説明

パターニングされたコロイド結晶膜の製造方法

【課題】パターンニングされたコロイド結晶膜を効率よく製造するコロイド結晶膜製造方法を提供する。
【解決手段】モノマー及びポリマーからなる分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲で且つ[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100で表される単分散度20%以下のコロイド粒子を含有し且つコロイド粒子が反射ピークを有する分散液を準備する工程、コロイド分散液が0°から40°の範囲の接触角の基材を準備する工程、基材表面の一部の領域のコロイド分散液に対し接触角を0°から40°の範囲に表面処理を施し、表面処理後の前記一部の領域の接触角との差が4°以上となる領域にする工程、表面処理後コロイド分散液を塗布する工程、塗膜中の成分を重合させてコロイド結晶を固定化し、異なる接触角を有する領域の凹凸が形成されたコロイド結晶膜を得る工程、を含むコロイド結晶膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターニングされたコロイド結晶膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイド粒子が規則的に配列しているコロイド結晶膜は、Bragg回折により、その格子定数に対応した波長の光を反射することが知られている。例えば、サブミクロンオーダーのコロイド粒子を規則的に配列させたコロイド結晶膜の場合、紫外光、可視光から赤外光の範囲の波長の光を反射する。また、このようなコロイド結晶膜により可視光を反射させる場合には、イリデセンス(虹彩色)等のいわゆる構造色を発色させることが可能であることも知られている。そして、このようなコロイド結晶膜は、コロイド結晶の特徴を利用して、構造色を発色させる色材、特定の波長の光を透過しない光フィルター、特定の光を反射するミラー、フォトニック結晶、光スイッチ、光センサー等へ応用することが期待されている。そのため、近年では、種々のコロイド結晶膜の製造方法が研究されてきており、得られるコロイド結晶膜に特定のパターニングを行うことも検討されてきている。
【0003】
例えば、WO2005/045478号パンフレット(特許文献1)においては、ETPTA(エトキシレーテッドトリメチロールプロパントリアクリレート)からなるモノマーに粒子を含有させて、それをスピンコートし、固定化してコロイド結晶を製造するコロイド結晶膜の製造方法が開示されており、このようにして得られたコロイド結晶膜に対して半導体リソグラフィ技術を利用してパターニングを行うことが開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来のコロイド結晶膜のパターニングの方法においては、コロイド結晶膜を得る工程においてスピンコート工程を経る必要があるばかりか、パターニングする際に半導体リソグラフィ技術を利用する必要があり、工程が複雑であることやコスト面の観点から実用的なものではなかった。
【0004】
また、特開2008−303261号公報(特許文献2)においては、1種以上のモノマーを含むモノマー含有液中に平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ単分散度が20%以下となるコロイド粒子を含有させ、反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態となるように前記コロイド粒子を分散させて、前記3次元規則配列状態のコロイド結晶が形成されたモノマー分散液を得る工程と、前記モノマー分散液中の前記モノマーを重合させて、ポリマーで固定化されたコロイド結晶を得る工程とを含むコロイド結晶の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献2においては、製造するコロイド結晶に、所定の凹凸パターンを形成させるといった技術的思想は直接記載されていない。
【0005】
一方、特開2003−181275号公報(特許文献3)においては、基材表面に微粒子分散液を展開し、任意の方向から前記微粒子分散液の分散媒を乾燥させて微粒子配列膜を得る方法が開示されており、前記基材として前期基材表面と前記分散媒との親和性が周期的に異なるような周期変調パターンが形成されているものを用いることが開示されている。しかしながら、特許文献3に記載されている技術は、微粒子分散液を用いる引き上げ法と呼ばれる技術に関するものであり、引き上げ方向に平行な方向にストライプ状のパターンを形成することは可能であるものの、かかる技術を利用して文字やストライプ以外の図柄などの任意の形状(模様)にパターニングされた微粒子配列膜を製造することはできなかった。
【0006】
また、2009年発行の「Advanced Materials, vol.21(非特許文献1)」の第3771頁から第3775頁においては、半球状のドーム型コロイド結晶体を基材面の任意の場所に非連続的に配列させる方法が開示されている。しかしながら、このような非特許文献1に記載の方法は連続膜を形成させる方法としては利用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2005/045478号パンフレット
【特許文献2】特開2008−303261号公報
【特許文献3】特開2003−181275号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.H.Kim et al.,Advanced Materials,vol.21,2009年発行,p.3771−p.3775
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、表面が任意のデザインにパターンニングされたコロイド結晶膜を効率よく且つ確実に製造することを可能とするパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ後述の式(1)で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されているコロイド分散液を、0°以上40°以下の範囲にある前記コロイド分散液に対する第一の接触角を有する領域と前記第一の接触角との角度の差が4°以上となる第二の接触角を有する領域とを有する基材に塗布して塗膜を形成した後に、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合せしめることにより、得られる膜の表面には前記第二の接触角を有する領域の形状に応じて凹凸が形成され、表面が任意のデザインにパターンニングされたコロイド結晶膜を効率よく且つ確実に製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し且つ前記分散媒成分中に前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されているコロイド分散液を準備する工程と、
表面が前記コロイド分散液に対して0°以上40°以下の範囲の第一の接触角を有する基材を準備する工程と、
前記基材の表面の一部の領域の前記コロイド分散液に対する接触角を0°以上40°以下の範囲において変化させる表面処理を前記基材に施して、前記表面処理後の前記一部の領域を前記第一の接触角との角度の差が4°以上となる第二の接触角を有する領域とする工程と、
前記表面処理後の基材に前記コロイド分散液を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合させてコロイド結晶をポリマーで固定化せしめ、前記第一の接触角を有する領域と前記第二の接触角を有する領域の形状に応じた凹凸が形成されたコロイド結晶膜を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0012】
上記本発明のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法においては、前記第一及び第二の接触角のうちの一方の角度が0°以上6°以下の範囲にあり、他方の角度が6°超40°以下の範囲にあることが好ましい。
【0013】
また、上記本発明のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法においては、前記コロイド結晶膜が、25〜45μmの範囲の平均膜厚を有する領域と、前記範囲外の平均膜厚を有する領域とを有することが好ましい。
【0014】
また、上記本発明のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法においては、前記コロイド分散液が、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定した粘度が10〜100mPa・sのものであることが好ましい。
【0015】
さらに、上記本発明のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法においては、前記塗膜を形成する工程において、スプレー塗装により前記表面処理後の基材に前記コロイド分散液を塗布することが好ましい。
【0016】
