説明

パターン寸法計測方法およびパターン寸法計測装置

【課題】フォトマスクのパターン形成面が帯電している場合でもフォトマスクのパターン寸法を高精度に計測することのできるパターン寸法計測方法を提供する。
【解決手段】SEM画像を画像処理してフォトマスクのパターン寸法を計測するに際して、フォトマスクのパターンと共にパターン形成面に形成された補正用パターンをSEM画像から抽出し、抽出された補正用パターンから一次電子の偏向量を算出し、該偏向量を補正量としてパターン寸法の計測値を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスをリソグラフィ技術により製造する際に用いられるフォトマスクのパターン寸法を計測するパターン寸法計測方法およびパターン寸法計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路は性能及び生産性を向上させるために微細化、高集積化が進んでおり、回路パターンを形成するためのリソグラフィ技術についても、より微細なパターンを高精度に形成するための技術開発が進められている。これに伴い、パターンの寸法や形状を計測するための技術についても、より高精度なものが求められている。
半導体デバイスを製造するために用いるフォトマスクのパターン寸法は100nm未満となっており、次世代のデバイスとしては30nm未満のパターンを安定して形成する必要がある。このような微細なパターンの寸法や形状を計測する場合は、寸法測定用に特別に設計された走査型電子顕微鏡(以下、CD−SEMと略する)が用いられる。
【0003】
CD−SEMを用いてフォトマスクのパターン寸法を計測する方法として、フォトマスクのパターン形成面(パターンが形成された基板表面)に一次電子をCD−SEMの電子線源から二次元方向に走査しながら照射し、一次電子を照射したときにパターン形成面から放出される二次電子や後方散乱電子をCD−SEMの検出器により検出して二次電子画像あるいは後方散乱電子画像(以下、総称としてSEM画像という)を取得し、取得したSEM画像を画像処理してフォトマスクのパターン寸法を計測する技術が知られている。
【0004】
SEM画像のコントラストは被計測物の材質や表面の凹凸によって形成される。一次電子1個あたりの二次電子放出量を二次電子放出効率と呼び、SEM画像の材質によるコントラストは二次電子放出効率が材質によって異なることによって得られる。二次電子放出効率は一次電子の加速電圧によっても変化する。
【0005】
一方、表面の凹凸によって形成されるコントラストは、一次電子の侵入深さと二次電子の脱出深さの関係から理解することができる。固体表面内に入射した電子の非弾性散乱によって発生する二次電子や、弾性散乱で進行方向が変化した後方散乱電子が表面から脱出する確率は、その発生時の表面からの深さとともに指数関数的に減少することが知られている。一般に表面から脱出できる二次電子の深さは概ね5nm未満であり、表面に近い領域で二次電子が多量に発生するような条件でSEM画像の輝度が高くなる。
【0006】
二次電子が表面に近い領域で多量に発生する条件としては、たとえば一次電子が表面に垂直な方向よりも傾斜した条件(いわゆる傾斜効果)、表面が凸型形状で二次電子発生位置から近い表面が多い条件(いわゆるエッジ効果)などがある。このため、フォトマスクのように平坦な基板上にパターンを形成したものについては、パターンの端部でSEM画像の輝度が高くなる。
【0007】
CD−SEMによるパターン寸法計測は上記のようにパターン端部でSEM画像の輝度が高くなる現象を利用しており、SEM画像上で白く見える領域(以下、ホワイトバンドと表記する)の間隔からパターン寸法を計測している。
CD−SEMで用いられるような加速電圧が低い条件では、ホワイトバンドの幅が10〜15nmとなるのが典型的である。したがって、パターン寸法を精度良く計測するためには、ホワイトバンドのどの部分をパターン端部と設定するのかが重要である。例えば、ホワイトバンドの輝度値のピークに対する相対値をしきい値として設定したり、輝度プロファイルを微分したピークの位置から元のプロファイルの変曲点の位置を求めてパターン端部位置とする方法などが用いられている。
【0008】
