説明

パターン成形型及びその製造方法

【課題】加工時間が短く、工具としての寿命が長く、像形成品質が高いパターン形成型及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るパターン成形型は、被加工材の表面に、凹凸を有するパターンを転写するパターン成形型であって、基材1と、基材1に中間層2、3を介して接合されたDLCパターン層4bとで構成され、基材1が、剛性を有する金属、セラミックス、又はガラスであり、中間層2、3が、基材1及びDLCパターン層4bとの接合性を提供し、かつ、DLCパターン層4bに比べ、エッチングレートが小さい層であり、DLCパターン層4bに、被加工材の表面に転写するパターンが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工材の表面に、凹凸を有するパターンを転写するパターン成形型及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の素子が小型化に進化し続けるにつれ、微細構造のパターニングがより重要となっている。このような素子を効率よく、低コストで作製するために、金型またはパターン成形型を利用して被加工材に凹凸を有するパターンを転写して素子を形成する技術が開発されている。
【0003】
例えば、アルミニウムのような成形しにくい金属からなる基板などにパターンを形成する技術として、SiC層に転写パターンを形成した高剛性なSiC型を用いて、アルミニウム基板にパターンを転写する技術が非特許文献1に示されている。SiC層に形成された転写パターンは、電子ビームリソグラフィー及び反応性イオンエッチング(RIE)を利用して形成する。その際、リソグラフィー及びRIEの条件を最適化することにより、幅が40nm、深さが800nmまでの高いアスペクト比を有する微細構造を形成することができる。
【0004】
しかし、SiCは、エッチング速度が遅く、加工性に劣っている材料である。SiCからなる成形型を製造する場合、結果的に製造コストが高くなり、成形型を用いて低コストで微細な形状を創生するという金型製造の目的が達成できなくなる。
【0005】
また、ガラスも成形しにくい材料である。このようなガラスに関して、特許文献1には、FiB(収束イオンビーム)を用いてガラス状カーボンを加工して成形型を製造することが提案されている。しかし、この場合にも、ガラス状カーボンに転写パターンを形成するのに時間がかかり、かつ、大面積のパターン形成には対応できないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−238770号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S. W. Pang, 外2名, “Direct Nano-Printing on Al Substrate Using a SiCMold”, Journal of Vacuum Science and Technology B、(米国)、1998年、16(3)、p.1145−1150。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属やガラスなど被加工材の表面に高精細なパターンを高精度にプレス成形により作製する場合、第1に、成形型の製造が低コストで容易である必要がある。第2に、一般的に、被加工材のプレス成形の場合、成形型を利用して成形を繰り返して行うため、成形型が良好な像形成品質及び長い寿命を有する必要がある。
【0009】
しかし、特許文献1及び非特許文献1に開示された技術は、上記第1及び第2の条件を満たしているとは言えない。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、製造が低コストでかつ短時間に容易にでき、被加工材であるガラスや他の金属等との離型性が良く、像形成品質が高く、さらに寿命の長い、パターン成形型及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、本発明に係るパターン成形型(1)は、被加工材の表面に、凹凸を有するパターンを転写するパターン成形型であって、基材と、前記基材に中間層を介して接合されたダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層とで構成され、前記基材が、剛性を有する金属、セラミックス、又はガラスであり、前記中間層が、前記基材及び前記DLC層との接合性を提供し、かつ、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さい層であり、前記DLC層に、前記被加工材の表面に転写するパターンが形成されていることを特徴とする。
【0012】
上記パターン成形型(1)において、前記中間層が、前記基材側の第1中間層と、前記DLC層側の第2中間層との2層で構成され、前記第1中間層が、前記基材及び前記第2中間層との接合性に優れた、Cr、W、Ti又はNiの金属で構成され、前記第2中間層が、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さく、かつ、前記第1中間層及び前記DLC層との接合性に優れた金属炭化物、金属窒化物又はセラミックスで構成されることを特徴とする。
【0013】
