説明

パターンの形成方法及び電子部品

【課題】低コストで所望領域にパターンを高精度に形成することができるパターンの形成方法、及びこのパターンの形成方法を使用した電子部品を得る。
【解決手段】セラミックグリーンシート1上に、パターンを形成すべきパターン形成領域9が設けられている(a)。そして、Ag等からなる金属微粒子を溶剤中に分散させた微粒子分散溶液を用意する。次いで、前記微粒子分散溶液を使用してスクリーン印刷し、これにより多数の金属微粒子10の集合体からなる濡れ拡がり抑制部11をパターン形成領域9に形成する(b)。次いで、インクジェットヘッド12からパターン形成領域9内にインク13を滴下させ、インク13及び金属微粒子10の集合体(濡れ拡がり抑制部11)からなるパターン14を形成する(c)。金属微粒子の他、絶縁性微粒子を使用しても、同様に絶縁パターンを形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンの形成方法、及び電子部品に関し、より詳しくはインクジェット方式等によりシート部材にインクを滴下して配線パターンや絶縁パターン等のパターン形成を行うパターンの形成方法、及び該パターンの形成方法を使用して製造されたセラミック多層基板や配線基板等の電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットは、インクを微滴化し、被印字媒体に対しインクを直接吹き付けて印刷を行う印刷方法であり、1つのノズルから必要なときにインクを吐出して任意のパターンを形成できることから、配線基板等のパターン形成に広く使用されている。
【0003】
しかしながら、図7(a)に示すように、単にインク101をノズル(不図示)から吐出してシート102上に滴下したのでは、図7(b)に示すように、インク101がシート102上に濡れ拡がり、所望のパターンを形成することができなくなるおそれがある。
【0004】
そこで、特許文献1では、基板上にバンク膜を形成する工程と、該バンク膜の表面に撥液処理を施す工程と、撥液処理が施された前記バンク膜をパターニングし、バンクを形成する工程と、該バンクに区画されたパターン形成領域の表面の水酸基を、アルキル化する表面改質処理を施す工程と、前記パターン形成領域にインクを配置する工程と、該インクを焼成してパターンを形成する工程とを備えたパターンの形成方法が提案されている。
【0005】
この特許文献1では、基板上にバンク膜を形成した後、スピンコート法によりバンク膜の表面にフッ素系樹脂材料を塗布した後、プリベークしてバンク膜に撥液性を付与している。そしてこの後、マスクを用いてバンク膜及びフッ素系樹脂材料を露光、現像等し、これにより、図8に示すように、パターン形成領域103が凹状に加工されたバンク104及びフッ素系樹脂部105を基板106上に形成している。
【0006】
そして、インクジェットヘッド107からインク108をパターン形成領域103に滴下することにより、インク108がパターン形成領域103以外の部分に濡れ拡がるのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−26772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、バンク104の作製及び撥液処理によるフッ素系樹脂部105の形成に多大な費用を要し、時間的・経済的損失が大きいという問題点があった。
【0009】
また、インク108が乾燥すると、図9に示すように、インク面108aが凹状となり、このためインク面108aとフッ素系樹脂部面105aとの間にギャップtが形成されるおそれがある。そして、セラミック多層基板のようにセラミックグリーンシートを積層・焼成して使用する場合、上述したようにギャップtが形成されると、導通不良等の不具合が発生するおそれがある。斯かる場合、インク面108a上に更にインク108を滴下することも考えられるが、製造工程が煩雑化し、更なる時間的・経済的損失を招くおそれがある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、低コストで所望領域にのみパターンを高精度に形成することができるパターンの形成方法、及びこのパターンの形成方法を使用した電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明に係るパターンの形成方法は、シート状部材にインクを滴下して所定のパターンを形成するパターンの形成方法であって、多数の凸部の集合体からなる濡れ拡がり抑制部を前記シート状部材の表面に形成し、該濡れ拡がり抑制部上に前記インクを滴下してパターンを形成することを特徴としている。
