説明

パターン形成された薄膜蛍光体及びその製造方法

【課題】 一般的な基材であるガラスに成膜され、且つ良好なパターン形状と優れた発光特性の両方を兼ね備えた薄膜蛍光体及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 基材と結晶性の薄膜蛍光体からなり、前記薄膜蛍光体は、前記基材上に成膜されて薄膜蛍光体層が形成されており、前記薄膜蛍光体層にパターンが形成されており、前記結晶がナノ構造であることを特徴とするパターン形成された薄膜蛍光体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン形成された薄膜蛍光体及びその製造方法に関し、より詳しくは、高い結晶性を有し且つ高輝度で発光するパターン形成された薄膜蛍光体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、蛍光体は粉末状である。粉末状の蛍光体を用いる場合、1000℃程度の温度で熱処理を行う必要がある。つまり、1000℃程度の温度で熱処理を行うことで、蛍光体としての発光特性が得られる。粉末状の蛍光体を電子デバイスに利用しようとすると、蛍光体を担持体に担持させたり、基材に塗布して薄膜とする必要があった。電子デバイスへの汎用性の観点からは、蛍光体を薄膜とすることが好ましい。
【0003】
また、種々のデバイスへの適用のために、薄膜蛍光体に所望のパターンを形成する試みが多くなされている。
しかしながら、上記した従来の粉末状の蛍光体を用いると、高温(例えば、1000℃程度)での熱処理を要するため、高温に耐え得る基材を選択する必要があった。即ち、ガラス基材のような汎用性に優れた基材では、熱処理により軟化するという問題がある。
従って、薄膜にパターンを形成して更に高温で熱処理を行い、良好なパターン形状と発光特性を兼ね備えた薄膜蛍光体を得ることは困難であった。あるいは、薄膜を熱処理した後にパターンを形成した場合も、良好なパターン形状と発光特性を兼ね備えた薄膜蛍光体を得ることは困難であった。つまり、上記したいずれの場合も基材への負荷が大きくなり、良好なパターン形状を得るとともに発光特性に優れた薄膜蛍光体を得ることはできなかった。
【0004】
特許文献1には、薄膜蛍光体をレーザーアブレーション法によってパターニングする方法が開示されている。特許文献1に記載の方法を用いると、レーザーの波長、パルス幅、エネルギー密度等を調節することで薄膜蛍光体へのパターン形成が可能となる。
しかしながら、アブレーションが行われる際に生じるエネルギーにより基材への負荷が大きくなる虞があった。更に、アブレーションの影響で蛍光体自体が溶融したり、昇華する虞があり、良好なパターン形状を得られない虞があった。
【0005】
また、特許文献2,3には、多色薄膜EL素子の製造方法が開示されている。しかし、特許文献2,3のいずれの文献も、パターン形成されたナノ構造を有する薄膜蛍光体やその製造方法については開示するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−513741号公報
【特許文献2】特開平2−44690号公報
【特許文献3】特開平9−274989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、一般的な基材であるガラスに成膜され、且つ良好なパターン形状と優れた発光特性の両方を兼ね備えた薄膜蛍光体及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、基材と結晶性の薄膜蛍光体からなり、前記薄膜蛍光体は、前記基材上に成膜されて薄膜蛍光体層が形成されており、前記薄膜蛍光体層にパターンが形成されており、前記結晶がナノ構造であることを特徴とするパターン形成された薄膜蛍光体に関する。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記蛍光体が、酸化亜鉛系結晶であることを特徴とする請求項1記載のパターン形成された薄膜蛍光体に関する。
【0010】
