説明

パッファーを備えないガス絶縁開閉器の異常検出方法

【課題】ガス絶縁開閉器のスイッチ部の異常の有無を、開放点検せずに、ガス分析によって診断できるようにする。より具体的には、施工不良や経年(多数回動作)による通電接触部の微少ギャップにおける微弱な部分放電や接触不良に因る異常発熱などを無停電でかつ開放点検によらず診断することができるようにする。
【解決手段】パッファーを備えない接点の少なくとも可動部に導電性グリースを塗布したSF6ガスで絶縁した開閉器の異常状態を検出する方法において、接点の異常を検出する指標となるモニターガスとしてグリース由来のCFを用いるようにしたものであり、またCFが閾値を越えたときに接点の損耗等が起きたと判断して接点を交換するようにしてガス絶縁開閉器の保守を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SFガスで絶縁された開閉器のスイッチ部分の異常を検出する方法並びに保守方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、パッファーを備えないガス絶縁開閉器の分解ガス分析に基づく異常検出方法並びに保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガス絶縁開閉装置(GIS)の内部異常診断手法として、ガス検知管(SO、HF)を用いたSF分解ガス分析に基づく検出法(非特許文献3〜6)が適用されている。この手法は地絡事故の際の故障ガス区画標定などの大きな部分放電を伴うような内部異常の診断には有効と考えられる。
【0003】
しかしながら、SF分解ガス分析に基づくGISの内部異常診断は、分解ガスの発生する要素が本来ない母線部分の異常診断が対象であり、スイッチ部分での異常診断でガス分析を行ったものは従来存在しなかった。遮断器や断路器のスイッチング部分では電流の流れを切るときに放電が必然的に起こることから、SF分解ガスは正常な開閉動作においても必ず発生するため、SF分解ガス分析を行っても、遮断器、断路器の異常診断は行えないからである。また、SF分解ガスは、蓄積されると絶縁ガスの絶縁性能や電流遮断性能の低下を招くため吸着剤によって速やかに除去される。このため、ガス絶縁開閉器内のガス分析によっては、持続的に起こる接触不良による異常加熱や微少ギャップにおける部分放電で生ずるSF分解ガスの累積量を判断基準にして異常状態の有無を判断することはできない。
【0004】
ここで、SFガスで絶縁された開閉器には、大別してパッファーを備えるものと、パッファーを備えないものとがある。パッファーとは、アーク放電を効率的に消弧させるためのものであり、開閉器の開動作(電流遮断動作)の時に、開閉器の接点(たとえばアーク接触子)に発生するアークに対して消弧性ガスを吹き付ける部品即ち吹きつけノズルであり、一般的にフッ素樹脂(テフロン(登録商標))などで形成されている。この吹きつけノズルは、消弧性ガスをアークに吹き付けるために、アーク路に近接した場所に設置されている。したがって、アークに伴う熱によってフッ素樹脂製のノズルは高温に晒されCFを発生させることが知られている(電協研54巻3号 電力用SFガス取り扱い基準)。しかしながら、CFの発生は、パッファーを備える開閉器にとって正常動作であり、異常との判別が難しい。このため、パッファーを備えるガス絶縁開閉器においては、CFガスをモニターガスとすることは考えられない。また、パッファーを備えないガス絶縁開閉器においては、CFの発生源となるフッ素樹脂製ノズルそのものが存在しないため、CFガスを異常診断のモニターガスとすることは考えられない。
【0005】
このため、現状における断路器(LS)の点検は、動作回数によって開放点検を実施するようにしている。例えば、4kA以上の断路器では100回、4kA未満の断路器では200回、無負荷開閉断路器では2000回で実施されている(非特許文献1)。
【0006】
また、赤外線カメラによるタンク表面温度分布の測定・接触不良に伴う発熱を診断する方法も提案されている(非特許文献2)。
【0007】