また、上記パターン成形型(1)において、前記中間層が、Cr、W、Ti又はNiの金属層で構成されることを特徴とする。
【0014】
また、上記パターン成形型(1)において、前記中間層が金属と非金属との混合層で構成され、前記金属が、Cr、W、Ti又はNiであり、前記非金属が、Cであり、 前記中間層の層厚方向において、前記中間層の上面側に行くにしたがい、Cの含有率が増加し、かつ、前記中間層の表層部において、Cの含有率が90質量%以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るパターン成形型(2)は、被加工材の表面に、凹凸を有するパターンを転写するパターン成形型であって、基材と、前記基材に接合されたダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層とで構成され、前記基材がSiCであり、前記DLC層に、前記被加工材の表面に転写するパターンが形成されていることを特徴とする。
【0016】
上記パターン成形型(1)及び(2)において、前記DLC層に形成された前記パターンの横断面形状が、前記DLC層の表面に平行する面で、深さ方向で異なることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るパターン成形型の製造方法(1)は、基材、中間層及びダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層で構成され、被加工材の表面にパターンを転写するパターン成形型の製造方法であって、剛性を有する金属、セラミックス、又はガラスの前記基材を準備するステップと、前記基材上に、前記基材及び前記DLC層との接合性を提供し、かつ、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さい層である前記中間層を形成するステップと、前記中間層上に、前記DLC層を形成するステップと、前記DLC層上に、前記被加工材の表面に転写するパターンに対応するマスクパターンを形成するステップと、前記マスクパターンを基に、前記DLC層に転写パターンを形成するステップとを含むことを特徴とする。
【0018】
上記パターン成形型の製造方法(1)において、前記中間層を形成するステップが、前記基材上に、前記基材及び第2中間層との接合性に優れた第1中間層をCr、W、Ti又はNiの金属で形成するステップと、前記第1中間層上に、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さく、かつ、前記第1中間層及び前記DLC層との接合性に優れた前記第2中間層を金属炭化物、金属窒化物又はセラミックスで形成するステップとを含むことを特徴とする。
【0019】
上記パターン成形型の製造方法(1)において、前記中間層を、Cr、W、Ti又はNiのうちのいずれかの金属で形成することを特徴とする。
【0020】
上記パターン成形型の製造方法(1)において、前記中間層を金属と非金属との混合層で構成し、前記金属をCr、W、Ti又はNiとし、前記非金属をCとし、前記中間層を形成するステップにおいて、前記中間層の層厚が上面側に行くにしたがい、Cの含有率が増加し、かつ、前記中間層の表層部において、Cの含有率が90質量%以上となるように成膜条件を調整することを特徴とする。
【0021】
さらに本発明に係るパターン成形型の製造方法(2)は、SiCからなる基材及びダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層で構成され、被加工材の表面にパターンを転写するパターン成形型の製造方法であって、SiCからなる前記基材を準備するステップと、前記基材上に、前記DLC層を形成するステップと、前記DLC層上に、前記被加工材の表面に転写するパターンに対応するマスクパターンを形成するステップと、前記マスクパターンを基に、前記DLC層に転写パターンを形成するステップとを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ダイヤモンドライクカーボン層に転写パターンを形成することにより、他の超硬母材等の成形型と比較して、成型加工時間が短いのみならず、大面積の成形型を短時間で加工可能であるという効果がある。また、DLC層が低摩擦係数を有するため、ガラスや他の金属などの材料からなる被加工材と成形型との離型性が優れているという効果がある。また、ダイヤモンドライクカーボン層とパターン成形型の基材との間に、接合性を向上させる2層の中間層を設けた場合には、パターン成形型の寿命が長くなるという効果がある。さらに、中間層にSiC層を用いた場合、SiC層とダイヤモンドライクカーボン層との間のエッチング選択比が大きいため、すなわち、ダイヤモンドライクカーボン層のエッチングレートがSiC層のエッチングレートより大きいため、ダイヤモンドライクカーボン層に転写パターンを容易かつ高精度でエッチングすることが可能となり、これにより、パターン成形型の像形成品質を向上させることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るパターン成形型の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するフローチャートである。
