説明

パタン可変片角スプレーガン

【課題】
従来の片角ガンはパタンの曲がり角度が固定のため被塗装物の内径変化に対して対応が不十分で、特殊に設計、製作する必要があった。被塗装物の多様化に対応し曲がり角度が可変可能な片角ガンを提供する。
【解決手段】
ノズル口の周囲の環状中心空気口と、中心空気口の外側に噴霧軸に向けた1方向からの側面空気口を配置したスプレーガンで、中心空気口と側面空気口のそれぞれに別々の供給路よりエアを供給し、少なくとも側面空気の供給量を調整できる調節弁を設ける。中心空気口と側面空気口への供給通路はガン本体で分離され、前方に延出した同心の二重パイプで形成し、霧化装置部に接続する。両空気は、それぞれ別々に制御された空気回路よりガン本体に供給されるよう構成し、調整範囲を拡大できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮空気により、塗料等を霧化し、被塗物に向けて吹付塗装を行うエアスプレーガンに係るもので、特に小径の内面を塗装する場合に使用されるエアスプレーガンに関するものである。

【背景技術】
【0002】
圧縮空気を用いて塗料を霧化し、塗装面を形成するためのエアスプレーガンは仕上げ面の均一性、広範囲な被塗装物、塗料に対応できるため各分野において広く使用されている。小径のパイプ状被塗装物の内面を塗装する場合回転させた被塗装物の内面にスプレーガンの霧化装置部を進入させ、内面の一方向に偏向噴霧させて塗装するスプレーガンが知られている。(実公昭35−678)
【0003】
これらの多くは被塗装物を回転させる必要があること、細いパイプ状内面を塗装する関係で、正確なスプレーガンの動きが必要なことなどから、自動機械により作動が制御されることが多く、自動スプレーガンとしての使用が一般的である。したがって予め被塗装物に適合した噴霧が可能な仕様のスプレーガンを設置し、大量生産するケースが殆どで、いわゆる専用化されていて、調整の必要性があまり無かった。
【0004】
噴霧の調整を可能にする考え方として、実公昭62−27241のように別個の変更用空気ノズルを設置して対応する構成のスプレーガンも提案されているが、霧化装置に対して新たに噴霧方向を変えるためのノズルを設け、供給管で接続し噴射する構造となっている。したがって霧化装置と別に併設した噴射装置を設ける必要から構造の複雑化、大形化が避けられず小径の内面塗装には対応できていないのが現状である。
【0005】
また被塗装物の変更に対しては、その塗装面に応じた仕様で設計し、専用に使用することで煩わしい調整をする事無く、安定した塗装が維持できることも利点の一つとして考えられていた。しかし近年の被塗装物の多様化は多種少量生産化への変更、多品種の並行生産等の傾向が増大し、これに伴って塗装時に塗装条件を変更する必要性が高まってきている。
【0006】
加えて塗装の自動化は、塗装機の高機能化が進んでおり、これに合わせたスプレーガン自体の機能向上が求められるようになってきている。自動塗装化で汎用性の高い塗装ロボットの使用は、操作制御に優れているにもかかわらず作動機能が固定化した汎用スプレーガンでは十分に生かしきれない無駄を生む結果となっている。
【0007】
前記従来の片角スプレーガンは中心部に塗料通路を形成したパイプの先端に塗料ノズルを配置し、このノズル先端を囲むようにして環状の空気口を形成するキャップを先端に設けた空気パイプを、前記塗料のパイプの外側に二重に配置して空気通路を形成している。パタンを偏向させる角空気(側面空気とも呼ぶ)穴は、斜め前方噴霧の軸に向けて開けられ、中心から噴霧される塗料の噴霧流に対し横方向に吹き飛ばす状態で変更させ周囲の被塗装物内面に塗着させる構造となっている。
【0008】
空気流は中心と角が同じ空気によって吹付けられているため、同じ状態での吹き付けに限られ、被塗装物や塗装条件が変わるとその条件に応じた霧化装置部を準備する必要がある。すなわちこれまでは比較的単純な形状の内面塗装が主であったが、デジタルカメラ等に代表される小形で精密な内面塗装の必要性が高まってきており、市場の要求が生産効率の良い、広い範囲の塗装に対応できるスプレーガンを求めるようになってきている。
【0009】
特に小径の内面を塗装する場合、前述のようにスプレーガンは噴霧装置の先端を進退させるのみで傾けることはできない。したがって単にパイプ状の内面で同一のものを量産塗装するのであれば大きな支障は無いが、内径の変化や溝部などがある場合には同じ角度のみでは均一な塗装が不可能で、噴霧の方向を任意に変えられることが必要となる。
【0010】
図5に示すように内面が一定でない被塗装物に対してはスプレーガンの動きが制約される中で、噴霧の方向を変えることでより均一な塗装仕上げをすることができるもので、例えば内径が小さくなれば角度を少なくして塗装面までの距離をとり、溝がある場合には角度を大きくして内部への入り込みをよくするなどの対応が可能になってくる。
【特許文献1】実公昭35−678実公昭62−27241
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述のように従来の片角ガンはパタンの曲がり角度が固定のため被塗装物の内径変化に対して対応が不十分で、特殊に設計、製作する必要があった。また被塗装物の多様化に対応し噴霧の曲がり角度が必要に応じて調整できるスプレーガンを可能にし、多くのスプレーガンを準備しなくてもスプレーガンの調整で対応できるようにして塗装品質と生産性の向上を図ることが本発明の課題である。また従来にできなかった大きな曲がり角度をもたせた噴霧を可能にして、小径内面に凹凸のある断面や径違いがあっても均一な塗面を可能とするとともに、これらの調整がスプレーガンの手元で容易にできることで作業者に負担をかけずにできるようにするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
ノズル口の周囲の環状中心空気口と、中心空気口の外側に噴霧軸に向けた1方向からの側面空気口を配置したスプレーガンで、中心空気口と側面空気口にそれぞれ別々の供給路よりエアを供給し、側面空気には供給量を調整できる流量調節手段を設ける。通常流量調節手段は通路を絞る調節弁が用いられるが、供給圧力を調整する手段を用いて供給するように構成しても同様である。中心より噴霧された塗料の噴霧流は1方向からの側面空気口から噴出されたエアにより噴霧の軸が曲げられ、斜め前方に噴霧される。このとき側面空気の噴出量を調整弁で変更すると、曲げられた角度が変化し、内面への塗装条件が調整できる。
【0013】
中心空気口と側面空気口への供給通路はガン本体で分離され、前方に延出した同心の二重パイプを中心部の塗料通路の外側に同じく同心に設け取付け台の各空気通路より各パイプ間の二重通路を通してそれぞれ独立したエアを供給する。各エアは霧化装置部の中心空気及び側面空気として噴射される。
前記中心空気口と側面空気口への供給空気は、それぞれ別々に制御された空気回路よりガン本体に供給されるよう構成し、独立した制御空気を供給することにより噴霧パタンの調整範囲を拡大できる。

