パッシブレーダ装置、誘導装置及び電波検出方法
【課題】 目標からのレーダ波の開始周波数を高い精度で検出し、その開始周波数を用いてパルス圧縮を行うことが可能なパッシブレーダ装置、誘導装置及び電波検出方法を提供する。
【解決手段】 パッシブレーダ装置は、受信部、パルス圧縮部、ピーク選択部、フーリエ変換部、パラメータ抽出部及び再パルス圧縮部を具備する。受信部は、電波を受信し、受信信号に変換する。パルス圧縮部は、チャープレート及び開始周波数の概算値に基づいて、受信信号に対してパルス圧縮を行う。ピーク選択部は、パルス圧縮波形に含まれるピークから所定のピークを抽出する。フーリエ変換部は、抽出したピークに対してフーリエ変換を行う。パラメータ抽出部は、フーリエ変換後のパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出する。再パルス圧縮部は、検出された開始周波数とチャープレートとに基づいて受信信号に対して再度のパルス圧縮を行う。
【解決手段】 パッシブレーダ装置は、受信部、パルス圧縮部、ピーク選択部、フーリエ変換部、パラメータ抽出部及び再パルス圧縮部を具備する。受信部は、電波を受信し、受信信号に変換する。パルス圧縮部は、チャープレート及び開始周波数の概算値に基づいて、受信信号に対してパルス圧縮を行う。ピーク選択部は、パルス圧縮波形に含まれるピークから所定のピークを抽出する。フーリエ変換部は、抽出したピークに対してフーリエ変換を行う。パラメータ抽出部は、フーリエ変換後のパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出する。再パルス圧縮部は、検出された開始周波数とチャープレートとに基づいて受信信号に対して再度のパルス圧縮を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送信源からレーダ波の到来を検出するパッシブレーダ装置、誘導装置及び電波検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目標を検出するレーダ装置の種類の1つにパッシブレーダ装置がある。パッシブレーダ装置は、目標が電波を出力している場合に、目標からの電波を捕捉して、目標の方向を検出する装置である。パッシブレーダ装置が電波を受信する際、受信帯域内に複数の電波が混在している場合、又は、同じ目標からの電波であっても、障害物等で反射した成分であるマルチパス成分が多数混在している場合がある。ここで、マルチパス成分とは、他の障害物に当たって反射して届いた成分である。そのため、マルチパス成分の到来方向は、障害物の方向を示しており、目標の方向は示さない。
【0003】
目標の正確な方向を知るためには、目標からの電波を選別する必要、及び、マルチパス成分でない電波、つまり、目標からの直接波を検出する必要がある。なお、直接波は、目標からのレーダ波の中で必ず一番始めに到着する。
【0004】
ところで、目標が送出する電波がチャープパルスレーダ波である場合、受信波をパルス圧縮し、パルス圧縮出来たかどうかで目標からのレーダ波の捕捉を確認する。パルス圧縮は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)及びIFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)を利用して行われる。このとき、FFT変換及びIFFT変換によって得られる波形は、始点と終点が連続している繰り返し波形である。目標からのレーダ波の正しい開始周波数が得られない場合、パルス圧縮波形の時間が回転するように動く。このため、本来先頭にあるはずの直接波が、波形の最後尾に現れてしまい、先頭のパルスを正しく特定出来ない場合がある。このような場合、マルチパス成分を除去することができず、目標の正確な方向を取得することができない。
【0005】
なお、パルス圧縮するために必要な正確な諸元の検出であるチャープレット変換を利用することにより、目標からのレーダ波の開始周波数を特定することは可能である。しかしながら、この手法では、処理量が非常に多く、搭載する機器によっては採用が困難であることがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W. Li, "Wigner distribution method equivalent to dechirp method for detecting a chirp signal," IEEE Trans. Acoustics, Speech, and Signal Processing, Vol. ASSP-35, No. 8, pp. 1210-1211, 1987
【非特許文献2】S.Mann and S. Haykin, "The chirplet transform: physical considerations," IEEE Trans. Signal Processing, Vol. 43, No. 11, pp. 2745-2761, 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、パッシブレーダ装置では、パルス圧縮を行うことで目標からのレーダ波の捕捉を確認するが、チャープパルスの開始周波数が正確でない場合、目標の方向を正確に取得することができない。そのため、目標の方向を正確に取得するためには、目標からのレーダ波の開始周波数を高い精度で検出し、その開始周波数を用いてパルス圧縮を行う必要がある。しかしながら、レーダ波には目標からのレーダ波以外に種々の干渉波が加わっていることがあり、レーダ波のスペクトルから正確な開始周波数を検出することは困難である。
【0008】
そこで、目的は、目標からのレーダ波の開始周波数を高い精度で検出し、その開始周波数を用いてパルス圧縮を行うことが可能なパッシブレーダ装置、誘導装置及び電波検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、パッシブレーダ装置は、受信部、パルス圧縮部、ピーク選択部、フーリエ変換部、パラメータ抽出部及び再パルス圧縮部を具備する。受信部は、検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記電波に受信処理を施して受信信号に変換する。パルス圧縮部は、設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行う。ピーク選択部は、前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出する。フーリエ変換部は、前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行う。パラメータ抽出部は、前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出する。再パルス圧縮部は、前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行う。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1のパッシブレーダ装置についてのシミュレーションで用いられる受信信号の例を示す図である。
【図3】図2の受信信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図4】図1のパルス圧縮部で、正しい開始周波数によりパルス圧縮した際のパルス圧縮波形を示す図である。
【図5】図1のパルス圧縮部で、正方向に1MHzずれた開始周波数によりパルス圧縮した際のパルス圧縮波形を示す図である。
【図6】図1のパルス圧縮部で、負方向に1MHzずれた開始周波数によりパルス圧縮した際のパルス圧縮波形を示す図である。
【図7】図5のパルス圧縮波形の一部を拡大した図である。
【図8】図5に含まれるピークのうち、最もSNRが高いピークを示す図である。
【図9】図8で示すピークを抽出した図である。
【図10】図9の波形をフーリエ変換した際のパルススペクトルを示す図である。
【図11】図10の一部を拡大した図である。
【図12】ピークを抽出する範囲内に、他のピークが存在する場合の例を示す図である。
【図13】図1の再パルス圧縮部での再パルス圧縮により生成されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図14】図1の制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】図1のパルス圧縮部の機能構成のその他の例を示す図である。
【図16】図15のチャープレート検出部でのGabor変換による時間−周波数マップの一例を示す図である。
【図17】図16に示す時間−周波数マップに対する処理の例を示す図である。
【図18】図16を得るために利用した信号と同じ信号をRadon-Ambiguity変換して得た遅延量−周波数差マップを示す図である。
【図19】正しいチャープレートに対して2割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図20】正しいチャープレートに対して1割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図21】正しいチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図22】3種類の条件A、B、Cに対して、第3番目の方法を適用した結果を示す図である。
【図23】図1のパルス圧縮部がチャープレート検出部を備える際の、制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図24】図1のパルスパラメータ検出部の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【図25】図24の逆フーリエ変換部による逆フーリエ変換の結果を示す図である。
【図26】図1のパルスパラメータ検出部の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【図27】第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図28】第1又は第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置を用いた誘導装置の機能構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面では、実施形態での動作に直接関連する部分のみを記載しており、実施形態での動作と関連しないブロックは、実際の動作に必要であっても記載を省略し、また、説明を省略している。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1の機能構成を示すブロック図である。図1に示すパッシブレーダ装置1は、受信部11、パルス圧縮部12、パルスパラメータ検出部13、再パルス圧縮部14及び制御部15を具備する。
【0013】
受信部11は、アンテナ111及び受信処理部112を備える。アンテナ111は、検出目標のレーダ装置が出力したチャープパルスを含むと予想される電波を受信する。アンテナ111は、目標がレーダ波を出力しており、パッシブレーダ装置1がレーダ波を受信できる距離の範囲内に位置し、アンテナ111の指向性がおおよその目標の方向に向いていれば、いずれかのタイミングでレーダ波を受信する。パッシブレーダ装置1では、受信した信号を時間方向にゲートに区切って出力していくが、ゲート長が目標からのレーダ波の繰り返し周期以上であれば、ゲート内で1パルス以上は受信できる。ゲート長が繰り返し周期より短い場合には、繰り返し周期相当の長さの間、途切れないように複数のゲートを定義して、それぞれについて処理を行えばよい。
【0014】
受信処理部112は、アンテナ111で受信した電波を、増幅、ベースバンド変換、アナログ−デジタル変換する。受信処理部112は、その位相情報を保持するように、デジタル化した信号のI(同相)成分及びQ(直交)成分それぞれを直流近傍に変換する。受信処理部112は、このようにベースバンド近傍の受信信号を生成する。なお、受信処理部112以降では、受信信号のI,Q成分を位相情報を有する複素信号として扱って処理する。
【0015】
受信処理部112で生成される受信信号は、2分岐され、一方はパルス圧縮部12へ出力され、他方は再パルス圧縮部14へ出力される。
【0016】
パルス圧縮部12は、第1のフィルタ生成部121及び第1の圧縮波形生成部122を備える。
【0017】
第1のフィルタ生成部121は、第1の圧縮波形生成部122でパルス圧縮するためのパルス圧縮フィルタを生成する。このとき、第1のフィルタ生成部121には、複数のチャープレートと、開始周波数及びその他の諸元についての概算値とが予め記憶されている。第1のフィルタ生成部121は、複数のチャープレートの中から、受信信号のパルス圧縮後のピーク高さを最大にすると予想されるチャープレートを選択する。第1のフィルタ生成部121は、選択したチャープレートと、開始周波数及びその他の諸元の概算値とを参照してパルス圧縮フィルタを生成する。第1のフィルタ生成部121は、生成したパルス圧縮フィルタを第1の圧縮波形生成部122へ出力する。
【0018】
第1の圧縮波形生成部122は、第1のフィルタ生成部121で生成されたパルス圧縮フィルタにより、受信信号をパルス圧縮し、パルス圧縮後のデータをパルスパラメータ検出部13へ出力する。
【0019】
パルスパラメータ検出部13は、ピーク選択部131、フーリエ変換部132及びパラメータ抽出部133を備える。
【0020】
ピーク選択部131は、パルス圧縮後のデータに基づいて、信号品質が最も高く、かつ、極力他のピークから孤立したピークと、その周辺の波形とを抽出する。ピーク選択部131は、抽出したデータをフーリエ変換部132へ出力する。
【0021】
フーリエ変換部132は、ピーク選択部131で抽出されたデータに対してFFT処理を施し、周波数スペクトルに変換する。フーリエ変換部132は、FFT処理後のデータをパラメータ抽出部133へ出力する。
【0022】
パラメータ抽出部133は、フーリエ変換部132からの周波数スペクトルに基づいて、目標が出力したチャープパルスの開始周波数を検出する。パラメータ抽出部133は、検出した開始周波数を、再パルス圧縮部14へ出力する。
【0023】
再パルス圧縮部14は、第2のフィルタ生成部141及び第2の圧縮波形生成部142を備える。
【0024】
第2のフィルタ生成部141は、第2の圧縮波形生成部142でパルス圧縮するためのパルス圧縮フィルタを再生成する。このとき、第2のフィルタ生成部141は、予め設定されたチャープレートと、パラメータ抽出部133で検出した開始周波数を利用して、より精度の高いパルス圧縮フィルタを生成する。
【0025】
第2の圧縮波形生成部142は、第2のフィルタ生成部141で作成されたパルス圧縮フィルタにより、受信信号をパルス圧縮し、パルス圧縮後のデータを後段へ出力する。
【0026】
なお、第2の圧縮波形生成部142は、精度の高いパルス圧縮フィルタが一旦生成出来たならば、次からは、受信信号を直接そのパルス圧縮フィルタで圧縮する。パルス圧縮部12及びパルスパラメータ検出部13による処理は、受信開始時点、又は、目標からのレーダ波を見失った後等の必要な場合にのみ行えば良い。
【0027】
制御部15は、パッシブレーダ装置1の全体の動作を制御する。
【0028】
次に、シミュレーション波形例を利用して、パッシブレーダ装置の動作をより詳細に説明する。
【0029】
図2,3は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1についてのシミュレーションで用いられる受信信号の例である。図2は、検出したい目標からのレーダ波、多数の干渉波及び目標からのレーダ波のマルチパス成分が複数加わった電波が、受信部11でベースバンド近傍の受信信号に変換された際の実部の振幅を示す図である。また、図3は、図2に示した受信信号の周波数スペクトルを示す図である。目標からのレーダ波のチャープパルスは、もともとは矩形であるが、図2の波形からは、それを推測することは難しい。レーダ波は、周波数−1MHz〜9MHzの間に主なエネルギーが存在するが、図3の周波数スペクトルからそれを正確に検出することは難しい。
【0030】
図4〜6は、図2,3に示す受信信号を、パルス圧縮部12でパルス圧縮したパルス圧縮波形を示す図である。このとき、パルス圧縮は、誤差が0.2%程度の精度の高いチャープレートと、精度の低い開始周波数概算値とに基づいて生成されたパルス圧縮フィルタによって行われる。なお、図4では開始周波数が正しく、図5では開始周波数が正に1MHzずれており、図6では開始周波数が負に1MHzずれている。
【0031】