【図3A】本発明の一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【図3B】本発明の一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【図3C】本発明の一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【図3D】本発明の一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るパターン成形型の製造方法によって製造されたパターン成形型の縦断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5A】本発明の更なる一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【図5B】本発明の更なる一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【図5C】本発明の更なる一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【図5D】本発明の更なる一実施形態に係るパターン成形型の製造方法を説明するためのパターン成形型の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るパターン成形型及びその製造方法の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るパターン成形型の構成の1例を示す断面図である。
【0026】
図1に示されているように、本発明の実施形態1に係るパターン成形型は、基材1、第1中間層2、第2中間層3、及びダイヤモンドライクカーボン(DiamondLike Carbon、本明細書においてDLCとも記す)パターン層4bを備えている。
【0027】
基材1は、硬度の高い材料で構成される。例えば、ステンレス鋼、機械構造用鋼などの剛性を有する金属、二酸化ジルコニウムなどの金属酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの金属窒化物、炭化珪素、金属と炭素の焼結材などのセラミックス材料、ガラス等が、基材1として使用可能である。
【0028】
第1中間層2は、基材1と第2中間層3の両者との間に優れた接合力を提供する層である。第1中間層2は、好ましくは金属で形成され、より好ましくは、クロム(Cr)、又は、タングステン(W)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等で形成され、基材1に鉄系材料を用いる際は特にCrが好ましい。
【0029】
第2中間層3は、第1中間層2及びその上のDLCパターン層4bの両者との間に優れた接合力を有するものであり、DLCパターン層4bとの間に顕著なエッチングレート差を有し、DLCパターン層4bのパターン形成時にエッチングストッパとしての役割を果たす層であることが好ましい。第2中間層3は、好ましくは炭化珪素(SiC)、炭化クロム(CrC)などの金属炭化物、TiNなどの金属窒化物、又はセラミックスで形成され、より好ましくは、SiC又はCrCで形成される。
【0030】
DLCパターン層4bは、DLC層をパターニングして形成された層である。DLCパターン層4bのパターンは、被加工材の表面に転写するパターンである。パターン成形型のDLCパターン層4bを被加工材にプレスする、或いは、押し込むことにより、パターンが被加工材の表面に転写され、被加工材にパターンが形成される。なお、このDLC層は、ダイヤモンド構造の炭素とグラファイト構造の炭素に加え、水素を主成分とした高硬度炭素層である。DLC層のC:H原子比は、通常、約95〜60:5〜40程度である。
【0031】
このように、本発明の実施形態1に係るパターン成形型では、基材1とDLCパターン層4bと2層の中間層とで構成されている。第1中間層2は、成形型によく使用される基材、例えば、ステンレス鋼等に優れた接合性を有することが好ましく、例えば、クロム層が適している。第2中間層3は、DLCパターン層4b及び第1中間層2の両者との接合性が高い層、例えばSiC層であるため、2層の中間層を設けた本実施形態のパターン成形型は、従来の成形型と比較して、基材及びDLC層間の接合力を著しく強化することができる。これにより、寿命が長いパターン成形型が得られる。さらに、SiC層とDLC層との間では、特に酸素プラズマエッチングのような場合、エッチングレートに非常に大きな差がある、すなわち、DLC層のエッチングレートがSiC層より著しく大きいため、SiC層をエッチングストッパとして用い、DLC層を高精度で効率的にエッチングすることができる。これにより、本発明のパターン成形型は高い像形成品質を有し、パターン成形型の高い生産性を確保することができる。さらに、パターン成形型の表面及びパターン自体がDLCからなるため、本発明のパターン成形型は、耐摩耗性がよく、より長い寿命が期待できるとともに、被加工材との離型性にも優れている。
【0032】
次に、本発明に係るパターン成形型の製造方法を、図2及び図3A〜図3Dを参照しつつ説明する。
【0033】
ステップS11:図3Aに示されているように、例えば、ステンレス鋼の基材1を用意する。
【0034】
ステップS12:基材1の上に、第1中間層2である第1のクロム層を形成する。形成された第1のクロム層2の厚さは、約0.02μm〜5μmの範囲内が好適である。より好ましくは、約0.05μm〜0.5μmの範囲内である。