【発明の効果】
【0014】
以上のように本発明によれば、ノズル先端より中心空気によって噴霧化された塗料粒子が中心軸方向より、側面空気の噴射によって横方向に飛ばされ軸に対して側方が噴霧される。このときのパタン方向は側面空気の噴射力の調整によって変化し、側面空気を完全に遮断すれば前方に噴射され、徐々に増加させることで横方向への曲がり角度が大きくなる。したがって被塗装物の内径に応じて必要な角度を選択し、最適な方向性をもって塗装できるため用途が広がり、塗装面によってあるいは被塗装物ごとにスプレーガンを交換したりするなどの作業が不要となり、合理的な塗装が可能となる。またスプレーガン自体も多くの仕様のものを準備する必要が無くなり、設備やメンテナンスコストの削減にもつながる。
【0015】
また空気通路を二重パイプとしたことで従来と大きく変わらずに最小限の太さで可能となる為に小径の内面を持つ被塗装物に対応することができる。
【0016】
更に側面空気の調節弁をガン本体に設ければ手元での曲がり角度調整が容易にセッティングでき、側面空気に別の制御回路を通して制御された圧力のエアを供給することによって、中心空気より高い圧力とすることができるため、調整範囲が更に拡大し,ほぼ直角方向への吹きつけも可能となる。したがって比較的大きな内径の塗装に対応させることが可能であり、内面に設けられた溝部への塗装も可能となって、従来不可能であった小径の内面に溝を設けたレンズ鏡筒のような被塗装物のスプレー塗装として、高品質の仕上げが可能になった。