図4〜6では、チャープレートの誤差が小さいため、パルス圧縮後のパルス圧縮波形は十分に幅が細く、かつ、十分な高さとなっている。しかし、開始周波数に誤差がある場合、パルス圧縮波形の遅延量がずれる。すなわち、図4では開始周波数が正しいため、ピークが本来あるべき時刻を示す○印とピークとの位置が一致しているが、図5,6では、開始周波数がずれているため、○印とピークとの位置が異なっている。特に、図6の波形では、本来最も早い時刻にあるべきピークが、波形の最後尾に現れている。これは、パルス圧縮が、離散フーリエ変換・離散逆フーリエ変換を利用して行われており、遅延量のずれによって波形が回転するように動くためである。
【0032】
レーダ波の受信結果を、目標の追跡に利用する場合、目標からの直接波、すなわち、最も遅延が小さいピークを抽出して、角度検出する必要がある。しかし、図6のようなパルス圧縮波形では、最も時刻の早いピークは、目標からの直接波ではない。直接波は波形の最後尾に回り込んでいる。したがって、このような状態では、直接波を正しく識別することが出来ない。そのため、開始周波数の精度の高い検出が必要である。
【0033】
ここでは、仮に、図5に示すパルス圧縮波形が、パルス圧縮部12で得られたとして、以下の説明を行う。
【0034】
パルスパラメータ検出部13のピーク選択部131は、図5に示すパルス圧縮波形から、最もSNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)が高いと予想されるピークを選択する。
【0035】
図7は、パルス圧縮波形の一部を拡大した図である。図5では、線のように見えるピークも、実際には、広がりを持っており、また、そのサイドローブが周辺に広がっている。SNRは、図7の「信号部分」で示すピークのメインローブの広がりの部分に含まれる波形のエネルギー(パワーの合計)と、「雑音部分」で示す、ピークの外側で、主としてサイドローブが存在する部分に含まれる波形のエネルギーとの比から算出する。ピーク選択部131は、図5に示すピーク毎にSNRを計算する。
【0036】
なお、ピークの選択の際、信号部分の幅及び雑音部分の幅は、パルス圧縮時に利用した窓波形から決定するとよい。信号部分の幅は、窓波形から決定するメインローブの幅であり、例えば、3dBダウンの幅、10dBダウンの幅、又は、最初のヌルまでの幅等と決定する。雑音部分の幅は、窓波形から決定する1パルスのエネルギーの何%(例えば95%、99%等)までを含むピークを中央する幅を決定し、その幅から信号部分を除外した部分と定義すればよい。
【0037】
なお、パルス圧縮波形は、高さが異なる多数のピークを持っており、いずれのピークを検出対象候補とするかは通常のレーダで行うような閾値判定によって決定すればよい。雑音レベルを検出してCFAR(Constant False Alarm Rate)検出をしても良いし、最大ピークからのダイナミックレンジで決定しても良い。
【0038】
ピーク選択部131は、このようにして計算したSNRが最も高いピークを選択する。図5では、図8で丸で囲んだピークが最もSNRが高いので、これを選択する。
【0039】
また、ピーク選択の指標として、上記のようなSNRではなく、より簡便な方法として、ピークの高さと、雑音部分に含まれる他のピークの高さの合計値の比といった指標を用いても良い。
【0040】
ピーク選択部131は、ピークを一つ選択したら、選択したピークのみを抽出する。具体的には、図9に示すようにパルス圧縮波形のうち、選択したピークの周辺の所定の幅を除いて、他を0で置き換える。
【0041】
フーリエ変換部132は、ピーク選択部131で抽出されたピークに対して、フーリエ変換を行なう。図10は、図9をフーリエ変換した結果のパルススペクトルである。また、図11は、図10の拡大図である。
【0042】
図9のように、元の波形のサンプル間隔、サンプル数を維持したまま、選択したピーク周辺以外を0で置き換えた場合、変換後に得られるスペクトルのビン間隔は、元の波形の全長さで決定する細かさとなる。検出精度を多少落としても良いならば、全長さより短い、抽出するピークの周辺の一定の長さとしてもよい。また、逆に、より高い精度が必要ならば、元の波形の外にさらに0を足しても良い。いずれにしても、フーリエ変換上真に有効なのは、抽出したピーク周辺に残した信号の幅であって、それ以外の0は、スペクトルの点と点の間を補間するのみであるため、著しい精度の改善はない。検出時の細かさといった程度の変化である。したがって、ピーク周辺で残す長さは、これをフーリエ変換した後のスペクトルが著しく広がったり、なまったりしまわない程度の長さとすると良い。ピーク周辺で残す長さが短すぎて、パルスの情報の重要な一部が欠けてしまわない程度の長さとする必要がある。そのためには、パルススペクトル形状の概算値が既知であれば、それに基づいて、その形状とパルス波形を得た際の窓波形とで決定する有意な成分が、ピーク周辺で残す長さに含まれるように決定すれば良い。例えば、ピーク周辺で残す長さにエネルギーの何%を含むようにというように決定すれば良い。
【0043】
残す長さが、有意な成分が十分に含まれる長さとなっているならば、残す長さと、フーリエ変換の際に利用する窓波形とから、長さが有限であるために発生したスペクトルの広がりを予測することが出来る。そこで、その分の広がりについては、フーリエ変換により得られたパルススペクトルを、予測されるスペクトル広がり量で補正すれば良い。このため、パルス圧縮波形内のピークがいずれのピークも非常に近接しており、孤立したピークを得にくい場合には、ピーク周辺で残す長さをやや短めにとって、干渉を抑圧し、かつ、短めに取ったために発生したスペクトル広がりを補正するような形を取っても良い。
【0044】
図10に示すパルススペクトルは、図3と比較して、非常に明瞭で矩形に近い形状となっている。負の周波数側に若干干渉波成分が残っているが、これは、ピークを抽出する際の範囲内に存在した干渉波の成分である。パルス圧縮波形全体から、小さい一部分のみを抜き出したため、含まれる干渉波の量が小さく、問題のないレベルまで下がっている。
【0045】
なお、SNRが最も高いピークを検出するのは、得られるパルススペクトルに含まれる所望のレーダ波以外の成分を可能な限り少なくするためである。
【0046】
なお、ピークを抽出する範囲内には、可能な限り他のピークが無い方がよいが、波形によっては、そのようなピークが1つも得られない場合がある。その場合は、次の様にすると良い。図12(a)〜(d)を用いて説明する。図12(a)はパルス圧縮波形であり、図12(b)はその拡大図である。図12(a)(b)によれば、このパルス圧縮波形には、有効なピークが2つしかなく、それらは非常に近接している。このような場合、2つ双方を含む状態のままフーリエ変換すると、2つのパルスが干渉して非常に極端な凹凸を持つスペクトルとなってしまう。また、ここまで極端な例ではなくても、ピークを抽出する範囲内に他のピークがいる場合、それらのピークが干渉しあって、波形の凹凸が大きくなる。
【0047】
そこで、ピーク選択部131は、全てのピークに関してSNRを検出した後、SNRが最も大きいピークを残し、その抽出範囲内にある他のピークについて、そのメインローブに相当する部分を0で置き換える。その様子を図12(c)に示す。除去するメインローブの範囲は、例えば、除去したいピークの最大値からそこから最も近い極小値までの間とすればよい。この時、除去する対象のピークは、パルス圧縮波形からピーク検出した際に検出されたピークとしても良いし、より小さいピークの影響も排除するために、ピーク検出閾値を下げて、ピーク抽出範囲でピークの再検出を行い、そこで検出されたより小さいピークも含む全ての他のピークを除去の対象としても良い。
【0048】
図12(d)は、図12(c)のパルス圧縮波形を、フーリエ変換部132でフーリエ変換した結果を示す図である。図12(c)の波形は、単一パルスのパルス圧縮波形としては、理想からかけ離れた波形であるため、図12(d)のパルススペクトルも図10のような理想的なパルススペクトルとはなっていない。しかし、この程度の形状の乱れであれば、パラメータ抽出部133で検出されるチャープパルスの諸元の検出精度には大きな影響はない。
【0049】
パラメータ抽出部133は、フーリエ変換部132で取得されたパルススペクトルに基づいて、図11に示すように、開始周波数を検出する。すなわち、パラメータ抽出部133は、パルススペクトルのパワーの最大値を検出し、そこから所定値下がった所の周波数を検出する。このとき、パラメータ抽出部133は、チャープレートが正であるならば、小さい側の周波数の端を検出し、チャープレートが負であるならば、大きい側の周波数の端を検出する。ここで利用しているシミュレーション波形例では、チャープレートが正の場合を想定しているため、小さい側の周波数の端を開始周波数として検出する。所定値は、スペクトルの凹凸の影響を多少受けても、開始周波数を間違えない程度に大きい値、例えば10dBといった値とすると良い。ただし、例えば10dB下がった所の周波数を検出すると若干外側の周波数を検出してしまう。検出精度に大きな影響を与えないことも多いが、より高い精度で検出したいならば、例えば、10dB下がった周波数を検出したら、そこから3dB又は2dBの点まで戻った点の周波数を検出値とすると良い。
【0050】
なお、チャープパルスの諸元の検出の目的が、より高品質にパルス圧縮されたパルス圧縮波形を取得するためのみであれば、チャープレートと開始周波数とを検出すれば良い。しかし、他の目的、例えば、既知である諸元概要と、検出されたチャープパルスの諸元とがおおよそ一致することで、検出したチャープパルスが確かに追跡したい目標が出力したチャープパルスであることを確認する、といった目的があるならば、開始周波数以外の諸元の検出も行う。
【0051】
例えば、図11より、開始周波数の検出に伴って、パルスの帯域幅を容易に検出出来ることが分かる。帯域幅は、小さい側の周波数の端と大きい側の周波数の端の双方を検出し、その差を計算すれば求められる。帯域幅は、再パルス圧縮部14でのパルス圧縮に用いられるパルス圧縮フィルタの生成には必要がない諸元である。パラメータ抽出部133は、このような諸元を、検出したチャープパルスが確かに目標からのものであるかを判定する構成部(図示せず)へ出力する。
【0052】
第2のフィルタ生成部141は、最初のパルス圧縮に利用したチャープレートと、パラメータ抽出部133で検出した開始周波数とから、より精度の高いパルス圧縮フィルタを生成する。開始周波数が正しい値に近いため、第2の圧縮波形生成部142で生成されるパルス圧縮波形は、図5,6に示すパルス時刻のずれが起こりにくくなる。図13は、新しく生成されたパルス圧縮フィルタにより生成されるパルス圧縮波形を示す図である。ピークの時刻がほぼ○印と一致しており、先頭のピークを間違える確率が下がっていることが分かる。
【0053】
次に、上記構成のパッシブレーダ装置1における受信信号の処理手順を説明する。
【0054】
図14は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1の制御部15の処理手順を示すフローチャートである。
【0055】
まず、制御部15は、受信処理部112で受信処理が行われると、高い精度のチャープレートと、正確な開始周波数とに基づいて生成されたパルス圧縮フィルタ、つまり、第2のフィルタ生成部141で生成されたパルス圧縮フィルタが存在するか否かを判断する(ステップS141)。存在する場合(ステップS141のYes)、制御部15は、第2の圧縮波形生成部142に、受信信号をそのパルス圧縮フィルタでパルス圧縮させる(ステップS142)。
【0056】
ステップS141においてパルス圧縮フィルタが存在しない場合(ステップS141のNo)、制御部15は、予め設定されたチャープレートと、開始周波数の概算値とを利用し、第1のフィルタ生成部121にパルス圧縮フィルタを生成させる(ステップS143)。制御部15は、第1のフィルタ生成部121で生成されたパルス圧縮フィルタを利用して、第1の圧縮波形生成部122に受信信号のパルス圧縮を行わせる(ステップS144)。
【0057】
続いて、制御部15は、ピーク選択部131に、パルス圧縮部12からのパルス圧縮波形から閾値を超える1つ以上のピークの検出を行わせる。制御部15は、ピーク選択部131に、検出したピークのSNRを計算させる(ステップS145)。そして、制御部15は、ピーク選択部131に、SNRの最も高いピークを選択させ、選択したピークの周辺を抽出させる(ステップS146)。
【0058】
制御部15は、フーリエ変換部132に、ピーク選択部131で抽出されたピークのフーリエ変換を行わせる(ステップS147)。そして、制御部15は、パラメータ抽出部133に、フーリエ変換後のパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出させる(ステップS148)。
【0059】
続いて、制御部15は、予め設定されたチャープレートと、検出した開始周波数とを利用して、第2のフィルタ生成部141にパルス圧縮フィルタを再度生成させ(ステップS149)、処理をステップS142へ移行する。
【0060】
以上のように、第1の実施形態では、ピーク選択部131でパルス圧縮波形から所定のピークを抽出し、抽出したピークに対してフーリエ変換部132でFFT処理を施す。そして、フーリエ変換部132からのパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出する。このように、ピーク選択部131及びフーリエ変換部132により、雑音及び干渉波を除去した単一のパルスに近いスペクトルを得ることが可能となる。これにより、開始周波数を高い精度で求めることが可能となる。
【0061】
また、パッシブレーダ装置1が目標を捜索する段階の始めでは、受信信号の諸元の概要のみが既知であって、精度の高いパルス圧縮のために必要なパルス圧縮フィルタを生成出来ない。そこで、パッシブレーダ装置1は、検出した開始周波数を用い、第2のフィルタ生成部141でパルス圧縮フィルタを再度生成し、第2の圧縮波形生成部142でパルス圧縮を行う。そして、精度の高いパルス圧縮フィルタを一旦生成出来たならば、次からは、受信信号を直接そのパルス圧縮フィルタで圧縮するようにしている。これにより、パッシブレーダ装置1は、精度の高い開始周波数を用いてパルス圧縮することが可能となる。
【0062】
したがって、上記第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1によれば、目標からのレーダ波の開始周波数を高い精度で検出し、その開始周波数を用いてパルス圧縮を行うことができる。
【0063】
なお、上記第1の実施形態では、適切なパルス圧縮フィルタを生成するためのチャープレートが予め設定されている場合を例に説明した。しかしながら、チャープレートは、受信信号から検出するようにしてもよい。
【0064】
図15は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1のパルス圧縮部16の機能構成を示す図である。図15に示すパルス圧縮部16は、チャープレート検出部161、第1のフィルタ生成部121及び第1の圧縮波形生成部122を備える。
【0065】
受信部11から入力される受信信号は、パルス圧縮部16内で2分岐される。一方は、チャープレート検出部161へ出力され、他方は第1の圧縮波形生成部122へ出力される。
【0066】
チャープレート検出部161は、取得した受信信号から精度の高いチャープレートを検出し、検出したチャープレートを第1のフィルタ生成部121へ出力する。また、チャープレート検出部161は、検出したチャープレートを再パルス圧縮部14へ出力する。
【0067】
フィルタ生成部121は、検出されたチャープレートを利用してパルス圧縮フィルタを生成する。第1の圧縮波形生成部122は、生成されたパルス圧縮フィルタを用いて受信信号をパルス圧縮する。
【0068】
以下に、具体的なチャープレート検出方法を幾つか説明する。
【0069】
まず、第1番目の方法は、Wigner分布法(W. Li, “Wigner distribution method equivalent to dechirp method for detecting a chirp signal,” IEEE Trans. Acoustics, Speech, and Signal Processing, Vol.ASSP-35, No.8, pp.1210-1211, 1987)を利用する方法である。
【0070】
