説明

パッキンと一体化した筐体構造体及びその製造方法

【課題】パッキンの装着作業をなくし、低圧縮率で十分なシール機能を発現可能なパッキンと一体化した筐体構造体を提供する。
【解決手段】周縁部に連続した凹型溝を有する筐体、周縁部に連続した凸型部を有する筐体、凹型溝を有する筐体の凹型溝内に一体化した弾性パッキン、を有する構造体であり、一体化した弾性パッキンが表面粘着性を有しており、筐体板に対する90°剥離強度が3N/25mm以上であるパッキンと一体化した筐体構造体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体内部への水や埃の浸入を防止することを目的に、周縁部に連続した凹型溝を有する筐体、周縁部に連続した凸型部を有する筐体、凹型溝を有する筐体の凹型溝内に一体化した弾性パッキンを有し、凹型溝と凸型部との嵌合により弾性パッキンが圧接され筐体内部をシールすることを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、モバイルパソコン、MP3プレイヤー、デジタルビデオレコーダー、デジタルカメラ等に代表される小型携帯電子機器は、処理速度の向上や記録容量の増大といった高性能化に加え、インターネットによる通信機能、ゲーム機能、音楽・画像ファイルの取り込み及び再生機能等、多機能化も急速に進んでいる。さらに、小型化、薄型化、軽量化といったより携帯しやすいものが開発され、屋外での使用頻度はますます高くなってきており、使用環境の変化に対応した筺体構造の改変や機能付与がより重要となってきている。携帯電子機器自体は、その携帯性が追求され、軽薄化が進んでいる。従って、パッキンを配する筐体溝の幅は狭く、深さを浅くする方向に、また対応するパッキンとしても同様に、幅は狭く、厚みは薄くすることが望まれている。このような要求特性に加え防水機能の付与するために筺体分割部に挿入するパッキンやガスケット形状の最適化も含めて複合的に検討されている。例えば、異形断面のガスケットを用いた電子機器の筺体分割部を防水する技術としては、特許文献1のようなものが知られている(特許文献1)。
しかしながら、パッキンには、形状の自己保持性がないため、筐体の凹型溝にパッキンを装着する作業性が悪いという欠点があった。この装着性に関する課題に対し、筐体溝自体にパッキンを直接形成する方法が考えられている。例えば自動塗布装置により液状材料を塗布、硬化させ、パッキンとして利用する方法である。一方のフランジに液状ガスケットを塗布し、その液状ガスケットを硬化させた後に両方のフランジの間隔を狭めることによりガスケットを圧縮し、その反発力によりシールする方法が古くより知られている(特許文献2)。また、そのような液状材料として、紫外線硬化型エラストマーを使用した多段形状の断面を有することを特徴とする、精密機器あるいは電子機器等のシール部に使用されるガスケット型が例示されている(特許文献3)。
【0003】
しかし、これら液状材料を塗布、硬化させパッキンを得る方法では、均一な形状のパッキンを得るのは極めて困難である。特に形状の小さなパッキンの場合には、コーナー部や重なり部分での厚み制御は難しく、パッキン全体として見れば、この厚みムラは無視できない。パッキンの高い反発力を利用した従来のシール設計においては、この厚みムラは極めて重要な問題であり、特に薄いパッキンの場合には、安定したシール性能を確保することは困難とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−218633号公報
【特許文献2】特開昭62−77597号公報
【特許文献3】特開2003−120819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、従来のパッキンやガスケットはゴム弾性を有する素材からなっており、その使用環境では一定の割合に圧縮された際の反発力を利用して、防水性等シール機能を発現しているが、筺体の構造上、例えば製品の薄型化や筺体の薄肉化によって、パッキン全周にわたって防水性を発現するために最低限必要な圧縮率や圧縮力を印加することが困難であったり、また、素材の劣化によって十分な反発力が得られなくなることで、防水性を維持できなくなるような問題があった。また、パッキンには、形状の自己保持性がないため、筐体の凹型溝にパッキンを装着する作業性が悪いという欠点があった。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、低い圧縮率、圧縮力下でも防水性能を発現し、かつパッキンの装着作業をなくしたパッキンと一体化した筐体構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意検討した結果、パッキンに粘着性を付与することで、低い圧縮率でも優れた防水性能を発現することを見出し、パッキンと一体化した筐体及び製造方法の発明をするに至った。
【0008】
すなわち本発明は、
周縁部に連続した凹型溝を有する筐体、周縁部に連続した凸型部を有する筐体、凹型溝を有する筐体の凹型溝内に一体化した弾性パッキン、を有する構造体であり、一体化した弾性パッキンが表面粘着性を有しており、筐体板に対する90°剥離強度が3N/25mm以上であることを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体。
また、JIS K6253に従って測定した前記弾性パッキンの硬度がJIS硬度40A以下であることを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体である。
また、凹型溝を周縁部に有する筐体を金型にインサートし、型締めした時に形成されるキャビティに熱硬化型液状樹脂組成物を射出することを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法である。
また、凹型溝と凸型部との嵌合部を避けた位置にタブを設け、前記タブにφ0.8以下のピンゲートを有していることを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法である。
また、前記ピンゲートから射出され、材料が合流する位置にタブを設けたことを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法である。
また、筐体周縁部に形成された凹型溝の幅が1mm以下、かつ深さが1mm以下であるパッキンと一体化した筐体構造体である。
また、筐体周縁部に形成された凹型溝の開口部にテーパが形成され、このテーパ部に固定側金型が圧接されて成形されることを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法である。
また、硬化性液状樹脂組成物が、下記(A)〜(C)成分を含有してなることを特徴とする、パッキンと一体化した筐体構造体