【0035】
クロム層の成膜方法としては、イオンプレーティング法、CVD法、スパッタリング法等を用いることができ、次に説明する第2中間層と同様の方法で成膜することができる。そして、第1及び第2中間層は、同一のチャンバ内で成膜することが可能である。
【0036】
スパッタリング法の場合、ターゲットとしては、例えば純度99.99パーセントのクロムターゲットを用いる。また、成膜雰囲気ガスはアルゴン、窒素などの不活性ガスが好ましい。スパッタリング法としては、このほか、ターゲットの近傍に磁石を配置したマグネトロン・スパッタリングや、ターゲットを向かい合わせに配置する対向スパッタリングなどを用いることができる。
【0037】
なお、成膜条件としては、例えば、アルゴンの流量が100sccm、基材の温度が400℃、圧力が1Paであるとすることができる。
【0038】
ステップS13:第1中間層2である第1のクロム層2の上に、第2中間層となる第1の炭化珪素(SiC)層3を形成する。形成された第1のSiC層3の厚さは、約0.005μm〜1μmの範囲内が好適であり、より好ましくは、約0.005μm〜0.1μmの範囲内である。
【0039】
第1のSiC層3の成膜方法は、第1のクロム層2と同様な成膜方法を利用できる。この場合、同一のチャンバで成膜を行うことができる。特に、同じくスパッタリング法を用いる場合、ターゲットとしては、例えば、純度99.99パーセントのSiCターゲットを用いる。
【0040】
なお、成膜条件としては、例えば、アルゴンの流量が100sccm、温度が400℃、圧力が1Paであるとすることができる。
【0041】
ステップS14:第2中間層3である第1のSiC層3の上に、DLC層4を形成する。形成されたDLC層4の厚さは、被加工材のパターンの深さ、又は奥行きなどの寸法によって決定される。
【0042】
なお、DLC層の成膜は、基材温度300℃以下、好ましくは常温で、イオンプレーティング法、直流(DC)、交流(AC)または高周波(RF)の電力を利用したプラズマCVD法、ECR(ElectronCyclotron Resonance)−CVD法、直流(DC)、交流(AC)もしくは高周波(RF)の電力またはECRプラズマ、イオンビームを利用したスパッタリング法、レーザー合成法などのうち、いずれかの方法により行うのがよい。イオンプレーティング法及びプラズマCVD法を利用する場合、原料ガスには、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、ブタン(C10)、ペンタン(C12)、ヘキサン(C14)、エチレン(C)、プロピレン(C)等の炭化水素を使用することが好ましい。
【0043】
ステップS15:DLC層4の上に、第1マスク層5となる第2のSiC層5を形成する。形成された第2のSiC層5の厚さは、約0.005μm〜0.1μmの範囲内が好ましい。成膜条件は、上記第1のSiC層3の成膜条件と同様である。
【0044】
ステップS16:第1マスク層5である第2のSiC層5の上に、第2マスク層6となる第2のクロム層6を形成する。形成された第2のクロム層6の厚さは、約0.05μm〜1μmの範囲内が好ましい。成膜条件は、上記第1のクロム層2の成膜条件と同様である。
【0045】
ステップS17:図示していないが、第2マスク層6の上にフォトレジストを塗布する。その後、露光、現像のプロセスを経て、レジスト層からなるフォトレジストマスクパターンを形成する。ここでいうマスクパターンは、被加工材の表面に転写するパターンに対応する。
【0046】
ステップS18:図3Bに示されているように、上記フォトレジストマスクパターンを利用して、第2マスク層6の第2のクロム層6をセリウム系エッチング液などを用いて湿式エッチングして、第2マスクパターン層6aを形成する。
【0047】
ステップS19:引き続き、上記フォトレジストマスクパターンを利用して、フッ素系ガス(CHF、CF、SF、NF)を用いて第1マスク層5の第2のSiC層5をエッチングし、第1マスクパターン層5aを形成する。
【0048】
ステップS20:図3Cに示されているように、フォトレジストマスクパターン、第2マスクパターン層6a及び第1マスクパターン層5aをマスクとして、DLC層4をエッチングし、DLCパターン層4aを形成する。なお、DLC層のエッチングには、酸素プラズマエッチングを利用することができる。
【0049】
ステップS21:図3Dに示されているように、フォトレジストマスクパターン、第2マスクパターン6a及び第1マスクパターン5aを除去する。
【0050】
上記のような一連のステップを通じて、図3Dに示されているようなパターン成形型が製造される。
【0051】
なお、図4は、本発明の方法によって製造されたパターン成形型の縦断面の一例を示すSEM写真である。図4に示されているように、形成されたDLC層中の溝の壁がほぼ垂直になっており、かつ、溝の底部のコーナーも直角になっていることが分かる。これは、前述の第1中間層5、第2中間層6を用いるため、DLC層のエッチングの制御が容易な上、DLC層と第2中間層6との間のエッチングレートの差、すなわち、DLC層のエッチング選択比がSiC層より大幅に大きいことがもたらす効果である。
【0052】
(実施の形態2)
図5Dは、本発明の実施形態2に係るパターン成形型の構成の1例を示す断面図である。