Wigner分布法は、Wigner変換によって瞬時周波数の時間−周波数マップを作成し、そのマップに現れた、チャープパルスに関する直線の傾きをチャープレートとして検出する方法である。ここで、時間−周波数マップとは、ガウス窓(フィルタ)の中心時刻をスライドさせていくことによって、その窓の有意な範囲が存在する時刻における主要な周波数成分の推移を観測したものである。Wigner変換は、瞬時周波数を検出する方法の1つであり、詳細は省略するが、非線形な処理であるため、第1の実施形態で想定しているような多数のマルチパスが存在している状況では、本来、存在しないはずのチャープパルスを出力してしまう。そこで、ここでは、若干精度は劣るものの線形処理であるGabor変換による時間−周波数マップを利用する。以下、Gabor変換の時間−周波数マップを利用して、Wigner分布法を説明する。
【0071】
図16は、Gabor変換による時間−周波数マップの一例を示す図である。Gabor変換は、受信信号に対して、その時間波形の長さよりも有効な長さが十分に短いガウス窓を掛けてフーリエ変換する方法である。図16では、傾きがほぼ同じである5本の直線のグループ、2本の直線のグループ、その他に、弱い縦縞状の多数の直線と、ある時刻範囲のみで横方向に漫然と広がった弱い成分が見られる。チャープパルスは、時刻と共に周波数が変化する成分、すなわち、斜めに傾いた直線として現れるため、5本の直線のグループと、2本の直線のグループがチャープパルスである。
【0072】
Wigner分布法では、このような時間−周波数マップに対してRadon変換を施す。Radon変換とは、マップ上の1点を通る直線を定義し、その線上のマップ値を積分する変換である。ここでは、時間−周波数マップのスペクトルの振幅又はパワーを積分する。図17のように、マップ上で直線が通過する点を種々変更しながら、それぞれの点で傾きの異なる直線を複数定義し、そのRadon変換を計算する。チャープパルスと良く重なる直線でRadon変換を行うと、その結果の値が大きくなる。種々の通過点、傾きに対して求めたRadon変換値に対して閾値判定を施すことによって、有意なチャープレートの有無が検出出来る。有意なチャープレートが存在する場合には、その値を判定できる。閾値判定に利用する閾値は、雑音レベルを基準にその何倍、といった風に決定すればよい。
【0073】
チャープレートの概算値は既知であるため、直線の傾きを振る範囲を、その概算値から予想される誤差の範囲内に留めておくことによって、全く関係のない他の諸元のチャープパルスを検出してしまうことを防ぐことが出来る。図17の例では、仮に5本の直線のグループが目標からのレーダ波であるとすると、直線の傾きの範囲を矢印で示した範囲のように、既知であるその概算値の周辺に限定することによって、2本の直線のグループのチャープレートを検出しないようにすることが出来る。例えば、概算値の誤差が10%程度と予測されているならば、それに若干の余裕を持たせて概算値からせいぜい±20%程度の範囲に絞っておくと良い。
【0074】
なお、計算量に余裕があるならば、直線が通る点を網羅的にスキャンすればよい。それでは計算量が多すぎる場合には、マップ上のパワーの極大値を直線が通る点として何点か選択すると良い。
【0075】
第2番目の方法は、Radon-Ambiguity変換(Minsheng Wang; Chan, A.K.; Chui, C.K., “Linear frequency-modulated signal detection using Radon-ambiguity transform,” IEEE Transactions on Signal Processing, Vol.46, No.3, pp.571-586, 1998)を利用する方法である。Wigner分布法では、Wigner変換結果(上記の例ではGabor変換結果)である時間−周波数マップを利用したが、Radon-Ambiguity変換では、Wigner変換結果の代わりに、Ambiguity関数を利用する。
【0076】
Ambiguity関数とは、次式のような関数である。
【数1】
【0077】
ただし、rは入力信号、tは時間、τは遅延、ωは周波数である。入力信号の遅延τの周りの自己相関を計算し、これをフーリエ変換して自己相関の周波数スペクトルを計算する。その際、遅延を種々振って、遅延ごとのスペクトルを計算し、これを時間−周波数マップと同様にマップ化する。
【0078】
(1)式のrにチャープパルスを代入した場合、チャープパルスは時々刻々と周波数が変化するが、その変化の割合はチャープレートで一定である。したがって、ある遅延を決定すると、その自己相関のスペクトルはほぼ一定周波数の線スペクトルを有しており、その線スペクトルの周波数は、遅延の前後でのチャープレートで決定する周波数差となる。したがって、Ambiguity関数を遅延に対してマップ化すると、それは、図18のような、遅延量−周波数差マップとなる。図18は、図16を得るために利用した信号と同じ信号をRadon-Ambiguity変換して得た遅延量−周波数差マップである。
【0079】
Radon-Ambiguity変換では、このような遅延量−周波数マップに対して、Radon変換を施す。ただし、(1)式から明白であるように、Ambiguity関数は非線形な関数であるため、マルチパスやその他の干渉波を多数含む場合、本来存在しないチャープパルスを多数出力する。しかし、Ambiguity関数の最大の特徴は、遅延が0である場合、その自己相関スペクトルは単なるパワーをフーリエ変換したスペクトルとなって、必ず周波数0にピークを持っていることである。このような性質があることによって、Radon-Ambiguity変換では、Radon変換の際に、原点を通る直線のみをスキャンすればよくなる。原点を通る直線の傾きのみをスキャンする点を除けば、Radon-Ambiguity変換でのRadon変換以降の処理はWigner分布法と同様である。同様にチャープレートの範囲、判定閾値を定めて判定を行っていけばよい。
【0080】
第3番目の方法は、受信部11からの受信信号を、概算値近傍の幾つかの値でチャープレートを変化させた複数のパルス圧縮フィルタによってパルス圧縮し、パルス圧縮後のピーク高さが最も高くなるチャープレートを検出する方法である。
【0081】
図19〜図21は、受信信号に対して、チャープレートが異なる幾つかのパルス圧縮フィルタでパルス圧縮して得たパルス圧縮波形である。図19は正しいチャープレートに対して2割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形であり、図20は正しいチャープレートに対して1割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形であり、図21は正しいチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形の例である。このように、チャープレートが正しい値に非常に近くなった場合のみ、パルス圧縮波形のピークが明確に高くなる。そこで、概算値の周りでチャープレートを細かく振ったパルス圧縮フィルタを生成して、それぞれに対してパルス圧縮波形を生成し、その波形の最大振幅値を取得していって、最大振幅値が最も大きくなるチャープレートを精度の高いチャープレートとして検出する。チャープレートを振る範囲は、Wigner分布法及びRadon-Ambiguity変換と同様に、概算値の予想される誤差範囲に若干余裕を持たせた程度の範囲とすればよい。
【0082】
図22は、3種類の条件A、B、Cに対して、第3番目の方法を適用した結果である。横軸の中央0は概算値のチャープレートを示し、横軸は適用したパルス圧縮フィルタのチャープレートの概算値からずれを示す。縦軸は、各々のパルス圧縮波形の最大振幅の高さを示す。条件A、Bでは、あるチャープレートで明確にピークが現れているが、条件Cでは、チャープレートに対する最大振幅の高さの変化が小さい。このようにして得られた結果に対して、各線の最も低い幾つかの値の平均値の何倍、という形で閾値を定めて閾値検出すると、条件A、Bでは、有意なチャープレートを検出出来るが、条件Cでは出来ない。したがって、チャープレート検出部161は、条件A、Bでは、最大振幅の高さが最も大きいチャープレートを精度の高いチャープレートとして出力し、条件Cでは、有意なチャープレートが含まれないと判定する。
【0083】
第1番目及び第2番目の方法では、マップ上の線の幅の問題などによって、スキャンを細かくしても得られる精度には限界がある。しかし、第3番目の方法では、チャープレートのスキャンの単位を細かくすることによって、チャープレートの検出精度を雑音限界まで高くすることが出来る。これは、第3番目の方法は、チャープパルスに対するマッチドフィルタによる復調と同じであり、マッチドフィルタによる復調は、マッチドフィルタが正確に入力信号と諸元が一致した場合に最大出力を出すためである。
【0084】
なお、Wigner分布法及びRadon-Ambiguity変換では若干チャープレートの精度が不足する場合がある。そのような場合には、これらの結果得られたチャープレートの周囲の狭い範囲で、第3番目の方法を行い、より精度の高いチャープレートを求めても良い。
【0085】
図23は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1がパルス圧縮部16を具備する際の、制御部15の処理手順を示すフローチャートである。
【0086】
まず、制御部15は、受信処理部112で受信処理が行われると、高い精度のチャープレートと、正確な開始周波数とに基づいて生成されたパルス圧縮フィルタ、つまり、第2のフィルタ生成部141で生成されたパルス圧縮フィルタが存在するか否かを判断する(ステップS231)。存在する場合(ステップS231のYes)、制御部15は、第2の圧縮波形生成部142に、受信信号をそのパルス圧縮フィルタで圧縮させる(ステップS232)。
【0087】
ステップS231においてパルス圧縮フィルタが存在しない場合(ステップS231のNo)、制御部15は、チャープレート検出部161に、詳細なチャープレートの検出を行わせる(ステップS233)。制御部15は、検出したチャープレートと、開始周波数の概算値を利用し、第1のフィルタ生成部121にパルス圧縮フィルタを生成させる(ステップS234)。制御部15は、第1のフィルタ生成部121で生成されたパルス圧縮フィルタを利用して、第1の圧縮波形生成部122に受信信号のパルス圧縮を行わせる(ステップS235)。
【0088】
続いて、制御部15は、ピーク選択部131に、パルス圧縮部16からのパルス圧縮波形から閾値を超える1つ以上のピークの検出を行わせる。制御部15は、ピーク選択部131に、検出したピークのSNRを計算させる(ステップS236)。そして、制御部15は、ピーク選択部131に、SNRの最も高いピークを選択させ、選択したピークの周辺を抽出させる(ステップS237)。
【0089】
制御部15は、フーリエ変換部132に、ピーク選択部131で抽出されたピークのフーリエ変換を行わせる(ステップS238)。そして、制御部15は、パラメータ抽出部133に、フーリエ変換結果に基づいて開始周波数を検出させる(ステップS239)。
【0090】
続いて、制御部15は、検出したチャープレートと、検出した開始周波数とを利用して、第2のフィルタ生成部141にパルス圧縮フィルタを再度生成させ(ステップS2310)、処理をステップS232へ移行する。
【0091】
このように、チャープレート検出部161を備えることにより、精度の高いチャープレートが予め設定されていなくても、受信信号に基づいて精度の高いチャープレートを検出することが可能となる。これにより、目標からのレーダ波の詳細な諸元が不明な状態であっても、精度の高いパルス圧縮を行うことが可能となる。
【0092】
また、チャープレート検出部161は、予測される値の範囲の中で受信信号を十分にパルス圧縮できると予想される有意なチャープレートが検出できたか否かを判定し、チャープパルス有無判定結果として外部へ出力するようにしても良い。図22を例に説明すると、条件A、Bである場合、チャープレート検出部161は、有意なチャープレートが検出できると判定する。また、条件Cである場合、チャープレート検出部161は、有意なチャープレートが検出できないと判定する。
【0093】
チャープレート検出部161により、有意なチャープレートが検出できないと判定された場合、この判定結果を受け取った構成部材は、受信信号に検出すべきチャープパルスが含まれていないと扱うことが可能である。検出すべきチャープパルスが含まれていない原因として、パッシブレーダ装置1のアンテナの指向性が間違っており、目標からのレーダ波を受信していない場合、又は、受信信号を形成する際の時間ゲートの位置が正しくない場合等が有り得る。このような場合には、上記構成部材は、受信信号に検出すべきチャープパルスが含まれるように、制御部15に対して、アンテナの指向性、又は、時間ゲートの位置等を制御する旨の指示を与えることが可能である。
【0094】
また、有意なチャープレートが検出できると判定される場合には、その判定結果を制御部15へ通知することで、制御部15は、アンテナの指向性、及び、時間ゲートの位置が正しいことを判断することが可能となる。
【0095】
また、上記第1の実施形態では、パラメータ抽出部133が、開始周波数及び帯域幅を検出する場合を例に説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、パラメータ抽出部は、パルス幅を検出するようにしても良い。
【0096】
図24は、パルス幅を検出することが可能なパルスパラメータ検出部17の機能構成を示すブロック図である。図24に示すパルスパラメータ検出部17は、ピーク選択部131、フーリエ変換部132、パラメータ抽出部171、逆フーリエ変換部172及び逆フィルタ生成部173を備える。
【0097】
フーリエ変換部132から出力されたパルススペクトルは、2分岐され、一方がパラメータ抽出部171へ供給され、他方が逆フーリエ変換部172へ供給される。
【0098】
逆フィルタ生成部173には、パルス圧縮部12から、受信信号を初めにパルス圧縮した際のパルス圧縮フィルタの情報、又は、それを生成するための諸元が供給される。逆フィルタ生成部173は、供給されたデータに基づいて、初めにパルス圧縮した際のパルス圧縮フィルタの逆特性のフィルタを生成する。逆特性のフィルタは、初めのフィルタの複素共役を成分として持つフィルタである。
【0099】
逆フーリエ変換部172は、フーリエ変換部132からのパルススペクトルの各成分に、逆特性のフィルタを乗算する。逆フーリエ変換部172は、逆特性のフィルタを乗算したパルススペクトルを逆フーリエ変換し、パルス圧縮前の時間波形の次元に変換する。逆フーリエ変換部172は、取得した時間波形をパラメータ抽出部171へ出力する。
【0100】
パラメータ抽出部171は、逆フーリエ変換部172からの時間波形に基づいてパルス幅を検出する。図25は、図10のパルススペクトルに逆特性のフィルタを乗算して、逆フーリエ変換した結果を示す図である。なお、図25の縦軸は対数軸である。図2と比較して、明確なパルス形状が観測出来ることが分かる。これは、SNRの高い1つのピークの周辺のみを抽出したため、他の干渉波の成分が抑圧されたためである。
【0101】
パラメータ抽出部171は、検出したパルス幅を、検出したチャープパルスが確かに目標からのものであるかを判定する構成部(図示せず)へ出力する。
【0102】
また、パラメータ抽出部は、その他の諸元を検出しても構わない。
【0103】
図26は、その他のパラメータを検出することが可能なパルスパラメータ検出部18及び再パルス圧縮部14の機能構成を示すブロック図である。図26に示す第2の圧縮波形生成部142は、再パルス圧縮によって生成したパルス圧縮波形を、パルスパラメータ検出部18のパラメータ抽出部181へさらに出力する。
【0104】
パラメータ抽出部181は、第2の圧縮波形生成部142からの再パルス圧縮波形に基づいて、振幅が閾値を超え、かつ、最初に発生するピークの時刻を検出する。また、必要に応じて、閾値を超えた複数のピークの遅延差、又は、各ピークの強さを検出する。パラメータ抽出部181は、検出したパラメータを、目標からのレーダ波の諸元確認等のために外部へ出力する。
【0105】
このように、図24及び図26のような形態を採ることにより、パッシブレーダ装置1は、レーダ波の諸元をより詳細に取得することが可能となる。
【0106】
なお、図15,24,26の形態は、合わせて図1の形態で用いられることが有り得る。また、各部で集められた、レーダ波の種々の詳細な諸元は、合わせてレーダ波の諸元確認などに利用される。
【0107】
また、上記第1の実施形態において、度々窓波形について言及しているが、第1の実施形態では、フーリエ変換、逆フーリエ変換を繰り返し適用する。窓形状によっては、パルス波形、スペクトル波形の情報の一部を除去することになり、フーリエ変換、逆フーリエ変換で得られた波形が、それより以前のステップで掛けられた窓の影響で変形する可能性がある。窓を掛ける場合は、変換の度に、それ以前に掛けられた窓の影響を除去するように窓の逆特性を持つ窓を掛ける必要があるが、窓を掛けた段階で情報の一部が欠けてしまっているため、完全に復元することは難しい。このような理由により第1の実施形態において最も望ましい窓は、矩形窓である。すなわち、事実上窓を掛けずに処理を行うことが最も望ましい。