なお、本発明のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法によって、表面が任意のデザインにパターンニングされたコロイド結晶膜を効率よく且つ確実に製造することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、本発明において用いられるコロイド分散液においては、分散媒成分中に上述のように単分散度が十分に低い非常に均一な(粒子径が非常に良く揃った)コロイド粒子を含有させているため、分散媒成分中において粒子間の相互作用が均一に働き、その粒子間の相互作用によって容易に3次元規則配列構造が形成される。また、このようなコロイド分散液は、モノマーやコロイド粒子の種類及びそれらの濃度等を変更することで、前記モノマー分散液中に形成される粒子の配列構造を変更でき、結晶構造(格子定数、結晶型等)を容易に制御することが可能である。そして、このようなコロイド分散液をスプレー塗装やバーコート等の塗布方法により基材に塗布して薄膜化させると、基材に塗布された際にコロイド分散液中の粒子の規則配列は一旦乱されるものの、その後、コロイド粒子の熱運動などにより粒子が自己組織的に再度規則配列する。そのため、このようなコロイド分散液を用いた場合には、基材上でコロイド結晶が再形成される。一方、このようなコロイド分散液においては、コロイド粒子の自己組織的な規則配列に膜厚依存性があり、塗膜の膜厚に応じて粒子の規則配列の状態が異なるものとなることから、得られるコロイド結晶膜の反射率や構造発色は塗膜の膜厚により異なるものとなる(例えば、コロイド結晶膜の平均膜厚が25〜45μmの範囲にある領域では、膜厚方向に結晶方位がそろったより配向性の良好なコロイド結晶膜が形成されて(より十分に規則配列が形成されて)より均一でより高い反射率を有するコロイド結晶膜を得ることが可能となる傾向にある。)。ここで、前記コロイド分散液を基材に塗布し、塗膜中の分散媒成分を重合(硬化)することにより形成されるコロイド結晶膜の膜厚は、塗布時の前記コロイド分散液の塗着量に依存するのは勿論のこと、基材の濡れ性によっても大きな影響を受ける。一般に、液体が基材表面に濡れるためには、少なくとも接触角が90°以下であることが必要である。ここで、本発明者らが前記コロイド分散液を用いて薄膜を形成させるために必要な接触角について検討したところ、基材の接触角を40°以下とした場合に、前記コロイド分散液が連続した膜として基材上に十分に濡れ広がり、平均膜厚60μm以下の十分に薄い膜を得ることが可能となるとともに、その膜を十分に均一で反射率の高い構造発色を有するコロイド結晶膜とすることが可能となることを実験的に見出した。一方、接触角の大きさが0°である場合(一般に完全濡れ、あるいは、拡張濡れと呼ばれる状態)、基材に塗着した液滴は濡れ広がり、膜厚が時間とともに薄くなる。このような特性に着目し、本発明においては、0°〜40°の範囲において接触角が部分的に異なる領域を有する表面を有する基材を用い、かかる基材に対して前記コロイド分散液を塗布することにより、前記コロイド分散液が連続した膜として基材上に濡れ広がりながらも、接触角の大きさの違いに応じて基材上への前記コロイド分散液の濡れ広がり方を部分的に異ならせて、前記コロイド分散液に対する濡れ性の高い領域の膜厚を薄くし、前記コロイド分散液に対する濡れ性の低い領域の膜厚を厚くすることを可能とする。このようにして、意図的に塗膜に膜厚分布を生じせしめることにより、塗膜の膜厚が部分的に異なり、基材表面の接触角の違いに応じた凹凸が形成されたコロイド結晶膜を得ることができるものと推察される。また、このようにして塗膜に膜厚分布を生じせしめることにより、膜中のコロイド粒子の自己組織的な規則配列状態は異なるものとなるため、得られるコロイド結晶膜においては、凹部と凸部とで発色を異ならせて、文字や絵や図柄などのパターンを生じさせることが可能である。そのため、本発明においては、簡便な方法でありながら、コロイド結晶膜の表面を任意のデザインにパターンニングできるものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面が任意のデザインにパターンニングされたコロイド結晶膜を効率よく且つ確実に製造することを可能とするパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】試験例1において確認されたUVオゾン処理による処理時間と黒塗装鋼板の表面のコロイド分散液に対する接触角との関係を示すグラフである。
【図2】試験例2において確認されたUVオゾン処理による処理時間と樹脂基板の表面のコロイド分散液に対する接触角との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図4】図3に示す写真とは異なる角度から撮影した実施例1で得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真である。
【図5】実施例1で得られたコロイド結晶膜(薄膜)のカワセミの模様が現れている領域と前記模様の外側の領域の反射スペクトルのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
本発明のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し且つ前記分散媒成分中に前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されているコロイド分散液を準備する工程(A)と、
表面が前記コロイド分散液に対して0°以上40°以下の範囲の第一の接触角を有する基材を準備する工程(B)と、
前記基材の表面の一部の領域の前記コロイド分散液に対する接触角を0°以上40°以下の範囲において変化させる表面処理を前記基材に施して、前記表面処理後の前記一部の領域を前記第一の接触角との角度の差が4°以上となる第二の接触角を有する領域とする工程(C)と、
前記表面処理後の基材に前記コロイド分散液を塗布して塗膜を形成する工程(D)と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合させてコロイド結晶をポリマーで固定化せしめ、前記第一の接触角を有する領域と前記第二の接触角を有する領域の形状に応じた凹凸が形成されたコロイド結晶膜を得る工程(E)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、工程(A)〜(E)を分けて説明する。
【0021】
先ず、工程(A)について説明する。工程(A)は、上述のように、前記コロイド分散液を準備する工程である。
【0022】
このようなコロイド分散液中の前記分散媒成分は、モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有するものである。このような分散媒成分としては、より効率よくコロイド結晶膜を形成するという観点から、1種以上のモノマーからなるものを用いることが好ましい。また、このようなモノマーとしては、コロイド粒子を前記3次元規則配列状態に分散させることが可能なものであればよく、特に制限されないが、その好適な例としてアクリルモノマーが挙げられる。
【0023】
また、このようなモノマーとしては、親水性のモノマーが好ましく、酸や塩基などのイオン性官能基以外の非イオン性の親水性基を含む親水性モノマーがより好ましい。このような非イオン性の親水性基としては、例えば水酸基やエチレングリコール基等が挙げられる。なお、酸や塩基などのイオン性官能基を含むモノマーの場合、コロイド結晶を形成させる際にモノマーがコロイド粒子間の相互作用に影響を及ぼし、3次元配列構造を形成させることが困難となる傾向にある。また、水に溶解しない疎水性のモノマーを用いる場合には、コロイド粒子の表面が親水性であるため、コロイド粒子が凝集して均一に分散させることが困難であり、分散媒成分中においてコロイド結晶を形成し難くなる傾向にある。
【0024】
このような親水性モノマーとしては特に制限されず、公知の親水性モノマーを適宜利用することができ、例えば、エチレングリコール鎖長が異なるポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、あるいは、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド等が挙げられる。
【0025】
また、このような親水性モノマーの中でも、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート及びポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートが特に好ましい。このようなポリエチレングリコールアクリレート類又はポリプロピレングリコールアクリレート類は、エチレン又はプロピレングリコール鎖長が異なる種々のモノマーを利用することができ、鎖長によって親水性を制御でき、これを用いることでコロイド粒子の配列状態をより効率よく制御できる傾向にある。また、前記分散媒成分が前記親水性モノマーからなるものである場合には、前記親水性モノマーは1種類を単独であるいは2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
さらに、前記分散媒成分が親水性モノマーを含有する場合には、前記親水性モノマーの含有比率が、前記モノマー及びポリマーの総量に対して85質量%以上(より好ましくは90質量%〜100質量%)であることが好ましい。前記親水性モノマーの含有比率が前記下限未満では、コロイド結晶を形成させることが困難となる傾向にある。
【0027】
また、前記モノマーとしては、複数のエチレン性二重結合を有する多官能モノマーと、エチレン性二重結合を1つ有する単官能モノマーとを含有することが好ましい。このような多官能モノマーと単官能モノマーとを組み合わせて用いることにより、ポリマーで固定化した際に、十分な機械的強度と基材等に対する十分な付着性が得られる傾向にある。
【0028】
このような多官能モノマーとしては、エチレングリコール鎖及びプロピレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種と複数の(メタ)アクリル基とを有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーが好ましい。このようなエチレングリコール鎖及びプロピレングリコール鎖からなる群から選択される少なくとも1種を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーを多官能モノマーとして用いることにより、多官能モノマーが十分に親水性を有するものとなり、より効率よくコロイド結晶膜を形成させることが可能となる傾向にある。また、前記多官能モノマーとして用いられる(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、(メタ)アクリル基を2つ又は3つ有するものがより好ましい。また、このような多官能モノマーとして用いられるエチレングリコール鎖及び/又はプロピレングリコール鎖を含有する(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、エチレングリコール鎖又はプロピレングリコール鎖の鎖長が異なる種々のモノマーを利用することができる。
【0029】
また、このような多官能モノマーとして用いられる(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、入手の容易さと3次元規則配列構造の形成の容易さの観点から、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールトリ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールトリ(メタ)アクリレートが好ましい。このような多官能モノマーとしては1種類を単独であるいは2種類以上混合して用いてもよい。
【0030】
前記単官能モノマーは、エチレン性二重結合を1つ有するモノマーである。このような単官能モノマーとしては特に制限されず、公知の単官能モノマーを適宜用いることができ、例えば、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、スチレンモノマー、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルが挙げられる。
