説明

パターン膜形成方法、装置と材料および製品

【課題】 ウエットプロセスであって、樹脂フィルム等のフィルム基材にも適用できる低温での成膜が可能であり、かつ、ダイレクトパターニングおよび均一な厚みの膜形成を低コストで容易に行うことのできるパターン膜形成方法、装置と材料および製品を提供する。
【解決手段】 本発明のパターン膜形成方法は、基材の表面に所望のパターンを有する膜を形成する方法であって、前記基材7に熱を持たせた状態で、膜形成材料を含むインク2をノズル1aから前記基材7の表面に供給することで、前記基材7の表面に所望のパターン8を形成することを特徴とし、本発明のパターン膜形成装置は、膜形成材料を含むインクをノズルから基材表面に供給する手段と、前記基材を加熱する手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望のパターンを有する金属酸化物膜などのパターン膜形成方法、該方法に用いる装置と材料および該方法により得られる製品に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD、PDPおよびタッチパネル等の表示デバイス等に使用される電極(透明電極も含む)を形成する導電性薄膜には、ITOやSnO等の金属酸化物が使用されている。従来、このような導電性薄膜は、スパッタリングや真空蒸着等の気相プロセスにより金属酸化物を一旦ガラス板等の基板上に連続膜として生成させ、その後、レジストプロセス等の後加工により所望のパターン形成がなされて形成されていた。しかしながら、上記気相プロセスは、金属材料が揮散により大量に失われるため生産性が悪くコストが極めて高くなってしまうという問題があり、表示デバイスの製品価格の低減に大きな障害となっていた。また、後加工を要する点も、一層のコスト高に繋がり時間を要することになるため、上記障害の大きな要因となる。
【0003】
以上のような事情に鑑みて、膜形成材料を液状物にして基材に塗布し加熱などして基板上に透明導電膜、高誘電体素子膜または抵抗体素子膜等として用い得る金属酸化物膜(セラミクス膜)を、金属材料の無駄をなくして効率的にかつ簡易に形成できる、ウエットプロセスによる成膜技術の開発が近年、急務とされ、
(1)加熱により金属酸化物を生成し得る金属錯体や金属アルコキシドを含む塗布液(例えば、特許文献1〜5参照)や、
(2)塗布後の励起方法の工夫により低温での金属酸化物結晶化を行う成膜法(例えば、特許文献6、7参照)や、
(3)塗布方法の工夫(熱プラズマスプレー法、スプレー熱分解法)により金属酸化物結晶化を行う成膜法(例えば、特許文献8〜11参照)、
等の種々の技術提案がなされている。
【特許文献1】特開平11−279437号公報
【特許文献2】特開2000−207059号公報
【特許文献3】特許第2136606号公報
【特許文献4】特許第3161471号公報
【特許文献5】特開平8−169800号公報
【特許文献6】特開平9−157855号公報
【特許文献7】特開2000−256862号公報
【特許文献8】特開平5−9003号公報
【特許文献9】特許第3271906号公報
【特許文献10】特許第3286954号公報
【特許文献11】特開2002−78779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ウエットプロセスによる成膜技術についての上記諸提案にも、以下のような問題があって、その解決が求められている。
すなわち、近年、各種電子機器の小型化、高密度化、省エネルギー化および低価格化が求められる中、その心臓部とも言えるプリント配線基板等の半導体実装分野においては特に、簡易かつ高密度に電子回路を形成する技術の開発が必要とされている。電子回路の高密度化のためには、電子回路を構成する各種受動素子の薄膜化が重要となり、素子を形成する基板に関しても、セラミクス等の基板から、小型(薄型)化・軽量化の可能なフィルム(特に樹脂フィルム)基板への移行がますます重要視されるようになっている。上記受動素子を構成する材料としては、やはり、金属酸化物が使用されている。例えば、高誘電体素子にはチタン酸バリウム等が使用され、抵抗体素子には10〜10Ω/□程度の所定の表面抵抗値を得させる酸化ルテニウムや酸化スズ等が使用されている。ところが、上記(1)〜(3)の方法はいずれも、以下に述べるように、基材のフィルム化が困難という問題や、その他の問題を持っているのである。
【0005】
上記(1)の塗布液を用いて金属酸化物膜を生成する技術は、塗布方法に工夫がなく、ディップ方式(浸漬法)とレジストプロセスとで一度に所望のパターンの塗布層を得ているため、この全塗布層内のすべての原料化合物を一度に熱分解させる必要がある。それゆえ、実用に耐え得る(所望の用途に適用可能な)物性を有する金属酸化物膜を形成するためには、塗布完了後の基材を、長時間、かなり高温に加熱する必要があり、樹脂フィルム等のフィルム基材への成膜可能性を考慮すると、実用性に欠ける。
上記(2)の成膜法では、基材上の塗布層に短波長UVを照射したり、エキシマレーザーを照射したりするが、この方法でも、上記(1)の場合と同様、塗布方法に工夫がなく、ディップ方式(浸漬法)とレジストプロセスとで一度に所望のパターンの塗布層を得て、この全塗布層内のすべての原料化合物を一度に金属酸化物化させるようにしているため、実用に耐え得る物性を有する金属酸化物膜を形成するためには、照射線のエネルギー密度を高めたり、照射時間を長くしたりする必要がある。それゆえ、実際のところ低温での加熱と言うにはまだ十分ではないため、前記(1)の場合と同様に、フィルム基材への成膜可能性を考慮すると、実用性に乏しいと考えられる。
【0006】
上記(3)の成膜法は、熱プラズマスプレー法を用いた技術については、装置コストが高く、連続生産が困難であるという問題がある。スプレー熱分解法を用いた技術については、この方法でも、スプレー方式とレジストプロセスとで一度に所望のパターンの塗布層を得て、この全塗布層内のすべての原料化合物を一度に金属酸化物化するようにしているため、実用に耐え得る物性を有する金属酸化物膜を形成するためには、基板温度を長時間、かなりの高温(例えば400℃程度)にしておく必要があって、基材のフィルム化が困難であるという問題がある。また、熱プラズマスプレー法、スプレー熱分解法ともに、原料液の使用量に対し基材への付着量が少ないため無駄が多く(収率が低く)コスト高につながるという問題がある。また、熱プラズマスプレー法やスプレー熱分解法を用いた技術は、ミクロ的に見て(例えば、表面抵抗値等について)、均一な膜厚の制御が困難であるという問題もある。
【0007】
さらに、上記(1)〜(3)のいずれの技術も、前述した気相プロセスと同様、基材上に連続膜を形成する方法であって、所望の膜パターンを形成するには、やはり、成膜後にレジストプロセス等の後工程を行うことが必要であるため、コスト面や所要時間等の点で生産性の高い方法であるとは言えない。
ウエットプロセスにおける上述のような諸問題は、膜が金属酸化物でできている場合に限られることはなく、膜が金属からなるときや樹脂からなるときなど、金属酸化物以外の材料からなる場合も、同様に起きている。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ウエットプロセスであって、樹脂フィルム等のフィルム基材にも適用でき、しかも、ダイレクトパターニングおよび均一な厚みの膜形成を低コストで容易に行うことのできるなどのパターン膜形成方法、該方法に用いる装置と材料および該方法により得られる製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その過程において、ウエットプロセスでのパターン膜の形成を行うにあたり、塗布液の基材への供給方法ならびに基材上の塗布層から所望の膜を得るための励起方法に着目することにした。
そして、上記供給方法に関しては、塗布液を微細なノズルによりミクロな液滴(微細液滴)の状態で基材に供給することができ、かつ、ノズル先端と基材表面との距離が極めて短い、いわゆるインクジェット方式などでの塗布液供給方法を採用することで、塗布液使用量の無駄をなくすれば良いこと、また、同一箇所への塗布液供給を繰り返して所望のパターンを得る塗布液供給方式、すなわち、繰り返し供給方式を採用することで、1回当たりの塗布液供給量が少なくなるようにして、高温長時間の加熱を避けるようにすれば良いこと、をそれぞれ見出した。
【0009】
インクジェット方式のように、塗布液をノズルから微細液滴状に吐出させる塗布液供給方式によれば、塗布液供給の際に、上記ノズルと基材との相対的な位置関係を、塗布液の供給ポイントが任意かつ厳密に得られるよう制御することで、インクジェット方式プリンターのごとく、所望のパターン形成が任意かつ確実に行うことができるので、従来のディップ(漬浸)方式の塗布層形成方法では全く実現できなかった、塗布層形成と同時のパターン形成(ダイレクトパターニング)が、いとも容易になし得ることを見出した。
インクジェット方式のように、塗布液をノズルから微細液滴状に吐出させる塗布液供給方式によれば、前述のごとく、塗布液をほとんど無駄にすることなく基材に供給できることから、ノズルからの塗布液供給速度や上記位置関係の制御速度(移動速度や同位置への塗布回数など)を厳密にコントロールすることで、所望の厚みの塗布層を均一かつ極めて精度よく形成できることをも見出した。
【0010】
一方、上記励起方法に関しては、基材の加熱可能な機器に基材を取り付けて、塗布前に予め熱を持たせた状態にしておき、塗布液が基材表面に到達することで直ちに金属酸化物の結晶化が行われるようにすれば、従来のごとき塗布層全体の一度の加熱がないため、従来よりも格段に低い温度(例えば150〜300℃低い温度)で、しかも短時間で、所望のパターン膜を容易に形成することができることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成された。
したがって、本発明にかかるパターン膜形成方法は、基材の表面に所望のパターンを有する膜を形成する方法であって、前記基材に熱を持たせた状態で、膜形成材料を含むインクをノズルから前記基材の表面に供給することで、前記基材の表面に所望のパターンを形成することを特徴とする。
【0011】
本発明にかかるパターン膜形成装置は、上記本発明のパターン膜形成方法の実施に用いる装置であって、膜形成材料を含むインクをノズルから基材表面に供給する手段と、前記基材を加熱する手段とを備えることを特徴とする。
本発明にかかるインクは、上記本発明のパターン膜形成方法の実施に用いる材料であって、膜形成材料を含むことを特徴とする。