さらに、電気接点や周辺部品が当初設定した損耗限界に達したことを直接的に検出するためのガス絶縁開閉装置及びガス絶縁開閉装置用部品のアーク損傷検出方法が提案されている(特許文献1)。この発明は、遮断器のアーク接触子、パッファ室又は消弧室を構成する部品に、当該部品に本来の耐性又は耐絶縁性を確保するために使用される元素(通常、耐熱性と絶縁性を確保するためフッ素樹脂)とは異なる元素を含む物質例えばポリ塩化ビニリデンをマーキング物質として含み、アークの熱によって部品が熱分解により損耗するのに伴って、ガス中にマーキング物質がガス状に放出されるようにしたものである。これにより、ガス絶縁開閉装置容器内のガス中におけるガス状のマーキング物質の濃度を測定することにより、機器の分解点検や、X線透過撮影等の特別な診断装置を使用することなく、ガス絶縁開閉装置用部品の損耗の限界評価ひいては寿命評価を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−67535号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】社団法人電気共同研究会発行 電協研第33巻第4号「SF6ガス絶縁機器保守基準」
【非特許文献2】社団法人電気共同研究会発行 電協研第56巻第2号「変電設備の点検合理化」
【非特許文献3】財団法人電力中央研究所発行 電力中央研究書研究報告 研究報告H05009(2006) 新開裕行,五島久司,八島政史:「ガス絶縁開閉装置の状態診断手法の開発−分解ガスの蓄積による部分放電の高感度な検出法−」
【非特許文献4】電気学会論文誌B,127 巻1 号,pp.231-240 (2007) 新開裕行,五島久司,八島政史:「ガス絶縁開閉装置の状態診断手法の検討−分解ガスの蓄積による部分放電の高感度な検出法−」
【非特許文献5】財団法人電力中央研究所発行 電力中央研究書研究報告 研究報告H07020(2008) 新開裕行,五島久司,八島政史:「ガス絶縁開閉装置の状態診断手法の開発(その2)−スペーサ劣化診断および接触不良検出に関する検討−」
【非特許文献6】電気学会論文誌B,129 巻1号,pp.174-181 (2009) 新開裕行,五島久司,八島政史:「ガス絶縁開閉装置の状態診断手法の検討(その2)−SF6 中水分量の影響,スペーサ上の部分放電および接触不良に伴う繰り返し放電と異常加熱の検出に関する検討−」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、現在実施されている非特許文献1記載の「SF6ガス絶縁機器保守基準」に定められた点検方法によると、規定開閉回数に達したからといって必ずしも異常を来たしているわけではなく、むしろ接点部分は異常が無くクリーンな場合が殆どであり、特に電気的な接点摩耗のない無負荷開閉断路器の場合には2000回でも開放点検の必要性すら感じさせないものである。しかも、開放点検によると、停電させかつ絶縁ガスを抜いてしまってからの検査であるため、接点もきれいな状態でまだ問題なく使えそうであったとしても、交換の必要のないと思われる部品を含めて全て交換しているのが実状である。現状の保守基準では、極めて安全側に設定された動作回数で点検時期を定めているため、事故や異常状態となった開閉装置の事例はほとんど無い。そうかといって、何らの異常診断もせずに、客観的な根拠無くその使用を延長することは安全上受け入れ難い。
【0011】
一方、開放点検の場合、必ず停電作業が必要となるが、開閉器によっては、系統上停電が許されないものも存在する。このため、規定作動回数に達したからといって、安易に開放点検を実施できないこともある。また、古い断路器の場合、開閉回数をカウントする回数計がついていないものも存在するため、開閉動作回数だけを指標にすると開放点検を実施することが困難となる問題がある。そこで、停電させずに診断する手法、即ち開放点検せずに、ガス分析によってスイッチ部の異常の有無を診断できる手法の開発が望まれている。
【0012】
また、非特許文献2で提案されている点検法は、絶縁ガスを密封しているタンク・容器の表面の温度を測定しても、電気接点部分で生ずる部分放電は小さく、また接触不良に伴う異常発熱も比較的小さいため、タンク表面まで温度が変化することは少なく、その温度変化から接点部分の異常を検出することは現実的でない。また、無負荷開閉断路器においては、開閉時に電流がほとんど流れないために放電を伴うことがなく、タンク表面まで温度が変化することはほとんど無いので、当該点検法を実施することはできない。即ち、非特許文献2で提案されている点検法は、設備中に非常に多く存在する無負荷開閉断路器において実施できないものである。
【0013】
また、特許文献1記載の技術によると、開閉器の接点やその周辺部品をフッ素樹脂にマーキング物質としてのポリ塩化ビニリデンを均一に混ぜたもので成形する必要があるため、状態診断法あるいは点検法として既設の遮断器に対してそのまま実施できないものである。しかも、ガス絶縁開閉装置用部品の損耗の限界評価ひいては寿命評価を行うことはできるが、電気接点や周辺部品が当初設定した損耗限界に達するまでのスイッチング部の異常発熱などは検出することはできない。
【0014】
