説明

パターン位相差フィルム、画像表示装置、パターン位相差フィルムの製造用金型及びパターン位相差フィルムの製造方法

【課題】パッシブ方式による3次元画像表示に関して、画質劣化を有効に回避することができるパターン位相差フィルム、このパターン位相差フィルムを使用した画像表示装置、このパターン位相差フィルムの製造用金型及びこのパターン位相差フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】パターン位相差フィルム1における右目用の領域A及び左目用の領域との間の緩衝領域Cの幅のばらつきを低減する。またこのため全面に1方向の凹凸形状を作製した母材をレジスト膜によりマスクして他方向の凹凸形状を作製した後、レジスト膜を除去することにより、右目用及び左目用の領域に係る凹凸形状をパターン位相差フィルムの製造用金型に作製する際に、レジスト膜の膜厚を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッシブ方式による3次元画像表示に適用するパターン位相差フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイは、従来、2次元表示のものが主流であった。しかしながら、近年、3次元表示可能なフラットパネルディスプレイが注目を集めており、一部市販もされている。そして今後のフラットパネルディスプレイは3次元表示可能であることが当然に求められる傾向にあり、3次元表示可能なフラットパネルディスプレイの検討が幅広い分野において進められている。
【0003】
フラットパネルディスプレイにおいて3次元表示をするには、通常、何らかの方式で右目用の映像と、左目用の映像とを、それぞれ選択的に視聴者の右目及び左目に提供することが必要である。右目用の映像と左目用の映像とを選択的に提供する方法としては、例えば、パッシブ方式が知られている。このパッシブ方式の3次元表示方式について図を参照しながら説明する。図7は、液晶表示パネルを使用したパッシブ方式の3次元表示の一例を示す概略図である。この図7の例では、液晶表示パネルの垂直方向に連続する画素を、順次交互に、右目用の映像を表示する右目用画素、左目用の映像を表示する左目用画素に振り分け、それぞれ右目用及び左目用の画像データで駆動し、これにより右目用の映像と左目用の映像とを同時に表示する。なおこれにより液晶表示パネルの画面は、短辺が垂直方向で長辺が水平方向となる帯状の領域により、右目用の映像を表示する領域と左目用の映像を表示する領域とに交互に区分されることになる。
【0004】
さらにパッシブ方式では、液晶表示パネルのパネル面にパターン位相差フィルムを配置し、右目用及び左目用の画素からの直線偏光による出射光を、右目用及び左目用で方向の異なる円偏光に変換する。このためパターン位相差フィルムは、液晶表示パネルにおける領域の設定に対応して、相軸方向(屈折率が最大となる方向)が直交する2種類の帯状領域が順次交互に形成される。これによりパッシブ方式では、対応する偏光フィルタを備えてなるめがねを装着して、右目用の映像と左目用の映像とをそれぞれ選択的に視聴者の右目及び左目に提供する。なおここでこの隣接する帯状領域の遅相軸方向は、通常、水平方向に対して、+45度と−45度、0度と+90度、又は0度と−90度の何れかの組み合わせが採用される。なおこの図7の例では、通常の画像表示装置における呼称に習って長辺方向を水平方向として示す。なおパッシブ方式では、この図7における水平方向に連続する画素を右目用及び左目用に振り分けて駆動すると共に、これに対応するようにパターン位相差フィルムを作製しても、同様に3次元画像を表示することができる。
【0005】
このパッシブ方式は、応答速度の遅い液晶表示装置でも適用することができ、さらにパターン位相差フィルムと円偏光メガネとを用いた簡易な構成で3次元表示することができる。従ってパッシブ方式の液晶表示装置は、今後の3次元表示装置の中心的存在となるものとして非常に注目されている。
【0006】
このパッシブ方式に係るパターン位相差フィルムは、右目用及び左目用の画素の割り当てに対応して透過光に位相差を与えるパターン状の位相差層が必要である。このパターン位相差フィルムは、まだ広く研究、開発が行われておらず、標準的な技術としても確立されているものがないのが現状である。
【0007】
このパターン位相差フィルムに関して、特許文献1には、配向規制力を制御した光配向膜をガラス基板上に形成し、この光配向膜により液晶の配列をパターンニングして位相差層を作成する方法が開示されている。また特許文献2には、レーザーの照射によりロール版の周囲に微細な凹凸形状を形成し、この凹凸形状を転写してパターン状に配向規制力を制御した光配向膜を作製する方法が開示されている。