【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の一実施例を示す片角スプレーガンの全体構造を示している。図2は先端部の霧化装置部の詳細断面を表している。スプレーガンは自動ガンの例を示し、本体1の先端側にパイプ状に延出した首部2の先に霧化装置部3が取り付けられている。霧化用の圧縮空気はピストン4の作動により空気弁5が開き、空気通路6より通路13を介して先端の霧化装置部3に送り込まれる。この種の自動スプレーガンを作動させる構造は周知であり、本発明を限定するものではないので詳細な説明は省略する。
【0018】
霧化装置部への塗料、エアの供給はスプレーガン本体側より行われ、図3に詳細を示すように本体1には塗料パイプ21を取り付けるノズル基12が螺着され、内部が塗料供給口11と連通されている。霧化用のエアはガン後部より通路13を経て中心空気室14と角空気室15に分離され、前部のエアパイプ取付台16の中心通路17と角通路18に接続される構成とする。角空気室15へのエアは調節弁8によって流量が制御される。カバー19はエアパイプ取付台16を本体に着脱自在に取り付けるためのもので前記角通路18の漏れを防止する機能も有している。本実施例の説明では以後を含め、側面空気を通称の角空気と表現している。
【0019】
霧化装置部3は中心部に塗料ノズル31、その外側に空気ノズル32が同心上に配置され、塗料ノズルの中心に設けた噴出口33の外径部34と空気ノズル32の中心口35との間に環状の空気口を形成する。空気ノズル32の外側には空気キャップ36が配置され、該空気キャップ36は前記中心口35に対し、一側に角部37を突出形成し、該角部37に角空気口38を、やや前方中心軸に向けて開口している。塗料ノズル31の内部にはニードル弁39配置されている。
【0020】
噴出口33から噴出する塗料は、中心口35から噴射されるエアによって霧化され前方へ噴霧される。このとき角空気口38から噴射したエアによって前記した噴霧方向が曲げられ、斜めの方向に噴霧されることになる。噴霧の方向は角空気口38からの噴射が強いほど曲がり角度が大きくなる。通常この曲がり角度は30°程度までであり、前記中心口35と角空気口38との大きさのバランスによっても異なり、中心の噴流が強いほど曲がりは小さくなる。
【0021】
前記霧化装置部と本体側との塗料通路接続は、前記塗料ノズル31が塗料パイプ21の先端に固定されて形成している。中心通路17は中パイプ22によって前記中心口35と連通されるように空気ノズル32と接続され、角通路18は外パイプ23によって前記角空気口38と連通されるように空気キャップ36と接続されている。
【0022】
本体1側で分離された中心空気室14と角空気室15のうち、角空気室への流入は調節弁8によって調節され、角通路18より外パイプ23と中パイプ22の間を通り、前記空気キャップ36の角空気口38より噴射される。したがって中心から噴霧された塗料の噴霧流に対し、側面からの角空気の割合が調整されて噴霧の偏向の程度を被塗装物の塗装面に合わせて変えることができ、スプレーガンを交換せずに広い範囲の塗装条件に対応することができる。また霧化装置部への独立した空気通路を二重の空気パイプで構成したことにより外径の増加を最小限に抑え、内面塗装に重要な小径化を図ることができ、パイプの長さを変更するだけで容易に被塗装物に対する必要長さのスプレーガンを容易に得ることができる。
【0023】
図6は別のスプレーガンを示しているが、前述のスプレーガンと基本構造は同一で角空気の調節弁8に変えて、後部のパタン調整口26から直接角空気室15に導入するための接続管27を設けている。したがって空気弁5より空気通路6を通って送り込まれたエアは前記中心空気路室にのみ送り込まれ霧化装置の中心口35より噴射される。
【0024】
すなわち中心空気と角空気とは別々の供給回路により調整された圧縮エアを送り込んで、噴霧状態を制御することができ、例えば中心の噴霧流に比べ強い噴流で噴霧方向を偏向させることができる。この場合噴霧の方向をほぼ直角方向に曲げることも可能になり、内面に溝等の凹凸がある場合でも塗装が可能となるなど、能力が格段と向上する。また塗装ロボット等の自動塗装制御手段と組み合わせることにより、内面の塗装条件が変化するような被塗装物に対しても、スプレーガンを変えることなく塗装することができ、塗装工程の短縮や作業能率の向上により生産性を高めることができる。

【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施例を示す片角スプレーガンの全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の霧化装置部を拡大した断面図である。
【図3】図1のガン本体空気通路分離部を拡大した断面図である。
【図4】図2の正面図である。
【図5】内面の塗装状態を示す説明図である。
【図6】本発明の他の実施例を示すスプレーガンの全体構造断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 ガン本体
2 首部
3 霧化装置部
4 ピストン
5 空気弁
6 空気通路
8 調節弁
11 塗料供給口
12 ノズル基
13 通路
14 中心空気室
15 角空気室
16 パイプ取付台
17 中心通路
18 角通路
19 カバー
21 塗料パイプ
22 中パイプ
23 外パイプ
26 パタン調整口
31 塗料ノズル
32 空気ノズル
33 噴出口
34 外径部
35 中心口
36 空気キャップ
37 角部
38 角空気口
39 ニードル弁


【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料通路と空気通路を同心パイプで形成し、その先端にノズル口の周囲に形成される環状中心空気口と、該中心空気口の外側に噴霧軸に指向する1方向からの側面空気口を配置した霧化装置を設けたスプレーガンにおいて、前記中心空気口と側面空気口よりそれぞれ別々の通路を介して供給エアを噴射し、前記側面空気につながる通路には流量もしくは圧力調節弁を設けてなるパタン可変片角スプレーガン。
【請求項2】
前記中心空気口と前記側面空気口への供給通路はスプレーガン本体で分離され、中心部の塗料通路の外側に同心の二重パイプを前方に延出して設けた取付け台の各空気通路より各パイプ間の二重通路を通してそれぞれ独立したエアを前記中心空気口と前記側面空気口へ供給する請求項1のパタン可変片角スプレーガン。
【請求項3】
前記中心空気口と側面空気口への供給空気は、それぞれ別々に制御された空気回路より供給される独立した通路と供給口をスプレーガン本体に設けた請求項1のパタン可変片角スプレーガン。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−263591(P2006−263591A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−85883(P2005−85883)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【Fターム(参考)】