説明

パターン形成方法

【課題】 強磁性体以外の顔料の配向制御を行うことにより、従来では不可能であった、同一塗膜面上でのパターン形成方法を提供する。
【解決手段】 非強磁性顔料を用いて、強磁場環境下にてパターン形成を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に顔料を含む塗料を塗布した媒体へのパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材に顔料を含む塗料を塗布して意匠性を有する意匠性媒体を形成する方法として、下塗り及び/又は中塗り塗膜を直接着磁して磁化させて磁石を形成することにより、被塗物の材料や形状等に左右されることなく、様々な模様を塗膜上に現出させることができる「模様塗膜形成方法」(例えば、特許文献1参照)、塗膜に分散している磁性粉末を磁力によって配向・移動させることにより、意匠性及び識別性に優れた模様を付けることができる「模様付き塗装金属板の製造方法」(例えば、特許文献2参照)、入射光を分散させて出射する光分散層の光出射側に、磁性を有する光輝性顔料を磁場印加により配向させて含有する樹脂層を設けることにより、観察方向によって異なる模様を表すことができる「意匠性フィルム」(例えば、特許文献3参照)、等が開示されている。
【特許文献1】特開平6−114332号公報
【特許文献2】特開平8−38992号公報
【特許文献3】特開平9−94529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した従来技術では、強磁性を持つ光輝性顔料を用いることにより顔料の配向を制御している。この強磁性を持つ光輝性顔料は、鱗片状、針状の強磁性材料単独や、それらに二酸化チタンや酸化鉄を被覆したもの、マイカ・シリカ・アルミナなどに磁化鉄やニッケル(Ni)等の強磁性体を被覆したものが挙げられる。しかしながら、これらのいずれも強磁性体全般に適用できるものではないので、従来技術における方法は限定的であり、輝度の変化のみしか実現されず、バリエーションに富んだ意匠性の実現は困難である。
【0004】
一方、従来の磁場配向方法では、マイカ・シリカ・アルミナ等の非強磁性体材料を主成分とし、質量磁化率が10-63/kg(SIunit)以下の磁気異方性を有する顔料を動かすことができなかったため、これらの顔料を配向させパターンを形成することができなかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、強磁性体以外の顔料の配向制御を行うことにより、従来では不可能であった、同一塗膜面上でのパターン形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、基材に顔料を含む塗料を塗布した媒体へのパターン形成方法であって、前記媒体のパターン部に該パターン部の周辺とは異なる磁場勾配を生じさせることでパターンを形成することを特徴とする。
尚、非強磁性体とは、強磁性体以外の磁性体をいい、常磁性体、及び反磁性体が挙げられる。
【0007】
請求項1記載の発明によれば、同一塗膜面上にてパターンを形成することができる。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記磁場勾配が、強磁性体もしくは強磁性体を含んだ塗料によって形成されたパターン部材を前記媒体に隣接させたものに磁場をかけることで生じさせることを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明によれば、強磁性体と非強磁性体とを交互に積層することで磁性部材の製造が容易になり、帯状部材の厚さを薄くすることにより、微細なパターンを得ることができる。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記パターン部材として、強磁性体を用いて所望のパターンを形成し、隣接する部分には非強磁性体領域が存在するパターン部材を用いることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の発明によれば、パターンとパターンでない部分とのコントラストの差や色調の差を表現することができる。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1項記載の発明において、前記磁場として、0.3テスラ以上の磁場をかけることを特徴とする。