本発明は、開放点検せずに、ガス分析によってスイッチ部の異常の有無を診断できるガス絶縁機器の異常検出方法並びに保守方法を提供することを目的とする。より具体的には、本発明は、施工不良や経年(多数回動作)による通電接触部の微少ギャップにおける微弱な部分放電や接触不良に因る異常発熱などを無停電でかつ開放点検によらず診断することができる新たな異常検出法並びに保守方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
かかる目的を達成するため、本発明者等が種々実験・研究する際に、本発明者等はガス絶縁開閉器の摺動接点には、通常、導電性グリースが塗布されていることに着目した。そして、本発明者等の実験・研究の結果、接点付近に接触不良や微小ギャップが発生して異常加熱や微弱な部分放電が生じると、接点の接触部に塗布されている導電性グリースが加熱されて炭化物(炭素)を発生させ、その炭化物がSFと反応してCFを発生させること、そして、生成されたCFはSFガスの分解ガスを吸着する吸着剤には吸着されないことの知見を得た。即ち、パッファーを備えない開閉器においても正常動作においてCFの発生の可能性はあるが、その量は極めて僅かであり、異常状態時に発生するCFの発生量とのあいだに差が生ずることに着目することで診断を可能としたものである。
【0016】
一方、ガス絶縁開閉器は正常開閉動作においても、SF分解ガスが発生し、CFガスも生成される。しかし、正常開閉動作時のCFガスの発生量は、開閉動作の瞬間のみ発生するものであるので、少ないものと推定される。一方、接触不良や微小ギャップに起因する異常加熱や微弱な部分放電の場合には、定常的に発生することから、その発生量は多くなる。例えば無負荷開閉断路器のように2000回の開閉動作を行ったとしても、正常動作であればほとんど電流は流れず部分放電も起こらないことから、CFの生成量は少ないものと推定される。このことから、残留CFガスの濃度差あるいは発生量の変化度合いなどから、異常加熱の検出、ひいては診断が可能であるとの知見を得た。
【0017】
したがって、吸着剤の分析をしなくとも、タンク・容器内からガスを抜いて、CFが規定量以上存在しているか否か、あるいはその量を測定すれば、異常加熱、接触不良などを診断できる。即ち、請求項1記載の発明は、パッファーを備えない接点の少なくとも可動部に導電性グリースを塗布したSF6ガスで絶縁した開閉器の異常状態を検出する方法において、接点の異常を検出する指標となるモニターガスとしてグリース由来のCFを用いるようにしたものである。
【0018】
また、請求項2記載の発明にかかるガス絶縁開閉器の保守方法は、CFが閾値を越えたときに接点の損耗等が起きたと判断して接点を交換するものである。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明にかかるガス絶縁開閉器の異常検出方法によれば、ガス絶縁開閉器の内部からガスを抽出してその中に存在するCFの濃度を測定することによって、スイッチング部の異常を検出することができる。即ち、GISを停電させず、かつガス絶縁開閉器を開放せずに、リアルタイムで監視して異常の有無を診断できる。例えば、軸ずれやストローク不足などで接点の接触が正常状態となっていないときには異常加熱が発生し、異常加熱の場合の方が発熱面積が多いため、正常開閉動作時のCFの発生量に比べてグリースの加熱領域が広くCFの発生量が多くなることから、異常状態がCFの濃度差あるいは濃度の変化となって顕れる。
【0020】
したがって、例えば、予め機種毎に健全な使用状態の時の濃度あるいは異常時の濃度を予め求めておければ、それとの濃度差で健全なのか異常なのか判断できる。正常状態でも異常状態でもいずれにしてもCFは発生するが、正常状態に比べて異常状態では発生量が多いため、正常状態における累積CF 量を判断基準にして異常状態の有無を判断するようにしても良い。また、スイッチング部の正常動作時の単位開閉回数当たりのCFの発生量から推定される閾値を判断基準としても良い。
【0021】
また、請求項2記載の発明にかかるガス絶縁開閉器の保守方法によれば、CFが閾値を越えたときに接点の損耗等が起きたと判断して接点を交換するようにしているので、ガス絶縁開閉器毎の通電接触部の微少ギャップの発生や接触不良にかかる不具合の実態に応じて無駄なくガス絶縁開閉器のスイッチ部などを交換することができる。特に、無負荷開閉断路器の場合には、正常動作であればほとんど電流は流れず部分放電も起こらないので、より正確にガス絶縁開閉器毎の通電接触部の微少ギャップの発生や接触不良にかかる不具合の実態に応じて無駄なくスイッチ部などの交換をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】GISの通電接触部における部分放電を模擬するための実験タンクの一例を示す縦断面図である。