【0012】
ここで、シート状部材とは、セラミック多層基板用のセラミックグリーンシートの他、シート状に形成された各種プリント基板、樹脂フィルム等、電子部品用途に使用される各種のシート状部材をいう。
【0013】
また、本発明のパターンの形成方法は、多数の微粒子を前記シート状部材の表面に固着させて形成することを特徴としている。
【0014】
また、本発明のパターンの形成方法は、前記濡れ拡がり抑制部を、前記パターンが形成されるべきパターン形成領域に形成することを特徴としている。
【0015】
また、本発明のパターンの形成方法は、前記濡れ拡がり抑制部及び前記インクが、導電性材料を主成分としていることを特徴としている。
【0016】
さらに、本発明のパターンの形成方法は、前記濡れ拡がり抑制部及び前記インクが、絶縁性材料を主成分としていることを特徴としている。
【0017】
また、本発明のパターンの形成方法は、濡れ拡がり抑制部及び前記インクのうち、いずれか一方が導電性材料を主成分とし、他方が絶縁性材料を主成分としていることを特徴としている。
【0018】
また、前記濡れ拡がり抑制部は、前記シート状部材に含有される成分を含んでいることを特徴としている。
【0019】
本発明に係る電子部品は、上記いずれかに記載のパターンの形成方法を使用して製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
上記パターンの形成方法によれば、多数の凸部の集合体からなる濡れ拡がり抑制部を前記シート状部材の表面に形成し、該濡れ拡がり抑制部上に前記インクを滴下してパターンを形成するので、特許文献1のようなバンク形成やフッ素系樹脂部形成のための複雑な工程を要することなく、パターン外にインクが濡れ拡がるのを容易に抑制することができ、所望のパターンをシート部材上に高精度に形成することができる。
【0021】
そして、このようにインクのパターン外への濡れ拡がりを抑制できることから、回路配線のより一層の微細化及び狭スペース化が可能となる。
【0022】
また、特許文献1のようなバンク等の形成が不要であるので、インクとシート上面との間に空隙が形成されるのを回避することが可能となる。したがって、セラミック多層基板や積層型セラミック電子部品のようにパターンが形成されたシート状部材を積層・焼成する場合であっても、導通不良の発生を抑制でき、信頼性向上を図ることができる。しかも、濡れ拡がり抑制部を形成して濡れ拡がりを抑制できる分、インクの底面積を小さくできるので、パターンの厚膜化が可能となる。
【0023】
また、多数の微粒子を前記シート状部材の表面に固着させて形成するので、濡れ拡がり抑制部は適宜の印刷手段を使用することにより、容易に製造することができる。しかも、シート部材を積層して焼成する場合であっても、濡れ拡がり抑制部はパターンと一体となって焼成されるので、パターン表面が粗くなることはない。特に、濡れ拡がり抑制部及び前記インクを、共に導電性材料を主成分としてパターン形成する場合は、電気的な伝送ロスを低減でき、高周波特性の劣化を招くのを防止することができ、良好な周波数特性を得ることができる。
【0024】
前記濡れ拡がり抑制部を、前記パターンが形成されるべきパターン形成領域に形成するので、シート状部材とパターンとの密着力、及びシート状部材同士の密着力を強固にすることができ、シート状部材とパターンとの間、及びシート状部材同士で剥離が生じるのを防止することができる。また、このように濡れ拡がり抑制部の形成をパターン形成領域に限定することにより、短絡不良の発生を抑制でき、信頼性を確保することができる。
【0025】
また、前記濡れ拡がり抑制部及び前記インクは、共に絶縁性材料を主成分とするので、絶縁パターンを形成したい場合は、より絶縁性の高いパターンを得ることができる。
【0026】
また、前記濡れ拡がり抑制部及び前記インクのうち、いずれか一方が導電性材料を主成分とし、他方が絶縁性材料を主成分とするので、パターンの抵抗調整を容易に行うことができ、適宜の導電性を持たせることができる。