【0008】
このようなパターン位相差フィルムは、画像表示パネルに配置して画質劣化を有効に回避することが望まれる。なおこの画質劣化は、例えば筋、ムラが見て取られたり、本来、右目及び左目に選択的に入射すべき画像表示パネルからの光が、それぞれ左目及び右目に漏れ込むクロストークにより発生する。またクロストークは、その程度が大きくなると立体感が喪失することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−49865号公報
【特許文献2】特開2010−152296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、パッシブ方式に係る画像表示に関して、画質劣化を有効に回避することができるパターン位相差フィルム、このパターン位相差フィルムを使用した画像表示装置、このパターン位相差フィルムの製造用金型及びこのパターン位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、パターン位相差フィルムにおける右目用の領域と左目用の領域との間の緩衝領域の幅のばらつきを低減するとの着想に至り、さらにこのために一方向の凹凸形状を全面に作成した母材をレジスト膜によりマスクして他方向の凹凸形状を作成した後、レジスト膜を除去することにより、右目用及び左目用の領域に係る凹凸形状を製造用金型に作製する際に、このレジスト膜の膜厚を制御するとの着想に至り、本発明を完成するに至った。
【0012】
具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0013】
(1) 透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングして、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムにおいて、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、帯状に交互に設けられ、
前記第1及び第2の領域の境界に、ライン状の凹凸形状が形成されていない緩衝領域が設けられ、
前記緩衝領域の幅の平均値WAVに対して、前記平均値WAVからの前記緩衝領域の幅の変化量ΔWを前記平均値WAVにより除算した値ΔW/WAVが、±0.5以下に設定される。
【0014】
(1)によれば、緩衝領域の幅のばらつきを一定値範囲に収めることができることにより、この幅のばらつきによる画面上の筋、ムラが発生しないように、さらには左右量画像のクロストークによる立体感の低減を視認し難くすることができ、これにより画質劣化を有効に回避することができる。
【0015】
(2) (1)において、前記緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下であるようにする。
【0016】
(2)によれば、液晶表示パネル等の画素間の遮光部より緩衝領域が飛び出さないようにして、クロストークを低減することができる。
【0017】
(3) 垂直方向又は水平方向に連続する画素が、順次交互に右目用の映像を表示する右目用画素、左目用の映像を表示する左目用画素に振り分けられて、それぞれ対応する画像データにより駆動されることにより、右目用の映像を表示する帯状の領域と、左目用の映像を表示する帯状の領域とに表示画面が交互に区分され、
請求項1、又は請求項2に記載のパターン位相差フィルムにより、前記右目用画素及び左目用画素からの出射光に、それぞれ前記第1及び第2の領域により対応する位相差を与えて出射する。
【0018】
(3)によれば、請求項1又は請求項2の構成に係るパターン位相差フィルムを使用して、パッシブ方式による画像表示装置を提供することができる。
【0019】
(4) 透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングして、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムの製造用金型において、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、帯状に交互に設けられ、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型は、
表面形状の転写により、前記第1及び第2の領域に係る凹凸形状を前記配向膜に形成し、
前記第1及び第2の領域に対応する領域の境界に、ライン状の凹凸形状が形成されていない平坦な領域が設けられ、
前記平坦な領域の幅の平均値WAVに対して、前記平均値WAVからの前記平坦な領域の幅の変化量ΔWを前記平均値WAVにより除算した値ΔW/WAVが、±0.5以下に設定される。