【0053】
本実施形態2に係るパターン成形型は、中間層が1層で構成される点において、前述の実施形態1に係るパターン成形型と異なる。すなわち、本実施形態2に係るパターン成形型は、基材1、中間層7、及びDLCパターン層4aを備えている。実施の形態1と同様に、基材1は、硬度の高い材料で構成される。
【0054】
また、中間層7は、基材1及びDLCパターン層4aの両者との間に優れた接合力を提供し、かつ、DLCパターン層4aのエッチングレートより小さい層である。中間層7は、金属又は金属と非金属との混合層であり、金属は、クロム(Cr)、又は、タングステン(W)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)等が好ましく、基材に鉄系材料を用いる場合は特にCrが好ましい。さらに、中間層7が金属と非金属との混合層の場合は、金属は上記の金属のうちのいずれかで、非金属はC、Si、それらの化合物であることが好ましい。この場合、中間層は、金属と非金属との含有率が、層厚の方向において、傾斜を有することが好ましい。すなわち、層厚の方向において、DLCパターン層4a側の方が、例えば、Cの含有率が大きくなるように中間層を形成する。好ましくは、中間層の表層部において、Cの含有率が約80質量%となるように、金属及びCの各々の含有率を調整する。
【0055】
金属と非金属の混合層を形成する場合、非金属をDLCとすることが最も好ましい。例えば、CrとDLC粒の混合層を形成する場合には、同じ反応チャンバ内でCr層の形成とDLC粒の形成ができるように、形成される中間層の厚さの増加に伴い、金属層の形成に対するDLC粒又はDLC層の形成速度を高くするように制御すれば良い。このほか、Cr層の形成とDLC粒又はDLC層の形成を交互に行い、両者の形成割合を制御する方法を採用することができる。
【0056】
図5Dに示されているパターン成形型の製造方法は、図5A〜図5Dに示されているように、基本的に実施形態1に係るパターン成形型の製造方法と同様である。したがって、本実施形態2において、中間層を、例えば、金属(Cr)及びCで形成する場合のみ説明を行う。
【0057】
この場合Crの成膜方法としては、イオンプレーティング法、CVD、スパッタリング等を用いることができ、Cは基本的にDLC層と同様の方法で成膜することができる。そして、中間層及びDLC層は、同一のチャンバ内で成膜することができる。
【0058】
例えば、スパッタリングによりCr層を形成する場合、ターゲットとしては、純度99.99%のCr及び純度99.99%のカーボンが使用される。成膜雰囲気ガスは、メタン、エタン、エチレン、アセチレン等の炭化水素ガス、または一酸化炭素、ハロゲンを含む炭素含有ガスを用いることができる。さらに、これらのガスに、適宜、ヘリウム、アルゴン、ネオンなどの不活性ガスを添加した混合ガスを成膜雰囲気ガスとすることができる。成膜条件としては、Crのスパッタ投入電力(出力)を所定のパワーレベルから徐々に低下させる。DLC粒又はDLC層の形成は、カーボンソースの供給等の成膜条件をOFFの状態から徐々に上げ続け、DLC層の成膜が始まる前には所定の成膜レベルに到達するようにする。このように、傾斜構造の中間層が形成される。
【0059】
傾斜構造の中間層の場合、好ましくは、中間層の表層部において、Crが約20質量%未満で、Cが約80質量%以上、より好ましくはCrが約10質量%未満で、Cが約90質量%以上となるように成膜条件を調整して中間膜を形成する。
【0060】
なお、スパッタリング法としては、このほか、ターゲットの近傍に磁石を配置したマグネトロン・スパッタリングや、ターゲットを向かい合わせに配置する対向スパッタリングなどを用いることができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、実施の形態1における上記ステップS11〜S12において、基材を用意して第1中間層としてCr及び第2中間層としてSiCを形成する例を示したが、SiC層を基材として利用し、その上にDLC層を直接形成してパターン成形型を製造しても、基本的に同様な効果が得られる。
【0062】
また、上記ステップS20のDLC層4のエッチングでは、たとえば、深さ方向で、エッチング条件を変更することにより、エッチングされた溝又は凹部の断面形状を、図1に示されているような、垂直ではなく、例えば上広がりの形状とすることもできる。すなわち、被加工材に成形する形状については、具体的な深さ方向のプロファイルに応じてエッチング条件を変更しながら、DLC層4をエッチングすることができる。これにより、DLC層4に、深さ方向で横断面形状が異なるパターンを形成することができる。
【0063】
なお、上記の実施形態では、DLC上にCr及びSiCの2層のマスク層を形成することにしたが、マスク層は1層でもよい。さらに、Cr又はSiC以外の物質で形成しても良い。
【符号の説明】
【0064】
1 基材
2 第1中間層(Cr層)
3 第2中間層(SiC層)
4 DLC層
4a、4b DLCパターン層
5 第1マスク層(Cr層)
5a 第1マスクパターン層
6 第2マスク層(SiC層)
6a 第2マスクパターン層
7 中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工材の表面に、凹凸を有するパターンを転写するパターン成形型であって、