【0027】
また、前記濡れ拡がり抑制部は、前記シート状部材に含有される成分を含んでいるので、パターンとシート状部材は共通成分を含むこととなる。したがって、シート状部材とパターンとを共焼成した場合に熱膨張係数の差に起因する収縮量の差異を小さくすることができ、パターンとシート状部材との間の剥離を抑制することができる。また、パターンを介したシート状部材間の密着強度も高められ、したがってパターンが介在してもシート状部材間の剥離を効果的に抑制することができる。
【0028】
また、本発明の電子部品によれば、上述のパターンの形成方法を使用して製造されるので、所望の性能を有する各種電子部品を低コストかつ高精度に製造することができ、信頼性の優れた各種電子部品を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係るパターンの形成方法を使用して製造された電子部品としてセラミック多層基板の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明に係るパターンの形成方法の一実施の形態を示す図である。
【図3】濡れ拡がり抑制部が形成されていない場合に、インクをシート部材上に滴下した場合の濡れ拡がりとその抑制のメカニズムを説明する図である。
【図4】濡れ拡がり抑制部が形成されている場合に、インクをシート部材上に滴下した場合の濡れ拡がりとその抑制のメカニズムを説明する図である。
【図5】セラミックグリーンシートを積層した場合の作用効果を説明する図である。
【図6】本発明に係る濡れ拡がり抑制部の変形例を示す断面図である。
【図7】平滑なシート上にインクを滴下させた場合の状態を説明するための図である。
【図8】特許文献1に記載されたパターン形成工程の要部断面図である。
【図9】特許文献1の課題を説明するための要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づき詳説する。
【0031】
本発明のパターンの形成方法は、セラミック多層基板や積層型セラミック電子部品用のセラミックグリーンシート、アルミナ基板、ガラスエポキシ基板、ベークライト基板、紙エポキシ基板、フッ素樹脂基板等の各種プリント基板、シリコン基板、ポリイミド樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂などの樹脂フィルム等、各種のシート状部材に適用可能であるが、以下の説明ではセラミック多層基板用のセラミックグリーンシートを例示して説明する。
【0032】
図1は本発明に係るパターンの形成方法を使用して製造されたセラミック多層基板(電子部品)の一実施の形態を示す断面図である。
【0033】
このセラミック多層基板は、複数のセラミック層1(第1〜第4のセラミック層1a〜1d)が積層されてセラミック素体2を形成している。
【0034】
また、セラミック素体2の表面には外部導体4a〜4hが形成されると共に、該セラミック素体2の内部には内部導体3a〜3fが埋設され、ビアホール5a〜5gを介して各内部導体間3a〜3f、又は内部導体3a〜3fと外部導体4a〜4hとが電気的に接続されている。
【0035】
そして、外部導体4b〜4e上には外部電子部品としての半導体素子6及びコンデンサ7がはんだを介して接続されている。
【0036】
上記セラミック多層基板は以下のようにして製造することができる。
【0037】
まず、所定形状に成形された第1〜第4のセラミックグリーンシート1a′〜1d′に対しビアホール5a〜5gを形成し、次いで、後述するパターンの形成方法により、所定の配線パターンをインクジェット方式で第1〜第4のセラミックグリーンシート1a′〜1d′上に形成し、その後、第1〜第4のセラミックグリーンシート1a′〜1d′を積層し、所定温度で焼成処理し、第1〜第4のセラミック層1a〜1d、内部導体3a〜3f及び外部導体4a〜4hを有するセラミック素体2を形成する。
【0038】
この後、必要に応じて外部導体4a〜4h上にめっき処理を行い、セラミック多層基板が製造される。
【0039】
そしてその後、半導体素子6及びコンデンサ7が外部導体4b〜4eにはんだ付けされて実装される。
【0040】
図2は内部導体3a〜3f又は外部導体4a〜4hを形成するためのパターンの形成方法を示す図である。尚、この図2では、説明の便宜上、1滴のインクを滴下した場合のパターン形成を示している。