【0013】
請求項4記載の発明によれば、0.3テスラ未満の磁場がかかってもパターンが変化することがなく、通常の永久磁石による影響がなく、安定したパターンが得られる。
【0014】
請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1項記載の発明において、前記顔料として、質量磁化率が10-63/kg以下であり、磁気異方性を有する顔料を用いることを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明によれば、顔料として、質量磁化率が10-63/kg以下であり、磁気異方性を有する顔料を用いることにより、通常の永久磁石による影響がなく、安定したパターンが得られる。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか1項記載の発明において、前記媒体の塗工層に任意の磁力線が通るように磁場をかけて、パターンを形成させたことを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の発明によれば、媒体の塗工層に任意の磁力線が通るように磁場をかけて、パターンを形成させることにより、同一塗膜面上にてパターンを形成することができる。
【0018】
請求項7記載の発明は、請求項1から6のいずれか1項記載の発明において、前記パターン部材に磁場をかけることにより、強磁性体と非強磁性体とが隣接する部分にて周囲とは異なる磁場の勾配が生じることを特徴とする。
【0019】
請求項7記載の発明によれば、強磁性体と非強磁性体とが隣接する部分にて周囲とは異なる磁場の勾配を生じさせることにより、パターンとパターンでない部分とのコントラストの差や色調の差を表現することができる。
【0020】
請求項8記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記基材の厚さを、前記強磁性体領域のパターン間隔以下とすることを特徴とする。
【0021】
請求項8記載の発明によれば、基材の厚さを、強磁性体領域のパターン間隔以下とすることにより、微細なパターンを得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、非強磁性顔料を用いて、強磁場環境下にてパターン形成を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本実施形態のパターン形成方法は、基材に顔料を含む塗料を塗布した媒体へのパターン形成方法であって、媒体のパターン部に該パターン部の周辺とは異なる磁場勾配を生じさせることでパターンを形成することを特徴とする。
【0024】
本実施形態のパターン形成方法は、上記構成に加え、磁場勾配が、強磁性体もしくは強磁性体を含んだ塗料によって形成されたパターン部材を媒体に隣接させたものに磁場をかけることで生じさせてもよく、パターン部材として、強磁性体を用いて所望のパターンを形成し、隣接する部分には非強磁性体領域が存在するパターン部材を用いてもよい。
【0025】
本実施形態のパターン形成方法は、上記構成に加え、磁場として、0.3テスラ以上の磁場をかけてもよく、顔料として、質量磁化率が10-63/kg以下であり、磁気異方性を有する顔料を用いるのが好ましい。
【0026】
本実施形態のパターン形成方法は、上記構成に加え、媒体の塗工層に任意の磁力線が通るように磁場をかけて、顔料を配向させてもよく、パターン部材に磁場をかけることにより、強磁性体と非強磁性体とが隣接する部分にて周囲とは異なる磁場の勾配が生じるようにしてもよく、基材の厚さを、強磁性体領域のパターン間隔以下とするのが好ましい。
【0027】
本実施形態によれば、非強磁性顔料を用い、強磁場環境下にてパターン形成を実現できる。
【実施例1】
【0028】
図1(a)は本発明の一実施例に係るパターン形成方法を適用した装置の概念図であり、図1(b)は図1(a)に示した意匠性媒体の拡大図であり、図1(c)は本実施例のパターン形成方法で形成した意匠性媒体を上方から見た図であり、図1(d)及び(e)は図1(c)に示した意匠性媒体における顔料の配向状態を模式的に示す図であり、図1(f)は図1(a)に示した意匠性媒体の変形例である。
