説明

パッキン

【課題】作動時の摺動抵抗を低減し、常温(通常25℃程度)〜650℃の温度範囲において、特に高温(通常300〜650℃程度)環境下においても、長期に渡り優れた潤滑特性を発揮する膨張黒鉛パッキンを提供すること。
【解決手段】少なくとも、膨張黒鉛(A)と常温で固体の潤滑剤(B)とを混合し、得られた混合物を圧縮成形して得られ、該潤滑剤(B)として、融点が300〜650℃である無機化合物を少なくとも1種含むパッキン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッキンに関し、さらに詳しくは、耐熱性に優れ、摺動抵抗が小さいパッキンに関する。
【背景技術】
【0002】
シール材と接触する相手部材が回転運動や往復運動をしたり、繰り返し着脱したりする場合、そのような相手材と接触する箇所でシール材として用いられる部品や部材をパッキンと呼ぶ。
【0003】
パッキンは、バルブの可動部あるいはポンプやモーターの軸などのような回転部分;ピストンのような往復運動部分;カプラーの接続部;あるいは水道の蛇口の止水部などに、シール材として使われる。
【0004】
パッキンには、接触シール機構やその種類、使用目的などに応じて、例えば、セルフシールパッキン、オイルシール材、メカニカルシール材、グランドパッキンなど、多様な種類がある。
【0005】
流体の圧力を利用して密閉性を高めるタイプは、セルフシールパッキンと呼ばれ、Oリングやリップパッキンがこれに該当する。
比較的低い耐圧用の油圧機器や潤滑油の密閉に使われるオイルシール材は、材質がゴムあるいはゴムと金属などにより構成され、それ自身の弾性で密閉性を確保する。
【0006】
メカニカルシール材は、コイルバネの力を利用して密閉性を確保する。
回転軸などの封止によく使われるグランドパッキンは、軸と固定部の間に柔軟で潤滑性のある詰め物を挟んでシールする。
【0007】
このように、パッキンは摺動を伴う箇所において使用されているが、これらの箇所では、作動抵抗によるエネルギー損失が発生する。
従って、作動抵抗を軽減させることは、動力源のエネルギー消費の抑制、動力源の装置の小型化、パッキンの長寿命化などを図る観点から不可欠である。
【0008】
そこで、これらの摺動箇所で用いられるパッキンでは、作動抵抗を低減する工夫が施されてきた。
例えば、本出願人は、特開2004−169882号公報(特許文献1)において、グランドパッキン基材の表面に、固体潤滑剤の配向した結晶化被膜を有するグランドパッキンを提案し、該グランドパッキン用の基材が膨張黒鉛である態様も教示した。
【0009】
また、本出願人は、特開2006−342932号公報(特許文献2)では、膨張黒鉛からなるグランドパッキンであって、パッキン内周面の少なくとも一部にテープ状の炭素繊維が配置されているグランドパッキンを提案し、鉱油系潤滑剤や固体潤滑剤を用いる態様も教示した。
【0010】
一般に、膨張黒鉛をパッキン基材とするパッキンは、シール性、長期保存性、加工容易性、耐熱性などに優れるものの、黒鉛粉同士の結合力が強くないことから、製品表面が粉となって剥がれ落ちる「粉落ち」や、使用後にパッキンに接している金属面に黒鉛が付着して剥がれにくくなる「固着」などが生じやすいという短所がある。
【0011】
特に膨張黒鉛を使用したパッキンでは、摺動部材の摺動運動によるパッキン基材の摩耗は通常避け得ない。
そのため、上記特許文献1または2に記載の発明では、潤滑剤を用いてパッキン表面の潤滑特性を高めることでこれら短所の克服している。
【0012】
しかし、液体潤滑剤(例えば、鉱油、合成油などのオイル)を含浸させたパッキンでは、一般に、液体潤滑剤の耐熱性が低く、高温で使用された場合にはその効果が徐々に失われることから、高温下(例:約300℃以上)で使用する上では、改善の余地がある。
【0013】
具体的には、そのようなパッキンでは、常温において良好な潤滑特性が得られるものの、例えば、200℃程度の温度になるとオイルが浸出したり、これより低温であっても真空条件下ではオイルが揮発したりして、パッキンの作動抵抗が増大する。このようなオイルの浸出は、高温や真空分野で用いるには好ましくない。
【0014】
その一方、固体潤滑剤を塗布し、あるいは固体潤滑剤分散液で含浸処理したパッキンは、一般に、液体潤滑剤を用いたパッキンに比べて潤滑特性に劣る。また、そのようなパッキンは、使用時間が増加するにつれてパッキンの表面が摩耗して、固体潤滑剤がパッキン表面から剥がれ落ちてしまい、潤滑特性を長期間にわたって維持し難い。そのため、そのようなパッキンでは、潤滑特性の向上や潤滑特性の長期維持の点で改善の余地がある。
【0015】
また、潤滑剤、充填材および結合剤については、例えば次のようなものが知られている。
特公平6−17689号公報(特許文献3)には、補強材40〜80重量%と、炭酸カルシウムおよびあるいは酸化ホウ素粉末2〜30重量%と、フェノール樹脂結合材3〜15重量%と、残部固体潤滑剤粉末とを混合した混合粉末からなる摺動部材用組成物が開示されている。
【0016】
また、特許文献3には、上記摺動部材用組成物をプレス成形して所望の形状を有する摺動部材とする態様、上記摺動部材用組成物を摺動母材の表面の滑り層として適用し、一様に被着形成させて摺動部材とする態様が開示されている。
【0017】
上記組成物には、炭化カルシウムあるいは酸化ホウ素粉末が添加されているが、特許文献3には、これらはそれ自体何ら潤滑性を示さないものであると明記されており、潤滑性能を示すものは上記残部固体潤滑剤粉末である。よって、上記摺動部材は従来の固体潤滑剤を用いた摺動部材と同様に、潤滑特性やその長期維持に関して改善が望まれる。また、膨張黒鉛について記載がないことから、膨張黒鉛パッキンに関する上記問題を解決しようとするものでもない。
【0018】
また、特許文献3には、雰囲気温度が室温〜400℃(交番)の態様が記載されているものの、摺動部材用組成物にはフェノール樹脂結合材が含まれている。フェノール樹脂はおおよそ150℃以上で熱劣化や分解を生じるので、上記摺動部材用組成物は、長期高温下にさらされる環境での使用には不向きである。
【0019】