【0041】
すなわち、図2(a)では、印刷ステージ8に載置されたセラミックグリーンシート1′上に、パターンを形成すべきパターン形成領域9が設けられている。
【0042】
そして、まず、金属微粒子(例えば、平均粒径5μm)を溶剤中に分散させた微粒子分散溶液を用意する。金属微粒子の材質としては、特に限定されるものではなく、内部導体用又は外部導体用に適した良導電性を有するAu、Ag、Cu、Pd、Ni、Co、Rh、Ru、Pt、Ir、Al、W等またはこれらの合金を使用することができる。また金属微粒子の平均粒径も同様に特に限定されるものではなく、0.01〜50μm程度の粒径のものを用いることができる。
【0043】
次いで、図2(b)に示すように、多数の金属微粒子10がパターン形成領域9内に高密度(例えば、5000kg/m)で分散するように、前記微粒子分散溶液を使用してスクリーン印刷する。そして、これによりセラミックグリーンシート1′上に多数の金属微粒子10が固着し、これら多数の金属微粒子10(凸部)の集合体からなる濡れ拡がり抑制部11が形成される。
【0044】
金属微粒子10のセラミックグリーンシート1′からの高さHは、特に限定されるものではないが、金属微粒子ができるだけ重ならないようにすることが好ましく、0.02〜50μm程度が好ましい。
【0045】
尚、インクジェット方式で内部導体3a〜3f及び外部導体4a〜4hを形成する場合、インクジェットヘッドからの吐出力によっては、金属微粒子10がパターン形成領域9の外部に飛び散るおそれがある。このため、必要に応じて濡れ拡がり抑制部11を加熱・加圧して金属微粒子10をセラミックグリーンシート1′上に強固に固着させてもよい。
【0046】
その際、金属微粒子10を単にセラミックグリーンシート1′に加圧により一部めり込ませることにより固着させてもよいし、あるいは予め金属微粒子10の表面を樹脂で被覆しておき、セラミックグリーンシート1′上で加熱することにより被覆した樹脂を溶かしてセラミックグリーンシート1′と溶着させてもよい。さらにはセラミックグリーンシート1′に含まれるバインダー成分の加熱溶解により金属微粒子10を固着させてもよい。特にセラミックグリーンシート1′が1μm程度の薄い場合、加圧せずに樹脂成分の溶解により金属微粒子10をセラミックグリーンシート1′に固着させると、セラミックグリーンシート1′に物理的なダメージを与えずに済む。
【0047】
次いで、図2(c)に示すように、セラミックグリーンシート1′の上方に配されたインクジェットヘッド12から濡れ拡がり抑制部11が形成されたパターン形成領域9内にインク13を滴下させ、インク13及び金属微粒子10の集合体(濡れ拡がり抑制部11)からなるパターン14を形成する。尚、インク13は、本実施の形態では、濡れ拡がり抑制部11を構成する金属微粒子10と同様の導電性材料を主成分としている。
【0048】
そしてこれにより、濡れ拡がり抑制部11を形成したパターン形成領域9にインク13を滴下しても、インク13がパターン形成領域9外に濡れ拡がるのを抑制することができ、所望のパターン14を形成することができる。
【0049】
このように金属微粒子10の集合体で濡れ拡がり抑制部11を形成することにより、インク13のパターン外への濡れ拡がりを抑制できるのは以下の理由によると考えられる。
【0050】
インク13をセラミックグリーンシート1′上に滴下させた場合、滴下したインク13には、表面張力等でセラミックグリーンシート1′上に付着して濡れ拡がりを抑制しようと力と、インク13の自重等により濡れ拡がろうとする力とが作用する。
【0051】
図3はセラミックグリーンシート1′の表面が平滑な場合を示し、図4は本発明の濡れ拡がり抑制部11が形成されている場合を示している。図3及び図4中、矢印Xが表面張力等により濡れ拡がりを抑制する力方向を示し、矢印Yがインク13の自重等により濡れ拡がろうとする力方向を示している。
【0052】
すなわち、セラミックグリーンシート1′の表面が平滑な場合は、図3に示すように、矢印Y方向に作用する力が、矢印X方向に作用する力よりも大きく、このためインク13は矢印Y方向に濡れ拡がろうとする。
【0053】
