説明

パッカー一体型水理試験装置

【課題】ボーリング孔内の試験区間における試験装置周囲の空隙をごく僅かにすることを可能とする。
【解決手段】柱状のパッカー芯部材としてのパッカー芯金2と、該パッカー芯金2の外周面を覆い軸心方向の両端寄りの部分がパッカー芯金2に固定される筒状のパッカーラバー4と、を有し、パッカー芯金2の軸心方向の片端面からパッカー芯金2の外周面へと通じる通路2aによってパッカー拡張ラインを形成し、該パッカー拡張ラインを利用して拡張圧をかけ拡張させてパッカーラバー4を試錐孔21の孔壁21a周面に押し当てて両ピストン3A,3B周囲の水密性を確保して試験区間を形成すると共に試験ラインを介して水理試験を実施するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッカー一体型水理試験装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、地盤に穿たれたボーリング孔内において例えばトレーサ試験や採水等を行う際に用いて好適な装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤に穿たれたボーリング孔内においてトレーサ試験を行う際に用いられる従来の試験装置を用いたトレーサ試験方法としては、図6に示すように、地盤103にボーリング孔104を掘削すると共に試験対象となる亀裂面等の水みち105を決定し、当該水みち105を含むボーリング孔104の所定区間の上下をゴム製等の上遮水パッカー102A及び下遮水パッカー102Bを用いて閉塞して試験区間106を形成し、トレーサ試験装置101にまつわる水圧計や水質計等をボーリング孔104の試験区間106内に設置して試験を行うものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−250026号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の従来の試験装置を用いたトレーサ試験方法では、試験区間106の体積はボーリング孔104の径と試験装置101の外径とから決まり、試験区間106の体積を最小にしようとしても試験装置101を昇降させるために必要とされる孔径があるためにボーリング孔104の径と試験装置101の外径とを近づけるにも限界がある。地盤の割れ目を対象にした試験においては特に、図6に示すような従来の試験装置の場合には上遮水パッカー102Aと下遮水パッカー102Bとによって閉塞される試験区間106内の試験装置周囲の空隙107が大きくなってしまうと、トレーサ水や採水しようとする地下水が試験区間106内の地下水と直ぐには置換することができないので試験の精度や水質に影響を与えるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、ボーリング孔内の試験区間における試験装置周囲の空隙をごく僅かにすることができる水理試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するため、請求項1記載のパッカー一体型水理試験装置は、柱状のパッカー芯部材と、該パッカー芯部材の外周面を覆い軸心方向の両端寄りの部分が該パッカー芯部材に固定される筒状のパッカーラバーと、該パッカーラバーを貫通して取り付けられると共に該パッカーラバーの内側の部分がパッカー芯部材に設けられたピストン孔に摺動可能に嵌められ且つ該ピストン孔とパッカーラバー外部とを連通させる貫通孔が設けられたピストンとを有し、パッカー芯部材の軸心方向の片端面からピストン孔へと通じる通路とピストン孔とピストンの貫通孔とによって試験ラインを形成すると共に、パッカー芯部材の軸心方向の片端面からパッカー芯部材の外周面へと通じる通路によってパッカー拡張ラインを形成し、該パッカー拡張ラインを利用して拡張圧をかけ拡張させてパッカーラバーを試錐孔の孔壁周面に押し当ててピストン周囲の水密性を確保して試験区間を形成すると共に試験ラインを介して水理試験を実施するようにしている。
【0007】