【0020】
(4)によれば、請求項1に係るパターン位相差フィルムを作製するパターン位相差フィルムの製造用金型を提供することができる。
【0021】
(5) (4)において、
前記平坦な緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下である。
【0022】
(5)によれば、請求項2に係るパターン位相差フィルムを作製するパターン位相差フィルムの製造用金型を提供することができる。
【0023】
(6) パターン位相差フィルムの製造用金型に形成された凹凸形状を透明シート材に転写して配向膜を形成するパターン位相差フィルムの作製方法において、
前記パターン位相差フィルムは、
前記配向膜のパターンニングにより、右目用の透過光に、対応する位相差を与える右目用の領域と、左目用の透過光に、対応する位相差を与える左目用の領域とが、それぞれ帯状に交互に形成され、
前記パターン位相差フィルムの作製方法は、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型を作製する金型製造工程と、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型の表面形状の転写により前記配向膜を作製する配向膜製造工程とを備え、
前記金型製造工程は、
母材の全面に、前記右目用又は左目用の領域に対応する凹凸形状を作製する第1の凹凸形状の作製工程と、
前記母材の表面にレジスト層を積層してパターンニングし、前記左目用又は右目用の領域に対応する部位を露出させたマスクを作製するマスク作製工程と、
前記レジスト層の上層の、前記母材の全面に、凹凸形状作製用の薄膜を作製する薄膜作製工程と、
前記凹凸形状作製用の薄膜の表面に、前記左目用又は右目用の領域に対応する凹凸形状を作製する第2の凹凸形状作製工程と、
前記母材の表面より、前記レジスト層をその上層の前記凹凸形状作製用の薄膜と共に除去するレジスト除去工程とを備え、
前記レジスト層が、膜厚0.5μm以上、4μm以下に設定される。
【0024】
(6)によれば、全面に凹凸形状を作製した母材をレジスト膜によりマスクしてラビング処理等した後、レジスト膜を除去することにより、右目用及び左目用の領域に係る凹凸形状をパターン位相差フィルムの製造用金型に作製するようにして、このレジスト層の膜厚の制御により、請求項1に係るパターン位相差フィルムを製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、緩衝領域の幅のばらつきを一定値範囲に収めることができることにより、この幅のばらつきによる筋、ムラが発生しないようにし、さらにはクロストークを視認できないようにすることができ、これにより画質劣化を有効に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態に係るパターン位相差フィルムを示す図である。
【図2】緩衝領域の測定に供する図である。
【図3】図2の測定結果を示す図である。
【図4】図1のパターン位相差フィルムの製造工程の説明に供する図である。
【図5】図4の金型の製造方法の説明に供する図である。
【図6】図5の続きを示す図である。
【図7】パッシブ方式による3次元画像表示の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る画像表示装置に適用されるパターン位相差フィルムを示す図である。この第1実施形態に係る画像表示装置は、垂直方向(図1においては左右方向)に連続する液晶表示パネルの画素が、順次交互に、右目用の映像を表示する右目用画素、左目用の映像を表示する左目用画素に振り分けられて、それぞれ右目用及び左目用の画像データで駆動される。これにより画像表示装置は、右目用の映像を表示する帯状の領域と、左目用の映像を表示する帯状の領域とに表示画面が交互に区分され、右目用の映像と左目用の映像とを同時に表示する。この画像表示装置は、この液晶表示パネルのパネル面に、この図1に示すパターン位相差フィルム1が配置され、このパターン位相差フィルム1により右目用及び左目用の画素からの出射光にそれぞれ対応する位相差を与える。これによりこの画像表示装置は、パッシブ方式により所望の立体画像を表示する。
【0028】
ここでパターン位相差フィルム1は、TAC(トリアセチルセルロース)等の透明フィルムからなる基材2の一方の面上に、配向膜3、位相差層4が順次作製される。パターン位相差フィルム1は、位相差層4が屈折率異方性を保持した状態で固化(硬化)された液晶材料により形成され、この液晶材料の配向を配向膜3の配向規制力によりパターンニングする。なおこの液晶分子の配向を図1では細長い楕円により誇張して示す。このパターンニングにより、パターン位相差フィルム1は、液晶表示パネルにおける画素の割り当てに対応して、一定の幅により、右目用の領域Aと、左目用の領域Bとが順次交互に帯状に形成され、右目用及び左目用の画素からの出射光にそれぞれ対応する位相差を与える。