そして、本発明にかかる薄膜素子と電子回路は、上記本発明のパターン膜形成方法によって得られる製品である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパターン膜形成方法によれば、ガラス基板やアルミナ等のセラミクス基板はもとより、ポリイミドやポリエステル等からなる樹脂フィルム(高分子フィルム)を基材として用いる場合であっても、基材が耐熱性を示す成膜温度で、ウエットプロセスによるパターン膜形成を容易に行うことができ、しかも、ダイレクトパターニングおよび均一な厚みの膜形成を高収率、短時間かつ低コストで行うことができる。したがって、透明電極や電子回路用素子膜などに要求される物性を有するパターン膜を安価に形成し得る技術として、薄膜素子や電子回路などの製品を製造する分野において非常に有用である。しかも、塗布層形成に用いるインクとしては、従来から使用されているものも適用可能であるため、工業的な需要は非常に高く、産業的波及効果は極めて大きいと言える。
【0013】
本発明にかかるパターン膜形成方法の上述のごとき有効性は電子回路実装に限定されるものでなく、電子回路実装以外の膜形成においても発揮されるものである。
本発明のパターン膜形成装置とインクを用いれば、上記本発明のパターン膜形成方法を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔パターン膜形成方法〕
本発明にかかるパターン膜形成方法(以下、「本発明の方法」と称することがある。)では、前述したように、基材表面に所望のパターンを有する膜を形成するにあたり、基材に熱を持たせた状態で、膜形成材料を含むインクをノズルから前記基材の表面に供給することで、前記基材の表面に所望のパターンを形成することが重要である。
【0015】
(インク)
本発明の方法においては、インクジェット方式などでのノズル吐出供給方式に用いるインクとして、膜形成材料を含む液状物、すなわち、加熱により金属酸化物となる金属酸化物前駆体や、樹脂を溶解させた溶液や、ナノ粒子オーダーの超微細粒子からなる金属微粒子や樹脂微粒子を含む分散液などを用いるようにする。
以下では、本発明のインクを構成する成分のうち、膜形成材料について、まず、説明する。
膜形成材料としては、主材料と副材料がある。主材料とは、以下に詳しく述べる金属酸化物前駆体のごとく、それ自身が化学変化を起こして膜となっていく材料や、金属酸化物粒子、金属粒子、樹脂粒子や粒子−樹脂コンポジットのごとく、組成的には同じ膜となっていく材料をいい、副材料とは、主材料の溶解性を高めるなどしてそのインク化を助けたり、主材料の化学変化を促進したり、主材料の持つ物性を補助改善したりなどする材料をいう。
【0016】
主材料の1つである金属酸化物前駆体としては、最終的に膜として得るようにする金属酸化物を、基材に持たせた熱による反応で生成し得る、いわゆる前駆体的な従来公知の各種金属化合物であればよく、その種類は特に限定されず、例えば、有機金属錯体類、金属アルコキシド類、無機金属錯体等が好ましく挙げられる。
上記有機金属錯体類としては、例えば、金属ギ酸塩、金属酢酸塩、金属プロピオン酸塩、金属ステアリン酸塩、金属ナフテン酸塩および金属シュウ酸塩等の金属カルボン酸塩や、これら金属カルボン酸塩の塩基性塩のほか、金属原子に各種の単座配位子や多座配位子が配位した錯体が挙げられ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよく、特に限定はされない。上記多座配位子としては、例えば、ジカルボン酸類、オキシカルボン酸類、ジオキシ化合物、オキシオキシム類、オキシアルデヒド類およびその誘導体、ジオキシ化合物、ジケトン化合物、ケトエステル化合物、オキシキノン類、トロボン類、N−オキシド化合物、アミノカルボン酸類およびその類似化合物、ヒドロキシルアミン類、オキシン類、アルジミン類、オキシオキシム類、オキシアゾ化合物、ニトロソナフトール類、トリアゼン類、ビウレット類、ホルマザン類、ジチゾン類、ピグアニド類、グリオキシム類、ジオキシ化合物、ベンゾインオキシム類、ジアミン類、ヒドラジン誘導体ならびにジチオエーテル類等の二座配位子;アスパラギン酸およびジエチレントリアミン等の三座配位子;ポルフィン類、アザポルフィン類およびフタロシアニン類等の四座配位子;エチレンジアミン四酢酸およびトリスサリチルアルデヒドジイミン等の五座配位子;等が挙げられ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよく、特に限定はされない。
【0017】
上記金属アルコキシド類としては、例えば、チタンテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、インジウムトリスメトキシプロポキシド、スズ(IV)テトライソブトキシドおよびアルミニウムトリス−sec−イソプロポキシド等の金属アルコキシドモノマーやその(部分)加水分解物、ならびに、これらの加水分解・縮合物(例えば、チタンテトラ−n−ブトキシドテトラマー等)が挙げられ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよく、特に限定はされない。
上記無機金属錯体としては、例えば、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属硝酸塩、金属ハロゲン化物などの無機塩や、金属アンミン錯体等が挙げられ、なかでも、低温で酸根が膜に残留し難い点で、金属硝酸塩、金属炭酸塩および金属アンミン錯体等が好ましい。
【0018】
金属酸化物前駆体としてはまた、上記従来公知の各種金属化合物を、必要に応じ溶媒中で加熱すること等により、金属原子の価数を変化させた化合物や、配位子の一部を他の基で置換した化合物(例えば、金属アルコキシカルボキシレート等)等も、好ましく挙げられる。
これら金属酸化物前駆体のなかでも、本発明の方法により得られる金属酸化物膜において金属酸化物以外の成分を加熱により容易に除去できる点で、有機金属錯体や金属アルコキシド類が好ましい。また、上記加熱の温度が低く、低温で金属酸化物結晶を生成し易い点で、有機金属錯体がより好ましく、なかでも、金属カルボン酸塩やその塩基性塩、および、オキシカルボン酸類やジケトン化合物の錯体が、特に好ましい。
【0019】
金属酸化物前駆体の金属種ごとの具体例としては、つぎのようなものが挙げられる。すなわち、金属酸化物として酸化ルテニウム(RuO)を生成させる場合は、ルテニウムトリスアセチルアセトナート等の、βジケトン、βケトエステルおよびβジカルボン酸等を配位子とするRu化合物錯体、もしくは、これらを後述するアルコール等の溶媒中で加熱処理してなる化合物等が挙げられる。酸化亜鉛(ZnO)や酸化インジウム(In)やフェライトを生成させる場合は、Zn、InまたはFe(その他Co、Ni、MnおよびBa等)のギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩およびシュウ酸塩等の金属カルボン酸塩や、オキシカルボン酸類等を配位子とするZn化合物錯体、In化合物錯体またはFe化合物錯体(その他Co化合物錯体、Ni化合物錯体、Mn化合物錯体およびBa化合物錯体等)等が挙げられる。ITOを生成させる場合は、Inのギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩およびシュウ酸塩等の金属カルボン酸塩や、オキシカルボン酸類等を配位子とするIn化合物錯体等が挙げられるとともに、Sn(IV)カルボン酸塩やSn(IV)アルコキシド類等が挙げられる。酸化セリウム(CeO)を生成させる場合は、Ce酢酸塩等の金属カルボン酸塩や、オキシカルボン酸類等を配位子とするCe化合物錯体や、Ce硝酸塩等が挙げられる。酸化チタン(TiO)を生成させる場合は、Tiテトラブトキシド等の金属アルコキシド化合物や、Ti酢酸塩等の金属カルボン酸塩や、βジケトン等を配位子とするTi化合物錯体等が挙げられる。
【0020】
本発明にかかるパターン膜形成方法で得られる製品では、必ずしも、パターン膜が金属酸化物(セラミクス)のみで形成されているとは限らないのであって、金属や樹脂などのパターン膜、金属や樹脂などが金属酸化物に混じったパターン膜などもあるのである。受動素子膜において、例えば、誘電体はチタン酸バリウム/金属の積層体であり、抵抗体は、求められる抵抗値に応じて、ニッケル等の金属膜、酸化ルテニウム系、酸化スズ系等の導電性酸化物膜、カーボンブラック等の導電性粒子を樹脂に分散したコンポジット膜がある。
電極や配線は、たとえば、金属、酸化物系導電膜、導電性ポリマーからなる膜等からなる。
【0021】
膜形成材料の主材料として、金属酸化物粒子も本発明では採用しうるが、低温で金属膜として成立させるためには、粒子径が微細である方が好ましく、具体的には、20nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
金属酸化物粒子は、通常、溶媒中に分散含有されたものが膜形成材料として使用される。
金属膜を得させるための主材料としては、たとえば、金属前駆体の他に、金属粒子が挙げられる。
金属前駆体としては、銅、銀、金、白金族金属等の金属の有機金属錯体、金属アルコキシド類、無機金属錯体等が好ましく挙げられる。すなわち、金属酸化物前駆体の具体例として前述したものと同様の化合物が好ましく挙げられる。また、必要に応じて、金属化を促進するための還元剤をインク中に副原料として用いることも好ましく採用し得る。金属前駆体は、通常、溶媒中に溶解または分散含有されたものが膜形成材料として使用される。
【0022】
また、金属粒子としては、低温で金属膜として成立させるためには、粒子径が微細である方が好ましく、具体的には、20nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
金属粒子は、通常、溶媒中に分散含有されたものが膜形成材料として使用される。
樹脂膜を得させるための主材料としては、たとえば、樹脂そのもの、樹脂前駆体または樹脂粒子が挙げられる。樹脂前駆体としては、重合、縮合または架橋により樹脂を形成し得る、アクリル系、スチレン系、エポキシ系等の各種モノマー、オリゴマー、架橋剤等が例示される。これらの主材料は、通常、溶媒中に溶解または分散含有されたものが膜形成材料として使用される。また、樹脂膜を形成させる原料を混合した段階で硬化が進みやすいような原料系の場合には、膜形成材料を複数に分けて、別々のノズルから噴霧供給することが好ましく採用される。また、樹脂粒子としては、均一な膜として成立させるためには、粒子径が微細である方が好ましく、具体的には、50nm以下が好ましく、20nm以下がさらに好ましい。樹脂粒子は、通常、溶媒中に分散含有されたものが膜形成材料として使用される。
【0023】
その他の主材料としては、カーボンブラック、金属硫化物、金属窒化物、金属酸窒化物、合金等を形成し得る、前駆体または粒子も本発明では採用し得る。
また、金属酸化物粒子、金属粒子、その他の粒子等の粒子が樹脂中に分散したコンポジット膜、金属と金属酸化物からなるコンポジット膜等のいわゆるコンポジット膜の場合は、各成分の前駆体を主材料としてインク中に溶解または分散したものを膜形成材料としてもよいし、前記粒子を分散含有し、樹脂を溶解した、いわゆる塗料組成物を膜形成材料として用いることもできる。