請求項3に係る発明は、ガラス基材上にナノ構造を有する結晶性の蛍光体を薄膜状に形成し、前記薄膜状の蛍光体にパターンを形成することを特徴とするパターン形成された薄膜蛍光体の製造方法に関する。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記蛍光体が酸化亜鉛系結晶であることを特徴とする請求項3記載のパターン形成された薄膜蛍光体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ガラス基材と結晶性の薄膜蛍光体からなり、前記薄膜蛍光体は、前記ガラス基材上に成膜されて薄膜蛍光体層が形成されており、前記薄膜蛍光体層にパターンが形成されていることにより、高い結晶性を有し、且つ高い輝度の蛍光体とすることができる。つまり、パターン形状の通りに発光させることができる発光効率に優れた薄膜蛍光体となる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、前記蛍光体が、酸化亜鉛系結晶であるため、発光させた際の輝度をより高めることができる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、ガラス基材上にナノ構造を有する結晶性の蛍光体を薄膜状に形成し、前記薄膜状の蛍光体にパターンを形成することにより、良好なパターン形状を有するとともに、輝度や発光効率等の発光特性に優れた薄膜蛍光体を得ることができる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、前記蛍光体が酸化亜鉛系結晶であることにより、輝度が極めて高い発光効率に優れた薄膜蛍光体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】パターン形状を示す図であって、(a)はマスクパターン、(b)はパターン形成された酸化亜鉛からなる薄膜蛍光体、(c)は(b)に紫外線を照射した時の発光を示す図である。
【図2】本発明に係るパターン形成された薄膜蛍光体におけるフォトルミネッセンススペクトルである。
【図3】パターン形成された薄膜蛍光体(酸化亜鉛)におけるX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るパターン形成された薄膜蛍光体について詳述する。
本発明において、蛍光体は基材上に膜状に形成(成膜)される。例えば、0.1〜10μmの薄膜として基材上に形成される。上記した範囲の膜厚であると、複雑且つ微細なパターンであってもパターン形成が可能である。
0.1μm未満であると、全体にわたって均一な膜厚の薄膜が得られず、大面積の薄膜蛍光体を得ることが困難となる。また、薄膜蛍光体全体にわたって、均一にナノ構造が形成されない虞があるため好ましくない。一方、10μmを超えると、薄膜表面の平滑化が困難となる。更に、パターン作製時に残渣が多く発生することとなる。いずれの場合も発光特性が低下する原因となるため好ましくない。
尚、基材上への蛍光体の成膜方法についての詳細は後述する。
【0018】
蛍光体としては特に限定されないが、ガラス基材を使用する場合に対応可能な温度、即ちガラス基材が軟化しない温度条件下において、熱処理、イオン注入、プラズマ処理等によって格子欠陥等が生じるものが使用される。
具体的には例えば、ZnO、Y、SrTiO等の酸化物系、ZnS、SrGa等の硫化物系、YS等の酸硫化物系、CaSiAlON等の酸窒化物系、AlN等の窒化物系等が挙げられる。
【0019】
上記したような化合物に電磁波や電子線等を照射することで電子が励起する。励起した電子が結晶構造内の格子間原子や原子空孔等の格子欠陥に捕らえられて再結合すると発光する。つまり、発光中心となり得る格子欠陥に励起した電子が捕らえられると発光する。
尚、蛍光体の結晶構造中への格子欠陥の導入方法は、後述する通りである。
【0020】
薄膜蛍光体が形成される基材の材質としては、ガラス、単結晶、セラミックス、樹脂等の種々のものを使用することができるが、本発明ではガラスが好適に使用される。
ガラスを薄膜蛍光体の成膜基材とすることで、汎用性に優れた電子デバイスとすることができる。
【0021】
パターン形成された薄膜蛍光体を製造する方法は、主に以下の(1)〜(3)の工程から構成される。
先ず、工程(1)として、成膜基材上に蛍光体の薄膜(薄膜蛍光体)を形成する。工程(2)として、薄膜蛍光体にパターンを作製(パターニング)する。工程(3)として、薄膜蛍光体の発光特性(効率、輝度)向上のための処理を施す。
尚、工程(2)と工程(3)は、順序を入れ替えてもよい。言い換えると、基材上に薄膜蛍光体を成膜した後に、次工程として工程(3)の処理を施し、工程(2)のパターン作製を行ってもよい。
【0022】
(1)成膜基材上への薄膜蛍光体の形成
薄膜状の蛍光体を形成する基材としては、上記した種々の材質を使用することができるが、本発明ではガラスが好適に使用される。
