説明

パターン検査装置およびパターン検査方法

【課題】ディスク媒体に同心円状に形成されたトラックのパターンを、回転ステージの回転同期軸振れの影響を受けることなく、適正に検査できるようにする。
【解決手段】本発明のパターン検査装置1は、レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されているとともにパターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたディスク媒体4のトラックのパターンを検査するものであって、ディスク媒体4が載せられる回転ステージ14と、この回転ステージ14に載せられたディスク媒体4に対して電子ビームを照射する照射光学系2と、この照射光学系2による電子ビームの照射によって回転ステージ14上のディスク媒体4から発生する電子を検出する電子検出器3とを備え、回転ステージ14は、ディスク媒体4にパターン描画するときに当該ディスク媒体を回転動作させるために用いた回転ステージと同一の回転ステージで構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク媒体に形成されたパターンを検査する際に適用されるパターン検査装置およびパターン検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク駆動装置などの磁気記録再生装置に用いられるディスク媒体の一つとして、たとえば、ディスクリートトラック型と呼ばれるディスク媒体が知られている。この種のディスク媒体には、同心円状に複数の記録用のトラックが形成されている。複数のトラックは、ディスク媒体の径方向で磁気的に分離されている。具体的には、ディスク媒体の径方向で隣り合う二つのトラックの間に溝が形成され、この溝の介在によってトラック同士が物理的に分離されている。
【0003】
近年、ディスク媒体にパターンを形成する手法として、「インプリント法」が用いられている。インプリント法は、スタンパと呼ばれる元型のディスク媒体に凹凸のパターンを形成しておき、この凹凸パターンの凹凸を反転させた反転パターンを、スタンパからの転写によって他のディスク媒体に形成する手法である。その場合、元型となるディスク媒体には、フォトリソグラフィ法を利用して凹凸のパターンを形成するのが一般的である。
【0004】
フォトリソグラフィ法では、ディスク媒体の元(素材)になる基板に対して、「レジスト膜の形成」、「レジスト膜の露光」および「レジスト膜の現像」を順に行うことによってレジストパターンを形成する。このうち、レジスト膜の露光には、電子ビーム描画装置が用いられている。電子ビーム描画装置は、基板上に形成されたレジスト膜に電子ビームを照射することにより、レジスト膜を露光する装置である。
【0005】
電子ビーム描画装置のなかには、レジスト膜付きの基板を周方向に回転させる回転ステージを備えたものがある。この種の電子ビーム描画装置では、回転ステージを駆動して基板を回転させながら、基板上のレジスト膜に電子ビームを照射してパターン描画する。
【0006】
また、上述のようにレジスト膜への電子ビーム照射によってパターン描画を終えたら、このパターン描画によって露光されたレジスト膜を現像することにより、基板上にレジストパターンを形成する。さらに、このレジストパターンをマスクに用いて基板をエッチングすることにより、凹凸のパターンが形成されたディスク媒体(基板)を得る。
【0007】
こうしてディスク媒体に形成されたパターンは、同心円状に並ぶ複数のトラックを構成するものとなる。トラックを構成する凹凸のパターンは、電子ビーム露光のパターン描画に適用した描画データに依存したものとなる。ただし、パターン付きのディスク媒体を製造するにあたっては、たとえば、リソグラフィ(露光・現像)の段階やその前後の段階で、種々の要因により、最終的に得られるパターンに欠陥が生じることがある。
【0008】
パターンの欠陥には、たとえば、異物の付着によるものや、パターンそのものの欠損によるものなどがある。このようにパターンに欠陥が生じたディスク媒体をたとえば元型に用いてインプリントを実施すると、パターンと一緒に欠陥も転写されてしまう。このため、そうした不都合を回避するには、ディスク媒体のパターンを検査し、この検査結果で良品とされたディスク媒体を元型に用いる必要がある。
【0009】
ディスク媒体のパターンを検査する手法の一つに、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)を用いたパターン検査方法がある。このパターン検査方法では、ディスク媒体のトラックを構成するパターンに電子ビームを照射し、そこで発生する二次電子を二次電子検出器で検出する。さらに、検出した電子を電気信号に変換して増幅し、増幅後の電気信号から二次元的な走査像(二次電子像)を得る。