特開平5−306398号公報(特許文献4)には、少なくとも酸化ホウ素粉末を有する潤滑剤が開示され、少なくとも酸化ホウ素粉末および黒鉛粉末を有する潤滑剤も開示されている。また、特許文献4には、少なくとも酸化ホウ素粉末を有する潤滑剤を、高温の摺動部に介在させて、摺動部の潤滑性を維持することを特徴とする潤滑方法が開示されている。
【0020】
また、特許文献4には、上記潤滑剤が高温域において十分な潤滑性を維持するのは、酸化ホウ素粉末が高温になると溶融して潤滑性を発揮することによる旨開示され、さらに、酸化ホウ素粉末と黒鉛粉末とを有すると、高温になると溶融した酸化ホウ素粉末が黒鉛粉末の各粉末を覆うことにより、両者の相乗作用により高温域において十分な潤滑性を維持する旨も開示されている。
【0021】
そして、特許文献4には、酸化ホウ素は常温で固体状態であるが、高温において溶融して大きな潤滑性を発揮することを究明したとある。
また、特許文献4には、上記潤滑剤は糊状を呈しているので、潤滑面に塗布して使用されるとある。
【0022】
さらに、特許文献4には、上記潤滑剤は、多孔性アルミナセラミックのみならずカーボンアルミナセラミックを主たる素材とした固定ノズルおよび摺動ノズルの間の摺動部からなる摺動部に対して、高温域においても十分な潤滑性を維持することができるなどの旨開示されている。
【0023】
しかし、特許文献4には、上記潤滑剤を潤滑面(具体例としては固定ノズルおよび摺動にノズルの間の摺動部)に塗布して、摺動部の潤滑に対して潤滑性を奏することが教示されているに過ぎず、パッキンやその膨張黒鉛基材に関する記載はなく、上記潤滑特性の長期維持の問題などを解決する方法を教示するものでもない。
【0024】
また、特許文献4では、上記潤滑剤は糊状であり潤滑面に塗布して使用されるものであるため、摺動部材を設置したり使用したりする前に、摺動部材と上記潤滑剤を別途保管、用意などしなければならず、手間がかかり、作業効率の点で改善の余地がある。
【0025】
このように、膨張黒鉛パッキンにおいて、ある圧力下のもと(例えば、パッキン締付圧力20〜50MPa)、常温(通常25℃程度)でもまた、高温下(例えば約300℃以上)でも優れた潤滑特性を長期に渡って発揮することのできる膨張黒鉛パッキンは、従来知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0026】
【特許文献1】特開2004−169882号公報
【特許文献2】特開2006−342932号公報
【特許文献3】特公平6−17689号公報
【特許文献4】特開平5−306398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、作動時の摺動抵抗を低減し、常温(通常25℃。以下同じ。)〜650℃の温度範囲において、特に高温(通常300〜650℃程度。以下同じ。)環境下においても、長期に渡り優れた潤滑特性を発揮する膨張黒鉛パッキンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、少なくとも、膨張黒鉛と、常温で固体である潤滑剤であり融点が300〜650℃である無機化合物とを混合し、得られた混合物を圧縮成形して得られるパッキンが上記課題を解決できることを見出した。
【0029】
すなわち、本発明者らは、膨張黒鉛製パッキンに優れた潤滑特性を長期に渡って発揮させるためには、上記潤滑剤をパッキン中に(好ましくは均一に)分散させればよいことを見出した。
【0030】
その具体的なメカニズムは次の通りである。
従来の、潤滑剤をパッキンの表面に塗布したパッキンは、経時使用により表面が摩耗すると共に該表面上の潤滑剤が剥がれ落ちてしまう。
【0031】
これに対して、本発明のパッキンは、経時使用によって該パッキンの表面が摩耗して該表面上に存在していた潤滑剤が剥がれてしまっても、パッキン内部に分布している潤滑剤が該パッキンの摩耗面に新たに出現するため、優れた潤滑特性を長期に渡って発揮できる。
【0032】
さらに、本発明者らは、常温で固体である潤滑剤として融点が300℃〜650℃である無機化合物を膨張黒鉛パッキンに配合すれば、該パッキンを例えば、300℃〜650℃程度の高温下で使用した時、潤滑特性がさらに向上する(液体潤滑剤を用いた場合と同等もしくはそれに近い潤滑特性を発揮する)ことも見出した。
【0033】
その具体的なメカニズムは次の通りである。
パッキンに加わる温度が潤滑剤の融点未満では、常温で固体であった潤滑剤が一部溶融または軟化し、パッキンに加わる温度が潤滑剤の融点以上では常温で固体であった潤滑剤が溶融する。そのため、該潤滑剤が固体潤滑剤よりも液体潤滑剤と同等あるいはそれに近い働きをし、パッキン全体の潤滑特性が向上するものと推察される。
【0034】
本発明者らは、以上の知見に基づき、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明は、少なくとも、膨張黒鉛(A)と、常温で固体の潤滑剤(B)とを混合し、得られた混合物を圧縮成形して得られ、該潤滑剤(B)として、融点が300〜650℃である無機化合物を少なくとも1種含むパッキンである。
【0035】
本発明のパッキンは、前記混合物を10〜30MPaの条件で圧縮成形して得られることが好ましい。
【0036】
前記潤滑剤(B)は、酸化ホウ素であることが好ましい。
前記潤滑剤(B)は、膨張黒鉛(A)100重量部に対して3〜25重量部の量でパッキンに含まれていることが好ましい。
前記潤滑剤(B)は、パッキン全体を100重量%としたとき、3〜20重量%の量でパッキンに含まれていることが好ましい。
【0037】
本発明のパッキンは、前記混合物または前記圧縮成形により得られた成形体を300〜650℃で10分間〜2時間加熱処理することが好ましい。
【発明の効果】
【0038】
本発明のパッキンは、上記潤滑剤がパッキン中に(好ましくは均一に)分散しているので、経時使用により表面が摩耗して該表面に存在していた潤滑剤が剥がれてしまっても、内部に分散している潤滑剤が該摩耗面に新たに出現するため、優れた潤滑特性を長期に渡って発揮できる。
【0039】