また、蛍光体としては、ZnO、Y、SrTiO等の酸化物系、ZnS、SrGa等の硫化物系、YS等の酸硫化物系、CaSiAlON等の酸窒化物系、AlN等の窒化物系等が例示される。本発明では、ZnO(酸化亜鉛)が好適に用いられる。酸化亜鉛を使用することにより、発光効率の高い薄膜蛍光体とすることができる。
【0023】
上記した蛍光体を物理気相成長法、化学気相成長法、溶液法の種々の成膜方法によりガラス基材上に成膜する。
具体的な成膜方法として例えば、高周波スパッタ法(RF)、直流スパッタ法(DC)、ラジオ周波数マグネトロンスパッタ法(RFM)等のスパッタリング法、対向電極型スパッタリング法(FTS)、パルスレーザー堆積法(PLD)、有機金属化学堆積法(MOCVD)、電子ビーム蒸着法(EB)、プラズマ化学気相成長法、ミスト化学気相成長法等が挙げられる。また溶液法により薄膜を形成する場合、蛍光体となる化合物をペースト状あるいは水溶液として基材に塗布することで成膜される。
これらの成膜方法の中で、本発明では特にラジオ周波数マグネトロンスパッタ法(RFM−SPT)が好適である。RFM−SPTによりガラス基材上に成膜することで、薄膜の組成を容易に制御することができる。例えば、成膜時の圧力や温度を調整することで組成を制御することができる。そのため、後述の発光特性向上のための処理を施した際に生成する格子欠陥の量を調節することができ、種々の蛍光体に対して様々な組成の薄膜蛍光体を作製することができる。
【0024】
薄膜を構成する結晶は単結晶、多結晶のいずれであってもよいが、本発明では、多結晶であることが好ましい。多結晶とすることで粒界が存在することとなる。粒界が存在することにより、薄膜蛍光体の発光効率を高めることができる。
つまり、後述の発光特性向上のための処理を施した際に、結晶を構成する原子のマイグレーションが生じる。マイグレーションとは、結晶を構成する原子の結合が外れて、原子が薄膜上を移動する現象のことである。粒界が存在することで、粒界に原子が捕らえられやすくなる。原子が捕らえられた粒界では、ナノ構造となりやすくなる。そうすると、後述するように薄膜の表面積が増加し、更に欠陥の数が増加する。従って、薄膜蛍光体の発光効率を高めることができる。
【0025】
更に、本発明では、結晶はナノ構造であることが好ましい。ナノ構造の結晶とすることで、薄膜の表面積が増加することとなる。この表面積の増加に伴って、発光の中心となる欠陥の数が増えることとなり、薄膜の発光効率を向上させることができる。また、発光させた時の輝度が向上するため、薄膜にパターンが形成されても輝度が低下することがない。
【0026】
(2)薄膜蛍光体へのパターン作製
工程(1)の後に、工程(2)あるいは後述の工程(3)の処理が施される。
以下に、工程(1)の後に工程(2)を行う場合について述べる。
【0027】
工程(2)では、工程(1)で得られた薄膜蛍光体に対してパターンを作製(パターニング)する。上記したように、薄膜蛍光体はガラス基材上に形成されている。
薄膜蛍光体のパターニング方法としては、公知の方法を用いることができる。具体的には例えば、フォトリソグラフィーである。
【0028】
また、パターンを形成する際のエッチング方法としては、公知の方法を用いることができる。つまり、ウェットエッチングやドライエッチングによりパターンを形成することができる。
また、ウェットエッチング、ドライエッチングに限られず、この他のエッチング方法によりエッチングを施すことができる。例えば、エッチング液をミスト化し、このミストを用いてエッチングする方法が挙げられる。
【0029】
パターニング方法(パターン作製条件)、パターンを形成する際のエッチング方法(エッチング条件)等は、パターン形状、成膜方法、薄膜を構成する化合物の種類に応じて適宜設定される。
【0030】
(3)薄膜蛍光体に対する発光特性(効率、輝度)向上のための処理
薄膜蛍光体の発光特性を向上させるための処理としては、熱処理、イオン注入、プラズマ処理のいずれかが施される。
上記した処理を施すことにより、薄膜を構成する結晶に効率的に格子欠陥が生成される。格子欠陥が存在することで励起した電子が欠陥に捕らえられて再結合し、発光する。
【0031】
例えば、酸化亜鉛結晶(ZnO)では、亜鉛リッチとすることで酸素欠陥や格子間亜鉛が生じる。この酸素欠陥、格子間亜鉛が格子欠陥である。酸素欠陥が多く存在すると、発光の際の発光中心が増えることとなり発光効率が向上する。
【0032】
また、結晶を構成する元素以外の異種の原子を結晶構造中に導入することで、格子欠陥を生成させることもできる。
導入する原子は蛍光体とする結晶の種類により、適宜決定される。導入する原子の種類を変更することで、発光波長や発光強度等の発光特性を変化させることができる。また、導入する原子は1種であってもよいが、複数種を組み合わせて導入することもできる。