ディスク媒体のパターン検査に関しては、たとえば、下記の特許文献1〜3に記載されたものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−299912号公報
【特許文献2】特開2009−4028号公報
【特許文献3】特開2009−259375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来においては、ディスク媒体のパターンを検査するにあたって、以下のような問題があった。
すなわち、パターン付きのディスク媒体を回転ステージに載せて周方向に回転させた場合に、リピータブルランアウト(RRO:Repeatable Run Out)と呼ばれる、回転同期軸振れ(以下、「RRO」と略称する)が発生する。RROは、回転ステージ固有の軸振れであって、回転ステージの1回転を周期として繰り返し同じように発生する。このため、ディスク媒体の中心を回転ステージの中心に精度良く位置決めしても、その回転ステージに載せたディスク媒体を回転させたときに、次のような不具合が生じる。
【0012】
すなわち、ディスク媒体上で一つのトラックを構成するパターンを検査する場合に、このパターンの位置は、ディスク媒体が1回転する間に、RROの影響で径方向に周期的に変動する。これに対して、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と略称する)を用いたパターン検査においては、電子ビームの照射位置を径方向で固定したまま、回転ステージと一体にディスク媒体を回転させる。このため、ディスク媒体が1回転する途中で、そのときに検査対象(照準)としているパターンの位置から、電子ビームの照射位置が外れてしまうおそれがある。その結果、パターンを適正に検査することができなくなる。
【0013】
本発明の主たる目的は、ディスク媒体に同心円状に形成されたトラックのパターンを、回転ステージのRROの影響を受けることなく、適正に検査することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の態様は、
レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されているとともに当該パターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたディスク媒体について、当該ディスク媒体に同心円状に形成されているトラックのパターンを検査するパターン検査装置であって、
前記ディスク媒体が載せられる回転ステージと、
前記回転ステージに載せられたディスク媒体に対して電子ビームを照射する照射光学系と、
前記照射光学系による電子ビームの照射によって前記回転ステージ上のディスク媒体から発生する電子を検出する電子検出器と、
を備え、
前記回転ステージは、前記ディスク媒体にパターン描画するときに当該ディスク媒体を回転動作させるために用いた回転ステージと同一の回転ステージである
ことを特徴とするパターン検査装置である。
【0015】
本発明の第2の態様は、
前記照射光学系は、前記ディスク媒体にパターン描画するときに用いた電子ビームの照射光学系と同一の照射光学系である
ことを特徴とする上記第1の態様に記載のパターン検査装置である。
【0016】
本発明の第3の態様は、
レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されているとともに当該パターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたディスク媒体について、当該ディスク媒体に同心円状に形成されているトラックのパターンを検査するパターン検査方法であって、
前記ディスク媒体を回転ステージに載せて支持するとともに、前記回転ステージの駆動によって前記ディスク媒体を回転させる第1ステップと、
前記第1ステップで回転させた前記ディスク媒体に対して照射光学系から電子ビームを照射し、この電子ビーム照射によって前記ディスク媒体から発生する電子を電子検出器で検出する第2ステップとを有し、
前記第1ステップでは、前記ディスク媒体にパターン描画するときに当該ディスク媒体を回転動作させるために用いた回転ステージと同一の回転ステージを使用して、前記ディスク媒体を回転させる
ことを特徴とするパターン検査方法である。