【図2】同実験タンクとガスを分析するための機器を含むガス配管図である。
【図3】実器で使用されているメーカ指定のA社導電性グリースの塗布状況を示す図で、(a)は高電圧側平板電極を、(b)は接地側針電極を示すものである。
【図4】実器で使用されているメーカ指定のB社導電性グリースの塗布状況を示す図で、(a)は高電圧側平板電極を、(b)は接地側針電極を示すものである。
【図5】A社導電性グリースの塗布下における部分放電発生後の電極の状況を示す図で、(a)は高電圧側平板電極を、(b)は接地側針電極を示すものである。
【図6】B社導電性グリースの塗布下における部分放電発生後の電極の状況を示す図で、(a)は高電圧側平板電極を、(b)は接地側針電極を示すものである。
【図7】FTIRによる分解ガス分析結果を示すもので(a)はA社グリースを塗布した場合の部分放電発生時間とFTIR出力との関係並びに吸着剤10分間適用後の各分解ガスの濃度変化を、(b)はB社グリースを塗布した場合の部分放電発生時間とFTIR出力との関係並びに吸着剤10分間適用後の各分解ガスの濃度変化をそれぞれ示す。
【図8】電圧印加時間4時間の針先のグリースの飛散様相を示す図である。
【図9】実験で用いたガス配管図である。
【図10】吸着剤に対するCF の吸着特性として実験結果を示すグラフである。
【図11】部分放電発生後の電極の様相を示す図で、(a)は部分放電発生時間2時間、(b)は部分放電発生時間4時間、(c)は部分放電発生時間8時間の状態をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のガス絶縁開閉器の異常検出方法を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0024】
本発明にかかるガス絶縁開閉器の異常検出方法は、SF6ガスで絶縁したパッファーが付いてないガス絶縁開閉器、例えば断路器や遮断器でもパッファーが付いてないもの(大きな電流を切らない遮断器)を対象としている。そして、接点の異常を検出する指標となるモニターガスとしてグリース由来のCFを用いるようにしている。
【0025】
通常、GISの通電接触部にはスムーズな開閉動作の維持と接点損耗の軽減を目的として、導電性グリースが塗布されている。したがって、ここに接触不良や微小ギャップが発生して部分放電や異常加熱が生じると、グリースに由来するCF 等の分解ガスが生成される。つまり、異常加熱や部分放電によりグリースが加熱されて炭化物(炭素)が発生すると、その炭化物がSFと反応してCFを発生させる。勿論、異常加熱は正常な嵌合状態では起こらないし、微小ギャップが発生していなければ部分放電も発生しないし、これらが定常的に発生しない。これに対し、パッファーを備えないガス絶縁開閉器は、主に断路器と呼ばれるものであり(メーカーによっては遮断器と呼ぶ場合もある)、正常の開閉動作時に発生する放電は瞬間的に発生するだけであり、異常加熱などのように定常的に発生することはない。このため、断路器や遮断器でもパッファーが付いてないものであれば、正常動作時には放電などが起きないか、あるいは充電電流や小さな負荷電流が流れることで起きても瞬間的に消失してしまうため、定常的に部分放電や異常発熱が起こる異常動作・異常時と正常動作との間でCFの発生量に差が生ずる。しかも、CFは、部分放電に伴い生成されるSF分解ガス(SF、SO、SO、SO)を吸着させるために使用される吸着剤例えば合成ゼオライト系吸着剤にはほとんど吸着されない。このため、グリース由来のCFをモニターすることにより接点の異常を検出することが可能となる。
【0026】
ここで、グリースは、通常、スムーズな開閉動作の維持と接点損耗の軽減を目的として摺動部位に塗布されているが、接点の異常を検出することのみを目的として摺動部位の外でかつ異常加熱や部分放電による熱の影響を受ける場所に塗布されるようにしても良い。摺動部位の外に塗布されるグリースの場合には、接触相手が無いので導電性でなくとも良い。
【0027】