したがって、このパッカー一体型水理試験装置によると、パッカーラバーに取り付けられると共にパッカー芯部材に設けられたピストン孔に嵌められ且つ試験ラインの一部を形成する貫通孔が設けられるピストンを有するようにしているので、試錐孔内の試験区間設定深度に設置された状態でパッカーラバーを拡張させることにより、試験に必要とされるポートとしてのピストンをパッカーラバーの拡張に合わせてピストン孔から抜き出るように稼働させて孔壁に押し当てることができると共にパッカーラバーを孔壁に押し当ててピストン周囲の水密性を確保して試験区間を形成することができる。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のパッカー一体型水理試験装置において、パッカーラバーの外周面に伸縮自在のメッシュ部材を装着するようにしている。この場合には、メッシュ部材を経由して試験流体が流動する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載のパッカー一体型水理試験装置によれば、試験に必要とされるポートとしてのピストンをパッカーラバーの拡張に合わせてピストン孔から抜き出るように稼働させて孔壁に押し当てることができると共にパッカーラバーを孔壁に押し当ててピストン周囲の水密性を確保して試験区間を形成することができるので、試錘孔内の試験区間における試験装置周囲の空隙をごく僅かにして試験の効率性と精度との向上を図ることが可能になる。また、請求項1記載のパッカー一体型水理試験装置を水理試験に用いた場合には、岩盤の単一割れ目に合った最小の試験区間を形成することができ、試験の効率性の向上を図ることが可能になる。
【0010】
さらに、請求項2記載のパッカー一体型水理試験装置によれば、メッシュ部材を経由させて試験流体を流動させることができるので、試験に必要とされるポートの位置が本来的に予定されていた位置からずれてしまったとしても試験を実施することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態のパッカー一体型水理試験装置がパッカーを拡張させていない状態の概略構造を説明する縦断面図である。
【図2】実施形態のパッカー一体型水理試験装置がパッカーを拡張させている状態の概略構造を説明する縦断面図である。
【図3】実施形態のパッカー一体型水理試験装置の注入口ピストン及び圧力検知口ピストンの構造を説明する縦断面図である。
【図4】実施形態のパッカー一体型水理試験装置が通水プレートを装着した状態を説明する図である。(A)は正面図である。(B)は側面図である。
【図5】実施形態のパッカー一体型水理試験装置が通水プレートとメッシュ部材とを装着した状態を説明する図である。(A)は正面図である。(B)は側面図である。
【図6】従来のトレーサ試験装置の概略構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1から図5に、本発明のパッカー一体型水理試験装置の実施形態の一例を示す。なお、本実施形態では、パッカー一体型水理試験装置1がロッド10の下端に取り付けられ地盤20に穿たれた試錐孔21内に挿入されて水理試験を行う装置としての構成を備える場合を例に挙げて説明する。なお、以下の説明においては、ロッド10の下端に取り付けられて試錐孔21内に挿入される状態を基準にしてパッカー一体型水理試験装置1の上下方向(即ち鉛直方向)及び水平方向を定義する。そして、パッカー一体型水理試験装置1及び当該装置の構成部品並びに試錐孔21の軸心方向とは上下方向(即ち鉛直方向)であるものとする。
【0014】
そして、本実施形態のパッカー一体型水理試験装置1は、柱状のパッカー芯部材としてのパッカー芯金2と、該パッカー芯金2の外周面を覆い軸心方向の両端寄りの部分がパッカー芯金2に固定される筒状のパッカーラバー4と、該パッカーラバー4を貫通して取り付けられると共にパッカーラバー4内側の部分がパッカー芯金2に設けられた注入口ピストン孔2dAと圧力検知口ピストン孔2dBとに摺動可能に嵌められ且つ両ピストン孔2dA,2dBとパッカーラバー4外部とを連通させる貫通孔3Af,3Bfがそれぞれ設けられた注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bとを有し、パッカー芯金2の軸心方向の片端面からピストン孔2dA,2dBへと通じる通路2b,2cとピストン孔2dA,2dBとピストンの貫通孔3Af,3Bfとによって試験ラインを形成すると共に、パッカー芯金2の軸心方向の片端面からパッカー芯金2の外周面へと通じる通路2aによってパッカー拡張ラインを形成し、該パッカー拡張ラインを利用して拡張圧をかけ拡張させてパッカーラバー4を試錐孔21の孔壁21a周面に押し当てて両ピストン3A,3B周囲の水密性を確保して試験区間を形成すると共に試験ラインを介して水理試験を実施するものである。