【0029】
パターン位相差フィルム1は、基材2の表面に紫外線硬化性樹脂5が塗布された後、この紫外線硬化性樹脂5の表面に微小な凹凸形状が形成される。パターン位相差フィルム1は、この紫外線硬化性樹脂5の表面の凹凸形状により配向膜3が形成される。パターン位相差フィルム1は、後述する金型の表面に作製された微小な凹凸形状を転写して、配向膜3に係る微小な凹凸形状が作製され、この凹凸形状による配向規制力により位相差層4をパターンニングする。このため配向膜3は、右目用及び左目用の帯状領域A及びBにそれぞれ対応する帯状の領域が順次交互に形成され、それぞれ微小な凹凸形状が作製される。ここでこの微小な凹凸形状は、一方向に延長するライン状(線)の凹凸形状により形成され、この一方向に延長する方向が右目用領域Aと左目用領域Bのうちの何れか一方向に対応する第1の領域及び右目用領域Aと左目用領域Bのうちの他方向に対応する第2の領域とで互いに90度異なる方向となるように、かつ各領域の延長方向(水平方向であり、図1に於いては右上と左下とを結ぶ方向に対応)に対して45度傾くように形成される。なおこの各領域の延長方向に対する傾きにあっては、基材2のリタデーションが無視できない程度に大きい場合には、リタデーション値に応じて、適宜、増減される。またこのライン状の凹凸形状は、後述するように金型の表面形状の転写により作製されることから、この金型においてもこのパターン位相差フィルム1におけるライン状の凹凸形状に対応する凹凸形状が作製されることになる。しかしながら金型からの凹凸形状転写時の幾何学的変換における偏差(後述する円筒面から平面への変換等による誤差)、転写時の静電場等によるライン状凹凸形状の延長方向の偏差(偏移)が誤差として無視できない場合(概ね1〜3度以上方向が偏差すると画質に影響し得る)、この偏差を相殺する分だけ予め金型上で該凹凸形状の延長方向が補正される。パターン位相差フィルム1は、この図1に示す基本構成に加えて、粘着層、セパレータフィルム、反射防止フィルム等が必要に応じて設けられる。
【0030】
この実施形態のパターン位相差フィルム1は、この帯状の右目用領域A、左目用領域Bの各境界に、ライン状の凹凸形状を作製していない平坦な領域が配向膜3に設けられ、この配向膜3の平坦な領域により、右目用領域A及び左目用領域B間に緩衝領域Cが設けられる。ここで緩衝領域Cは、配向膜3の作製に供する金型の製造工程を簡略化するために設けられる。なおこの金型の作製に関する構成は、後に詳細に説明する。さらに緩衝領域Cを設けることにより、隣接する領域間で、配向膜3による配向規制力が相互に影響を及ぼし合わないようにし、各領域A及びBにおける位相差層4の乱れを低減することもできる。さらにこの実施形態の画像表示装置では、このパターン位相差フィルム1における緩衝領域Cの幅の制御により、画質の劣化を防止する。
【0031】
ここで図2に示すように、直交ニコルを構成する偏光フィルタ6A、6B間にパターン位相差フィルム1を配置して、パターン位相差フィルム1に対する直交ニコルの傾きを変化させ、その透過光をビデオカメラ7で撮影した。パターン位相差フィルム1に対して直交ニコルを45度傾けた状態で、右目用及び左目用の領域A及びBは、黒レベルで撮影されるのに対し、緩衝領域Cは一定の輝度レベルで撮影された。これによりこの緩衝領域Cは、何ら凹凸形状を作製することなく平坦に配向膜3を作製して、配向膜3に配向規制力が付与されていないにも係わらず、位相差層4により透過光に位相差が与えられ、またこの位相差が領域A及びBによる位相差と異なることが判った。
【0032】
図3は、この図2によるビデオカメラ7による撮像結果を1ライン分抽出して輝度レベルを示す図である。なおこの1ラインは、領域A及びBを横切る方向である。この図3に示すように、撮像結果では、緩衝領域Cに対応して周期的に輝度レベルが立ち上がる。この実施形態では、この周期的に立ち上がる輝度レベルのピーク値を平均値化し、この平均値が値1になるように、検出した輝度レベルを正規化した。またこの正規化した輝度レベルを、しきい値THで判定し、しきい値TH以上に立ち上がる領域を緩衝領域Cと定義した。この実施形態では、しきい値THを値0.1に設定して判定した。なおこのような正規化してしきい値THにより判定する代わりに、ピーク値の平均値によりしきい値を設定して判定しても良い。
【0033】
