説明

パターン形成装置及びパターン形成方法

【課題】段差によるパターンの描画不良を低減したパターン形成装置及びパターン形成方法を提供する。
【解決手段】制御装置50は、半導体チップの基準高さと実装高さとの段差ずれを示す段差ずれデータHDと、段差ずれと駆動信号の補正量とを関連づけた駆動信号補正データとに基づいて、半導体チップ毎に駆動信号を関連づけた波形補正データWRDを生成する。そして、実装高さが基準高さでないときには、その波形補正データWRDに基づいて駆動信号COMを補正する信号補正処理を実行し、その段差ずれに応じて液滴の容量を増減させて液滴を吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出法を用いて段差部にパターンを形成するパターン形成装置及びパターン形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
実装部品としての半導体チップを実装基板上に実装する実装技術には、近年、基板電極パッドとチップ電極パッドとを結ぶ配線の形成方法として、銀などの導電性微粒子を分散させた導電性インクからなる液滴を双方の電極パッド間を結ぶかたちで吐出して配線を形成する、いわゆるインクジェット法が知られている。こうしたインクジェット法は、基板と半導体チップとによって形成される段差部に絶縁性のスロープを設けて、実装基板が載置されるステージと液滴を吐出する複数のノズルを有した吐出ヘッドとを相対移動させながら、導電性インクからなる液滴を実装基板に向けて吐出させることにより配線を形成している(例えば特許文献1)。また、上述したスロープについてもインクジェット法を用いて形成することが可能である。この場合には、絶縁材料を分散させた絶縁性インクを用い、段差部に向かって液滴を吐出させることによりスロープが形成される。こうした液滴の吐出動作は、描画像を表現するビットマップデータとステージの位置を示す位置データとに基づいて行われる。具体的には、まず実装基板の位置が液滴を吐出するための位置であるか否かの判断処理が位置データに基づいて実行される。次いで、実装基板の位置が吐出位置になるたび、ビットマップデータがノズル列の単位で取り扱われて、ビットマップデータに基づいて選択されるノズルから液滴が吐出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−134976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような半導体装置においては、実装基板の実装面と半導体チップとが接着層を介して接合されるのが一般的である。こうした構成からなる半導体装置を量産する上では、上記接着層の厚みや半導体チップ自体の厚みが半導体装置ごとに正確に一致し難いため、実装基板と半導体チップとで形成される段差部の段差量に少なからず半導体装置ごとのずれが余儀なく生じてしまう。そのため、上述したスロープを形成するときに同じ条件の下で液滴が吐出されたとしても、こうした段差量の違いによって、半導体チップの表面にスロープが届かず段差が残ってしまったり、反対に実装基板の実装面や半導体チップの表面にスロープが過剰に広がってしまったりする虞がある。こうした段差量のずれに起因した問題は、上記スロープに限られるものではなく、段差部を覆うパターンの全てについて生じ得る問題でもある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、段差によるパターンの描画不良を低減したパターン形成装置及びパターン形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のパターン形成装置は、実装基板と該実装基板の実装面に配置された実装部品とによって形成される段差部に液滴を吐出して前記段差部を覆うパターンを形成するパターン形成装置であって、前記段差部における段差量と前記パターンの段差方向における厚さとの差を予め規定された吐出位置ごとの前記液滴の量により補正する態様で前記パターン
の厚さを前記段差量に応じて制御する。
【0007】
このパターン形成装置によれば、段差部における段差量とパターンの段差方向における厚さとの差が吐出位置ごとの液滴の量で補正されることから、例えば段差を緩和するためのスロープやそれに積層される配線などといった段差部を覆うパターンが段差量に応じた厚さで形成可能となる。しかも液滴の吐出位置が維持された状態でパターンの厚さが補正されることから、パターンの形状が大きく変更されることなく、言い換えれば、パターンの位置精度が大きく損なわれることなく、その厚さが補正可能になる。またパターンの厚さを補正する上においては、吐出位置の変更が不要となるため、より簡便な態様でパターンの厚さ補正が可能にもなる。それゆえ実装基板とその実装面に配置された実装部品とによって形成された段差部において、その段差部を覆うパターンの描画不良が低減可能となる。
【0008】
このパターン形成装置は、前記パターンの厚さを前記液滴の容量により補正することを要旨とする。
このパターン形成装置によれば、吐出位置やそこに吐出する液滴の数が維持された状態でパターンの厚さが補正されることから、上述するような制御態様がより簡便なものとして実現可能にもなる。
【0009】
このパターン形成装置は、前記実装面の面方向における前記実装部品のずれ量により前記予め規定した吐出位置を補正してその補正後の吐出位置に前記液滴を吐出することを要旨とする。
【0010】
このパターン形成装置によれば、実装部品の位置が実装面の面方向においてずれる場合であっても、こうした位置ずれまでも補正される態様でパターンの厚さが補正可能になる。それゆえ、たとえ実装面の面方向において実装部品が位置ずれを生じたとしても、その位置ずれにあわせてパターンの描画位置が補正されることから、段差部に対して確実に液滴を吐出することが可能となる。
【0011】
このパターン形成装置は、前記段差部を覆うパターンが、前記段差部の段差量を緩和する傾斜パターンであってもよい。
このパターン形成装置によれば、段差部における段差を緩和するパターンについてその厚さが補正されることとなり、例えば傾斜パターンの厚さ不足や傾斜パターンの厚さ過剰による緩和不良が回避可能となる。
【0012】
このパターン形成装置は、前記段差部を覆うパターンが、前記段差部の段差量を緩和する傾斜パターンに積層されて前記段差部を跨ぐかたちに前記実装基板の電極パッドと前記実装部品の電極パッドとを接続する金属配線であってもよい。
【0013】
このパターン形成装置によれば、傾斜パターンに積層される金属配線についてその厚さが補正されることとなり、段差部の段差量にずれが発生する場合であれ、電極パッド間における断線や短絡といった接続不良が回避可能となる。
【0014】
本発明のパターン形成方法は、実装基板と該実装基板の実装面に配置された実装部品とによって形成される段差部に吐出して前記段差部を覆うパターンを形成するパターン形成方法であって、前記段差部における段差量と前記パターンの段差方向における厚さとの差を予め規定した吐出位置ごとの前記液滴の量により補正する態様で前記パターンの厚さを前記段差量に応じて制御することを要旨とする。
【0015】
このパターン形成方法によれば、段差部における段差量とパターンの段差方向における
差との差が吐出位置ごとの液滴の量で補正されることから、例えば段差を緩和するためのスロープやそれに積層される配線などといった段差部を覆うパターンが段差量に応じた厚さで形成可能となる。しかも液滴の吐出位置が維持された状態でパターンの厚さが補正されることから、パターンの形状が大きく変更されることなく、言い換えれば、パターンの位置精度が大きく損なわれることなく、その厚さが補正可能になる。またパターンの厚さを補正する上においては、吐出位置の変更が不要となるため、より簡便な態様でパターンの厚さ補正が可能にもなる。それゆえ実装基板とその実装面に配置された実装部品とによって形成された段差部において、その段差部を覆うパターンの描画不良が低減可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】液滴吐出装置の斜視構造を示す斜視図。
【図2】吐出ヘッドの斜視構造を示す斜視図。
【図3】吐出ヘッドの内部構造を示す部分断面図。
【図4】実装面におけるドットパターン格子を示す図。
【図5】液滴吐出装置の電気的構成を示すブロック回路図。
【図6】駆動波形の一例を示す図。
【図7】描画情報のテータ構成を示す構成図。
【図8】駆動電圧補正データを説明するグラフ。
【図9】整合状態にある実装態様の平面構造を示す平面図。
【図10】直交座標系における基準位置及びパッドエリアを示す図。
【図11】第1実施形態における基本描画データを示す図。
【図12】非整合状態の実装態様における並進ベクトル及び回転ベクトルの一例を示した図。
【図13】第1実施形態における位置補正の実施態様の一例を示した図。
【図14】第1実施形態における段差部の断面図。
【図15】第1実施形態におけるパターン形成方法の流れを示すフローチャート。
【図16】第2実施形態における基本描画パターンを示す図。
【図17】第2実施形態における位置補正の実施態様の一例を示した図。
【図18】第2実施形態におけるパターン形成方法の流れを示すフローチャート。
【図19】第2実施形態における段差部の断面図
【図20】変更例における駆動信号補正データのデータ構成を示す図