【0015】
パッカー芯金2は、柱状(本実施形態では円柱状)に形成されると共に、上端面に開口を有して軸心方向に穿たれた孔であるパッカー拡張ライン2aが形成される。パッカー芯金2の水平方向の径の大きさや軸心方向の長さは特定の大きさに限定されるものではなく、地盤20に穿たれている試錐孔21の直径等を考慮して適宜調整すれば良い。
【0016】
本実施形態のパッカー芯金2には、パッカー一体型水理試験装置1が水理試験を行うための構成として、上端面に開口を有して軸心方向に穿たれた孔である流体注入ライン2bと圧力検知ライン2cとが形成される。
【0017】
パッカー拡張ライン2a,流体注入ライン2b,圧力検知ライン2cの上端面側の開口部には、各ライン2a,2b,2c内に挿入される管を有するチューブ継ぎ手2eがそれぞれ備え付けられる。そして、パッカー拡張ライン2aの上端開口に備え付けられるチューブ継ぎ手2eにはパッカーラバー4を拡張させる圧力をかけるための配管(言い換えると、流体を送り込む配管;図示省略)が接続される。
【0018】
また、パッカー一体型水理試験装置1が水理試験を行うための構成として、流体注入ライン2bの上端開口に備え付けられるチューブ継ぎ手2eには流体を注入するための配管(図示省略)が接続され、圧力検知ライン2cの上端開口に備え付けられるチューブ継ぎ手2eには図示していない圧力計に繋がる配管(図示省略)が接続される。
【0019】
パッカー拡張ライン2aはパッカー芯金2の上下方向の概ね中間位置において水平方向に曲がってパッカー芯金2の側周面(即ち外周面)に達して開口する。これにより、上端面に備え付けられたチューブ継ぎ手2eに接続された配管から送り込まれる流体がパッカー拡張ライン2aを経由してパッカー芯金2の周囲(より具体的には、パッカー芯金2の外周面とパッカーラバー4の内周面との間)に送り込まれる。
【0020】
パッカー芯金2には、また、上下方向の概ね中間位置に外周面から水平方向に穿たれたピストン孔が形成される。本実施形態では、水理試験を行うために、試錐孔21内の試験区間に試験流体を注入するための開口を有する注入口ピストン3Aが嵌め込まれる注入口ピストン孔2dAと、試験区間における試験流体の注入圧力を検知するための開口を有する圧力検知口ピストン3Bが嵌め込まれる圧力検知口ピストン孔2dBとが形成される。
【0021】
ここで、本実施形態のように、パッカー一体型水理試験装置1を水理試験を行うものとして構成して注入口ピストン3Aと圧力検知口ピストン3Bとを備えるようにする場合には、圧力損失の発生を回避して注入圧力の計測誤差を低減するために両ピストン3A,3Bをできるだけ近くに配置するようにすることが望ましい。なお、本実施形態では、注入口ピストン孔2dAと圧力検知口ピストン孔2dBとがパッカー芯金2の軸心方向に近接して並べられて形成される。
【0022】
そして、流体注入ライン2bの下端は注入口ピストン孔2dAに対して開口して注入口ピストン孔2dAは流体注入ライン2bと連通し、圧力検知ライン2cの下端は圧力検知口ピストン孔2dBに対して開口して圧力検知口ピストン孔2dBは圧力検知ライン2cと連通する。
【0023】
パッカーラバー4は、軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)であってパッカー芯金2の軸心方向長さよりも短い長さに形成されると共に、貫通孔にパッカー芯金2を貫通させた状態で両端が固定されてパッカー芯金2の周囲に取り付けられる。また、パッカーラバー4には、パッカー芯金2の周囲に取り付けられた状態における注入口ピストン孔2dAと圧力検知口ピストン孔2dBとの位置に注入口ピストン3A,圧力検知口ピストン3Bを貫通させるための穴がそれぞれ設けられる。
【0024】
本実施形態では、軸心方向貫通孔にパッカー芯金2を貫通させてパッカー芯金2の周囲に配置された状態で、パッカーラバー4の軸心方向の両端部の外周に当該両端部をパッカー芯金2に対して締め付けるようにパッカーかしめ金具5a,5aが嵌め付けられる。そして、パッカーかしめ金具5a,5aが嵌め付けられた状態で、当該パッカーかしめ金具5a,5a部分においてはパッカー芯金2の外周面とパッカーラバー4の内周面とは気密性が確保される。