【0031】
このような単官能モノマーとしては、入手の容易さの観点から、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)が特に好ましい。なお、このような単官能モノマーは1種類を単独であるいは2種類以上混合して用いてもよい。
【0032】
また、前記多官能モノマー及び単官能モノマーを組み合わせて用いる場合には、前記多官能モノマーの含有比率は、前記多官能モノマーと単官能モノマーとの総量に対して1〜95質量%(より好ましくは3〜90質量%)であることが好ましい。このような含有比率が前記下限未満では重合後に得られるポリマーの硬度が低くなって膜としての強度が十分に保てなくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると重合後に得られるポリマーの硬度が高くなり、得られるポリマーで固定化されたコロイド結晶が脆くなる傾向にある。
【0033】
また、前記ポリマーとしては特に限定されず、一般的に塗料に用いられるアクリルポリマーやウレタンポリマー等を適宜用いることができる。また、このようなポリマーとしては、前述のモノマーを重合して形成されるポリマー(より好ましくはアクリルポリマー)を好適に用いることができる。
【0034】
また、前記分散媒成分は、前記モノマー及び前記ポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含むものであればよく、特に制限されず、前記モノマー及び/又はポリマーのみを含有するものであってもよく、あるいは、前記モノマー及び/又はポリマーとともに溶媒を含有するものであってもよい。なお、このような溶媒は分散液の粘度を調整する際にも有効に利用することが可能である。また、このような溶媒としては、特に制限されないが、アルコール等の親水性溶媒を適宜用いることができる。また、前記コロイド分散液に溶媒を含有させる場合には、固定化の際に溶媒が蒸発することに伴ってコロイド結晶が壊れたり、歪んだりして結晶構造が変化することを防止するために、溶媒の含有量を30質量%以下(より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下)とすることが好ましい。
【0035】
また、前記コロイド分散液中の前記コロイド粒子は、平均粒径が0.01〜10μm(より好ましくは0.05〜1.0μm)の範囲にある粒子である。このような粒子の平均粒径が前記下限未満では、粒子表面間の凝集力が強くなり、コロイド分散液中で均一に分散し難くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、粒子が沈降し易くなり、コロイド分散液中で均一に分散し難くなる傾向にある。
【0036】
また、前記コロイド粒子は、下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下の粒子である。すなわち、前記粒子は、このような単分散度を有する粒径が極めて均一な粒子である。本発明においては、コロイド粒子にこのような均一性が極めて高い粒子を用いているため、前記分散媒成分中に分散させた際に、粒子間の相互作用により容易に3次元規則配列構造を形成させることが可能となる。また、このような粒子としては、単分散度がより小さな値となるほど、より高い特性が得られる傾向にあることから、前記単分散度は10%(更に好ましくは5%)以下であることがより好ましい。
【0037】
また、このようなコロイド粒子の材料としては特に制限されず、得られるコロイド結晶膜を応用する分野に合わせて、公知の有機材料、無機材料、有機−無機複合材料及び無機−無機複合材料の中から適宜選択して用いることができる。このような有機材料としては、例えば、ポリスチレン及びその誘導体、アクリル樹脂等の有機高分子材料等が挙げられ、前記無機材料としては、例えば、シリカ(二酸化珪素)、アルミナ(酸化アルミニウム)、チタニア(酸化チタン)、酸化亜鉛等が挙げられる。また、前記有機−無機複合材料としては、例えば、ポリスチレン及びその誘導体又はアクリル樹脂等からなる粒子を酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等で覆ったコアシェル型の有機−無機複合粒子等が挙げられる。また、前記無機−無機複合材料としては、例えば、シリカからなる粒子を酸化チタン、酸化セリウム又は酸化亜鉛等で覆ったコアシェル型の無機−無機複合粒子等が挙げられる。更に、このようなコロイド粒子の材料としては、容易に単分散粒子を合成することができるという観点から、シリカ、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチルが特に好ましい。なお、このような粒子の材料は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また、このようなコロイド粒子としては、例えば、エマルション重合により合成されたポリスチレン粒子又はポリメタクリル酸メチル粒子(ダウケミカル社製、ポリサイエンス社製、日本合成ゴム社製、積水化学社製等)や、ストーバー法により合成されたシリカ粒子(日本触媒製や触媒化成製等)を適宜用いることができる。また、Layer−By−Layer法で単分散な粒子(テンプレート粒子)に層状化合物をコートすることによって二層構造粒子や中空粒子を形成させて、前記コロイド粒子として利用してもよい。
【0039】
このようなコロイド粒子の含有量としては、前記コロイド分散液中、5〜50体積%であることが好ましく、10〜40体積%であることがより好ましい。このようなコロイド粒子の含有量が前記下限未満では、分散媒成分中に分散させた際にコロイド粒子を3次元規則配列状態とすることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子の濃度が高くなりすぎて、コロイド粒子の配列構造を制御することが困難となる傾向にある。
【0040】
また、前記コロイド分散液においては、前記分散媒成分中において前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されている。ここで、本発明にいう「反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態」とは、反射スペクトルを測定し、Bragg回折による反射ピークの存在が確認される状態をいい、「反射ピーク」とは、無反射の状態に対して反射光強度が波長の変化に伴って増加、減少する際の変曲点をいい、いわゆる反射光強度が上下するノイズとは異なる。また、このような反射スペクトルの測定方法としては、通常の分光光度計を用いることができるが、本発明においては、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて測定する方法を採用する。なお、このような3次元規則配列構造としては、例えば面心立方構造や体心立方構造等が挙げられる。また、前記ピークは、波長350〜1600nmの間の波長(波長350〜1050nmには「Fastvert S−2650」、波長900nm〜1600nmには「Fastvert S−2710」)におけるピークであることが好ましい。
【0041】
また、このような3次元規則配列状態におけるコロイド粒子の最近接粒子間の距離の平均としては、特に制限されないが、コロイド粒子の平均粒径の0.01〜10倍の範囲にあることが好ましく、0.05〜2倍の範囲にあることがより好ましい。前記最近接粒子間の距離の平均が前記下限未満では、ポリマーマトリックスの体積が少なくなるため強度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子を3次元規則配列させることが困難になる傾向にある。
【0042】
また、前記分散媒成分中に、反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態でコロイド粒子を分散させる方法(以下、単に「分散方法」という。)としては、コロイド粒子を分散させて前記3次元規則配列状態とすることが可能な方法であればよく、特に制限されず、例えば、超音波を長時間印加する方法、長時間撹拌する方法、加熱する方法、アルコール等の溶媒を加えて分散させる方法等を適宜採用することができる。なお、このような分散方法においては、コロイド粒子を3次元規則配列状態とするために、例えば、所定時間ごとに反射スペクトルを測定して反射ピークが現れるまで分散工程を繰り返す方法を採用してもよい。
【0043】
さらに、このような分散方法として超音波を印加する方法を採用する場合においては、用いるモノマーの種類、コロイド分散液の粘度及びコロイド粒子の濃度等によって異なるものではあるが、より確実にコロイド粒子を前記3次元規則配列状態に配列させるという観点から、超音波を0.5〜24時間(より好ましくは1〜10時間)印加することが好ましい。超音波の印加時間が前記下限未満では、コロイド粒子を3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分散工程に必要以上の時間をかけることから、作業効率が低下する傾向にある。
【0044】
また、このような超音波の周波数は特に制限されず、16kHz以上であればよく、20〜200kHzとすることが好ましい。前記周波数が前記下限未満では、コロイド粒子を3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、コロイド粒子が凝集し易くなり、やはり3次元規則配列状態に配列させることが困難となる傾向にある。
【0045】
また、このような超音波を印加する際の温度条件としては特に制限されないが、0〜80℃(より好ましくは10〜60℃)であることが好ましい。このような温度条件が前記下限未満では、コロイド粒子の分散効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、モノマーの重合反応が進行したり、分散媒成分が変性したり、あるいは、成分組成が変化するなどしてコロイド結晶の形成が困難となる傾向にある。
【0046】
さらに、前記分散方法としてアルコール等の溶媒を加える方法を採用する場合においては、より確実にコロイド粒子を前記3次元規則配列状態に配列させるという観点から、前記溶媒として、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等を用いることが好ましい。また、このような溶媒の含有量としては、親水性モノマーにコロイド粒子を含有させた混合物100質量部に対して30質量部以下とすることが好ましい。このような溶媒の含有量が前記上限を超えると、モノマーを重合させてポリマーとした場合に溶媒を含んだゲルとなる傾向にある。