【図21】変更例における駆動信号補正データのデータ構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明のパターン形成装置を液滴吐出装置に具体化した第1実施形態について図1〜図15を参照して説明する。図1は液滴吐出装置の斜視構造を示した図である。図2は、吐出ヘッドの斜視構造を示す斜視図であり、図3は同吐出ヘッドの内部断面構造を示す部分断面図である。また図4は液滴吐出装置に投入された実装基板と吐出ヘッドとの配置を示す平面図である。なお、第1実施形態における液滴吐出装置は、実装基板と半導体チップとによって形成される段差部を緩和する傾斜パターンとしてのスロープを形成するものである。
【0018】
図1に示すように、液滴吐出装置10の基台11には、実装面13aを上に向けた状態で実装基板13が載置されるステージ12が基台11の長手方向に沿って往復移動可能に搭載されている。その基台11には、実装面13aの面方向に沿ってステージ12を並進および回転させる図示しないアライメント機構が搭載されており、このアライメント機構が駆動することにより、ステージ12に位置決めされた実装基板13が予め定められた位置である描画位置と整合する。さらに基台11には、図示しない走査モータが搭載されて
おり、そして走査モータが正転又は逆転することにより、基台11の長手方向に沿って前記ステージ12が所定の速度で往復移動し、これにより描画位置に整合した状態で実装基板13が同長手方向に沿って走査される。
【0019】
以下、基台11の長手方向であって、図1における右上方向を+X方向とし、+X方向の反対方向を−X方向と言う。また、+X方向と直交する水平方向であって、図2における左上方向を+Y方向とし、+Y方向の反対方向を−Y方向と言う。また、鉛直方向上方を+Z方向とし、+Z方向の反対方向を−Z方向と言う。また、Z方向を軸にした回転方向をθ方向と言う。なお、各図に示したX,Y,Z,θ方向はそれぞれ同一方向とする。
【0020】
実装基板13は、その上面である実装面13aに複数の基板電極パッド16を具備しており、その実装面13aには電子部品である複数の半導体チップ15がそれぞれ接着層14(図3参照)を介して接合されている。例えば実装面13aには8つの基板電極パッド16が具備されており、各基板電極パッド16に囲まれるかたちで2つの半導体チップ15が接合されている。2つの半導体チップ15は、上側から見て矩形状をなし、その上面である接続面15aの四隅に、基板電極パッド16に接続されるための部品電極パッドであるチップ電極パッド17を有している。さらに半導体チップ15は、一対をなすチップ電極パッド17間の中心位置にそれぞれアライメントマーク18を有している。1つの半導体チップ15が具備する一対のアライメントマーク18は、その位置に基づいて各チップ電極パッド17の位置を一義的に規定する位置に配設されている。そして2つの半導体チップ15は、それぞれのチップ電極パッド17が異なる基板電極パッド16と接続されるべく、異なる4つの基板電極パッド16に囲まれるかたちで配置されている。
【0021】
以下、実装設計上において予め定められたアライメントマーク18の位置を、それぞれ基準位置という。また実際に載置された半導体チップ15の状態のなかで、アライメントマーク18が基準位置にある状態は、実装面13aの面方向に関わる各種部材の位置補正が不要な状態であって、こうした載置状態を整合状態という。これに対して、実際に載置された半導体チップ15の状態のなかで、アライメントマーク18の基準位置からの位置ずれが設計上の許容値を超えた状態は、実装面13aの面方向に関わる各種部材の位置補正が必要な状態であって、こうした載置状態を非整合状態という。
【0022】
基台11の上側には、門型に形成されたガイド部材19が+X方向に沿って架設されており、該ガイド部材19の上側には、液状体としての絶縁性インクIkを供給するインクタンク20が配設されている。インクタンク20は、絶縁性材料の分散系からなる絶縁性インクIkを貯留し、貯留する絶縁性インクIkを所定の圧力の下で所定の温度に調整しつつ吐出ヘッド21へ供給する。絶縁性材料としては、エポキシ系の熱硬化性樹脂やアクリル系の光硬化性樹脂、あるいはこれらを混合させたものを用いることができる。なお、本実施形態では、アクリル系の光硬化性樹脂を用いている。
【0023】
ガイド部材19には、+X方向及び−X方向に移動可能なキャリッジ22が搭載されており、該キャリッジ22には吐出ヘッド21が搭載されている。ガイド部材19には図示しないキャリッジモータが取付けられており、そのキャリッジモータが正転又は逆転するとき、キャリッジ22は+X方向又は−X方向へ移動し、吐出ヘッド21は+X方向又は−X方向へ走査される。
【0024】
基台11の上方には、実装基板13や半導体チップ15を撮像するための撮像カメラ35が設けられている。撮像カメラ35は、実装基板13の位置やアライメントマーク18の位置、実装基板13と半導体チップ15とによって形成される段差部Bの段差方向の高さである段差量H(図3参照)を検出するための装置である。撮像カメラ35が撮像する実装基板13の撮像画像は、実装基板13を描画位置に配置するための前記アライメント
機構の駆動処理に利用される。撮像カメラ35が撮像する半導体チップ15の撮像画像は、アライメントマーク18の位置の検出処理に利用され、また半導体チップ15が整合状態であるか、あるいは非整合状態であるかの判断処理に利用される。さらに半導体チップ15の撮像画像は、アライメントマーク18とその対応する基準位置との間のずれを算出する算出処理に利用される。なお撮像カメラ35は、各半導体チップ15を撮像する際にはその半導体チップ15のアライメントマーク18に焦点を合わせて撮像する。そしてそのときの焦点距離が段差部Bの段差量Hを算出する算出処理に利用される。ちなみに、この撮像カメラ35には、段差量Hを高精度に算出すべく、焦点深度の浅いCCDカメラを用いられている。
【0025】
図2に示されるように、吐出ヘッド21は、キャリッジ22に位置決め固定されて+X方向に延びるヘッド基板23と、ヘッド基板23に支持されるヘッド本体25とを有する。ヘッド基板23は、−X方向の端部にヘッドコネクタ23aを有しており、外部からの各種制御信号がこのヘッドコネクタ23aからヘッド本体25へ入力されて、またヘッド本体25からの各種検出信号がこのヘッドコネクタ23aから外部へ出力される。
【0026】
ヘッド本体25の底部には、走査される実装基板13と対向するようにノズルプレート26が貼り付けられている。ノズルプレート26は、ヘッド本体25の直下に実装基板13が位置するときに、その底面であるノズル形成面26aと実装基板13の実装面13aとが略平行になる態様で構成されており、ノズル形成面26aと実装面13aとの間、あるいはノズル形成面26aと半導体チップ15の接続面15aとの間に液滴Dの飛行空間を形成する。またノズルプレート26は、ヘッド本体25の直下に実装基板13が位置する間、ノズル形成面26aと実装基板13の実装面13aとの間の距離であるプラテンギャップを所定の距離に維持する。ノズルプレート26のノズル形成面26aには、ノズルプレート26をZ方向に貫通する複数個のノズルNがX方向に沿ってノズルピッチDxにて等間隔に配列されている。
【0027】
図3に示されるように、ヘッド本体25は、各ノズルNの上側にそれぞれキャビティ27と、振動板28と、駆動素子としての圧電素子PZとを有する。各キャビティ27は、供給チューブ25Tを介してインクタンク20に共通接続されており、これによりインクタンク20からの導電性インクIkを収容して、該導電性インクIkを各ノズルNに供給する。振動板28は、各キャビティ27に対向する領域でZ方向に振動することにより、該キャビティ27の容積を拡大及び縮小させて圧力変動を発生させ、これによりノズルNのメニスカスを振動させる。各圧電素子PZには、その収縮量や収縮速度、伸張量や伸張速度を規定した電圧波形に基づく駆動信号COM(図5,6参照)が入力されるようになっており、こうした駆動信号COMが圧電素子PZに入力されるたびに、該圧電素子PZがZ方向に収縮して伸張し、これにより振動板28がZ方向に振動する。
【0028】
こうした構成からなる吐出ヘッド21では、各圧電素子PZがZ方向に収縮及び伸張するときに、各キャビティ27に収容される絶縁性インクIkの一部が、上記駆動信号COMに応じた量や速度を有する液滴DとしてノズルNから吐出される。ノズルNから吐出される液滴Dは、上述する飛行空間を飛行して実装基板13の実装面13aあるいは半導体チップ15の上面であるの接続面15aに着弾する。そして着弾した各液滴Dを硬化させることにより、絶縁性のパターンであって段差部Bを緩和するスロープ29が形成される(図14参照)。
【0029】
図4の一点鎖線で示されるように、実装基板13の実装面13aには、二次元の矩形格子であるドットパターン格子DLが仮想分割されている。ドットパターン格子DLは、+X方向の格子間隔と+Y方向の格子間隔とが、それぞれ所定の間隔で設定される仮想格子である。例えば、ドットパターン格子DLの+X方向の格子間隔は、ノズルピッチDxで