さらに、本発明のパッキンには、常温で固体である潤滑剤として、融点が300〜650℃である無機化合物が配合されている。そのため、該パッキンを高温下で使用すると、潤滑剤の融点未満では常温で固体であった潤滑剤が一部溶融または軟化し、融点以上では常温で固体であった潤滑剤が溶融して、該パッキンは液体潤滑剤を用いた場合と同等もしくはそれに近い潤滑特性を発揮できる。
【0040】
すなわち、本発明のパッキンは、例えば、300〜650℃の温度範囲という、液体潤滑剤が使用可能な温度範囲よりも広い範囲で、パッキンのシール特性や物理特性(耐熱性、機械強度など)を低下させることなく、長期に渡って優れた潤滑特性を発揮することができる。
【0041】
しかも、本発明のパッキンは、液体潤滑剤を用いたパッキンでは使用し難い高温下でも、液体潤滑剤を用いたパッキンと同等あるいはそれに近い潤滑特性(固体潤滑剤を用いたパッキンでは得られがたい潤滑特性)を発揮することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、軸抵抗測定装置の概念図の一例である。
【図2】図2は、常温下で圧縮成形して得られたリング状パッキンの写真である(リングの高さ(厚み)方向から撮影)。
【図3】図3は、500℃以上で加熱圧縮成形して得られたリング状パッキンの写真である(リングの高さ(厚み)方向から撮影)。
【図4】図4は、図1の装置で軸抵抗を測定することで得られるグラフの一例である(軸抵抗の単位はkgf)。
【図5】図5は、本発明に係るパッキンがスタフィングボックス内に連設して装着された態様を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明のパッキンの最良の形態について、具体的に説明する。
<パッキンとその製造方法>
本発明のパッキンは、少なくとも、下記膨張黒鉛(A)と下記潤滑剤(B)とを混合し、得られた混合物を圧縮成形して得られるものである。
なお、後述するように、得られた混合物は、膨張黒鉛(A)の粉末や潤滑剤(B)の粉末などの混合粉末であることが均一に混合できる観点から好ましい。
具体的には、以下の通りである。
【0044】
[原材料]
(1)膨張黒鉛(A)
本発明のパッキンにおいて、膨張黒鉛(A)は、パッキン基材として用いられる。
膨張黒鉛(A)としては、従来公知の方法によって得られるものが使用でき、例えば天然黒鉛、熱分解黒鉛、キッシュ黒鉛等を濃硫酸、濃硝酸、硝酸カリウム、過酸化水素等の強酸化剤或いはこれらの混合液等で処理した後、水洗、脱水を行い、その後600〜1300℃の温度で膨張処理を行なうことにより得られるものが挙げられる。
【0045】
例えば、黒鉛との嵩密度比で10倍以上の倍率に膨張した膨張黒鉛が市販されており、これを用いることもできる。
膨張黒鉛は、硬くて脆い黒鉛とは異なり、柔軟性や成形性に優れるので、パッキン基材として好適に使用できる。
【0046】
また、本発明のパッキンでは、パッキン基材として膨張黒鉛を使用しているので、高温下(〜650℃程度)においても使用することができる。
膨張黒鉛(A)としては、密度が0.3〜2.0g/cm3、好ましくは0.5〜1.5g/cm3、より好ましくは0.7〜1.1g/cm3の膨張黒鉛を使用することが好ましい。膨張黒鉛の密度が上記範囲より低いと、製品としてのガスケットの形状を保持することが困難な傾向があり、また上記範囲より高いと、パッキンがシール面になじみにくくなり十分なシール性が得られなくなる畏れがある。
【0047】
(2)潤滑剤(B)
本発明のパッキンにおいて、潤滑剤(B)は、パッキンの摺動面に潤滑性を付与する目的で該パッキンに配合される。
潤滑剤(B)は、常温で固体であり、融点が300〜650℃である無機化合物である。
【0048】
本発明のパッキンに用いられる潤滑剤(B)としては、酸化ホウ素(融点:480℃)、三酸化二ホウ素(融点:450℃)、亜鉛(融点:419.5℃)、臭化亜鉛(融点:394℃)、臭化銀(融点:432℃)、臭化セシウム(融点:636℃)、臭化銅(融点:504℃)、炭酸リチウム(融点:618℃)、マグネシウム(融点:650℃)、リチウムアミド(融点:380℃)などが挙げられ、中でも、高温域の潤滑特性に優れるパッキンが得られる観点から、酸化ホウ素(融点:480℃)が好ましい。
【0049】
潤滑剤(B)は、膨張黒鉛(A)と混合する際に、粉末であっても粉末でなくてもよいが、膨張黒鉛(A)やその他混合成分との混合状態、得られた混合物の成形性などの観点から、粉末であることが好ましい。
【0050】
潤滑剤(B)の粉末の平均粒径は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、0.5〜700μmであることが好ましい。
また、潤滑剤(B)の粉末の平均粒径が0.5μm以上の大粒径のものは、通常、パッキン表面に付着し難いため、パッキンの表面に潤滑剤を塗布する態様には適さないが、本発明では、潤滑剤(B)の粉末を前記膨張黒鉛(A)などと混合してなる混合物を圧縮成形してパッキンを得るため、平均粒径0.5μm以上の潤滑剤も問題なく使用できる。
【0051】
このように大粒径の潤滑剤(B)を用いる場合、膨張黒鉛(A)の粉末と潤滑剤(B)の粉末などを均一に混合・分散させる上での容易性の観点やこれら混合物の圧縮成形のしやすさの観点から、潤滑剤(B)の粉末の平均粒径は0.5〜700μmの範囲にあることが好ましい。
【0052】
潤滑剤(B)は、パッキンの一部(例えばパッキン表面とその近傍)に偏在させてもよいが、潤滑材(B)がパッキン全体に均一に分布していると、強度などの物性がパッキン全体で均一となるため、潤滑剤(B)はパッキン全体に均一に分布していることが望ましい。
【0053】
潤滑剤(B)は、高温時に高い摺動特性を発揮させる観点から、膨張黒鉛(A)100重量部に対して、3〜25重量部の量で混合することが好ましく、5〜15重量部の量で混合することがより好ましい。
【0054】
このような量で潤滑剤(B)を膨張黒鉛(A)などと混合すると、膨張黒鉛(A)100重量部に対して、潤滑剤(B)を、好ましくは3〜25重量部、より好ましくは5〜15重量部の量で含有するパッキンが得られる。
【0055】