【0029】
図1(a)において、1、2は電磁石のヨークを示している。これらのヨーク1、2はコの字(もしくはCの字)形状に形成された一個のヨークの一部であり、図示しない部分にコイルが巻き付けられている。ヨーク1、2間には一部の磁力線3a、3b、3c、…、3lが形成されている。電磁石の磁場の強さは、0.3T(Tはテスラ)以上であるのが好ましい。なお、マイカに強磁性体を被覆した顔料は、赤銅色を得ることを目的としてごく弱い強磁性を持つα−Fe23を被覆したものであり、顔料としての質量磁化率は10-63/kg(SIunit)以下である(従来の磁場配向技術では強磁性体としてγ−Fe23、Fe34を使用していたが、これは磁化率を高めるためであり、磁化率の低いα−Fe23は従来使用されていなかった)。また、反磁性体だけで組成された顔料は1T以上の磁場が必要である。
【0030】
意匠性媒体(以下「媒体」という)5は、図1(b)に示すように、基材(例えば、樹脂、紙、セラミック等の非磁性体)5bに光輝性顔料を含む塗料5aを塗布したものであり、顔料は磁気異方性を有するものである。この顔料は、配向が永久磁石で変化せずに、所定の磁界を有する電磁石で変化する異方性磁化率を有する。
【0031】
図1(a)において、磁力線3a〜3lのうちほぼ直線状の磁力線3gに表面(図の上面)が沿う位置(図中のA)に媒体5が配置されている。一方で、磁力線3a〜3lのうち曲線状の磁力線3a及び3bに表面(図の上面)が沿う位置(図中のB)に媒体5が配置されている。
【0032】
ここで、矢印Aが指す位置で磁場印加された媒体5と、矢印Bが指す位置で磁場印加された媒体5とについてそれぞれ説明する。
【0033】
矢印Aが指す位置で磁場印加された媒体5は、媒体5を傾けて観察すると、顔料塗布面においての色調変化が全面同時に起こる。また、この媒体5を図1(c)に示すb−b’の位置で裁断し、その断面を観察すると、図1(d)に示すように、顔料9a,9b,9c,9d,9eのそれぞれの列が水平に並んだ配向状態となっている。
【0034】
一方、矢印Bが指す位置で磁場印加された媒体5は、媒体5を傾けて観察すると、顔料塗布面においての色調変化が連続的に起こる。すなわち、図5(a)に示すように、水平状態の媒体5の奥側を傾けていくと、その傾きに合わせて、手前側に現われる帯状の光沢6が奥側に向かって媒体5の表面上を移動する。また、図5(b)に示すように、水平状態の媒体5の手前側を傾けていくと、その傾きに合わせて、奥側に現われる帯状の光沢6が手前側に向かって媒体5の表面上を移動する。また、この媒体5を図1(c)に示すb−b’の位置で裁断し、その断面を観察すると、図1(e)に示すように、顔料9a,9b,9d及び9eが傾いた配向となっており、顔料9a〜9eは全体として「9aを頂点とする、上に凸」の配向状態となっている。
ここで、図5(a)及び図5(b)は、本発明の第1の実施例に係る意匠性媒体の色調変化の一例を模式的に示す斜視図である。
【0035】
図1(f)に示す媒体50は反磁性体の樹脂からなる基材5bと、基材5b上に所望のパターン形状に形成され強磁性体を含んだ塗料5cとで構成されている。
このような媒体50を、図1(a)の矢印Aが指す位置や矢印Bが指す位置などいずれかの磁力線3a〜3l上に配置することにより塗料5cの反磁性体が配向し、従来にはない色調のパターンが形成される。
【実施例2】
【0036】
以下に示した材料を用いて媒体5を形成し評価した。
(組み合わせ)
UV樹脂 UV フレキソ ニス(TOKA) 10重量部
顔料 インフィニット R−08(資生堂) 1重量部
上記組み合わせによる配合の塗料をPETシート上にワイヤーバー#34で塗工し、ぬれた状態のままで、強磁場(1T)環境下のうち磁力線が曲線となっている場所(例えば、図1(a)のBの位置)に5分間さらし、その後UV照射を行い、塗膜の固定化を行った。
【0037】
そして、形成された媒体5を傾けて観察を行ったところ、図5の(a)及び(b)に示すように、傾けた方向に帯状の光沢が移動するといった、連続的な色調変化が認められた。また、この媒体において、図1(c)に示すb−b’の位置の断面を観察したところ、図1(e)に示すように、顔料9a,9b,9d及び9eが傾いた配向となっており、顔料9a〜9eは全体として「9cを頂点とする、上に凸」の配向状態となっていることが認められた。