規定されており、ドットパターン格子DLの+Y方向の格子間隔は、液滴Dの吐出周期とステージ12の走査速度との積から算出される吐出ピッチDyで規定されている。こうしたドットパターン格子DLが上記ステージ12により走査されるとき、上述する吐出ヘッド21の各ノズルNは、ドットパターン格子DLの単位格子Lが走査される経路の直上に配置される。そして液滴Dを吐出するか否かの選択が、1つのノズルNに対して上記単位格子Lごとに設定される。つまり、基板電極パッド16とチップ電極パッド17との間に液滴Dからなる配線が形成される場合、基板電極パッド16とチップ電極パッド17との間の単位格子Lが予め規定された吐出位置となり、これらがむすばれるかたちで液滴Dが吐出される。なお、図4では、ドットパターン格子DLの各単位格子Lを説明する便宜上、ドットパターン格子DLの格子間隔及び吐出ヘッド21のノズルピッチDxを十分拡大して示している。
【0030】
次に上記のように構成した液滴吐出装置10の電気的構成について図5を参照して説明する。図5は、液滴吐出装置10の電気的構成を示したブロック回路図である。
図5に示されるように、液滴吐出装置10の制御装置50は、CPU等からなる制御部51、ROM52、RAM53、発振回路54、駆動波形生成部55、ビットマップ生成部56、外部I/F58及び内部I/F59から構成されている。この制御装置50は、外部I/F58を介して入出力装置60に接続されており、また内部I/F59を介してキャリッジモータ駆動回路61、ステージモータ駆動回路62、撮像カメラ駆動回路63及びヘッド駆動回路64に接続されている。
【0031】
液滴吐出装置10がスロープ29の描画命令を受けるとき、制御部51は、ROM52に格納された描画プログラムを読み出し、その描画プログラムに従う各種の制御信号をそれらに対応する上記各構成要素に適宜出力する。そして制御部51は、描画プログラムに応じた処理を上記各構成要素に実行させて、RAM53に割り当てられた所定の記憶領域に各構成要素からの処理結果、例えば描画データとしてのビットマップデータBMD等を格納したり、あるいは各構成要素からの処理結果を内部I/F59から出力したりする。なおビットマップデータBMDは、二次元に配列された各単位格子Lに対して値が0あるいは1であるビットを対応づけることにより、1つの半導体チップ15が必要とするスロープ29の描画像を表現したデータであり、そして各ビットの値に応じて圧電素子PZのオンあるいはオフを規定したデータである。
【0032】
発振回路54は、制御装置50における各種処理のタイミングを制御したり、各種処理のサイクル数を規定したりするためにその内部クロックを生成する。例えば発振回路54は、制御装置50の構成要素間でデータが転送される際の同期信号である基準クロックを生成したり、またRAM53から読み出された各種データがヘッド駆動回路64にシリアル転送される際の同期信号である転送クロックCLKを生成したりする。
【0033】
駆動波形生成部55は、所定クロックごとの昇圧値や降圧値を示した波形データが所定の記憶領域に格納される波形メモリ55aを備え、その波形メモリに格納された波形データを制御部51からの制御信号に応じて読み出す。そして駆動波形生成部55は、読み出した波形データを用いて、駆動信号COMの波形に対応した電圧レベルを示す電圧レベルデータを生成する。また駆動波形生成部55は、その電圧レベルデータをアナログ信号に変換するデジタル/アナログ変換器を備え、制御部51からの制御信号に応じて電圧レベルデータをアナログ信号に変換する。そして駆動波形生成部55は、圧電素子PZが駆動する電圧までそのアナログ信号を増幅し、さらにその増幅した電圧信号に対応した電流供給を行う。なお図6は、こうした駆動信号COMの一例を示した図であり、駆動信号COMの第1勾配部71では、初期状態にある圧電素子PZをその勾配に応じた速度で駆動電圧値Vhに応じた量だけ収縮させる。第2勾配部72では、収縮状態にある圧電素子PZをその勾配に応じた速度でその電位差に応じた量だけ伸張させる。第3勾配部73では、
伸張状態にある圧電素子PZをその勾配に応じた速度で収縮させて初期状態へと復帰させる。そしてこうした駆動信号COMが圧電素子PZに供給されるとき、第2勾配部72の勾配が高くなるほど高い飛行速度の液滴が吐出されることになり、また駆動電圧値Vhが大きくなるほど大きい容量の液滴が吐出されることになる。
【0034】
キャリッジモータ駆動回路61は、制御装置50からの制御信号が入力されると、その制御信号に応答して、キャリッジ22を移動させるためのキャリッジモータCMを正転又は逆転させる。キャリッジモータ駆動回路61には、キャリッジエンコーダCEが接続されており、このキャリッジエンコーダCEからの検出信号が入力される。キャリッジモータ駆動回路61は、キャリッジエンコーダCEからの検出信号に基づいて、実装基板13に対するキャリッジ22の移動方向及び移動量、すなわちノズルNの移動方向や移動量に関わる信号を生成して制御装置50に出力する。
【0035】
ステージモータ駆動回路62は、制御装置50からの制御信号が入力されると、その制御信号に応答して、ステージ12を移動させるためのステージモータSMを正転又は逆転させる。ステージモータ駆動回路62には、ステージエンコーダSEが接続されており、このステージエンコーダSEからの検出信号が入力される。ステージモータ駆動回路62は、ステージエンコーダSEからの検出信号に基づいて、ステージ12の移動方向及び移動量に関する信号、すなわちドットパターン格子DLの単位格子Lの移動方向や移動量に関わる信号を生成して制御装置50に出力する。制御部51は、ステージエンコーダSEからの検出信号を受けて各種の制御信号を出力する。具体的には、制御部51は、ステージエンコーダSEからの検出信号に基づき、撮像カメラ35の直下に実装基板13及び半導体チップ15が位置するときに撮像制御信号を生成し、その撮像制御信号を撮像カメラ駆動回路63に出力する。また制御部51は、ステージエンコーダSEからの検出信号に基づき、単位格子LがノズルNの直下に位置するときに吐出タイミング信号LATを生成し、その吐出タイミング信号LATをヘッド駆動回路64に出力する。
【0036】
撮像カメラ駆動回路63は、制御装置50からの撮像制御信号が入力されると、その撮像制御信号に応答して、撮像カメラ35に実装基板13や各半導体チップ15を撮像させる。撮像カメラ駆動回路63は、撮像カメラ35が取得した画像データを利用して、実装基板13の座標値、実装位置である各アライメントマーク18の座標値を演算し、その演算結果を位置データPDとして制御装置50に出力する。制御装置50は撮像カメラ駆動回路63からの位置データPDをRAM53の所定の記憶領域に格納する。また、撮像カメラ駆動回路63は、撮像カメラ35が各半導体チップ15を撮像する際に、半導体チップ15に設けたアライメントマーク18に焦点を合わせて撮像させる。撮像カメラ駆動回路63は、そのときの焦点距離に基づいてステージ12の上面から接続面15aまでの距離を演算し、その演算した距離から実装基板13の厚さを差し引くことで、その半導体チップ15における段差部Bの段差量H1を演算する。そして、この段差量H1に基づいて基準段差量H0との段差ずれΔH1を演算する。撮像カメラ駆動回路63は、こうした段差ずれΔH1を半導体チップ15毎に演算し、その演算結果を段差量データHDとして制御装置50に出力する。制御装置50は、撮像カメラ駆動回路63からの段差量データHDをRAM53の所定の記憶領域に格納する。
【0037】
制御部51は、各圧電素子PZを駆動するための駆動信号COMを吐出タイミング信号LATと同期させて駆動波形生成部55からヘッド駆動回路64へ出力させる。また制御部51は、RAM53に格納されたビットマップデータBMDをノズル列ごとに取り扱い、そのノズル列ごとのデータを所定のクロック信号に同期した吐出制御信号SIとしてヘッド駆動回路64にシリアル転送する。
【0038】
ヘッド駆動回路64は、制御装置50からのシリアル信号である吐出制御信号SIを各
圧電素子PZに対応させて順次シリアル/パラレル変換する。ヘッド駆動回路64は、制御装置50からの吐出タイミング信号LATを受けるたびに、シリアル/パラレル変換した吐出制御信号SIをラッチし、値が1であるビットに対応づけられた各圧電素子PZにそれぞれ駆動信号COMを供給する。こうした構成によれば、吐出タイミング信号LATがヘッド駆動回路64に入力されるたびに、圧電素子PZがビットマップデータBMDに基づいて選択的に駆動される。そして選択された圧電素子PZに対応するノズルNから液滴Dが吐出されて、該ノズルNの直下にある単位格子Lに液滴Dが着弾し、スロープ29が形成される。
【0039】
入出力装置60は、例えばCPU、RAM、ROM、ハードディスク、液晶ディスプレイ等を有する外部コンピュータである。入出力装置60は、段差部Bにスロープ29を描画するための各種条件を含む描画情報Iaを制御装置50に入力する。そして制御装置50は、入出力装置60からの描画情報Iaを受けて、その描画情報IaをRAM53における所定の記憶領域に格納する。
【0040】