この緩衝領域Cは、画像表示パネルの垂直方向に連続する画素間の遮光部(いわゆるブラックストライプである)に割り当てられることにより、この遮光部の幅より小さい幅に設定すれば、何ら画質に影響しないようにも思われる。しかしながらこのように遮光部の幅より緩衝領域Cが幅狭の場合であっても、表示画面を遠目により観察すると、緩衝領域Cが筋状に、又はムラ状に見て取られる場合があり、これにより画質が劣化することが判った。またさらに例えば上下方向に視点を変化させた場合には、局所的に、クロストークが知覚される場合もあり、これによっても画質が劣化することが判った。
【0034】
この原因を詳細に検討したところ、緩衝領域Cの延長方向における幅の変化が激しくなると、クロストークが局所的に増減することによりムラが発生し、クロストークが視認され易くなることが判った。またこの幅の変化が連続するラインで同一傾向となると、このムラが連続するラインで連続することにより、筋として見て取られることが判った。そこでこの実施形態では、この領域A、B、Cの設定に係るパターン位相差フィルムの製造用金型の工夫により、この緩衝領域Cの幅のばらつきを低減し、これにより画質の劣化を低減する。より具体的に、緩衝領域Cの幅の平均値をWAVとし、この平均値WAVからの変化量ΔWを平均値WAVにより除算した値ΔW/WAVが±0.5以下になるように設定した。なおこの値ΔW/WAVは、好ましくは、上述したように±0.5以下とすることが望まれるものの、画像表示パネルの遮光部が幅広の場合もあることにより、実用上充分な画質を確保することができる場合には、±0.8以下に設定しても良い。またより好ましくは、ΔW/WAVは、0.3以下に設定して各種の画像表示パネルで広く適用することができる。なお緩衝領域Cの幅の変化量ΔWは、統計学上のレンジである標準偏差の2倍2σ、標準偏差の4倍4σ、標準偏差の6倍6σ等によって定義し得るが、この実施形態では、標準偏差の6倍6σとして定義した。又、3σを求める際のデータ数は10とした。
【0035】
またさらにこのように幅の変化を一定値以下に設定して、幅の最大値WMAXを2μm以上100μm以下となるように設定した。なおここでΔWを6σと定義した場合は、最大値WMAXは、WAV+3σとなる。ここで100μm以下としたのは、画像表示パネルの遮光部より緩衝領域Cが飛び出さないようにするためである。従って上限値を100μmに設定すれば、概ね各種の液晶表示パネルに適用することができるものの、パターン位相差フィルム1を配置する液晶表示パネルにおける遮光部の幅に応じて、この上限値は種々に変更することができる。またパターン位相差フィルム1は、この実施形態では、液晶表示パネルのパネル面に貼り付けて使用されることから、この貼り付け時における位置ずれの許容量を充分に確保して生産性を向上する観点からは、より小さい値が望まれる。これに対して下限値は、後述するロール版製造工程における生産性の観点より決定される。従って生産性の低下を防止する観点からは、より下限値を増大させても良い。
【0036】
〔パターン位相差フィルム製造工程〕
図4は、このパターン位相差フィルム1の製造工程を示す略線図である。この製造工程10は、基材2がロールにより提供され、この基材2を供給リール11から供給する。製造工程10は、ダイ12によりこの基材2に紫外線硬化樹脂を塗布する。この製造工程10において、ロール版20は、パターン位相差フィルム1の配向膜3に係る凹凸形状が周囲に形成された円筒形状の金型である。製造工程10は、紫外線硬化樹脂が塗布されてなる基材2を加圧ローラ14によりロール版20に押圧し、紫外線照射装置15による紫外線の照射により紫外線硬化樹脂を硬化させる。これにより製造工程10は、ロール版20に形成された凹凸形状を基材2に転写する。その後、剥離ローラ16によりロール版20から基材2を剥離し、ダイ19により液晶材料を塗布する。またその後、紫外線照射装置17による紫外線の照射により液晶材料を硬化させた後、巻き取りリール18に巻き取る。パターン位相差フィルム1は、この巻き取りリール18に巻き取ったシート材に、必要に応じて粘着層、反射防止層等を形成した後、所望の大きさに切断して作製される。これによりパターン位相差フィルム1は、ロール版20を用いた凹凸形状の転写により、ロールにより提供される基材2を連続して処理して効率良く大量生産される。
【0037】
〔ロール版製造工程〕