被測定対象が例えばフォトマスク基板として通常用いられる合成石英ガラスのように絶縁体である場合や導電性が低い場合には、その最表面近傍は二次電子の脱出により正に帯電し、より深い領域には一次電子が侵入したことにより負に帯電することになる。最表面近傍とは、二次電子脱出深さに相当するおおよそ数nmの範囲である。一般に、一次電子のエネルギーが高くなるにつれて表面近傍での散乱確率が低下して二次電子収率は低くなる傾向がある。また、逆に、一次電子のエネルギーが低すぎると二次電子の発生確率が低下してしまう。このようなことから、一次電子の入射エネルギーと二次電子の放出効率との間には、図4に示すような関係があることが一般に知られている。
【0009】
図4に示されるように、一次電子の入射量と二次電子の放出量は一次電子のエネルギーがE1とE2との間で等しくなることから、帯電が抑制されると考えられる。このため、二次電子の放出効率が1になるように一次電子のエネルギーを制御する方法や、二次電子の放出効率が1より大きい条件と1より小さい条件を組み合わせて帯電を抑制する技術が提案されている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載された方法では、異種の絶縁体があるような被計測物の場合に、その形態に合わせて加速電圧を動的に制御して画像を取得するようなことが必要となり、実施することがきわめて困難となる。
【0010】
そこで、非計測物表面の帯電による影響がなるべく小さくなるように一次電子の加速電圧や電流値を調整し、また、その他に電界等を与える手段によって安定したSEM画像が得られる条件を設定した上で、さらにパターンの側壁形状や帯電状態によるSEM画像の変動分を補正することが必要となる。例えば、被計測物の材料や形状を元にSEM画像を予測し、さらに形状の変動を考慮した多数のSEM画像信号からなるライブラリを構築し、実際に得られたSEM画像の信号とのマッチングにより被計測物の寸法を得る方法が特許文献2に開示されているが、ここでは帯電による変動の補正がなされていない。
【0011】
被計測物の帯電によるSEM画像の変動は非常に複雑であるが、近年、コンピュータの処理能力が飛躍的に向上したことから、単純な弾性散乱だけではなく、個々の非弾性散乱や電子の拡散等の多くの要素を取り入れたシミュレーションが可能となった。そこで、特許文献3には、半導体パターンの設計データから帯電による影響も考慮したSEM画像を生成する技術が記載されている。
【0012】
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、一つの計測条件に対して一つのSEM画像を形成することはできるが、実際にSEM画像を取得する際に電子線を照射することによって帯電状態が時間とともに変化することが考慮されていない。このため、例えば1回目に取得した画像から最適と判断した2回目の画像取得で、1回目の画像取得の際の帯電の影響は寸法計測精度が悪化してしまう原因となっていた。
また、1回目の画像取得前、すなわち計測開始前の帯電状態が正確に考慮されていないとシミュレーションにより生成した画像と実際のSEM画像とのマッチングが困難となる場合があった。
【0013】
さらに特許文献3においては電界計算領域が観察領域の10倍程度と記述されている。一次電子の入射と、それに引き続いて起こる各種散乱過程、表面から脱出した二次電子の飛跡計算をすることを考慮すると、ローカルな帯電の計算量としては妥当な値である。計算する領域は広いほうが精度が向上し、また、有限要素法、境界要素法、有限差分法などで空間をメッシュ状に分割する際のメッシュを小さくするほど精度が向上する。しかしながら、精度を向上させるためには計算時間が膨大となってしまい、実施するのが困難となる。十分な精度が得られるメッシュ分割数でパターンデータをもとに電子の飛跡計算を行う場合、計算領域を観察領域の10倍とするのはほぼ上限に近く、50倍以上とするのは実用が難しいという問題があった。
【0014】
観察領域の数十倍以上離れた領域については、実質上電気的に遮断されている場合、例えば合成石英ガラス上のマスクパターンが分離されている場合には計測に及ぼす影響が小さく無視することができる。しかしながら、数十ミクロン以上、さらに数ミリメートル以上の導電性膜が観察領域やその近傍に存在する場合はその電位を無視することができなくなる。
【0015】
また、観察領域やその近傍に前記のような導電性膜が存在する場合には、計算領域から外に出た後に入射する二次電子や、より高いエネルギーを持った後方散乱電子が計測装置内の一部に衝突し、再度入射するものもある。