例えば、四価イオン原子、三価イオン原子、二価イオン原子、一価イオン原子、リン等の種々の原子が導入可能である。具体的には、四価イオン原子としてはケイ素等、三価イオン原子としてはランタノイド、セリウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、ホウ素等、二価イオン原子としてはユーロピウム、カルシウム、マグネシウム等、一価イオン原子としては水素、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
【0033】
熱処理を発光特性向上のための処理として採用する場合は、薄膜を構成する結晶の種類により加熱条件を変更する。つまり、結晶が融解したり、昇華することのない温度で加熱される。
また、本発明では、薄膜が形成される基材にガラスを使用するため、ガラスが軟化しない比較的低い温度で加熱される。例えば、500℃では、ガラスの種類に依存せず加熱することができる。またこのような温度であると、一般的な高温での熱処理(例えば、1000℃程度)で融解、蒸発、昇華等が起こる結晶(蛍光体)に対して有効である。具体的には、酸化亜鉛(ZnO)は千数百度で昇華するため、特に有効である。
【0034】
また、上記した処理は、還元雰囲気下又は酸化雰囲気下で行うことが好ましい。例えば、水素ガス(H)、酸素ガス(O)、窒素ガス(N)等を使用して処理を行う際の雰囲気を調整することができる。また、別の具体的な例としては、硫化物系の蛍光体に対して硫化水素ガス(HS)等を使用することができる。
【0035】
処理の対象となる薄膜蛍光体の種類や組成に応じて還元雰囲気、酸化雰囲気のいずれかを選択するとよい。処理の雰囲気を選択することにより、格子欠陥の数を調節することができる。
【0036】
熱処理、イオン注入、プラズマ処理のいずれかの方法により処理を施すことで、薄膜蛍光体を構成する結晶が更に微細化する。即ち、ナノ構造の結晶とすることができる。
上記したいずれかの処理を施すと結晶が活性な状態となる。より具体的には、薄膜蛍光体を構成する結晶が微小領域において蒸発、分散し、その後に結晶が再成長することとなる。その結果、結晶性が向上するとともに結晶が微細化(自己触媒性によるナノ構造化)する。更に、格子欠陥が効率的に生成され、且つ生成した格子欠陥が活性化される。つまり、薄膜蛍光体の表面積が増加するとともに、格子欠陥が活性化されるため、薄膜蛍光体の発光効率が向上し、輝度が飛躍的に向上することとなる。
【0037】
このようにして得られた本発明に係るパターン形成された薄膜蛍光体は、高い結晶性を有するとともに、極めて優れた発光特性(発光効率、輝度)を示すものである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明に係る成膜方法に関する実施例を示すことにより、本発明の効果をより明確なものとする。
但し、本発明は下記実施例には限定されない。
【0039】
以下に示す実施例では、基材上への薄膜蛍光体の作製、薄膜蛍光体へのパターンの作製(パターニング)、発光特性向上のための処理の順でパターン形成された薄膜蛍光体を作製した。
【0040】
<基材上への薄膜蛍光体の作製>
ラジオ周波数マグネトロンスパッタリング法(RFM−SPT)により、酸化亜鉛(ZnO)薄膜をガラス基材上に作製した。表1に示す成膜条件により、ガラス基材上に膜厚1μmの薄膜を作製した。
【0041】
【表1】

【0042】
<薄膜蛍光体のパターニング>
次に、得られたZnO薄膜にパターンを作製した。パターンは、以下の手順により作製した。
【0043】
a)洗浄
先ず、得られたZnO薄膜をガラス基材ごと300rpmで回転させ、純水を60秒間かけた。次いで、回転数を200rpmにして窒素(N)ガスを15秒間吹き付けた。
ガスを吹き付けた後、回転数200rpmのままで30秒間回転させた。
その後、120℃で1分間加熱し、加熱後に放冷した。
【0044】
b)レジストの塗布
洗浄したZnO薄膜の表面にレジスト(ナガセケムテック製、ナガセポジティブレジストNPR3510PG)を塗布し、回転数900rpmで回転させた。その後、105℃で3分間加熱処理を施し、レジストを硬化させた。尚、レジストの厚さは1.8μmとした。
【0045】
c)露光
レジストを塗布したZnO薄膜上に、図1(a)に示すパターン形状のマスクを載置した。
マスクを介して露光器(CANON製、PLA501-F mask aligner)により40秒間露光(254nm、出力4.6mW/cm)した。
【0046】
