが失活するだけで、グルテンが失活することによる不具合を補償することがないのでその用途はもっぱらグルテン形成がされなくても支障の無い用途、例えば、菓子用などに限定されていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
パスタは、本来製造時にグルテン形成が必要でありグルテンが失活している熱処理デュラム小麦粉は使用に適さないと考えられていた。
本発明者は、熱処理デュラム小麦粉の調製方法に関し鋭意研究を重ねた結果、特定の湿熱処理条件ではグルテンが失活しているにもかかわらずその粘り気を残しておくことにより、作業性に問題なくパスタ製造が可能であり、食感、色調に優るパスタを得ることができることを見出し本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、デュラム小麦粉を60℃以上100℃以下の湿り蒸気を使用して1分間以上60分間以下常圧下で湿熱処理するパスタ用熱処理デュラム小麦粉の製造方法である。
前記処理温度と時間は70℃以上80℃以下で5分間以上10分間以下であることが好ましい。
また、前記パスタ用熱処理デュラム小麦粉の製造方法により調製したパスタ用熱処理デュラム小麦粉を使用したパスタである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のパスタ用熱処理デュラム小麦粉を使用したパスタは、良好な色調であり、特に生パスタでは経時変化による退色が少なく、食感(硬さと弾力のバランス)に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明でパスタ用熱処理デュラム小麦粉の原料として使用するデュラム小麦粉とは、デュラム小麦を原料としてこれを粉砕し粒状又は粉状としたものを全て含み、粒度によりデュラムセモリナ、デュラム粉などと称されている。
【0008】
デュラム小麦粉の湿熱処理方法は、60℃以上100℃以下の湿り蒸気を使用して1分間以上60分間以下常圧下で行う。
この条件で湿熱処理できればその方法には特に限定はない。
例えば、スチームオーブンなどを使用して湿熱処理することができる。
他の熱処理方法、例えば、パドルドライヤーでの乾熱処理や乾き蒸気での熱処理ではグルテンが失活すると同時にグルテンの持つ粘り気も消失するため本発明の湿熱処理方法による効果を得ることができずパスタの製造の作業性等に問題が生じ満足な製品を得ることができない。
処理温度は、60℃未満では、グルテンの失活が不十分となり、また加圧条件下で100℃を超える場合は、グルテン失活だけでなく粘り気も消失する。
処理時間は、1分間未満では、グルテンの失活が不十分となり、60分間を超えるとグルテン失活だけでなく粘り気も消失する。
好ましい処理時間、処理温度は、70℃以上80℃以下で5分間以上10分間以下である。
本発明では、デュラム小麦粉を原料として湿熱処理するが、デュラム小麦以外の原料ではグルテンの持つ粘り気が少ないためパスタの製造の作業性等に問題が生じ満足な製品を得ることができない。
【0009】
本発明のパスタ用熱処理デュラム小麦粉はパスタ原料として穀粉中その全量を使用することが好ましいが、他の穀粉や澱粉をこれに混合して使用することができる。
本発明の熱処理デュラム小麦粉を使用したパスタの製造方法は、従来のデュラム小麦粉を使用したパスタの製造方法でよく特別な工程は不要である。
製造方法として、ロール式圧延製麺法、押出し製麺法、手延製麺法などを挙げることができる。
また、パスタ原料として使用できる添加物も従来のパスタに使用されている添加物、例えば、小麦蛋白、大豆蛋白、糖アルコール、ガム類、油脂類、乳化剤などが使用できる。
得られるパスタは未乾燥の生パスタでも乾燥した乾パスタでもよい。
【実施例】
【0010】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1〜10、比較例1〜6]生パスタ
デュラム小麦粉(日本製粉株式会社製、商品名:マルコ・ポーロ)をスチームオーブンを使用し常圧下で表1及び表2に示す処理温度、処理時間で湿熱処理しパスタ用熱処理デュラム小麦粉を得た。
このパスタ用熱処理デュラム小麦粉を使用して生パスタを調製した。
以下の実施例、比較例において小麦粉は水分13.5質量%ベースで水分補正を行った。
小麦粉の水分をm質量%とした場合の水分補正の方法は次のとおりである。
小麦粉の実際の使用量(単位:質量部)=100×(100−m)÷(100−13.5)
水の実際の使用量(単位:質量部)=(100+加水量)−小麦粉の実際の使用量
生パスタの製造法及び評価方法は以下のとおり行った。
1.小麦粉100質量部に食塩1質量部、水33質量部を加えて、5分間ミキシングを行い生地とした。
水の実際の使用量(単位:質量部)=(100+33)−小麦粉の実際の使用量
2.前記生地を製麺ロールにより整形1回、複合2回、圧延3回行い、最終の麺帯の厚みを1.3mmとし、10番(角)の切歯で切り出し麺線とした。
麺線の長さは約25cmとした。
3.前記麺線を麺線質量の約15倍の茹で水(pHを5.5〜6.0に調整)で4分間茹で、湯切りをして皿に盛った。
4.これを10名の熟練のパネラーにより、以下の評価基準で評価を行った。
色調
5点・・・黄色味が強く明るい
4点・・・やや黄色味が強くやや明るい
3点・・・普通
2点・・・やや黄色味が弱くやや暗い
1点・・・黄色味が弱く暗い
食感
5点・・・硬さと弾力のバランスが非常に良い
4点・・・硬さと弾力のバランスが良い
3点・・・普通
2点・・・硬さと弾力のバランスがやや悪い
1点・・・硬さと弾力のバランスが悪い
5.退色の評価方法は、生パスタ製造後の麺帯の一部を冷凍保存、一部を冷蔵保存し、1週間後に解凍した麺帯と冷蔵保存していた麺帯との色調差を、冷凍保存した麺帯をコントロール品として以下の評価基準により評価を行った。
退色
5点・・・コントロール品との色調変化が小さい
4点・・・コントロール品との色調変化がやや小さい
3点・・・コントロール品との色調変化がやや大きい
2点・・・コントロール品との色調変化が大きい
1点・・・コントロール品との色調変化が非常に大きい
総合評価は、◎、○、△、×の順に悪い評価となる。
結果を表1及び表2に示す。
【0011】
【表1】