数十ミクロン以上の導電性領域が存在する場合、導電性領域の電位変動はCD−SEMでパターン寸法を計測する際に、非計測物に入射する一次電子の飛跡に影響を及ぼす。導電性領域の電位が負側に変化すると、一次電子は導電性領域から離れる方向に偏向される。逆に導電性領域の電位が正側に変化すると、一次電子は導電性領域に近づく方向に偏向される。
【0016】
一次電子の偏向量は、計測前の導電性領域の電位、計測中に変動する導電性領域の電位によって変動する。
計測中に変動する一次電子の偏向は、計測中のSEM画像のずれとして検出され、ドリフトと呼ばれている。ドリフトの基本的な補正方法としては例えば特許文献4や特許文献5に開示されている。しかしながら、画素単位でドリフト量を検知して一次電子の走査の偏向量にフィードバックする方法では十分な補正精度が得られない。透過型電子顕微鏡においては1画素よりも小さい補正方法が特許文献6に開示されているが、CD−SEMを使用した寸法計測にそのまま適用することはできない。
【0017】
また、一次電子の偏向量は一次電子が被計測物への入射予定位置から法線方向に延ばした軸(CD−SEMからフォトマスクのパターン形成面に垂直な角度で入射する一次電子線)に対する対称性によって変わる。例えば、図2に示すように、大面積の導電性領域が一次電子の入射予定位置から法線方向に延ばした上記軸に対して左右に非対称な場合は一次電子の偏向量が大きい。これに対して、図3に示すように、大面積の導電性領域が上記法線方向に延ばした軸に対して概ね対称な場合には一次電子の偏向量は小さくなる。
したがって、導電性領域の電位が同じであっても、一次電子の偏向量はパターン形状によって異なり、表面の電位を計測するだけでは高精度な補正に十分な情報が得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開平7−14537号公報
【特許文献2】特開2005−156436号公報
【特許文献3】特開2010−205864号公報
【特許文献4】特開昭55−126849号公報
【特許文献5】特開平7−272665号公報
【特許文献6】特開2000−331637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明はかかる背景技術に鑑みてなされたもので、フォトマスクのパターン形成面が帯電している場合でもパターン形成面のパターン寸法を高精度に計測することのできるパターン寸法計測方法およびパターン寸法計測装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、フォトマスクのパターン形成面に一次電子をCD−SEMの電子線源から照射し、前記一次電子を照射したときに前記パターン形成面から放出される二次電子を前記CD−SEMの検出器により検出してSEM画像を取得し、取得したSEM画像を画像処理して前記フォトマスクのパターン寸法を計測するパターン寸法計測方法であって、前記フォトマスクのパターンと共に前記パターン形成面に形成された補正用パターンを前記SEM画像から抽出し、抽出された補正用パターンから前記一次電子の偏向量を算出し、該偏向量を補正量として前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の態様は、前記CD−SEMの電子線源から前記パターン形成面に垂直な角度である一次電子線の入射軸に対して対称性が異なり、かつ重心位置が異なるように前記補正用パターンを前記パターン形成面の複数箇所に形成して前記パターン寸法を計測することを特徴とする。
本発明の第3の態様は、前記パターン形成面の複数箇所に形成された補正用パターンの位置座標を前記SEM画像から求めて前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とする。
【0022】
本発明の第4の態様は、前記一次電子の偏向量を前記フォトマスクのパターン設計データを基に算出することを特徴とする。
本発明の第5の態様は、前記一次電子の照射条件が異なる複数のSEM画像を取得して前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とする。
本発明の第6の態様は、前記CD−SEMから前記パターン形成面に照射される一次電子の走査速度、走査面積および走査順序を異ならせて前記複数のSEM画像を取得することを特徴とする。
【0023】
本発明の第7の態様は、前記複数のSEM画像からホワイトバンド両側の輝度プロファイルを抽出し、抽出された輝度プロファイルにドリフト補正処理を施して前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とする。