これに対し図4に示すように、セラミックグリーンシート1′上に金属微粒子10の集合体からなる濡れ拡がり抑制部11を形成した場合は、セラミックグリーンシート1′の表面は金属微粒子10により凸状に形成されているため、金属微粒子10が立体的な障害となってインク13は濡れ拡がりを抑制され、さらにセラミックグリーンシート1′の表面積が見かけ上大きくなることによりインク13の接触角が大きくなるため、矢印X方向の力が増大するとともに、その分、矢印Y方向に濡れ拡がろうとする力が低減すると考えられる。すなわち、矢印X方向に作用する力が、矢印Y方向に作用する力とほぼ同程度となるため、インク13の濡れ拡がりを抑制することができる。
【0054】
その他、濡れ拡がり抑制のメカニズムとしては、金属微粒子10の隙間にインク13中の溶剤がしみ込むことでインク13が増粘したり、金属微粒子10の表面とインク13中の溶剤の濡れ性がよく、溶剤が金属微粒子10の表面に引き寄せられるためにインク13の流動性が阻害されることなどが考えられる。
【0055】
本発明者らは、平均粒径5μmの200個のAg粒子からなる濡れ拡がり抑制部11を作製した。そして、インクジェットヘッド12を使用し、セラミックグリーンシート1′の上方1mmから1滴のインク13を該セラミックグリーンシート1′上に滴下し、濡れ拡がり抑制部11を設けた場合と設けなかった場合について、インクの濡れ拡がり状態を調べた。
【0056】
尚、インク重量は150ng、滴下速度は8m/s、インク粘度は33mPa・s、ステージ温度は40℃である。
【0057】
また、上記の条件において、インク13をセラミックグリーンシート1′上に滴下した直後のパターン径は84μmであった。
【0058】
その結果、濡れ拡がり抑制部11を設けない平滑なセラミックグリーンシートの場合は、滴下後のパターン径が100μmに濡れ拡がった。これに対し濡れ拡がり抑制部11を設けたセラミックグリーンシートの場合は、滴下後のパターン径も84μmであり、インク13の滴下によりパターン上での濡れ拡がりが抑制されたことが分かった。
【0059】
このように本実施の形態では、特許文献1のように煩雑なフォトリソグラフィ技術を使用してバンクを作製したり撥液処理を行ってフッ素系樹脂部を作製する必要もなく、簡単な方法で濡れ拡がり抑制部11を形成することができ、これによりインク13のパターン外への濡れ拡がりを容易に抑制することができ、高精度な所望のパターン形成を行うことができる。しかも、濡れ拡がりを抑制できるので、パターン14の超微細化やパターン形成領域9の狭スペース化が可能となる。
【0060】
また、インク13の滴下量は、濡れ拡がり抑制部11を形成しない場合と同一であるので、濡れ拡がりを抑制できる分、インク13のセラミックグリーンシート1′に付着する底面積が小さくなり、したがって内部導体3a〜3fや外部導体4a〜4hの厚膜化を図ることが可能となる。
【0061】
また、特許文献1のようなバンク形成によるギャップt(図9参照)も生じないので、セラミックグリーンシート1′の積層化も容易に行うことができる。
【0062】
さらに、セラミック多層基板の場合、パターンの形成されたセラミックグリーンシート1′を積層した後、圧着するが、濡れ拡がり抑制部11を形成する金属微粒子10の集合体は、インク13よりも硬いので、図5に示すように、積層して圧着した場合にセラミックグリーンシート1′に強く押し付けられて密着性が高くなる。したがって、パターン全体としてもセラミックグリーンシートの密着性を向上させることが可能となる。
【0063】
また、本発明は上記実施の形態に限定されることはなく、種々の変形が可能である。
【0064】
例えば、必要に応じ濡れ拡がり抑制部11をパターン形成領域9の外部にまではみ出るように形成し、インクジェットで内部導体3a〜3fや外部導体4a〜4hのパターンをパターニングしてもよい。その場合、濡れ拡がり抑制部11をセラミックグリーンシート1′の全面に形成した後、内部導体3a〜3fや外部導体4a〜4hのパターンをパターニングすることも可能である。ただし、上述したようなセラミックグリーンシート1′を積層して焼成するセラミック多層基板の場合は、上記実施の形態のように濡れ拡がり抑制部11をパターン形成領域9のみに形成するのがより好ましい。すなわち、濡れ拡がり抑制部11をパターン形成領域9に限定的に形成することにより、セラミックグリーンシート1′とパターン14との密着力が向上し、パターン14がセラミックグリーンシート1から剥離するのを防止することができる。しかも、パターン形成領域9にのみ濡れ拡がり抑制部11が存在し、パターン外には濡れ拡がり抑制部11が存在しないので、セラミックグリーンシート1′同士が強固に密着することとなり、セラミックグリーンシート1′同士が剥離するのを防止することができる。