【0025】
本実施形態では、さらに、パッカーかしめ金具5a,5aが嵌め付けられた状態で、パッカー芯金2の軸心方向の両端部であってパッカーラバー4及びパッカーかしめ金具5a,5aからはみ出している部分に、パッカーラバー4及びパッカーかしめ金具5a,5aを軸心方向の両側から挟むように二個の固定リング5b、5bが取り付けられる。なお、固定リング5b,5bは例えばボルトによってパッカー芯金2の外周面に固定して取り付けられる。なお、固定リング5bを独立した部品として取り付ける代わりに、ロッド10の下端部に本実施形態における固定リング5bの役割を持たせるようにしても良い。
【0026】
本実施形態ではまた更に、パッカーラバー4及びパッカーかしめ金具5a,5aの外周面の注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bが設けられた箇所を除く軸心方向両側部分に軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)のスリーブ8,8が取り付けられる。そして、スリーブ8,8の内周面に形成された凸部が固定リング5b,5bの外周面に形成された凹部に噛み合って位置が固定されると共にスリーブ8,8の端部を締め付けるように締め付け金具5c,5cが取り付けられる。
【0027】
上述の構成により、パッカーラバー4は、パッカー芯金2の外周面のパッカー拡張ライン2aの開口から送り込まれる流体によって拡張させられる。そして、パッカーラバー4の拡張によって当該パッカーラバー4の外周面に取り付けられたスリーブ8,8が試錐孔21の孔壁21aの周面に密着する(図2)。
【0028】
なお、本発明のパッカー一体型水理試験装置1に用いられるパッカーラバー4の材質は特定のものに限定されるものではなく、例えば、従来型の水理試験装置において試錐孔内に試験区間を形成する際に用いられるパッカーと同様の材質のものが用いられる。また、スリーブ8の材質も特定のものに限定されるものではなく、例えば、孔内載荷試験用の薄手のラバーが用いられる。
【0029】
注入口ピストン3Aと圧力検知口ピストン3Bとは同じ構造をしており、固定ボルト3Aa,3Baと固定ナット3Ab,3Bbとピストン3Ac,3Bcとからそれぞれなる。
【0030】
固定ボルト3Aa,3Baは、貫通孔を有する円筒状に形成されると共に、外周面に雄ねじが形成されている。
【0031】
固定ナット3Ab,3Bbは、貫通孔を有する円筒状に形成されると共に、固定ボルト3Aa,3Baの一端が嵌め込まれる雌ねじが貫通孔周面に形成されている。また、固定ナット3Ab,3Bbの頂部(即ち、パッカー一体型水理試験装置1にとって径方向外側の端部)には頂部フランジが形成される。なお、固定ナット3Ab,3Bbの頂部フランジは、ねじ込みの便のために平面形状が六角形に形成される。
【0032】
ピストン3Ac,3Bcは、固定ボルト3Aa,3Baの一端が嵌め込まれた固定ナット3Ab,3Bbが嵌め込まれる貫通孔を有する円筒状に形成されると共に、貫通孔のうち、固定ナット3Ab,3Bbが嵌め込まれる部分の周面は滑面であり、固定ナット3Ab,3Bbから突出する固定ボルト3Aa,3Baが嵌め込まれる部分は径が小さく且つ雌ねじが周面に形成され固定ボルト3Aa,3Baの外周面の雄ねじが嵌め合わされる。また、ピストン3Ac,3Bcの頂部には頂部フランジが形成される。
【0033】
そして、注入口ピストン3Aと圧力検知口ピストン3Bとがパッカー芯金2に対して取り付けられる際には、まず、固定ボルト3Aa,3Baがねじ込まれたピストン3Ac,3Bcが注入口ピストン孔2dA,圧力検知口ピストン孔2dBに嵌め込まれてパッカーラバー4の内側に配置されると共に固定ナット3Ab,3Bbがパッカーラバー4の外側から固定ボルト3Aa,3Baにねじ込まれる。なお、パッカーラバー4には、前述の通り、注入口ピストン孔2dAと圧力検知口ピストン孔2dBとの位置に穴がそれぞれ設けられている。また、本実施形態では、ピストン3Ac,3Bcの頂部フランジとパッカーラバー4の内周面との間には、ワッシャ3Ad,3Bdが挟み込まれている。
【0034】
これにより、注入口ピストン3Aと圧力検知口ピストン3Bとは、パッカーラバー4内側のピストン3Ac,3Bcの頂部フランジとパッカーラバー4外側の固定ナット3Ab,3Bbの頂部フランジとにパッカーラバー4を挟み込んで当該パッカーラバー4に対して固定される。