【0017】
本発明の第4の態様は、
前記第2ステップでは、前記ディスク媒体にパターン描画するときに用いた電子ビームの照射光学系と同一の照射光学系を使用して、前記ディスク媒体に電子ビームを照射する ことを特徴とする上記第3の態様に記載のパターン検査方法である。
【0018】
本発明の第5の態様は、
レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されているとともに当該パターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたディスク媒体について、当該ディスク媒体に同心円状に形成されているトラックのパターンを検査するパターン検査方法であって、
前記ディスク媒体にパターン描画するときに用いた電子ビーム描画装置を使用して、前記パターンを検査する
ことを特徴とするパターン検査方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ディスク媒体に同心円状に形成されたトラックのパターンを、回転ステージのRROの影響を受けることなく、適正に検査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係るパターン検査装置の構成例を示す概略図である。
【図2】パターン検査の対象となるディスク媒体の構造の一例を示す図である。
【図3】RROの影響によるパターンの位置ずれの形態例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
本発明の実施の形態においては、次の順序で説明を行う。
1.パターン検査装置の構成
2.ディスク媒体の構造
3.パターン検査方法
4.実施の形態の効果に関する説明
5.変形例
【0022】
<1.パターン検査装置の構成>
図1は本発明の実施の形態に係るパターン検査装置の構成例を示す概略図である。図示したパターン検査装置1は、大きくは、電子ビームを照射する照射光学系2と、電子を検出する電子検出器3と、パターン検査の対象となるディスク媒体4を支持するステージ機構5と、このステージ機構5の駆動を制御するステージ制御系6とを備えた構成となっている。
【0023】
(照射光学系の構成)
照射光学系2は、後述する回転ステージに載せられたディスク媒体4に対して電子ビームを照射するものである。照射光学系2は、主として、電子銃7と、ブランキング電極8と、集束レンズ9と、アパーチャ10と、偏向器11と、対物レンズ12とを用いて構成されている。
【0024】
電子銃7は、電子ビームの発生源となるものである。電子銃7は、ステージ機構5に支持されたディスク媒体4と対向する状態に配置されている。電子銃7は、電子ビームを下向きに発生するものとなっている。
【0025】
ブランキング電極8は、電子ビームの下流側への進行を制御するものである。ブランキング電極8は、ブランキングするときは電界によって電子ビームをアパーチャ10で遮るように電子ビームの軸を偏向し、ブランキングしないときは電子ビームをアパーチャ10の開口部13に通すようにする。ブランキング電極8は、電子銃7からディスク媒体4に至る電子ビームの軌道上において、電子銃7と集束レンズ9との間に配置されている。
【0026】
集束レンズ9は、電子銃7から出射された電子ビームのビーム径の広がりを抑制するものである。集束レンズ9は、電子銃7からディスク媒体4に至る電子ビームの軌道上において、ブランキング電極8とアパーチャ10との間に配置されている。
【0027】
アパーチャ10は、電子ビームを照射する際に、ディスク媒体への電子ビームの照射を選択的に行うために、不要な電子ビームを遮断する機能を果たすものである。アパーチャ10は、電子ビームを通過させるための開口部13を一体に有している。アパーチャ10は、電子銃7からディスク媒体4に至る電子ビームの軌道上において、集束レンズ9と偏向器11との間に配置されている。
【0028】
偏向器11は、アパーチャ10の開口部13を通過した電子ビームの向き(進行方向)を変えることにより、ディスク媒体上の電子ビームの照射位置を変えるものである。偏向器11は、電子銃7からディスク媒体4に至る電子ビームの軌道上において、アパーチャ10と対物レンズ12との間に配置されている。
【0029】
対物レンズ12は、アパーチャ10の開口部13を通過した電子ビームのビーム径を絞るものである。対物レンズ12は、電子銃7からディスク媒体4に至る電子ビームの軌道上において、偏向器11とステージ機構5との間に配置されている。
【0030】
(電子検出器の構成)