潤滑剤(B)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
また、潤滑剤(B)は、パッキン全体を100重量%としたとき、3〜20重量%の量で混合することが好ましく、5〜10重量%の量で混合することがより好ましい。
【0056】
混合材料中の潤滑剤(B)がこのような量であると、パッキン全体を100重量%としたとき、潤滑剤(B)を3〜20重量%、好ましくは5〜10重量%の量で含有するパッキンが得られる。
【0057】
潤滑剤(B)の量が特にパッキン全体の3重量%未満であると、高温時(例: 300〜650℃)における十分な潤滑特性が発揮できない傾向にある。潤滑剤(B)の量が特にパッキン全体の20重量%を越えると、パッキンの機械的強度が落ちると共に可とう性や復元性も低下する傾向にある。
【0058】
特に、パッキン使用時の温度環境が300℃以上、例えば、300℃〜650℃程度となる態様としては、例えば、シール対象物質である内部流体などの温度、パッキン装置内部の温度、あるいは、パッキンと該パッキンに接する摺動部材(軸封装置の軸など)との摩擦熱などが300℃以上、例えば、300℃〜650℃程度の温度となるような態様においては、常温では固体であった潤滑剤(B)が溶融し、軟化したり液状化したりするため、液体潤滑剤に匹敵するかあるいはそれに近い潤滑特性を発揮することができる。
【0059】
また、本発明のパッキンは、潤滑剤(B)がパッキンに混合されているため、パッキン使用過程でパッキンの表面(摺動面など)が摩耗したり削れたりしても、パッキン内部にある潤滑剤(B)が新たにパッキン表面に露出するので、長期間に渡って優れた低摩擦特性を発揮することができる。
【0060】
(3)潤滑剤(B)以外の、他の潤滑剤(B')
本発明のパッキンには、本発明の目的を損なわない範囲内で、上記潤滑剤(B)以外の、他の潤滑剤(B')が配合されていてもよい。
【0061】
上記潤滑剤(B)以外の、他の潤滑剤(B')としては、黒鉛、雲母、窒化ホウ素、二硫化モリブデン、二硫化タングステンなどの固体潤滑剤、シリコンオイル等の液体潤滑剤が挙げられる。他の潤滑剤(B')として、固体潤滑剤を用いる場合には、潤滑剤(B)と同様に粉末として配合することが好ましく、パッキン中の分布状態についても潤滑剤(B)と同様であることが好ましい。
【0062】
潤滑剤(B)以外の、他の潤滑剤(B')は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
潤滑剤(B)と共に、潤滑剤(B)以外の、他の潤滑剤(B')をパッキンに配合する場合は、常温下での使用における摺動特性を向上させる観点から、潤滑剤(B)と、他の潤滑剤(B')は、膨張黒鉛100重量部に対して、合計で3〜15重量部の量で、また、潤滑剤(B)100重量部に対して、他の潤滑剤(B')は、3〜10重量部程度の量で用いることが好ましく、これにより、膨張黒鉛100重量部に対して合計で3〜10重量%の量でパッキン中に含まれていることが望ましい。
【0063】
なお、潤滑剤として、上記潤滑剤(B)を用いずに、他の潤滑剤(B')、例えば、二硫化モリブデンのみを添加した態様では、特定の潤滑剤(B)を用いる場合よりもパッキンの潤滑特性に劣ることがある。
【0064】
これは、パッキン基材である膨張黒鉛も潤滑性を有する部材であるが、例えば、他の潤滑剤(B')である二硫化モリブデンは膨張黒鉛よりも潤滑特性が悪いので、配合した二硫化モリブデンがパッキン全体の潤滑特性に悪影響を及ぼしていると推察される。
【0065】
上記した特定の潤滑剤(B)が配合されていれば、パッキン中に上記のような単独ではパッキンの潤滑特性を低下させてしまうような、その他の潤滑剤(B')が配合されていても、本発明の課題を解決することができる。
【0066】
しかし、上記のような単独ではパッキンの潤滑特性を低下させてしまうような、他の潤滑剤(B')が配合されていない方がパッキン全体の潤滑特性に優れる傾向にあるので、パッキンの潤滑特性の観点では、他の潤滑剤(B')はパッキン中に配合されていない方が好ましい。
【0067】
(4)その他材料(C)
本発明のパッキンには、本発明の目的を損なわない範囲で、膨張黒鉛(A)、潤滑剤(B)および他潤滑剤(B')以外の材料(C)が配合されていてもよい。
そのような材料(C)としては、顔料や成形助剤等が挙げられる。
【0068】
なお、耐熱性の観点からは、パッキンを使用する際にパッキンに接触するシール対象物質の温度よりも分解点の低い物質などは、高温下(例えば300〜650℃)でパッキンを使用する場合にはパッキンの性能を低下させる場合もあるので、パッキンを高温下で使用する場合には、そのような物質はパッキンに配合しないことが好ましい。
【0069】
[製造条件]
本発明のパッキンの製造工程は、少なくとも、下記混合工程と圧縮成形工程を含む。
(1)混合工程
混合工程では、少なくとも膨張黒鉛(A)と下記潤滑剤(B)とを混合する。該混合は、通常、常温付近(10〜30℃程度)で材料を、例えばミキサーに投入し、均一になるように混合する。
【0070】
本混合工程では、先に上げたその他材料(好ましくは粉末状)などを配合してもよい。
このように上記成分(A)、(B)等を混合することで、これら材料(成分)を含む混合物(好ましくは粉末混合物)が得られる。
【0071】
上記混合は、潤滑剤(B)が混合物中に(好ましくは均一に)分散できる限り、混合方法や混合順序は特に制限されない。
また、例えば、原材料を一度に混合処理することで混合処理を行なってもよいし(バッチ処理)、1種ずつあるいは複数種ずつ所定の順番で加えるなどしながら連続混合してもよいし、または、1種ずつあるいは複数種ずつ所定の順番で加えるなどすると共に混合回数を複数回に分けて非連続的に混合処理を行なってもよい。
【0072】
(2)[圧縮成形工程]
上記混合工程で得られた材料混合物(好ましくは粉末混合物)は、圧縮成形されてパッキンとなる。
上記圧縮工程では、常温付近(10〜30℃程度)、成形圧10〜30MPa程度で圧縮成形することが好ましい。
【0073】