【0047】
また、前記コロイド分散液においては、その粘度を10〜100mPa・sとすることが好ましい。ここで、「粘度」としては、回転型粘度計としてレオメトリックス・サイエンティフィック社製の「フルードスペクトロメータ ARES」を用い、直径25mm、コーン角度0.1radのコーンプレートを利用して、温度:25℃±0.1℃、せん断速度:1000S−1の条件で測定される粘度の値を採用する。このような粘度が前記下限未満では液ダレが顕著になり、形状物への均一な塗布が困難になるばかりか、コロイド結晶膜として十分に機能させることが可能な膜厚を確保することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、十分に平滑で且つ良好な発色を示すコロイド結晶膜が得ることが困難となり、更には、得られるコロイド結晶膜の反射スペクトルにおいて十分に高度な反射率の反射ピーク(反射ピーク強度が30%を超えるような反射ピーク)が得られなくなる傾向にある。また、このようなコロイド分散液の粘度としては、同様の観点で、より平滑で且つより十分に発色のよいコロイド結晶膜を効率よく得ることが可能となることから、20〜60mPa・sであることがより好ましい。また、このような粘度のコロイド分散液は、基材への塗布方法としてスプレー塗装法を利用する際に好適に用いることができる。
【0048】
なお、このようなコロイド分散液の粘度を前述のような範囲に調整する方法としては、前記分散媒成分中のモノマーの種類を適宜選択することで粘度を前述のような範囲に調整する方法、2種以上のモノマーを用いる場合に粘度の低いモノマーを少なくとも1種含有させてコロイド分散液全体の粘度を前述のような範囲に調整する方法、溶媒を混合することによってコロイド分散液の粘度を低くする方法、塗料に一般的に用いられる粘度調整剤を用いる方法等が挙げられる。このような粘度の低いモノマーとしては特に制限されず、前述のモノマーの中から適宜選択して利用することができる。
【0049】
また、このようなコロイド分散液においては、光重合開始剤を含有させてもよい。このようにコロイド分散液に光重合開始剤を含有させることにより、前記モノマーを重合させる際に、紫外光等を照射することにより効率よく重合させることが可能となる。このような光重合開始剤としては特に制限されず、公知の光重合開始剤を適宜用いることができ、例えば、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、アントラキノン、チオキサン、ケタール、アセトフェノン等のカルボニル化合物や、ジスルフィド、ジチオカーバメート等のイオウ化合物、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物、アゾ化合物、遷移金属錯体、ポリシラン化合物、色素増感剤等が挙げられる。
【0050】
また、このような光重合開始剤の添加量としては特に制限されないが、用いたモノマーの種類等に応じて適宜変更できるが、前記コロイド分散液に対して0.1〜5質量%(より好ましくは0.5〜3質量%)とすることが好ましい。このような光重合開始剤の添加量が前記下限未満では紫外光等の光を照射してモノマーを重合させることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、分散液状態でコロイド結晶を形成させることが困難となる傾向にある。
【0051】
さらに、前記コロイド分散液には、本発明の効果を損なわない範囲において、顔料やUV吸収剤等の一般的に塗料に添加することが可能な各種添加剤を適宜含有させていてもよい。
【0052】
次に、工程(B)について説明する。工程(B)は、表面が前記コロイド分散液に対して0°以上40°以下の範囲の第一の接触角を有する基材を準備する工程である。
【0053】
このような基材の材質は特に制限されず、その基材上の表面の前記コロイド分散液に対する接触角を0°以上40°以下に調製することが可能なものであればよい。そのため、このような基材としては、例えば、ガラス、金属、各種プラスチックからなる基材を用いることができる。また、このような基材の形状は特に制限されず、板状、円形状、球状等の各種形状としてもよい。なお、本発明においては、前記コロイド分散液を利用するため、基材の面が曲面であってもコロイド結晶膜を成膜することが可能である。なお、このような「接触角」の測定方法は後述する。
【0054】
また、このような基材においては、当初より表面の前記コロイド分散液に対する接触角が0°以上40°以下の範囲にあるものを用いてもよく、あるいは、前記コロイド分散液に対する接触角を変化させる処理を基材に施して、基材表面の前記コロイド分散液に対する接触角が0°以上40°以下の範囲内となるようにしたものを用いてもよい。このような基材表面のコロイド分散液に対する接触角を変化させる処理としては、特に限定されず、基材表面のコロイド分散液に対する濡れ性を変化させることが可能な公知の方法を適宜利用することができ、例えば、中島章著「固体表面の濡れ制御」(内田老鶴圃、2007年発行)第9章に記載されている化学的処理や物理的処理を適宜利用することができる。例えば、基材表面のコロイド分散液に対する濡れ性を向上させて、前記表面の接触角を0°以上40°以下の所望の大きさとなるようにする方法としては、基材にコロイド分散液に対する濡れ性を増大させるような処理(親水化処理等:例えばプラズマ処理やUVオゾン処理等)を施すことにより、基材表面のコロイド分散液に対する濡れ性を向上させて、表面のコロイド分散液に対する接触角が0°以上40°以下となるようにする方法を採用してもよい。また、基材表面のコロイド分散液に対する濡れ性を低下させて、前記表面の接触角を0°以上40°以下の範囲の所望の大きさの接触角とする方法としては、例えば、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコールをしみ込ませたベンコットで基材の表面を拭くことにより基材表面のコロイド分散液に対する濡れ性を低下させて、前記表面の接触角を0°以上40°以下の範囲の所望の大きさの接触角とする方法や、シランカップリング剤による撥水化処理を施して、基材表面のコロイド分散液に対する濡れ性を低下させて、前記表面の接触角を0°以上40°以下の範囲の所望の大きさの接触角とする方法等を利用してもよい。このように、基材表面のコロイド分散液に対する接触角を変化させる処理を施すことにより、0°以上40°以下の範囲の所望の角度の第一の接触角を有する基材を容易に得ることができる。なお、このような第一の接触角が40°を超えると、膜厚が十分に薄いコロイド結晶膜を製造することができなくなる。
【0055】
次に、工程(C)について説明する。工程(C)は、前記基材の表面の一部の領域の前記コロイド分散液に対する接触角を0°以上40°以下の範囲において変化させる表面処理を前記基材に施して、前記表面処理後の前記一部の領域を前記第一の接触角との角度の差が4°以上となる第二の接触角を有する領域とする工程である。
【0056】
このように、前記基材の表面の一部の領域の前記コロイド分散液に対する接触角を0°以上40°以下の範囲において変化させる表面処理の方法としては、任意の領域に対して前述の基材表面のコロイド分散液に対する接触角を変化させる処理を施せばよく、例えば、任意の領域をマスキングした後にプラズマ処理、UVオゾン処理等の物理的処理を施すことにより、マスキングされていない領域に対して表面処理を施し、マスキングされていない領域の親水性を向上させて、0°以上40°以下の範囲においてマスキングされていない領域の接触角を変化させる方法や、一部の領域をマスキングした後、マスクを介して、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコールをしみ込ませたベンコットで基材の表面を拭いて局所的に接触角を大きくすることにより、マスキングされていない領域の撥水性を向上させて、0°以上40°以下の範囲においてマスキングされていない領域の接触角を変化させる方法、シランカップリング剤による撥水化処理を部分的に施して局所的に接触角を大きくすることにより、処理を施した領域の撥水性を向上させて0°以上40°以下の範囲において接触角を変化させる方法、基材表面に対して金属棒を局所的に接触させるにより、金属棒の接触した領域の接触角を大きくさせて0°以上40°以下の範囲において金属棒の接触した領域の接触角を変化させる方法等を適宜採用することができる。なお、前記金属棒としては原子間力顕微鏡のプローブを用いてもよい。また、このような表面処理の方法としては、簡便に一部の領域の接触角を変化させることが可能となるという観点から、任意の領域をマスキングしながらプラズマ処理やUVオゾン処理等の物理的処理を施す方法を採用することが好ましい。
【0057】
また、このような工程(C)においては、前記表面処理を前記基材に施して、前記表面処理後の前記一部の領域を前記第一の接触角との角度の差が4°以上となる第二の接触角を有する領域とする。このような第二の接触角と第一の接触角との角度の差が4°未満では、第一の接触角を有する領域と第二の接触角を有する領域とにおいて、コロイド分散液の濡れ広がり方に大きな変化がなく、十分な凹凸を有するコロイド結晶膜を形成させることができず、十分にパターニングをすることができなくなる。
【0058】
なお、このような角度の差を生じさせるために、例えば、前述のようなプラズマ処理やUVオゾン処理等の物理的処理を採用する場合には表面処理を施す時間を適宜変更して、角度差が所定の大きさとなるようにしてもよく、他方、前述のようなシランカップリング剤による撥水化処理を部分的に施す方法を採用する場合にはカップリング剤の種類を適宜変更して、角度差が所定の大きさとなるようにしてもよい。このようにして、第二の接触角と第一の接触角との差を4°以上とすることで、基材が、表面上に第一の接触角を有する領域と第二の接触角を有する領域とを有するものとなり、領域によってコロイド分散液に対する濡れ性の大きさが十分に異なるものとなるため、その濡れ性の大きさの違いに応じて、基材の表面上に形成されるコロイド分散液の塗膜の膜厚を変化させることが可能となる。このように、第二の接触角と第一の接触角との差を4°以上とすることで、意図的に膜厚分布を形成させることが可能となり、容易に凹凸を有するコロイド結晶膜を製造することができる。一方、本発明において用いられるコロイド分散液においてはコロイド粒子が自己組織的に規則配列し、このような規則配列は前記分散液の塗膜の膜厚に依存する。そのため、本発明においては、凹凸を形成させて、膜の厚みに応じて構造発色を変化させることも可能となり、高度な意匠性を有するパターニング膜を得ることが可能である。このように、本発明においては、基材表面のコロイド分散液に対する濡れ性を局所的に変化させることで、基材上に形成されるコロイド結晶膜の構造発色を変化させることが可能であるため、従来のように半導体リソグラフィのような煩雑な工程を施すことなく、簡便な工程でパターニングをすることが可能である。