(A)1分子中に少なくとも平均1個を超えるアルケニル基を有する数平均分子量1,000〜50,000である有機重合体
(B)1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有する化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
また、記載の重合体(A)が、(a−1)飽和炭化水素系重合体、(a−2)ポリオキシアルキレン系重合体、(a−3)ポリ(メタ)アクリル系重合体、から選ばれる少なくとも1種であるパッキンと一体化した筐体構造体、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、パッキンの装着作業が省略され、かつパッキンに粘着性を付与することにより、低圧縮率でも防水性能が良好なパッキンと一体化した筐体構造体を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態のパッキンと一体化した筐体構造体の形状図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態の図1に記載のパッキン部材の断面図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態のパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、パッキンと一体化した筐体構造体の形状図である。
筐体1の周縁部に凹型溝が形成されており、この溝には、粘着性を有した弾性パッキンが一体化されている。一方、筐体2の周縁部には凸型形状が設けられており、筐体1と筐体2を嵌め込むことにより、弾性パッキンは、圧縮される。パッキンを圧縮する突起部の先端形状は半球面状としているが、これに限定されるものではない。但し、パッキンにかかる応力の観点からすると、突起部先端に角がない半球面状の方が、局所的な応力集中を避けやすく好ましい。パッキンの圧縮率は5〜30%さらに好ましくは8〜25%である。圧縮率が大きいとシール性能が向上するが、圧縮応力により筐体の強度を上げる必要があり、筐体構造体の薄型化にとって好ましくない。また、圧縮率が小さすぎると防水性能が保証されない。
【0012】
筐体の材質は、金属のほか、ポリカーボネート、ポリカーボネート/ABS、ナイロン、PBTなどの樹脂が使用される場合が多い。弾性パッキンの粘着性は、具体的には90°剥離粘着力(23℃、対筐体材料板)が好ましくは3N/25mm以上であることが好ましい。また、該パッキン弾性体の硬度は具体的にはJIS K6253に従って測定したJIS硬度で60A以下、好ましくは40A以下が好ましい。
【0013】
パッキンが一体化した筐体構造体の製造方法としては、ディスペンス塗布、プレス成形、トランスファー成形、射出成形があげられるが、ばりのない精密な加工が要求されるので、射出成形が好ましい。射出成形用の可動側金型に周縁部に凹型溝を有する筐体をインサートし、型締めした時に形成されるキャビティにパッキン材料を射出することによりパッキンと一体化した筐体構造体が得られる。パッキン材料は、圧縮永久歪や耐久性の観点、及び、材料の射出性より液状の熱硬化型樹脂組成物が好ましい。加熱された金型に筐体1をインサートし、液状の熱硬化型樹脂組成物を射出すると同時に硬化反応し、弾性パッキンが形成される。
【0014】
射出するゲートは、凹型溝と凸型の嵌合部を避けた位置にタブを設け、前記タブにφ0.8以下のピンゲートより射出する方式が好ましい。タブの大きさはφ0.5〜φ2に相当する面積を有していることが好ましい。形状は円形、矩形でもかまわない。嵌合部にゲートを設けるとそのゲート部に微小の段差ができるため、シール性能が保証されない。また、ゲートサイズは好ましくはφ1以下、より好ましくはφ0.8である。φ1を超えると筐体の内部に設置される電子部品の収納に影響を与えるので好ましくない。
【0015】
また、前記ピンゲートから液状の硬化型樹脂組成物を射出し、この材料が合流する位置にエアーを逃すためのタブを設けるのが好ましい。このタブを設けないと、合流点にエアーが残存しやすく、シール不良の原因になる。
【0016】
筐体1の周縁部に形成された凹型溝の寸法は、幅1mm以下、且つ深さが1mm以下が好ましい。幅及び深さが1mmを超えると、薄型化、小型化の要望に答えられない。筐体構造体の厚みは10mm以下が好ましい。
【0017】
また、筐体周縁部に形成され凹型溝の開口面にテーパが形成され、このテーパ部に固定側金型が圧接される構造が好ましい。このテーパ部に圧接されることにより筐体と金型のシールが容易に可能となり、ばりのない一体成形が可能である。テーパ角度は5〜45°が好ましい。テーパ角度が5°以下であると固定側金型が圧接されるとき食い込み離型性が悪くなる。45°を超えるとシール性が低下しばりが発生しやすくなる。
【0018】
粘着性を有する弾性パッキンを形成し得る具体的な硬化性組成物としては、(A)1分子中に1個を超えるアルケニル基を有する有機重合体、(B)1分子中に平均2個を超えるヒドロシリル基を有する化合物、(C)ヒドロシリル化触媒を必須成分としてなる組成物が挙げられる。
【0019】
本発明における(a−1)成分は、上記ヒドロシリル化反応可能なアルケニル基が、飽和炭化水素系重合体の主鎖末端あるいは側鎖にあってもよいし、また両方にあってもよい。とくに、アルケニル基が主鎖末端にあるときは、最終的に形成される硬化物に含まれる飽和炭化水素系重合体成分の有効網目鎖量が多くなるため、高強度で高伸びのゴム状硬化物が得られやすくなるなどの点から好ましい。
【0020】
(a−1)成分の飽和炭化水素系重合体の骨格をなす重合体は、(1)エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブチレンなどのような炭素数2〜6のオレフィン系化合物を主成分として重合させる、(2)ブタジエン、イソプレンなどのようなジエン系化合物を単独重合させたり、上記オレフィン系化合物とジエン系化合物とを共重合させたりした後水素添加する、などの方法により得ることができるが、末端に官能基を導入しやすい、分子量を制御しやすい、末端官能基の数を多くすることができるなどの点から、イソブチレン系重合体、水添ポリブタジエン系重合体あるいは水添ポリイソプレン系重合体であるのが好ましい。
【0021】
前記イソブチレン系重合体は、単量体単位のすべてがイソブチレン単位から形成されていてもよく、イソブチレンと共重合性を有する単量体単位をイソブチレン系重合体中の好ましくは50重量%以下、更に好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下の範囲で含有してもよい。
【0022】