上記圧縮成形工程は、材料混合物に含まれる成分にもよるが、必要に応じて、さらに高温で行ってもよい。
但し、成形助剤として沸点の低い物質(例えば沸点が60〜100℃の範囲にある物質)が混合される場合は、その沸点以上の温度で圧縮成形を行うと、該物質を圧縮成形中に蒸発などさせて除去できるなどの観点から好ましい。
【0074】
上記圧縮成形は、例えば、所望の形状の金型内に混合物を装填し、プレス成形にて実施することができる。
また、例えば、圧縮成形を一度のみ行って所望のパッキンを得てもよいし、圧縮成形を複数回行って所望のパッキンを得てもよく、所望のパッキンが得られる限り、圧縮成形方法や圧縮成形の回数などは特に制限されない。
【0075】
[その他]
本発明のパッキン製造においては、本発明の目的を損なわない範囲で、上記2工程以外の工程(例えば、加熱工程など)を含んでいてもよい。
【0076】
また、混合工程、圧縮成形工程を含む全工程のいずれかの段階で、300〜650℃の温度で10分〜2時間(好ましくは10〜30分間)、混合物あるいは成形品を加熱処理する工程、その熱を帯びている間もしくは冷却後(15〜50℃程度まで)に、熱処理した成型品を圧縮成形する工程を含むことが好ましい。
【0077】
ここで、上記の熱処理した成形品を圧縮処理する工程は、上記「(2)[圧縮成形工程]」の項目の圧縮成形工程として割り当ててもよいし、上記「(2)[圧縮成形工程]」の項目の圧縮成形工程とは別に行なってもよい。
このような工程が含まれていると、潤滑剤(B)が溶融している状態で圧縮成型加工ができ、表面が滑らかな成形体を得られる観点からも好ましい。
【0078】
また、上記熱処理工程、熱処理した成形品を圧縮成形する工程は、全工程中のどの位置で行なってもよい(他の工程との前後関係や順番は限定されない)が、最後の工程(仕上げの工程。)とすることが多い。例えば、熱処理工程後、熱処理した成型品を圧縮成形する工程を実施した後、該工程よりも低い温度や短い時間で再度圧縮成形しても、パッキンの表面の滑らかさは失われない傾向にあるし、本発明の目的を損なわない程度に上記熱処理・圧縮成形後の成形品を、上記条件よりも高い温度や長い時間で再度圧縮成形しても、パッキンの表面の滑らかさは同程度に保たれる傾向にある。よって、上記熱処理した成形品を圧縮成形する工程は、全工程中の最後の工程で行うことが作業効率などの観点より好ましい。
【0079】
[上記工程を経て得られるパッキン]
上記パッキンは、前述のような混合工程を経て得られるものであるので、上記パッキンにおいては、潤滑剤(B)がパッキン全体に(好ましくは均一に)分布・分散している。
【0080】
本発明のパッキンは、前述のように、パッキン中の潤滑剤(B)に300℃以上(例えば300〜650℃)の熱が加えられるような環境下で本発明のパッキンを使用する場合には、潤滑剤(B)が溶融し、液状となるので、原材料として固体の潤滑剤を用いているにも関わらず液体潤滑剤を用いた摺動部材に匹敵あるいはそれに近い潤滑特性を本発明のパッキンに発揮させることができる。
【0081】
さらには、従来の液体潤滑剤を用いた摺動部材では、液体潤滑剤(主に有機化合物、先に挙げた特許文献参照)の劣化温度や分解温度などの関係上使用できなかった温度領域でも、本発明のパッキンでは、液体潤滑剤に匹敵あるいはそれに近い潤滑特性を維持したまま使用可能である。
【0082】
また、本発明のパッキンは、本発明のパッキンと摺動部材との摩擦により高温(例えば300℃)の摩擦熱が発生する態様においては、摩擦熱の発生により高められた温度の高さに比例して、潤滑性能が向上する傾向にある。例えば、摩擦熱によりパッキンの表面の温度が上昇しつづける場合は使用時間に比例して本発明のパッキンの潤滑特性が向上する傾向にある。
【0083】
なお、上記潤滑剤(B)の融点は300℃以上であるが、該融点未満の温度でも、潤滑剤(B)の軟化、融解などに起因するパッキンの潤滑特性向上の恩恵を享受できることがある。
【0084】
例えば、酸化ホウ素は、融点が約480℃であるが、約100℃以上の温度が加わると、融点である約480℃未満でも、一部軟化、融解などするため、酸化ホウ素を含むパッキンは、100℃程度から高温に向かうに従い、潤滑特性が向上する傾向にある。
【0085】
また、潤滑剤(B)がパッキン全体に均一に分布・分散しているものは、パッキン全体に渡って優れた潤滑特性や機械特性を示す。
すなわち、そのようなパッキンは、各部分において材料分布が一様であり、あるいは含まれる全ての材料の分散状態が均一であるため、部位に依らず、表面摩耗時に新たな潤滑剤(B)が出現せずに潤滑特性にばらつきが生じる、あるいは、局所的に機械物性が脆弱である部分が生じるなどの問題は生じない。
【0086】
また、そのようなパッキンは、潤滑剤(B)がパッキン中に均一・一様に分散しており、一部に偏在などしていないため、パッキン全体において、機械強度などの物性がばらつくことなく、パッキン全体で一様の性質を示す。
【0087】
本発明のパッキンの形状は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、例えば、リング状に成形される。
上記リング状のパッキンは、例えば、リング状の金型内に混合物を装填し、プレス成形することで得られる。
また、上記工程を経て得られたパッキンの潤滑特性は、例えば下記方法に従って測定した「接触面積辺りの軸抵抗(N)」によって、評価することができる。
【0088】
「接触面積辺りの軸抵抗(N)」の測定方法
本発明のパッキンの「接触面積辺りの軸抵抗(N)」は、例えば、図1に示す軸抵抗測定装置1を用いて測定される。
図1に示した軸抵抗測定装置1は、日本バルカー工業社自作の軸抵抗測定装置の概念図である。
図1に示した軸抵抗測定装置1は、シール流体を入れるシール部15を囲うケーシング16の両側にスタフィングボックス(パッキン箱)を1つずつ備えている。
【0089】
また、図1に示す如く、油圧シリンダー11に備え付けられた軸9が、油圧シリンダー側スタフィングボックス3、ケーシング16、パッキン面圧測定用ロードセル側スタフィングボックス2内の順で貫通する構造をとっている。
【0090】