制御装置50が受ける上記描画情報Iaは、前記単位格子Lの位置に関するデータや駆動信号COMに対応した電圧波形を示すデータを含むかたちで構成されている。単位格子Lに関するデータは、液滴Dの吐出位置である各単位格子Lを実装面13a上に規定するためのデータであり、ノズルピッチDxや液滴Dの吐出周期、さらにはステージ12の走査速度などから構成されている。駆動信号COMの電圧波形に関するデータは、駆動電圧値Vhからなる駆動信号COMにおいて、所定クロック毎の昇圧値や降圧値を示すデータであり、液滴Dの量や吐出速度がスロープ29の設計ルールに基づく目標値となるように、各種液滴の吐出実験等に基づいてその値が設定されている。上記描画情報Iaは、これらのデータの他に、図7に示されるように、スロープ29の描画位置を半導体チップ15の位置ずれに基づいて補正すべく、基準位置データIa1と信号補正データとしての駆動電圧データIa3とを含むかたちで構成されている。
【0041】
基準位置データIa1は、アライメントマーク18の基準位置を示す座標値から構成されている。基準位置データIa1は、一つの基準位置を示す座標値がその基準位置に対応するアライメントマーク18に関連付けられたデータ構造からなり、アライメントマーク18の数に対応するデータ量で構成されている。この基準位置データIa1を構成する座標値の座標空間は、各単位格子Lの座標値を整数値として扱う二次元の直交座標系Cで規定されている。
【0042】
基本描画データIa2は、スロープ29の描画領域であるスロープエリア29Iを示すデータから構成されている。基本描画データIa2は、一つの半導体チップ15に要する複数のスロープエリア29Iが一つの半導体チップ15に対してステージ12の走査毎に関連付けられたデータ構造からなり、一つの半導体チップ15に要するスロープ29の数及びステージ12の走査回数に対応するデータ量で構成されている。この基本描画データIa2により規定されるスロープエリア29Iは、半導体チップ15が前記整合状態であることを条件にして、スロープ29の基本描画領域として設定されている。このようなスロープエリア29Iは、値として0または1を持つ2次元配列の2値パターンやその領域の輪郭線を構成する要素の座標系列として表現され得るが、本実施形態では、スロープエリア29Iの幾何学的変換の容易化を図るべく、スロープエリア29Iの輪郭線をベクトル化したベクトルデータとして表現されている。この基本描画データIa2を構成するベクトルデータのデータ空間は、各単位格子Lが規定される座標系と共通する二次元の直交座標系Cである。
【0043】
駆動電圧データIa3は、基準段差量H0に関連づけられた駆動電圧値である基準駆動電圧値Vh0を示すデータと、段差ずれΔHに応じた基準駆動電圧値Vh0の補正量ΔV
hを示すデータとから構成されている。駆動電圧データIa3は、基準駆動電圧値Vh0の補正量ΔVhが段差ずれΔHごとに一義的に関連付けられたデータ構造をなしている。図8は、こうした駆動電圧データIa3が補間式などで表現される例を示すものであり、横軸を段差ずれΔH、縦軸を駆動電圧値Vhの補正量ΔVhとするグラフに展開して示したものであり、例えば段差ずれΔH1の場合には基準駆動電圧値Vh0に対する補正量ΔVh1が一義的に規定されている。同図に示されるように、段差ずれΔHが正値である場合、すなわち段差量Hが基準段差量H0よりも大きい場合には、基準駆動電圧値Vh0を増加させる補正量が対応付けられている。また、段差ずれΔHが負値である場合、すなわち段差量Hが基準段差量H0よりも小さい場合には、基準駆動電圧値Vh0を減少させる補正量が対応付けられている。なお、段差ずれΔHが段差ずれΔH2よりも小さい場合や段差ずれΔH3より大きい場合には基準駆動電圧値Vh0の補正だけではその段差ずれΔHに対して好適な形状(段差方向における厚さ)のスロープ29を形成することが困難であるため、それらの範囲には補正量ΔVhが規定されておらず、エラーとして取り扱われるデータが対応付けられている。
【0044】
以下、上記基準位置データIa1及び基本描画データIa2の構成について実装態様の一例を用いて詳細に説明する。図9は、2つの半導体チップ15がそれぞれ整合状態にあるときの実装態様の例を示す平面図である。図10は基準位置データIa1に対応する基準位置を二次元の直交座標系Cに示した図であり、図11は基本描画データIa2に対応するスロープエリア29Iを二次元の直交座標系Cに示した図である。
【0045】
図9に示されるように、描画位置に配置された実装基板13には、左右一対をなす第1半導体チップ151と第2半導体チップ152とが整合状態で載置されている。第1半導体チップ151及び第2半導体チップ152は、接続面15aと対向する裏面が実装面13aに向くかたちで実装面13aに接合されている。第1半導体チップ151及び第2半導体チップ152の各接続面15aの四隅には、それぞれチップ電極パッド17が配設されている。接続面15aの四隅のうちで左右一対をなすチップ電極パッド17の間には、その左右方向の中心位置に、それぞれアライメントマーク18a、18bが配設されている。
【0046】
このような第1半導体チップ151及び第2半導体チップ152が接合された実装面13aには、第1半導体チップ151の上側(+Y方向)に、左右一対の基板電極パッド16が、左右一対のチップ電極パッド17の+Y方向を横切るかたちで配設されている。また第1半導体チップ151の下側(−Y方向)に、左右一対の基板電極パッド16が、左右一対のチップ電極パッド17の−Y方向を横切るかたちで配設されている。さらに第2半導体チップ152の上側(+Y方向)にも、第1半導体チップ151と同じく、左右一対の基板電極パッド16が、左右一対のチップ電極パッド17の+Y方向を横切るかたちで配設されている。また第2半導体チップ152の下側(−Y方向)にも、第1半導体チップ151と同じく、左右一対の基板電極パッド16が、左右一対のチップ電極パッド17の−Y方向を横切るかたちで配設されている。
【0047】
上述するような実装態様の場合、実装面13aにおける直交座標系Cには、図10に示されるように、第1半導体チップ151の2つのアライメントマーク18a、18bに対応する基準位置の座標値(第1基準座標Pa1、Pb1)が、前記基準位置データIa1によって設定されている。さらに第2半導体チップ152の2つのアライメントマーク18a、18bに対応する基準位置の座標値(第2基準座標Pa2、Pb2)が、これも同じく、前記基準位置データIa1により設定されている。つまり、上述する基準位置データIa1は、第1基準座標Pa1、Pb1に対応する座標値と、第2基準座標Pa2、Pb2に対応する座標値とを示すデータがそれぞれ第1半導体チップ151と第2半導体チップ152とに関連付けられるかたちで構成されている。
【0048】
また実装面13aにおける直交座標系Cには、図11に示されるように、描画位置における2つのスロープエリア29Iが、一対の転写基準座標Ta、Tbに関連づけられるかたちで半導体チップ15ごとに設定されている。これら半導体チップ15ごとに設定される2つのスロープエリア29Iは、1つの共通する前記基本描画データIa2により設定されている。言い換えれば、上述する基本描画データIa2は、1つの半導体チップ15に必要とされる2つのスロープエリア29Iが前記転写基準座標Ta、Tbの座標値に関連づけられたベクトルデータにより構成されている。そして、転写基準座標Ta、Tbが第1基準座標Pa1、Pb1に位置するように上述のベクトルデータが変換され、こうした基本描画データIa2の変換により、第1半導体チップ151用の2つのスロープエリア29Iが設定される。さらに転写基準座標Ta、Tbが第2基準座標Pa2、Pb2に位置するように前述のベクトルデータが変換され、こうした基本描画データIa2の変換により、第2半導体チップ152用の2つのスロープエリア29Iが設定される。
【0049】
ちなみに、上述する実装態様のように第1半導体チップ151と第2半導体チップ152とが整合状態にある場合であれば、このようにして設定された2つのスロープエリア29Iを用いることにより、スロープ29の描画位置補正を行うことなく描画することが可能である。これに対して、第1半導体チップ151又は第2半導体チップ152が非整合状態にある場合、このようにして設定された2つのスロープエリア29Iを用いると、段差部Bの位置がずれているにも関わらずスロープエリア29Iに液滴が吐出されてしまう。そのため、例えば、段差部Bの一部にスロープ29が形成されなかったり、チップ電極パッド17を覆い隠してしまったりする虞がある。
【0050】
そこで制御部51は、まず撮像カメラ駆動回路63からの位置データPDと基準位置データIa1とをRAM53から読み出して、半導体チップ15が整合状態であるか、あるいは非整合状態であるかを判断すべく、アライメントマーク18の検出位置と同アライメントマーク18に対応する基準座標とのずれを示す位置補正データPRDを生成する。次いで制御部51は、位置補正データPRDに基づくずれが実装設計上定められた所定のずれよりも小さい場合には、その半導体チップ15が整合状態であるものと判断し、反対に位置補正データPRDに基づくずれが実装設計上定められた所定のずれ以上である場合には、その半導体チップ15が非整合状態にあるものと判断する。そして第1半導体チップ151あるいは第2半導体チップ152が非整合状態にある場合には、制御部51は、基本描画データIa2に含まれるベクトルデータを位置補正データPRDに基づいてビットマップ生成部56に変換させて、こうした補正判断の後に半導体チップ15ごとのビットマップデータBMDを生成する。
【0051】