このような単量体成分としては、例えば炭素数4〜12のオレフィン、ビニルエ−テル、芳香族ビニル化合物、ビニルシラン類、アリルシラン類等が挙げられる。このような共重合体成分の具体例としては、例えば1−ブテン、2−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、ヘキセン、ビニルシクロヘキサン、メチルビニルエ−テル、エチルビニルエ−テル、イソブチルビニルエ−テル、スチレン、α−メチルスチレン、ジメチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、p−ヘキセニルオキシスチレン、p−アリロキシスチレン、p−ヒドロキシスチレン、β−ピネン、インデン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメチルシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジビニルジメチルシラン、1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、トリビニルメチルシラン、テトラビニルシラン、アリルジメチルメトキシシラン、アリルトリメチルシラン、ジアリルジメトキシシラン、ジアリルジメチルシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。特に好ましくは、単量体単位のすべてがイソブチレン単位から形成されたものである。
【0023】
前記水添ポリブタジエン系重合体や他の飽和炭化水素系重合体においても、上記イソブチレン系重合体の場合と同様に、主成分となる単量体単位の他に、他の単量体単位を含有させてもよい。
【0024】
また、本発明中(a−1)成分として用いる飽和炭化水素系重合体には、本発明の目的が達成される範囲でブタジエン、イソプレン、1,13−テトラデカジエン、1,9−デカジエン、1,7−オクタジエン、1,5−ヘキサジエンのようなポリエン化合物のごとき重合後2重結合の残るような単量体単位を少量、好ましくは10重量%以下の範囲で含有させてもよい。
【0025】
本発明の(a−1)成分の製造方法としては、特開平3−152164号、特開平7−304969号公報に開示されているような水酸基などの官能基を有する重合体に不飽和基を有する化合物を反応させ重合体に不飽和基を導入する方法が上げられる。またハロゲン原子を有する重合体に不飽和基を導入するのにアルケニルフェニルエーテルとフリーデルクラフツ反応を行う方法、ルイス酸存在下アリルトリメチルシランなどと置換反応を行う方法、種々のフェノール類とフリーデルクラフツ反応を行い水酸基を導入した上でさらに前記のアルケニル基導入方法を併用する方法などが上げられる。さらに米国特許第4316973号、特開昭63−105005号公報、特開平4−288309号公報に開示されているような単量体の重合時に不飽和基を導入する方法も可能である。
【0026】
アルケニル基は、重合体(a−1)1分子中に平均1個を超える量、好ましくは平均5個以下存在するのがよい。さらに好ましくは1.2個以上3個以下である。重合体(a−1)1分子中に含まれるアルケニル基の数が平均1個以下になると、硬化性が不充分になるほか、得られる網目構造が不完全なものとなり、良好な成形体が得られない。また、1分子中に含まれるアルケニル基が多くなると網目構造があまりに密となるため、得られる成形体は硬く脆くなり好ましくない。特に、5個以上になるとその傾向は顕著となる。
【0027】
本発明の(a−2)成分である、1分子中に1個を超えるアルケニル基を有するポリオキシアルキレン系重合体としては、特に制限はなく、公知のものがあげられる。具体的には、重合体の主鎖骨格が、一般式(1)で示される繰り返し単位を有するものがあげられる。
一般式(1):
−R−O− (1)
(式中、Rは2価のアルキレン基)
【0028】
一般式(1)中に記載のRとしては、2価のアルキレン基ならば特に限定されず、このなかでも炭素数1〜14のアルキレン基が好ましく、2〜4の、直鎖状もしくは分岐状のアルキレン基がより好ましい。一般式(1)記載の繰り返し単位としては、特に限定されず、たとえば、−CHO −、−CHCHO−、−CHCH(CH)O−、−CHCH (C)O−、−CHC(CHO−、−CHCHCHCHO−等が挙げられる。
【0029】
ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格は、1種類だけの繰り返し単位からなるものでも、複数の繰り返し単位を組み合わせたものでもよい。このなかでも、入手が容易なこと、作業性に優れることなどから、主な繰り返し単位として−CHCH(CH)O−からなる重合体が好ましい。また、重合体の主鎖骨格中にはオキシアルキレン単位以外の繰り返し単位が含まれていてもよい。この場合、重合体中に含まれるオキシアルキレン単位の総和の割合は、80重量%以上、特には90重量%以上が好ましい。
【0030】
(a−2)成分の重合体の主鎖骨格は、直鎖状の重合体でも分岐を有する重合体でもよく、また、その混合物でもよい。この中でも良好な弾性を得るため、直鎖状の重合体を50重量%以上含有することが好ましい。
【0031】
(a−2)成分の重合体の数平均分子量は1,000 〜100,000であることが好ましく、より好ましくは、1,000〜50,000である。数平均分子量が1,000未満のものでは、得られる架橋ゴムの弾性率が高くなり、逆に数平均分子量が50,000を超えると高粘度となり組成物の取り扱いが著しく低下する傾向にある。数平均分子量は、各種の方法で測定可能であるが、通常、ポリオキシアルキレン系重合体の末端基分析からの換算や、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法で測定される。
【0032】
(a−2)成分中のアルケニル基としては、特に限定されず、公知のものがあげられる。このなかでも、下記の一般式(2)で示されるアルケニル基が好ましい。一般式(2):
C =C(R)− (2)
(式中、Rは水素又はメチル基である。)
【0033】
アルケニル基のポリオキシアルキレン系重合体への結合様式としては特に限定されず、たとえば、アルケニル基の直接結合、エーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、ウレア結合等が挙げられる。
【0034】
(a−2)成分の重合体としては、一般式(3):
{HC =C(R)−R−O}−R (3)
(式中、Rは水素又はメチル基である。Rは炭素数1 〜20の2価の炭化水素基であり、その中には、1個以上のエーテル基が含まれていてもよい。Rはポリオキシアルキレン系重合体の開始剤残基である。aは正の整数である。)で示される重合体が挙げられる。一般式(3)中に記載のRは、特に限定されず、たとえば、−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCH(CH)CH−、−CHCHCHCH−,−CHCHOCHCH −、または−CHCHOCHCHCH−などがあげられる。このなかでも、合成が容易なことなどから、−CH −が好ましい。