【0035】
以上の各部品により、固定ボルト3Aa,3Baを介して固定ナット3Ab,3Bbとピストン3Ac,3Bcとが組み合わされ結合されて注入口ピストン3A,圧力検知口ピストン3Bが構成されると共にパッカーラバー4に対して固定される。そして、いずれの部品も貫通孔が形成されており、組み合わされた状態即ち注入口ピストン3A,圧力検知口ピストン3Bとして貫通孔3Af,3Bfがそれぞれ形成されていることになる。
【0036】
そして、注入口ピストン3Aのピストン3Acは注入口ピストン孔2dAに水平方向に摺動可能に嵌め込まれ、圧力検知口ピストン3Bのピストン3Bcは圧力検知口ピストン孔2dBに水平方向に摺動可能に嵌め込まれる。すなわち、注入口ピストン孔2dAと圧力検知口ピストン孔2dBとはそれぞれピストン3Aと3Bとを往復運動させるためのシリンダの役割を果たす。
【0037】
また、ピストン3Acと注入口ピストン孔2dA、並びに、ピストン3Bcと圧力検知口ピストン孔2dBとは、例えばOリング3Ae並びに3Beが両者の間に備え付けられることによって摺動面における水密性が確保され漏水が防止された状態で嵌め合わされて摺動する。
【0038】
また、ピストンが嵌め込まれた状態において、注入口ピストン3Aとしての貫通孔3Afは注入口ピストン孔2dAと連通し、圧力検知口ピストン3Bとしての貫通孔3Bfは圧力検知口ピストン孔2dBと連通する。
【0039】
そして、以上の構成により、パッカー芯金2の上端面に備え付けられたチューブ継ぎ手2eに接続された配管から送り込まれる試験流体が流体注入ライン2bを経由して注入口ピストン孔2dAに送り込まれ、注入口ピストン3Aの貫通孔3Afを更に経由してパッカー一体型水理試験装置1の周囲(より具体的には、試錐孔21内の試験区間)に送り込まれる。
【0040】
また、試錐孔21内の試験区間における試験流体の注入圧力が、圧力検知口ピストン3Bの貫通孔3Bf〜圧力検知口ピストン孔2dB〜圧力検知ライン2c〜上端面に備え付けられたチューブ継ぎ手2eに接続された配管を経由して伝えられて図示していない圧力計によって検知される。
【0041】
上述したパッカー一体型水理試験装置1の動作を以下に説明する。
【0042】
まず、パッカー一体型水理試験装置1はロッド10の下端に取り付けられて試錐孔21内の試験区間設定深度まで降下させられる。このとき、上端面に備え付けられたチューブ継ぎ手2eには所定の配管が接続されている。また、パッカーラバー4に対して拡張圧はかけられておらず収縮してパッカー芯金2の外周面にはり付いており、注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bは注入口ピストン孔2dA及び圧力検知口ピストン孔2dBの最も奥の位置までそれぞれ入り込んでいる(図1)。
【0043】
試錐孔21内の試験区間設定深度に達したら、パッカー拡張ライン2aを経由して流体が送られてパッカーラバー4に対して拡張圧がかけられる。そして、パッカーラバー4は試錐孔21の孔壁21aにスリーブ8,8が密着するまで径方向に拡張させられる(図2)。
【0044】
このとき、パッカーラバー4の径方向の拡張に合わせて注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bは注入口ピストン孔2dA及び圧力検知口ピストン孔2dBから徐々に抜け出るように稼働する。
【0045】
そして、パッカーラバー4及びスリーブ8,8が孔壁21aと十分に密着して試験区間が形成された後、流体注入ライン2bと注入口ピストン孔2dAとを経由して注入口ピストン3Aの貫通孔3Af(言い換えると、固定ボルト3Aaの貫通孔)から試験流体が試験区間に注入される。
【0046】
このとき、試験流体の注入圧力が圧力検知口ピストン3Bの貫通孔3Bf(言い換えると、固定ボルト3Baの貫通孔)を介すると共に圧力検知口ピストン孔2dBと圧力検知ライン2c等とを経由して図示していない圧力計によって計測される。
【0047】