本発明の異常検出方法によれば、吸着剤の分析をしなくとも、タンク・容器内からガスを抜いて、CFが存在しているか否か、あるいはその量を測定すれば、異常加熱、接触不良などを検出し、異常状態を診断できる。つまり、正常動作(開閉動作)においては、開閉動作の瞬間のみ発生するものであるので、その発生量は少ないが、異常加熱の場合には、定常的に発生することから、その発生量は多くなる。そこで、予め、ガス絶縁開閉器の機種毎の正常開閉動作に伴うCFの発生量・濃度を求めておけば、リアルタイムあるいは定期的にモニターしたCFの発生量・濃度との差を求めることにより、異常状態の有無を検出することができる。あるいは、通電接触部での接触不良に起因する微小ギャップ形成などによる微弱な部分放電によって発生するCFの濃度を限界濃度として設定することにより、接点の使用限界の判定が可能となる。また、健全な開閉動作で発生するガス中のCF濃度の変化量が急激に上昇する場合、異常状態と診断することもできる。
【0028】
また、生成されたCFはガス絶縁開閉器の容器内に累積して行くので、CFが閾値を越えたときに接点の損耗等が起きたと判断して接点を交換するという点検法も可能である。つまり、予め、通電接触部での接触不良に起因する微小ギャップ形成などによる微弱な部分放電によって発生するCFの濃度を限界濃度(閾値)として設定することにより、接点の使用限界の判定が可能となり、これに基づいて接点の損耗等が起きたと判断して接点を交換する保守も実施可能である。
【実施例1】
【0029】
本発明によってガス絶縁電力機器の異常の検出が可能なことを確認するための実験を図1及び図2の実験装置を用いて行った。
【0030】
[グリース塗布部における部分放電に伴う分解ガスの定性分析]
(実験方法)
図1に部分放電を発生させた実験タンクを示す。図2にガスを分析するための機器を含むガス配管図を示す。尚、図中の符号1は実験タンク、2はグリース、3はPDセンサー、4はSFガス、5は高電圧側平板電極、6は接地側電極板、7は接地側針電極、8は吸着剤ユニット、9は分析用ガス採取ボンベ、10はフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、11は真空ポンプ、12は真空ゲージ、13はドライポンプ、14は流量計、15は配管である。
【0031】
分解ガスを生成する実験タンク1はステンレス製で内径150mm、高さ220mm、内部に電極5,6などを設置した状態でのガス容積は3.5リットルである。ただし、循環ポンプ等を含む全ガス容積は4.5リットルである。SFガス圧力は0.1MPa(abs.)とし、高電圧側電極5は平板電極(平坦部直径:130mm)、接地側は直径0.5mm、長さ25mmの針電極7とした。ギャップ長は20mmである。この針電極7は高周波シャント抵抗へ接続されており、部分放電電流はシャント抵抗を介して電圧としてオシロスコープ(Tektronix 社製DPO7254、アナログ帯域2.5GHz、40GS/s、サンプリング400ps/pt、レコード長50×106ワード)により計測される。印加電圧は交流(50Hz)である。グリース塗布部における部分放電を模擬するために、接地側針電極および対向する高電圧側平板電極の平坦部に実器で使用されているメーカ指定のA社製およびB社製の2種類のグリースを塗布した(図3、図4参照)。また、吸着剤ユニットを実験タンクの次段に設置した。また、系には分解ガスの定量分析のためのFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を設置している。SFおよびそれに成分が近い分解ガスは地球温暖化ガスであり、赤外線を吸収する特徴を有しているため、FTIR による検出が可能である。吸着剤には東ソー株式会社製の合成ゼオライト系吸着剤「ゼオラム:登録商標」を20g使用した。印加電圧は交流(50Hz)で、印加時間(部分放電発生時間)は8時間とした。部分放電のパラメータを表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(実験結果)
図5および図6に8時間の電圧印加後の電極を示す。A社製およびB社製のいずれのグリースの場合でも、部分放電が発生している針先端のグリースが黒色に、平板電極のうち針電極に対向する領域が変色(褐色)していることがわかる(電極平坦部においてグリースが円形状になっている部分が針電極に対向する領域)。これはグリースに含まれる有機成分が部分放電により炭化したものと考えられる。
【0034】