なお、主材料であっても、1つのパターン膜中に複数種類が併用されて良いのである。例えば、金属酸化物と金属および/または樹脂でできているパターン膜を得る場合の主材料としては、金属酸化物前駆体と金属微粒子および/または樹脂微粒子(溶液化した樹脂であっても良い)が使用されるのである。
【0024】
副材料としては、例えば、以下に述べる反応促進剤や添加剤などがあり、これらの副材料は必要に応じて複数種類使用されて良い。
副材料としての反応促進剤は、主材料の酸化反応などを化学的に励起し膜形成を促進するものとしては、たとえば、下記1)〜3)が例示される。
1)金属酸化物膜を得る場合:過酸化水素等の酸化剤。なお、前駆体として金属アルコキシドを用いた場合は、加水分解・縮合触媒等。
2)金属膜を得る場合:前述したように、アルデヒド、有機アミン等の還元剤等。
3)樹脂膜を得る場合:重合、縮合反応を促進する開始剤、触媒等。
【0025】
副材料としての添加剤は、主材料の溶解安定性を高めたり、高濃度で溶解させたりするために、必要に応じ、インク中に添加されるものであって、本発明の効果が損なわれない範囲で、配合される。このような添加剤としては、例えば、アミン等の塩基性物質、カルボン酸等の酸性物質、ノニオン性、アニオン性、カチオン性および両性の界面活性剤、π電子を有する芳香環やC=Cの二重結合等の不飽和結合を有する不飽和脂肪族炭化水素のほか、前述した2座配位子等の多座配位子として列挙した化合物等が好ましく挙げられる。これら添加剤は、少量で高い効果が得られる点で好ましく、例えば、金属化合物前駆体中の金属原子に対しモル比で0.01〜5の使用量で溶解性向上の効果を得ることができ、また、得られる膜の結晶性に悪影響を与えない点でも好ましい。
【0026】
金属酸化物前駆体、樹脂、金属微粒子や樹脂微粒子を、これらを含む液状物とするための溶媒としては、特に限定されるものでなく、該溶媒により、全体としてインクジェット方式による微細液滴としての供給に適する液状態が保持され、基材への良好な塗工性が発揮されるものであれば良い。該溶媒としては、例えば、水および/または有機溶媒を好ましく用いることができる。上記有機溶媒としては、金属化合物前駆体との親和性が高く溶解させやすい点から、アルコール、ケトン、アルデヒドおよびエステル等の比較的極性の高い有機溶媒が好ましい。なかでも、有害性が低い点では、エタノールが好ましく、低温で溶媒残留のない膜が得られやすい点では、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール等の低沸点溶媒が好ましい。耐熱性の高い基材を用いる場合、高沸点溶媒を溶媒成分として含有させることにより、結晶性に優れた膜が得られやすく、好ましく採用される。
【0027】
インクにおける、膜形成材料の主材料、すなわち、金属酸化物前駆体、樹脂、金属微粒子や樹脂微粒子の含有割合(金属酸化物膜の場合は金属酸化物換算で)は、前述したインクジェットなどのノズル吐出方式に適した液状態の保持と基材への良好な塗工性とが得られるようであれば、特に限定されるものではないが、例えば、該インク全体に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%である。膜形成材料の主材料含有割合が上記範囲を満たすよう、膜形成材料の主材料や溶媒の量を調整すればよい。上記含有割合が0.01重量%未満であると、生産性が低下する恐れがあり、20重量%を超えると、膜厚均一性や結晶性の低い膜となる恐れがある。
【0028】
金属酸化物前駆体を含むインクの調製方法は、得られる金属酸化物の種類に応じ、以下のように例示できる。
RuO膜の場合:
前述したRu酸化物前駆体を溶媒中に溶解することが好ましく、溶媒としてアルコールを用い加熱溶解することが特に好ましい。
In膜の場合:
前述したIn酸化物前駆体を有機溶媒(特にアルコール)に加熱溶解することが好ましい。調製時に、さらに溶解助剤としてアミン等の添加剤を共存させることが好ましい。
【0029】
ITO膜の場合:
上記In膜用の調製液に、Sn(IV)カルボン酸塩やSn(IV)アルコキシド類を、Sn/In=0.1〜10原子%の割合で混合することが好ましい。調製時に、さらに溶解助剤としてアミン等の添加剤を共存させることが好ましい。
フェライト膜の場合:
金属酸化物の種類に応じて、つぎの(i)〜(v)の金属酸化物前駆体を有機溶媒(特にアルコール)に加熱溶解することが好ましい。調製時に、さらに溶解助剤としてアミン等の添加剤を共存させることが好ましい。(i)マグネタイト(Fe)膜の場合は、酢酸鉄(III)塩基性やアクリル酸鉄(III)等の鉄化合物、(ii)ニッケルフェライト(NiFe)膜の場合は、上記鉄化合物と酢酸ニッケル(II)等の金属カルボン酸塩との併用、(iii)コバルトフェライト(CoFe)膜の場合は、上記鉄化合物と酢酸コバルト(II)等の金属カルボン酸塩との併用、(iv)マンガンフェライト(MnFe)膜の場合は、上記鉄化合物と酢酸マンガン(II)等の金属カルボン酸塩との併用、(v)バリウムフェライト(BaFe)膜の場合は、上記鉄化合物と酢酸バリウム(II)等の金属カルボン酸塩や水酸化バリウム等の水酸化物との併用。
【0030】
ZnO膜の場合:
前述したZn酸化物前駆体を有機溶媒(特にアルコール)に加熱溶解することが好ましい。調製時に、さらに溶解助剤としてアミン等の添加剤を共存させることが好ましい。
ZnO(M)膜の場合:
ZnOに異種金属元素Mをドープさせてなる固溶体酸化物(ZnO(M))の膜の場合は、上記ZnO膜用の調製液に、異種金属元素Mのカルボン酸塩やアルコキシド類を、M/Zn=0.1〜10原子%の割合で混合することが好ましい。異種金属元素Mとしては、InやAl等のIII価の金属元素が好ましい。調製時に、さらに溶解助剤としてアミン等の添加剤を共存させることが好ましい。
【0031】
CeO膜の場合:
前述したCe酸化物前駆体を、水、エタノール等のアルコールあるいはこれらの混合溶媒に溶解することが好ましい。
TiO膜の場合:
前述したTi酸化物前駆体を、有機溶媒(特にエタノール等のアルコール類)に溶解することが好ましい。調製時に、必要に応じ、さらに溶解助剤としてアセチルアセトン等の添加剤を共存させることが好ましい。
膜形成材料を含むインクの粘度は、特に限定されないが、インクジェット方式による供給が良好に行われるようにする上で、例えば、0.1〜100センチポイズが好ましく、より好ましくは1〜50センチポイズである。上記粘度が0.1センチポイズ未満であると、微細な線幅の膜が得られ難くなる恐れがあり、100センチポイズを超えると、緻密性や機械的強度の低い膜となる恐れがある。
【0032】
膜形成材料を含むインクの表面張力は、特に限定されないが、インクジェット方式による供給が良好に行われるようにするために、例えば、1〜200dy/cmが好ましく、より好ましくは10〜100dy/cmである。上記表面張力が1dy/cm未満である場合または200dy/cmを超える場合、いずれも、ピエゾ式のインクジェット法では液滴を発生させることが難しい。
(基材)
本発明の方法に用い得る基材の材質としては、特に限定されず、例えば、酸化物、窒化物、炭酸塩等のセラミクス、ガラスなどの無機物;PET、PBT、PENなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマーなどの耐熱性樹脂のほか、従来公知の(メタ)アクリル樹脂、PVC樹脂、PVDC樹脂、PVA樹脂、EVOH樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PTFE、PVF、PGF、ETFE等のフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等の各種樹脂、および、これら各種樹脂(フィルム、シート等)にアルミニウム、アルミナ、シリカなどを蒸着したもの;銀や銅やシリコン等の各種金属類;ガラス繊維コンポジットエポキシ樹脂およびシリカコンポジットエポキシ樹脂などの有機質無機質コンポジット類;などが好ましく挙げられる。また、上記基材の材質は、機能面においても、特に限定はされず、例えば、光学的には透明、不透明;電気的には絶縁体、導電体、p型またはn型の半導体、低誘電体または高誘電体;磁気的には磁性体、非磁性体;など、用途・使用目的等に応じて選択すればよい。
【0033】
本発明のインクを用いることによる成膜温度の低温化効果を考慮すると、基材の材質としては、各種樹脂を好適に用いることができるが、それでもやはり、耐熱性の樹脂が好ましく、ポリイミド等の絶縁特性に優れた樹脂がさらに好ましい。
基材の形状・形態としては、例えば、フィルム状(シート状を含む)、板状、繊維状、積層体状などが挙げられ、用途・使用目的等に応じて選択すればよく、特に限定はされないが、小型化・軽量化等を考慮するとフィルム状等が好ましい。
基材としては、銅貼りフィルムや、ガラスエポキシ積層基板、ビルドアップ積層基板などのプリント配線基板に例示される、いわゆる2次加工品も用いることができる。
【0034】
(パターン膜の形成)
本発明の方法を実施するに当たっては、前述したインクと基材を用い、基材に熱を持たせた状態で、インクをノズルから基材の表面に供給することにより、基材の表面に所望のパターンを形成するようにする。
インクのノズルから基材表面への供給方法としては、特に限定はされず、たとえば、図1の(a)に示すように、ノズル1aから出たインク2が、直ぐに、基材7に接触する方式でもよいし、図1の(b)に示すように、ノズル1aからインク2を、微細液滴状に飛ばして基材7の表面に着弾させる、いわゆるインクジェット方式等も採用し得る。後者の場合、ノズル出口から吐き出された液滴は、その大きさをほぼ維持しながら基材表面に到達してもよいし、インク中の溶媒等の揮発性成分の蒸発やインク中の前駆体を構成する配位子等の脱離により、液滴径の微細化を伴いながら基材表面に到達してもよい。また、液滴が飛行中に複数に分割されてもよい。基材表面に到達した物質が、基材表面からの熱の放射等により、ノズル出口から吐き出された液滴中の前駆体とは異なる物質にすでに変化していてもよい。
【0035】
しかしながら、本発明で重要なことは、その特徴である、所望のパターンを有する塗布層を直接に形成することにある。したがって、ノズルから吐き出させる液滴またはその中の有効な成分が基材表面のパターン膜形成箇所にのみ、到達することが重要である。
そのためには、ノズル径、ノズルからの供給速度、ノズルと基材表面との距離、基材表面の温度、インクの溶媒組成等を適宜選択することが必要である。これらの個々の好ましい条件に関しては後述する。
得られるパターンの例としては、例えば、電子回路における抵抗体、高誘電体または透明電極のごとき一個独立のドット状パターン、フォトニック結晶のごとき均一間隔配列でのドット状パターン、短冊状パターン、方形状パターン、並列線状パターン、格子状パターン、同心円状パターン、格子中に格子が入ったパターンなどがある。
【0036】
基材表面へのインクの供給は、上記種々のパターンのうちの一個独立のドット状パターンのように、ノズル出口から吐き出された1個の微細液滴から1個の微小ドット状パターンを形成させたいなどのような場合を除いては、基材表面の同一箇所にインクを繰り返し供給することで行うことが好ましい。基材表面へのインクの供給を微細液滴状で、かつ、繰り返して行うことで、基材表面に達した微細液滴が基材からの熱を受けて、次の供給がある前に直ちに、膜化することができる。例えば、膜が金属酸化物膜である場合には、金属酸化物前駆体が基材から熱を受けて直ちに金属酸化物膜となる。金属微粒子や樹脂微粒子を含む分散液をインクとする場合は、基材表面に達したインクが基材から熱を受けて、溶媒が揮発して、金属膜や樹脂膜となる。このようにして、得られた極く薄い膜の上に、次のインクが極く薄く供給されるが、次に供給されたこのインクの微細液滴も基材からの熱を受けて直ちに極く薄い膜となって先の極く薄い膜に重なる。噴射ノズルを基材に対し相対的に往復させるなどして基材表面に繰り返しインク供給することで、上述のことが繰り返されて、所望のパターンの所望の膜厚みを得させることができるのである。
【0037】
本発明の方法によれば、このようにして、短時間の間に、そして、低い加熱温度で、所望厚みのパターン膜の完全な膜化ができるのである。
上記本発明の方法の実施に当たっては、異なる種類の膜形成材料を含むインクを同じノズルから供給しても良いが、1つのインク中には異なる種類の膜形成材料を混在させない方が良い場合があり、また、膜形成材料の種類によって溶媒の種類やインク粘度を変えるのが良い場合もあるので、このような場合には、ノズルを複数系列に分けて、異なる種類の膜形成材料を含むインクを別々に供給するのが良い。例えば、第1系列のノズルからは膜形成材料の主材料のみを含むインクを供給し、第2系列のノズルからは副材料のみを含むインクを供給する。第1の主材料が金属酸化物前駆体であってこれ以外の主材料をもパターン膜中に加えたいときには、さらに、第3系列のノズルから別の主材料を含むインクを供給するのである。たとえば、フェライトや合金等の2種以上の金属成分からなる化合物膜を形成させる際、各成分の前駆体からなる複数の膜形成材料を制限しておけば、各材料を別々のノズルから所望の速度で供給することにより、各種金属組成の膜を形成することができる。膜組成に応じた膜形成材料をいちいち調製する必要がないというメリットがある。このようにして、金属粒子、樹脂粒子、カーボンブラック、樹脂などの別の主材料を含むインクや副材料を含むインクを別々に供給しても、これらは同一の供給スポットにおいて第1の主材料と合体し、所望の膜化が行われることになるのである。
【0038】
上記説明では、供給された膜形成材料からの膜化のエネルギー供給源、すなわち、励起手段としては加熱のみであったが、加熱量を低減したり、加熱だけでは起きない膜化を促進したり、熱伝導性が低い基材においても良質な膜が得られるようにしたりなどするために、基材からの伝熱による加熱以外の励起手段、例えば、光、熱、マイクロ波等の電磁波、超音波などの局所的な照射手段その他の励起手段を、インクの基材表面への供給と同時またはその前後に併用しても良いのである。たとえば、紫外線レーザー、可視レーザー、赤外線レーザー等のレーザー照射手段や、水銀ランプ等の紫外線ランプ照射手段などがある。
【0039】
以下では、インク供給手段としてのノズルと膜化励起手段としての加熱手段について詳しく説明する。
本発明にかかるパターン膜形成方法で使用するノズルは、インクを微細液滴状にして供給できるノズルであれば良く、インクジェット方式のノズルに特に限らないが、以下では、理解を容易にするために、インクジェット方式を例に挙げて、説明することとする。
一般に、噴射ノズルを備えた部分はインクジェットヘッドと称されるが、インクジェットヘッドには噴射ノズルが1本のみ備えられていてもよいし(シングルヘッド)、2本以上備えられていてもよく(マルチヘッド)、噴射ノズルの個数は特に限定されない。マルチヘッドの場合、噴射ノズルの個数は、作製したい膜の線巾と噴射する液滴の大きさとの比(線巾/液滴の大きさ)に応じて適宜選択すればよい。インクジェット方式を採用することにより、レジストフリーで所望のパターンの膜を容易に形成することができ、時間的・コスト的な面から見ても非常に生産性に優れ、かつ、非常に正確なパターンを形成することができる。
【0040】
インクジェット方式での往復供給を行う際は、噴射ノズルよりインクを微細液滴状に吐出させることが可能な装置であれば、特に限定はされず、何れの塗布装置を用いることもできるが、後述する本発明にかかる膜形成装置を用いて上記方式でのインクの塗布を行うことが好ましい。
噴射ノズルから吐出させるインクの液滴の大きさは、該ノズルの管径(内口径)、インクの粘度や表面張力、および、インクの供給速度等に依存し、特に限定はされないが、より低温で、均一な形状の、均一な膜厚分布を有する金属酸化物結晶膜を形成しやすい点で、最大直径2000μm以下であることが好ましく、より好ましくは500μm以下、特に好ましくは100μm以下である。現状のインクジェット技術では、一般に、ミクロンオーダーの大きさが下限であるが、将来的にはナノメートルオーダーの大きさの液滴形成も可能になると考えられ、そのような場合にも本発明の方法は適用可能であり、成膜温度の低温化などの点でより一層効果を発揮することができる。
【0041】
噴射ノズルから基材表面に供給するインクの速度は、特に限定はされないが、実用性の高い範囲を考慮すると、噴射ノズル1つ当たり、1ピコリットル/分〜10ミリリットル/分とすることが好ましく、より好ましくは10ピコリットル/分〜50マイクロリットル/分である。インクの供給速度を調整することにより、得られる金属酸化物膜の厚みを制御することができ、また、一度塗布した部分に繰り返して塗布する(積層する)ようにし、その回数を適宜調整することによっても膜厚を制御することができる。例えば、抵抗体素子としての金属酸化物膜を形成する場合は、厚みを制御することにより抵抗値を容易に制御することができる。なお、噴射ノズルの管径の微細化技術、および、インクジェットヘッドや基材固定台の移動速度の高速化制御技術の進展に伴い、フェムトリットル/分あるいはそれ以下の供給速度にすることも可能になると考えられるが、そのような場合にも本発明の方法は適用可能であり、成膜温度の低温化などの点でより一層効果を発揮することができる。また、10ミリリットル/分を超える高速噴射で供給する場合であっても、本発明の方法は好ましく適用できる。
【0042】
噴射ノズルからのインクの供給は、一般には、一定間隔で吐出(噴射)を繰り返す、いわゆるパルス供給により行う。パルス供給においては、パルス幅(すなわち、1回の吐出にかかる時間)は、1マイクロ秒〜1ミリ秒とすることが好ましく、より好ましくは20〜50マイクロ秒であり、一方、パルス間隔(すなわち、n回目の吐出開始時から(n+1)回目の吐出開始時までの時間)は、1マイクロ秒〜1ミリ秒とすることが好ましく、より好ましくは40〜100マイクロ秒である。パルス幅およびパルス間隔を上記範囲に制御することは、結晶構造(結晶子径、結晶配向)や膜厚分布が均一な膜を得やすい等の点で好ましい。
【0043】
基材表面へのインクの供給は、基材に熱を持たせた状態で行うようにする。詳しくは、インクが基材表面に塗布されたときに、基材が所望の温度を有する状態であるように、予めおよび/または継続(連続でも断続でもよい)して、基材を加熱しておくようにする。このように、金属酸化物前駆体の励起方法として、インクが供給される基材側のみを熱を持たせた状態にしておく方法を採用することにより、塗布層形成後の基材全体を加熱する場合等と比較して、金属酸化物等の膜の生成温度を格段に低くすることができるので、基材として例えば前述した各種樹脂を用いる場合に、熱による基材へのダメージを効果的に低減できる。特に、金属酸化物を各種素子膜として形成することにより電子回路を製造する場合においては、一般に、基材としてポリイミド樹脂等の絶縁性の樹脂が用いられるため、本発明の方法は非常に好適であると言える。
【0044】
基材の温度は、一般には、供給されるインクの種類(詳しくは、前記金属酸化物となる成分の種類等)により多少異なるが、例えば、100〜400℃が好ましく、より好ましくは100〜300℃、さらに好ましくは100〜250℃である。上記温度が100℃未満であると、金属酸化物(結晶)等の目的の膜形成が十分になされない恐れがあり、400℃を超えると、基材へのダメージが顕著となるほか、時間的・コスト的な面で生産性に劣ることとなる恐れがある。
基材の加熱方法は、特に限定はされず、公知の加熱装置・方法を採用すればよい。例えば、ホットプレート等の面状発熱体の上に基材を載せて加熱する方法や、温風・熱風ファンヒーターにより基材を加熱する方法等が一般的であるが、これらに限定はされず、基材に紫外線を照射して加熱する方法等の手段を採用することもできる。
【0045】
本発明の方法によれば、基材表面にインクを供給するのと実質的に同時に金属酸化物膜や金属膜等を形成することができ、しかもインクを微量ずつ供給し、積層することもできるため、理想的な結晶生成および結晶成長を促進させることができるほか、機械的強度の高い強靭な金属酸化物膜を形成することもできる。
(膜の種類)
本発明の方法により形成された膜は、生成させた金属酸化物の種類により各種機能性膜として有用なものとなる。
例えば、ルテニウム酸化物(RuO)、アンチモンドープ酸化スズ等の酸化スズ系金属酸化物、スズドープ酸化インジウム等の酸化インジウム系金属酸化物、Inおよび/またはAlドープ酸化亜鉛等の酸化亜鉛系金属酸化物、酸化チタン系金属酸化物等は、抵抗体素子膜として有用である。
【0046】
アンチモンドープ酸化スズ等の酸化スズ系金属酸化物、スズドープ酸化インジウム等の酸化インジウム系金属酸化物、Inおよび/またはAlドープ酸化亜鉛等の酸化亜鉛系金属酸化物、酸化チタン系金属酸化物等は、透明導電膜として有用である。
マグネタイト、コバルトフェライトおよびニッケルフェライト等のフェライト系金属酸化物からなる単層膜、ならびに、これらフェライト系金属酸化物と上記透明導電膜として有用な金属酸化物との積層膜は、磁性体膜や電磁ノイズ遮断膜として有用である。
チタン酸バリウムやチタン酸ストロンチウム等のチタン酸塩系金属酸化物は、高誘電体膜として有用である。
【0047】
酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム、酸化セリウムおよび酸化アルミニウムは、絶縁膜として有用である。
酸化チタン、酸化ジルコニウムおよび酸化ビスマスは、高屈折率膜として有用である。
Fe,Co,Ni,Mn等の磁性イオンを酸化チタンや酸化亜鉛等の半導体物質にドープしてなる金属酸化物は、希薄磁性半導体膜として有用である。
酸化イットリウムや酸化亜鉛にランタノイド系金属イオンやMn,Ag,Cuなどの金属イオンをドープしてなる金属酸化物は、蛍光体膜として有用である。
本発明の方法は、電子機器や半導体実装基板を製造するプロセスにおいて、導電膜、高誘電体膜等の機能性金属酸化物膜を形成させるために、好ましく採用することができる。
【0048】
例えば、半導体実装基板の製造プロセスにおいては、アルミナ基板、ポリイミド基板またはガラスエポキシ積層基板等の絶縁性基板にAgまたはCu等の金属配線やLSI等の半導体部品が実装されてなる実装基板を、基材として、チタン酸バリウム等の高誘電体素子膜や、RuO、SnOまたはITOなどの抵抗体素子膜、フェライト等の電磁ノイズカット膜などを形成する場合に、本発明を好ましく採用できる。
また、PETフィルムやガラス等の一部にAg電極などの電極配線が形成されてなるものを基材とし、透明導電膜パターンを形成する場合や、金属膜とチタン酸バリウム膜の積層によりコンデンサー素子を形成する場合(例えば、表面に金属膜が形成されている基材にチタン酸バリウム膜等の高誘電体膜を形成する場合)に、本発明を好ましく採用できる。
【0049】
本発明で得られる膜としては、以上の金属酸化物膜の他にも、金属膜、有機物膜、コンポジット膜等があり、その応用分野は、特に限定はされず、多岐に渡るが、半導体実装分野で例示すれば、以下の通りである。
銀、銅、金、白金族等の金属膜は、電極、電気配線として有用である。
ニッケル、ルテニウム等の金属膜は、抵抗体素子膜として有用である。
カーボンブラック粒子やスズドープ酸化インジウム粒子等の導電性粒子を樹脂などの絶縁材料に分散含有させたコンポジット膜は、抵抗体素子膜として有用である。
ポリイミド樹脂等の樹脂膜は、絶縁膜として有用である。
【0050】
導電性ポリマーからなる膜は、その電気抵抗に応じて、抵抗体素子膜、透明導電膜、電気配線として有用である。
〔パターン膜形成装置〕
本発明にかかるパターン膜形成装置(以下、「本発明の装置」と称することがある。)は、前述したように、パターン膜の形成に用いる装置であり、具体的手段として、膜形成材料を含むインクをノズルから基材表面に供給する手段(A)と、前記基材を加熱する手段(B)と、を備える装置である。
本発明の装置は、前述した本発明にかかるパターン膜形成方法の実施に好適に用いることができる。
【0051】
本発明の装置では、前述のインクと基材が使用される。
本発明の装置に備えられるインク供給手段(A)としては、インクを基材表面に供給することができる手段(つまり、たとえば、インクを微細液滴で吐出させることが可能な噴射ノズルを介して、インクを基材表面に吹き付けるように供給することができる手段など)であればよく、従来公知のインクジェット方式の塗布装置などに採用されている各種供給方式が適用できる。例えば、圧電膜(電圧印加のオンオフで制御)によりインクの吐出(供給のタイミング等)を制御するピエゾ方式、空気圧と電磁弁でインクの吐出(供給のタイミング等)を制御する方式、および、静電方式などが挙げられ、なかでも、微細液滴を短いパルス間隔で吐出させることが容易にできる点で、ピエゾ方式による供給が好ましい。
【0052】
インク供給手段(A)は、たとえば、具体的には、図2に見るように、噴射ノズル1aを有するインクジェットヘッド1のほか、インク2を収納するインクボトル3、および、インクボトル3からインクジェットヘッド1の噴射ノズルにインク2を送液する配管(供給ライン)4を備えている。図2において、5はXYステージ、6はその上に固定されているヒーター付き基材ホルダー、7は基材ホルダー6上に取り付けられている基材、8は基材7の表面に形成されているパターン、9は必要に応じて用いられるCOレーザー照射手段である。インクボトル3はインクジェットヘッド1の背圧コントローラー13を備え、配管(供給ライン)4はパルスコントローラー14を備え、XYステージ5はXY方向コントローラー15を備えている。16はレーザーコントローラーである。そして、これらのコントローラーにはパソコン10によって制御信号が入力されるようになっている。
【0053】
インクジェットヘッド1には噴射ノズルが1本のみ備えられていてもよいし(シングルヘッド)、2本以上、すなわち、複数系列備えられていてもよく(マルチヘッド)、そのノズル本数や系列数は特に限定されない。マルチヘッドの場合、噴射ノズルの個数は、作製したい膜の線巾と噴射する液滴の大きさとの比(線巾/液滴の大きさ)に応じて適宜選択すればよい。
噴射ノズルの管径(内口径)は、特に限定されず、ミクロンオーダーからミリメートルオーダーまですべて適用することができ、より低温で、均一な形状かつ均一な膜圧分布のパターン膜を得るための塗布層が形成しやすい点で、1000μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。なお、将来的に、電子機器の小型化、半導体実装基板の高密度実装化、受動素子および金属配線の精細化等の要請に応えるべく、ノズル管径の微細化やインクの吐出機構の技術改良が進展することにより、ナノメートルオーダーやオングストロームオーダーあるいは原子レベルのドットや細線を形成し得る管径が実現できれば、これについても本発明を十分に好ましく適用できる。
【0054】
本発明の装置に備えられる基材加熱手段(B)としては、所望の温度の熱を基材7に持たせることができる手段であればよく、従来公知の加熱装置から適宜選択して採用できる。例えば、基材7を載せて加熱できるホットプレート等の面状発熱体からなる、図2に見るような基材ホルダー6や、基材に温風や熱風を当てて加熱できるファンヒーターなどの手段が一般的に採用できるが、これらに限定はされず、基材に紫外線を照射して加熱できるUV照射装置等の手段を採用することもできる。
基材加熱手段(B)は、具体的には、上記加熱可能な装置であるとともに、基材を固定し得る基材ホルダーでもあることが好ましい。
【0055】
本発明の装置は、基材とノズルの相対的な位置関係を制御する手段(C)をも備えていることが好ましい。本発明の装置が該手段(C)をも備えている実施態様においては、該手段(C)として、例えば、図2にみるようなXYステージ5などを備えていて、上記インク供給手段(A)におけるインクジェットヘッド1が走査可能であるか、および/または、上記基材加熱手段(B)における加熱可能な基材ホルダー6が移動可能であり、上記インクジェットヘッド1と基材ホルダー6との相対的位置を任意に(好ましくは少なくとも往復方向に、より好ましくはX方向およびY方向のいずれにも)、高精度で、しかも高速で制御できるようになっている。そのため、上記相対的位置の制御とともに、上記インク供給手段(A)によるインクの供給を制御することで、所望の形状のパターンを有する塗布層が容易に形成できるのである。なお、上記相対的位置の制御における、インクジェットヘッド1と基材ホルダー6との相対速度は、特に限定する訳ではないが、実用性の高い範囲を考慮すると、0.1〜1000mm/秒となるようにすることが好ましい。
【0056】
図3は、本発明の装置における基材とノズルの相対的な位置関係を制御する手段(C)の別の例であって、インクジェットヘッド1がレール11に沿い図の左右方向に往復移動可能になっている。図2において、6はヒーター付き基材ホルダー、7は基材ホルダー6上に取り付けられている基材、12は基材7の表面温度を測定する熱電対、10はインクジェットヘッド1のコントローラーに制御信号を入力するパソコンである。この例では、基材7は移動せず、インクジェットヘッド1の移動のみでインク供給スポットが変わるようになっている。
図2と図3を組み合わせたタイプや、ノズルも基板も任意に動かせるタイプも、本発明の装置の実施態様に含まれる。
【0057】
本発明の装置において、上記インク供給手段(A)におけるインクジェットヘッドのノズル1aと、上記基材加熱手段(B)における加熱可能な基材ホルダーに固定された基材との間隔(距離)は、特に限定されないが、実用性の高い範囲を考慮すると、0.1〜50mmとなるように設定することが好ましく、より好ましくは上限が20mmであり、さらに好ましくは上限が10mmである。インクジェットヘッドのノズル1aと基材7との間隔が小さすぎると、基材7からの放射熱により噴射ノズル1a(インクジェットヘッド1)の温度が上昇し、噴射ノズル内で金属酸化物生成反応などを誘発したり、インク中の溶媒が蒸発し高粘度化したり膜形成材料の析出が生じたりし、その結果、噴射ノズルが閉塞したり、得られる金属酸化物膜の結晶性が低下したり、塗布層の膜厚分布の均一性が損なわれたりする恐れがある。このような事態を避けるためには、噴射ノズル(インクジェットヘッド)を冷却しておくことが有効である。本発明の装置は、ノズルと基材との間隔を高精度に制御できる機構を備え、かつ、噴射ノズル1a(インクジェットヘッド1)を冷却できる機構を備えていれば、上記間隔が0.1mm未満である膜形成においても十分適用可能である。
【0058】
本発明の装置は、上記インク供給手段(A)、基材加熱手段(B)および位置関係制御手段(C)以外に、COレーザー照射手段9などの前記した光、熱、電磁波、超音波等の照射手段、その他の励起手段を備えていてもよい。
本発明の装置の構成態様については、上記インク供給手段(A)、基材加熱手段(B)および位置関係制御手段(C)その他の手段等の各手段を、その一部または全部が一体化している状態で備えていてもよいし、それぞれ独立した状態で備えていてもよく、その備え付け態様は特に限定されない。
本発明の装置を用いて金属酸化物などからなるパターン膜の形成を行う場合、インクの供給速度、インクの液滴の大きさおよび供給繰り返し回数等は適宜制御することができ、これにより得られる膜の膜厚を超格子レベルからミリメートルオーダーまで制御することができる。
【0059】
〔本発明の方法・装置の長所〕
本発明の装置を用いれば、噴射ノズルから基材表面にインクを供給するのと実質的に同時に、該基材表面において金属酸化物結晶を生成させる等の膜化ができるため、得られる膜における結晶構造(すなわち結晶子径や結晶配向性)など膜構造の制御が十分に可能となる。この点、従来の、一旦インクを塗布した後に加熱等によるインクの励起により結晶膜を得る技術や、金属ナノ粒子含有インクを用いたインクジェット描画技術に比べ、本発明のパターン膜形成方法は非常に優位性の高い技術であると言える。
本発明の装置を用いて本発明の方法を実施すれば、大面積の膜や長尺の膜はもちろん、所望の形状や構造を有するパターン膜を容易に形成することができる。例えば、(i)ドット、細線、2次元的な連続膜(べた塗り)および円盤状などの1次構造パターンや、(ii)細線が所定の間隔で配列した構造、細線が2次元的に交差した構造(格子状、網の目状)、ドットや円盤や正方形等の膜が規則的に配列した構造などの2次構造パターンのほか、(iii)組成や機能の異なる任意の形状のパターン膜からなる積層構造や、組成や機能の異なる任意の形状のパターン膜が交互に並ぶ構造や交差する構造などのパターン膜を、容易に形成できる。
【0060】
〔パターン膜からなる製品〕
上で述べた本発明にかかるパターン膜形成方法で得られる製品としては、各種薄膜素子や電子回路などがある。
各種金属酸化物(セラミクス)などからなる本発明の製品、すなわち、パターン膜の実用例としては、例えば、ドット状の膜を単一で形成するか、または、任意あるいは所定の間隔で複数形成したパターン膜の場合は、電子回路におけるドット状の抵抗体や高誘電体、あるいは透明電極のほか、均一な間隔でのドット配列であればフォトニック結晶として用いることができる。また、任意幅の細線状の膜を単一で形成するか、または、任意あるいは所定の間隔で複数形成したパターン膜の場合は、電子回路における抵抗体素子膜や高誘電体素子膜のほか、LCD、有機ELおよびタッチパネル等の表示デバイスや発光デバイスにおける透明電極として用いることができる。
【0061】
さらに、本発明の方法および装置においては、複数の膜パターンを組み合わせることにより、従来の機能部品や電子回路を薄膜素子として形成できる。たとえば、TiO膜やチタン酸バリウム等の金属酸化物系誘電体膜と金属膜を基材に垂直方向に交互に積層したり基材の面内方向に交互に並列させたりした膜は、コンデンサー素子として有用である。スズドープ酸化インジウムやアルミニウムドープ酸化亜鉛等からなる透明導電膜をXYマトリクス状に形成した後、この膜を集電極となる金属(たとえば、銀等)膜と接合したり、酸化ルテニウム膜やカーボンブラックと樹脂のコンポジットからなる膜と金属膜とを接合したりすることによって、抵抗値を制御した配線形成等が可能である。前述した抵抗体膜等の受動素子膜やコンデンサー素子膜と電気配線を基材上に形成することによって電子回路を形成することが可能である。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例および比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、便宜上、「重量部」を単に「部」と、「リットル」を単に「L」と記すことがある。また、「重量%」を「wt%」と記すことがある。
実施例および比較例における測定方法および評価方法、ならびに、実施例および比較例で用いたパターン膜形成装置について、以下に説明する。
<インク中の微粒子状金属酸化物の有無>
得られたインクについて、透過型電子顕微鏡による観察を行い、微粒子状物の存在を確認した。微粒子状物が認められた場合は、電子顕微鏡観察下でEDXによる元素分析を行い、微粒子状の金属酸化物が含まれる否かを確認した。
【0063】
<膜の結晶性>
得られた膜付き基材における膜部分の結晶性の有無および同定を、薄膜X線回折装置(マック・サイエンス社製、製品名:MXP−3VA(型式))を用い、下記測定条件で、薄膜X線回折測定を行い評価した。具体的には、下記測定条件で行った。
(測定条件)
X線:CuKα1線(波長:1.54056Å),40kV,40mA
走査範囲:2θ=20〜80°
スキャンスピード:1°/min
X線入射角度:0.5°
なお、上記測定において、回折ピーク強度が弱い場合やブロードである場合は、評価の信頼性を高めるために、必要に応じて、ラマン分光測定も行い評価した。ラマン分光測定は、ラマン分析装置(愛宕物産社製、製品名:T64000)を用い、励起光に可視光レーザーまたは紫外線レーザーを用いて測定を行った。
【0064】
<膜の厚み>
得られた膜付き基材の断面をSEMで観察するか、または、表面形状測定機(日本真空技術(株)製、製品名:Dektak 3030)を用いて測定した。
<膜の外観>
得られた膜付き基材の膜部分の透明性および色相について、目視により観察した。
<膜の(表面)抵抗値>
得られた膜付き基材の膜部分の表面抵抗値を、三菱化学製の低抵抗率計(製品名:ロレスターGP)を用いて、リミッタ電圧10Vで、四端子四探針法により測定した。
【0065】
また、膜部分が微細な形状パターンであるため上記低抵抗率計を用いての測定が困難である場合は、スパッタ又は導電ペーストにより電極を形成し、テスターを用いて膜部分の抵抗値(Ω/□)を測定し、必要に応じて表面抵抗値に換算した。配線や導電ペーストにより膜部分に電極(対向電極)を設けている場合は、両電極間の抵抗値を上記テスターで測定して、抵抗値を求め、必要に応じて表面抵抗値に換算した。
<基材の温度>
基材を加熱した際の該基材の温度は、熱電対により測定した。
<パターン膜形成装置>
パターン膜形成装置として、以下に説明する2種類のインクジェット描画装置を用意した。
【0066】
インクジェット描画装置(その1)は、基材加熱用ヒーター付き基材ホルダーと、該基材ホルダー上部に備えられ連続的に往復移動(走査)可能なインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドを構成する噴射ノズル(60本、内径65μm)にインク(たとえば、金属酸化物前駆体を含む液状物)を供給するインクボトルおよびインク供給ラインと、を構成部品としてなる、インクジェット方式により印刷可能な装置である。なお、インク供給ラインは噴射ノズルの数に対応して分岐しており、インクジェットヘッドと基材ホルダーとの距離は1mm〜50mmの範囲で任意に設定変更可能である。該装置の使用時は、インクボトルに仕込んだ前駆体溶液を、インク供給ラインを介して、インクジェットヘッドを構成する各噴射ノズルに送液するとともに、インクジェットヘッドを移動させながらノズル先端からインクを吐出させて、基材ホルダーに固定した基材の表面にインクを吐出させることにより、基材の表面に所望のパターン形状の塗布層を形成するようにする。
【0067】
インクジェット描画装置(その2)は、連続的に移動(走査)可能な基材加熱用ヒーター付き基材ホルダーと、該基材ホルダー上部に固定された(移動不可の)インクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドを構成する噴射ノズル(1本、内径60μm)にインク(たとえば、金属酸化物前駆体を含む液状物)を供給するインクボトルおよびインク供給ラインと、を構成部品としてなる、インクジェット方式により印刷可能な装置である。なお、基材ホルダーは、インクジェットヘッドの位置に対しX方向にもY方向にも10μmの精度で、かつ、インクジェットヘッドからのインクの吐出のタイミングと連動して時期や速度を制御して、移動可能であり、インクジェットヘッドと基材ホルダーとの距離は1mm〜50mmの範囲で任意に設定変更可能である。該装置の使用時は、インクボトルに仕込んだ前駆体溶液を、インク供給ラインを介して、インクジェットヘッドを構成する噴射ノズルに送液するとともに、基板を固定した基材ホルダーを移動させながらノズル先端からインクを吐出させることにより、基材の表面に所望のパターン形状の塗布層を形成するようにする。
【0068】
〔インク合成例1〕
攪拌機、還流冷却器、温度計、および、窒素または空気ガス導入口を備えた、外部より加熱し得る耐圧ガラス製反応器を用意した。
上記反応器内に、硝酸セリウム(III)6水和物1部と、イオン交換水231部とを順次仕込み、空気雰囲気下、25℃で1時間攪拌することにより、Ce含有前駆体溶液(CeO換算濃度0.14wt%)232部を得て、これをインクジェット用のインク(S1)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
〔インク合成例2〕
インク合成例1と同様の反応器内に、チタンテトライソプロポキシド6部と、溶媒としてのエタノール192部およびアセチルアセトン2部とを順次仕込み、窒素雰囲気下、25℃で1時間攪拌することにより、Ti含有前駆体溶液(TiO換算濃度0.9wt%)200部を得て、これをインクジェット用のインク(S2)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
【0069】
〔インク合成例3〕
インク合成例1と同様の反応器内に、酢酸亜鉛18部、酢酸インジウム0.29部、溶媒としての2−ブトキシエタノール281部、および、添加剤としてのトリエチルアミン20部を順次仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら25℃から昇温させ、110℃で30分間加熱保持した後、冷却することにより、Zn,In含有前駆体溶液(ZnO換算濃度2.5wt%、In/Zn=1原子%)319部を得て、これをインクジェット用のインク(S3)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
【0070】
〔インク合成例4〕
インク合成例1と同様の反応器内に、酢酸インジウム14部、テトライソブトキシスズ(IV)1部、溶媒としての2−ブトキシエタノール245部、および、添加剤としてのn−プロピルアミンを6部を順次仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら25℃から昇温させ、120℃で30分間加熱保持した後、冷却することにより、In,Sn含有前駆体溶液(In換算濃度2.5wt%、Sn/In=5原子%)266部を得た。得られた溶液をエタノールでIn換算濃度0.25wt%となるように希釈して、これをインクジェット用のインク(S4)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
【0071】
〔インク合成例5〕
インク合成例1と同様の反応器内に、酢酸鉄(III)塩基性塩11.46部、酢酸ニッケル(II)無水物7.47部、溶媒としてのベンジルアルコール205部、および、添加剤としてのn−プロピルアミン11部を順次仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら25℃から昇温させ、110℃で30分間加熱保持した後、冷却することにより、Ni,Fe含有前駆体溶液(NiFe換算濃度3wt%、Ni/Fe=1/1(原子比))234部を得て、これをインクジェット用のインク(S5)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
【0072】
〔インク合成例6〕
インク合成例1と同様の反応器内に、ルテニウム(III)トリスアセチルアセトナート20部、溶媒としてのベンジルアルコール196.6部、および、添加剤としての酢酸6部を順次仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら25℃から昇温させ、140℃で20分間加熱保持した後、冷却し、その後、2−ブトキシエタノール222.6部を添加混合することにより、Ru含有前駆体溶液(RuO換算濃度1.5wt%)445部を得た。得られた溶液を2−プロパノールでRuO換算濃度0.5wt%となるように希釈して、これをインクジェット用のインク(S6)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
【0073】
〔インク合成例7〕
インク合成例6と同様にして、Ru含有前駆体溶液(RuO換算濃度1.5wt%)445部を得た。得られた溶液に同量の2−プロパノールを加えてRuO換算濃度0.75wt%となるように希釈して、これをインクジェット用のインク(S7)とした。
〔実施例1〕
1)インクジェット描画装置(その1)を用い、そのインクボトルにインク(S1)を仕込んだ。
2)基材ホルダー上にガラス基板を固定し、予め表面温度が150℃となるように加熱保持しておいた。
【0074】
3)ガラス基板表面とインクジェットヘッドとの距離を10mmに固定した。
4)インクジェットヘッドを速度360mm/秒で長さ180mmの間隔を往復移動させながら、インクボトルからの供給速度が1mL/分となるようにインク(S1)を送液し、噴射ノズルからガラス基板上に吐出させた。なお、往復回数は100回とし、噴射ノズルからのインク(S1)の吐出は、長さ180mmの移動距離のうち、長さ20mmの特定部分のみに対し、往路か復路のいずれか一方のみで行うようにした。
このように1)〜4)の工程を経て、ガラス基板表面に、長さが20mm、幅が7mmの長方形の膜が形成された基板(膜付きガラス基板)を得た。
【0075】
得られたパターン膜付きガラス基板の膜部分の外観は、僅かに白濁していたがほぼ透明であり、膜部分の厚みは8μmであった。図4に、膜付きガラス基板の表面と断面のSEM像を示す。また、膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、酸化セリウム(IV)(CeO)結晶が形成されていることが確認された。
〔比較例1〕
実施例1において、2)の工程でガラス基板を予め加熱保持しておかず、4)の工程後にガラス基板を150℃の加熱炉中で180分間加熱した以外は、同様にして、膜付きガラス基板膜を得た。得られた膜付きガラス基板の膜部分の形状は不定形状に広がったものであり、膜部分の外観は白濁しており、膜部分の厚みは0.6μmであった。
【0076】
得られた膜付きガラス基板の膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、酸化セリウム(IV)結晶に帰属される回折ピークは認められなかった。
〔比較例2〕
ガラス基板の表面に、インク(S1)をバーコーターで塗布し、常温で乾燥させた後、300℃の加熱炉中で10分間加熱することにより、膜付きガラス基板を得た。得られた膜付きガラス基板の膜部分の外観は白濁しており、その表面は粉状となっていて、ガラス基板への密着性が低く、容易に剥がれてしまうものであった。
得られた膜付きガラス基板の膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、酸化セリウム(IV)結晶に帰属される回折ピークは認められなかった。
【0077】
〔実施例2〜6〕
実施例1において、インクおよび基材の種類ならびに成膜諸条件を、表1に示すようにした以外は、同様にして、各種膜付き基材を得た。得られた各パターン膜付き基材の膜部分の、外観の評価および厚み、長さおよび幅を表1に示す。
実施例3〜6で得られた膜付き基材それぞれについて、その膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、表1に示す金属酸化物結晶が形成されていることが確認された。
実施例2で得られた膜付き基材についても、その膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、アナタース型TiOに帰属される回折パターンが認められたが、回折ピークがブロードであったため、念のためラマン分光測定を行った。その結果、アナタース型TiO結晶が形成されていることが確認された。
【0078】
表1には、実施例3、4の膜について、それぞれの表面抵抗を調べた結果も示されている。
【0079】
【表1】

【0080】
〔実施例7〕
1)インクジェット描画装置(その2)を用い、そのインクボトルにインク(S7)を仕込んだ。
2)基材ホルダー上にガラス基板を固定し、予め表面温度が260℃となるように加熱保持しておいた。なお、このガラス基板は、その表面に、幅1mm、長さ10mmの銀製の2つの配線電極が、配線の長さ方向に1mmの間隔を設けて形成されてなる、配線電極付きガラス基板であり、テスターにより測定した各配線電極自体の抵抗はそれぞれ3Ωであり、配線電極間は導通がなく1MΩ以上であった。
【0081】
3)ガラス基板表面とインクジェットヘッドとの距離を10mmに固定した。
4)インクジェットヘッドの位置(噴射ノズル先端の位置)が、ガラス基板における一方の配線電極の、より他方の配線電極に近い方の端から0.5mm内側の位置(これを基準位置(0,0)とする。)の真上になるよう、基材ホルダーを移動させて調整した。
5)インク(S7)の吐出を開始し、該開始と同時に、インクジェットヘッドの位置が基準位置上から上記他方の配線電極上へと移っていくよう基材ホルダーを0.4mm/秒の速度で移動させ始め(この移動方向をX軸方向とする。)、5秒後に停止させる(合計移動距離2mm)とともにインク(S7)の吐出も終了した。この移動の間、インクの吐出は断続的に行うようにし、具体的には、基材ホルダーが30μm移動する毎にインクを1回吐出させるようにした(1回の吐出量:200ピコリットル)。その後、インクジェットヘッドの位置が、吐出開始時の位置(基準位置)上に戻るよう基材ホルダーを移動させた。以上のように、インクの吐出開始からインクジェットヘッドの位置を戻すまでの操作を、1サイクルとする。
【0082】
6)1サイクル目終了後、インクジェットヘッドの位置が、基準位置上から、X軸方向に対し垂直な方向(Y軸方向)に30μmずれるよう基材ホルダーを移動させた。この移動後の、インクジェットヘッドの位置を、位置(0,1)とする。基準位置(0,1)から、上記5)の工程と同様にして、2サイクル目の操作を行った。
7)その後、上記6)と同様の工程を繰り返して、nサイクル目(位置(0,n−1)から吐出開始するサイクル)の操作まで行った。
このように1)〜7)の工程を経て、ガラス基板表面の両配線電極間に、長さが約2mmで、サイクル数に応じた幅を有する長方形の膜が形成された基板(膜付きガラス基板)を得た。
【0083】
得られたパターン膜付きガラス基板の膜部分の外観は、黒色の線状であった。また、n≦100の膜では面積的にX線回折測定が困難であったため、n=500の膜を作製して、その膜について、膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、酸化ルテニウム(RuO)結晶が形成されていることが確認された。
次に、両配線電極間の抵抗値(配線電極自体の抵抗値(3Ω)も含む。)を測定した。その結果を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
〔実施例8〕
実施例7において、インク(S7)の代わりにインク(S1)を用い、ガラス基板の代わりに金属シリコン基板を用い(ただし、配線電極は同様に設置)、予め基板の表面温度が150℃となるように加熱保持しておいた以外は、同様にして、金属シリコン基板表面の両配線電極間に、長さが約2mmで、サイクル数に応じた幅を有する長方形の膜が形成された基板(膜付き金属シリコン基板)を得た。
得られたパターン膜付き金属シリコン基板の膜部分の外観は、半透明の線状であった。また、n=500の膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、酸化セリウム(IV)結晶が形成されていることが確認された。
【0086】
以下の実施例9〜11は、複数種類のインクを別ノズルから同時供給することにより、複合酸化物を得た例である。
〔実施例9〕
インク供給ラインの数を60本とし、そのうちの10本は過酸化水素水(H含有量0.5重量%)を仕込んだインクボトルをインク供給源とし、残る50本はインク合成例1で得られたインク(S1)を仕込んだインクボトルをインク供給源とするようにした以外は、実施例1と同様にした。
得られたパターン膜付き基板における膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、酸化セリウム(IV)結晶が形成されていることが確認された。酸化セリウムに帰属されるX線回折ピークは、実施例1で得られた膜付き基板における膜部分のX線回折ピークに比べてシャープであり、結晶性に優れるものであることが確認された。
【0087】
〔実施例10〕
インク供給ラインの数を60本とし、そのうちの40本は後で述べる合成例8で得られたインク(S8)を仕込んだインクボトルをインク供給源とし、10本は後で述べる合成例9で得られたインク(S9)を仕込んだインクボトルをインク供給源とし、残る10本は後で述べる合成例10で得られたインク(S10)を仕込んだインクボトルをインク供給源とするようにした以外は、実施例5と同様にした。
得られたパターン膜付き基板における膜部分の薄膜X線回折測定を行ったところ、Co、NiまたはFeの単一酸化物に帰属される回折ピークは観測されず、フェライトに帰属される回折パターンが得られ、膜部分の組成分析を行った結果、Co:Ni:Feが原子比で1:1:4からなることが確認され、膜の組成がCo0.5Ni0.5O・Feであることが確認された。
【0088】
〔実施例11〕
60本のインク供給ラインのうち、40本はインク(S8)を仕込んだインクボトルをインク供給源とし、5本はインク(S9)を仕込んだインクボトルをインク供給源とし、残る15本はインク(S10)を仕込んだインクボトルをインク供給源とするようにした以外は、実施例10と同様にした。
得られたパターン膜付き基板における膜部分の薄膜X線回折測定を行ったところ、Co、NiまたはFeの単一酸化物に帰属される回折ピークは観測されず、フェライトに帰属される回折パターンが得られ、膜部分の組成分析を行った結果、Co:Ni:Feが原子比で3:1:5からなることが確認され、膜の組成がCo0.75Ni0.25O・Feであることが確認された。
【0089】
〔インク合成例8〕
合成例1と同様の反応器を用い、酢酸鉄(III)塩基性塩19部、溶媒としてのベンジルアルコール213部、添加剤としてのn−プロピルアミン18部を順次仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら、25℃から昇温し、110℃で30分間保持した後、冷却することにより、Fe含有前駆体溶液(Fe換算濃度:0.4モル/kg)250部を得た。この溶液をインクジェット用のインク(S8)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
〔インク合成例9〕
合成例1と同様の反応器を用い、酢酸ニッケル(II)4水和物25部、溶媒としてのエタノール213部、添加剤としてのn−プロピルアミン12部を、順次仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら、25℃から昇温し、110℃で30分間保持した後、冷却することにより、Ni含有前駆体溶液(Ni換算濃度:0.4モル/kg)250部を得た。この溶液をインクジェット用のインク(S9)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
【0090】
〔インク合成例10〕
合成例1と同様の反応器を用い、酢酸コバルト(II)無水物18部、溶媒としての1−プロパノール220部、添加剤としてのn−プロピルアミン12部を、順次仕込み、窒素雰囲気下、攪拌しながら、25℃から昇温し、110℃で30分間保持した後、冷却することにより、Co含有前駆体溶液(Co換算濃度:0.4モル/kg)250部を得た。この溶液をインクジェット用のインク(S10)とした。なお、得られた前駆体溶液中には微粒子状金属酸化物は認められなかった。
以下の実施例12〜13は、基板からの加熱による励起手段に併せて、別の励起手段を用いた例である。
【0091】
〔実施例12〕
実施例4において、基板をポリイミドに変更し、噴射ノズルからインクをガラス基板表面に向けて吐出させる間、赤外レーザー光(COガスレーザー、波長0.6μm、100W)をインク吐出部分に照射し続けるようにした以外は、実施例4と同様にして、パターン膜付き基材を得た。
得られた膜付き基板における膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、In結晶からなることが確認された。膜の表面抵抗を測定した結果、0.5×10Ω/□である(実施例4では1×10Ω/□:表1参照)ことが確認され、この膜が実施例4で得られた膜よりも導電性に優れていることが分かった。
【0092】
〔実施例13〕
実施例3において、噴射ノズルからインクをガラス基板表面に向けて吐出させる間、水銀ランプ(1000mJ/cm)からの光を基板全体に照射し続けるようにした以外は、実施例3と同様にして、パターン膜付き基材を得た。
得られた膜付き基板における膜部分の薄膜X線回折測定を行った結果、ZnO結晶からなることが確認された。膜の表面抵抗を測定した結果、5×10Ω/□である(実施例3では1×10Ω/□:表1参照)ことが確認され、この膜が実施例3で得られた膜よりも導電性に優れていることが分かった。
【0093】
以下の実施例14〜17と比較例3は、膜形成材料として金属酸化物前駆体以外の材料を使用した例である。
〔実施例14〕
実施例1において、インクを、Ag超微粒子粉末をエタノールに分散させてなるAg超微粒子分散体(Agの平均粒子径8nm、Ag換算濃度0.1wt%)に変更し、基材をポリイミドフィルムに変更するとともに、基材表面温度を180℃に、インクジェットヘッド往復回数を50回にそれぞれ変更する以外は、実施例1と同様にして、長さ20mm、幅7mmの長方形の膜が形成されたパターン膜付き基材を得た。
【0094】
得られた膜について、表面抵抗を測定したところ、10Ω/□以下であり、基材との密着性に優れるものであった。
〔比較例3〕
実施例14において、基材の加熱をせず(基材表面温度:25℃)、代わって、基材表面へのパターン付き塗布層形成後に塗装層から溶媒を除去するために100℃で加熱処理した以外は、実施例14と同様にして、パターン膜付き基材を得た。
得られた膜は、その長さと幅が、インクジェットヘッドの操作範囲である、長さ20mm、幅7mmに留まらず、長さ方向、幅方向ともに広がっているとともに、膜厚が不均一(幅方向両端近傍において膜厚が外側に向い次第に薄くなっている)であり、そのため、膜の表面抵抗値が測定中に大きくふれて安定せず、導電性被膜とはいえないものであった。得られた膜はまた、基材との密着性が低く、基材から容易に剥がれ落ちるものであった。
【0095】
〔実施例15〕
実施例1において、インクを、ZnO超微粒子粉末を1−ブタノールに分散させてなるZnO超微粒子分散体(平均粒子径10nm、ZnO換算濃度0.1wt%)に変更し、基材表面温度を400℃に変更する以外は、実施例1と同様にして、長さ20mm、幅7mmの長方形の膜が形成されたパターン膜付き基材を得た。
得られた膜は、紫外線吸収性、可視光透過性に優れる透明性の良好な、膜厚分布の均一な膜であった。
〔実施例16〕
実施例1において、インクを、Sn2wt%含有In(ITO)超微粒子がアクリル樹脂溶液に分散してなるITO超微粒子塗料(ITO平均粒子径25nm、ITO:アクリル樹脂(重量比)=7:2、固形分濃度0.1wt%、溶媒:トルエン−1−ブタノール混合溶媒)に変更し、基材表面温度を120℃に変更する以外は、実施例1と同様にして、長さ20mm、幅7mmの長方形の膜が形成されたパターン膜付き基材を得た。
【0096】
得られた膜は、ITO超微粒子がアクリル樹脂マトリクス中に分散してなる膜であり、可視光透過性、透明性および赤外線遮断性に優れ、膜厚分布が均一であり、表面抵抗が3×10の導電性に優れる膜であった。
〔実施例17〕
実施例1において、インクをアクリルエマルション(固形分濃度0.1wt%、溶媒:水)に変更する以外は、実施例1と同様にして、長さ20mm、幅7mmの長方形の膜が形成されたパターン膜付き基材を得た。
得られた膜は、アクリル樹脂からなる透明性に優れ、膜厚分布の均一な膜であった。
【0097】
以下の実施例18と実施例19は、噴射ノズルを複数備えたインクジェットヘッドを用いた例である。
〔実施例18〕
インクジェット装置(その1)として、孔径60μmの噴射ノズルが縦横とも間隔400μmで横方向に10個、縦方向に6個、合計60個並ぶインクジェットヘッドを備えたものを使用した。インクとして合成例1のインク(S1)を使用した。
表面温度を予め285℃に保持したガラス基板に対し、吐出速度360dpi(ドロップ/インチ)となるようインク供給速度とヘッド走査速度(走査速度としては40mm/秒以上)を制御して、横方向(X方向)に長さ20mmの間隔を往復移動させながら、インクを送液することにより、インクを噴射ノズルからガラス基板表面に吐出・供給させた。なお、往復回数は20回とし、噴射ノズルからのインクの吐出は往路一方のみで行うようにした。
【0098】
上記操作により、幅130μm、長さ20mmの線状の膜が一定間隔で6本並ぶパターンの膜付き基材を得た。
上記操作の後、基材表面のY方向に7mmずらした位置に、同様の操作で、同様の6本の膜パターンを得た。
次に、ヘッドの移動方向をY方向に変えて、同様の操作を行うことにより、幅130μmの膜が縦に形成されたパターンを有する膜付き基材を得た。得られた格子状パターン膜の光学顕微鏡像を図5の(a)、(b)に示す。
得られた膜について、ラマーンスペクトル解析を行った結果、膜の材質がCeOであることが確認された。
【0099】
〔実施例19〕
実施例18において、インクを合成例4で得られたインク(S4)に変えるとともに、基板表面温度を250℃に変える以外は、実施例18と同様にして、幅130μm、長さ20mmの膜が格子状に形成されたパターン膜付き基材を得た。
得られた膜は、電子線回折と元素分析の結果から、SnをInに対し5原子%含有するIn結晶膜であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のパターン膜形成方法は、例えば、高誘電体素子膜および抵抗体素子膜等の電子回路用素子膜(薄膜素子)や透明電極等の電子回路となる各種金属酸化物パターン膜その他のパターン膜を、ポリイミドやポリエステル等からなる樹脂フィルム基材その他の基材表面に形成する方法として好適である。
本発明にかかるパターン膜形成装置およびインクは、上記本発明の方法の実施に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】ノズルからのインクの供給方式を示すものであって、(a)はインクをノズルから直ぐに基材に接触させる方式であり、(b)はインクをノズルから微細液滴状に飛ばして基材表面に着弾させる方式である。
【図2】本発明の方法の実施に用いる本発明の装置の一例を示す図である。
【図3】本発明の方法の実施に用いる本発明の装置の別の例の要部を示す図である。
【図4】実施例1で得られたパターン膜付きガラス基板の表面(a)と断面(b)のSEM像である。
【図5】実施例18で得られたパターン膜の一例を示す図であって、その(b)はその(a)を拡大したものである。
【符号の説明】
【0102】
1 噴射ノズル1aを有するインクジェットヘッド
2 インク
3 インクボトル
5 XYステージ
6 ヒーター付き基材ホルダー
7 基材
8 パターン
9 COレーザー照射手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に所望のパターンを有する膜を形成する方法であって、前記基材に熱を持たせた状態で、膜形成材料を含むインクをノズルから前記基材の表面に供給することで、前記基材の表面に所望のパターンを形成することを特徴とする、パターン膜形成方法。
【請求項2】
前記インクのノズルからの供給をインクジェット方式で行う、請求項1に記載のパターン膜形成方法。
【請求項3】
前記ノズルが複数系列あって、異なる種類の膜形成材料を含むインクを系列ごとに分けて供給させる、請求項1または2に記載のパターン膜形成方法。
【請求項4】
異なる種類の膜形成材料のうち、1つの種類が化学反応によりそれ自身が膜となってゆく材料であり、もう1つが反応促進剤である、請求項3に記載のパターン膜形成方法。
【請求項5】
前記基材上に形成された塗布層および/または膜に対し、基材から熱を与えると同時および/またはその後に光、熱、電磁波および超音波からなる群から選ばれる少なくとも1種を照射する、請求項1から4までのいずれかに記載のパターン膜形成方法。
【請求項6】
基材が樹脂フィルムである、請求項1から5までのいずれかに記載のパターン膜形成方法。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれかに記載のパターン膜形成方法の実施に用いる装置であって、膜形成材料を含むインクをノズルから基材表面に供給する手段と、前記基材を加熱する手段と、を備えることを特徴とする、パターン膜形成装置。
【請求項8】
前記基材とノズルの相対的な位置関係を制御する手段をも備える請求項7に記載のパターン膜形成装置。
【請求項9】
基材上に形成された塗布層および/または膜に対して光、熱、電磁波および超音波からなる群から選ばれる少なくとも1種を照射する手段をも備える、請求項7または8に記載のパターン膜形成装置。
【請求項10】
請求項1から6までのいずれかに記載のパターン膜形成方法の実施に用いる材料であって、膜形成材料を含むことを特徴とする、インク。
【請求項11】
請求項1から6までのいずれかに記載のパターン膜形成方法によって得られる、薄膜素子。
【請求項12】
請求項1から6までのいずれかに記載のパターン膜形成方法によって得られる、電子回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−500151(P2008−500151A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−547232(P2006−547232)
【出願日】平成17年5月25日(2005.5.25)
【国際出願番号】PCT/JP2005/010003
【国際公開番号】WO2005/115637
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】