【0059】
また、このような表面処理においては、第一及び第二の接触角のうちの一方の角度を0°以上6°以下とし、他方の角度を6°超40°以下(より好ましくは10°以上30°以下)とすることが好ましい。このような接触角の条件を満たすように表面処理を行う方法としては特に制限されず、例えば、コロイド分散液に対する第一の接触角が6°超40°以下の表面を有する基材を用い、基材表面の一部の領域をマスキングしながらプラズマ処理やUVオゾン処理等の物理的処理を施して、マスキングされていない領域の接触角を0°以上6°以下として第二の接触角を0°以上6°以下とする方法を採用してもよく、第一の接触角が0°以上6°以下の表面を有する基材を用い、基材表面の一部の領域をマスキングした後、マスクを介して、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコールをしみ込ませたベンコットで基材の表面を拭いてマスキングされていない領域の接触角を6°超40°以下として第二の接触角を6°超40°以下とする方法、更には、第一の接触角が0°以上6°以下の表面を有する基材を用い、シランカップリング剤による撥水化処理を部分的に施して処理を施した領域の接触角を6°超40°以下として第二の接触角を6°超40°以下とする方法を採用してもよい。なお、ここにいう接触角の6°という大きさは、接触角計における0°付近の接触角の測定誤差が大きいことから、測定誤差を勘案して、これ以下の角度であれば、完全濡れあるいは完全濡れに近い状態であるとして決めた値である。すなわち、接触角の6°という大きさは、完全濡れに近い状態と付着濡れの状態とを同一表面上で達成するために求めた角度であり、接触角が6°以下の領域ではいわゆる完全濡れに近い状態が形成される。そのため、このように表面の一部の領域の接触角を変化させて、第一及び第二の接触角のうちの一方の角度を0°以上6°以下とし、他方の角度を6°超40°以下(より好ましくは10°以上30°以下)とすることにより、接触角が0°以上6°以下の領域では、いわゆる完全濡れに近い状態が形成されてコロイド分散液がより濡れ広がり易いのに対して、接触角が6°超40°以下の領域ではいわゆる付着濡れと呼ばれる濡れ性が達成されて、コロイド分散液の濡れ広がり方が接触角が0°以上6°以下の領域よりも遅い。そして、このようなコロイド分散液の濡れ広がり方の違いを利用することにより、より容易に塗膜の膜厚を変化させることが可能となり、これにより、本発明において好適な25〜45μmの範囲の平均膜厚を有する領域と前記範囲外の平均膜厚を有する領域とを有するコロイド結晶膜を製造することも達成できる。
【0060】
また、基材の表面の接触角について、「表面張力の物理学」(吉岡書店、2003年発行)を参照すると、大きな水滴(水たまり)の厚さeは、下記式:
e=2κ−1・sin(θ/2)
(式中、eは水滴の厚さ(塗膜の膜厚)を示し、θは接触角を示し、κ−1は毛管長を示す。)
を計算することにより求められることが記載されており、かかる計算により求められる膜厚eよりも薄い膜厚では膜を維持できずに、より小さな重力の影響を受けない程度の大きさの滴となることが記載されている。また、同書によると、液体の毛管長κ−1は、水など一般的なものでおよそ2mmであると記載されている。ここで、仮にκ−1を1mmとして、いくつかの接触角について、膜厚eを計算すると、θ=6°では膜厚eが105μmとなり、θ=30°では膜厚eが518μmとなり、θ=40°では膜厚eが684μmとなり、θ=60°では膜厚eが1000μmとなる。同書によれば、κ−1が1mmである場合には、θが6°である場合でさえも60μm以下のような十分に薄い膜を維持できないことになる。しかしながら、本発明において用いるコロイド分散液においては、コロイド分散液に対する接触角が30°程度の基板においても、平均膜厚50μmの膜を形成することが可能である。このように、本発明においては、用いるコロイド分散液との関係で、接触角40°以下の基板を用いた場合にも十分に薄い平均膜厚(好ましくは60μm以下)を有するコロイド結晶膜を製造できることを見出しており、かかる観点から、前記基材のコロイド分散液に対する接触角の上限を40°としている。
【0061】
なお、このような基材の表面のコロイド分散液に対する接触角は一般的に表面処理を施した後、時間が経過すると徐々に変化する傾向にあるため、本発明においては、基材の「コロイド分散液に対する接触角」として、表面処理を施した後、30分経過後に測定した値を採用する。また、本発明において「接触角」の測定方法としては、JIS規格R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準じて測定する方法であり、測定装置として協和界面化学社製の商品名「CA−A」を利用し、23℃の温度条件下において、2mLの液滴(分散液)を用いて、液滴を滴下した後、約15秒後に、基板面と液滴と空気との三つが接する点と液滴の頂点とを結ぶ直線が基板面となす角度を読み取り、その角度の値を2倍することにより接触角の値を測定する方法を採用する。また、このような「接触角」は、上述のように基材に表面処理を施した場合には表面処理後30分経過した際に測定し、それ以外の場合には基材をそのまま用いて測定する。更に、このようなコロイド分散液に対する接触角は表面処理後1時間程度は顕著に変化することがないため、工程(B)及び工程(C)で得られた基材は、それぞれ表面処理を行った後、1時間以内に利用することが好ましい。
【0062】
次に、工程(D)を説明する。工程(D)は、前記表面処理後の基材に前記コロイド分散液を塗布して塗膜を形成する工程である。
【0063】
このようなコロイド分散液を基材に塗布する方法としては特に制限されず、液体を固体表面に塗布することが可能な公知の方法を適宜利用することができ、例えば、スプレー塗装法、ディップコート法、ロールコート法、バーコート法、ドクターブレード法等を利用できる。ただし、スピンコート法は、遠心力により発生するせん断力による粒子配列(結晶化)作用があるため、基材表面の濡れ性による発色の違いが得られ難いため適用が困難である。
【0064】
また、このようなコロイド分散液を基材に塗布する方法としては、曲面を有する基材への成膜が可能であること、コロイド結晶の発色の均一性が得られやすいなどの点から、スプレー塗装法を用いることがより好ましい。このようなスプレー塗装の方法としては特に制限されず、エアースプレーガンによるスプレー塗装であってもよく、あるいは、エアレスガンによるスプレー塗装であってもよい。また、このようなスプレー塗装の際の雰囲気や温度等の各種条件は特に制限されず、公知のスプレー塗装の条件を適宜採用することができ、用いるコロイド分散液中のモノマーの種類等に応じて適宜調整すればよい。また、このようにスプレー塗装法を利用する場合には、より均一に塗装を施すことができ且つ十分な厚みの塗膜を得ることができるという観点から、前述のように25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定した粘度が10〜100mPa・s(より好ましくは20〜60mPa・s)のコロイド分散液を利用することが好ましい。
【0065】
また、このようにして前記表面処理後の基材に前記コロイド分散液を塗布して塗膜を形成した後においては、コロイド分散液の濡れ広がり方の違いを利用して十分に凹凸を形成させることや塗膜中において自己組織的に粒子を再配列させることを達成させるために、所定時間静置することが好ましい。このようにして塗膜を静置する時間としては、用いる分散媒成分の種類等によっても異なるものであり一概には言えないが、十分に凹凸が形成され且つ十分に粒子が再配列される時間とすればよく、例えば、10分間程度以上(より好ましくは10分〜1時間程度)とすることが挙げられる。
【0066】
次に、工程(E)について説明する。工程(E)は、前記塗膜中の前記分散媒成分を重合させてコロイド結晶をポリマーで固定化せしめ、前記第一の接触角を有する領域と前記第二の接触角を有する領域の形状に応じた凹凸が形成されたコロイド結晶膜を得る工程である。
【0067】
このようなコロイド分散液の塗膜中の前記分散媒成分を重合させる方法としては特に制限されず、前記塗膜中において自己組織的に形成された結晶構造を消失させることなく、前記分散媒成分を重合させることが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、光重合による重合方法、加熱による重合方法等が挙げられる。なお、加熱により重合させる場合には、加熱により結晶構造が消失してしまうことを防止するという観点から、80℃程度以下の温度条件で重合させることが好ましい。
【0068】
また、このような分散媒成分の重合方法の中でも、加熱を伴うことなく、塗膜中に形成されたコロイド粒子の規則配列構造を十分に維持しながら、より効率よく分散媒成分を重合できるという観点から、電磁波(紫外光や電子線等)を照射することにより重合する方法を採用することが好ましい。また、前記コロイド分散液に光重合性のモノマー等を含有させた場合には、光を照射することで分散媒成分を重合させる光重合による方法を採用することが好ましい。また、このような分散媒成分の重合方法として、光重合による方法を採用する場合には、より効率よく重合反応させるという観点から、前記コロイド分散液としては光重合開始剤を含有するものを用いることが好ましい。
【0069】
このような光重合においては、コロイド結晶中のコロイド粒子の3次元規則配列構造をより十分に維持しながら重合させるという観点から、0〜40℃程度の温度条件下で重合させることが好ましい。更に、このような光重合においては、モノマーのラジカル重合反応の酸素による阻害を抑制するという観点から、不活性ガス雰囲気(例えば窒素ガス雰囲気)下において、前記塗膜に光を照射することが好ましい。また、このような光重合の際に照射する光としては特に制限されず、モノマーや光重合開始剤の種類等に応じて適宜好適な波長の光を採用すればよく、例えば、紫外光を採用してもよい。
【0070】
また、このようにして前記塗膜中の前記分散媒成分を重合させてコロイド結晶をポリマーで固定化せしめることにより、第一の接触角を有する領域の形状と第二の接触角を有する領域の形状とに応じて凹凸が形成されたコロイド結晶膜が得られる。すなわち、上述のように、第一の接触角を有する領域と第二の接触角を有する領域とでは、前記コロイド分散液に対する濡れ性が異なるため、より小さな角度を有する領域においてはコロイド分散液がより濡れ広がり易く、コロイド分散液の塗膜の厚みが薄くなるのに対して、より大きな角度を有する領域においては、より小さな角度を有する領域よりもコロイド分散液が濡れ広がり難く、塗膜の厚みが維持され易いため、第一の接触角を有する領域と第二の接触角を有する領域とを有する基材を用いてポリマーで固定化したコロイド結晶膜を製造した場合においては、第一の接触角を有する領域の上に形成されている膜の厚みと、第二の接触角を有する領域の上に形成されている膜の厚みが異なるものとなり、これにより、前記各領域の形状に応じた凹凸が形成されて、コロイド結晶膜のパターニングが可能となる。