電子検出器3は、照射光学系2による電子ビームの照射によって回転ステージ14上のディスク媒体4が発生する電子を検出するものである。より具体的に記述すると、電子検出器3は、ステージ機構5に支持されたディスク媒体4に対して照射光学系2から電子ビームを照射したときに、このディスク媒体4の表面(電子ビームが照射された部分)で発生する電子を検出する。電子検出器3は、ステージ機構5に支持されるディスク媒体4の斜め上方に位置するように配置されている。電子検出器3は、電子ビームの照射によってディスク媒体4が発生する電子のうち、主に二次電子を検出するものであるが、実際に検出される電子には反射電子も含まれる。いずれにしても、電子検出器3によって検出される電子の検出信号は、ディスク媒体4の表面状態(凹凸の状態)を反映したものとなる。この電子検出器3で得られる電子の検出信号は、信号処理部18に送られる。
【0031】
信号処理部18は、電子検出器3から送られる検出信号を取り込み、この検出信号を用いて種々の処理を行うものである。具体的には、信号処理部18は、たとえば、ディスク媒体4の表面状態を表す二次電子像を生成する処理や、この二次電子像で表される検査対象のパターンと予め与えられる基準のパターン(設計パターン)との比較により、検査対象のパターンの良否を判定する処理などを行う。
【0032】
(ステージ機構の構成)
ステージ機構5は、ディスク媒体4を支持しつつ、このディスク媒体4を回転させたり移動させたりするものである。ステージ機構5は、回転する回転ステージ14と、この回転ステージ14を直線的に移動させる直動ステージ15とを用いて構成されている。回転ステージ14および直動ステージ15は、ディスク媒体4を回転させる機能と、ディスク媒体4を移動させる機能とを兼ね備えた「r−θ系」のステージを構成している。
【0033】
回転ステージ14は、この回転ステージ14の上に載せられるディスク媒体4を水平に支持するとともに、支持したディスク媒体4を周方向に回転させるものである。回転ステージ14は、たとえば、図示しないスピンドルモータ等の駆動源によって回転する仕組みになっている。
【0034】
回転ステージ14は、ディスク媒体4にパターン描画するときにディスク媒体4を周方向に回転動作させるために用いた回転ステージと同一の回転ステージとなっている。ここで記述する「同一」とは、型式・仕様などが同一というだけではなく、例えば、同一の型式・仕様で複数の回転ステージが製造され、その一つひとつに固有の識別情報(シリアルナンバー等)が付される場合に、この識別情報が同じという意味である。具体的には、パターン検査装置1は、ディスク媒体4にパターン描画するときに用いた電子ビーム描画装置とまったく同じ装置で構成されている。つまり、一台の装置を、パターン描画とパターン検査で共用する、ということである。このため、パターン検査装置1は、回転ステージ14だけでなく、それ以外の構成要素、すなわち、照射光学系2や、回転ステージ14を含むステージ機構5などについても、パターン描画に用いた電子ビーム描画装置と同一の構成要素によって構成されている。
【0035】
直動ステージ15は、水平面に平行な一軸方向(以下、単に「水平方向」とも記す)に直線的に移動するものである。ただし、直動ステージ15は、一軸方向だけの移動に限らず、水平面に平行な直交二軸方向(いわゆるXY方向)に移動するものであってもよい。直動ステージ15は、回転ステージ14およびディスク媒体4と一体になって水平方向に移動する。直動ステージ15は、回転ステージ14で支持したディスク媒体4を、このディスク媒体4の径方向(半径方向)に移動させる移動手段となる。
【0036】
(ステージ制御系)
ステージ制御系6は、回転ステージ14を制御する回転ステージ制御部16と、直動ステージ15を制御する直動ステージ制御部17とを有している。
【0037】
回転ステージ制御部16は、回転ステージ14の駆動(回転の動作)を制御するものである。さらに詳述すると、回転ステージ制御部16は、たとえば、回転ステージ14の回転・停止といった基本的な動作に加えて、回転ステージ14の回転速度および回転方向の制御を行う。ここで記述する回転ステージ14の回転速度は、単位時間当たりの回転数(単位;rpm)で表されるものである。回転ステージ制御部16は、回転ステージ14の回転方向の現在位置(回転位相)を、たとえば、パターン検査装置1が備える図示しない回転位置検知センサを用いて認識する。
【0038】