【0035】
前記以外の、(a−2)成分の重合体としては一般式(4):
{HC=C(R)−R−OC(=O)}−R (4)
(式中、R,R ,R 及びa は一般式(3)の表記と同じ)で示されるエステル結合を有する重合体が挙げられる。
【0036】
また、一般式(5):
{HC =C(R)}−R (5)
(式中、R、R及びa は、一般式(3)、(4)の表記と同じ)で示される重合体も挙げられる。さらに、次の一般式(6):
{HC =C(R)−R−OC(=O)O }−R (6)
(式中、R、R、R及びaは一般式(3)、(4)、(5)の表記と同じ)で示されるカーボネート結合を有する重合体も挙げられる。
【0037】
ポリオキシアルキレン系重合体(a−2)の重合方法としては、特に限定されず、たとえば、特開昭50−13496号等に開示されているオキシアルキレンの通常の重合法(苛性アルカリを用いるアニオン重合法)、特開昭50−149797号等に開示されている前記アニオン重合法によって得られた重合体を原料とした鎖延長反応方法による重合法、特開平7−179597号等に開示されているセシウム金属触媒を用いる重合法、特開昭61−197631号、特開昭61−215622号、特開昭61−215623号、特開昭61−218632号に開示されているポルフィリン/アルミ錯体触媒を用いる重合法、特公昭46−27250号及び特公昭59−15336号等に開示されている複合金属シアン化物錯体触媒を用いる重合法、特開平10−273512号等に開示されているポリフォスファゼン塩からなる触媒を用いる重合法等があげられる。
【0038】
このなかでも、実用性が高いこと、触媒の入手が容易であること、重合体が安定して得られることなどから、複合金属シアン化物錯体触媒を用いる重合方法が好ましい。複合金属シアン化物錯体触媒の製造方法としては、特に限定されず公知の方法があげられ、たとえば、米国特許第3,278,457号、同3,278,459号、同5,891,818号、同5,767,323号、同5,767,323号、同5,536,883号、同5,482,908号、同5,158,922号、同4,472,560号、同6,063,897号、同5,891,818号、同5,627,122号、同5,482,908号、同5,470,813号、同5,158,922号等に開示されている製造方法が好ましい。
【0039】
ポリオキシアルキレン系重合体にアルケニル基を導入する方法としては、特に限定されず公知の方法があげられ、たとえば、アリルグリシジルエーテルのようなアルケニル基を有する化合物とオキシアルキレン化合物との共重合による方法があげられる。また、アルケニル基を主鎖あるいは側鎖に導入する方法としては、特に限定されず、たとえば、主鎖あるいは側鎖に水酸基、アルコキシド基等の官能基を有するオキシアルキレン重合体に、これらの官能基に対して反応性を有する官能基及びアルケニル基を有する有機化合物を反応させる方法があげられる。なお、アルケニル基が重合体の主鎖末端に存在する重合体を含む硬化性組成物は、得られる硬化物が、大きな有効網目鎖長を有し、機械的特性に優れることから好ましい。
【0040】
水酸基、アルコキシド基等の官能基に対して反応性を有する官能基及びアルケニル基を有する有機化合物としては、特に限定されず、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、アクリル酸クロライド若しくはアクリル酸ブロマイド等の炭素数3〜20の不飽和脂肪酸の酸ハライド、酸無水物、アリルクロロホルメート、アリルクロライド、アリルブロマイド、ビニル(クロロメチル)ベンゼン、アリル(クロロメチル)ベンゼン、アリル(ブロモメチル)ベンゼン、アリル(クロロメチル)エーテル、アリル(クロロメトキシ)ベンゼン、1 −ブテニル(クロロメチル)エーテル,1 −ヘキセニル(クロロメトキシ)ベンゼン、アリルオキシ(クロロメチル)ベンゼン等が挙げられる。
【0041】
(a−2)成分である重合体の1分子中に存在するアルケニル基の数としては、1個を超え5個以下が好ましい。重合体(A)1分子中に存在するアルケニル基の数が1個以下になると、硬化性組成物の硬化が不充分になる傾向があり、得られる硬化物は、網目構造が不完全なものとなり、良好な成形体が得られない傾向がある。また、重合体(a−2)1分子中に存在するアルケニル基が多くなると、得られる硬化物の網目構造があまりに密となるため、成形体は硬く脆くなる傾向がある。特に、5個以上になるとその傾向は顕著となる。
【0042】
本発明の(a−3)成分である、1分子中に少なくとも平均1個を超えるアルケニル基を有するポリ(メタ)アクリル系重合体は、分子量が1,000〜50,000であることが好ましく、主鎖が(メタ)アクリル系モノマーを主として重合して製造される重合体であることが好ましい。ここで「主として」とは、主鎖を構成するモノマー単位のうち、50モル%以上が上記モノマーであることを意味し、好ましくは70モル%以上である。
なかでも、生成物の物性等から、(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましく、アクリル酸エステルモノマー及び/又はメタクリル酸エステルモノマーがより好ましく、アクリル酸エステルモノマーがさらに好ましい。特に好ましいアクリル酸エステルモノマーとしては、アクリル酸アルキルエステルモノマーが挙げられ、具体的には、アクリル酸エチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−メトキシブチルである。
【0043】
本発明においては、これらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合、更にはブロック共重合させても構わなく、その際は、これらの好ましいモノマーが重量比で40重量%以上含まれていることが好ましい。
【0044】
本発明におけるポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)の分子量分布、即ち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは1.8未満であり、より好ましくは1.7以下であり、さらに好ましくは1.6以下であり、よりさらに好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは1.4以下であり、最も好ましくは1.3以下である。分子量分布が大きすぎると同一架橋点間分子量における粘度が増大し、取り扱いが困難になる傾向にある。本発明でのGPC測定は、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにて行い、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0045】