そして、所定の計測が終わってパッカー一体型水理試験装置1を試錐孔21内から引き上げる際には、パッカーラバー4への拡張圧を解除すると(即ち大気圧とすると)パッカーラバー4の収縮力によって注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bが注入口ピストン孔2dA及び圧力検知口ピストン孔2dBにそれぞれ入り込んで元の位置に戻る(図1)。なお、パッカーラバー4の収縮力が弱い場合などで両ピストン3A,3Bが元の位置に完全に戻らない場合には、パッカー拡張ライン2aを介して吸引することによって負圧をかけてパッカーラバー4を強制的に収縮させるようにしても良い。
【0048】
ここで、本実施形態のように本発明のパッカー一体型水理試験装置1を水理試験を行う装置として構成して実際に試験を行う場合には、例えば小型カメラを試錐孔21内に挿入して当該試錐孔21の孔壁21aに観測される地盤20の割れ目の深度を予め確認しておくと共に当該割れ目深度を中心として試験区間を設定する。
【0049】
そして、ロッド10の下端に取り付けたパッカー一体型水理試験装置1を試錐孔21内を降下させて試験区間設定深度に達したらパッカーラバー4を拡張させて水理試験を行う。
【0050】
ここで、試錐孔21の孔壁21aに観測される割れ目の深さが数十メートルや数百メートルにもなる場合には、試験のためのポーとしての注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bを当該割れ目の深さに寸分違わず位置させることは困難である。しかしながら、本発明のパッカー一体型水理試験装置は試験区間における試験装置周囲の空隙をごく僅かにするという特性を有するものであるので、両ピストン3A,3Bの位置が割れ目からずれてしまった場合には当該割れ目への試験流体の注入がうまくいかなかったり注入圧力の計測が誤差を含むものになってしまったりする虞がある。
【0051】
そのため、本発明のパッカー一体型水理試験装置においては、試験のためのポーとしての注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bの周囲に一定の範囲で試験流体の流動を促す仕組みを備えるようにしても良い。
【0052】
具体的には、通水溝を有する通水プレートを装着するようにしたり、メッシュ部材を装着するようにしたり、通水プレートとメッシュ部材とを装着するようにしても良い。
【0053】
通水プレート6は、パッカーラバー4の外周面に沿って貼り付けられるように装着されて用いられる。通水プレート6は具体的には、図4に示すように、注入口ピストン3Aの固定ナット3Abが入り込む凹部6a及び圧力検知口ピストン3Bの固定ナット3Bbが入り込む凹部6bが形成されて試験のためのポーとしての両ピストン3A,3Bの設置位置周辺を取り囲む方形板状の本体部6cと、当該本体部6cの両端(即ち、パッカーラバー4の軸心方向の両端)から延出して凹部6a,6bのそれぞれと連通する貫通溝であるスリット6dが形成されたスリットうで6e,6eとを有する。また、凹部6aと凹部6bとは連通溝6fによって連通している。
【0054】
本体部6cは、パッカーラバー4の拡張によって試錐孔21の孔壁21aに押し当てられた際に当該孔壁21aに密着して隙間が生じないように孔壁21a周面の曲率に合わせて湾曲している。
【0055】
凹部6a,6bには固定ナット3Ab(及び固定ボルト3Aa),3Bb(及び固定ボルト3Ba)を貫通させるための穴が底面にそれぞれ設けられている。なお、固定ナット3Ab,3Bbの頂部フランジは凹部6a,6bの底面の穴の縁部分に引っ掛かるように径の大きさが調整される。
【0056】
通水プレート6は、パッカーラバー4の外周面に装着された状態で、ピストン3Ac,3Bcの頂部フランジと固定ナット3Ab,3Bbの頂部フランジとの間にパッカーラバー4と共に挟まれてパッカーラバー4に対して固定される。
【0057】
なお、パッカーラバー4の外周面に通水プレート6を装着した状態で固定ナット3Ab,3Bbをねじ込んで取り付けた状態において、これら固定ナット3Ab,3Bbはそれぞれ凹部6a,6bに入り込み、本体部6cの表面よりも固定ナット3Ab,3Bbの頂部フランジ表面の方が僅かに引っ込むように通水プレート6の厚さや固定ナット3Ab,3Bbの頂部フランジの厚さが調整される。
【0058】