d)現像
露光したZnO薄膜を現像液(ナガセケムテック製、ナガセポジティブディベロッパーNPD-18)により現像した。
具体的には、ZnO薄膜をガラス基材ごと300rpmで回転させ、現像液を30秒間かけて塗布した。次いで、60秒間純水をかけて表面を洗浄した。回転数を2000rpmにして窒素(N)ガスを15秒間吹き付けた。
ガスを吹き付けた後、回転数2000rpmのままで30秒間回転させた。
次に105℃で3分間加熱し、加熱後に放冷した。
【0047】
e)エッチング
パターンが転写されたZnO薄膜を基材ごと400mLの塩酸(0.30mol/L)に90秒浸漬した。
浸漬後、エッチング浴槽から取り出したZnO薄膜を純水により洗浄した。
【0048】
f)レジスト剥離
エッチングを施したZnO薄膜を基材ごとDMSO(ジメチルスルホキシド)に4分間浸漬した。
浸漬後、DMSOから取り出したZnO薄膜を純水により洗浄し、レジストを剥離した。
【0049】
<発光特性向上のための処理>
パターンが形成されたZnO薄膜を基材ごと電気炉内に設置した。電気炉内をロータリーポンプにより減圧状態にし、窒素(N)と水素(H)の混合ガス(161.3sccm:3.2sccm、H約2%)を導入して50kPaとした。この雰囲気下において、450℃で5時間熱処理を行った。
【0050】
上記した方法により、図1(b)に示すように、パターン形成されたZnO薄膜(以下、パターン形成ZnO薄膜と称す)を得た。
得られたパターン形成ZnO薄膜に対して、以下の評価を行った。
【0051】
<フォトルミネッセンス測定>
ZnO薄膜に対してフォトルミネッセンス測定(以下、PL測定と称す)を行い、発光特性を評価した。
励起レーザーとしてHe−Cdレーザー(325nm)を使用し、PL測定器(堀場製、iHR320)により発光強度を測定した。励起レーザーの照度は1.24W/cmとし、照射時間は10秒とした。
結果を図2に示す。
【0052】
図2により、500nm付近にフォトルミネッセンスが観測された。この500nm付近のピークは青−緑の色(波長域)である。
【0053】
<X線回折測定>
ZnO薄膜に対してX線回折測定(リガク製、ATX-G、CuKα線1.54178Å)を行い、結晶性を評価した。
結果を図3に示す。
【0054】
図3より、2θ34.4°付近にピークが観測された。これは、酸化亜鉛(ZnO)結晶の(002)面の回折線である。(002)面の回折線(ピーク)がシャープであることから、ZnO薄膜の結晶性が高いことがわかった。
また、SEMにより観察すると、薄膜はナノ構造を有していることがわかった。
【0055】
更に、パターン形成ZnO薄膜に紫外線(365nm)を照射すると、図1(c)に示すように、発光した。
形成したパターンの形状通りに発光することがわかった。
【0056】
以上の結果より、本発明に係る薄膜蛍光体は、高い結晶性を有し且つ高い輝度で発光する発光効率に優れた薄膜であることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係るパターン形成された薄膜蛍光体は、種々の発光デバイス、特に高い輝度と発光効率が求められるデバイスに好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と結晶性の薄膜蛍光体からなり、
前記薄膜蛍光体は、前記基材上に成膜されて薄膜蛍光体層が形成されており、
前記薄膜蛍光体層にパターンが形成されており、
前記結晶がナノ構造であることを特徴とするパターン形成された薄膜蛍光体。
【請求項2】
前記蛍光体が、酸化亜鉛系結晶であることを特徴とする請求項1記載のパターン形成された薄膜蛍光体。
【請求項3】
ガラス基材上にナノ構造を有する結晶性の蛍光体を薄膜状に形成し、
前記薄膜状の蛍光体にパターンを形成することを特徴とするパターン形成された薄膜蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体が酸化亜鉛系結晶であることを特徴とする請求項3記載のパターン形成された薄膜蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−149137(P2012−149137A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7387(P2011−7387)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(509093026)公立大学法人高知工科大学 (95)
【Fターム(参考)】