各スタフィングボックス内には、測定試料のパッキン(パッキン(ランタン上)12とパッキン(ランタン下)14)、アダプターパッキン、ランタンリング13などが装着される。
【0091】
パッキンに締付圧力を加えるためのグランド押さえ8(パッキン押さえ)が各スタフィングボックス上部に装着され、この際の締付圧力を測定するためのパッキン面圧測定用ロードセル4が、パッキン面圧測定用ロードセル側スタフィングボックス2の上部に設置されている。
【0092】
また油圧シリンダー側スタフィンボックス3と油圧シリンダー11の間には、油圧シリンダー11を用いて軸9を該軸9の長軸方向に往復運動させた時に生じる軸抵抗を測定するための軸抵抗測定用ロードセル10が設置されている。
【0093】
各スタフィンボックスには、シール部から漏れたシール流体をスタフィングボックス外へ排出するための通路であるリークオフ7が設けられている。
ケーシング16上には、軸抵抗測定装置1の一部を加熱するためのバンドヒーター6が設けられている(加熱部分は、図1のバンドヒーター6の位置を参照)。また、図示しない装置内部温度計も設けられている。
【0094】
また、ケーシング16には、装置内部を加圧するための加圧孔6が設けられている。
上記軸抵抗測定装置1を用いた、本発明のパッキンの接触面積辺りの軸抵抗(N)の測定は、例えば次の通り実施される。
【0095】
まず、図1に示す軸抵抗測定装置1の各スタフィングボックス(パッキン箱)(パッキン面圧測定用ロードセル側スタフィングボックス2と油圧シリンダー側スタフィングボックス。以下同じ)に各パッキンを装着する(ランタンリングの上下に、寸法がφ20mm×φ33mm×6.5mm(H:高さ)の本発明のリングを5つずつ装着し、各パッキン(パッキン(ランタン上)12とパッキン(ランタン下)14。以下同じ)の上(ランタンリングに接する側の反対側)にアダプターパッキンを上下に配置)。
【0096】
次いで、締付圧力39.2MPaで各パッキンをそれぞれパッキン抑え8で締付け(締付圧力はロードセル4で測定。以下同じ)、次いで軸9(軸径:φ20mm)を該軸の長軸方向に摺動幅5cm、摺動速度10往復/分で5回往復作動(回転を伴わない前進後進運動、以下同じ)させて慣らし運転する(シール対象流体の温度を常温とし、往復運動5回目の摺動抵抗値を、シール対象流体温度が常温での摺動抵抗値とする)。
【0097】
ここで、往復作動の条件は、具体的には次の通りである。「上記軸を2秒で5cm前進させ、1秒停止させ、2秒で5cm後進させ、1秒停止させる」という6秒間の往復作動を1セットで1往復とする。すなわち、軸は1分間あたり10往復し、前進作動時および後進作動時の軸の速度は、それぞれ25mm/sである。この往復作動の条件は以下の高温(350℃)測定時も同じである。
【0098】
常温での軸抵抗の測定が必要ない場合は、常温測定のための往復運動を省略して、次の操作に進めばよい。
次いで、締付圧力39.2MPaで各パッキンをパッキン抑え8で締付け、次いでシール対象流体の温度が350℃になるまで軸抵抗測定装置1内部をバンドヒーター6で加熱する(軸抵抗測定装置1内部の温度は約300℃)。
【0099】
次いで、同温で軸9を該軸9の長軸方向に摺動幅5cm、摺動速度10往復/分で5回往復作動させて慣らし運転する(往復運動5回目をシール対象流体温度が高温(ここでは350℃)での摺動抵抗値とする)。
【0100】
次いで、同温で締付圧力39.2MPaで各パッキンをパッキン抑え8で締付け、次いで同温で軸9を該軸9の長軸方向に摺動幅5cm、摺動速度10往復/分で往復作動させて、シール対象流体温度が高温(ここでは350℃)である時の往復運動100回目の摺動抵抗値をロードセル10にて測定する。
【0101】
次いで、同条件で軸を往復で200回、300回、400回、500回と続けて往復作動させて、往復運動200回目、往復運動300回目、往復運動400回目、往復運動500回目のそれぞれの時点における軸抵抗(gf)をロードセル10にて測定する。
【0102】
なお、図1の軸抵抗測定装置1にて、軸9を該軸9の長軸方向に往復運動させると、図2に示すようなグラフが得られる(横軸:軸9の往復回数もしくは往復運動時の軸9の総移動距離、縦軸:摺動抵抗(波の中心(中心軸17)から上方向が軸9の前進運動時の摺動抵抗18(該グラフでは単位はkgf)、波の中心(中心軸17)から下方向が軸9の後退運動時の摺動抵抗19(同じく単位はkgf)。)
規定往復回数時の軸抵抗値は、下記式(1)もしくは(1’)より求める(シール対象流体の温度は規定温度とする)。
規定往復回数時の軸抵抗(N)={規定往復回数時の前進時の軸抵抗の最大値(絶対値、N)+規定往復回数時の後退時の軸抵抗の最大値(絶対値、N)}/2・・・(1)
規定往復回数時の軸抵抗(gf)={規定往復回数時の前進時の軸抵抗の最大値(絶対値、gf)+規定往復回数時の後退時の軸抵抗の最大値(絶対値、gf)}/2・・・(1’)
【0103】
上記軸抵抗測定装置では、摺動軸抵抗は重量グラム(グラム重ともいう。単位はgf。)単位で測定されるが、本発明では便宜上これをニュートン(単位はN)に換算する。
【0104】
測定値の単位をgfからNに単位換算してから規定往復回数時の軸抵抗を求めるのであれば、上記式(1)を用いればよいし、規定往復回数時の軸抵抗を測定値から求めた後にgfからNに単位換算するのであれば上記式(1’)を用いて、得られた解の単位換算を行えばよい。
【0105】
次いで、下記式(2)に従い、上記軸抵抗(N)をパッキンの軸に対する接触面積(mm2)で除して、単位接触面積辺りの軸抵抗(N/mm2)を求める。
単位接触面積辺りの軸抵抗(N)=軸抵抗(N)/軸に対するパッキンの接触面積(mm2)・・・(2)
次いで、必要に応じて、シール対象流体温度が高温(ここでは350℃)である温度条件下において、作動開始時、往復100回目、往復200回目、往復300回目、往復400回目、往復500回目における単位接触面積辺りの軸抵抗の平均値を下記式(3)より求める。
【0106】
「接触面積当たりの平均軸抵抗(N/mm2)」=(作動開始時、往復100回目、往復200回目、往復300回目、往復400回目および往復500回目の単位接触面積辺りの軸抵抗の合計値)/6・・・(3)