【0038】
このように、異方性磁化率を有する光輝性顔料を含む塗料を用い、かつ、強磁場環境下(1T)の磁場勾配によって、特異な色調変化が起こる意匠性媒体を形成することが可能である。
【0039】
尚、本実施例では媒体に形成されるパターンが11本の平行線の場合で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、曲線、円形、楕円形、長円形、多角形、文字、符号、これらの組み合わせたもののいずれの形状であってもよい。また、顔料についても本実施例に限定されるものではなく、配向の変化に応じて透過率が変化する顔料であれば他の種類の顔料を用いてもよい。
【実施例3】
【0040】
図2(a)は本発明の一実施例に係るパターン形成方法を適用した装置の概念図であり、図2(b)は図2(a)に示した磁性部材及び媒体の拡大図であり、図2(c)は図2(b)の拡大図であり、図2(d)は図2(a)に示した磁性部材の変形例である。
【0041】
図2(a)において、1、2は電磁石のヨークを示している。これらのヨーク1、2はコの字(もしくはCの字)形状に形成された一個のヨークの一部であり、図示しない部分にコイルが巻き付けられている。ヨーク1、2間には一部の磁力線3a、3b、3c、…、3lが形成されている。電磁石の磁場の強さは、0.1T以上が好ましい。
【0042】
図1(a)において、磁力線3a〜3lのうちほぼ直線状の磁力線3gに表面(図の上面)が沿う位置(図中の矢印Aが指す位置)に磁性部材4が配置され、この磁性部材4の上には媒体5が配置されている(磁性部材4は図示しない非磁性体、例えばセラミックからなる支持部材で支持されている。)。一方、磁力線3a〜3lのうち曲線状の磁力線3a〜3dに表面(図の上面)が沿う位置(図中の矢印Bが指す位置)に磁性部材4が配置され、この磁性部材4の上には媒体5が配置されている。
【0043】
図2(b)に示す磁性部材4は、少なくとも一方の面(図の上面)に強磁性体領域4aが所望のパターン形状に形成され、強磁性体領域に隣接するように非強磁性体領域(例えば、反磁性体、常磁性体、もしくは弱磁性体)4bが形成されたものであり、例えば、磁性部材として、強磁性体からなる帯状部材と、非強磁性体からなる帯状部材とを交互に積層した積層体が挙げられる。
【0044】
ここで、強磁性体としては、鉄、ニッケル、コバルト等が挙げられ、反磁性体としてはアルミニウム、銅等が挙げられる。
【0045】
媒体5は、基材(例えば、樹脂、紙、セラミック等の非磁性体)5bに顔料を含む塗料5aを塗布したものであり、顔料は磁気異方性を有するものである。この顔料は、配向が永久磁石で変化せず、所定の磁界を有する電磁石で変化する異方性磁化率を有する。
【0046】
図2(c)に示す磁性部材40は、強磁性体からなる板状部材40aにフォトリソグラフィ技術を用いてパターンが残るようにエッチングを施し、得られた溝部に非強磁性体40bを埋め込んだものである。
【0047】
図4(a)は図2(a)に示した媒体の平面図であり、図4(b)は図4(a)のIVb−IVb線断面図である。
図4(a)、(b)に示すように塗料5aのうち、磁性部材4(図2(a)参照)の非強磁性体領域4bや磁性部材4に接触していない部分(空気:反磁性体)に対応する領域は磁力線に沿うように配向が水平となっており、磁性部材4の強磁性体領域4aに対応する領域は配向が強磁性体領域4aからの影響により配向が垂直になっている。この結果、媒体5における塗料5aの顔料の状態に変化が生じる。すなわち、媒体5に磁性部材4の平行線状のパターンが反映され、そのパターンと同一形状のパターン5apが形成されるのである。このような状態で媒体に塗料を固化させるための手段、例えば、紫外線(熱)を与えることにより塗料5aが固化する。磁性部材4から取り出した後、媒体5の顔料の配向は固定された状態であり、永久磁石に媒体5を接触しても配向に変化が生じることはない。
【0048】
ここで、図2(a)において、矢印Aが指す位置で磁場印加された媒体5と、矢印Bが指す位置で磁場印加された媒体5とについてそれぞれ説明する。
【0049】