本発明の第8の態様は、前記複数のSEM画像から抽出されたホワイトバンド両側の輝度プロファイルを関数で近似し、前記一次電子が偏向していない輝度プロファイルをデコンボリューション処理により算出して前記ドリフト補正処理を行うことを特徴とする。
【0024】
本発明の第9の態様は、前記輝度プロファイルを近似する関数としてガウス関数とローレンツ関数の混合関数を用いて前記一次電子が偏向していない輝度プロファイルを算出することを特徴とする。
本発明の第10の態様は、前記一次電子の偏向量は取得する画像の中の位置によって調整されることを特徴とする。
本発明の第11の態様によるパターン寸法計測装置は、第1〜第10の態様のいずれかの方法を用いてフォトマスクのパターン寸法を計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、フォトマスクのパターン形成面が帯電している場合やCD−SEMからの電子線照射によって帯電状態が変化した場合でもフォトマスクのパターン寸法を高精度に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係るパターン寸法計測方法を説明するための図である。
【図2】フォトマスクのパターン形成面に形成される補正用パターンの一例を示す図である。
【図3】フォトマスクのパターン形成面に形成される補正用パターンの他の例を示す図である。
【図4】CD−SEMからフォトマスクのパターン形成面に照射される一次電子とパターン形成面から放出される二次電子との関係を示す図である。
【図5】CD−SEMからの一次電子ビームが偏向してフォトマスクのパターン形成面に照射される場合を模式的に示す図である。
【図6】SEM画像の輝度プロファイルを関数で近似した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明に係るパターン寸法計測方法を説明するための図、図2はフォトマスクのパターン形成面に形成される補正用パターンの一例を示す図、図3はフォトマスクのパターン形成面に形成される補正用パターンの他の例を示す図である。
フォトマスクのパターン寸法をSEM画像から計測する場合、本発明の一実施形態では、図1に示されるように、まず、パターン設計データに基づいてフォトマスクのパターン形成面に形成された補正パラメータ算出用パターンの計測位置を指定する(ステップS1)。そして、ステップS1で指定した計測位置のパターン形状と別途指定されるパターン構成材料とから最適な計測条件をデータベースから検索し、これを最適計測条件としてCD−SEMを制御する装置に転送する(ステップS2)。
【0028】
このとき、CD−SEMを制御する装置では、ステップS1で指定した計測位置を含むSEM画像をCD−SEMから複数取得する(ステップS3)。このSEM画像は直交するXY方向の画素数分を1回走査して得られるものであっても良いし、複数回走査した結果を積算することによって得られるものであっても良い。一般的には、帯電の影響を少なくするには、SEMの一次電子の電流値を小さくし、高速に走査することが好ましい場合が多く、ノイズが少ない良好な画像を得るためには複数回走査した結果を積算することによって得られるものであることが好ましい。
【0029】
補正パラメータ算出用パターンは、例えば、図2あるいは図3に示されるように、CD−SEMの電子線源からフォトマスクのパターン形成面に垂直な角度で入射する一次電子線に対する対称性や重心位置が異なる複数の補正用パターンから構成される。このような複数のパターンの計測結果は、パターン寸法の計測を開始する前に既に存在する帯電分布により、一次電子の偏向量を算出する工程に使用される。
【0030】
図5は、CD−SEMからの一次電子ビームが偏向してフォトマスクのパターン形成面に照射される場合を模式的に示す図である。図5に示されるように、フォトマスク基板51の上に形成されたパターン形成物質52に電子が過剰にある場合、CD−SEMからの一次電子53はパターン上の負電荷によって形成される電界によってパターンから離れる方向に偏向される。このとき、一次電子53が偏向する向きと大きさは一次電子のエネルギー、パターン部分の電位分布、パターンの形状と大きさなどに依存する。パターン寸法を計測する前のパターン部分の電位は、フォトマスク基板51とパターン形成物質52の物理的および化学的な性質の違いによって計測前の工程などにおいて発生する。
【0031】