【0071】
また、このようにして得られるコロイド結晶膜においては、少なくとも一部の領域に、反射スペクトルにおける反射率が30%(より好ましくは40%)を超え且つ半値幅が50nm(より好ましくは40nm)以下となる反射ピークを有するコロイド結晶構造が確認されることが好ましい。このような反射率が前記下限未満の領域においては、十分な発色を有する意匠性の高いコロイド結晶構造が形成されていない傾向にある。また、前記半値幅が前記上限を超えると、コロイド結晶の構造色の特長の一つである彩度の高さが損なわれる傾向にある。なお、ここにいうコロイド結晶膜の反射スペクトルの測定方法としては、マルチチャンネル式分光器(相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert S−2650」)を用い、同軸光ファイバにて基板面に対して垂直な方向における反射スペクトルを測定する方法を採用する。なお、本発明においては、基材に蒸着したアルミニウム蒸着膜の反射スペクトルを参照スペクトルとして利用して、測定されたコロイド結晶膜の反射スペクトルを前記参照スペクトルで割り算することにより、反射スペクトルの縦軸の反射率を求め、これをプロットすることで反射スペクトルのグラフを求める。
【0072】
また、このような凹凸が形成されたコロイド結晶膜としては、25〜45μmの範囲の平均膜厚を有する領域と、前記範囲外の平均膜厚を有する領域とを有することが好ましい。このような平均膜厚が25〜45μmの範囲の領域においては、前記コロイド分散液中のコロイド粒子が自己組織的に再配列され易く、且つ、膜厚方向に結晶方位がそろって再配列され易いことから配向性がより良好なものとなり、その領域の塗膜をより均一でより高い反射率を有する膜とすることができ、その領域内のコロイド結晶膜の意匠性をより高度なものとすることできる。また、25〜45μmの範囲の膜厚を有する領域においては、反射スペクトルにおいて反射率が30%(より好ましくは40%)を超え且つ半値幅が50nm(より好ましくは40nm)以下となる反射ピークが確認されるコロイド結晶構造がより容易に形成される。なお、このような膜厚を25μm未満の領域では、平均膜厚が25〜45μmの範囲の領域と比較して反射率が低くなる傾向にある。一方、平均膜厚が45μmを超える領域では配向性が乱れることから均一な発色膜とならない傾向にある。そのため、コロイド結晶膜を、25〜45μmの範囲の平均膜厚を有する領域と、前記範囲外の膜厚を有する領域とを有するものとすることで、その領域の膜厚に応じて、発色を異ならせて、文字や絵や図柄などのパターンを生じさせることが可能となる。
【0073】
なお、本発明においては、重合後の膜(コロイド結晶膜)の平均膜厚は、以下に記載のような方法で求める。すなわち、先ず、形成されたコロイド結晶膜をカッターナイフで傷つけた後、光学顕微鏡(例えばキーエンス社製の商品名「VF−7500型」)を用いて、コロイド結晶膜の表面及び基材の表面にそれぞれピントを合わせた時の対物レンズの位置をそれぞれ顕微鏡内蔵の目盛りから読み取る。なお、このような対物レンズの位置の読み取りは1μm単位で読み取る。次に、その読み取り値の差を求める。これにより、その測定箇所におけるコロイド結晶膜の膜厚が求められる。そして、本発明においては、このような測定方法で任意の5点以上の測定箇所においてコロイド結晶膜の厚みを測定し、これらの平均値を計算することによりコロイド結晶膜の平均膜厚を求める。
【0074】
このように、本発明においては、上述の工程(A)〜(E)を実施することにより、容易にコロイド結晶膜のパターニングを可能とする。また、このようなパターニングにより形成されるパターン形状は、表面処理後の基材表面上の第一の接触角を有する領域の形状と第二の接触角を有する領域の形状とに起因して変化させることができるため、前記表面処理により接触角を0°以上40°以下の範囲において変化させる領域の形状を任意のデザインとすることが可能であり、所望のデザインのパターニングが可能である。そのため、本発明においては、簡便な方法で、表面が任意のデザインにパターンニングされたコロイド結晶膜を効率よく得ることができる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
なお、以下の各試験例、各実施例及び各比較例に記載されている基板(黒塗装鋼板又は樹脂基板)の「接触角」は、JIS規格R3257「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準じた測定方法により測定した値であり、測定装置として協和界面化学社製の商品名「CA−A」を利用し、23℃の温度条件下において、2mLの液滴(分散液)を用いて、液滴を滴下した後、約15秒後に、基板面と液滴と空気との三つが接する点と液滴の頂点とを結ぶ直線が基板面となす角度を読み取り、その角度の値を2倍することにより測定した値である。
【0077】
(合成例1)
先ず、ポリエチレングリコールジアクリレートモノマー(中村化学社製の商品名「NKエステルA−200」)と、ポリエチレングリコールモノアクリレートモノマー(新中村化学社製の商品名「NKエステルAM−30G」)とを、重量比が8:2となる割合で混合し、これによりモノマーからなる分散媒を準備した。次に、前記分散媒中に、Stober法にて合成したシリカ粒子(平均粒子径200nm、単分散度:5%)を含有量が27体積%になるようにして添加し、室温(25℃)条件下で超音波(45kHz)を3時間印加して分散させ、コロイド粒子(シリカ粒子)がモノマー中に均一分散したコロイド分散液を得た。そして、このようにして得られたコロイド分散液に対して、光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製の商品名「Darocure1173」)を1重量%添加した。
【0078】
なお、上述のようにして得られたコロイド分散液においては虹彩色が観察された。また、このようなコロイド分散液に対して、相馬光学社製の商品名「マルチチャンネル分光計 Fastvert」を用いて反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが認められ、コロイド分散液中においてコロイド結晶が形成されていることが確認された。また、このようにして得られたコロイド分散液の粘度を、レオメトリックス・サイエンティフィック製の「フルードスペクトロメータ ARES」にて、直径25mm、コーン角度0.1radのコーンプレートを用い、測定温度:25±0.1℃、せん断速度:1000s−1の条件で測定したところ、かかるコロイド分散液の粘度は33mPa・sであった。
【0079】
(試験例1)
先ず、中塗り塗装上に黒ソリッド塗装(関西ペイント製)を施した黒色塗装鋼板を準備した。次に、前記黒塗装鋼板を中性洗剤で洗浄した後、合成例1で得られたコロイド分散液に対する表面の接触角を、上述のように、測定装置として協和界面科学社製の商品名「CA‐A」を用いて測定した。このような測定の結果、前記黒塗装鋼板の表面の前記コロイド分散液に対する接触角は29°であることが確認された。
【0080】
次いで、前記黒塗装鋼板に対して、光表面処理装置(セン特殊光源社製、商品名「PL16−110」)を用いてUVオゾン処理を施して、UVオゾン処理による処理時間と前記黒塗装鋼板の表面のコロイド分散液に対する接触角との関係(接触角の処理時間に伴う変化)を測定した。なお、この際、前記黒塗装鋼板の表面とランプとの距離5cmとなるようにして酸素雰囲気下においてUVを照射した。また、接触角の測定はUVオゾン処理を施した後、30分後に測定した値である。UVオゾン処理による処理時間と前記黒塗装鋼板の表面のコロイド分散液に対する接触角との関係を示すグラフを図1に示す。
【0081】
図1に示す結果からも明らかなように、前記黒塗装鋼板においては、10分のUVオゾン処理で表面のコロイド分散液に対する接触角を10°とすることができ、15分以上のUVオゾン処理で表面のコロイド分散液に対する接触角を5°〜6°とすることができることが確認された。
【0082】
(試験例2)
ABS樹脂(acrylonitrile butadiene styrene copolymer)に黒色のプライマー(関西ペイント製レタンPG60)を塗装した樹脂基板を準備した。
【0083】
次に、前記黒塗装鋼板の変わりに前記樹脂基板を用いた以外は試験例1と同様にして、UVオゾン処理による処理時間と前記樹脂基板の表面の合成例1で得られたコロイド分散液に対する接触角との関係(接触角の処理時間に伴う変化)を測定した。UVオゾン処理による処理時間と前記樹脂基板の表面のコロイド分散液に対する接触角との関係を示すグラフを図2に示す。なお、このような樹脂基板の表面のコロイド分散液に対する接触角は13°であった。
【0084】
図2に示す結果からも明らかなように、1分のUVオゾン処理によりコロイド分散液に対する接触角は一旦30°まで増加した後、3分のUVオゾン処理でコロイド分散液に対する接触角を18°とすることができ、5分のUVオゾン処理でコロイド分散液に対する接触角を5°まで低下させることができることが確認された。
【0085】
(実施例1)
合成例1で得られたコロイド分散液を用いて、コロイド結晶膜を製造した。すなわち、先ず、試験例1で用いたものと同様の未処理の黒塗装鋼板(当初の接触角29°)を準備し、前記黒塗装鋼板に対して、光表面処理装置(セン特殊光源社製、商品名「PL16−110」)を用いて前記黒塗装鋼板の表面とランプとの距離5cmとなるようにしながら酸素雰囲気下においてUVを照射するUVオゾン処理を10分間施し、コロイド分散液に対する接触角が10°の表面を有する基材を準備した。次に、前記基材の表面に、イルカをかたどったマスクとカワセミをかたどったマスク(前記マスクはそれぞれ光を透過しない厚紙にて作製)をそれぞれ置き、マスクを置いた部分に光が当たらないようにしながら、前記基材に対して前記UVオゾン処理を10分間施した。このようなUVオゾン処理後、30分経過後に前記基材の合成例1で得られたコロイド分散液に対する接触角を測定したところ、前記基材の表面のマスクを置いた領域はそれぞれ接触角が10°であり、マスクが置かれていなかった領域は接触角が5°であった。
【0086】
次いで、合成例1で得られたコロイド分散液を用意し、これをエアースプレーガンを用いて前記基材の表面にスプレー塗装して塗膜を形成せしめた。このようなスプレー塗装に際しては、塗膜の膜厚が30μmとなるように設定した(設定膜厚:30μm)。