矢印Aが指す位置で磁場印加された媒体5は、図3(a)に示すように、表面の中央部分に上記磁性部材を使用して形成されたパターン8がある。この媒体5を傾けて観察すると、パターン8の面と、パターン8の周りの面(パターン8の部分以外の面)とにおいて、それぞれ色調変化が起こる。
【0050】
ここで、図3(a)は本発明の一実施例に係る意匠性媒体を上方から見た図であり、図3(b)、図3(c)、図3(d)は図3(a)に示した媒体のパターン部分における顔料の配向状態を模式的に示す断面図である。
【0051】
パターン8の周りの面では、上記実施例1と同様に色調変化が全面同時に起こり、図3(a)に示すb−b’の位置で裁断し、その断面を観察すると、図1(d)に示したものと同じく、顔料9a,9b,9c,9d,9eのそれぞれの列が水平に並んだ配向状態となっている。
【0052】
パターン8の面では、色調変化が連続的に起こる。すなわち、水平状態の媒体を傾けていくと、帯状の光沢が、傾けた方向とは反対の方向に向かってパターン面上を移動する。例えば、手前側に媒体5を傾けると、奥側に向かって帯状の光沢が移動する。
【0053】
また、この媒体5において、図3(a)に示すa−a’の位置で裁断し、その断面を観察すると、その断面は、図3(b)に示すように、顔料9a,9b,9d及び9eが傾いた配向となっており、顔料9a〜9eは全体として「9cを頂点とする、下に凸」の配向状態となっている。
【0054】
一方、矢印Bが指す位置で磁場印加された媒体5も、図3(a)に示すように、表面の中央部分に上記磁性部材を使用して形成されたパターン8があり、この媒体5を傾けて観察すると、パターン8の面と、パターン8の周りの面(パターン8の部分以外の面)とにおいて、それぞれ色調変化が起こる。
【0055】
パターン8の面及びパターン8の周りの面はともに、色調変化が連続的に起こる。すなわち、図6(a)に示すように、水平状態の媒体5の奥側を傾けていくと、パターン8の周りの面では、傾きに合わせて、手前側に現われる帯状の光沢6が奥側に向かって媒体5の表面上を移動し、また、パターン8の面では、帯状の光沢7が、傾けた方向とは反対の方向(手前側)に向かってパターン面上を移動する。また、図6(b)に示すように、水平状態の媒体5の手前側を傾けていくと、パターン8の周りの面では、傾きに合わせて、奥側に現われる帯状の光沢6が手前側に向かって媒体5の表面上を移動し、また、パターン8の面では、帯状の光沢7が、傾けた方向とは反対の方向(奥側)に向かってパターン面上を移動する。
【0056】
また、この媒体5を図3(a)に示すa−a’及びb−b’の位置で裁断し、その断面をそれぞれ観察すると、a−a’の断面は、図3(b)に示すように、顔料9a,9b,9d及び9eが傾いた配向となっており、顔料9a〜9eは全体として「9cを頂点とする、下に凸」の配向状態となっており、b−b’の断面は、図1(e)に示したものと同じく、顔料9a,9b,9d及び9eが傾いた配向となっており、顔料9a〜9eは全体として「9cを頂点とする、上に凸」の配向状態となっている。
【0057】
尚、本実施例では媒体に形成されるパターンが11本の平行線の場合で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、曲線、円形、楕円形、長円形、多角形、文字、符号、これらの組み合わせたもののいずれの形状であってもよい。また、顔料についても本実施例に限定されるものではなく、配向の変化に応じて透過率が変化する顔料であれば他の種類の顔料を用いてもよい。
【実施例4】
【0058】
以下に示した材料を用いて媒体を形成し評価した。
(組み合わせ)
UV樹脂 UV フレキソ ニス(TOKA) 10重量部
顔料 インフィニット R−08(資生堂) 1重量部
上記組み合わせによる配合の塗料をPETシート上にワイヤーバー#34で塗工し、ぬれた状態のまま塗工面と反対面とにFeとAlとで作製したパターンを密着させた状態で、強磁場(1T)環境下のうち磁力線が曲線となっている場所(例えば、図2(a)の矢印Bが指す位置)に5分間さらし、その後UV照射を行い、塗膜の固定化を行った。
【0059】