直動ステージ制御部17は、直動ステージ15の駆動(移動の動作)を制御するものである。さらに詳述すると、直動ステージ制御部17は、たとえば、直動ステージ15の移動・停止といった基本的な動作に加えて、直動ステージ15の移動速度および移動方向の制御を行う。直動ステージ制御部17は、必要に応じて、直動ステージ15の移動方向の現在位置を、たとえば、パターン検査装置1が備える図示しない移動位置検知センサを用いて認識する構成としてもよい。
【0039】
<2.ディスク媒体の構造>
図2はパターン検査の対象となるディスク媒体の構造の一例を示す図である。
図示したディスク媒体4は、その製造過程で、フォトリソグラフィ法を利用して、レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されるとともに、当該パターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたものである。ディスク媒体4は、たとえば、DTM(ディスクリート トラック メディア)用のディスク媒体であって、全体に円板状をなしている。ディスク媒体4の一主面には、同心円状に複数のトラックのパターン4aが形成されている。各々のパターン4aは、ディスク媒体4の周方向に沿って円弧状をなして形成されている。また、各トラックのパターン4aの間には凹状の溝4bが形成されている。溝4bは、周方向に連続する状態で形成されている。そして、各々の溝4bの介在によって、各トラックのパターン4aが物理的に分離した状態で凸状に形成されている。このため、ディスク媒体4の表面状態は、凸状のパターン4aと凹状の溝4bとの混在によって、全体的に凹凸状のパターンをなしている。
【0040】
<3.パターン検査方法>
続いて、本発明の実施の形態に係るパターン検査方法について説明する。
ここで記述するパターン検査方法は、上述したパターン検査装置1を用いて、以下の手順で行う。
【0041】
まず、前述した同心円状のトラックのパターン4aが形成されているディスク媒体4を回転ステージ14の上に載せて、たとえば、メカニカルチャック等により回転ステージ14上でディスク媒体4を固定状態に支持する。このとき、ディスク媒体4のパターン4aが形成されている面が上を向くようにディスク媒体4を水平に配置する。
【0042】
また、回転ステージ14にディスク媒体4を載せる場合は、前述したパターン描画時と同じ位置関係で回転ステージ14にディスク媒体4が支持されるように、ディスク媒体4を位置決めする。具体的には、回転ステージ14の回転中心とディスク媒体4の中心とが一致するように、ディスク媒体4を位置決めする。また、ディスク媒体4の周方向(回転ステージ14の回転方向)についても、ディスク媒体4と回転ステージ14との間でパターン描画時と同じ相対位置関係が再現されるように、ディスク媒体4を位置決めする。
【0043】
ただし、ディスク媒体4の周方向の位置決めに関しては、必ずしも独立した工程として実施する必要はない。具体的には、たとえば、ディスク媒体4の中心部を図示しない保持具で保持し、この保持具が物理的に回転ステージ14に対して一義的に位置決めされる構造のものであれば、電子ビーム照射によるパターンの描画から検査まで、ディスク媒体4を保持具で保持したまま取り扱うことにより、改めて位置決めする必要がなくなる。
【0044】
次に、必要に応じて、予め設定されたイニシャライズ処理(たとえば、回転ステージ14の回転方向の基準位置を検知するための処理や、直動ステージ15の移動方向の基準位置を検知するための処理など)を行う。各々の基準位置は、たとえば、前述した回転位置検出センサおよび移動位置検知センサを用いて検知されるものである。
【0045】
次に、回転ステージ14に支持したディスク媒体4を予め決められた初期位置に配置するとともに、回転ステージ制御部16からの制御指令に基づく回転ステージ14の駆動によってディスク媒体4を回転させる。そして、ディスク媒体4の回転速度が予め決められた速度で安定したら、照射光学系2からディスク媒体4に向けて電子ビームを照射する。そうすると、ディスク媒体4の表面(主面)が、回転ステージ14の回転動作にしたがって電子ビームにより周方向に走査される。このとき、直動ステージ15の駆動によってディスク媒体4を径方向に移動させながら電子ビームを照射すると、ディスク媒体4の回転によって電子ビームが螺旋状の軌跡を描くことになる。このため、電子ビームが螺旋状ではなく一つの円を描くように偏向器11で電子ビームの位置を補正する必要がある。
【0046】