本発明におけるポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)の数平均分子量は1,000〜100,000のであり、より好ましくは1,000〜50,000である。数平均分子量が1,000未満のものでは、得られる架橋ゴムの弾性率が高くなり、逆に数平均分子量が50,000を超えると高粘度となり組成物の取り扱いが著しく低下する傾向にある。
【0046】
本発明におけるポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)は、種々の重合法により得ることができ、特に限定されないが、モノマーの汎用性、制御の容易性等の点からラジカル重合法が好ましく、ラジカル重合の中でも制御ラジカル重合がより好ましい。この制御ラジカル重合法は「連鎖移動剤法」と「リビングラジカル重合法」とに分類することができる。得られるポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)の分子量、分子量分布の制御が容易であるリビングラジカル重合がさらに好ましく、原料の入手性、重合体末端への官能基導入の容易さから原子移動ラジカル重合が特に好ましい。上記ラジカル重合、制御ラジカル重合、連鎖移動剤法、リビングラジカル重合法、原子移動ラジカル重合は公知の重合法ではあるが、これら各重合法については、たとえば、特開2005−232419公報や、特開2006−291073公報などの記載を参照できる。
【0047】
本発明におけるポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)の好ましい合成法の一つである、原子移動ラジカル重合について以下に簡単に説明する。
【0048】
原子移動ラジカル重合では、有機ハロゲン化物、特に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物(例えば、α位にハロゲンを有するカルボニル化合物や、ベンジル位にハロゲンを有する化合物)、あるいはハロゲン化スルホニル化合物等が開始剤として用いられることが好ましい。具体的には特開2005−232419公報 段落[0040]〜 [0064]記載の化合物が挙げられる。
【0049】
1分子内に1個を超えるアルケニル基を有するビニル系重合体を得るためには、2つ以上の開始点を持つ有機ハロゲン化物、又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤として用いるのが好ましい。具体的に例示するならば、下記の化合物等が挙げられる。
【0050】
【化1】

【0051】
【化2】

【0052】
原子移動ラジカル重合において用いられる(メタ)アクリル酸系モノマーとしては特に制約はなく、上述した例示した(メタ)アクリル酸系モノマーをすべて好適に用いることができる。
【0053】
重合触媒として用いられる遷移金属錯体としては特に限定されないが、好ましくは周期律表第7族、8族、9族、10族、又は11族元素を中心金属とする金属錯体であり、より好ましくは0価の銅、1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄又は2価のニッケルを中心金属とする遷移金属錯体、特に好ましくは銅の錯体が挙げられる。銅の錯体を形成するために使用される1価の銅化合物を具体的に例示するならば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等である。銅化合物を用いる場合、触媒活性を高めるために2,2′−ビピリジル若しくはその誘導体、1,10−フェナントロリン若しくはその誘導体、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン若しくはヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン等が配位子として添加される。
【0054】
重合反応は、無溶媒でも可能であるが、各種の溶媒中で行うこともできる。溶媒の種類としては特に限定されず、特開2005−232419公報 段落[0067]記載の溶剤が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を併用してもよい。また、エマルジョン系もしくは超臨界流体COを媒体とする系においても重合を行うことができる。
【0055】
重合温度は、限定はされないが、0〜200℃の範囲で行うことができ、好ましくは、室温〜150℃の範囲である。
【0056】
(a−3)成分中のアルケニル基としては、特に限定はされないが、一般式(7)で表されるものであることが好ましい。
C=C(R)− (7)
(式中、Rは水素又は炭素数1〜20の有機基を示す。)
【0057】
上記Rの炭素数1〜20の有機基としては、特に限定されないが、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく挙げられ、具体的には以下のような基が例示される。
−(CH−CH、−CH(CH)−(CH−CH、−CH(CHCH)−(CH−CH、−CH(CHCH、−C(CH−(CH−CH、−C(CH)(CHCH)−(CH−CH、−C、−C(CH)、−C(CH、−(CH−C、−(CH−C(CH)、−(CH−C(CH
(nは0以上の整数で、各基の合計炭素数は20以下)
本発明の架橋反応となるヒドロシリル化反応の活性の点から、Rとしては水素又はメチル基がより好ましい。
【0058】
ポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)のアルケニル基は、特に限定はされないが、その炭素−炭素二重結合と共役するカルボニル基、アルケニル基、芳香族環により活性化されていないことが好ましい。
【0059】
アルケニル基とポリ(メタ)アクリル系重合体の主鎖との結合形式は、特に限定されないが、炭素−炭素結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、アミド結合、ウレタン結合等を介して結合されていることが好ましい。
【0060】
ポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)は、1分子中に1個を超えるアルケニル基を有するものであり、硬化物の機械物性の点から、ポリ(メタ)アクリル系重合体1分子当たり平均して1.2個〜3.0個有するものが好ましい。特に限定するわけではないが、具体的には、ポリ(メタ)アクリル系重合体1分子当たりに導入されたアルケニル基の数をH−NMR分析により求めた平均値が1.2個〜3.0個であることが好ましく、1.5個〜2.5個であることがより好ましい。
【0061】