そして、形成された媒体5を傾けて観察を行ったところ、図6の(a)及び(b)に示すように、パターン面とそれ以外の面において、それぞれ帯状の光沢が移動するといった、連続的な色調変化が認められた。また、この媒体5において、図3(a)に示すa−a’及びb−b’の断面をそれぞれ観察したところ、a−a’の断面は、図3(b)に示すように、顔料9a,9b,9d及び9eが傾いた配向となっており、顔料9a〜9eは全体として「9cを頂点とする、下に凸」の配向状態となっており、b−b’の断面は、図1(e)に示すように、顔料9a,9b,9d及び9eが傾いた配向となっており、顔料9a〜9eは全体として「9cを頂点とする、上に凸」の配向状態となっていることが認められた。
【0060】
このように、強磁場環境(1T)にて、異方性磁化率を有する光輝性顔料を含む塗料を用いて、磁場勾配を用いたパターン形成を行った結果、パール顔料等の光輝性顔料の色調変化にも大きな影響を与え、1種1層の塗膜中で2種類の色調変化を行うことが可能となった。また、通常では配向が変化しない顔料も配向を変化させることができる。
【0061】
以上において、1種類の顔料を分散した塗料を用いて、多層コーティングすることなく、従来にない、特異な色調変化を有するパターンを形成することが可能である。
【0062】
なお、上記各実施形態及び各実施例において、顔料の異方性磁化率が正の値の場合、顔料は磁力線に水平に配向するので、顔料を配向させたい角度に沿った磁力線の中に媒体を配置することによって、配向制御が可能となる。また、顔料の異方性磁化率が負の値の場合、顔料は磁力線に垂直に配向するので、顔料を配向させたい角度に直交した磁力線の中に媒体を配置することによって、配向制御が可能となる。
【0063】
また、上記各実施形態及び各実施例において、溶媒が蒸発する時に、直立した顔料が倒れてしまうので、光輝性顔料を分散した媒体を無溶媒樹脂(例えば、紫外線硬化樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂等)で形成するようにしてもよい。
【0064】
図2(a)、(b)に示すように塗料5aのうち、磁性部材4(図1(a)参照)の非強磁性体領域4bや磁性部材4に接触していない部分(空気:反磁性体)に対応する領域は磁力線に沿うように配向が水平となっており、磁性部材4の強磁性体領域4aに対応する領域は配向が強磁性体領域4aからの影響により配向が垂直になっている。この結果、媒体5における塗料5aの顔料の状態に変化が生じる。すなわち、媒体5に磁性部材4の平行線状のパターンが反映され、そのパターンと同一形状のパターンが形成されるのである。このような状態で媒体に塗料を固化させるための手段、例えば、紫外線(熱)を与えることにより塗料5aが固化する。磁性部材4から取り出した後、媒体5の顔料の配向は固定された状態であり、永久磁石に媒体5を接触しても配向に変化が生じることはない。
【実施例5】
【0065】
以下に示した材料を用いて媒体を形成し評価した。
(組み合わせ1)
UV樹脂 UV フレキソ ニス(TOKA) 10重量部
顔料A SECURE SHIFT(Flex Products) 1重量部
顔料B IRIDODIN 1重量部
(組み合わせ2)
UV樹脂 UV フレキソ ニス(TOKA) 10重量部
顔料A SECURE SHIFT(Flex Products) 1重量部
(組み合わせ3)
UV樹脂 UV フレキソ ニス(TOKA) 10重量部
顔料B 磁性パール顔料(Merck) 1重量部
上記組み合わせ1〜3による配合の塗料をPETシート上にワイヤーバー#34で塗工し、ぬれた状態のまま塗工面と反対面とにFeとAlとで作製したパターンを密着させた状態で強磁場(1T)環境下に5分間さらし、その後UV照射を行い塗膜を固定化しパターン形成を行った。その結果を、表1に示す。
【表1】

【0066】
このように、強磁場環境(1T)にて配向が変化する顔料と配向が変化しない顔料とを混合した塗料を用いて、磁場勾配を用いたパターン形成を行った結果、通常では配向が変化しない顔料も配向を変化させることができる。
【0067】
以上において、異方性磁化率の異なる2種類の顔料を分散した塗料を用いて、強磁場環境下で特異なパターンを形成することが可能である。