上述の構造を有する通水プレート6を装着することにより、パッカーラバー4を拡張させて試錐孔21の孔壁21a周面に当該パッカーラバー4とスリーブ8,8とを密着させるようにした状態において、通水プレート6の表面は孔壁21a周面に密着してパッカーラバー4及びスリーブ8,8と共に注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bの周囲の水密性を確保して試験区間の水密性を確保する一方で、両ピストン3A,3Bの頂部の表面と孔壁21a周面との間には僅かに隙間があるので注入口ピストン3Aの貫通孔3Af(言い換えると、固定ボルト3Aaの貫通孔)から試験流体を試験区間に注入することができると共に圧力検知口ピストン3Bの貫通孔3Bf(言い換えると、固定ボルト3Baの貫通孔)を経由させて圧力損失の発生を回避して注入圧力を正確に伝えることができる。
【0059】
なお、通水プレート6の形状は本実施形態のものに限られるものではなく、試験の種類・内容や試錐孔21の状況に合わせて自由に設計され得る(言い換えると、適当な形状を有する通水プレート6が選択されて適宜付け替えられる)。具体的には例えば通水プレート6の凹部6a,6bやスリット6dやスリットうで6eの形状や寸法は自由に設計され得る。
【0060】
また、注入口ピストン3Aの貫通孔3Afから試験区間に注入された試験流体は、凹部6a内の固定ナット3Ab周囲の空間及び連通溝6f及び凹部6b内の固定ナット3Bb周囲の空間並びに凹部6a,6bと連通するスリット6d,6d内を流動することができる。このため、注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bの深度が観測対象の割れ目の深度と多少ずれてしまった場合でも、両側のスリット6d,6dが及ぶ範囲であれば試験流体を注入することができる。すなわち、適宜調整された寸法の両側のスリット6d,6dが到達可能な区間を試験区間として試験を実施することができる。しかも、試験流体を流動させる空間の容積を小さくすることができるので正確且つ効率良く試験を実施することができる。
【0061】
試験流体の流動を促す仕組みとして、上述の通水プレート6に加えてメッシュ部材を更に装着するようにしても良い。
【0062】
メッシュ部材7は、図5に示すように、試験のためのポーとしての注入口ピストン3Aの貫通孔3Af及び圧力検知口ピストン3Bの貫通孔3Bfを覆うようにパッカーラバー4及び通水プレート6の外周面を覆って装着される。また、メッシュ部材7は、軸心方向両端部がパッカーラバー4とスリーブ8,8との間に挟まってスリーブ8,8によって締め付けられてパッカーラバー4及び通水プレート6の外周面に取り付けられる。
【0063】
メッシュ部材7としては、試験区間内における空隙をできるだけ少なくするために薄い材料であると共に空気が残留しないように親水性と透水性とに優れ且つパッカーの拡張・収縮に合わせて伸縮することが必要であるので伸縮性を有する材料によって形成されたもの、具体的には例えばポリエステル製やナイロン製のものが用いられる。
【0064】
そして、メッシュ部材7としては、伸長していない通常の状態において、厚さが例えば0.1〔mm〕〜2.0〔mm〕程度、目開き率が例えば数%〜80%程度のものが用いられる。なお、厚さが薄い一方で目開き率が大きい材料で形成されたものをメッシュ部材7として用いるとメッシュの空隙の部分をパッカーラバー4が拡張した際に埋めてしまう虞があるので、メッシュの空隙部分が埋まってしまうことがないような厚さと目開き率(空隙の大きさ)との組み合わせが選択される。
【0065】
なお、メッシュ部材7は、一枚のみ用いるようにしても良いし、2枚以上重ね合わせて用いるようにしても良い。
【0066】
メッシュ部材7を装着することにより、そして、パッカーラバー4を拡張させて当該メッシュ部材7を試錐孔21の孔壁21a周面に押し当てることにより、注入口ピストン3Aの貫通孔3Afから注入された試験流体をメッシュ部材7を経由させて孔壁21aに現れる割れ目位置まで流動させることができ、注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bの深度が観測対象の割れ目の深度と多少ずれてしまったり、両ピストン3A,3Bと観測対象の割れ目との水平方向の位置(即ち、試錐孔21の周方向の位置)がずれてしまったりした場合でも試験流体を観測対象の割れ目の位置まで流動させることができる。また、メッシュ部材7を装着することにより、当該メッシュ部材7を経由させて、孔壁21aに周方向に現れる割れ目に沿って試験流体を一様に注入することができ、試錘孔21を中心とした点注入を実現することができる。
【0067】