【0087】
このようにしてスプレー塗装により塗膜を形成せしめた後、前記塗膜の形成された基材をグローブボックス内に搬送して窒素雰囲気中にて高圧水銀ランプの光を1分間照射し、前記塗膜中のモノマーを光重合させた。これにより基材上にポリマーで固定化されたコロイド結晶膜を製造した。
【0088】
このようにして得られたコロイド結晶膜(薄膜)の写真を図3に示す。また、図3とは異なる角度から撮影したコロイド結晶膜(薄膜)の写真を図4に示す。図3〜4に示す写真からも明らかなように、得られるコロイド結晶膜においてはマスクの形であるイルカとカワセミの形状がくっきりと現われていることが確認された。
【0089】
また、図3〜4に示しているコロイド結晶膜(薄膜)のカワセミの模様が現れている領域と、その模様の外側の領域(基材の表面のマスクをしていなかった領域の上に形成されている膜部分)とにおいて、反射スペクトルを測定した。なお、このような反射スペクトルの測定方法としては、マルチチャンネル式分光器(相馬光学社製の商品名「S−2650」)を用い、前記各領域に対して同軸光ファイバにて垂直方向から直径10mmの照射形状で白色光を照射して反射スペクトルを測定する方法を採用した。結果を図5に示す。
【0090】
図5に示す結果からも明らかなように、前記カワセミの模様が現れている領域(UVオゾン処理時にマスクが置かれた領域上に形成された膜部分)においては、反射スペクトルにおける反射ピーク強度(反射率)が30%を超えていた。一方、前述のカワセミの模様の外側の領域(カワセミの模様の周辺部であってイルカの模様部分以外の部分)においては、反射スペクトルにおける反射ピーク強度は21%であった。このような結果から、得られた膜がコロイド結晶膜であることが確認されるとともに、カワセミの模様が現れている領域と、その外側の領域(周辺部)とではコロイド粒子の規則配列の状態が異なるものとなり、領域により構造発色が異なることが分かった。
【0091】
次に、このようにして得られたコロイド結晶膜に関して、イルカの模様及びカワセミの模様が現れた領域の膜厚を、以下の方法を利用して測定した。すなわち、先ず、各領域にそれぞれカッターナイフを用いて傷を付けた。次に、光学顕微鏡(キーエンス製VF−7500型)を用いて、コロイド結晶膜の表面と傷を付けたことにより現れた基材の表面とに、それぞれピントを合わせ、その時の対物レンズの位置を顕微鏡内蔵の目盛りからそれぞれ読み取った。そして、測定された読み取り値の差を計算し、これによりコロイド結晶膜の膜厚を求めた。なお、このような膜厚の測定に際しては1μm単位で対物レンズの位置を読み取った。また、このような測定は、イルカの模様が現れた領域及びカワセミの模様が現れた領域内の6箇所の測定点においてそれぞれ行った。
【0092】
このような測定の結果、イルカの模様が現れた領域及びカワセミの模様が現れた領域の膜厚はそれぞれ36±2μm(平均膜厚36μm)であった。また、同様にして、これらの模様が形成されていない領域(周辺部)の10箇所の測定点において膜厚の測定を行ったところ、周辺部の膜厚は23±3μm(平均膜厚23μm)であった。
【0093】
このような結果から、本発明(実施例1)によれば、マスクを用いて基材に対するUVオゾン処理の時間を変えるだけの簡便な工程で、得られるコロイド結晶膜にマスクの形に由来する模様で凹凸を形成せしめ、かつ、コロイド結晶の発色性を異ならせることができることが分かり、所望のデザインでパターニングされたコロイド結晶膜を効率よく製造できることが確認された。
【0094】
(実施例2)
合成例1で得られたコロイド分散液を用いて、コロイド結晶膜を製造した。すなわち、先ず、未処理の黒塗装鋼板に対するUVオゾン処理の時間を10分間から5分間に変更し且つマスクを置いた後のUVオゾン処理の時間を10分間から15分間に変更した以外は、実施例1で採用した基材の準備工程と同様にして基材を準備した。このようにして得られた基材表面のマスクを置いた領域は、接触角が24°であり、マスクが置かれていなかった領域は接触角が5°であった。次に、このようにして得られた基材を用い且つスプレー塗装時の設定膜厚を40μmとした以外は、実施例1と同様にしてコロイド結晶膜を製造した。
【0095】
このようにして得られたコロイド結晶膜においては、マスクを置かなかった領域上に形成された膜部分は均一な発色を示し、基板を真上から見た際に赤色を呈していた。一方、マスクを置いた領域上に形成された膜部分は曇りのかかったような発色の鈍い膜となっていた。このように、得られたコロイド結晶膜においては、発色の違いによりイルカとカワセミの模様が浮き出ることが確認された。また、実施例1と同様にして、このようなコロイド結晶膜のイルカの模様及びカワセミの模様の外側の領域(周辺部)の反射スペクトルを測定したところ、30%を超える反射ピークが確認され、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜が得られたことが確認された。一方、イルカの模様及びカワセミの模様が形成された領域においては、反射スペクトルにおける反射ピーク強度は30%未満であった。
【0096】
また、実施例1と同様にして、イルカの模様が現れた領域及びカワセミの模様の外側の領域の膜厚を測定(測定点:6箇所)したところ、膜厚は38±3μm(平均膜厚38μm)であった。また、同様にして、模様が形成された領域(周辺部)の膜厚を測定(測定点:10箇所)したところ、膜厚は48±3μm(平均膜厚48μm)であった。
【0097】
(実施例3)
合成例1で得られたコロイド分散液を用いて、コロイド結晶膜を製造した。すなわち、先ず、実施例1で用いたイルカをかたどったマスクの形状と実施例1で用いたカワセミをかたどったマスクの形状と同じ形状で厚紙に穴を開け、イルカの形とカワセミの形の穴が開いた厚紙からなるマスクを準備した。次に、試験例1で用いたものと同様の未処理の黒塗装鋼板(当初の接触角29°)を準備し、前記黒塗装鋼板に対して前記マスクを置いた後、光表面処理装置(セン特殊光源社製、商品名「PL16−110」)を用いて前記黒塗装鋼板の表面とランプとの距離5cmとなるようにしながら酸素雰囲気下においてUVを照射するUVオゾン処理を10分間施した後、前記マスクを取り除き、更にUVオゾン処理を10分間施して基材を準備した。このようなUVオゾン処理後、30分経過後に前記基材の合成例1で得られたコロイド分散液に対する接触角を測定したところ、前記基材の表面のマスクを置いた領域はそれぞれ接触角が10°であり、マスクが置かれていなかった領域(穴の開いていた部分)は接触角が5°であった。次に、このようにして得られた基材を用いた以外は、実施例1と同様にしてコロイド結晶膜を製造した。
【0098】
このようにして得られたコロイド結晶膜においては、基板を真上から見た際にイルカとカワセミの形に発色の鈍い部分があり、その周辺には均一な赤色発色を示す領域が形成されており、発色の違いによりイルカとカワセミの模様が浮き出された。また、このようなコロイド結晶膜をやや斜めから観察したところ、全体的に緑色に発色して、イルカとカワセミの形をした部分が少し沈んだような、やや立体感のある模様が観察された。また、実施例1と同様にして、このようなコロイド結晶膜のイルカの模様及びカワセミの模様の外側の領域(周辺部)の反射スペクトルを測定したところ、30%を超える反射ピーク強度が確認され、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜が得られたことが確認された。一方、イルカの模様及びカワセミの模様が形成されていた領域(基材のマスクの穴が開いた部分の領域(接触角が5°)上に形成された膜部分)においては、反射ピーク強度は30%未満であった。
【0099】
また、実施例1と同様にして、イルカの模様が現れた領域及びカワセミの模様が現れた領域の膜厚を測定(測定点:6箇所)したところ、膜厚はそれぞれ22±3μm(平均膜厚22μm)であった。また、同様にして、これらの模様が形成されていない領域(周辺部)の膜厚を測定(測定点:10箇所)したところ、周辺部の膜厚は33±3μm(平均膜厚33μm)であった。
【0100】
(実施例4)
黒塗装鋼板の代わりに試験例2で用いたものと同様の樹脂基板を用い、未処理の樹脂基板に対するUVオゾン処理の時間を3分間とし、マスクを置いた後のUVオゾン処理の時間を3分間とした以外は、実施例1と同様にして基材を準備した。このようにして得られた基材の表面のマスクを置いた領域は、接触角がそれぞれ18°であり、マスクが置かれていなかった領域は接触角が5°であった。次に、このようにして得られた基材を用いた以外は、実施例1と同様にしてコロイド結晶膜を製造した。
【0101】
このようにして得られたコロイド結晶膜においては、マスクを置かなかった領域上に形成された膜部分は均一な発色を示し、基板を真上から見た際に赤色を呈していた。一方、マスクを置いた領域上に形成された膜部分は曇りのかかったような発色の鈍い膜となっていた。このように、得られたコロイド結晶膜においては、発色の違いによりイルカとカワセミの模様が浮き出ることが確認された。また、実施例1と同様にして、このようなコロイド結晶膜のイルカの模様及びカワセミの模様が現れた領域(基材のマスクが置かれた領域上に形成された膜部分)の反射スペクトルを測定したところ、30%を超える反射ピークが確認され、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜が得られたことが確認された。一方、前述の模様の外側の領域(周辺部)においては、反射ピーク強度は30%未満であった。
【0102】
また、実施例1と同様にして、イルカの模様が現れた領域及びカワセミの模様が現れた領域の膜厚を測定(測定点:6箇所)したところ、膜厚はそれぞれ34±3μm(平均膜厚34μm)であった。また、同様にして、これらの模様が形成されていない領域(周辺部)の膜厚を測定(測定点:10箇所)したところ、周辺部の膜厚は23±3μm(平均膜厚23μm)であった。
【0103】
(実施利5)
合成例1で得られたコロイド分散液を用いて、コロイド結晶膜を製造した。すなわち、先ず、試験例1で用いたものと同様の未処理の黒塗装鋼板(当初の接触角29°)を準備し、前記黒塗装鋼板に対して、光表面処理装置(セン特殊光源社製、商品名「PL16−110」)を用いて前記黒塗装鋼板の表面とランプとの距離5cmとなるようにしながら酸素雰囲気下においてUVを照射するUVオゾン処理を15分間施し、コロイド分散液に対する接触角が5°の表面を有する基材を準備した。次に、実施例3で用いたマスクと同様のイルカの形とカワセミの形の穴が開いた厚紙からなるマスクを準備し、かかるマスクを前記基材上に置き、n−プロピルアルコールをしみ込ませたベンコットにて、基材表面のマスクの型の部分(イルカの形とカワセミの形の穴の部分)を拭いた。このようなn−プロピルアルコールによる処理後、30分経過後に前記基材の合成例1で得られたコロイド分散液に対する接触角を測定したところ、前記基材の表面のマスクを置いた領域(ベンコットにて拭かれていない領域)は接触角が5°であり、マスクが置かれていなかった領域(ベンコットにて拭かれた領域)は接触角が24°であった。次に、このようにして得られた基材を用いた以外は、実施例1と同様にしてコロイド結晶膜を製造した。