また、ディスク媒体4に対する照射光学系2からの電子ビームの照射は、ディスク媒体4上に同心円状に形成されている複数のトラックのうち、いずれか一つのトラックのパターン4aを対象に行われる。このため、照射光学系2からの電子ビームは、ディスク媒体4上で検査対象としたトラックのパターン4aに向けて照射される。一方、電子検出器3は、電子ビームの照射によってディスク媒体4から発生する電子(主に二次電子)を検出する。さらに、電子検出器3は、電子の検出によって生成された検出信号を信号処理部18に送出する。
【0047】
そうすると、信号処理部18では、電子検出器3からの検出信号を受け取って、たとえば、前述したように、ディスク媒体4の表面状態を表す二次電子像を生成する処理や、この二次電子像で表される検査対象のパターンと予め与えられる基準のパターン(設計パターン)との比較により、検査対象のパターンの良否を判定する処理などを行う。このうち、良否判定処理に関しては、たとえば、以下の判定基準を採用すればよい。すなわち、検出対象としたパターンの位置、寸法、形状などの各項目につき、項目ごとに設計パターンとのずれ量を求め、この求めたずれ量が予め設定された基準量以下のときは「良品(欠陥なし)」、基準量を超えたときは「不良品(欠陥あり)」と判断するものとすればよい。
【0048】
こうして1トラック分のパターン4aの検査を終えたら、たとえば、偏向器11によって電子ビームの向きを変えるか、あるいは直動ステージ制御部17からの制御指令に基づく直動ステージ15の駆動によって、電子ビームの照射位置をディスク媒体4の径方向に変位させる。これにより、先ほど検査したトラックのパターン4aとは異なるパターン4a(通常は隣のトラックのパターン4a)を対象に、上記同様のパターン検査を行う。そして、このパターン検査を、ディスク媒体4上のすべてのトラックのパターン4a、または予め設定された複数のトラックのパターン4aについて行う。
【0049】
<4.実施の形態の効果に関する説明>
ここで、前述したように、いずれか一つのトラックのパターン4aを検査対象として、照射光学系2からディスク媒体4に電子ビームを照射する場合に、たとえば、パターン検査に用いる回転ステージ14が、パターン描画に用いた回転ステージと異なるものであるとすると、次のような不具合が生じる。すなわち、ディスク媒体4上の各トラックのパターン4aは、パターン描画に用いた回転ステージ固有のRROの影響により、真円の円周に沿って形成されていない。具体的には、各トラックのパターン4aは、図3に太線で示すように、円の途中で真円の円周(図中、一点鎖線で示す)よりも内側にずれたり外側にずれたりしながら、連続的または断続的に形成されている。このため、パターン検査に用いる回転ステージ14が、パターン描画に用いた回転ステージと異なるものである場合は、ディスク媒体4が1回転する間に、電子ビームの照射位置が、トラックのパターン4aの位置から外れる期間が生じてしまう。
【0050】
これに対して、本実施の形態においては、ディスク媒体4にパターン描画するときにディスク媒体4を回転動作させるために用いた回転ステージと同一の回転ステージ14を使って、各トラックのパターン4aを検査している。このため、パターン描画時のRROとパターン検査時のRROとが合致することになる。したがって、回転ステージ14の駆動によってディスク媒体4を回転させたときに、ディスク媒体4上での電子ビームの照射位置は、回転ステージ14固有のRROが生じる状況であっても、各トラックのパターン4aの位置に沿うものとなる。その結果、回転ステージ固有のRROの影響を受けることなく、各トラックのパターン4aを適正に検査することが可能となる。
【0051】
また、前述した回転ステージ14だけでなく、パターン描画時とパターン検査時で照射光学系2についても共用することにより、これを共用しない場合に比べて、照射光学系2の個体差による電子ビームの照射位置のずれを低減することができる。また、照射光学系2を共用しない場合は、高精度化等を実現するにあたって、上記個体差による電子ビームの照射位置のずれを補正する必要があるが、共用化によってそうした補正機能を搭載する必要がなくなる。このため、装置の構成を簡素化することができる。
【0052】
さらに、前述した回転ステージ14や照射光学系2だけでなく、装置全体を共用する、つまりディスク媒体4にパターン描画するときに用いた電子ビーム描画装置をそのまま使用して、パターン4aを検査することにより、次のような効果が得られる。
すなわち、直動ステージ15を含むステージ機構5など、他の構成要素の個体差による電子ビーム照射位置のずれ要因をすべて排除することができる。また、パターン描画時とパターン検査時で、それぞれ専用の装置を導入する場合に比べて、ディスク媒体の製造に係る設備コストを大幅に低減することができる。
【0053】
<5.変形例>