【0108】
なお、第2の圧縮波形生成部142は、最後の処理であって、ここで得られた波形を再変換することはないため、この限りではない。複数のマルチパスによるピークを高いダイナミックレンジで検出するために、テイラー窓など適切な窓を適用すればよい。
【0109】
(第2の実施形態)
図27は、第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置2の機能構成を示すブロック図である。なお、図27において図1と共通する部分には同じ符号を付して示す。図27に示すパッシブレーダ装置2は、受信部21、パルス圧縮部12、パルスパラメータ検出部22、再パルス圧縮部23、角度検出部24及び制御部15を具備する。
【0110】
受信部21は、測角を行うために複数のアンテナ及び受信処理部212を備える。本実施形態では、モノパルスによる測角を行うものとし、一方向当たり2つのアンテナ211−1,211−2を有する例を示す。本来、方位、仰角の2方向それぞれ複数のアンテナが必要であるが、説明を省略するため、一方向分だけを図示して説明する。また、モノパルスではなく、より多数のアンテナを利用して超解像度法などで測角する場合は、図27で二系統である系統数をその方法で利用する系統数まで増加させればよい。
【0111】
受信処理部212は、モノパルス測角の場合であれば、2つのアンテナ211−1,211−2で受信した電波の加算であるΣ信号と、減算であるΔ信号とを生成する。受信処理部212は、Σ信号及びΔ信号に対して、増幅、ベースバンド変換及びアナログ−デジタル変換し、Σ受信信号及びΔ受信信号を生成する。なお、受信処理部212がモノパルス測角以外の測角方法を採用する場合、それに対応して、アンテナ毎に処理を行ったり、適宜合成するなどして同様に複数系統の受信信号を生成するようにしても良い。
【0112】
受信処理部212は、取得したΣ受信信号及びΔ受信信号を、それぞれ再パルス圧縮部23へ出力する。ただし、Σ受信信号及びΔ受信信号のいずれか一方は分岐され、パルス圧縮部12へ供給される。いずれを分岐するかは、目標からのレーダ波が到来していると予測される方向から、レーダ波のパワーがより強く含まれていると予想される系列を選択すればよい。
【0113】
パルス圧縮部12の処理は、図1と同様である。
【0114】
パルスパラメータ検出部22は、ピーク選択部131、フーリエ変換部132及びパラメータ抽出部221を備える。
【0115】
パラメータ抽出部221は、フーリエ変換部132からのパルススペクトルと、第2の圧縮波形生成部231からの信号とが供給される。このとき、第2の圧縮波形生成部231から供給される信号は、パルス圧縮部12へ出力された系統のパルス圧縮波形、又は、全ての系統のパルス圧縮波形である。全ての系統のパルス圧縮波形が供給される場合、パラメータ抽出部221は、これらをノンコヒーレント積分によって合成する等した波形からピークを検出すると良い。
【0116】
パラメータ抽出部221は、フーリエ変換部132からのパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出する。パラメータ抽出部221は、検出した開始周波数を再パルス圧縮部23へ出力する。
【0117】
また、パラメータ抽出部221は、第2の圧縮波形生成部231からの信号に基づいて先頭のピークの時刻を検出する。パラメータ抽出部221は、先頭のピークの時刻を、角度検出部24へ出力する。
【0118】
再パルス圧縮部23は、第2のフィルタ生成部141及び第2の圧縮波形生成部231を備える。
【0119】
第2の圧縮波形生成部231は、受信部21から供給されるΣ受信信号及びΔ受信信号それぞれについて、パルス圧縮波形を生成する。第2の圧縮波形生成部231は、生成した両方のパルス圧縮波形を角度検出部24へ出力する。また、第2の圧縮波形生成部231は、生成したパルス圧縮波形のうちいずれか又は両方をパラメータ抽出部221へ出力する。
【0120】
角度検出部24は、先頭ピーク抽出部241及び測角部242を備える。
【0121】
先頭ピーク抽出部241は、第2の圧縮波形生成部231からのそれぞれの系統のパルス圧縮波形における先頭ピークの複素振幅を抽出する。このとき、先頭ピーク抽出部241は、パラメータ抽出部221から通知された先頭のピークの時刻に基づいて、先頭ピークの位置を決定する。先頭ピーク抽出部241は、系統毎に抽出した先頭のピークの複素振幅を、測角部242へ出力する。
【0122】
測角部242は、先頭ピーク抽出部241からの複素振幅に基づいて、先頭ピークに対応するパルスが到来した方向を検出し、角度情報として後段へ出力する。
【0123】
以上のように、第2の実施形態では、受信部21に測角を行うための複数のアンテナを設置し、受信処理後の複数系統の受信信号それぞれに対して、再パルス圧縮部23でパルス圧縮を行う。このときのパルス圧縮フィルタは、高い精度のチャープレート及び高い精度の開始周波数に基づいて生成されたものである。そして、角度検出部24により、再パルス圧縮部23からのパルス圧縮波形の先頭のパルスを抽出し、抽出した先頭のパルスの振幅に基づいて目標に対する角度情報を取得するようにしている。これにより、目標からのレーダ波の詳細な諸元が不明であっても、レーダ波のチャープパルスを正しく復調し、先頭のパルスを正しく見分けることが可能となる。そして、先頭のパルスを正しく見分けることが可能であるため、目標からの直接波を識別し、目標の方向を正しく知ることが可能となる。
【0124】
なお、目標を追随する場合には、再パルス圧縮波形の先頭のパルスを参照して目標への角度を測り続ける必要がある。このため、図27の形態では、チャープレート及び開始周波数等、パルス圧縮に必要なパラメータの精度の高い値が得られた後も、パルスパラメータ検出部22のパラメータ抽出部221は、再パルス圧縮波形から先頭ピーク時刻を検出する処理を続ける。
【0125】
なお、第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置2は、上記形態に限定される訳ではない。例えば、パッシブレーダ装置2が具備するパルス圧縮部及びパルスパラメータ検出部は、図15,24に示される構成をしていても構わない。
【0126】
図28は、第1及び第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置1,2を有する誘導装置の機能構成を示すブロック図である。
【0127】
誘導装置は、パッシブレーダ装置1,2及び誘導信号生成部3を備える。
【0128】
誘導装置がパッシブレーダ装置1及び誘導信号生成部3を備える場合、誘導信号生成部3は、パッシブレーダ装置1からパルス圧縮波形、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等を受信する。
【0129】
誘導信号生成部3は、パルス圧縮波形を加工し、駆動部(図示せず)によって飛翔体を誘導するための誘導信号を生成する。また、誘導信号生成部3は、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等の情報を、誘導方向が正しいかどうかを判断するために利用する。
【0130】
また、誘導装置がパッシブレーダ装置2及び誘導信号生成部3を備える場合、誘導信号生成部3は、パッシブレーダ装置2から角度情報、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等を受信する。
【0131】
誘導信号生成部3は、角度情報を誘導信号生成のために主として利用する。また、誘導信号生成部3は、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等の情報を、誘導方向が正しいかどうかを判断するために利用する。
【0132】
誘導装置は、以上のようにパッシブレーダ装置1,2からの信号を利用することで、目標の方向を正しく検知し、飛翔体を誘導するための誘導信号を生成することが可能となる。
【0133】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0134】
1,2…パッシブレーダ装置
11,21…受信部
111,211−1,211−2…アンテナ
112,212…受信処理部
12,16…パルス圧縮部
121,162…第1のフィルタ生成部
122…第1の圧縮波形生成部
13,17,18,22…パルスパラメータ検出部
131…ピーク選択部
132…フーリエ変換部
133,171,181,221…パラメータ抽出部
14,23…再パルス圧縮部
141…第2のフィルタ生成部
142,231…第2の圧縮波形生成部
15…制御部
161…チャープレート検出部
172…逆フーリエ変換部
173…逆フィルタ生成部
24…角度検出部
241…先頭ピーク抽出部
242…測角部
3…誘導信号生成部
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、送信源からレーダ波の到来を検出するパッシブレーダ装置、誘導装置及び電波検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
目標を検出するレーダ装置の種類の1つにパッシブレーダ装置がある。パッシブレーダ装置は、目標が電波を出力している場合に、目標からの電波を捕捉して、目標の方向を検出する装置である。パッシブレーダ装置が電波を受信する際、受信帯域内に複数の電波が混在している場合、又は、同じ目標からの電波であっても、障害物等で反射した成分であるマルチパス成分が多数混在している場合がある。ここで、マルチパス成分とは、他の障害物に当たって反射して届いた成分である。そのため、マルチパス成分の到来方向は、障害物の方向を示しており、目標の方向は示さない。
【0003】
目標の正確な方向を知るためには、目標からの電波を選別する必要、及び、マルチパス成分でない電波、つまり、目標からの直接波を検出する必要がある。なお、直接波は、目標からのレーダ波の中で必ず一番始めに到着する。
【0004】
ところで、目標が送出する電波がチャープパルスレーダ波である場合、受信波をパルス圧縮し、パルス圧縮出来たかどうかで目標からのレーダ波の捕捉を確認する。パルス圧縮は、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)及びIFFT(Inverse Fast Fourier Transform:逆高速フーリエ変換)を利用して行われる。このとき、FFT変換及びIFFT変換によって得られる波形は、始点と終点が連続している繰り返し波形である。目標からのレーダ波の正しい開始周波数が得られない場合、パルス圧縮波形の時間が回転するように動く。このため、本来先頭にあるはずの直接波が、波形の最後尾に現れてしまい、先頭のパルスを正しく特定出来ない場合がある。このような場合、マルチパス成分を除去することができず、目標の正確な方向を取得することができない。
【0005】
なお、パルス圧縮するために必要な正確な諸元の検出であるチャープレット変換を利用することにより、目標からのレーダ波の開始周波数を特定することは可能である。しかしながら、この手法では、処理量が非常に多く、搭載する機器によっては採用が困難であることがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W. Li, "Wigner distribution method equivalent to dechirp method for detecting a chirp signal," IEEE Trans. Acoustics, Speech, and Signal Processing, Vol. ASSP-35, No. 8, pp. 1210-1211, 1987
【非特許文献2】S.Mann and S. Haykin, "The chirplet transform: physical considerations," IEEE Trans. Signal Processing, Vol. 43, No. 11, pp. 2745-2761, 1995
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、パッシブレーダ装置では、パルス圧縮を行うことで目標からのレーダ波の捕捉を確認するが、チャープパルスの開始周波数が正確でない場合、目標の方向を正確に取得することができない。そのため、目標の方向を正確に取得するためには、目標からのレーダ波の開始周波数を高い精度で検出し、その開始周波数を用いてパルス圧縮を行う必要がある。しかしながら、レーダ波には目標からのレーダ波以外に種々の干渉波が加わっていることがあり、レーダ波のスペクトルから正確な開始周波数を検出することは困難である。
【0008】
そこで、目的は、目標からのレーダ波の開始周波数を高い精度で検出し、その開始周波数を用いてパルス圧縮を行うことが可能なパッシブレーダ装置、誘導装置及び電波検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態によれば、パッシブレーダ装置は、受信部、パルス圧縮部、ピーク選択部、フーリエ変換部、パラメータ抽出部及び再パルス圧縮部を具備する。受信部は、検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記電波に受信処理を施して受信信号に変換する。パルス圧縮部は、設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行う。ピーク選択部は、前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出する。フーリエ変換部は、前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行う。パラメータ抽出部は、前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出する。再パルス圧縮部は、前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行う。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図2】図1のパッシブレーダ装置についてのシミュレーションで用いられる受信信号の例を示す図である。
【図3】図2の受信信号の周波数スペクトルを示す図である。
【図4】図1のパルス圧縮部で、正しい開始周波数によりパルス圧縮した際のパルス圧縮波形を示す図である。
【図5】図1のパルス圧縮部で、正方向に1MHzずれた開始周波数によりパルス圧縮した際のパルス圧縮波形を示す図である。
【図6】図1のパルス圧縮部で、負方向に1MHzずれた開始周波数によりパルス圧縮した際のパルス圧縮波形を示す図である。
【図7】図5のパルス圧縮波形の一部を拡大した図である。
【図8】図5に含まれるピークのうち、最もSNRが高いピークを示す図である。
【図9】図8で示すピークを抽出した図である。
【図10】図9の波形をフーリエ変換した際のパルススペクトルを示す図である。
【図11】図10の一部を拡大した図である。
【図12】ピークを抽出する範囲内に、他のピークが存在する場合の例を示す図である。
【図13】図1の再パルス圧縮部での再パルス圧縮により生成されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図14】図1の制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図15】図1のパルス圧縮部の機能構成のその他の例を示す図である。
【図16】図15のチャープレート検出部でのGabor変換による時間−周波数マップの一例を示す図である。
【図17】図16に示す時間−周波数マップに対する処理の例を示す図である。
【図18】図16を得るために利用した信号と同じ信号をRadon-Ambiguity変換して得た遅延量−周波数差マップを示す図である。
【図19】正しいチャープレートに対して2割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図20】正しいチャープレートに対して1割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図21】正しいチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形を示す図である。
【図22】3種類の条件A、B、Cに対して、第3番目の方法を適用した結果を示す図である。