本発明の硬化性組成物から得られる硬化物にゴム的な性質が特に要求される場合には、ゴム弾性に大きな影響を与える架橋点間分子量が大きくとれるため、アルケニル基の少なくとも1個は分子鎖(主鎖)の末端にあることが好ましい。より好ましくは、全てのアルケニル基を分子鎖末端に有するものである。
【0062】
上記1個を超えるアルケニル基を分子末端に有するポリ(メタ)アクリル系重合は、特公平3−14068号公報、特公平4−55444号公報、特開平6−211922号公報等に開示されている方法により製造できる。しかしながら、これらの方法は上記「連鎖移動剤法」を用いたフリーラジカル重合法であるので、得られる重合体は、アルケニル基を比較的高い割合で分子鎖末端に有する一方で、分子量分布(Mw/Mn)の値が一般に2以上と大きく、粘度が高くなるという問題を有している。従って、分子量分布が狭く、粘度の低いポリ(メタ)アクリル系重合であって、高い割合で分子鎖末端にアルケニル基を有するポリ(メタ)アクリル系重合を得るためには、上記「リビングラジカル重合法」を用いることが好ましい。
【0063】
得られたポリ(メタ)アクリル系重合へのアルケニル基の導入方法としては、公知の方法を利用することができる。例えば、特開2005−232419公報 段落[0074]〜[0099]記載の方法が挙げられる。これらの方法の中でも制御がより容易である点から、ジエン化合物添加法が好ましい。水酸基を分子中に少なくとも1個含有するポリ(メタ)アクリル系重合から得る場合は、制御がより容易である点から重合の終期にアルケニルアルコールを反応させる方法、重合体の反応末端に安定化カルバニオンを反応させる方法により得られる、水酸基を分子中に少なくとも1個含有するビニル系重合体を用いることが好ましい。
【0064】
ここでは、好ましい導入方法の一つである、ジエン化合物添加法について以下に簡単に説明する。ジエン化合物添加法は、(メタ)アクリル系モノマーのリビングラジカル重合により得られるポリ(メタ)アクリル系重合に、重合性の低いアルケニル基を少なくとも2個有する化合物(以下、「ジエン化合物」という。)を反応させる。
【0065】
ジエン化合物が有するアルケニル基としては、末端アルケニル基[CH=C(R)−R’;Rは水素又は炭素数1〜20の有機基、R’は炭素数1〜20の一価または二価の有機基であり、RとR’は互いに結合して環状構造を有していてもよい。]又は内部アルケニル基[R’−C(R)=C(R)−R’;Rは水素又は炭素数1〜20の有機基、R’は炭素数1〜20の一価または二価の有機基であり、二つのR若しくは二つのR’は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。二つのRと二つのR’のうちいずれか二つが互いに結合して環状構造を有していてもよい。]のいずれでもよいが、末端アルケニル基がより好ましい。Rは水素又は炭素数1〜20の有機基であるが、炭素数1〜20の有機基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましい。これらの中でもRとしては水素又はメチル基が特に好ましい。R’の炭素数1〜20の一価または二価の有機基としては、炭素数1〜20の一価または二価のアルキル基、炭素数6〜20の一価または二価のアリール基、炭素数7〜20の一価または二価のアラルキル基が好ましい。これらの中でもR’としてはメチレン基、エチレン基、イソプロピレン基が特に好ましい。ジエン化合物の少なくとも2つのアルケニル基は互いに同一又は異なっていてもよく、ジエン化合物のアルケニル基のうち、少なくとも2つのアルケニル基は共役していてもよい。
【0066】
ジエン化合物の具体例としては例えば、イソプレン、ピペリレン、ブタジエン、ミルセン、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエン、4−ビニル−1−シクロヘキセン等が挙げられるが、1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエンが好ましい。
【0067】
(メタ)アクリル系モノマーのリビングラジカル重合を行い、得られた重合体を重合系より単離した後、単離した重合体とジエン化合物をラジカル反応させることにより、目的とする末端にアルケニル基を有するポリ(メタ)アクリル系重合を得ることも可能であるが、重合反応の終期あるいは所定の(メタ)アクリル系モノマーの反応終了後にジエン化合物を重合反応系中に添加する方法が簡便であるのでより好ましい。
【0068】
ジエン化合物の添加量は、2つのアルケニル基の反応性に大きな差があるジエン化合物を使用する場合、重合体成長末端に対して当量又は小過剰量程度であればよく、2つのアルケニル基の反応性が等しい又はあまり差がないジエン化合物を使用する場合、重合体生長末端に対して過剰量であることが好ましく、具体的には1.5倍以上が好ましく、さらに好ましくは3倍以上、特に好ましくは5倍以上である。
【0069】
本発明の硬化性組成物に使用されるポリ(メタ)アクリル系重合体(a−3)としては、上述した製法の中でも、下記方法により得られるものが特に好適である。
【0070】
第1の方法としては、
(1a)(メタ)アクリル系モノマーを原子移動ラジカル重合法により重合することにより、下記一般式(8)
−C(R)(R)(X) (8)
(式中、R及びRは(メタ)アクリル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基を示す。Xは塩素、臭素又はヨウ素を示す。)
で示す末端構造を有するポリ(メタ)アクリル系重合体を製造し、
(2a)前記重合体の末端ハロゲンを、アルケニル基を有する置換基に変換する、
方法が挙げられる。
【0071】
第2の方法としては、
(1b)(メタ)アクリル系モノマーをリビングラジカル重合法により重合することにより、ポリ(メタ)アクリル系重合体を製造し、
(2b)前記重合体を、重合性の低いアルケニル基を少なくとも2個有する化合物と反応させる、
方法が挙げられる。
【0072】
本発明における(B)成分である1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有する化合物としては、ヒドロシリル基を2個有するものであれば特に限定されず、このなかでも原材料の入手が容易なこと、(A)成分への相溶性が良好なことなどから、有機基で変性されたオルガノハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。(B)成分のヒドロシリル基の個数は、2個以上であり、3個以上が好ましく、上限は40個以下、20個以下が好ましい。
【0073】
オルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、公知の鎖状または環状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することができ、(A)成分との相溶性の観点からは、芳香族環含有鎖状または環状オルガノハイドロジェンシロキサンが好適である。具体的には、特開2006−291073号公報 段落[0088]〜[0093]記載のヒドロシリル基含有化合物が挙げられる。