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
以下、本発明の変形例について記述する。
【0054】
上述した実施の形態においては、検査対象の一例としてDTM用のディスク媒体を例に挙げて説明したが、これに限らず、たとえば、径方向の各トラック間に加えて、周方向のビット間にも溝を設けた、BPM(ビット パターンド メディア)用のディスク媒体を検査対象としてもよい。
【0055】
上述した実施の形態においては、パターン描画時に用いた回転ステージと同一の回転ステージを使用して、パターンを検査するために、パターン描画時に用いた電子ビーム描画装置を使用してパターンを検出するものとしが、これに限らず、パターン描画時に用いた電子ビーム描画装置の回転ステージやこれを含むステージ機構だけをパターン検査装置に移載して、パターンを検査してもよい。
さらに、回転ステージだけでなく、パターン描画時に用いた電子ビーム描画装置の照射光学系をパターン検査装置に移載して、パターンを検査してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1…パターン検査装置
2…照射光学系
3…電子検出器
4…ディスク媒体
4a…パターン
5…ステージ機構
14…回転ステージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されているとともに当該パターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたディスク媒体について、当該ディスク媒体に同心円状に形成されているトラックのパターンを検査するパターン検査装置であって、
前記ディスク媒体が載せられる回転ステージと、
前記回転ステージに載せられたディスク媒体に対して電子ビームを照射する照射光学系と、
前記照射光学系による電子ビームの照射によって前記回転ステージ上のディスク媒体から発生する電子を検出する電子検出器と、
を備え、
前記回転ステージは、前記ディスク媒体にパターン描画するときに当該ディスク媒体を回転動作させるために用いた回転ステージと同一の回転ステージである
ことを特徴とするパターン検査装置。
【請求項2】
前記照射光学系は、前記ディスク媒体にパターン描画するときに用いた電子ビームの照射光学系と同一の照射光学系である
ことを特徴とする請求項1に記載のパターン検査装置。
【請求項3】
レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されているとともに当該パターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたディスク媒体について、当該ディスク媒体に同心円状に形成されているトラックのパターンを検査するパターン検査方法であって、
前記ディスク媒体を回転ステージに載せて支持するとともに、前記回転ステージの駆動によって前記ディスク媒体を回転させる第1ステップと、
前記第1ステップで回転させた前記ディスク媒体に対して照射光学系から電子ビームを照射し、この電子ビーム照射によって前記ディスク媒体から発生する電子を電子検出器で検出する第2ステップと、
を有し、
前記第1ステップでは、前記ディスク媒体にパターン描画するときに当該ディスク媒体を回転動作させるために用いた回転ステージと同一の回転ステージを使用して、前記ディスク媒体を回転させる
ことを特徴とするパターン検査方法。
【請求項4】
前記第2ステップでは、前記ディスク媒体にパターン描画するときに用いた電子ビームの照射光学系と同一の照射光学系を使用して、前記ディスク媒体に電子ビームを照射する ことを特徴とする請求項3に記載のパターン検査方法。
【請求項5】
レジスト膜への電子ビーム照射によりパターン描画されているとともに当該パターン描画が周方向への回転動作を利用して行われたディスク媒体について、当該ディスク媒体に同心円状に形成されているトラックのパターンを検査するパターン検査方法であって、
前記ディスク媒体にパターン描画するときに用いた電子ビーム描画装置を使用して、前記パターンを検査する
ことを特徴とするパターン検査方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−238603(P2011−238603A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88844(P2011−88844)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】