【図23】図1のパルス圧縮部がチャープレート検出部を備える際の、制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図24】図1のパルスパラメータ検出部の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【図25】図24の逆フーリエ変換部による逆フーリエ変換の結果を示す図である。
【図26】図1のパルスパラメータ検出部の機能構成のその他の例を示すブロック図である。
【図27】第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
【図28】第1又は第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置を用いた誘導装置の機能構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面では、実施形態での動作に直接関連する部分のみを記載しており、実施形態での動作と関連しないブロックは、実際の動作に必要であっても記載を省略し、また、説明を省略している。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1の機能構成を示すブロック図である。図1に示すパッシブレーダ装置1は、受信部11、パルス圧縮部12、パルスパラメータ検出部13、再パルス圧縮部14及び制御部15を具備する。
【0013】
受信部11は、アンテナ111及び受信処理部112を備える。アンテナ111は、検出目標のレーダ装置が出力したチャープパルスを含むと予想される電波を受信する。アンテナ111は、目標がレーダ波を出力しており、パッシブレーダ装置1がレーダ波を受信できる距離の範囲内に位置し、アンテナ111の指向性がおおよその目標の方向に向いていれば、いずれかのタイミングでレーダ波を受信する。パッシブレーダ装置1では、受信した信号を時間方向にゲートに区切って出力していくが、ゲート長が目標からのレーダ波の繰り返し周期以上であれば、ゲート内で1パルス以上は受信できる。ゲート長が繰り返し周期より短い場合には、繰り返し周期相当の長さの間、途切れないように複数のゲートを定義して、それぞれについて処理を行えばよい。
【0014】
受信処理部112は、アンテナ111で受信した電波を、増幅、ベースバンド変換、アナログ−デジタル変換する。受信処理部112は、その位相情報を保持するように、デジタル化した信号のI(同相)成分及びQ(直交)成分それぞれを直流近傍に変換する。受信処理部112は、このようにベースバンド近傍の受信信号を生成する。なお、受信処理部112以降では、受信信号のI,Q成分を位相情報を有する複素信号として扱って処理する。
【0015】
受信処理部112で生成される受信信号は、2分岐され、一方はパルス圧縮部12へ出力され、他方は再パルス圧縮部14へ出力される。
【0016】
パルス圧縮部12は、第1のフィルタ生成部121及び第1の圧縮波形生成部122を備える。
【0017】
第1のフィルタ生成部121は、第1の圧縮波形生成部122でパルス圧縮するためのパルス圧縮フィルタを生成する。このとき、第1のフィルタ生成部121には、複数のチャープレートと、開始周波数及びその他の諸元についての概算値とが予め記憶されている。第1のフィルタ生成部121は、複数のチャープレートの中から、受信信号のパルス圧縮後のピーク高さを最大にすると予想されるチャープレートを選択する。第1のフィルタ生成部121は、選択したチャープレートと、開始周波数及びその他の諸元の概算値とを参照してパルス圧縮フィルタを生成する。第1のフィルタ生成部121は、生成したパルス圧縮フィルタを第1の圧縮波形生成部122へ出力する。
【0018】
第1の圧縮波形生成部122は、第1のフィルタ生成部121で生成されたパルス圧縮フィルタにより、受信信号をパルス圧縮し、パルス圧縮後のデータをパルスパラメータ検出部13へ出力する。
【0019】
パルスパラメータ検出部13は、ピーク選択部131、フーリエ変換部132及びパラメータ抽出部133を備える。
【0020】
ピーク選択部131は、パルス圧縮後のデータに基づいて、信号品質が最も高く、かつ、極力他のピークから孤立したピークと、その周辺の波形とを抽出する。ピーク選択部131は、抽出したデータをフーリエ変換部132へ出力する。
【0021】
フーリエ変換部132は、ピーク選択部131で抽出されたデータに対してFFT処理を施し、周波数スペクトルに変換する。フーリエ変換部132は、FFT処理後のデータをパラメータ抽出部133へ出力する。
【0022】
パラメータ抽出部133は、フーリエ変換部132からの周波数スペクトルに基づいて、目標が出力したチャープパルスの開始周波数を検出する。パラメータ抽出部133は、検出した開始周波数を、再パルス圧縮部14へ出力する。
【0023】
再パルス圧縮部14は、第2のフィルタ生成部141及び第2の圧縮波形生成部142を備える。
【0024】
第2のフィルタ生成部141は、第2の圧縮波形生成部142でパルス圧縮するためのパルス圧縮フィルタを再生成する。このとき、第2のフィルタ生成部141は、予め設定されたチャープレートと、パラメータ抽出部133で検出した開始周波数を利用して、より精度の高いパルス圧縮フィルタを生成する。
【0025】
第2の圧縮波形生成部142は、第2のフィルタ生成部141で作成されたパルス圧縮フィルタにより、受信信号をパルス圧縮し、パルス圧縮後のデータを後段へ出力する。
【0026】
なお、第2の圧縮波形生成部142は、精度の高いパルス圧縮フィルタが一旦生成出来たならば、次からは、受信信号を直接そのパルス圧縮フィルタで圧縮する。パルス圧縮部12及びパルスパラメータ検出部13による処理は、受信開始時点、又は、目標からのレーダ波を見失った後等の必要な場合にのみ行えば良い。
【0027】
制御部15は、パッシブレーダ装置1の全体の動作を制御する。
【0028】
次に、シミュレーション波形例を利用して、パッシブレーダ装置の動作をより詳細に説明する。
【0029】
図2,3は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1についてのシミュレーションで用いられる受信信号の例である。図2は、検出したい目標からのレーダ波、多数の干渉波及び目標からのレーダ波のマルチパス成分が複数加わった電波が、受信部11でベースバンド近傍の受信信号に変換された際の実部の振幅を示す図である。また、図3は、図2に示した受信信号の周波数スペクトルを示す図である。目標からのレーダ波のチャープパルスは、もともとは矩形であるが、図2の波形からは、それを推測することは難しい。レーダ波は、周波数−1MHz〜9MHzの間に主なエネルギーが存在するが、図3の周波数スペクトルからそれを正確に検出することは難しい。
【0030】
図4〜6は、図2,3に示す受信信号を、パルス圧縮部12でパルス圧縮したパルス圧縮波形を示す図である。このとき、パルス圧縮は、誤差が0.2%程度の精度の高いチャープレートと、精度の低い開始周波数概算値とに基づいて生成されたパルス圧縮フィルタによって行われる。なお、図4では開始周波数が正しく、図5では開始周波数が正に1MHzずれており、図6では開始周波数が負に1MHzずれている。
【0031】
図4〜6では、チャープレートの誤差が小さいため、パルス圧縮後のパルス圧縮波形は十分に幅が細く、かつ、十分な高さとなっている。しかし、開始周波数に誤差がある場合、パルス圧縮波形の遅延量がずれる。すなわち、図4では開始周波数が正しいため、ピークが本来あるべき時刻を示す○印とピークとの位置が一致しているが、図5,6では、開始周波数がずれているため、○印とピークとの位置が異なっている。特に、図6の波形では、本来最も早い時刻にあるべきピークが、波形の最後尾に現れている。これは、パルス圧縮が、離散フーリエ変換・離散逆フーリエ変換を利用して行われており、遅延量のずれによって波形が回転するように動くためである。
【0032】
レーダ波の受信結果を、目標の追跡に利用する場合、目標からの直接波、すなわち、最も遅延が小さいピークを抽出して、角度検出する必要がある。しかし、図6のようなパルス圧縮波形では、最も時刻の早いピークは、目標からの直接波ではない。直接波は波形の最後尾に回り込んでいる。したがって、このような状態では、直接波を正しく識別することが出来ない。そのため、開始周波数の精度の高い検出が必要である。
【0033】
ここでは、仮に、図5に示すパルス圧縮波形が、パルス圧縮部12で得られたとして、以下の説明を行う。
【0034】
パルスパラメータ検出部13のピーク選択部131は、図5に示すパルス圧縮波形から、最もSNR(Signal to Noise Ratio:信号対雑音比)が高いと予想されるピークを選択する。
【0035】
図7は、パルス圧縮波形の一部を拡大した図である。図5では、線のように見えるピークも、実際には、広がりを持っており、また、そのサイドローブが周辺に広がっている。SNRは、図7の「信号部分」で示すピークのメインローブの広がりの部分に含まれる波形のエネルギー(パワーの合計)と、「雑音部分」で示す、ピークの外側で、主としてサイドローブが存在する部分に含まれる波形のエネルギーとの比から算出する。ピーク選択部131は、図5に示すピーク毎にSNRを計算する。
【0036】
なお、ピークの選択の際、信号部分の幅及び雑音部分の幅は、パルス圧縮時に利用した窓波形から決定するとよい。信号部分の幅は、窓波形から決定するメインローブの幅であり、例えば、3dBダウンの幅、10dBダウンの幅、又は、最初のヌルまでの幅等と決定する。雑音部分の幅は、窓波形から決定する1パルスのエネルギーの何%(例えば95%、99%等)までを含むピークを中央する幅を決定し、その幅から信号部分を除外した部分と定義すればよい。
【0037】
なお、パルス圧縮波形は、高さが異なる多数のピークを持っており、いずれのピークを検出対象候補とするかは通常のレーダで行うような閾値判定によって決定すればよい。雑音レベルを検出してCFAR(Constant False Alarm Rate)検出をしても良いし、最大ピークからのダイナミックレンジで決定しても良い。
【0038】
ピーク選択部131は、このようにして計算したSNRが最も高いピークを選択する。図5では、図8で丸で囲んだピークが最もSNRが高いので、これを選択する。
【0039】
また、ピーク選択の指標として、上記のようなSNRではなく、より簡便な方法として、ピークの高さと、雑音部分に含まれる他のピークの高さの合計値の比といった指標を用いても良い。
【0040】
ピーク選択部131は、ピークを一つ選択したら、選択したピークのみを抽出する。具体的には、図9に示すようにパルス圧縮波形のうち、選択したピークの周辺の所定の幅を除いて、他を0で置き換える。
【0041】
フーリエ変換部132は、ピーク選択部131で抽出されたピークに対して、フーリエ変換を行なう。図10は、図9をフーリエ変換した結果のパルススペクトルである。また、図11は、図10の拡大図である。
【0042】
図9のように、元の波形のサンプル間隔、サンプル数を維持したまま、選択したピーク周辺以外を0で置き換えた場合、変換後に得られるスペクトルのビン間隔は、元の波形の全長さで決定する細かさとなる。検出精度を多少落としても良いならば、全長さより短い、抽出するピークの周辺の一定の長さとしてもよい。また、逆に、より高い精度が必要ならば、元の波形の外にさらに0を足しても良い。いずれにしても、フーリエ変換上真に有効なのは、抽出したピーク周辺に残した信号の幅であって、それ以外の0は、スペクトルの点と点の間を補間するのみであるため、著しい精度の改善はない。検出時の細かさといった程度の変化である。したがって、ピーク周辺で残す長さは、これをフーリエ変換した後のスペクトルが著しく広がったり、なまったりしまわない程度の長さとすると良い。ピーク周辺で残す長さが短すぎて、パルスの情報の重要な一部が欠けてしまわない程度の長さとする必要がある。そのためには、パルススペクトル形状の概算値が既知であれば、それに基づいて、その形状とパルス波形を得た際の窓波形とで決定する有意な成分が、ピーク周辺で残す長さに含まれるように決定すれば良い。例えば、ピーク周辺で残す長さにエネルギーの何%を含むようにというように決定すれば良い。
【0043】
残す長さが、有意な成分が十分に含まれる長さとなっているならば、残す長さと、フーリエ変換の際に利用する窓波形とから、長さが有限であるために発生したスペクトルの広がりを予測することが出来る。そこで、その分の広がりについては、フーリエ変換により得られたパルススペクトルを、予測されるスペクトル広がり量で補正すれば良い。このため、パルス圧縮波形内のピークがいずれのピークも非常に近接しており、孤立したピークを得にくい場合には、ピーク周辺で残す長さをやや短めにとって、干渉を抑圧し、かつ、短めに取ったために発生したスペクトル広がりを補正するような形を取っても良い。
【0044】
図10に示すパルススペクトルは、図3と比較して、非常に明瞭で矩形に近い形状となっている。負の周波数側に若干干渉波成分が残っているが、これは、ピークを抽出する際の範囲内に存在した干渉波の成分である。パルス圧縮波形全体から、小さい一部分のみを抜き出したため、含まれる干渉波の量が小さく、問題のないレベルまで下がっている。
【0045】
なお、SNRが最も高いピークを検出するのは、得られるパルススペクトルに含まれる所望のレーダ波以外の成分を可能な限り少なくするためである。
【0046】
なお、ピークを抽出する範囲内には、可能な限り他のピークが無い方がよいが、波形によっては、そのようなピークが1つも得られない場合がある。その場合は、次の様にすると良い。図12(a)〜(d)を用いて説明する。図12(a)はパルス圧縮波形であり、図12(b)はその拡大図である。図12(a)(b)によれば、このパルス圧縮波形には、有効なピークが2つしかなく、それらは非常に近接している。このような場合、2つ双方を含む状態のままフーリエ変換すると、2つのパルスが干渉して非常に極端な凹凸を持つスペクトルとなってしまう。また、ここまで極端な例ではなくても、ピークを抽出する範囲内に他のピークがいる場合、それらのピークが干渉しあって、波形の凹凸が大きくなる。
【0047】
そこで、ピーク選択部131は、全てのピークに関してSNRを検出した後、SNRが最も大きいピークを残し、その抽出範囲内にある他のピークについて、そのメインローブに相当する部分を0で置き換える。その様子を図12(c)に示す。除去するメインローブの範囲は、例えば、除去したいピークの最大値からそこから最も近い極小値までの間とすればよい。この時、除去する対象のピークは、パルス圧縮波形からピーク検出した際に検出されたピークとしても良いし、より小さいピークの影響も排除するために、ピーク検出閾値を下げて、ピーク抽出範囲でピークの再検出を行い、そこで検出されたより小さいピークも含む全ての他のピークを除去の対象としても良い。
【0048】
図12(d)は、図12(c)のパルス圧縮波形を、フーリエ変換部132でフーリエ変換した結果を示す図である。図12(c)の波形は、単一パルスのパルス圧縮波形としては、理想からかけ離れた波形であるため、図12(d)のパルススペクトルも図10のような理想的なパルススペクトルとはなっていない。しかし、この程度の形状の乱れであれば、パラメータ抽出部133で検出されるチャープパルスの諸元の検出精度には大きな影響はない。
【0049】
パラメータ抽出部133は、フーリエ変換部132で取得されたパルススペクトルに基づいて、図11に示すように、開始周波数を検出する。すなわち、パラメータ抽出部133は、パルススペクトルのパワーの最大値を検出し、そこから所定値下がった所の周波数を検出する。このとき、パラメータ抽出部133は、チャープレートが正であるならば、小さい側の周波数の端を検出し、チャープレートが負であるならば、大きい側の周波数の端を検出する。ここで利用しているシミュレーション波形例では、チャープレートが正の場合を想定しているため、小さい側の周波数の端を開始周波数として検出する。所定値は、スペクトルの凹凸の影響を多少受けても、開始周波数を間違えない程度に大きい値、例えば10dBといった値とすると良い。ただし、例えば10dB下がった所の周波数を検出すると若干外側の周波数を検出してしまう。検出精度に大きな影響を与えないことも多いが、より高い精度で検出したいならば、例えば、10dB下がった周波数を検出したら、そこから3dB又は2dBの点まで戻った点の周波数を検出値とすると良い。
【0050】
なお、チャープパルスの諸元の検出の目的が、より高品質にパルス圧縮されたパルス圧縮波形を取得するためのみであれば、チャープレートと開始周波数とを検出すれば良い。しかし、他の目的、例えば、既知である諸元概要と、検出されたチャープパルスの諸元とがおおよそ一致することで、検出したチャープパルスが確かに追跡したい目標が出力したチャープパルスであることを確認する、といった目的があるならば、開始周波数以外の諸元の検出も行う。