【0104】
このようにして得られたコロイド結晶膜においては、基板を真上から見た際にイルカとカワセミの形に発色の鈍い部分があり、その周辺には均一な赤色発色を示す領域が形成されており、発色の違いによりイルカとカワセミの模様が浮き出ることが確認された。また、このようなコロイド結晶膜をやや斜めから観察したところ、全体的に緑色に発色して、イルカとカワセミの形をした部分が発色のにぶさから少し沈んだようにも見える、やや立体感のある模様が観察された。また、得られたコロイド結晶膜においては、実施例1と同様にして、このようなコロイド結晶膜のイルカの模様及びカワセミの模様の外側の領域(周辺部)の反射スペクトルを測定したところ、30%を超える反射ピーク強度が確認され、十分に高度な反射率を有するコロイド結晶膜が得られたことが確認された。一方、イルカの模様及びカワセミの模様が形成されていた領域(基材のベンコットにて拭かれた領域上の膜部分)においては反射ピーク強度は30%未満であった。
【0105】
また、実施例1と同様にして、イルカの模様が現れた領域及びカワセミの模様が現れた領域の膜厚を測定(測定点:6箇所)したところ、膜厚はそれぞれ50±3μm(平均膜厚50μm)であった。また、同様にして、これらの模様が形成されていない領域(周辺部)の膜厚を測定(測定点:10箇所)したところ、膜厚は39±3μm(平均膜厚39μm)であった。
【0106】
(実施例6)
合成例1で得られたコロイド分散液を用いて、コロイド結晶膜を製造した。すなわち、先ず、未処理の黒塗装鋼板に対するUVオゾン処理の時間を10分間から8分間に変更し且つマスクを置いた後のUVオゾン処理の時間を10分間から5分間に変更した以外は、実施例1で採用した基材の準備工程と同様にして基材を準備した。このようにして得られた基材の表面のマスクを置いた領域は接触角がそれぞれ12°であり、マスクが置かれていなかった領域は接触角が8°であった。次に、このようにして得られた基材を用い且つスプレー塗装時の設定膜厚を50μmとした以外は、実施例1と同様にしてコロイド結晶膜を製造した。
【0107】
このようにして得られたコロイド結晶膜においては、それらの輪郭によりイルカとカワセミの模様が確認された。なお、実施例1と同様にして、このようなコロイド結晶膜の反射スペクトルを測定したところ、反射ピークが確認され、コロイド結晶が形成されていることが確認された。なお、イルカとカワセミの模様の部分(基材のマスクが置かれた領域上に形成された膜部分)及びその外周部分のいずれにおいても、反射スペクトルにおける反射ピーク強度が30%未満であった。
【0108】
また、実施例1と同様にして、イルカの模様が現れた領域及びカワセミの模様が現れた領域の膜厚を測定(測定点:6箇所)したところ、膜厚はそれぞれ50±3μm(平均膜厚50μm)であった。また、同様にして、これらの模様が形成されていない領域(周辺部)の膜厚を測定(測定点:10箇所)したところ、膜厚は47±3μm(平均膜厚47μm)であった。
【0109】
(比較例1)
合成例1で得られたコロイド分散液を用いて、コロイド結晶膜を製造した。すなわち、先ず、未処理の黒塗装鋼板に対するUVオゾン処理の時間を10分間から15分間に変更し且つマスクを置いた後のUVオゾン処理の時間を10分間から5分間に変更した以外は、実施例1と同様にして基材を準備した。このようにして得られた基材の表面のマスクを置いた領域は接触角が5°であり、マスクが置かれていなかった領域の接触角が5°であった。すなわち、このようにして得られた基材は表面の全ての領域において前記コロイド分散液に対する接触角が5°であった。次に、このようにして得られた基材を用い且つスプレー塗装時の設定膜厚を40μmとした以外は、実施例1と同様にしてコロイド結晶膜を製造した。
【0110】
このようにして得られたコロイド結晶膜においては、均一な構造発色を示し、マスクの模様は現れなかった。また、このようにして得られたコロイド結晶膜に対して、実施例1と同様にして膜厚を測定したところ、基材のマスクを置いた領域上に形成された膜も基材のマスクを置かなかった領域上に形成された膜も、ともに膜厚は37±3μm(平均膜厚37μm)であった。このような結果から、UVオゾン処理の時間が異なっていても第一の接触角と第二の接触角の角度の差が0°である場合にはパターニングを行うことができないことが分かった。
【0111】
(比較例2)
合成例1で得られたコロイド分散液を用いて、コロイド結晶膜を製造した。すなわち、先ず、未処理の黒塗装鋼板に対して15分間のUVオゾン処理のみを施した。このようにしてUVオゾン処理を施した黒塗装鋼板は表面の全ての領域において前記コロイド分散液に対する接触角が5°であった。次に、前記黒塗装鋼板に対して、フッ素コーティング剤(有限会社新昭和コート製、商品名「G−600」)を綿棒により部分的に薄く塗布し、約30分間自然乾燥させて、基材を得た。このようにしてフッ素コーティング剤を塗布した後、30分経過後においてフッ素コーティング剤を塗布した領域の前記コロイド分散液に対する接触角を測定したところ、接触角は65°であった。また、それ以外の領域の接触角は5°のままであった。次に、このようにして得られた基材を用い且つスプレー塗装時の設定膜厚を40μmとした以外は、実施例1と同様にしてコロイド結晶膜を製造した。
【0112】
このようにして得られたコロイド結晶膜は、フッ素コーティング剤を塗布しなかった部分は均一な発色を示し、基板を真上から見た際に赤色を呈していたが、フッ素コーティング剤を塗布した領域は、直径1mm以下のドーム状の塊が液滴状に集まったものとなっており、連続した膜が形成されていないことが確認された。このような結果から、コロイド分散液に対する接触角が65°である領域を有する基材を用いた場合には、コロイド分散液が十分に濡れ広がらず、連続膜を形成できないことが分かった。
【0113】
以上のような結果から、0°以上40°以下の範囲で部分的に前記コロイド分散液に対する接触角の異なる領域が形成され且つ接触角の異なる領域同士の接触角の差が4°以上である基材と、前記コロイド分散液とを用いて、前記基材に前記コロイド分散液を塗布し、分散媒を硬化(重合)せしめることにより、前記接触角の異なる領域の形状に応じた凹凸が形成されたコロイド結晶膜を得ることができ、コロイド結晶膜のパターニングが可能となることが確認された。また、実施例1〜5に示す結果から、得られるコロイド結晶膜においては凹部と凸部とで反射スペクトルのピーク強度が異なるものとなることが分かった。更に、実施例1〜6に示す結果から、少なくとも一方の領域の反射スペクトルの強度が30%以上である場合(実施例1〜5)には、その領域においてより発色がよくなり、より意匠性に富んだコロイド結晶膜となることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上説明したように、本発明によれば、表面が任意のデザインにパターンニングされたコロイド結晶膜を効率よく且つ確実に製造することを可能とするパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法を提供することが可能となる。このような本発明のパターンニングされたコロイド結晶の製造方法は意匠性に優れたコロイド結晶膜を提供することが可能であるため、構造色色材を製造するための方法等として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマー及びポリマーからなる群から選択される少なくとも1種を含有する分散媒成分と、平均粒径が0.01〜10μmの範囲にあり且つ下記式(1):
[単分散度(単位:%)]=([粒径の標準偏差]/[平均粒径])×100 (1)
で表される単分散度が20%以下であるコロイド粒子とを含有し且つ前記分散媒成分中に前記コロイド粒子が反射スペクトルにおいて反射ピークを有する3次元規則配列状態で分散されているコロイド分散液を準備する工程と、
表面が前記コロイド分散液に対して0°以上40°以下の範囲の第一の接触角を有する基材を準備する工程と、
前記基材の表面の一部の領域の前記コロイド分散液に対する接触角を0°以上40°以下の範囲において変化させる表面処理を前記基材に施して、前記表面処理後の前記一部の領域を前記第一の接触角との角度の差が4°以上となる第二の接触角を有する領域とする工程と、
前記表面処理後の基材に前記コロイド分散液を塗布して塗膜を形成する工程と、
前記塗膜中の前記分散媒成分を重合させてコロイド結晶をポリマーで固定化せしめ、前記第一の接触角を有する領域と前記第二の接触角を有する領域の形状に応じた凹凸が形成されたコロイド結晶膜を得る工程と、
を含むことを特徴とするパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記第一及び第二の接触角のうちの一方の角度が0°以上6°以下の範囲にあり、他方の角度が6°超40°以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記コロイド結晶膜が、25〜45μmの範囲の平均膜厚を有する領域と、前記範囲外の平均膜厚を有する領域とを有することを特徴とする請求項1又は2に記載のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項4】
前記コロイド分散液が、25℃±0.1℃の温度条件下においてせん断速度1000S−1で測定した粘度が10〜100mPa・sのものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法。
【請求項5】
前記塗膜を形成する工程において、スプレー塗装により前記表面処理後の基材に前記コロイド分散液を塗布することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のパターニングされたコロイド結晶膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−167663(P2011−167663A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36226(P2010−36226)
【出願日】平成22年2月22日(2010.2.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】