基材と、前記基材に中間層を介して接合されたダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層とで構成され、
前記基材が、剛性を有する金属、セラミックス、又はガラスであり、
前記中間層が、前記基材及び前記DLC層との接合性を提供し、かつ、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さい層であり、
前記DLC層に、前記被加工材の表面に転写するパターンが形成されていることを特徴とするパターン成形型。
【請求項2】
前記中間層が、前記基材側の第1中間層と、前記DLC層側の第2中間層との2層で構成され、
前記第1中間層が、前記基材及び前記第2中間層との接合性に優れた、Cr、W、Ti又はNiの金属で構成され、
前記第2中間層が、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さく、かつ、前記第1中間層及び前記DLC層との接合性に優れた金属炭化物、金属窒化物又はセラミックスで構成されることを特徴とする請求項1に記載のパターン形成型。
【請求項3】
前記中間層が、Cr、W、Ti又はNiの金属層で構成されることを特徴とする請求項1に記載のパターン成形型。
【請求項4】
前記中間層が金属と非金属との混合層で構成され、前記金属が、Cr、W、Ti又はNiであり、前記非金属が、Cであり、
前記中間層の層厚方向において、前記中間層の上面側に行くにしたがい、Cの含有率が増加し、かつ、前記中間層の表層部において、Cの含有率が90質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のパターン成形型。
【請求項5】
被加工材の表面に、凹凸を有するパターンを転写するパターン成形型であって、
基材と、前記基材に接合されたダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層とで構成され、
前記基材がSiCであり、
前記DLC層に、前記被加工材の表面に転写するパターンが形成されていることを特徴とするパターン成形型。
【請求項6】
前記DLC層に形成された前記パターンの横断面形状が、前記DLC層の表面に平行する面で、深さ方向で異なることを特徴とする請求項1〜5のいずれか項に記載のパターン成形型。
【請求項7】
基材、中間層及びダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層で構成され、被加工材の表面にパターンを転写するパターン成形型の製造方法であって、
剛性を有する金属、セラミックス、又はガラスの前記基材を準備するステップと、
前記基材上に、前記基材及び前記DLC層との接合性を提供し、かつ、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さい層である前記中間層を形成するステップと、
前記中間層上に、前記DLC層を形成するステップと、
前記DLC層上に、前記被加工材の表面に転写するパターンに対応するマスクパターンを形成するステップと、
前記マスクパターンを基に、前記DLC層に転写パターンを形成するステップとを含むことを特徴とするパターン形成型の製造方法。
【請求項8】
前記中間層を形成するステップが、
前記基材上に、前記基材及び第2中間層との接合性に優れた第1中間層をCr、W、Ti又はNiの金属で形成するステップと、
前記第1中間層上に、前記DLC層に比べ、エッチングレートが小さく、かつ、前記第1中間層及び前記DLC層との接合性に優れた前記第2中間層を金属炭化物、金属窒化物又はセラミックスで形成するステップとを含むことを特徴とする請求項7に記載のパターン形成型の製造方法。
【請求項9】
前記中間層を、Cr、W、Ti又はNiのうちのいずれかの金属で形成することを特徴とする請求項7にパターン形成型の製造方法。
【請求項10】
前記中間層を金属と非金属との混合層で構成し、前記金属をCr、W、Ti又はNiとし、前記非金属をCとし、
前記中間層を形成するステップにおいて、
前記中間層の層厚が上面側に行くにしたがい、Cの含有率が増加し、かつ、前記中間層の表層部において、Cの含有率が90質量%以上となるように成膜条件を調整することを特徴とする請求項7に記載のパターン成形型の製造方法。
【請求項11】
SiCからなる基材及びダイヤモンドライクカーボン(以下、DLCと記す)層で構成され、被加工材の表面にパターンを転写するパターン成形型の製造方法であって、
SiCからなる前記基材を準備するステップと、
前記基材上に、前記DLC層を形成するステップと、
前記DLC層上に、前記被加工材の表面に転写するパターンに対応するマスクパターンを形成するステップと、
前記マスクパターンを基に、前記DLC層に転写パターンを形成するステップとを含むことを特徴とするパターン成形型の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91586(P2013−91586A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−235674(P2011−235674)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(501133236)
【出願人】(510301415)ミツエ・モールド・エンジニアリング株式会社 (1)
【Fターム(参考)】