【0051】
例えば、図11より、開始周波数の検出に伴って、パルスの帯域幅を容易に検出出来ることが分かる。帯域幅は、小さい側の周波数の端と大きい側の周波数の端の双方を検出し、その差を計算すれば求められる。帯域幅は、再パルス圧縮部14でのパルス圧縮に用いられるパルス圧縮フィルタの生成には必要がない諸元である。パラメータ抽出部133は、このような諸元を、検出したチャープパルスが確かに目標からのものであるかを判定する構成部(図示せず)へ出力する。
【0052】
第2のフィルタ生成部141は、最初のパルス圧縮に利用したチャープレートと、パラメータ抽出部133で検出した開始周波数とから、より精度の高いパルス圧縮フィルタを生成する。開始周波数が正しい値に近いため、第2の圧縮波形生成部142で生成されるパルス圧縮波形は、図5,6に示すパルス時刻のずれが起こりにくくなる。図13は、新しく生成されたパルス圧縮フィルタにより生成されるパルス圧縮波形を示す図である。ピークの時刻がほぼ○印と一致しており、先頭のピークを間違える確率が下がっていることが分かる。
【0053】
次に、上記構成のパッシブレーダ装置1における受信信号の処理手順を説明する。
【0054】
図14は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1の制御部15の処理手順を示すフローチャートである。
【0055】
まず、制御部15は、受信処理部112で受信処理が行われると、高い精度のチャープレートと、正確な開始周波数とに基づいて生成されたパルス圧縮フィルタ、つまり、第2のフィルタ生成部141で生成されたパルス圧縮フィルタが存在するか否かを判断する(ステップS141)。存在する場合(ステップS141のYes)、制御部15は、第2の圧縮波形生成部142に、受信信号をそのパルス圧縮フィルタでパルス圧縮させる(ステップS142)。
【0056】
ステップS141においてパルス圧縮フィルタが存在しない場合(ステップS141のNo)、制御部15は、予め設定されたチャープレートと、開始周波数の概算値とを利用し、第1のフィルタ生成部121にパルス圧縮フィルタを生成させる(ステップS143)。制御部15は、第1のフィルタ生成部121で生成されたパルス圧縮フィルタを利用して、第1の圧縮波形生成部122に受信信号のパルス圧縮を行わせる(ステップS144)。
【0057】
続いて、制御部15は、ピーク選択部131に、パルス圧縮部12からのパルス圧縮波形から閾値を超える1つ以上のピークの検出を行わせる。制御部15は、ピーク選択部131に、検出したピークのSNRを計算させる(ステップS145)。そして、制御部15は、ピーク選択部131に、SNRの最も高いピークを選択させ、選択したピークの周辺を抽出させる(ステップS146)。
【0058】
制御部15は、フーリエ変換部132に、ピーク選択部131で抽出されたピークのフーリエ変換を行わせる(ステップS147)。そして、制御部15は、パラメータ抽出部133に、フーリエ変換後のパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出させる(ステップS148)。
【0059】
続いて、制御部15は、予め設定されたチャープレートと、検出した開始周波数とを利用して、第2のフィルタ生成部141にパルス圧縮フィルタを再度生成させ(ステップS149)、処理をステップS142へ移行する。
【0060】
以上のように、第1の実施形態では、ピーク選択部131でパルス圧縮波形から所定のピークを抽出し、抽出したピークに対してフーリエ変換部132でFFT処理を施す。そして、フーリエ変換部132からのパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出する。このように、ピーク選択部131及びフーリエ変換部132により、雑音及び干渉波を除去した単一のパルスに近いスペクトルを得ることが可能となる。これにより、開始周波数を高い精度で求めることが可能となる。
【0061】
また、パッシブレーダ装置1が目標を捜索する段階の始めでは、受信信号の諸元の概要のみが既知であって、精度の高いパルス圧縮のために必要なパルス圧縮フィルタを生成出来ない。そこで、パッシブレーダ装置1は、検出した開始周波数を用い、第2のフィルタ生成部141でパルス圧縮フィルタを再度生成し、第2の圧縮波形生成部142でパルス圧縮を行う。そして、精度の高いパルス圧縮フィルタを一旦生成出来たならば、次からは、受信信号を直接そのパルス圧縮フィルタで圧縮するようにしている。これにより、パッシブレーダ装置1は、精度の高い開始周波数を用いてパルス圧縮することが可能となる。
【0062】
したがって、上記第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1によれば、目標からのレーダ波の開始周波数を高い精度で検出し、その開始周波数を用いてパルス圧縮を行うことができる。
【0063】
なお、上記第1の実施形態では、適切なパルス圧縮フィルタを生成するためのチャープレートが予め設定されている場合を例に説明した。しかしながら、チャープレートは、受信信号から検出するようにしてもよい。
【0064】
図15は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1のパルス圧縮部16の機能構成を示す図である。図15に示すパルス圧縮部16は、チャープレート検出部161、第1のフィルタ生成部121及び第1の圧縮波形生成部122を備える。
【0065】
受信部11から入力される受信信号は、パルス圧縮部16内で2分岐される。一方は、チャープレート検出部161へ出力され、他方は第1の圧縮波形生成部122へ出力される。
【0066】
チャープレート検出部161は、取得した受信信号から精度の高いチャープレートを検出し、検出したチャープレートを第1のフィルタ生成部121へ出力する。また、チャープレート検出部161は、検出したチャープレートを再パルス圧縮部14へ出力する。
【0067】
フィルタ生成部121は、検出されたチャープレートを利用してパルス圧縮フィルタを生成する。第1の圧縮波形生成部122は、生成されたパルス圧縮フィルタを用いて受信信号をパルス圧縮する。
【0068】
以下に、具体的なチャープレート検出方法を幾つか説明する。
【0069】
まず、第1番目の方法は、Wigner分布法(W. Li, “Wigner distribution method equivalent to dechirp method for detecting a chirp signal,” IEEE Trans. Acoustics, Speech, and Signal Processing, Vol.ASSP-35, No.8, pp.1210-1211, 1987)を利用する方法である。
【0070】
Wigner分布法は、Wigner変換によって瞬時周波数の時間−周波数マップを作成し、そのマップに現れた、チャープパルスに関する直線の傾きをチャープレートとして検出する方法である。ここで、時間−周波数マップとは、ガウス窓(フィルタ)の中心時刻をスライドさせていくことによって、その窓の有意な範囲が存在する時刻における主要な周波数成分の推移を観測したものである。Wigner変換は、瞬時周波数を検出する方法の1つであり、詳細は省略するが、非線形な処理であるため、第1の実施形態で想定しているような多数のマルチパスが存在している状況では、本来、存在しないはずのチャープパルスを出力してしまう。そこで、ここでは、若干精度は劣るものの線形処理であるGabor変換による時間−周波数マップを利用する。以下、Gabor変換の時間−周波数マップを利用して、Wigner分布法を説明する。
【0071】
図16は、Gabor変換による時間−周波数マップの一例を示す図である。Gabor変換は、受信信号に対して、その時間波形の長さよりも有効な長さが十分に短いガウス窓を掛けてフーリエ変換する方法である。図16では、傾きがほぼ同じである5本の直線のグループ、2本の直線のグループ、その他に、弱い縦縞状の多数の直線と、ある時刻範囲のみで横方向に漫然と広がった弱い成分が見られる。チャープパルスは、時刻と共に周波数が変化する成分、すなわち、斜めに傾いた直線として現れるため、5本の直線のグループと、2本の直線のグループがチャープパルスである。
【0072】
Wigner分布法では、このような時間−周波数マップに対してRadon変換を施す。Radon変換とは、マップ上の1点を通る直線を定義し、その線上のマップ値を積分する変換である。ここでは、時間−周波数マップのスペクトルの振幅又はパワーを積分する。図17のように、マップ上で直線が通過する点を種々変更しながら、それぞれの点で傾きの異なる直線を複数定義し、そのRadon変換を計算する。チャープパルスと良く重なる直線でRadon変換を行うと、その結果の値が大きくなる。種々の通過点、傾きに対して求めたRadon変換値に対して閾値判定を施すことによって、有意なチャープレートの有無が検出出来る。有意なチャープレートが存在する場合には、その値を判定できる。閾値判定に利用する閾値は、雑音レベルを基準にその何倍、といった風に決定すればよい。
【0073】
チャープレートの概算値は既知であるため、直線の傾きを振る範囲を、その概算値から予想される誤差の範囲内に留めておくことによって、全く関係のない他の諸元のチャープパルスを検出してしまうことを防ぐことが出来る。図17の例では、仮に5本の直線のグループが目標からのレーダ波であるとすると、直線の傾きの範囲を矢印で示した範囲のように、既知であるその概算値の周辺に限定することによって、2本の直線のグループのチャープレートを検出しないようにすることが出来る。例えば、概算値の誤差が10%程度と予測されているならば、それに若干の余裕を持たせて概算値からせいぜい±20%程度の範囲に絞っておくと良い。
【0074】
なお、計算量に余裕があるならば、直線が通る点を網羅的にスキャンすればよい。それでは計算量が多すぎる場合には、マップ上のパワーの極大値を直線が通る点として何点か選択すると良い。
【0075】
第2番目の方法は、Radon-Ambiguity変換(Minsheng Wang; Chan, A.K.; Chui, C.K., “Linear frequency-modulated signal detection using Radon-ambiguity transform,” IEEE Transactions on Signal Processing, Vol.46, No.3, pp.571-586, 1998)を利用する方法である。Wigner分布法では、Wigner変換結果(上記の例ではGabor変換結果)である時間−周波数マップを利用したが、Radon-Ambiguity変換では、Wigner変換結果の代わりに、Ambiguity関数を利用する。
【0076】
Ambiguity関数とは、次式のような関数である。
【数1】
【0077】
ただし、rは入力信号、tは時間、τは遅延、ωは周波数である。入力信号の遅延τの周りの自己相関を計算し、これをフーリエ変換して自己相関の周波数スペクトルを計算する。その際、遅延を種々振って、遅延ごとのスペクトルを計算し、これを時間−周波数マップと同様にマップ化する。
【0078】
(1)式のrにチャープパルスを代入した場合、チャープパルスは時々刻々と周波数が変化するが、その変化の割合はチャープレートで一定である。したがって、ある遅延を決定すると、その自己相関のスペクトルはほぼ一定周波数の線スペクトルを有しており、その線スペクトルの周波数は、遅延の前後でのチャープレートで決定する周波数差となる。したがって、Ambiguity関数を遅延に対してマップ化すると、それは、図18のような、遅延量−周波数差マップとなる。図18は、図16を得るために利用した信号と同じ信号をRadon-Ambiguity変換して得た遅延量−周波数差マップである。
【0079】
Radon-Ambiguity変換では、このような遅延量−周波数マップに対して、Radon変換を施す。ただし、(1)式から明白であるように、Ambiguity関数は非線形な関数であるため、マルチパスやその他の干渉波を多数含む場合、本来存在しないチャープパルスを多数出力する。しかし、Ambiguity関数の最大の特徴は、遅延が0である場合、その自己相関スペクトルは単なるパワーをフーリエ変換したスペクトルとなって、必ず周波数0にピークを持っていることである。このような性質があることによって、Radon-Ambiguity変換では、Radon変換の際に、原点を通る直線のみをスキャンすればよくなる。原点を通る直線の傾きのみをスキャンする点を除けば、Radon-Ambiguity変換でのRadon変換以降の処理はWigner分布法と同様である。同様にチャープレートの範囲、判定閾値を定めて判定を行っていけばよい。
【0080】
第3番目の方法は、受信部11からの受信信号を、概算値近傍の幾つかの値でチャープレートを変化させた複数のパルス圧縮フィルタによってパルス圧縮し、パルス圧縮後のピーク高さが最も高くなるチャープレートを検出する方法である。
【0081】
図19〜図21は、受信信号に対して、チャープレートが異なる幾つかのパルス圧縮フィルタでパルス圧縮して得たパルス圧縮波形である。図19は正しいチャープレートに対して2割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形であり、図20は正しいチャープレートに対して1割ずれたチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形であり、図21は正しいチャープレートに基づいて取得されるパルス圧縮波形の例である。このように、チャープレートが正しい値に非常に近くなった場合のみ、パルス圧縮波形のピークが明確に高くなる。そこで、概算値の周りでチャープレートを細かく振ったパルス圧縮フィルタを生成して、それぞれに対してパルス圧縮波形を生成し、その波形の最大振幅値を取得していって、最大振幅値が最も大きくなるチャープレートを精度の高いチャープレートとして検出する。チャープレートを振る範囲は、Wigner分布法及びRadon-Ambiguity変換と同様に、概算値の予想される誤差範囲に若干余裕を持たせた程度の範囲とすればよい。
【0082】
図22は、3種類の条件A、B、Cに対して、第3番目の方法を適用した結果である。横軸の中央0は概算値のチャープレートを示し、横軸は適用したパルス圧縮フィルタのチャープレートの概算値からずれを示す。縦軸は、各々のパルス圧縮波形の最大振幅の高さを示す。条件A、Bでは、あるチャープレートで明確にピークが現れているが、条件Cでは、チャープレートに対する最大振幅の高さの変化が小さい。このようにして得られた結果に対して、各線の最も低い幾つかの値の平均値の何倍、という形で閾値を定めて閾値検出すると、条件A、Bでは、有意なチャープレートを検出出来るが、条件Cでは出来ない。したがって、チャープレート検出部161は、条件A、Bでは、最大振幅の高さが最も大きいチャープレートを精度の高いチャープレートとして出力し、条件Cでは、有意なチャープレートが含まれないと判定する。
【0083】
第1番目及び第2番目の方法では、マップ上の線の幅の問題などによって、スキャンを細かくしても得られる精度には限界がある。しかし、第3番目の方法では、チャープレートのスキャンの単位を細かくすることによって、チャープレートの検出精度を雑音限界まで高くすることが出来る。これは、第3番目の方法は、チャープパルスに対するマッチドフィルタによる復調と同じであり、マッチドフィルタによる復調は、マッチドフィルタが正確に入力信号と諸元が一致した場合に最大出力を出すためである。
【0084】
なお、Wigner分布法及びRadon-Ambiguity変換では若干チャープレートの精度が不足する場合がある。そのような場合には、これらの結果得られたチャープレートの周囲の狭い範囲で、第3番目の方法を行い、より精度の高いチャープレートを求めても良い。
【0085】
図23は、第1の実施形態に係るパッシブレーダ装置1がパルス圧縮部16を具備する際の、制御部15の処理手順を示すフローチャートである。
【0086】
まず、制御部15は、受信処理部112で受信処理が行われると、高い精度のチャープレートと、正確な開始周波数とに基づいて生成されたパルス圧縮フィルタ、つまり、第2のフィルタ生成部141で生成されたパルス圧縮フィルタが存在するか否かを判断する(ステップS231)。存在する場合(ステップS231のYes)、制御部15は、第2の圧縮波形生成部142に、受信信号をそのパルス圧縮フィルタで圧縮させる(ステップS232)。
【0087】