補正パラメータ算出用パターンについて、あらかじめ電位を設定し、例えば特許文献3に開示されているように、空間の電位分布をポアソン方程式を離散的に数値計算により解き、電界中の電子の飛跡を計算することができる。パターンの対称性は電子線源を通りフォトマスクのパターン形成面に垂直な軸に対して低く、パターンの重心位置は上記一次電子線の入射位置から離れているほど一次電子の偏向量は大きくなる。各補正パラメータ算出用パターンについて、各種電位を設定して計算した結果をテーブルとしてデータベースに保持し、パラメータ算出用パターンの偏向量の計測結果と比較することにより、後の工程で一次電子の偏向量による計測誤差を補正する際の電位に関するパラメータを得ることができる。
【0032】
補正パラメータ算出用パターンの計測時に、複数回の走査を積算すると、計測時に照射した電子による帯電状態の変化の影響によりSEM画像内でのパターンの位置にずれを生じる場合がある。このような計測途中のドリフトはパターンの対称性が電子線源を通りフォトマスクのパターン形成面に垂直な軸に対して低く、重心位置が上記一次電子線の入射位置から離れているほど大きい傾向がある。
【0033】
したがって、計測時に照射した電子による帯電状態の変化によるドリフトの影響は、電子線源を通りフォトマスクのパターン形成面に垂直な軸に対して対称性の高いパターンと対称性の低いパターンでの輝度プロファイルを比較することによって判別することができる。まず、対称性の高いパターンで帯電の影響がほとんど無視できる状態でのパターン端部の輝度プロファイルを得る。
【0034】
輝度プロファイルはパターン端部の両側で材料の違いによって輝度値が異なるため、ピークに対して非対称な形状となるのが一般的である。このような形状に対して数学的な関数で最小二乗法によりフィッティングすることが可能である。
フィッティングに好適な関数は、被計測物の材料やパターン端部の形状によって異なるが、ガウス関数とローレンツ関数の混合関数をホワイトバンドのピークの両側で個別に設定することによって、種々の条件に対して精度良くフィッティングを行うことができる。
フィッティングに好適な関数としては、具体的には、下式(1)で表される関数f(x)を用いることができる。
【0035】
【数1】

【0036】
ここで、xは計測する線分方向の位置座標、Mはガウス関数とローレンツ関数の混合割合を表す0から1の値をとるパラメータ、hはホワイトバンドのピーク値、x0はホワイトバンドのピーク位置、βはホワイトバンドの幅をあらわすパラメータで、ホワイトバンドの半値半幅に近い値をとる。
まず、対称性の高いパターンにて、上記関数f(x)でフィッティングを行い、帯電によるドリフトの影響が小さい状態でのフィッティングパラメータの値を得る。次に、対象性の低いパターンで計測した輝度プロファイルを、フィッティングパラメータの値を用いた関数に対してドリフト量を仮定したコンボリューション処理によって得ることができる。こうして対称性の低いパターンに対して実際に計測した輝度プロファイルを最も良く再現するドリフト量の算出を数値計算による最適化処理によって行うことができる。また、既に公知となっているデコンボリューションの手法によってドリフト量を抽出してもよい。
【0037】
このような工程によってドリフト量の抽出を対称性および重心位置の異なる複数のパターンについて取得することによって、計測前の帯電による一次電子の偏向、ならびに計測途中の帯電状態の変動による一次電子の偏向の2種類のドリフト成分を抽出することができる(ステップS4)。
また、前記工程を被計測物の複数の位置について実施し、設計データと比較することによりCD−SEMの基板保持機構の位置座標と被計測パターンの位置関係、すなわち、XY方向の位置座標成分と回転方向の成分を抽出することができる。
【0038】
上記位置関係データを用いることによって、被計測物の所望の位置をSEMの観察領域に高精度に移動させることができる。また、このようにして算出した計測位置に電子ビームを照射したときの2種類のドリフト成分を設計データから算出することができ、このドリフト分を補償した位置に電子ビームを走査してSEM画像を取得し、設計データとのパターンマッチングを行うようにすることで、帯電によるドリフトでパターンマッチングが取れなくなる問題が起こる確率を下げることができる。
【0039】
上記ドリフト成分の算出に使用する設計データの面積は広いほど精度が向上する。例えば、数ミクロン程度の距離範囲では十分な補正ができない。また、数ミリメートル以上の距離範囲にわたって計算すると、処理に時間がかかる上に、計算量を増やした分の精度向上が見込めない。したがって、算出に使用するパターンデータの範囲は計測位置からおおよそ100ミクロン(μm)ないし3mm以内の領域とするのが好ましい。