図5及び図6は、パターン位相差フィルムの製造用金型であるロール版20の製造工程を示す図である。なおこの図5及び図6において、パターン位相差フィルム1の領域A、B、Cに対応する領域を、それぞれ符号ARA、ARB、ARCにより示す。この製造工程では、母材40の表面を研磨して平滑化した後(図5(a))、第1の凹凸形状作製工程において、母材40の全面に微小なライン状凹凸形状による第1凹凸領域42を形成する(図5(b))。ここで母材40は、ロール版20の外形形状に対応する円筒形状の金属材料である。母材40は、後述するレジスト層43等を剥離除去可能に積層できるものであれば特に限定されるものではなく、ニッケル、クロム、チタン、銅、コバルト等の各種金属材料、SiO、DLC(ダイヤモンド状炭素)、TiO2、等の各種無機酸化物等を広く適用することができるものの、後述するレジスト層43等を剥離除去可能に積層する観点から、金属材料、DLC、TiO等であることが好ましく、ニッケル、クロム、DLCであることがより好ましい。またスパッタリング等の手法を適用して各種の金属材料層を表面に作製したものを適用しても良く、例えばこの表面の金属材料層にタングステン、チタン、金属化合物である酸化チタン、窒化チタン、タングステンカーバイド、酸化クロム、クロムモリブデン、ニッケルクロムモリブデンを適用すれば、強度を向上させることができる。
【0038】
第1凹凸領域42は、母材40の表面に、配向膜3の右目用領域ARAの凹凸形状に対応する微小な凹凸形状を作製して形成される。具体的に、この実施形態では、ラビング処理によりこの凹凸形状が作製されるものの、この凹凸形状の作製方法にあっては、例えば研磨により作製する場合等、種々の作成手法を広く適用することができる。なおラビング処理は、表面に多数の纖維を植毛した円筒状のラビングロールRを円筒軸の周りに回転させながら、表面の纖維群でチタン層等から成る母材の表面を摩擦して行う。この纖維の材料としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、ポリオレフィン樹脂、セルロース系樹脂等が用いられる。纖維の直径は1〜100μm程度の範囲から適宜選択する。ラビング処理は、これら纖維の傾きの方向にラビング処理する場合と、これとは逆方向にラビング処理する場合とが有り、形成するライン状凹凸形状の寸法(幅及び深さ)、纖維及び母材の材料の組み合わせに応じて、適宜の向きが選択される。
【0039】
続いてロール版20は、マスク作製工程において、レジスト材料により、左目用領域Bに対応する領域ARBを露出させたマスクが作製される。すなわちこの工程では、ポジ型のレジスト剤を全面に塗布した後、露光、現像処理することにより、左目用領域Bに対応する領域ARBを露出させたマスクが作製される。なおレジスト材料としては特に限定されるものではなく、ネガ型レジスト材料を適用しても良い。また塗布方法、露光方法にあっても種々の手法を広く適用することができる。
【0040】
この実施形態では、このレジスト剤の調製により、膜厚2μmによりレジスト層43を作製し、これにより緩衝領域Cの幅を上述した範囲に保持する。
【0041】
続いて図6(d)に示すように、薄膜作製工程において、全面に、無機材料の第2層膜44が、0.1μmにより作製される。これによりレジスト層43によりマスクされていない母材40の表面に、第2層膜44からなる第2層パターンが形成される。なおこの第2層膜44は、例えばスパッタリングの手法を適用してクロム、チタン、ニッケル等の金属材料、金属化合物、DLCを成膜して作製される。
【0042】
続いて図6(e)に示すように、第2の凹凸形状作製工程において、第1凹凸領域42と異なる方向(この実施形態では第1凹凸領域42のラビング方向とは90度の角度をなす方向である)に全面をラビング処理して、第2層膜44の表面に凹凸形状を作製する。その後、製造工程は、図6(f)に示すように、続くレジスト除去工程において、レジスト層43を、その上層の第2層膜44と共に除去し、これにより2回の凹凸形状作製処理により配向膜3の領域A及びBに対応する凹凸形状を作製する。該凹凸形状は、ライン状をなし、この平均化した延長方向はラビング方向と一致する。ライン状凹凸の延長方向(ラインの長手方向でもある)は一般に正規分布するが、該走行方向の分布は3度以下、より好ましくは1度以下とする。
【0043】
ここでこのように全面に凹凸形状を作製した後、レジスト層43によりマスクして部分的に凹凸形状を作製する場合、レジスト層43のパターンニングに係る位置決め精度の劣化を防止することができる長所がある。しかしながらこの場合、領域ARAとARBとの間の段差により、領域ARBの両側に何らラビングによっては凹凸形状を作製できない領域が発生し、この領域により緩衝領域Cに対応する領域ARCが作製されることになる。
【0044】
レジスト層43を5μmにより作製した場合、この緩衝領域Cに対応する領域ARCの幅は、5〜30μmの範囲で大きく変化し、この場合、パターン位相差フィルム1においては、緩衝領域Cの幅に係る値ΔW/WAVを上述の条件範囲に収めることが困難になることが判った。しかしながらこの実施形態のように、レジスト層43を2μmにより作製した場合には、緩衝領域Cの幅は、5±1μmとすることができ、緩衝領域Cに係る値ΔW/WAVを上述した範囲に収めることができる。