以下、このような位置補正に用いられる位置補正データPRDの構成およびビットマップ生成部56の構成、さらにはその補正態様の一例を図5及び図12を参照して詳細に説明する。図12は非整合状態の実装態様における並進ベクトルおよび回転ベクトルの一例を示した図であり、図13は位置補正データPRDの構成要素である並進補正データ及び回転補正データを用いた描画位置補正の一例を示す図である。
【0052】
位置補正データPRDは、並進補正データと回転補正データとから構成されており、並進補正データは、アライメントマーク18aの基準位置をその検出位置に補正するための並進ベクトルTを示すデータであり、半導体チップ15ごとの並進ベクトルTがその半導体チップ15に関連付けられたデータ構造からなる。回転補正データは、前記並進ベクトルにより並進変換されたアライメントマーク18bの基準位置をその検出位置に補正するための回転ベクトルRを示すデータであり、これもまた同じく、半導体チップ15ごとの前記回転ベクトルRがその半導体チップ15に関連付けられたデータ構造からなる。
【0053】
こうした構成からなる位置補正データPRDは、撮像カメラ駆動回路63からの位置データPDと基準位置データIa1とを用いて制御部51により生成される。例えば図12に示されるように、制御部51は、まず撮像カメラ駆動回路63からの位置データPDと基準位置データIa1とをRAM53から読み出して、第1基準座標Pa1から実際のアライメントマーク18aの座標値への並進ベクトルTを算出し、その算出結果を並進補正データとしてRAM53に格納させる。次いで、制御部51は、前記並進ベクトルTにより並進変換された第1基準座標Pb1を回転中心にして、同じく並進変換された第2基準座標Pb2から実際のアライメントマーク18bの座標値への回転ベクトルRを算出し、その算出結果を回転補正データとしてRAM53に格納させる。そして制御部51は、全ての半導体チップ15に対してこうした並進ベクトルTと回転ベクトルRとを算出することにより1つの位置補正データPRDを生成する。
【0054】
図5に示されるように、ビットマップ生成部56は、位置補正判断後のスロープエリア29Iに対応するベクトルデータに対して並進変換および回転変換を施すベクトルデータ変換部56aと、スロープエリア29Iに対応するベクトルデータをビットマップデータBMDに展開するベクトルデータ展開部56bとから構成されている。制御部51は、位置補正データPRDと基本描画データIa2とをRAM53から読み出し、基本描画データIa2を構成するベクトルデータに対して位置補正データPRDを用いた上記変換を半導体チップ15ごとにベクトルデータ変換部56aに実行させる。
【0055】
つまりビットマップ生成部56は、制御部51からの制御信号を受けて、位置補正データPRDに基づく並進変換や回転変換をスロープエリア29Iに適用し、変換処理後のスロープエリア29Iの輪郭線に相当するベクトルデータ、言い換えれば、位置補正データPRDに基づく補正がなされたスロープエリア29Iに相当するベクトルデータを半導体チップ15ごとに生成する。またビットマップ生成部56は、上記変換後のベクトルデータあるいは基本描画データIa2を構成するベクトルデータに対して所定のアルゴリズムに基づく展開処理を施し、そのベクトルデータが示すスロープエリア29Iに応じた二次元の二値データ、つまり同スロープエリア29Iに対応するビットマップデータBMDを図示しないローカルメモリに展開する。そしてビットマップ生成部56は、制御部51からの制御信号を受けて、半導体チップ15ごとに生成したビットマップデータBMDを順にRAM53に格納させる。
【0056】
図13は描画位置補正が必要とされる非整合状態に対して適用される位置補正態様の一例を説明する図である。なお、この例において第1半導体チップ151は、アライメントマーク18a、18bがそれぞれ第1基準座標Pa1、Pb1から同じ並進方向に並進ベクトルTだけずれて実装基板13に実装されている。また第2半導体チップ152は、アライメントマーク18aが第2基準座標Pa2と同じであり、アライメントマーク18bが第2基準座標Pb2から回転方向に回転ベクトルRだけずれて実装基板13に実装されている。
【0057】
こうした実装態様の場合、制御部51は、第1基準座標Pa1からアライメントマーク18aの座標値への並進ベクトルTを第1半導体チップ151に関連付けるかたちで並進補正データを生成する。また制御部51は、第2基準座標Pb2からアライメントマーク18bの座標値への回転ベクトルRを第2半導体チップ152に関連付けるかたちで回転補正データを生成する。このようにして生成された位置補正データPRDは、制御部51からの制御信号に基づいて、基本描画データIa2とともにRAM53からビットマップ生成部56へ転送される。
【0058】
ビットマップ生成部56においては、図13に示されるように、基本描画データIa2に対応する2つのスロープエリア29I(二点鎖線で示すエリア)が第1半導体チップ1
51に関連付けられた並進ベクトルTにより並進変換されるかたちで、基本描画データIa2のベクトルデータがベクトルデータ変換部56aにより変換される。そして変換されたベクトルデータがベクトルデータ展開部56bで展開されることにより、第1半導体チップ151に適用されるビットマップデータBMDが生成される。
【0059】
さらに基本描画データIa2に対応するスロープエリア29I(二点鎖線で示すエリア)が第2半導体チップ152に関連付けられた回転ベクトルRにより回転変換されるかたちで、基本描画データIa2のベクトルデータがベクトルデータ変換部56aにより変換される。そして変換されたベクトルデータがベクトルデータ展開部56bにより展開されることにより、第2半導体チップ152に適用されるビットマップデータBMDが生成される。
【0060】
このようにして生成されるそれらのビットマップデータBMDは、制御部51からの制御信号に基づいて、ビットマップ生成部56からRAM53へ転送されて、第1半導体チップ151に対する描画処理、第2半導体チップ152に対する描画処理の際に利用される。
【0061】
つまりビットマップ生成部56においては、基本描画データIa2に対応するスロープエリアが半導体チップ15ごとに順に並進変換又は回転変換されるかたちで、半導体チップ15ごとのビットマップデータBMDが順に生成される。そしてスロープ29の描画処理を半導体チップ15ごとに実行する際には、その半導体チップ15に対応するビットマップデータBMDを用いて液滴Dが吐出される。
【0062】
なお、ビットマップデータBMDは、スロープエリア29Iに含まれる全ての単位格子Lに対してビット値を設定したデータである。これに対して、ベクトルデータはスロープエリア29Iの輪郭線をベクトル値で規定したデータであり、そのデータ量はビットマップデータBMDに比べて大幅に少なくなる。上述する構成によれば、スロープエリア29Iを並進変換または回転変換するに際し、そのスロープエリア29Iがベクトルデータとして取り扱われるため、こうしたスロープエリア29Iがビットマップデータとして取り扱われる場合に比べれば、取り扱うデータ量が大幅に少なくなり、さらにデータ処理の負荷そのものが大幅に軽くなる。
【0063】
このようにして補正されたビットマップデータBMDを用いれば、液滴の吐出位置が半導体チップ15の位置ずれに応じて補正されることになり、実装面13aの面方向において半導体チップ15の位置に即したスロープ29が形成されることになる。だが、補正後のビットマップデータBMDを用いた場合であっても、基準駆動電圧値Vh0からなる駆動信号COMで液滴が吐出されるとあっては、段差量Hが基準段差量H0よりも大きい場合にインク量が不足することとなり、好適な形状(厚さ)のスロープ29が形成され難くなる。また段差量Hが基準段差量H0よりも小さい場合に過剰なインクが吐出されることとなり、その過剰なインクが濡れ広がることで、例えば基板電極パッド16の一部を覆い隠してしまう虞がある。
【0064】
そこで制御部51は、駆動電圧データIa3に段差ずれΔHを適用する態様で駆動電圧値Vhを補正し、その補正後の駆動電圧値Vhからなる駆動信号COMを用いることにより、段差ずれΔHに応じた厚さのスロープ29を形成する。
【0065】
つまり制御部51は、その半導体チップ15の段差量Hが基準段差量H0と異なる場合、スロープ29の描画処理を半導体チップ15に実行する前に、その段差量Hに応じた形状(厚さ)のスロープ29を形成すべく、駆動信号COMを補正する信号補正処理を実行する。詳述すると、制御部51は、RAM53の所定領域に記憶された段差量データHD
を駆動電圧データIa3に適用してその段差ずれΔHに対応した駆動電圧値Vhを演算し、演算結果である駆動電圧値Vhを半導体チップ15に関連づけた波形補正データWRDを生成する。制御部51は、半導体チップ15にスロープ29を描画する前に、波形補正データWRDからその描画対象となっている半導体チップ15の駆動電圧値Vhを読み出して、その読み出した駆動電圧値Vhに対応する駆動信号COMを駆動波形生成部55に生成させる。制御部51は、こうした補正後の駆動信号COMを吐出タイミング信号LATと同期させて駆動波形生成部55からヘッド駆動回路64へ出力させる。このようにして駆動信号COMの信号補正処理が行われることにより、段差量Hの段差ずれΔHに応じて液滴Dの量が増減されることとなり、液滴Dの吐出回数を変更することなく同じビットマップデータBMDの下で液滴Dを吐出したとしても、その段差量Hに応じた形状(厚さ)のスロープ29を形成することが可能となる。