【0107】
[接触面積当たりの平均軸抵抗(N/mm2)]
上記のようにして測定した、本発明のパッキンの「接触面積当たりの平均軸抵抗(N/mm2)」は、本発明の目的を損なわない限り特に制限されないが、シール対象流体温度が高温(ここでは350℃)である温度条件下において、1.0〜5.1kN/mm2であることが、パッキンの潤滑特性やシール性の観点から好ましい。「接触面積当たりの平均軸抵抗(N/mm2)」が、温度条件下において、1.0kN/mm2より低くなると流体のシール性を充分に発揮できない恐れがある。
【0108】
[パッキンの用途]
本発明のパッキンは、例えば、バルブ軸封用、機器軸封用などの用途に用いることができる。
【0109】
また、パッキン表面の潤滑剤(B)に300℃以上(好ましくは300〜650℃)の熱が加わる環境下で使用することが、該パッキンがより優れた潤滑特性を発揮できる観点から好ましい。そのような環境としては、例えば、シール対象物質(シール流体などの)の温度、パッキン装置内部の温度、あるいは、パッキンと該パッキンに接する摺動部材(軸封装置の軸など)との摩擦熱などの温度が該範囲にある環境などが挙げられる。
【0110】
より具体的な態様としては、例えば、350〜650℃の流体(例えば、水蒸気、熱媒油等)に使用されるバルブ軸封用パッキンなどが挙げられる。
なお、パッキンにかかる圧力(締付圧力など)は、本発明の目的を損なわない範囲であれば特に制限されない。
【0111】
上記バルブ軸封用パッキンの具体例を図5に示す。
図5は、本発明に係るパッキン22が、スタフィングボックス20内に合計4個連設して装着された態様を示している。
【0112】
すなわち、スタフィングボックス20内のステム21には、本発明のパッキン22aがスタフィングボックス20の底部23に当接した状態で配置され、他の3つのグランドパッキン22b、22c、22dもこれに連設して装着されている。
【0113】
このようなパッキンの寸法は、その用途などによって異なり、一概に決定されないが、例えば、図5に示すパッキンでは、外径Rが0.5〜50cm程度であり、内径rが0.3〜45cm程度であり、パッキンの軸方向の長さ(厚み)L1が0.2〜25cm程度のものが挙げられる。
【0114】
本発明のパッキンは、上述の通り優れた潤滑特性を発揮するので、バルブ軸封用パッキンのように、バルブ軸が上下運動および/または回転運動に供しても、パッキンの表面の摩耗の有無に関わらず優れた潤滑特性を長期に渡って発揮でき、また、300℃以上の流体に使用されるバルブ軸封に供しても上記優れた潤滑特性を長期に渡って発揮することができる。
【実施例】
【0115】
以下、実施例および比較例を参照しながら本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、下記実施例および比較例で使用した物質は次の通りである。
膨張黒鉛:日本黒鉛(株)社製 EXP‐SM(商品名)
酸化ホウ素:キシダ化学(株)社製 特級 酸化ホウ素
【0116】
[実施例1]
常圧下、温度400℃の条件下で膨張させた上記膨張黒鉛の粉末90重量部に、上記酸化ホウ素の粉末10重量部を添加し、常温・常圧下で約1分間混合した。
次いで、得られた混合物を、金型内に装填し、常温、成形圧15MPaで、リング状(寸法:φ20mm×φ33mm×6.5mm(H))に圧縮成形した(外観は図2参照)。
【0117】
このようにして得られたパッキンの軸抵抗を下記の通り測定した。
まず、図1に示す軸抵抗測定装置1の各スタフィングボックス(パッキン箱)(パッキン面圧測定用ロードセル側スタフィングボックス2と油圧シリンダー側スタフィングボックス。以下同じ)に各パッキンを装着した(ランタンリングの上下に、寸法がφ20mm×φ33mm×6.5mm(H)の本発明のリングを5リング装着し、各パッキン(パッキン(ランタン上)12とパッキン(ランタン下)14。以下同じ)の上(ランタンリングに接する側の反対側)に寸法が上記同様のアダプターパッキンを上下に配置)。
【0118】
次いで、締付圧力39.2MPaで各パッキンをそれぞれパッキン抑え8で締付け(締付圧力はロードセル4で測定。以下同じ)、次いで軸9(軸径:φ20mm)を該軸の長軸方向に摺動幅5cm、摺動速度25mm/sで5回往復作動(回転を伴わない前進後進運動、以下同じ)させて慣らし運転した(シール対象流体の温度を常温とし、往復運動5回目の摺動抵抗値を、シール対象流体温度が常温での摺動抵抗値とした)。
【0119】
ここで、往復作動の条件は、具体的には次の通りとした。「上記軸を2秒で5cm前進させ、1秒停止させ、2秒で5cm後進させ、1秒停止させる」という6秒間の往復作動を1セットで1往復とした。すなわち、軸は1分間あたり10往復し、前進作動時および後進作動時の軸の速度は、それぞれ25mm/sであった。なお、この往復作動の条件は以下の高温(350℃)測定時も同じとした。
【0120】
次いで、締付圧力39.2MPaで各パッキンをパッキン抑え8で締付け、次いで軸9を該軸9の長軸方向に摺動幅5cm、摺動速度25mm/sで100回往復作動させて、シール対象流体温度が常温である時の摺動抵抗値をロードセル9にて測定した。
【0121】
次いで、締付圧力39.2MPaで各パッキンをパッキン抑え8で締付け、次いでシール対象流体の温度が350℃になるまで軸抵抗測定装置1内部をバンドヒーター6で加熱した。
【0122】
次いで、同温で軸9を該軸9の長軸方向に摺動幅5cm、摺動速度25mm/sで5回往復作動させて慣らし運転した(往復運動5回目をシール対象流体温度が350℃である温度条件下における摺動抵抗値とした)。
【0123】
次いで、同温で締付圧力39.2MPaで各パッキンをパッキン抑え8で締付け、次いで同温で軸9を該軸9の長軸方向に摺動幅5cm、摺動速度25mm/sで往復作動させて、シール対象流体温度が高温(ここでは350℃)である時の往復運動100回目の摺動抵抗値をロードセル10にて測定した。
【0124】
次いで、同条件で軸を往復で200回、300回、400回、500回と続けて往復作動させて、往復運動200回目、往復運動300回目、往復運動400回目、往復運動500回目のそれぞれの時点における軸抵抗をロードセル10にて測定した。