【0012】
【表2】

【0013】
[実施例11〜20、比較例7〜12]乾パスタ
デュラムセモリナ(日本製粉株式会社製、商品名:ジョーカーA)をスチームオーブンで表3〜4に示す処理温度、処理時間にて熱処理しパスタ用熱処理デュラム小麦粉を得た。
このパスタ用熱処理デュラム小麦粉を使用して乾パスタを調製した。
以下の実施例、比較例において小麦粉は水分13.5質量%ベースで前記同様に水分補正を行った。
乾パスタの製造及び評価は以下のとおり行った。
1.小麦粉100質量部に食塩1質量部、水28質量部を加えて、10分間ミキシングを行い生地とした。
2.前記生地をパスタ類マシーン(φ1.7mmピース使用)で押し出し整形した後に乾燥し、乾パスタ麺線を得た。
3.前記麺線を麺線質量の約15倍の茹で水(pHを5.5〜6.0に調整)で8分間茹で、湯切りをして皿に盛った。
4.これを10名の熟練のパネラーにより、以下の評価基準で評価を行った。
色調
5点・・・黄色味が強く明るい
4点・・・やや黄色味が強くやや明るい
3点・・・普通
2点・・・やや黄色味が弱くやや暗い
1点・・・黄色味が弱く暗い
食感
5点・・・硬さと弾力のバランスが非常に良く、プリプリ感が強い
4点・・・硬さと弾力のバランスが良く、プリプリ感がやや強い
3点・・・普通
2点・・・硬さと弾力のバランスがやや悪く、プリプリ感がやや弱い
1点・・・硬さと弾力のバランスが悪く、プリプリ感が弱い
総合評価は、◎、○、△、×の順に悪い評価となる。
結果を表3及び表4に示す。
【0014】
【表3】

【0015】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
デュラム小麦粉を60℃以上100℃以下の湿り蒸気を使用して1分間以上60分間以下常圧下で湿熱処理するパスタ用熱処理デュラム小麦粉の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法により製造したパスタ用熱処理デュラム小麦粉。
【請求項3】
請求項2に記載のパスタ用熱処理デュラム小麦粉を使用したパスタ。