【0066】
図14は、こうした信号補正処理後の駆動信号COMを用いて形成されたスロープ29の一例を示した図であり、その実装高さが基準段差量H0よりも大きい段差量H1である場合を示している。なお同図では、段差量Hが基準段差量H0である場合における接続面15a、及び基準駆動電圧値Vh0からなる駆動信号COMで形成されるスロープ29を二点鎖線で示している。同図に示されるように、信号補正処理後の駆動信号COMを用いて液滴Dを吐出することにより、段差ずれΔH1に応じて増量された液滴Dが吐出されることとなり、段差量H1と段差方向における厚さとの差が所定値となるスロープ29が同じビットマップデータBMDの下で形成されることとなる。それゆえ段差部Bの段差ずれΔHに起因する描画不良を低減することが可能となる。
【0067】
次に、上述のように構成した液滴吐出装置10を利用したスロープ29のパターン形成方法について図15を用いて説明する。図15は、第1実施形態におけるパターン形成処理の流れを示したフローチャートである。
【0068】
まず、液滴吐出装置10のステージ12には、実装面13aを上に向けるかたちで実装基板13が載置される。続いて、入出力装置60から制御装置50に描画情報Iaが入力されて、さらにスロープ29の描画命令が同じく入出力装置60から制御装置50に入力される(ステップS101)。このようにして描画命令が入力されると、液滴吐出装置10は、ステージ12を撮像カメラ35の直下に通過させつつ、実装基板13および各半導体チップ15を撮像カメラ35に撮像させて、制御装置50に位置データPDを生成させる。また液滴吐出装置10は、各半導体チップ15を撮像する際の焦点距離から、各半導体チップ15の段差量Hと基準段差量H0との段差ずれΔHを演算し、制御装置50に段差量データHDを生成させる。(ステップS102)
次いで液滴吐出装置10は、位置データPDに基づいて実装基板13の位置ずれを把握し、その位置ずれが補正されるかたちでアライメント機構を駆動して、実装基板13を描画位置へ配置する(ステップS103)。また液滴吐出装置10は、位置データPDおよび基準位置データIa1に基づいて各アライメントマーク18a、18bに関わる位置ずれを算出し、その算出結果に基づいて位置補正データPRDを生成する。さらに液滴吐出装置10は、段差量データHD及び駆動電圧データIa3に基づいて、波形補正データWRDを生成する(ステップS104)。そしてこれらの位置補正データPRD及び波形補正データWRDが生成されると、液滴吐出装置10は、段差量データHDに基づいて、描画対象である半導体チップ15の段差ずれΔHがスロープ29を形成可能な範囲であるか否かを判断する(ステップS105)。液滴吐出装置10は、描画対象の半導体チップ15が形成不能であると判断した場合にはその半導体チップ15についての描画プログラムを終了する。
【0069】
一方、描画対象となる半導体チップ15にスロープ29が形成可能であると判断された場合、液滴吐出装置10は、その位置補正データPRDに基づいて、描画対象である半導
体チップ15が整合状態であるか、あるいは非整合状態であるかを判断する(ステップS106)。半導体チップ15が整合状態である場合、液滴吐出装置10は、基本描画データIa2の構成要素であるベクトルデータをベクトルデータ展開部56bに展開させて、その半導体チップ15に適用可能なビットマップデータBMDを生成する(ステップS108)。一方、半導体チップ15が非整合状態である場合、液滴吐出装置10は、基本描画データIa2の構成要素であるベクトルデータをRAM53から読み出し、位置補正データPRDに基づいて該ベクトルデータをベクトルデータ変換部56aに並進変換または回転変換させて(ステップS107)、その半導体チップ15に適用可能なビットマップデータBMDを生成する(ステップS108)。
【0070】
続いて液滴吐出装置10は、段差量データHDに基づいてその描画対象となっている半導体チップ15に段差ずれΔHが生じているかを判断する(ステップS109)。その半導体チップ15に段差ずれが生じていない場合、液滴吐出装置10は駆動電圧データIa3の基準駆動電圧値Vh0からなる駆動信号COMを生成する(ステップS110)。一方、描画対象となっている半導体チップ15に段差ずれΔHが生じている場合、液滴吐出装置10は駆動信号COMの信号補正処理を実行し、波形補正データWRDからその半導体チップ15に関連づけられた駆動電圧値Vhを読み出して、補正後の駆動電圧値Vhからなる駆動信号COMを生成する(ステップS111)。
【0071】
そして、液滴吐出装置10は、上記ビットマップデータBMDをノズル列ごとに取り扱うことにより吐出制御信号SIを生成し、描画対象である半導体チップ15が吐出ヘッド21の直下を通過するかたちで、ステージ12の走査処理を実行する。この間、実装面13a上の単位格子LがノズルNの直下に位置するたび、液滴吐出装置10は、吐出制御信号SIにより選択されたノズルNの圧電素子PZには信号補正処理後の駆動信号COMを印加して同駆動信号COMに応じた量の液滴Dを吐出させて、スロープエリア29Iに含まれる各単位格子Lにその液滴Dを着弾させ、これにより段差量Hに応じたスロープ29の描画像を形成する。そしてこの描画像を構成する絶縁性インクIkが硬化されることにより、スロープ29が形成される(ステップS112)。
【0072】
以上、第1実施形態の液滴吐出装置10によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)上記第1実施形態によれば、段差量データHD及び駆動電圧データIa3によって生成された波形補正データWRDに基づく信号補正処理後の駆動信号COMを用いて液滴Dを吐出した。こうすることにより、スロープ29を半導体チップ15の段差ずれΔHに応じた形状(厚さ)に、液滴Dの吐出回数を変更することなく同じビットマップデータBMDの下で形成することが可能となる。それゆえ段差ずれΔHによるスロープ29の描画不良を低減することが可能となる。
【0073】
(2)上記第1実施形態によれば、位置補正データPRDに基づく変換処理により半導体チップ15毎の位置ずれに応じたビットマップデータBMDを生成した。こうすることより、半導体チップ15の実装位置が基準位置からずれている場合であっても段差部Bに確実に液滴Dを吐出することが可能となる。
【0074】
(3)上記第1実施形態の駆動電圧データIa3では、段差ずれΔHごとに駆動電圧値Vhの補正量ΔVhを規定した。こうした駆動電圧データIa3を用いて駆動信号COMの信号補正処理を行うことにより、段差ずれΔHに即した態様で駆動信号COMの信号補正処理が実行されることとなり、段差量Hに即した形状(厚さ)のスロープ29を形成することが可能となる。
【0075】
(4)上記第1実施形態によれば、基本描画データIa2のデータ構造がベクトルデー
タであるため、その構造がビットマップデータである場合に比べ、基本描画データIa2そのものの容量が一層に抑えられ、そのうえ回転変換の容易化が図れることから、変換処理に必要とされる時間そのもの長期化がさらに抑えられる。
(第2実施形態)
次に、本発明のパターン形成装置を液滴吐出装置に具体化した第2実施形態について図16〜図19を参照して説明する。なお、第2実施形態の液滴吐出装置は、第1実施形態にてスロープ29が形成された実装基板13に対して、スロープ29に積層される金属配線パターンを描画するものであり、以下ではその変更点について詳細に説明する。また第1実施形態において全ての半導体チップ15に対してスロープ29が形成されたものとする。図16は第2実施形態における基本描画データを示した図であり、図17は第2実施形態における位置補正の実施態様の一例を示した図である。
【0076】
第2実施形態のインクタンク20には、導電性微粒子の分散系からなる導電性インクIkが貯留されている。導電性微粒子は、数nm〜数十nmの粒径を有する微粒子であり、例えば銀、金、銅、白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、ルテニウム、イリジウム、鉄、錫、コバルト、ニッケル、クロム、チタン、タンタル、タングステン、インジウム等の金属、あるいはこれらの合金を用いることができる。分散媒は、上記導電性微粒子を均一に分散させるものであればよく、例えば水や水を主成分とする水溶液系、あるいはテトラデカン等の有機溶剤を主成分とする有機系を用いることができる。なお、本実施形態の導電性インクIkにおいては、導電性粒子として銀を用い、分散媒として水を用いている。
【0077】
第2実施形態の描画情報Iaは、スロープ29に積層される金属配線パターンを描画するための各種条件を含んでいる。以下、その詳細について説明する。
第2実施形態において、描画情報Iaの駆動信号COMの電圧波形に関するデータは、駆動電圧値Vhの駆動信号COMにおける、基準クロック毎の昇圧値や降圧値を示すデータであり、液滴Dの量や吐出速度が金属配線30の設計ルールに基づく目標値となるように、各種液滴の吐出実験等に基づいてその値が設定されている。
【0078】