【0045】
ところでレジスト層43は、膜厚を薄くすればする程、領域Cの幅を狭くし、ばらつきを小さくすることができると考えられる。しかしながらレジスト層43の膜厚を極端に薄くすると、レジスト膜43をその上層と共に精度良く除去することが困難になったり、ラビング時にレジスト層が破損、剥離し易くなりし、これにより精度良く凹凸形状を作成することが困難になる。このためレジスト層43は、少なくとも0.5μm以上の膜厚を確保することが必要であり、かつ4μm以下の膜厚に設定することが必要である。
【0046】
なおこのようなレジスト層43の厚みの制御により緩衝領域Cの幅を制御する方法に代えて、ラビング処理時の押圧力により緩衝領域Cの幅を制御することも考えられる。しかしながらこのようにラビング処理時の押圧力により緩衝領域Cの幅を制御する場合にあっては、大きな押圧力により押圧してラビング処理することにより、レジスト層43をも損傷する恐れがあり、この場合は、レジスト層43によりマスクされている部位までも凹凸形状が作製されることになる。このように他の部位まで進入して凹凸形状が作製されると、パターン位相差フィルム1では右目用又は左目用の領域で正しく位相差を付与することが困難になり、画像表示装置において、クロストークが発生することになる。
【0047】
これに対してこの実施形態のように、レジスト層43の厚みの制御により緩衝領域Cの幅を制御することにより、配向膜の作製に最適な押圧力によりラビング処理して、所望の幅により緩衝領域Cを作製することができる。
【0048】
因みにこの種のパターン位相差フィルムにおいては、光配向の手法を適用して位相差を作製する方法もある。しかしながらこの方法の場合には、右目用の領域Aと左目用の領域Bとの間の境界を幅狭に、かつ直線的に作製することが難しい欠点がある。しかしながらこの実施形態のように、金型を用いた転写により配向膜を作製して位相差層を作製する場合には、右目用の領域Aと左目用の領域Bとの間の境界を幅狭に、かつ直線的に作製することができる。
【0049】
以上の構成によれば、緩衝領域の幅のばらつきを一定値範囲に収めることにより、遠目により観察して筋、ムラが見て取られないようにすることができ、さらには左右両画像間のクロストークを視認できなくすることができ、これらにより画質劣化を有効に回避することができるパターン位相差フィルム、このパターン位相差フィルムを使用した画像表示装置、このパターン位相差フィルムの製造用金型を提供することができる。
【0050】
またこのとき緩衝領域を一定幅に設定することにより、緩衝領域が画像表示パネルの遮光部より飛び出さないようにして画質劣化を防止することができる。
【0051】
また全面に1方向に生じるライン状の凹凸形状を作製した母材をレジスト膜によりマスクして他方向の凹凸形状を作製した後、レジスト膜を除去することにより、右目用及び左目用の領域に係る凹凸形状をパターン位相差フィルムの製造用金型に作製する際に、このレジスト膜の膜厚を制御することにより、筋、ムラを見て取ることが困難に、さらにはクロストークを視認することができないようにパターン位相差フィルムを作製することができる。
【0052】
〔他の実施形態〕
以上、本発明の実施に好適な具体的な構成を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態の構成を種々に変更することができる。
【0053】
すなわち上述の実施形態では、全面に1方向のライン状の凹凸形状を作製した母材をレジスト膜によりマスクして他方向の凹凸形状を作製した後、レジスト膜を除去する製造工程を前提に、緩衝領域の幅を制御する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の製造工程により作製した製造用金型によりパターン位相差フィルムを作製する場合に広く適用することができる。具体的に、右目用領域A及び左目用領域Bに対応する領域を交互にマスクして、それぞれ凹凸形状を作製して製造用金型を作製する場合等にも広く適用することができる。
【0054】
また上述の実施形態では、ロール版を使用する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、平版を使用した枚葉の処理により生産する場合にも広く適用することができる。
【0055】
また上述の実施形態では、液晶表示パネルの使用を前提とする場合について述べたが、本発明はこれに限らず、有機ELパネル、プラズマディスプレイパネルの使用を前提とする場合にも広く適用することができ、また偏光フィルタを一体に設ける場合にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 パターン位相差フィルム