【0040】
このようにしてパターンマッチングを行った結果得られた被計測パターンの座標と、前記複数のパラメータ抽出パターンの計測によって補正し、かつ、パターン設計データからドリフトの影響を補正して得られる座標を比較することによって、帯電による補正が適正であるかどうかが判断される(ステップS6)。
ステップS6での比較結果が、あらかじめ設定された範囲内にあることが確認できれば、輝度プロファイルを算出し、ホワイトバンドの間隔からパターン寸法を計測することができる。ホワイトバンドの間隔はピーク値に対する閾値であっても良いし、微分処理後にピークを求めて最大傾斜点で定義しても良い。また、前記近似関数を使用する方法であってもよい。
【0041】
ホワイトバンドの間隔からパターン寸法を計測する場合、両方のホワイトバンドのドリフト量を周辺のパターンレイアウトから算出して補正することによって、一次電子の帯電による偏向でSEM画像に歪みを生じた分、すなわちSEM画像内の部分的な倍率変動を補正する(ステップS7)。こうして、帯電の影響が高精度に補正されたパターン寸法が出力される(ステップS8)。
【0042】
ステップS6での比較結果が、あらかじめ設定された範囲外にあることが確認された場合、想定された帯電のモデルと異なった現象が起こっていることになり、計測値の信頼性が低いことが発見される。このような計測点は異常値として判別できるように出力することによって、誤計測を防止することにもなる(ステップS9)。
本発明の実施の形態について実施例を用いてさらに説明する。
【実施例1】
【0043】
石英ガラス基板上に厚さ60nmのモリブデンシリサイドを主成分とする膜が形成されたフォトマスクブランクを用意した。
上記モリブデンシリサイド膜の上にレジストを塗布し、電子線露光装置を用いて露光し、ベーキング後に現像処理をおこなってレジストパターンを形成した。ドライエッチングによってモリブデンシリサイド膜をエッチング加工した後、表面に残ったレジストを除去し、フォトマスクを得た。
【0044】
フォトマスクの転写に用いられる領域外の周辺部に設けた補正パラメータ算出用パターンの計測を行った。その結果、CD−SEMからフォトマスクのパターン形成面に垂直な角度で入射する一次電子線に対して対称性の高いパターンと非対称なパターンでの計測前の帯電による一次電子のドリフト量の成分が150nmあることがわかった。
対称性の高いパターンでは計測中のドリフトは認められず、SEM画像から良好な輝度プロファイルが得られた。パターン端部のホワイトバンドの両側を式(1)で表されるガウス関数とローレンツ関数の混合関数を用いて最小二乗法によるフィッティングを行い、ホワイトバンドの形状をあらわすパラメータを抽出した。
【0045】
その結果、図6に示すように、輝度プロファイルをA、B、Cの領域に分割し、それぞれの領域についてガウス関数とローレンツ関数の混合関数で最適なパラメータを算出して、それぞれ関数1、関数2、関数3とした合成関数で元のSEM画像輝度プロファイルを十分な精度で再現した。
次に、上記パラメータ抽出用パターンの計測を基板面内の複数箇所について実施し、前記関数のフィッティングにより帯電状態が基板面内で均一とみなしても良いことを確認した。
【0046】
また、複数の走査条件でSEM画像を取得し、計測途中の画像ドリフトの影響が最小となる条件を選択した結果、計測途中の画像ドリフトは無視できることを確認した。
次に、計測位置の周囲について、X方向に±500ミクロン、Y方向に500ミクロンの領域について、パターン設計データから非対称な帯電分布となる成分を抽出した。抽出した帯電分布をもとに、一次電子の飛跡を計算し、帯電による一次電子の偏向量を算出した。
【0047】
その結果、対称性の高い位置では縦横2.8ミクロンの走査範囲でドリフトによる歪みは無視できるのに対して、非対称な位置ではSEM画像内の1ミクロンの幅について、ドリフト量に0.4nmの差があることがわかった。
この補正値をもとに、SEM画像から計測したパターン寸法を適正に補正し、高精度の計測が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のパターン寸法計測方法およびパターン寸法計測装置を用いることで、フォトマスクのパターン形成面が帯電している場合やCD−SEMからの電子線照射によって帯電状態が変化した場合でもフォトマスクのパターン寸法を高精度に計測することが可能となり、半導体等の製造を精度良く行うことが可能である。