なお、図5に示す例では、パッカーラバー4の外周面にまず通水プレート6を装着したうえでメッシュ部材7を更に装着するようにしているが、メッシュ部材7のみをパッカーラバー4の外周面に装着するようにしても良い。
【0068】
以上の構成を有する本発明のパッカー一体型水理試験装置によれば、試験に必要とされるポートとしてのピストンをパッカーラバーの拡張に合わせてピストン孔から抜き出るように稼働させて孔壁に押し当てることができると共にパッカーラバー及びスリーブを孔壁に押し当ててピストン周囲の水密性を確保して試験区間を形成することができるので、試錘孔内の試験区間における試験装置周囲の空隙をごく僅かにして試験の効率性と精度との向上を図ることができる。
【0069】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、本発明のパッカー一体型水理試験装置が水理試験を行う装置としての構成を備える場合を例に挙げて説明したが、本発明が適用され得る水理試験装置は本実施形態で説明したものに限られず、従来は試錘孔内の上下に二個の遮水パッカーを配置して試験区間を形成すると共に当該試験区間内に例えば注水や採水や水質検出のためのポートを配置させて実施する試験に用いられる各種の水理装置に適用することができる。なお、具体的には例えば、採水装置として本発明のパッカー一体型水理試験装置を構成する場合には、本実施形態における注入口ピストン3A及び圧力検知口ピストン3Bの代わりに採水用の貫通孔を備えるピストンを一個設けるようにすれば良い。
【0070】
また、本発明のパッカー一体型水理試験装置を水理試験を行う装置として構成する場合において、本実施形態のように注入口ピストン3Aと圧力検知口ピストン3Bとをパッカー芯金2の軸心方向に並べて構成するようにしているが、ポートとしてのピストンの配置はこれに限られるものではなく、パッカー芯金2の水平方向(即ち周方向)の対向する位置に配置するようにしても良い。さらにまた、試験の種類・内容や試験対象の岩盤の状況等に合わせて、例えば、水平方向の対向する位置に二個のピストンを配置して一組とし、当該一組のピストンをパッカー芯金2の軸心方向に複数組配置するようにしても良い。すなわち、本発明のパッカー一体型水理試験装置では、ピストンの個数や配置位置は試験の内容等に基づいて自由に設計され得る。
【符号の説明】
【0071】
1 パッカー一体型水理試験装置
2 パッカー芯金
3A 注入孔ピストン
3B 圧力検知口ピストン
4 パッカーラバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状のパッカー芯部材と、該パッカー芯部材の外周面を覆い軸心方向の両端寄りの部分が該パッカー芯部材に固定される筒状のパッカーラバーと、該パッカーラバーを貫通して取り付けられると共に該パッカーラバーの内側の部分が前記パッカー芯部材に設けられたピストン孔に摺動可能に嵌められ且つ該ピストン孔と前記パッカーラバー外部とを連通させる貫通孔が設けられたピストンとを有し、前記パッカー芯部材の軸心方向の片端面から前記ピストン孔へと通じる通路と前記ピストン孔と前記ピストンの貫通孔とによって試験ラインを形成すると共に、前記パッカー芯部材の軸心方向の片端面から前記パッカー芯部材の外周面へと通じる通路によってパッカー拡張ラインを形成し、該パッカー拡張ラインを利用して拡張圧をかけ拡張させて前記パッカーラバーを試錐孔の孔壁周面に押し当てて前記ピストン周囲の水密性を確保して試験区間を形成すると共に前記試験ラインを介して水理試験を実施することを特徴とするパッカー一体型水理試験装置。
【請求項2】
前記パッカーラバーの外周面に伸縮自在のメッシュ部材を装着することを特徴とする請求項1記載のパッカー一体型水理試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−43465(P2011−43465A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193111(P2009−193111)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地層処分技術調査等委託費(地層処分共通技術調査:岩盤中地下水移行評価技術高度化開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】