【0074】
また、分子中に2個以上のアルケニル基を有する低分子化合物でヒドロシリル基の一部が置換された鎖状または環状オルガノハイドロジェンポリシロキサンを使用することもできる。具体的には、過剰量の上記ヒドロシリル基含有化合物に対し、後述するヒドロシリル化触媒の存在下、分子中に2個以上のアルケニル基を有する低分子化合物をゆっくり滴下することにより得られる変性ヒドロシリル基含有化合物をヒドロシリル基含有化合物(B)として使用できる。分子中に2個以上のアルケニル基を有する低分子化合物としては、脂肪族炭化水素系化合物、エーテル系化合物、エステル系化合物、カーボネート系化合物、イソシアヌレート系化合物や芳香族炭化水素系化合物等が挙げられ、具体的には特開2006−291073号公報 段落[0094]記載の化合物を使用できる。このような変性ヒドロシリル基含有化合物のうち、原料の入手容易性、過剰に用いたヒドロシリル基含有化合物の除去のしやすさ、さらには(A)への相溶性を考慮して、下記のものが好ましく挙げられる。
【0075】
【化3】

【0076】
本発明における(B)成分であるヒドロシリル基を有する化合物の使用量は、(A)成分の重合体中に存在するアルケニル基の量と、(B)成分中の化合物中に存在するヒドロシリル基の量の関係において、適宜選択され、また、本発明の硬化性組成物においては、上記ヒドロシリル基を有する化合物を1種類のみで使用しても良いし、2種類以上混合使用しても良い。
【0077】
本発明における(B)成分であるヒドロシリル基含有化合物の使用量は、 [(B)成分中のヒドロシリル基の総量]/[(A)成分中のアルケニル基の総量]が0.5以上2.5以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.7以上2.0以下である。[(B)成分中のヒドロシリル基の総量]/[(A)成分中のアルケニル基の総量]が0.5を下回る場合、得られる硬化物は架橋密度が低いため、ゴム弾性を発現することが困難となる。
【0078】
本発明の(C)成分であるヒドロシリル化触媒としては、特に限定されず、公知のものがあげられ、たとえば塩化白金酸、白金の単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に固体白金を担持させたもの;白金−ビニルシロキサン錯体{例えば、PtX(ViMeSiOSiMeVi)y 、Pt〔(MeViSiO)z};白金−ホスフィン錯体{例えば、Pt(PPh 、Pt(PBu};白金−ホスファイト錯体{例えば、Pt〔P(OPh) 、Pt〔P(OBu)(式中、Meはメチル基、Buはブチル基、Viはビニル基、Phはフェニル基を表し、x、y、zは整数を表す)、Pt(acac) (ただし、acacは、アセチルアセトナトを表す)、また、Ashbyらの米国特許第3159601及び3159662号に開示されている白金−炭化水素複合体、並びにLamoreauxらの米国特許第3220972号に開示されている白金アルコラート触媒等も挙げられる。
【0079】
また、白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh、RhCl、Rh/Al 、RuCl 、IrCl、FeCl 、AlCl 、PdCl・2HO、NiCl、TiCl 等が挙げられる。
【0080】
これらの触媒は単独で使用してもよく、複数を組み合わせて使用してもよい。前記の触媒のなかでも、触媒活性が高いことなどから塩化白金酸、白金−オレフィン錯体、白金−ビニルシロキサン錯体、Pt(acac)等が好ましい。
触媒(C)の使用量としては、特に制限はないが、(A)成分中のアルケニル基1molに対して10−8〜10−1molが好ましく、10−6〜10−2molがより好ましい。10−8mol未満の量を使用した硬化性組成物は、硬化速度が遅く、また硬化が不安定となる傾向がある。逆に10−1molを越える量を使用した硬化性組成物は、ポットライフの確保が困難となる傾向がある。
【0081】
また、本発明の(A)〜(C)成分を含む硬化性組成物には、必要に応じて保存安定性改良剤を添加することができる。保存安定性改良剤とは、硬化性組成物の貯蔵中の硬化、劣化等物性の低下を防止する働きを担う。保存安定性改良剤としては、本発明の(B)成分の保存安定剤として知られている公知の安定剤であって所期の目的を達成するものであれば特に限定されず、たとえば、脂肪族不飽和結合を含有する化合物、有機リン化合物、有機硫黄化合物、窒素含有化合物、スズ系化合物、有機過酸化物等があげられる。具体的には、2−ベンゾチアゾリルサルファイド、ベンゾチアゾール、チアゾール、ジメチルアセチレンダイカルボキシレート、ジエチルアセチレンダイカルボキシレート、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、ブチルヒドロキシアニソール、ビタミンE、2−(4−モルフォジニルジチオ)ベンゾチアゾール、3−メチル−1−ブテン−3−オール、アセチレン性不飽和基含有オルガノシロキサン、アセチレンアルコール、3−メチル−1−ブチル−3−オール、ジアリルフマレート、ジアリルマレエート、ジエチルフマレート、ジエチルマレエート、ジメチルマレエート、2−ペンテンニトリル、2,3−ジクロロプロペン等が挙げられる。
【0082】
また、本発明の(A)〜(C)成分を含む硬化性組成物には、必要に応じて、各種充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、界面活性剤、溶剤、シリコン化合物を適宜添加してもよい。
【0083】
本発明の筐体構造体の用途としては携帯電話、モバイルパソコン、デジタルビデオレコーダー、デジタルカメラ等がある。
【実施例】
【0084】
次に実施例により本発明の硬化性組成物、及びその架橋ゴムを具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
(製造例1)
数平均分子量3,000のポリオキシプロピレンジオールを開始剤として、複合金属シアン化物錯体触媒を用いて、プロピレンオキシドを重合することにより数平均分子量が約20,000の水酸基末端ポリオキシプロピレン重合体を得た。続いて、この水酸基末端ポリオキシプロピレン重合体の水酸基に対して1.2倍当量のNaOMeの28%メタノール溶液と塩化アリルを添加して末端をアリル基に変換した。この反応物をヘキサンに溶かしケイ酸アルミニウムで吸着処理した後、ヘキサンを減圧除去することにより、黄色透明で、1分子中に平均して2個のアリル基末端を有するポリオキシプロピレン重合体(A−1)を得た。この重合体(A−1)は、粘度が50Pa・sの淡黄色液体であり、ヨウ素価数より求めたアリル含有量は、0.12mmol/gであった。