第2実施形態における基本描画データIa2は、図16に示されるように、金属配線30の描画領域である配線エリア30Iを示すデータから構成されている。基本描画データIa2は、一つの半導体チップ15に要する複数の配線エリア30Iが一つの半導体チップ15に関連付けられたデータ構造からなり、一つの半導体チップ15に要する金属配線30の数に対応するデータ量で構成されている。この基本描画データIa2により規定される配線エリア30Iは、半導体チップ15が前記整合状態であることを条件にして基板電極パッド16とその接続先であるチップ電極パッド17とを連結するかたちの基本配線として設定されている。
【0079】
第2実施形態における駆動電圧データIa3は、基準段差量H0における駆動電圧値である基準駆動電圧値Vh0を示すデータと、段差ずれΔHに応じた駆動電圧値Vhの補正量ΔVhを示すデータとから構成されている。
【0080】
さらに第2実施形態の描画情報Iaは、基板電極パッドデータが含まれるかたちで構成されている。基板電極パッドデータは、基板電極パッド16の接続領域であるパッドエリア16Iを示すデータから構成されている(図10参照)。基板電極パッドデータは、一つの実装面13aに存在する複数のパッドエリア16Iが一つの実装面13aに関連付けられたデータ構造からなり、基板電極パッド16の数に対応するデータ量で構成されている。なお、この基板電極パッドデータも、二次元の直交座標系Cに規定されたベクトルデータである。
【0081】
図17は、各半導体チップ15が第1実施形態の実装態様である場合における、基本描画データIa2の位置補正の実施態様を示している。同図に示されるように、基本描画データIa2に対応する4つの配線エリア30I(二点鎖線で示すエリア)が、第1半導体チップ151に関連付けられた並進ベクトルTにより並進変換されるかたちで基本描画データIa2のベクトルデータがベクトルデータ変換部56aにより変換される。また第2半導体チップ152に関連付けられた回転ベクトルRにより回転変換されるかたちで基本描画データIa2のベクトルデータがベクトルデータ変換部56aにより変換される。そして変換されたベクトルデータがベクトルデータ展開部56bで展開されることにより、第1半導体チップ151、第2半導体チップ152に適用されるビットマップデータBMDがそれぞれ生成される。
【0082】
ところで、第1実施形態において形成されたスロープ29は、段差量Hの段差ずれΔHに応じて液滴Dの量を増減させて同じビットマップデータBMDの下で形成しているため、各半導体チップ15のスロープ29の勾配にばらつきが生じている場合がある。こうした勾配のばらつきがあると、金属配線30のスロープ29上における配線長さがその勾配に応じて変動することになる。そのため、各半導体チップ15に対して金属配線30を形成する際に同量の液滴Dを吐出しながら形成したのでは、そのスロープ29上における金属配線30の膜厚がその配線長さの違いの分だけ異なってしまう。特に半導体チップ15の段差量Hが基準段差量H0よりも大きい場合には、急勾配のスロープ29が形成されることとなりスロープ29上における配線長さが長くなる。そのため、金属配線30の膜厚が薄くなってしまい断線を引き起こしやすくなる虞がある。
【0083】
そこで制御部51は、半導体チップ15の段差量Hが基準段差量H0と異なる場合、金属配線30の描画処理を半導体チップ15に実行する前に、各金属配線30のスロープ29における膜厚の均一化を図るべく、第1実施形態と同様、駆動信号COMを補正する信号補正処理を実行する。
【0084】
図19は、こうした補正処理後の駆動信号COMを用いて形成された金属配線30の一例を示した図であり、その実装高さが基準段差量H0よりも大きい段差量H1である場合を示している。なお同図では、基準駆動電圧値Vh0を用いて生成した駆動信号COMで形成される金属配線30を二点鎖線で示している。同図に示されるように、補正処理後の駆動信号COMを用いて液滴Dを吐出することにより、段差ずれΔHに応じて増量された液滴Dが吐出されることとなり、たとえ半導体チップ15毎に段差量Hにばらつきが生じている場合であっても、液滴の吐出回数を変更することなく同じビットマップデータBMDの下で、スロープ29における金属配線30の膜厚を均一にすることが可能となる。
【0085】
次に、上述のように構成した液滴吐出装置10を利用した金属配線30のパターン形成方法について図18を用いて説明する。図18は、第2実施形態におけるパターン形成処理の流れを示したフローチャートである。なお、ステップS201,S202,S203,S204は、第1実施形態のステップS101,S102,S103,S104と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0086】
位置補正データPRD及び波形補正データWRDが生成されると、液滴吐出装置10は、位置補正データPRDに基づいて、描画対象である半導体チップ15が整合状態であるか、あるいは非整合状態であるかを判断する(ステップS205)。
【0087】
半導体チップ15が整合状態である場合、液滴吐出装置10は、基本描画データIa2の構成要素であるベクトルデータをベクトルデータ展開部56bに展開させて、その半導体チップ15に適用可能なビットマップデータBMDを生成する(ステップS208)。このビットマップデータBMDが生成されると、液滴吐出装置10は、そのビットマップ
データBMDをノズル列ごとに取り扱うことにより吐出制御信号SIを生成し、結線対象である半導体チップ15が吐出ヘッド21の直下を通過するかたちで、ステージ12の走査処理を実行する。この間、実装面13a上の単位格子LがノズルNの直下に位置するたび、液滴吐出装置10は、吐出制御信号SIにより選択されたノズルNに液滴Dを吐出させて、配線エリア30Iに含まれる各単位格子Lにその液滴Dを着弾させ、これにより金属配線30の描画像を形成する。そしてこの描画像を構成する導電性インクIkが硬化されることにより、金属配線30が形成される(ステップS209)。
【0088】
一方、半導体チップ15が非整合状態である場合、液滴吐出装置10は、基本描画データIa2の構成要素であるベクトルデータをRAM53から読み出し、位置補正データPRDに基づいて該ベクトルデータをベクトルデータ変換部56aに並進変換または回転変換させる(ステップS206)。次いで液滴吐出装置10は、RAM53から基板電極パッドデータを読み出し、変換後のベクトルデータが示す配線エリアと、基板電極パッドデータが示すパッドエリアとが重畳するか否かを判断する(ステップS207)。そして配線エリアとパッドエリアとが重畳しない場合、液滴吐出装置10は、チップ電極パッド17とその接続先である基板電極パッド16との間が金属配線30により結線不能であると判断し、結線対象である半導体チップ15についての描画プログラムを終了する。
【0089】
これに対して配線エリアとパッドエリアとが重畳する場合、液滴吐出装置10は、チップ電極パッド17とその接続先である基板電極パッド16との間が金属配線30により結線可能であると判断し、変換後のベクトルデータをベクトルデータ展開部56bに展開させて、その半導体チップ15に適用可能なビットマップデータBMDを生成する(ステップS208)。次いで、ビットマップデータBMDを生成すると、液滴吐出装置10は、そのビットマップデータBMDをノズル列ごとに取り扱うことにより吐出制御信号SIを生成し、結線対象である半導体チップ15が吐出ヘッド21の直下を通過するかたちで、ステージ12の走査処理を実行する。この間、実装面13a上の単位格子LがノズルNの直下に位置するたび、液滴吐出装置10は、吐出制御信号SIにより選択されたノズルNから液滴Dを吐出させて、配線エリア30Iに含まれる各単位格子Lに液滴Dを着弾させることにより、金属配線30の描画像を形成する。つまり液滴吐出装置10は、位置補正データPRDに対応する並進処理や回転処理により補正された描画像を形成する。そしてこの描画像を構成する導電性インクIkが硬化されることにより、非整合状態の半導体チップ15と実装基板13とが金属配線30で結線される。
【0090】
以上、第2実施形態の液滴吐出装置10によれば、第1実施形態の硬化に加えて、以下のような効果を得ることができる。
(5)上記第2実施形態によれば、半導体チップ15の段差ずれΔHに応じた信号補正処理が駆動信号COMに対して実行することにより、半導体チップ15に段差ずれΔHが生じている場合であっても、スロープ29における金属配線30の膜厚を均一にすること可能となる。
【0091】
なお、上記実施形態は以下のように変更して実施することもできる。
・上記実施形態では、スロープ29を形成する装置と金属配線30を形成する装置とを別の装置とした。これに限らず、例えば、キャリッジ22に2つの吐出ヘッド21を設けて一方の吐出ヘッドを絶縁性インクが貯留されたインクタンクに接続し、他方を導電性インクが貯留されたインクタンクに接続する。そして描画情報Iaにスロープ29に関する基本描画データ及び駆動電圧データと、金属配線30に関する基本描画データ及び駆動電圧データとを含むかたちで構成して制御装置50に入力することで、こうしたスロープ29及び金属配線30の形成を1台の液滴吐出装置で行うようにしてもよい。これによれば、金属配線30の形成時における、位置データPD及び段差量データHDの生成や実装基板13のアライメントなどを省略することが可能となる。
【0092】