尚、本実施例では光輝性顔料を用いた場合で説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、配向の変化に応じて透過率が変化する顔料であれば他の種類の顔料を用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、塗膜面に周囲と異なる微細な色調あるいは模様、図形、文字等のパターンの形成を行うことに利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】(a)は本発明の一実施例に係るパターン形成方法を適用した装置の概念図であり、(b)は(a)に示した意匠性媒体の拡大図であり、(c)は本実施例のパターン形成方法で形成した意匠性媒体を上方から見た図であり、(d)及び(e)は(c)に示した意匠性媒体における顔料の配向状態を模式的に示す図であり、(f)は(a)に示した意匠性媒体の変形例である。
【図2】(a)は本発明の一実施例に係るパターン形成方法を適用した装置の概念図であり、(b)は(a)に示した磁性部材及び媒体の拡大図であり、(c)は(b)の拡大図であり、(d)は(a)に示した磁性部材の変形例である。
【図3】(a)は本発明の一実施例に係る意匠性媒体を上方から見た図であり、(b)、(c)、(d)は(a)に示した媒体のパターン部分における顔料の配向状態を模式的に示す断面図である。
【図4】(a)は図2(a)に示した媒体の平面図であり、(b)は(a)のIVb−IVb線断面図である。
【図5】(a)及び(b)は、本発明の第1の実施例に係る意匠性媒体の色調変化の一例を模式的に示す斜視図である。
【図6】(a)及び(b)は、本発明の第2の実施例に係る意匠性媒体の色調変化の一例を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0070】
ヨーク
3a〜3l 磁力線
4、40 磁性部材
4a、40a 強磁性体領域
4b、40b 非強磁性体領域
5 媒体
5a 塗料
5b 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に顔料を含む塗料を塗布した媒体へのパターン形成方法であって、前記媒体のパターン部に該パターン部の周辺とは異なる磁場勾配を生じさせることでパターンを形成することを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記磁場配向が、強磁性体もしくは強磁性体を含んだ塗料によって形成されたパターン部材を前記媒体に隣接させたものに磁場をかけることで生じさせることを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
前記パターン部材として、強磁性体を用いて所望のパターンを形成し、隣接する部分には非強磁性体領域が存在するパターン部材を用いることを特徴とする請求項2記載のパターン形成方法。
【請求項4】
前記磁場として、0.3テスラ以上の磁場をかけることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のパターン形成方法。
【請求項5】
前記顔料として、質量磁化率が10-63/kg以下であり、磁気異方性を有する顔料を用いることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のパターン形成方法。
【請求項6】
前記媒体の塗工層に任意の磁力線が通るように磁場をかけて、前記顔料を配向させたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のパターン形成方法。
【請求項7】
前記パターン部材に磁場をかけることにより、強磁性体と非強磁性体とが隣接する部分にて周囲とは異なる磁場の勾配が生じることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のパターン形成方法。
【請求項8】
前記基材の厚さを、前記強磁性体領域のパターン間隔以下とすることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載のパターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−29894(P2007−29894A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−219152(P2005−219152)
【出願日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【出願人】(599111839)
【Fターム(参考)】