【符号の説明】
【0049】
51…フォトマスク基板
52…パターン
53…一次電子の飛跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトマスクのパターン形成面に一次電子をCD−SEMの電子線源から照射し、前記一次電子を照射したときに前記パターン形成面から放出される二次電子を前記CD−SEMの検出器により検出してSEM画像を取得し、取得したSEM画像を画像処理して前記フォトマスクのパターン寸法を計測するパターン寸法計測方法であって、
前記フォトマスクのパターンと共に前記パターン形成面に形成された補正用パターンを前記SEM画像から抽出し、抽出された補正用パターンから前記一次電子の偏向量を算出し、該偏向量を補正量として前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とするパターン寸法計測方法。
【請求項2】
前記CD−SEMの電子線源から前記パターン形成面に垂直な角度である一次電子線の入射軸に対して対称性が異なり、かつ重心位置が異なるように前記補正用パターンを前記パターン形成面の複数箇所に形成して前記パターン寸法を計測することを特徴とする請求項1に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項3】
前記パターン形成面の複数箇所に形成された補正用パターンの位置座標を前記SEM画像から求めて前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とする請求項2に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項4】
前記一次電子の偏向量を前記フォトマスクのパターン設計データを基に算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項5】
前記一次電子の照射条件が異なる複数のSEM画像を取得して前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項6】
前記CD−SEMから前記パターン形成面に照射される一次電子の走査速度、走査面積および走査順序を異ならせて前記複数のSEM画像を取得することを特徴とする請求項5に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項7】
前記複数のSEM画像からホワイトバンド両側の輝度プロファイルを抽出し、抽出された輝度プロファイルにドリフト補正処理を施して前記パターン寸法の計測値を補正することを特徴とする請求項5または6に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項8】
前記複数のSEM画像から抽出されたホワイトバンド両側の輝度プロファイルを関数で近似し、前記一次電子が偏向していない輝度プロファイルをデコンボリューション処理により算出して前記ドリフト補正処理を行うことを特徴とする請求項7に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項9】
前記輝度プロファイルを近似する関数としてガウス関数とローレンツ関数の混合関数を用いて前記一次電子が偏向していない輝度プロファイルを算出することを特徴とする請求項8に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項10】
前記一次電子の偏向量は取得する画像の中の位置によって調整されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のパターン寸法計測方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載された方法を用いてフォトマスクのパターン寸法を計測することを特徴とするパターン寸法計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−72642(P2013−72642A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209390(P2011−209390)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】