ステップS231においてパルス圧縮フィルタが存在しない場合(ステップS231のNo)、制御部15は、チャープレート検出部161に、詳細なチャープレートの検出を行わせる(ステップS233)。制御部15は、検出したチャープレートと、開始周波数の概算値を利用し、第1のフィルタ生成部121にパルス圧縮フィルタを生成させる(ステップS234)。制御部15は、第1のフィルタ生成部121で生成されたパルス圧縮フィルタを利用して、第1の圧縮波形生成部122に受信信号のパルス圧縮を行わせる(ステップS235)。
【0088】
続いて、制御部15は、ピーク選択部131に、パルス圧縮部16からのパルス圧縮波形から閾値を超える1つ以上のピークの検出を行わせる。制御部15は、ピーク選択部131に、検出したピークのSNRを計算させる(ステップS236)。そして、制御部15は、ピーク選択部131に、SNRの最も高いピークを選択させ、選択したピークの周辺を抽出させる(ステップS237)。
【0089】
制御部15は、フーリエ変換部132に、ピーク選択部131で抽出されたピークのフーリエ変換を行わせる(ステップS238)。そして、制御部15は、パラメータ抽出部133に、フーリエ変換結果に基づいて開始周波数を検出させる(ステップS239)。
【0090】
続いて、制御部15は、検出したチャープレートと、検出した開始周波数とを利用して、第2のフィルタ生成部141にパルス圧縮フィルタを再度生成させ(ステップS2310)、処理をステップS232へ移行する。
【0091】
このように、チャープレート検出部161を備えることにより、精度の高いチャープレートが予め設定されていなくても、受信信号に基づいて精度の高いチャープレートを検出することが可能となる。これにより、目標からのレーダ波の詳細な諸元が不明な状態であっても、精度の高いパルス圧縮を行うことが可能となる。
【0092】
また、チャープレート検出部161は、予測される値の範囲の中で受信信号を十分にパルス圧縮できると予想される有意なチャープレートが検出できたか否かを判定し、チャープパルス有無判定結果として外部へ出力するようにしても良い。図22を例に説明すると、条件A、Bである場合、チャープレート検出部161は、有意なチャープレートが検出できると判定する。また、条件Cである場合、チャープレート検出部161は、有意なチャープレートが検出できないと判定する。
【0093】
チャープレート検出部161により、有意なチャープレートが検出できないと判定された場合、この判定結果を受け取った構成部材は、受信信号に検出すべきチャープパルスが含まれていないと扱うことが可能である。検出すべきチャープパルスが含まれていない原因として、パッシブレーダ装置1のアンテナの指向性が間違っており、目標からのレーダ波を受信していない場合、又は、受信信号を形成する際の時間ゲートの位置が正しくない場合等が有り得る。このような場合には、上記構成部材は、受信信号に検出すべきチャープパルスが含まれるように、制御部15に対して、アンテナの指向性、又は、時間ゲートの位置等を制御する旨の指示を与えることが可能である。
【0094】
また、有意なチャープレートが検出できると判定される場合には、その判定結果を制御部15へ通知することで、制御部15は、アンテナの指向性、及び、時間ゲートの位置が正しいことを判断することが可能となる。
【0095】
また、上記第1の実施形態では、パラメータ抽出部133が、開始周波数及び帯域幅を検出する場合を例に説明したが、これに限定される訳ではない。例えば、パラメータ抽出部は、パルス幅を検出するようにしても良い。
【0096】
図24は、パルス幅を検出することが可能なパルスパラメータ検出部17の機能構成を示すブロック図である。図24に示すパルスパラメータ検出部17は、ピーク選択部131、フーリエ変換部132、パラメータ抽出部171、逆フーリエ変換部172及び逆フィルタ生成部173を備える。
【0097】
フーリエ変換部132から出力されたパルススペクトルは、2分岐され、一方がパラメータ抽出部171へ供給され、他方が逆フーリエ変換部172へ供給される。
【0098】
逆フィルタ生成部173には、パルス圧縮部12から、受信信号を初めにパルス圧縮した際のパルス圧縮フィルタの情報、又は、それを生成するための諸元が供給される。逆フィルタ生成部173は、供給されたデータに基づいて、初めにパルス圧縮した際のパルス圧縮フィルタの逆特性のフィルタを生成する。逆特性のフィルタは、初めのフィルタの複素共役を成分として持つフィルタである。
【0099】
逆フーリエ変換部172は、フーリエ変換部132からのパルススペクトルの各成分に、逆特性のフィルタを乗算する。逆フーリエ変換部172は、逆特性のフィルタを乗算したパルススペクトルを逆フーリエ変換し、パルス圧縮前の時間波形の次元に変換する。逆フーリエ変換部172は、取得した時間波形をパラメータ抽出部171へ出力する。
【0100】
パラメータ抽出部171は、逆フーリエ変換部172からの時間波形に基づいてパルス幅を検出する。図25は、図10のパルススペクトルに逆特性のフィルタを乗算して、逆フーリエ変換した結果を示す図である。なお、図25の縦軸は対数軸である。図2と比較して、明確なパルス形状が観測出来ることが分かる。これは、SNRの高い1つのピークの周辺のみを抽出したため、他の干渉波の成分が抑圧されたためである。
【0101】
パラメータ抽出部171は、検出したパルス幅を、検出したチャープパルスが確かに目標からのものであるかを判定する構成部(図示せず)へ出力する。
【0102】
また、パラメータ抽出部は、その他の諸元を検出しても構わない。
【0103】
図26は、その他のパラメータを検出することが可能なパルスパラメータ検出部18及び再パルス圧縮部14の機能構成を示すブロック図である。図26に示す第2の圧縮波形生成部142は、再パルス圧縮によって生成したパルス圧縮波形を、パルスパラメータ検出部18のパラメータ抽出部181へさらに出力する。
【0104】
パラメータ抽出部181は、第2の圧縮波形生成部142からの再パルス圧縮波形に基づいて、振幅が閾値を超え、かつ、最初に発生するピークの時刻を検出する。また、必要に応じて、閾値を超えた複数のピークの遅延差、又は、各ピークの強さを検出する。パラメータ抽出部181は、検出したパラメータを、目標からのレーダ波の諸元確認等のために外部へ出力する。
【0105】
このように、図24及び図26のような形態を採ることにより、パッシブレーダ装置1は、レーダ波の諸元をより詳細に取得することが可能となる。
【0106】
なお、図15,24,26の形態は、合わせて図1の形態で用いられることが有り得る。また、各部で集められた、レーダ波の種々の詳細な諸元は、合わせてレーダ波の諸元確認などに利用される。
【0107】
また、上記第1の実施形態において、度々窓波形について言及しているが、第1の実施形態では、フーリエ変換、逆フーリエ変換を繰り返し適用する。窓形状によっては、パルス波形、スペクトル波形の情報の一部を除去することになり、フーリエ変換、逆フーリエ変換で得られた波形が、それより以前のステップで掛けられた窓の影響で変形する可能性がある。窓を掛ける場合は、変換の度に、それ以前に掛けられた窓の影響を除去するように窓の逆特性を持つ窓を掛ける必要があるが、窓を掛けた段階で情報の一部が欠けてしまっているため、完全に復元することは難しい。このような理由により第1の実施形態において最も望ましい窓は、矩形窓である。すなわち、事実上窓を掛けずに処理を行うことが最も望ましい。
【0108】
なお、第2の圧縮波形生成部142は、最後の処理であって、ここで得られた波形を再変換することはないため、この限りではない。複数のマルチパスによるピークを高いダイナミックレンジで検出するために、テイラー窓など適切な窓を適用すればよい。
【0109】
(第2の実施形態)
図27は、第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置2の機能構成を示すブロック図である。なお、図27において図1と共通する部分には同じ符号を付して示す。図27に示すパッシブレーダ装置2は、受信部21、パルス圧縮部12、パルスパラメータ検出部22、再パルス圧縮部23、角度検出部24及び制御部15を具備する。
【0110】
受信部21は、測角を行うために複数のアンテナ及び受信処理部212を備える。本実施形態では、モノパルスによる測角を行うものとし、一方向当たり2つのアンテナ211−1,211−2を有する例を示す。本来、方位、仰角の2方向それぞれ複数のアンテナが必要であるが、説明を省略するため、一方向分だけを図示して説明する。また、モノパルスではなく、より多数のアンテナを利用して超解像度法などで測角する場合は、図27で二系統である系統数をその方法で利用する系統数まで増加させればよい。
【0111】
受信処理部212は、モノパルス測角の場合であれば、2つのアンテナ211−1,211−2で受信した電波の加算であるΣ信号と、減算であるΔ信号とを生成する。受信処理部212は、Σ信号及びΔ信号に対して、増幅、ベースバンド変換及びアナログ−デジタル変換し、Σ受信信号及びΔ受信信号を生成する。なお、受信処理部212がモノパルス測角以外の測角方法を採用する場合、それに対応して、アンテナ毎に処理を行ったり、適宜合成するなどして同様に複数系統の受信信号を生成するようにしても良い。
【0112】
受信処理部212は、取得したΣ受信信号及びΔ受信信号を、それぞれ再パルス圧縮部23へ出力する。ただし、Σ受信信号及びΔ受信信号のいずれか一方は分岐され、パルス圧縮部12へ供給される。いずれを分岐するかは、目標からのレーダ波が到来していると予測される方向から、レーダ波のパワーがより強く含まれていると予想される系列を選択すればよい。
【0113】
パルス圧縮部12の処理は、図1と同様である。
【0114】
パルスパラメータ検出部22は、ピーク選択部131、フーリエ変換部132及びパラメータ抽出部221を備える。
【0115】
パラメータ抽出部221は、フーリエ変換部132からのパルススペクトルと、第2の圧縮波形生成部231からの信号とが供給される。このとき、第2の圧縮波形生成部231から供給される信号は、パルス圧縮部12へ出力された系統のパルス圧縮波形、又は、全ての系統のパルス圧縮波形である。全ての系統のパルス圧縮波形が供給される場合、パラメータ抽出部221は、これらをノンコヒーレント積分によって合成する等した波形からピークを検出すると良い。
【0116】
パラメータ抽出部221は、フーリエ変換部132からのパルススペクトルに基づいて開始周波数を検出する。パラメータ抽出部221は、検出した開始周波数を再パルス圧縮部23へ出力する。
【0117】
また、パラメータ抽出部221は、第2の圧縮波形生成部231からの信号に基づいて先頭のピークの時刻を検出する。パラメータ抽出部221は、先頭のピークの時刻を、角度検出部24へ出力する。
【0118】
再パルス圧縮部23は、第2のフィルタ生成部141及び第2の圧縮波形生成部231を備える。
【0119】
第2の圧縮波形生成部231は、受信部21から供給されるΣ受信信号及びΔ受信信号それぞれについて、パルス圧縮波形を生成する。第2の圧縮波形生成部231は、生成した両方のパルス圧縮波形を角度検出部24へ出力する。また、第2の圧縮波形生成部231は、生成したパルス圧縮波形のうちいずれか又は両方をパラメータ抽出部221へ出力する。
【0120】
角度検出部24は、先頭ピーク抽出部241及び測角部242を備える。
【0121】
先頭ピーク抽出部241は、第2の圧縮波形生成部231からのそれぞれの系統のパルス圧縮波形における先頭ピークの複素振幅を抽出する。このとき、先頭ピーク抽出部241は、パラメータ抽出部221から通知された先頭のピークの時刻に基づいて、先頭ピークの位置を決定する。先頭ピーク抽出部241は、系統毎に抽出した先頭のピークの複素振幅を、測角部242へ出力する。
【0122】
測角部242は、先頭ピーク抽出部241からの複素振幅に基づいて、先頭ピークに対応するパルスが到来した方向を検出し、角度情報として後段へ出力する。
【0123】
以上のように、第2の実施形態では、受信部21に測角を行うための複数のアンテナを設置し、受信処理後の複数系統の受信信号それぞれに対して、再パルス圧縮部23でパルス圧縮を行う。このときのパルス圧縮フィルタは、高い精度のチャープレート及び高い精度の開始周波数に基づいて生成されたものである。そして、角度検出部24により、再パルス圧縮部23からのパルス圧縮波形の先頭のパルスを抽出し、抽出した先頭のパルスの振幅に基づいて目標に対する角度情報を取得するようにしている。これにより、目標からのレーダ波の詳細な諸元が不明であっても、レーダ波のチャープパルスを正しく復調し、先頭のパルスを正しく見分けることが可能となる。そして、先頭のパルスを正しく見分けることが可能であるため、目標からの直接波を識別し、目標の方向を正しく知ることが可能となる。
【0124】
なお、目標を追随する場合には、再パルス圧縮波形の先頭のパルスを参照して目標への角度を測り続ける必要がある。このため、図27の形態では、チャープレート及び開始周波数等、パルス圧縮に必要なパラメータの精度の高い値が得られた後も、パルスパラメータ検出部22のパラメータ抽出部221は、再パルス圧縮波形から先頭ピーク時刻を検出する処理を続ける。
【0125】
なお、第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置2は、上記形態に限定される訳ではない。例えば、パッシブレーダ装置2が具備するパルス圧縮部及びパルスパラメータ検出部は、図15,24に示される構成をしていても構わない。
【0126】
図28は、第1及び第2の実施形態に係るパッシブレーダ装置1,2を有する誘導装置の機能構成を示すブロック図である。
【0127】
誘導装置は、パッシブレーダ装置1,2及び誘導信号生成部3を備える。
【0128】
誘導装置がパッシブレーダ装置1及び誘導信号生成部3を備える場合、誘導信号生成部3は、パッシブレーダ装置1からパルス圧縮波形、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等を受信する。
【0129】
誘導信号生成部3は、パルス圧縮波形を加工し、駆動部(図示せず)によって飛翔体を誘導するための誘導信号を生成する。また、誘導信号生成部3は、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等の情報を、誘導方向が正しいかどうかを判断するために利用する。
【0130】
また、誘導装置がパッシブレーダ装置2及び誘導信号生成部3を備える場合、誘導信号生成部3は、パッシブレーダ装置2から角度情報、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等を受信する。
【0131】
誘導信号生成部3は、角度情報を誘導信号生成のために主として利用する。また、誘導信号生成部3は、レーダ波の詳細な諸元及びチャープパルスの有無の判定等の情報を、誘導方向が正しいかどうかを判断するために利用する。
【0132】
誘導装置は、以上のようにパッシブレーダ装置1,2からの信号を利用することで、目標の方向を正しく検知し、飛翔体を誘導するための誘導信号を生成することが可能となる。
【0133】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0134】
1,2…パッシブレーダ装置
11,21…受信部
111,211−1,211−2…アンテナ
112,212…受信処理部
12,16…パルス圧縮部
121,162…第1のフィルタ生成部
122…第1の圧縮波形生成部
13,17,18,22…パルスパラメータ検出部
131…ピーク選択部
132…フーリエ変換部
133,171,181,221…パラメータ抽出部
14,23…再パルス圧縮部
141…第2のフィルタ生成部
142,231…第2の圧縮波形生成部
15…制御部
161…チャープレート検出部
172…逆フーリエ変換部
173…逆フィルタ生成部
24…角度検出部
241…先頭ピーク抽出部
242…測角部
3…誘導信号生成部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記電波に受信処理を施して受信信号に変換する受信部と、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行うパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出するピーク選択部と、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出するパラメータ抽出部と、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行う再パルス圧縮部と
を具備することを特徴とするパッシブレーダ装置。
【請求項2】
前記再パルス圧縮部は、前記第2のパルス圧縮フィルタが一旦生成されると、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行うことを特徴とする請求項1記載のパッシブレーダ装置。