【0065】
また、濡れ拡がり抑制部11は、パターン形成領域9内の全面にわたって形成する必要はなく、図6のようにパターン形成領域9の周辺部(エッジ部)のみに形成してもよい。このようにすることで、形成されたパターンの周辺部(エッジ部)の厚さを中央部の厚さよりも厚くすることができる。特に高周波電流は表皮効果でパターンの周辺部(エッジ部)を流れる割合が大きいが、上記のようにパターンの周辺部(エッジ部)の厚さを厚くすることにより、電流の流れる箇所の抵抗を低くでき、不用な発熱等を抑制することができる。
【0066】
また、上述したように濡れ拡がり抑制部11が金属微粒子10の集合体からなる場合、パターン形成領域9外にも濡れ拡がり抑制部11を形成すると、短絡不良が生じるおそれがある。これに対し濡れ拡がり抑制部11をパターン形成領域9内に形成することにより、短絡不良の発生を抑制できる。特に、金属微粒子としてマイグレーションの生じやすいAgを使用する場合は、濡れ拡がり抑制部11をパターン形成領域9内に限定的に形成することにより、マイグレーションの発生を防止することができる。
【0067】
しかも、濡れ拡がり抑制部11をパターン形成領域9内に限定することにより、濡れ拡がり抑制部11の形成領域を減少させることもでき、コストや労力の軽減を図ることも可能となる。
【0068】
また、濡れ拡がりの抑制のみを行いたい場合は、セラミックグリーンシートの表面を粗化することにより、凸部を形成するようにしてもよい。ただし、この場合、粗化されたセラミックグリーンシートの表面にパターンを形成するため、パターンの表面も粗くなり、用途によっては好ましくない場合もある。これに対し、濡れ拡がり抑制部11を金属微粒子10の集合体で形成した場合は、焼成時にパターンと一体となるため、パターン表面は粗くならない。特に、濡れ拡がり抑制部11及びインク13が、共に導電性材料を主成分とする場合は、電気的な伝送ロスも低減され、高周波特性をほとんど劣化させず、良好な周波数特性を得ることが可能となる。
【0069】
また、上記実施の形態では、濡れ拡がり抑制部11及びインク13が、共に導電性材料を主成分としているが、必要に応じ、これらを、共に絶縁性材料を主成分としたり、一方が導電性材料、他方が絶縁性材料を主成分とするのも好ましい。特に、濡れ拡がり抑制部11及びインク13を共に絶縁性材料で形成する場合は、抵抗体パターンを形成する場合に有用である。本発明のパターンの形成方法を使用して、抵抗パターンを形成することによりトリミング等を要することなく所定の抵抗値を有し、かつバラツキの抑制された抵抗パターンを得ることができる。また、一方が導電性材料を主成分とし、他方が絶縁性材料を主成分とする場合は、パターンの抵抗調整を行うことができ、適度な導電性を有するパターンを容易に製造することができる。
【0070】
尚、絶縁性材料としては、ガラス、酸化ルテニウム、マイカ及び種々のセラミック材料を用いることができる。また、上記実施の形態ではセラミック多層基板を例示したが、樹脂からなるシート状部材に適用する場合には、絶縁性材料としてポリイミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の種々の樹脂材料を用いてもよい。
【0071】
また、濡れ拡がり抑制部11は、セラミックグリーンシート1′に含有される成分を含むのも好ましい。これによりセラミックグリーンシート1′とパターン14とを共焼成した場合に、熱膨張係数の差に起因する収縮量の差異を小さくすることができ、パターン14とセラミックグリーンシート1′との間の剥離を抑制することができる。また、パターン14を介したセラミックグリーンシート1′間の密着強度も高めることができ、したがってパターン14が介在してもセラミックグリーンシート1′間の剥離を効果的に抑制することができる。
【0072】