【0125】
得られたグラフから、シール対象流体の温度が常温または350℃である温度条件下における規定往復回数時の軸抵抗値は、次の通り求めた。
規定往復回数時の軸抵抗(gf)={規定往復回数時の前進時の軸抵抗の最大値(絶対値、gf)+規定往復回数時の後退時の軸抵抗の最大値(絶対値、gf)}/2・・・(1’)
【0126】
次いで、得られた軸抵抗の単位(gf)をN(ニュートン)に換算した。
次いで、下記式(2)に従い、上記軸抵抗値(N)をパッキンの軸に対する接触面積(mm2)で除して、単位接触面積辺りの軸抵抗(N/mm2)を求めた。
単位接触面積辺りの軸抵抗(kN)=軸抵抗(kN)/軸に対するパッキンの接触面積(mm2)・・・(2)
【0127】
そして、同じく、作動開始時(往復5回目)、往復100回目、往復200回目、往復300回目、往復400回目、往復500回目における単位接触面積辺りの軸抵抗を求め、さらに、下記式(3)に従い、シール対象流体温度が350℃である温度条件下における「単位接触面積辺りの平均軸抵抗(kN/mm2)」についても求めた。
「接触面積当たりの平均軸抵抗(kN/mm2)」=(作動開始時(往復5回目)、往復100回目、往復200回目、往復300回目、往復400回目および往復500回目における単位接触面積辺りの軸抵抗の合計値)/6・・・(3)
結果を表1に示す。
【0128】
[実施例2]
実施例1において、膨張黒鉛95重量部、酸化ホウ素の量を5重量部とした以外は実施例1と同様に実施した。
結果を表1に示す。
【0129】
[実施例3]
実施例2において、得られた成形体を、常圧、温度300℃の条件下で10分加熱し、常圧、室温(約25℃)の条件下で60分放置して加熱処理した成形体を冷却し(冷却後の成形体の温度は常温であった)、次いで、常温、常圧下で約1分間圧力をかけることで再度リング状(寸法:φ20mm×φ33mm×6.5mm(H))に圧縮成形し、リング状パッキンを得た以外は実施例1と同様に実施した(外観は図3参照)。
結果を表1に示す。
【0130】
[実施例4]
実施例1において、膨張黒鉛90重量部に、酸化ホウ素5重量部の他に、二硫化モリブデン5重量部を添加して混合を行った以外は実施例1と同様に実施した。
結果を表1に示す。
【0131】
[比較例1]
実施例1において、酸化ホウ素を用いなかった以外は、実施例1と同様に実施した。
結果を表1に示す。
【0132】
[比較例2]
実施例1において、酸化ホウ素の替わりに二硫化モリブデンを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
結果を表1に示す。
【0133】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明のパッキンでは、優れた潤滑特性を長期に渡って発揮できるため、種々のパッキン、例えば軸封バルブ用のパッキンなどに好適に使用できる。
また、本発明のパッキンは、特に高温下(例えば300℃〜650℃の熱に接触する環境)でより優れた潤滑特性を発揮するため、例えば、パッキンに接触する流体の温度が300℃〜650℃である軸封バルブ用のパッキンにも好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0135】
1・・・軸抵抗測定装置
2・・・パッキン面圧測定用ロードセル側スタフィングボックス
3・・・油圧シリンダー側スタフィングボックス
4・・・(パッキン面圧測定用)ロードセル
5・・・バンドヒーター
6・・・加圧孔
7・・・リークオフ
8・・・グランド押さえ
9・・・軸
10・・・(軸抵抗測定用)ロードセル
11・・・油圧シリンダー
12・・・パッキン(ランタン上)
13・・・ランタンリング
14・・・パッキン(ランタン下)
15・・・シール部
16・・・ケーシング
17・・・中心軸(軸抵抗値0)
18・・・前進時の軸抵抗値(中心軸より上の領域。絶対値で表し、単位はkgf)
19・・・後退時の軸抵抗値(中心軸より下の領域。絶対値で表し、単位はkgf)
20・・・スタフィングボックス
21・・・ステム
22・・・グランドパッキン
23・・・スタフィングボックスの底部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、膨張黒鉛(A)と常温で固体の潤滑剤(B)とを混合し、得られた混合物を圧縮成形して得られ、
該潤滑剤(B)として、融点が300〜650℃である無機化合物を少なくとも1種含むことを特徴とするパッキン。
【請求項2】
前記混合物を10〜30MPaの条件で圧縮成形して得られることを特徴とする請求項1に記載のパッキン。
【請求項3】
前記潤滑剤(B)が、酸化ホウ素であることを特徴とする請求項1または2に記載のパッキン。
【請求項4】
前記潤滑剤(B)が、膨張黒鉛(A)100重量部に対して3〜25重量部の量で含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のパッキン。
【請求項5】
前記潤滑剤(B)が、パッキン全体を100重量%としたとき、3〜20重量%の量で含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のパッキン。
【請求項6】
前記混合物または前記圧縮成形により得られた成形体を300〜650℃で10分〜2時間加熱処理することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のパッキン。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−246973(P2012−246973A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117892(P2011−117892)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000229564)日本バルカー工業株式会社 (145)
【Fターム(参考)】