【請求項3】
前記パルス圧縮部は、前記受信信号からチャープレートを検出し、前記検出したチャープレート及び前記開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成することを特徴とする請求項1又は2に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項4】
前記パルス圧縮部は、Wigner分布法によって、前記受信信号からチャープレートを検出することを特徴とする請求項3記載のパッシブレーダ装置。
【請求項5】
前記パルス圧縮部は、Radon-Ambiguity変換によって、前記受信信号からチャープレートを検出することを特徴とする請求項3記載のパッシブレーダ装置。
【請求項6】
前記パルス圧縮部は、前記受信信号を、概算値近傍の幾つかの値でチャープレートを変化させた複数のパルス圧縮フィルタによってパルス圧縮し、パルス圧縮後のピーク高さが最も高くなるチャープレートを検出することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項7】
前記パルス圧縮部は、予測される値の範囲の中で前記受信信号から有意なチャープレートが検出できるか否かを判断し、この判断結果を出力することを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項8】
前記ピーク選択部は、前記パルス圧縮波形に含まれる各々のピークのメインローブにおけるエネルギーの、当該ピークの前記メインローブの外側の所定の範囲内のエネルギーに対する比が最大となるピークを抽出することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項9】
前記ピーク選択部は、前記ピークを抽出する際、当該ピークの周囲の外周の所定範囲に存在する他のピークの周辺の所定範囲の振幅を0におきかえることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項10】
前記パラメータ抽出部は、前記パルススペクトルに基づいて前記チャープパルスの帯域幅をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項11】
前記第1のパルス圧縮フィルタの逆特性フィルタを生成する逆特性フィルタ生成部と、
前記パルススペクトルに前記逆特性フィルタを乗算し、乗算結果に逆フーリエ変換を施すことで、時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部と
をさらに具備し、
前記パラメータ抽出部は、前記時間領域の信号に基づいてパルス幅をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項12】
前記パラメータ抽出部は、前記再パルス圧縮部からパルス圧縮波形を受け取り、前記パルス圧縮波形に基づいて先頭のパルスの発生時刻をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項13】
前記パラメータ抽出部は、前記再パルス圧縮部からパルス圧縮波形を受け取り、前記パルス圧縮波形に基づいて、複数のパルス間の遅延差をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項14】
前記受信部は、複数のアンテナを備え、前記複数のアンテナで受信した電波に受信処理を施して複数の受信信号に変換し、
前記再パルス圧縮部は、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記複数の受信信号に対して再度のパルス圧縮を行い、複数の再パルス圧縮波形を出力し、
前記パッシブレーダ装置は、前記複数の再パルス圧縮波形の先頭のパルスの複素振幅から、前記電波が到来する角度を検出する角度検出部をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項15】
パッシブレーダ装置及び誘導信号生成部を具備する誘導装置において、
前記パッシブレーダ装置は、
検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記電波に受信処理を施して受信信号に変換する受信部と、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行うパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出するピーク選択部と、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出するパラメータ抽出部と、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行い、生成した再パルス圧縮波形を前記誘導信号生成部へ出力する再パルス圧縮部と
を備え、
前記誘導信号生成部は、前記パッシブレーダ装置からの前記再パルス圧縮波形に基づいて誘導信号を生成することを特徴とする誘導装置。
【請求項16】
パッシブレーダ装置及び誘導信号生成部を具備する誘導装置において、
前記パッシブレーダ装置は、
複数のアンテナを備え、前記複数のアンテナにより、検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記複数のアンテナで受信した電波に受信処理を施して複数の受信信号に変換する受信部と、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記複数の受信信号のうち少なくともいずれかに対してパルス圧縮を行うパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出するピーク選択部と、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出するパラメータ抽出部と、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記複数の受信信号に対して再度のパルス圧縮を行い、複数の再パルス圧縮波形を出力する再パルス圧縮部と、
前記複数の再パルス圧縮波形の先頭のパルスの複素振幅から、前記電波が到来する角度を検出する角度検出部と
を備え、
前記誘導信号生成部は、前記パッシブレーダ装置からの前記角度に基づいて、誘導信号を生成することを特徴とする誘導装置。
【請求項17】
検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、
前記電波に受信処理を施して受信信号に変換し、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、
前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行い、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出し、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行い、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出し、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、
前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行うことを特徴とする電波検出方法。
【請求項1】
検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記電波に受信処理を施して受信信号に変換する受信部と、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行うパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出するピーク選択部と、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出するパラメータ抽出部と、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行う再パルス圧縮部と
を具備することを特徴とするパッシブレーダ装置。
【請求項2】
前記再パルス圧縮部は、前記第2のパルス圧縮フィルタが一旦生成されると、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行うことを特徴とする請求項1記載のパッシブレーダ装置。
【請求項3】
前記パルス圧縮部は、前記受信信号からチャープレートを検出し、前記検出したチャープレート及び前記開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成することを特徴とする請求項1又は2に記載のパッシブレーダ装置。
【請求項4】
前記パルス圧縮部は、Wigner分布法によって、前記受信信号からチャープレートを検出することを特徴とする請求項3記載のパッシブレーダ装置。
【請求項5】
前記パルス圧縮部は、Radon-Ambiguity変換によって、前記受信信号からチャープレートを検出することを特徴とする請求項3記載のパッシブレーダ装置。
【請求項6】
前記パルス圧縮部は、前記受信信号を、概算値近傍の幾つかの値でチャープレートを変化させた複数のパルス圧縮フィルタによってパルス圧縮し、パルス圧縮後のピーク高さが最も高くなるチャープレートを検出することを特徴とする請求項3乃至5のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項7】
前記パルス圧縮部は、予測される値の範囲の中で前記受信信号から有意なチャープレートが検出できるか否かを判断し、この判断結果を出力することを特徴とする請求項3乃至6のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項8】
前記ピーク選択部は、前記パルス圧縮波形に含まれる各々のピークのメインローブにおけるエネルギーの、当該ピークの前記メインローブの外側の所定の範囲内のエネルギーに対する比が最大となるピークを抽出することを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項9】
前記ピーク選択部は、前記ピークを抽出する際、当該ピークの周囲の外周の所定範囲に存在する他のピークの周辺の所定範囲の振幅を0におきかえることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項10】
前記パラメータ抽出部は、前記パルススペクトルに基づいて前記チャープパルスの帯域幅をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項11】
前記第1のパルス圧縮フィルタの逆特性フィルタを生成する逆特性フィルタ生成部と、
前記パルススペクトルに前記逆特性フィルタを乗算し、乗算結果に逆フーリエ変換を施すことで、時間領域の信号を生成する逆フーリエ変換部と
をさらに具備し、
前記パラメータ抽出部は、前記時間領域の信号に基づいてパルス幅をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項12】
前記パラメータ抽出部は、前記再パルス圧縮部からパルス圧縮波形を受け取り、前記パルス圧縮波形に基づいて先頭のパルスの発生時刻をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項13】
前記パラメータ抽出部は、前記再パルス圧縮部からパルス圧縮波形を受け取り、前記パルス圧縮波形に基づいて、複数のパルス間の遅延差をさらに検出することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項14】
前記受信部は、複数のアンテナを備え、前記複数のアンテナで受信した電波に受信処理を施して複数の受信信号に変換し、
前記再パルス圧縮部は、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記複数の受信信号に対して再度のパルス圧縮を行い、複数の再パルス圧縮波形を出力し、
前記パッシブレーダ装置は、前記複数の再パルス圧縮波形の先頭のパルスの複素振幅から、前記電波が到来する角度を検出する角度検出部をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載のパッシブレーダ装置。
【請求項15】
パッシブレーダ装置及び誘導信号生成部を具備する誘導装置において、
前記パッシブレーダ装置は、
検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記電波に受信処理を施して受信信号に変換する受信部と、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行うパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出するピーク選択部と、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出するパラメータ抽出部と、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行い、生成した再パルス圧縮波形を前記誘導信号生成部へ出力する再パルス圧縮部と
を備え、
前記誘導信号生成部は、前記パッシブレーダ装置からの前記再パルス圧縮波形に基づいて誘導信号を生成することを特徴とする誘導装置。
【請求項16】
パッシブレーダ装置及び誘導信号生成部を具備する誘導装置において、
前記パッシブレーダ装置は、
複数のアンテナを備え、前記複数のアンテナにより、検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、前記複数のアンテナで受信した電波に受信処理を施して複数の受信信号に変換する受信部と、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記複数の受信信号のうち少なくともいずれかに対してパルス圧縮を行うパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出するピーク選択部と、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行うフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出するパラメータ抽出部と、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記複数の受信信号に対して再度のパルス圧縮を行い、複数の再パルス圧縮波形を出力する再パルス圧縮部と、
前記複数の再パルス圧縮波形の先頭のパルスの複素振幅から、前記電波が到来する角度を検出する角度検出部と
を備え、
前記誘導信号生成部は、前記パッシブレーダ装置からの前記角度に基づいて、誘導信号を生成することを特徴とする誘導装置。
【請求項17】
検出すべきチャープパルスを含むと予想される電波を受信し、
前記電波に受信処理を施して受信信号に変換し、
設定されたチャープレート及び前記チャープパルスの開始周波数の概算値に基づいて第1のパルス圧縮フィルタを生成し、
前記第1のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対してパルス圧縮を行い、
前記パルス圧縮により生成されたパルス圧縮波形に含まれる1つ以上のピークから、ピークパワーに対して当該ピーク周辺の所定範囲に含まれる雑音パワーが最も少ないピークを抽出し、
前記抽出したピークに対してフーリエ変換を行い、
前記フーリエ変換により取得されたパルススペクトルに基づいて、前記チャープパルスの開始周波数を検出し、
前記検出された開始周波数と前記設定されたチャープレートとに基づいて第2のパルス圧縮フィルタを生成し、
前記第2のパルス圧縮フィルタを用いて前記受信信号に対して再度のパルス圧縮を行うことを特徴とする電波検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2012−233824(P2012−233824A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103681(P2011−103681)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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