また、上記実施の形態では、スクリーン印刷で金属微粒子10をセラミックグリーンシート1′上に固着させて濡れ拡がり抑制部11を形成しているが、電子写真プロセスで金属微粒子10を固着させるようにしてもよい。すなわち、感光体を帯電器により帯電させた後、この感光体にパターン形成領域9に従って光源を発光し、感光体表面に静電潜像を形成し、この静電潜像上に金属微粒子10を付着させ、これをセラミックグリーンシート1′に転写して濡れ拡がり抑制部11を形成するようにしてもよい。また、濡れ拡がり抑制部11を、パターン形成と同様、インクジェット方式で形成することもできる。
【0073】
インクジェット方式の場合、金属微粒子10を溶剤に分散させたインクを吐出させ、溶剤を乾燥させて濡れ拡がり抑制部11を形成する。この際、濡れ拡がり抑制部11の膜厚は薄くてもよいため、インクの吐出量はパターン形成時より少量にできる。インクが少量であれば、濡れ拡がり抑制部自体の濡れ拡がりについては問題とはならない。
【0074】
また、上記実施の形態では、インク13の滴下をインクジェット方式で行ったが、ディスペンサやピペットなどで滴下してもよい。
【0075】
また、インク成分についても主成分が導電性材料及び絶縁性材料の少なくとも一方を含んでいればよく、副成分として染料や顔料を含んでいてもよい。
【0076】
また、上記実施の形態では、1滴のインク滴下により形成される濡れ拡がり抑制部の形状は、球形の場合を例示したが、立方体、直方体、円錐形等、形状に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、セラミックグリーンシートやガラスエポキシ樹脂等で形成されたプリント基板等のシート部材上にインクジェット方式でパターンを印刷する場合、インクの濡れ拡がりを抑制できるので、高精度で所望のパターン形成を行うことができる。
【符号の説明】
【0078】
1′ セラミックグリーンシート(シート)
10 金属微粒子(微粒子)
11 濡れ拡がり抑制部
13 インク
14 パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状部材にインクを滴下して所定のパターンを形成するパターンの形成方法であって、
多数の凸部の集合体からなる濡れ拡がり抑制部を前記シート状部材の表面に形成し、該濡れ拡がり抑制部上に前記インクを滴下してパターンを形成することを特徴とするパターンの形成方法。
【請求項2】
前記濡れ拡がり抑制部は、多数の微粒子を前記シート状部材の表面に固着させて形成することを特徴とする請求項1記載のパターンの形成方法。
【請求項3】
前記濡れ拡がり抑制部を、前記パターンが形成されるべきパターン形成領域に形成することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のパターンの形成方法。
【請求項4】
前記濡れ拡がり抑制部及び前記インクは、共に導電性材料を主成分としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパターンの形成方法。
【請求項5】
前記濡れ拡がり抑制部及び前記インクは、共に絶縁性材料を主成分としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパターンの形成方法。
【請求項6】
前記濡れ拡がり抑制部及び前記インクは、いずれか一方が導電性材料を主成分とし、他方が絶縁性材料を主成分としていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパターンの形成方法。
【請求項7】
前記濡れ拡がり抑制部は、前記シート状部材に含有される成分を含んでいることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のパターンの形成方法。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載のパターンの形成方法を使用して製造されたことを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−205856(P2010−205856A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48599(P2009−48599)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】