【0086】
(製造例2)
(−Si−O−)で示される繰り返し単位を平均して10個もつメチルハイドロジェンシリコーンに白金触媒存在下全ヒドロシリル基量の0.5当量のα―メチルスチレンを添加し、1分子中に平均5個のヒドロシリル基を有する化合物(B−1)を得た。この化合物のSi−H基含有量は3.8mmol/gであった。ここで、ヒドロシリル基含有量は、上記化合物(B−1)のNaOH水溶液による加水分解反応により発生する水素量から算出した。
【0087】
(実施例1)
アリル基末端を有するポリオキシプロピレン重合体(A−1)100gとヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製イルガノックス245)2g、湿式シリカ15g(嵩比重70g/l)、ヒドロシリル基を有する化合物(B−1)(2.13g)、触媒として白金ビニルシロキサン錯体触媒のキシレン溶液(ディーエムスクエアージャパン(株)製、PT−VTSC−3.0X)を0.037g、保存性改良剤としてアセチレンアルコール(日信化学工業社製サーフィノール61)を0.036gを混合して硬化性液状樹脂組成物を作成した。
【0088】
このようにして得られた組成物は液状であり、さらに脱泡した後、厚さ2mm、幅25mm、長さ100mmのアルミ製枠型と2枚の鏡面仕上げしたプレス板を使用し、125℃、90秒間の加熱プレス成形により2mm厚の硬化物シートを得た。得られたシートをさらに150℃熱風乾燥機にて1時間加熱処理した。得られた硬化物シートを23℃、50RH%に24時間状態調整した後に、厚さ0.5mmポリカーボネート板(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ユーピロンNF2000)に6kgローラーを用いて圧着後、デジタルフォースゲージ((株)イマダ製、DS2−50N)にて90°剥離強度を測定した。結果を表1に記す。また、得られた硬化物シートを3枚重ね、JIS K6253に記載の硬度試験に基づき、硬度を測定した。その結果を表1に記す。
【0089】
【表1】

【0090】
(実施例2)
アリル基末端を有するポリオキシプロピレン重合体(A−1)100gとヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製イルガノックス245)2g、湿式シリカ15g(嵩比重70g/l)、ヒドロシリル基を有する化合物(B−1)(5.11g)、触媒として白金ビニルシロキサン錯体触媒のキシレン溶液(ディーエムスクエアージャパン(株)製、PT−VTSC−3.0X)を0.037g、保存性改良剤としてアセチレンアルコール(日信化学工業社製サーフィノール61)を0.036gを混合して硬化性液状樹脂組成物を作成した。
前述の液状組成物を実施例1に記載の方法で硬化物シートを作製し90°剥離強度、硬度、測定した。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例3)
図1及び図2に示した、ポリカーボネート製筐体1を125℃に加熱された金型にインサートし、型締め後、実施例1で作成した硬化性液状樹脂組成物を射出し、60秒間硬化反応させることにより、パッキンと一体化した筐体1を作成した。外観観察した結果、ばりの発生はなく、良好であった。次に、パッキンと一体化した筐体1と筐体2を嵌め込み、所定の圧縮率にまで圧縮し、防水試験を実施した。防水試験には解析用防水試験器((株)ハムロンテック製HPT8701P005)を用いて、23℃、30分間所定の圧力下に水没させた後、パッキン内側への水の浸入の有無を目視にて判定した。その結果、防水性は良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周縁部に連続した凹型溝を有する筐体、周縁部に連続した凸型部を有する筐体、凹型溝を有する筐体の凹型溝内に一体化した弾性パッキン、を有する構造体であり、一体化した弾性パッキンが表面粘着性を有しており、筐体板に対する90°剥離強度が3N/25mm以上であることを特徴とするパッキンと一体化した筐体構造体。
【請求項2】
JIS K6253に従って測定した前記弾性パッキンの硬度がJIS硬度40A以下であることを特徴とする、請求項1記載のパッキンと一体化した筐体構造体。
【請求項3】
凹型溝を周縁部に有する筐体を金型にインサートし、型締めした時に形成されるキャビティに熱硬化型液状樹脂組成物を射出することを特徴とする、請求項1または2に記載のパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法。
【請求項4】
凹型溝と凸型部との嵌合部を避けた位置にタブを設け、前記タブにφ0.8以下のピンゲートを有していることを特徴とする請求項3記載のパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法。
【請求項5】
前記ピンゲートから射出され、材料が合流する位置にタブを設けたことを特徴とする請求項4記載のパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法。
【請求項6】
筐体周縁部に形成された凹型溝の幅が1mm以下、かつ深さが1mm以下である請求項1または2に記載のパッキンと一体化した筐体構造体。
【請求項7】
筐体周縁部に形成された凹型溝の開口部にテーパが形成され、このテーパ部に固定側金型が圧接されて成形されることを特徴とする請求項3から5のいずれかに記載のパッキンと一体化した筐体構造体の製造方法。
【請求項8】
硬化性液状樹脂組成物が、下記(A)〜(C)成分を含有してなることを特徴とする、請求項1または2に記載のパッキン一体化筐体構造体。
(A)1分子中に少なくとも平均1個を超えるアルケニル基を有する数平均分子量1,000〜50,000である有機重合体
(B)1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有する化合物
(C)ヒドロシリル化触媒
【請求項9】
請求項8に記載の重合体(A)が、(a−1)飽和炭化水素系重合体、(a−2)ポリオキシアルキレン系重合体、(a−3)ポリ(メタ)アクリル系重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項8に記載のパッキンと一体化した筐体構造体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−47232(P2012−47232A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188606(P2010−188606)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】