2 基材
3 配向膜
4 位相差層
5 紫外線硬化性樹脂
6A、6B 偏光フィルタ
7 ビデオカメラ
10 製造工程
11 供給リール
12、19 ダイ
14 加圧ローラ
15、17 紫外線照射装置
16 剥離ローラ
18 巻き取りリール
20 ロール版
40 母材
42 第1凹凸領域
43 レジスト層
44 第2層膜
R ラビングロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングして、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムにおいて、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、帯状に交互に設けられ、
前記第1及び第2の領域の境界に、ライン状の凹凸形状が形成されていない緩衝領域が設けられ、
前記緩衝領域の幅の平均値WAVに対して、前記平均値WAVからの前記緩衝領域の幅の変化量ΔWを前記平均値WAVにより除算した値ΔW/WAVが、±0.5以下に設定された
パターン位相差フィルム。
【請求項2】
前記緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下である
請求項1に記載のパターン位相差フィルム。
【請求項3】
垂直方向又は水平方向に連続する画素が、順次交互に右目用の映像を表示する右目用画素、左目用の映像を表示する左目用画素に振り分けられて、それぞれ対応する画像データにより駆動されることにより、右目用の映像を表示する帯状の領域と、左目用の映像を表示する帯状の領域とに表示画面が交互に区分され、
請求項1、又は請求項2に記載のパターン位相差フィルムにより、前記右目用画素及び左目用画素からの出射光に、それぞれ前記第1及び第2の領域により対応する位相差を与えて出射する
画像表示装置。
【請求項4】
透明フィルム材による基材上に設けられた配向膜による配向規制力により位相差層をパターンニングして、前記位相差層の透過光に対応する位相差を与えるパターン位相差フィルムの製造用金型において、
前記配向膜には、
微小なライン状の凹凸形状が略一定方向に形成された第1の領域と、前記第1の領域とは異なる方向に微小なライン状の凹凸形状が形成された第2の領域とが、帯状に交互に設けられ、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型は、
表面形状の転写により、前記第1及び第2の領域に係る凹凸形状を前記配向膜に形成し、
前記第1及び第2の領域に対応する領域の境界に、ライン状の凹凸形状が形成されていない平坦な領域が設けられ、
前記平坦な領域の幅の平均値WAVに対して、前記平均値WAVからの前記平坦な領域の幅の変化量ΔWを前記平均値WAVにより除算した値ΔW/WAVが、±0.5以下に設定された
パターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項5】
前記平坦な緩衝領域は、
幅が、2μm以上100μm以下である
請求項4に記載のパターン位相差フィルムの製造用金型。
【請求項6】
パターン位相差フィルムの製造用金型に形成された凹凸形状を透明シート材に転写して配向膜を形成するパターン位相差フィルムの作製方法において、
前記パターン位相差フィルムは、
前記配向膜のパターンニングにより、右目用の透過光に、対応する位相差を与える右目用の領域と、左目用の透過光に、対応する位相差を与える左目用の領域とが、それぞれ帯状に交互に形成され、
前記パターン位相差フィルムの作製方法は、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型を作製する金型製造工程と、
前記パターン位相差フィルムの製造用金型の表面形状の転写により前記配向膜を作製する配向膜製造工程とを備え、
前記金型製造工程は、
母材の全面に、前記右目用又は左目用の領域に対応する凹凸形状を作製する第1の凹凸形状の作製工程と、
前記母材の表面にレジスト層を積層してパターンニングし、前記左目用又は右目用の領域に対応する部位を露出させたマスクを作製するマスク作製工程と、
前記レジスト層の上層の、前記母材の全面に、凹凸形状作製用の薄膜を作製する薄膜作製工程と、
前記凹凸形状作製用の薄膜の表面に、前記左目用又は右目用の領域に対応する凹凸形状を作製する第2の凹凸形状作製工程と、
前記母材の表面より、前記レジスト層をその上層の前記凹凸形状作製用の薄膜と共に除去するレジスト除去工程とを備え、
前記レジスト層が、膜厚0.5μm以上、4μm以下に設定された
パターン位相差フィルムの作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate