説明

パターン表面をテンプレートとして用いる材料とその製法

本発明によれば、交互ライン状パターン表面上に、機能性化合物の層を有する異方性材料であって、交互ライン状パターン表面において、一方のラインが含フッ素化合物からなり、他方のラインが非フッ素化合物からなる異方性材料が得られる。特定の構造を有するフッ素化合物を表面処理剤として用いて作製したパターン表面をテンプレートとして用いると、機能性化合物溶液を塗布するプロセスにより、nm〜μmスケールオーダーの機能性化合物の構造体が作製できる。少なくとも一つの領域が特定の構造を有するフッ素化合物で表面処理されたパターン表面をテンプレートとして用いることにより、機能性化合物の特性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、パターン表面をテンプレートとして用いる材料とその製法に関する。
【背景技術】
G.M.Whitesidesら[Langmuir,10,1498(1994)]は、非フッ素系アルカンチオール(疎水領域)と末端カルボン酸変性アルカンチオール(親水領域)の交互ライン状パターン表面にKFe(CN)水溶液を塗布し、親水性領域の上にKFe(CN)が結晶化することを示した。しかし、この組み合わせのライン状パターンに、表面張力の低い機能性化合物の有機溶剤溶液を塗布すると、有機溶剤溶液がいずれの領域にも濡れるために、ライン状に機能性化合物を結晶化させることが難しい問題があった。
また、H.Sirringhausらは、ガラス基板上に高さ50nm、幅5μmの疎水性ポリイミドの仕切をつけ、仕切内にインクジェット法により導電性高分子水溶液を塗布し、幅10μmの導電性高分子薄膜を形成する技術を開発した。しかし、この方法は仕切をつけるためにプロセスが煩雑になる問題があった。
フルオロアルキルシランを表面処理剤として用いることにより、機能性液体に対する親和性が異なる領域を有するパターン表面を形成させ、その親和性の違いを利用して、親和性の高い領域に機能性液体を付与する技術が開示されている(特開2002−261048)。しかし、この文献においては、フルオロアルキルシランの詳細が全く記載されていない。一般化学工業で広く利用されるフルオロアルキルシランとして典型的なものは、直鎖パーフルオロアルキル基を含有する式:
2n+1CHCHSiCl (n=3−10)
で示される化合物であり[Langmuir,8,1195(1992)]、特にn=8,10の長鎖パーフルオロアルキル基のタイプが良く利用される。しかし、直鎖パーフルオロアルキルトリクロロシランで表面処理したパターン表面では、機能性液体の塗り分けが不明瞭であるという問題があった。
フッ素化合物で表面処理された基板上に有機半導体を付与することにより、有機半導体の性能を向上させる技術が開示されている(特開2000−307172、特開平7−206599、特開2001−94107)。しかし、これだけでは有機半導体の性能はわずかにしか向上しないという問題があった。
【発明の開示】
(発明が解決しようとする技術的課題)
本発明の課題は、簡単な有機溶剤系塗布プロセスで交互ライン状パターン構造を有する異方性材料を作製することを可能にすることである。この課題を達成するためには、テンプレートとして用いる基板表面で機能性化合物溶液が交互ライン状パターン構造を反映した濡れを発現する必要がある。すなわち、機能性化合物溶液が基板上で交互ラインの一方の領域に濡れ拡がった後、媒体が蒸発して、機能性化合物が交互ライン状に薄膜を形成する。
本発明のもう一つの課題は、表面自由エネルギーが異なる複数の領域から構成されるパターン表面をテンプレートとして用いて、機能性化合物溶液を塗布するプロセスにより、nm〜μmオーダーの機能性化合物の構造体を作製することである。
本発明の他の課題は、少なくとも一つの領域が、フッ素化合物で表面処理されたパターン表面に対し有機半導体などの機能性化合物を付与することにより、その機能性化合物の特性を向上させることである。
(その解決方法)
第1の要旨において、本発明は、交互ライン状パターン表面上に、半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物、サーモクロミック化合物の群からなる少なくともいずれか一つの機能性化合物の層を有する異方性材料であって、交互ライン状パターン表面において、一方のラインが含フッ素化合物またはシリコーンからなる第1成分からなり、他方のラインがそれ以外の化合物からなる第2成分からなる異方性材料を提供する。
第2の要旨において、本発明は、表面自由エネルギーが異なる複数の領域から構成されるパターン表面をテンプレートとして用いる以下の特徴を有する機能性材料の製法であって、
(1) パターン表面の少なくとも一つの領域はフッ素化合物で表面処理されている。
(2) 製法が、パターン表面上に機能性化合物溶液を塗布し、溶媒を除去することからなる製法を提供する。
第3の要旨において、本発明は、フッ素化合物で表面処理された少なくとも1つの領域を有するパターン表面に対して機能性化合物を付与することを含んでなる、機能性材料の製法を提供する。
【図面の簡単な説明】
図1は、円形のフォトマスクを示す図である。
図2は、四角形のフォトマスクを示す図である。
図3は、三角形のフォトマスクを示す図である。
図4は、ライン状のフォトマスクを示す図である。
発明を実施するための形態
交互ライン状パターン表面上に、半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物、サーモクロミック化合物などの機能性化合物を有機溶剤に溶解させた溶液を塗布することにより、これらの機能性化合物が交互ライン状に薄膜を形成し、異方性材料(すなわち、機能性材料)が製造できる。
交互ライン状パターン表面において、一方のラインが含フッ素化合物またはシリコーンからなる第1成分から構成され、他方のラインがそれ以外の化合物からなる第2成分から構成される。
交互ライン状パターンを形成する基材の例は、シリコン、合成樹脂、ガラス、金属、セラミックスなどである。
合成樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれでもよく、例えば、ポリエチレン、ポロプロピレン、エチレン−プレピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルベンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオ共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプチレンテレフタレート(PBT)、プリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、エボキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイ等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば2層以上の積層体として)用いることができる。
ガラスとしては、例えば、ケイ酸ガラス(石英ガラス)、ケイ酸アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、鉛(アルカリ)ガラス、バリウムガラス、ホウケイ酸ガラス等が挙げられる。
金属としては、金、銀、銅、鉄、ニッケル、アルミニウム、白金等が挙げられる。
セラミックとしては、酸化物(例えば、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ケイ素、ジルコニア、チタン酸バリウム)、窒化物(例えば、窒化ケイ素、窒化ホウ素)、硫化物(例えば、硫化カドミウム)、炭化物(例えば、炭化ケイ素)等が挙げられ、これらの混合物を使用してよい。
いずれの基板を用いる場合でも、プラズマ処理やUV処理により基板表面に官能基を導入しても良い。
基材表面に交互ライン状パターンを作製するために使用する化合物は、有機シラン化合物、有機チオール化合物、有機ジスルフィド化合物、有機リン酸エステル化合物であって良い。すなわち、含フッ素化合物またはシリコーンのラインおよびそれ以外の化合物のラインは、有機シラン化合物、有機チオール化合物、有機ジスルフィド化合物、有機リン酸エステル化合物から製造することができる。
含フッ素化合物またはシリコーンで形成されたラインの表面自由エネルギーと、それ以外の化合物で形成されたラインの表面自由エネルギーとの差が、5mJ/m以上、例えば、10mJ/m以上、特に20mJ/m以上であることが好ましい。
交互ライン状パターンのライン幅は、0.5〜100μm、例えば、1〜20μmであって良い。ライン幅は等間隔であっても良いし、幅が変化しても良い。ラインの形状は直線でも曲線でも良い。
また、表面自由エネルギーが低い方のラインに表面自由エネルギーの傾斜をつけることにより、機能性化合物溶液がラインに沿って自発的に移動するようにしても良い。表面自由エネルギーの傾斜は、例えば、M.K.Chaudhuryら[Science,256,1539(1992)]の方法で作製できる。
交互ラインの凹凸は、機能性化合物溶液に親和性のある領域を凹ませて溝をつける方がライン状に濡れやすいことは言うまでもない。しかし、本発明では、意図的に凹凸をつけなくとも表面自由エネルギー差のみでライン状に濡れることを可能とする。単分子膜のみでパターン表面を作製する場合、凹凸は10nm以下、例えば2nm以下である。この凹凸は、ミクロンオーダーのライン幅と比較すると、ほとんど無視できる凹凸である。しかし、このような平滑な表面であるにも拘わらず、本発明においては、溝があるかのように、機能性化合物の溶液が交互ラインの一方の領域に濡れ拡がる。
本発明において、異方性材料を作製するテンプレートになるライン状パターン表面は、上から2μLのエタノールを静かに滴下したときにライン方向に縦長に歪むことが好ましい。その歪みの程度は、液滴の長軸方向の長さ(L)と短軸方向の長さ(W)の比L/Wが1.1以上、例えば1.2以上であることが好ましい。この条件を満たす場合、交互ライン状パターン表面で有機溶剤が交互ラインの一方の領域に濡れ拡がる傾向が顕著である。
テンプレートとして用いる交互ライン状パターン表面のいずれのラインも単分子膜であっても良いし、そうでなくともよい。
本発明の交互ライン状パターン表面は、フォトリソグラフィー、マイクロコンタクトプリンティング、自己組織化法、電子線照射法などの方法で作製されるが、特に方法は限定されない。例えば、杉村ら[Langmuir,16,885(2000)]は、シリコンウエハを基板とした有機シラン単分子膜にライン状フォトマスクを介して真空紫外光照射を行うと、照射部分は有機部分が光分解してシラノール基が形成され、有機シラン領域とシラノール基領域が交互に配列するライン状パターン表面が得られることを報告している。さらに、この表面に別の有機シランを化学吸着させると、選択的にシラノール基領域と反応し、複合単分子膜が得られる(フォトリソグラフィー法)。G.M.Whitesidesら[Langmuir,10,1498(1994)]は、シリコーンスタンプにアルカンチオールをインクとして付着させ、これを金基板にスタンプすることでライン状パターン表面が作製できることを報告している(マイクロコンタクトプリンティング法)。M.Gleicheら[″Nanoscopic channel lattices with controlled anisotropic wetting″,NATURE,403,13(2000)]は、水面上で展開した炭化水素系両親媒性物質であるジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)をある特定条件下で雲母基板上に転写すると自己組織的にDPPCと雲母が交互に配列したライン状パターン表面が作製できることを報告している。
交互ライン状パターンは、第1成分および第2成分からなる。
第1成分は、含フッ素化合物またはシリコーンである。第2成分は、含フッ素化合物およびシリコーン以外の他の化合物である。
含フッ素化合物は、たとえば、含フッ素有機シラン化合物、含フッ素有機チオール化合物、含フッ素有機ジスルフィド化合物、含フッ素有機リン酸エステル化合物などが挙げられる。
含フッ素化合物における含フッ素基の例としては、フルオロアルキル基(特に、パーフルオロアルキル基)、パーフルオロポリエーテル基などが挙げられる。含フッ素基における炭素数は、一般に、1〜20、例えば、1〜10である。
シリコーンは、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、シリコーンレジンなどが挙げられ、これらをフッ素変性しても良い。
含フッ素化合物およびシリコーン以外の他の化合物(第2成分)は、フッ素化またはシリコーン化されていない有機シラン化合物、有機チオール化合物、有機ジスルフィド化合物、有機リン酸エステル化合物であってよい。他の化合物は、フッ素原子を有さず、かつSiO結合を有しない化合物であってよい。
ライン状パターン表面の上に、機能性化合物の層を形成する。機能性化合物は、半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物またはサーモクロミック化合物である。
本発明において使用される機能性化合物は、半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物、サーモクロミック化合物の群からなる少なくともいずれか一つである。
半導体化合物としては、有機系が好ましく、例えば、ペンタセン誘導体、ポリチオフェン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリp−フェニレンビニレン、層状ヘロブスカイト化合物などが挙げられる。
導電性化合物としては、室温で10S/cm以上の導電性を有するものであり、有機系が好ましく、例えば、ポリアセチレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリピロール、ポリp−フェニレンビニレン、ポリアニリンなどが挙げられる。これらの化合物をドーピングすることにより導電性を向上しても良い。
フォトクロミック化合物としては、有機系が好ましく、例えば、アゾベンゼン誘導体、スピロピラン誘導体、フルギド誘導体、ジアリールエテン誘導体などが挙げられる。
サーモクロミック化合物とは、温度変化に伴って物質の色が可逆的に変化する化合物の総称であり、例えば、サリチリデンアニリン類、ポリチオフェン誘導体、テトラハロゲノ錯体、エチレンジアミン誘導体錯体、ジニトロジアンミン銅錯体、1,4−ジアザシクロオクタン(daco)錯体、ヘキサメチレンテトラミン(hmta)錯体、サルチルアルデヒド(salen)類錯体などが挙げられる。
機能性化合物の層の厚さは、0.1nm〜100μm、例えば、1nm〜1μmであってよい。
機能性化合物の層は、ライン状パターン表面の上に、機能性化合物を溶剤に溶解した溶液を塗布し、溶剤を除去することによって形成することができる。溶剤の例は、有機溶剤および水である。機能性化合物が水に難溶性の場合、有機溶剤に溶解させる必要がある。
本発明において、機能性化合物を溶解する溶剤は、表面張力30mN/m以下、例えば20mN/m以下である溶剤であることが好ましい。表面張力が30mN/m以下であることによって、溶液がラインにそって容易に濡れ拡がる。
有機溶剤としては、アルコール、エステル、ケトン、エーテル、炭化水素(例えば、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素)等が挙げられ、有機溶剤はフッ素化されていてもされていなくてもどちらでもよい。有機溶剤の具体例は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、パーフルオロデカリン、ハイドロフルオロエーテル、HCFC225、クロロホルム、1,1,2,2−テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、ヘキサン、イソペンタン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
溶液における機能性化合物の濃度は、0.1〜20重量%、例えば、1〜10重量であってよい。
溶剤の除去は、蒸発などによって行える。溶剤の除去は、異方性材料を、加熱(例えば、60〜200℃)することによって、行える。溶剤除去は、減圧(例えば、0.01〜100Pa)下で行ってもよい。
本発明において、機能性化合物溶液を塗布する方法は、スピンコート法、ディップコート法、キャスト法、ロールコート法、印刷法、転写法、インクジェット法[P.Calvert,Chem.Mater.,13,3299(2001)]、バーコード法、キャピラリー法などが挙げられる。
本発明の異方性材料(すなわち、機能性材料)は、電子デバイスとして、例えば、トランジスタ、メモリ、発光ダイオード(EL)、レーザー、太陽電池などに、また光学デバイスとして、例えば、光メモリ、画像メモリ、光変調素子、光シャッター、第二次高調波(SHG)素子、偏光素子などに使用できる。
また、本発明の第2の要旨において、フッ素化合物を表面処理剤として用いて作製したパターン表面をテンプレートとし、その上で機能性化合物溶液を塗布し、溶剤を除去する方法により、機能性材料が作製されることを見いだした。nm〜μmオーダースケール、例えば10nm〜100μm程度の大きさ(例えば、幅(特に、最大幅または最小幅)または直径)の機能性化合物の構造体である機能性材料が得られる。
この第2の要旨において、パターンの形状がラインに限定されないこと、機能性化合物が半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物、サーモクロミック化合物に限定されないこと、および、パターン表面を調製するためにフッ素化合物を用いること以外は、第1の要旨の説明と同じである。
パターン表面の形状は、最終的に製造する素子の目的に応じて適当なものを選択すれば良く、円、四角形、三角形、直線、曲線などが例示される。互いのパターンは接していても離れていても良い。パターン表面は、二種類以上の表面自由エネルギーが異なる領域から構成され、少なくとも一つの領域がフッ素化合物で表面処理されていることを特徴とする。
機能性化合物の例は、半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物、サーモクロミック化合物、磁性化合物、生理活性化合物である。
パターン表面を調製するためのフッ素化合物は、以下の特定の構造を有するフッ素化合物であることが好ましい。
(a)炭素数5以下の分岐構造フルオロアルキル基を有するフッ素化合物
(b)パーフルオロポリエーテル基を有するフッ素化合物
(c)炭素数5以下のフルオロアルキル基を有するモノマーを重合したポリマー構造を有するフッ素化合物
(d)炭素数5以下のフルオロアルキル基と官能基の間にウレタン基,エステル基,エーテル基,アミド基のいずれかである連結基が存在するフッ素化合物
(e)炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する不完全縮合シルセスキオキサン、および
(f)シラン基および炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する完全縮合シルセスキオキサン
である。
フッ素化合物におけるフルオロアルキル基は、パーフロオロアルキル基(炭素数1〜5)であってよい。
フッ素化合物としては、含フッ素有機シラン化合物、含フッ素有機チオール化合物、含フッ素有機ジスルフィド化合物、含フッ素有機リン酸エステル化合物などが挙げられる。
フッ素化合物は、官能基、例えば、シラン基(−SX(ここで、Xは、水素、ハロゲン原子または(炭素数1〜4の)オキシアルキル基))、チオール基(−SH)、ジスルフィド基(−S−S−)またはリン酸基(P(=O)(OH)3−n(O−)(ただし、nは1〜3)を有する。
炭素数5以下の分岐構造フルオロアルキル基を有するフッ素化合物(a)において、分岐構造フルオロアルキル基の例は、(CFCF−、(CFC−、(CFCFCFCF−および(CFCCF−である。フッ素化合物(a)は、分岐構造フルオロアルキル基および官能基(例えば、シラン基)を有する化合物である。
フッ素化合物(a)の例としては、次のものが例示される。
(CFC−A−SiX
(CFC−A−SH
(CFCFCFCF−A−SiX
(CFCFCFCF−A−SH
(CFCFO−A−SiX
(CFCFO−A−SH
[式中、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である)または−CHCH(OH)CH−基であり、
Xはハロゲン原子(例えば、塩素原子)、または、OC2n+1(n=1〜4)である。]
具体的には、
(CFC−CHCH−SiCl
(CFC−SON(C)CHCH−SiCl
(CFC−CHCH−SH
(CFCFCFCF−CHCH−Si(OCH
(CFCFCFCF−CHCH−SH
(CFCFO−CHCH−Si(OCH3)
(CFCFO−CHCH−SH
などが例示される。
パーフルオロポリエーテル基を有するフッ素化合物(b)において、パーフルオロポリエーテル基の例は、
2a+1O(CFCFCFO)(CF
2a+1O(CFCF(CF)O)(CF
2a+1O(CFCFCFO)(CFO)(CF−および
2a+1O(CFCF(CF)O)(CFO)(CF
[パーフルオロポリエーテル基の分子量は300以上、好ましくは500以上であり、100000以下、例えば、5000以下であり、mおよびnは1〜100、好ましくは20〜40を表わし、aは1〜10を表わし、lは1または2を表わす。]
である。フッ素化合物(b)は、パーフルオロポリエーテル基および官能基(例えば、シラン基)を有する化合物である。
フッ素化合物(b)としては次のものが例示される。
PFPE−A−SiX
PFPE−A−SH
[式中、PFPEは、パーフルオロポリエーテル基、
Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である)または−CHCH(OH)CH−基であり、
Xはハロゲン原子(例えば、塩素原子)、または、OC2n+1(n=1〜4)である。]
具体的には、
PFPE−CHCH−Si(OCH
PFPE−SON(C)CHCH−Si(OCH
PFPE−CHCH−SH
などが例示される。
炭素数5以下のフルオロアルキル基を有するモノマーを重合したポリマー構造を有するフッ素化合物(c)において、炭素数5以下のフルオロアルキル基の例は、CF−、CFCF−、CFCFCF−、(CFCF−、CFCFCFCF−、(CFCFCF−、(CFC−、CFCFCFCFCF−、(CFCFCFCF−および(CFCCF−である。フルオロアルキル基を有するモノマーは、フルオロアルキル基および炭素−炭素二重結合を有する化合物である。フルオロアルキル基を有するモノマーは、フルオロアルキル基含有ビニルモノマーであってよい。
フルオロアルキル基含有ビニルモノマーは、フルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートや、フルオロアルキル基を有するα位が、ハロゲン原子、CF、CFHまたはCFHに置換されたアクリレートであってよい。
フルオロアルキル基含有アクリレートは、次の一般式で表されるものであってよい。
Rf−A−OC(=O)CR=CH
[式中、Rfは炭素数1〜5の直鎖又は分枝鎖のフルオロアルキル基、
は水素原子、F原子、Cl原子、CF基、CFH基、CFH基またはメチル基、Aは2価の有機基である。]
Aの例は、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である)または−CHCH(OH)CH−基である。
フルオロアルキル基含有アクリレートとしては、例えば以下のものを例示できる。


[式中、Rfは炭素数1〜5のフルオロアルキル基、Rは水素または炭素数1〜10のアルキル基、Rは炭素数1〜10のアルキレン基、Rは水素原子、F原子、Cl原子、CF基、CFH基、CFH基またはメチル基、Arは置換基を有することもあるアリーレン基、nは1〜10の整数である。]
炭素数5以下のフルオロアルキル基を有するモノマーを重合したポリマー構造の例は、次のとおりである。
−(Rf−A−OCOCRCH
[式中、Rf、A、Rは、上記と同意義であり、nは1〜200、特に2〜100である。]
フッ素化合物(c)としては、次のものが例示される。
Polymer−D−SiX
Polymer−D−SH
[式中、Polymerは、炭素数5以下のフルオロアルキル基を有するモノマーを重合したポリマー構造基を表し、
Dは、Sと炭素数1〜4の二つのアルキレン基に挟まれたウレタン基が連結した2価の基を表し、例えば、−S(CHOCONH(CH−であり、
Xはハロゲン原子(例えば、塩素原子)、または、OC2n+1(n=1〜4)である。]
具体的には、
H(Rf−A−OCOCHCH−CHCH−Si(OCH
H(Rf−A−OCOCHCHCl)−CHCH−Si(OCH
H(Rf−A−OCOCHCHF)−CHCH−SiCl
H(Rf−A−OCOCClCH−CHCH−Si(OCH
H(Rf−A−OCOCFCH−CHCH−SiCl
などが例示される。
炭素数5以下のフルオロアルキル基と官能基の間にウレタン基,エステル基,エーテル基,アミド基のいずれかである連結基が存在するフッ素化合物(d)において、炭素数5以下のフルオロアルキル基の例は、フッ素化合物(c)におけるのと同様のものである。
フッ素化合物(d)としては、次のものが例示される。
Rf−A−OCONH−A’−SiX
Rf−A−OCONH−A’−SH
Rf−A−NHCOO−A’−SiX
Rf−A−NHCOO−A’−SH
Rf−A−OCO−A’−SiX
Rf−A−OCO−A’−SH
Rf−A−COO−A’−SiX
Rf−A−COO−A’−SH
Rf−A−O−A’−SiX
Rf−A−O−A’−SH
Rf−A−CONH−A’−SiX
Rf−A−CONH−A’−SH
Rf−A−NHCO−A’−SiX
Rf−A−NHCO−A’−SH
[式中、Rfは炭素数5以下のフルオロアルキル基を表し、
A、A’は、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である。)または−CHCH(OH)CH−基であり、
Xはハロゲン原子(例えば、塩素原子)、または、OC2n+1(n=1〜4)である。]
具体的には、
Rf−CHCH−OCONH−CHCHCH−(OCH
Rf−CHCH−OCONH−CHCHCH− −SH
Rf−CHCH−NHCOO−CHCHCH−(OCH
Rf−CHCH−NHCOO−CHCHCH−SH
Rf−CHCH−OCO−CHCHCH−SiCl
Rf−CHCH−OCO−CHCHCH−SH
Rf−CHCH−COO−CHCHCH−(OCH
Rf−CHCH−COO−CHCHCH−SH
Rf−CHCH−O−CHCHCH−SiCl
Rf−CHCH−O−CHCHCH−SH
Rf−CHCH−CONH−CHCHCH−SiCl
Rf−CHCH−CONH−CHCHCH−SH
Rf−CHCH−NHCO−CHCHCH−SiCl
Rf−CHCH−NHCO−CHCHCH−SH
などが例示される。
炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する不完全縮合シルセスキオキサン(e)において、炭素数5以下のフルオロアルキル基の例は、フッ素化合物(c)におけるのと同様のものである。不完全縮合シルセスキオキサン(e)は、一般式:
[R−Si(OH)O2/2[R’−SiO3/2
[式中、R、R’はRf、Rf−A、アルキル基(炭素数1〜22)、または、アルキル基(炭素数1〜22)の誘導体を表す(ただし、RおよびR’の少なくとも1つはRfまたはRf−Aである。)(ここでRfは炭素数5以下のフルオロアルキル基を表し、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である)または−CHCH(OH)CH−基である。)。
lおよびmは、不完全縮合シルセスキオキサンの分子量が500〜100000となるような数である。]
で例示されるものである。シルセスキオキサンはPOSS(Polyhedral Oligomeric Silsesquioxane)とも呼ばれる。不完全縮合シルセスキオキサンのシラノール基は反応性が高く、基板の活性OH基と強固に結合する。シラノール基は分子中に1〜3個存在する。1は一般に1〜3である。mは一般に1以上、例えば、2以上、特に3以上である。
不完全縮合シルセスキオキサン(e)の具体例は、

、Aldrich製POSS Silanols 54,456−6などである。
シラン基および炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する完全縮合シルセスキオキサン(f)において、シラン基は、−SX基(Xはハロゲン原子(例えば、塩素原子)、または、OC2n+1(n=1〜4)である。)である。炭素数5以下のフルオロアルキル基の例は、フッ素化合物(c)におけるのと同様のものである。
完全縮合シルセスキオキサン(f)は、一般式:
[R−SiO3/2[R’−SiO3/2
[式中、Rは、Rf、Rf−A、アルキル基(炭素数1〜22)、または、アルキル基(炭素数1〜22)の誘導体を表す(ただし、Rの少なくとも1つはRfまたはRf−Aである。)(ここでRfは炭素数5以下のフルオロアルキル基を表し、Aは、炭素数1〜4のアルキレン基、−SON(R21)R22−基(但し、R21は炭素数1〜4のアルキル基、R22は炭素数1〜4のアルキレン基である)または−CHCH(OH)CH−基である。)。
R’は、SiXを含む有機基、例えば、−(CHSiX(nは1〜10)であり、
lおよびmは、完全縮合シルセスキオキサンの分子量が500〜100000となるような数である。]
lおよびmは、一般に1以上である。
完全縮合シルセスキオキサン(f)は、不完全縮合シルセスキオキサン(e)とビスシランを縮合することによって得ることができる。ビスシランの例は、
bis−(triethoxysilyl)ethane
bis−(triethoxysilylpropyl)amine
bis−(trimethoxysilylpropyl)tetrasulfide
である。
完全縮合シルセスキオキサン(f)は、具体的には、

[式中、Xは、ハロゲン原子(例えば、塩素原子)、または、OC2n+1(n=1〜4)である。]
が例示される。
また、本発明の第3の要旨において、少なくとも一つの領域がフッ素化合物で表面処理されたパターン表面をテンプレートとし、その上で有機半導体などの機能性化合物を付与することにより、機能性材料が得られる。こうして、機能性化合物の特性を向上できる。
この第3の要旨において、パターン表面に対する機能性化合物の付与方法を塗布処理に限定しないこと以外は、第2の要旨の説明と同じである。
パターン表面に対する機能性化合物の付与方法は、機能性化合物とパターン表面を接触させる方法であれば、固相、液相、気相を問わず、機能性化合物の特性を最大限に向上できる方法を適宜選択すれば良い。例えば、付与方法としては、摩擦転写法、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法、ディップ法、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
パターン表面の全面に機能性化合物が付与された場合でも、フッ素化合物で表面処理された領域とそれ以外の領域では、機能性化合物薄膜の構造に差が生じ、それが原因で機能性化合物の特性を極大化させ得る。
発明の好ましい態様
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
1.交互ライン状パターン表面の一方に含フッ素化合物を用いた実験例
●交互ライン状パターン表面の作製
シリコンウエハを、アセトンで洗浄した後、さらに過酸化水素水/濃硫酸=3/7(体積比)中で110℃、1時間加熱して表面を水酸基で終端化する。このシリコンウエハに第一成分の有機シランを化学吸着させる。直線ライン状フォトマスク(ライン幅:0.1μm、1μm、5μm、10μm)を介して真空紫外光(172nm)照射を行うと、照射部分は有機部分が光分解してシラノール基が形成され、有機シラン領域とシラノール基領域が交互に配列するライン状パターン表面が得られる。この表面に第二成分の別の有機シランを化学吸着させると、選択的にシラノール基領域と反応し、複合単分子膜が得られる。以上の方法により、フルオロアルキル基(C13)、アルキル基(C1021およびC1837)、シラノール基(SiOH)、スルホン酸(SOH)の各種組み合わせから成るパターン表面を作製した。
以下、各表面を次のように省略する。C13 → Rf、C1021 → Rh(C10)、C1837 → Rh(C18)、SiOHとSOHは省略せずにそのまま用いる。
各表面を作製するために用いた試薬は、Rfはパーフルオロヘキシルエチルトリメトキシシラン(Fluorochem製)、Rh(C18)はn−オクタデシルトリメトキシシラン(チッソ製)、Rh(C10)はn−デシルトリエトキシシラン(チッソ製)である。なお、SOHはγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(チッソ製)を化学吸着後に、UV光(254nm)を10時間照射し、末端SH基をスルホン酸基に光酸化した。
目的のパターンの形成は水平力顕微鏡で確認した。
●単独単分子膜の表面自由エネルギーの測定方法
パターニング表面ではない単独単分子膜の表面自由エネルギーを、水とヨウ化メチレンの接触角をD.K.Owensの式[J.Applied Polym.Sci.,13,1741(1969)]に代入することで求めた(表1)。

●製造したパターン表面
表2に示すパターン表面を製造した。「パターンの組み合わせ」は「第一成分/第二成分」の順に表示した。「表面自由エネルギーの差」は表1で求めた単独単分子膜の表面自由エネルギーの差である。「ライン幅」は水平力顕微鏡で測定した。「交互ラインの凹凸」は第一成分の分子長と第二成分の分子長の差を示し、原子間力顕微鏡で測定した。「エタノール液滴(2μL)のL/S」はパターン表面上から2μLのエタノールを静かに滴下したときの歪みの程度を、液滴の長軸方向の長さ(L)と短軸方向の長さ(W)の比L/Wとして表現したものである。「n−ヘキサデカンの交互ライン状の濡れ」は、1%エタノール溶液をスピンコート(2000rpm)し、光学顕微鏡で観察した。n−ヘキサデカンがライン状に濡れ拡がった領域と何も存在しない領域が交互に形成された場合を○とし、n−ヘキサデカンが不定形に濡れ拡がった場合を×とした。

実施例1〜5および比較例1〜4
表2に示すパターン表面をテンプレートとし、この上に表3に示す1重量%に調整した機能性化合物溶液を塗布した。スピンコートは2000rpmで行い、ディップコートは溶液面に対してパターンのラインが垂直となる方向に基板を固定し、1mm/sで浸漬−引き上げを行った。

表3に示す機能性材料は次のとおりである。
ポリ(ジオクチルフルオレン): アメリカンダイソース社製ADS129BE。
ポリ(3−ヘキシルチオフェン): Rieke Metals社製(Aldrich Product No.44570−3)のhead−to−tail regiospecific 98.5%以上のもの。
6Az10−PVA: ポリビニルアルコール側鎖にアゾベンゼンを導入した下記の構造を有するものであり、T.Sekiら[J.Phys.Chem.B,103,10338(1999)]の方法で合成したもの。

N−(5−クロロ−2−ヒドロキシベンジキデン)−アニリン: Konawaら[J.Am.Chem.Soc.,120,7107(1998)]の方法で合成したもの。
本発明の実施例1〜5では、テンプレートとして用いたパターン表面上に機能性化合物が交互ライン状に薄膜(膜厚120nm)を形成していることを光学顕微鏡と原子間力顕微鏡で確認した。一方、比較例1〜4では、機能性化合物がライン状とならず基板全面を覆う均一な薄膜(膜厚140nm)を形成した。
2.交互ライン状パターン表面の一方にシリコーンを用いた実験例
製造例6および実施例6
T.Dengら[Langmuir,18,6720(2002)]の方法で表面をフッ素樹脂でコーティングしたライン幅5μmのスタンプを作製した。このスタンプに0.5重量%ジメチルポリシロキサン(100cSt)/トルエン溶液を付着し、ガラス基板上に塗布した。交互ライン状パターンの形成を原子間力顕微鏡で確認した結果、5μm幅のジメチルポリシロキサン薄膜が形成されており、膜厚は50nmであった。このパターン表面上に、1重量%Sodium Poly[2−(3−thienyl)ethyloxy−4−butylsulfonate](アメリカンダイソース社製ADS2000P)水溶液をスピンコート(2000rpm)した。パターン表面上にADS2000Pが交互ライン状に薄膜(膜厚170nm)を形成していることを蛍光顕微鏡と原子間力顕微鏡で確認した。
3.種々の形状のパターン表面の一方に特定の構造のフッ素化合物を用いた実験例
製造例7〜17および比較製造例5
製造例1と同様のシリコンウエハに、表4のフッ素系有機シランを、以下の方法により液相中で化学吸着させた。有機シランを可溶な脱水有機溶媒で1重量%となるように希釈し、その溶液中でシリコンウエハを1時間浸漬した。浸漬後に、同じ有機溶媒で洗浄し、大気中で乾燥することによりフッ素系有機シランの単独単分子膜を調製した。表4には、パターン表面ではない単独単分子膜の接触角と表面自由エネルギーも示した。

次に、図1〜4に示す形状(円、四角形、三角形、ライン)のフォトマスクを介して真空紫外光(波長172nm)を照射することにより、照射部分にシラノール基を形成させた。図1〜4において、暗い部分がマスクされた領域である。製造したパターン表面を表5に示す。目的のパターンの形成は電界放出走査型電子顕微鏡(FE−SEM)で確認した。

実施例7〜17および比較例5
表5に示すパターン表面をテンプレートとし、この上に表6に示す1重量%に調整した機能性化合物溶液を塗布した。スピンコートは2000rpmで行い、ディップコートは1mm/sの速度でパターン表面を引き上げた。

本発明の実施例7〜17では、テンプレートとして用いたパターン表面上に機能性化合物の薄膜がパターン表面の形状通りに形成されていることを光学顕微鏡と原子間力顕微鏡で確認した(膜厚150nm)。薄膜はSiOH領域のみに形成された。一方、比較例5では、機能性化合物がパターン表面の形状とは無関係に基板全面を覆う均一な薄膜(膜厚140nm)を形成した。
4.ライン状のパターン表面の一方にRf−POSS1を用いた実験例
実施例18および比較例6
製造例1と同様のシリコンウエハに、表4のフッ素系有機シランRf−POSS1を、製造例7と同じ方法により液相中で化学吸着させた。次に、図4に示すライン状のフォトマスクを介して真空紫外光(172nm)を照射することにより、照射部分にシラノール基を形成させた。目的のパターンの形成はFE−SEMで確認した。実施例18は、このパターン表面上に自作のインクジェット装置で1wt%ポリ(3−ヘキシルチオフェン)溶液を滴下した。インクジェットの条件は、オンデマンド方式により、一滴ずつ直径数十μmの微小液滴を調製し、1mm間隔で滴下した。比較例6はライン幅10μmのRh(C10)/SO3H(表2の比較製造例2)に実施例18と同じ方法でインクジェットにより微小液滴を滴下した。光学顕微鏡でパターン表面上に製膜したポリ(3−ヘキシルチオフェン)薄膜の形状を観察した結果、実施例18は10μmのラインの形状を忠実に反映したライン状の薄膜が形成された。薄膜はSiOH領域のみに形成された。一方、比較例6では、パターン表面のラインとは無関係な直径100μm程度の円状の薄膜が形成された。
5.種々の形状のパターン表面の一方に特定の構造のフッ素化合物を用いた実験例
実施例19および比較例7
製造例1と同様のシリコンウエハに、表4のフッ素系有機シランRf−POSS1を、製造例7と同じ方法により液相中で化学吸着させた。次に、図4に示すライン状のフォトマスクを介して真空紫外光(172nm)を照射することにより、照射部分にシラノール基を形成させた。目的のパターンの形成はFE−SEMで確認した。実施例19は、このパターン表面をテンプレートとし、この上にペンタセンを蒸着した(膜厚150nm)。一方、比較例7は、未処理シリコンウエハにペンタセンを蒸着した(膜厚160nm)。いずれの場合も、基板温度を200℃にして蒸着した。
基板上に、金属蒸着マスクをおいて、真空蒸着法によりソース電極及びドレイン電極を金で作製した。ソース・ドレイン電極は基板のラインと垂直になるように配置した。金蒸着膜の膜厚は100nmにした。ソース電極とドレイン電極間の距離(チャネル長)はL(=10μm)、ソース、ドレイン電極の長さ(チャネル幅)はW(=10mm)とした。次に、シリコンウエハの裏面にゲート電極取り出し用Al薄膜を蒸着することにより、ペンタセン蒸着膜を用いた有機TFTを作製した。
パターン表面を基板としたときの移動度は0.13cm/Vsであり、一方、未処理シリコンウエハを基板としたときの移動度は0.005cm/Vsであった。
【発明の効果】
本発明によれば、簡単な塗布プロセスによって、交互ライン状パターン構造を有する異方性材料を作製できる。
本発明では、簡単な塗布プロセスによって、nm〜μmスケールオーダーの機能性化合物の構造体が作製できる。
本発明では、少なくとも一つの領域が特定の構造を有するフッ素化合物で表面処理されたパターン表面をテンプレートとして用いることにより、機能性化合物の特性を向上させることができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互ライン状パターン表面上に、半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物、サーモクロミック化合物の群からなる少なくともいずれか一つの機能性化合物の層を有する異方性材料であって、交互ライン状パターン表面において、一方のラインが含フッ素化合物またはシリコーンのいずれかである異方性材料。
【請求項2】
含フッ素化合物またはシリコーンからなるラインの表面自由エネルギーと、もう一方のラインの表面自由エネルギーとの差が、5mJ/m以上である請求項1に記載の異方性材料。
【請求項3】
交互ライン状パターンのライン幅が0.5〜100μmである請求項1に記載の異方性材料。
【請求項4】
交互ライン状パターンの凹凸が10nm以下である請求項1に記載の異方性材料。
【請求項5】
交互ライン状パターンの上から2μLのエタノールを静かに滴下したときに液滴の形状が歪み、その歪みの程度は、液滴の長軸方向の長さ(L)と短軸方向の長さ(W)の比L/Wが1.1以上である請求項1に記載の異方性材料。
【請求項6】
交互ライン状パターンが、有機シラン化合物、有機チオール化合物、有機ジスルフィド化合物、有機リン酸エステルから構成される請求項1に記載の異方性材料。
【請求項7】
一方のラインが含フッ素化合物またはシリコーンからなる交互ライン状パターン表面上に、半導体化合物、導電性化合物、フォトクロミック化合物、サーモクロミック化合物の群からなる少なくともいずれか一つの機能性化合物の溶液を塗布することからなる、異方性材料の製法。
【請求項8】
機能性化合物を溶解する液体が表面張力30mN/m以下の溶剤である請求項7に記載の製法。
【請求項9】
表面自由エネルギーが異なる複数の領域から構成されるパターン表面をテンプレートとして用いる以下の特徴を有する機能性材料の製法。
(1) パターン表面の少なくとも一つの領域はフッ素化合物で表面処理されている。
(2) 製法が、パターン表面上に機能性化合物溶液を塗布し、溶媒を除去することからなる。
【請求項10】
フッ素化合物が、以下の構造を有するフッ素化合物である請求項9に記載の製法。
(a)炭素数5以下の分岐構造フルオロアルキル基を有するフッ素化合物
(b)パーフルオロポリエーテル基を有するフッ素化合物
(c)炭素数5以下のフルオロアルキル基を有するモノマーを重合したポリマー構造を有するフッ素化合物
(d)炭素数5以下のフルオロアルキル基と官能基の間にウレタン基,エステル基,エーテル基,アミド基のいずれかである連結基が存在するフッ素化合物
(e)炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する不完全縮合シルセスキオキサン
(f)シラン基および炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する完全縮合シルセスキオキサン。
【請求項11】
請求項9の製法によって製造された機能性材料。
【請求項12】
フッ素化合物で表面処理された少なくとも1つの領域を有するパターン表面に対して機能性化合物を付与することを含んでなる、機能性材料の製法。
【請求項13】
フッ素化合物が、以下の構造を有するフッ素化合物である請求項12に記載の製法。
(a)炭素数5以下の分岐構造フルオロアルキル基を有するフッ素化合物
(b)パーフルオロポリエーテル基を有するフッ素化合物
(c)炭素数5以下のフルオロアルキル基を有するモノマーを重合したポリマー構造を有するフッ素化合物
(d)炭素数5以下のフルオロアルキル基と官能基の間にウレタン基,エステル基,エーテル基,アミド基のいずれかである連結基が存在フッ素化合物
(e)炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する不完全縮合シルセスキオキサン
(f)シラン基および炭素数5以下のフルオロアルキル基を有する完全縮合シルセスキオキサン。
【請求項14】
請求項12に記載の製法によって製造された機能性材料。

【国際公開番号】WO2004/027889
【国際公開日】平成16年4月1日(2004.4.1)
【発行日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−537592(P2004−537592)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011876
【国際出願日】平成15年9月18日(2003.9.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】