・上記実施形態では、駆動電圧データIa3が補間式などで表現される例を示したが、これを変更して、図20に示されるように、例えば段差ずれΔHを所定の範囲毎に3つに分割し、その範囲毎に駆動電圧値Vhが規定されているようなルックアップテーブルなどで表現される態様であってもよい。
【0093】
・上記実施形態では、駆動電圧データIa3に段差ずれΔHを適用する態様により駆動信号COMが生成される構成を説明した。これを変更して、図21に示されるように、例えば段差ずれΔHが予め3つの駆動信号COMA,COMB,COMCのいずれか1つに対応付けられる構成であってもよい。すなわち、制御部51は、駆動電圧値Vhが異なるこれら3つの駆動信号COMA,COMB,COMCを駆動波形生成部55に生成させ、吐出タイミング信号LATに同期させてこれら3つの駆動信号COMA,COMB,COMCをヘッド駆動回路64に出力する。一方で制御部51は、上記3つの駆動信号COMA,COMB,COMCを段差ずれΔHに応じて選択するデータを生成し、そのデータをヘッド駆動回路64に出力する。そしてヘッド駆動回路64は、吐出制御信号SIによって選択される圧電素子PZに選択された駆動信号COMを供給して液滴Dを吐出させる。こうした制御態様であっても、上述した効果と同様の効果が得られる。
【0094】
・上記実施形態では、実装面13aに2つの半導体チップ15が接合されている実装基板13を描画対象としたが、これに限らず、さらに多くの半導体チップ15が接合されている態様の実装基板であってもよいし、反対に1つの半導体チップ15が接合されている態様の実装基板であってもよい。
【0095】
・上記第2実施形態においては、パッドエリア16Iを示す基板電極パッドデータが描画情報Iaに含まれる。これを変更し、例えば撮像カメラ35が撮像する実装基板13の撮像画像に基づいて、撮像カメラ駆動回路63あるいは制御装置50が別途基板電極パッドデータを生成する構成であってもよい。このような構成であれば、パッドエリア16Iの位置に関わる実装基板13ごとの誤差を十分に抑えることができる。特に、実装基板13に大型の基板が採用される場合や実装基板13が高い熱膨張率を有する場合などには、パッドエリア16Iを含むかたちで実装基板13そのものが熱的に変形する。そのため、上述する構成であれば、こうした変形を縮率補正するうえで効果的である。
【0096】
・上記実施形態においては、アライメントマーク18a、18bの基準位置を、実装部品の基準位置として具体化した。またアライメントマーク18a、18bの検出位置を、実装部品の実装位置として具体化した。これを変更して、例えば半導体チップ15の周縁に囲まれる位置を実装部品の実装位置として具体化し、そして実装設計上において定められた同周縁に囲まれる位置を基準位置として具体化することもできる。つまり実装部品の実装位置とは、実装面において実装部品の位置を示すかたちであればよく、またその基準位置も、実装面において実装部品の位置を示すかたちであればよい。
【0097】
・上記実施形態では、半導体チップ15の位置ずれを検出して位置補正データPRDを生成し、この位置補正データPRDを用いて基本描画データIa2を並進・回転変換した後にビットマップデータBMDに展開した。これに限らず、半導体チップ15がその実装位置が常に整合状態であるような高精度な位置調整の下で実装基板13に実装されるならば、位置補正データPRDの生成と基本描画データIa2の変換処理とを割愛してもよい。
【0098】
・上記実施形態では、基本描画データIa2の変換処理時におけるデータ処理の負荷を軽減すべく、基本描画データIa2をベクトルデータとし、変換処理後のベクトルデータをビットマップデータBMDに展開した。これに限らず、位置補正データPRDに基づき
基本描画データIa2を変換処理する上では、基本描画データIa2をビットマップデータに展開したのちに変換処理を実行してもよい。また、基本描画データIa2そのものを第1基準座標Pa1を基準とするビットマップデータに展開したデータとしてもよい。
【0099】
・上記実施形態においては、制御装置50がビットマップ生成部56を備え、制御装置50がベクトルデータの変換と展開とを実行する。これを変更して、入出力装置60がビットマップ生成部56を備え、入出力装置60がベクトルデータの変換と展開とを実現する構成であってもよい。
【0100】
・上記実施形態では、実装基板13の厚さに誤差がないものとしたが、実装基板13の厚さに誤差がある場合には、撮像カメラ35による実装基板13を撮像する際の焦点距離に基づき、まず、ステージ12の上面から実装面13aまでの基板高さを算出する。そして、その基板高さと半導体チップ15のアライメントマーク18を撮像する際の焦点距離とに基づいて段差量Hを算出するようにするとよい。
【0101】
・吐出位置やそこに吐出する液滴の数が維持された状態でパターンの厚さを補正することに限らず、液滴の吐出位置が維持される構成であれば、吐出位置に吐出する液滴の数によりパターンの厚さが補正される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0102】
B…段差部、C…直交座標系、D…液滴、H…段差部、H…段差量、L…単位格子、N…ノズル、R…回転ベクトル、T…並進ベクトル、ΔH…段差量、CE…キャリッジエンコーダ、CM…キャリッジモータ、DL…ドットパターン格子、Dx…ノズルピッチ、Dy…吐出ピッチ、H0…基準段差量、H1…段差量、HD…段差量データ、Ia…描画情報、Ia1…基準位置データ、Ia2…基本描画データ、Ia3…駆動電圧データ、Ik…絶縁性インク,導電性インク、PD…位置データ、PZ…圧電素子、SE…ステージエンコーダ、SI…吐出制御信号、SM…ステージモータ、Ta…転写基準座標、Vh…駆動電圧値、Vh0…基準駆動電圧値、ΔVh…補正量、ΔVh1…補正量、BMD…ビットマップデータ、CLK…転送クロック、COM,COMA,COMB,COMC…駆動信号、LAT…吐出タイミング信号、Pa1…第1基準座標、Pa2…第2基準座標、Pb1…第1基準座標、Pb2…第2基準座標、PRD…位置補正データ、WRD…波形補正データ、10…液滴吐出装置、11…基台、12…ステージ、13…実装基板、13a…実装面、14…接着層、15…半導体チップ、15a…接続面、16…基板電極パッド、16I…パッドエリア、17…チップ電極パッド、18…アライメントマーク、18a…アライメントマーク、18b…アライメントマーク、19…ガイド部材、20…インクタンク、21…吐出ヘッド、22…キャリッジ、23…ヘッド基板、23a…ヘッドコネクタ、25…ヘッド本体、25T…供給チューブ、26…ノズルプレート、26a…ノズル形成面、27…キャビティ、28…振動板、29…スロープ、9I…スロープエリア、30…金属配線、30I…配線エリア、35…撮像カメラ、50…制御装置、51…制御部、52…ROM、53…RAM、54…発振回路、55…駆動波形生成部、55a…波形メモリ、56…ビットマップ生成部、56a…ベクトルデータ変換部、56b…ベクトルデータ展開部、60…入出力装置、61…キャリッジモータ駆動回路、62…ステージモータ駆動回路、63…撮像カメラ駆動回路、64…ヘッド駆動回路、71…第1勾配部、72…第2勾配部、73…第3勾配部、151…第1半導体チップ、152…第2半導体チップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装基板と該実装基板の実装面に配置された実装部品とによって形成される段差部に液滴を吐出して前記段差部を覆うパターンを形成するパターン形成装置であって、
前記段差部における段差量と前記パターンの段差方向における厚さとの差を予め規定された吐出位置ごとの前記液滴の量により補正する態様で前記パターンの厚さを前記段差量に応じて制御する
ことを特徴とするパターン形成装置。
【請求項2】
前記パターンの厚さを前記液滴の容量により補正する
請求項1に記載のパターン形成装置。
【請求項3】
前記実装面の面方向における前記実装部品のずれ量により前記予め規定した吐出位置を補正してその補正後の吐出位置に前記液滴を吐出する
請求項1又は2に記載のパターン形成装置。
【請求項4】
前記段差部を覆うパターンが、前記段差部の段差量を緩和する傾斜パターンである
請求項1〜3のいずれか一項に記載のパターン形成装置。
【請求項5】
前記段差部を覆うパターンが、前記段差部の段差量を緩和する傾斜パターンに積層されて前記段差部を跨ぐかたちに前記実装基板の電極パッドと前記実装部品の電極パッドとを接続する金属配線である
請求項1〜4のいずれか一項に記載のパターン形成装置。
【請求項6】
実装基板と該実装基板の実装面に配置された実装部品とによって形成される段差部に液滴を吐出して前記段差部を覆うパターンを形成するパターン形成方法であって、
前記段差部における段差量と前記パターンの段差方向における厚さとの差を予め規定した吐出位置ごとの前記液滴の量により補正する態様で前記パターンの厚さを前記段差量に応じて制御することを特徴とするパターン形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−219248(P2010−219248A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63453(P2009−63453)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】