部分放電により生成された分解ガスをフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)を用いて定性分析した。そのFTIR 分析結果を図7に示す。図の縦軸はFTIRの出力(Absorbance:吸光度)であり、ガスの濃度に対応した値を示す。8時間の部分放電により各種分解ガスが生成され、いずれの分解ガスも濃度が上昇していることがわかる。いずれのグリースの場合もSF、SO、SO、SO の他、グリースに由来する炭素(C)を含むCF が生成されることを確認した。図中の▲で示すFTIR波数1282cm−1は、SO とCF のピークが重なる波数であり、吸光度はこれらの合成値となる。吸着剤ユニットを適用した結果を図7中の右側領域に示す(吸着剤ユニットの適用時間時間は10分間とし、吸着剤ユニットを通過させるガスの流量は5リットル/分とした)。前述したFTIR波数1282cm−1を除く全ての分解ガスは全て吸着剤に吸着・除去されていることがわかる。ここで特に着目すべき点は、FTIR 波数1484cm−1で示されるSOが完全に除去されていることである。すなわち、吸着剤適用後のFTIR波数1282cm−1の値(SOとCF の合成値)はCF 単体の吸光度となる。この結果より、A社製およびB社製グリースともにグリース塗布部における部分放電によりCF が生成されていることがわかる。因みに、FTIR による分析は、0時間と8時間のみ行い、ガス濃度が上昇していることを確かめた。したがって、図中において部分放電発生領域のガス濃度は0時間と8時間を直線的に結んだものである(破線)。部分放電発生時間とガス濃度の関係は必ずしも線形ではない。
【0035】
[グリース塗布部における短時間部分放電におけるCF の生成検証]
以上述べたとおり、A社、B社製のグリースともに部分放電に伴いCF が生成されることが判明したため、ここではA社製グリースを用い、比較的短時間の部分放電によってもCFが生成されるか検証を行った。印加時間、部分放電などのパラメータを表2に示し、表3にガスクロマトグラフによる代表的な分解ガスの定量分析結果を示す。また図11に部分放電生成前後の電極の写真を示す。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

表3から、いずれの場合でもCFを含む分解ガスが生成されていることがわかる。しかし、SOF、SOは部分放電発生時間が長くなるほど生成量が増えているが、CF は逆の傾向となっている。今回の実験において、グリースは針電極と平板電極に塗布したが、部分放電は針電極の先端で発生するために、CF の発生には針側のグリースが大きく寄与するものと考えられる。これは図6からわかるとおり、部分放電後は針先のグリースが黒色になっていることからも推察することができる。また、部分放電後の針先の残存グリース量に着目すると、A社製グリースの方がB社製グリースよりも少なく、部分的に針電極が露出している。グリースは部分放電によって炭化しCF の生成に寄与する一方で、部分放電の熱やそれに伴うガスの対流によって飛散する。A 社製グリースはB社製グリースに比べて粘度が低いために、部分放電によって飛散し針先に残りにくいものと考えられる(図8に針先のグリースの飛散状況がよくわかる印加時間4時間の場合の様相を示す)。部分放電が発生している針先のグリース量が減少すれば、結果的にCF の生成量も減少する。したがって、今回の実験において部分放電発生時間とCF の生成量に相関がないのは針先の残存グリース量の違いが影響しているものと考えられる(部分放電の発生時間ほどには部分放電とグリースが反応していない)。いずれにしても、今回の実験では部分放電発生時間が2時間の場合でも十分に計測可能なCF が生成されており(定量分析におけるCF の感度はppb オーダー)、ごく短時間の部分放電でもCF が生成されるものと考えられる。
【0038】
[CF ガスの吸着剤に対する吸着特性]
次に、グリース塗布部において部分放電が発生する場合、CF が生成されることが明らかになったため、ここでは実際に実器に用いられている吸着剤のCF 吸着特性について検討を行った。
【0039】
(実験方法)
実験で用いたガス配管図を図9に示す。ステンレス製の実験タンク(内径150mm、高さ220mm)の容積は3.5リットルであり、循環ポンプ等を含めた全ガス容積は4.5リットルである。実験タンクの次段に吸着剤ユニットを設け、吸着剤には東ソー株式会社製の合成ゼオライト系吸着剤「ゼオラム(登録商標)」を20g使用した。この他、系にはガス分析のためのFTIRを設置している。吸着剤のCF に対する吸着特性の検証法は以下の通りである。
(1)あらかじめSFとCF ガスの混合ガスをFTIR により分析しておく。
(2)ドライポンプを用いて(1)の混合ガスを循環させ、規定時間吸着剤ユニットを通過させる(吸着剤の適用)。
(3)規定時間吸着剤ユニットを通過したガスを改めてFTIRにより分析し、(1)の結果と比較し、CF の減少量を確認する。
(2)における吸着剤ユニットの適用時間時間は10分間とし、吸着剤ユニットを通過させるガスの流量は5リットル/分とした。したがって、吸着剤ユニットの通過ガスはのべ50リットルとなり、全ガス量(4.5リットル)に対して十分に大きく、吸着剤の吸着特性を検証することが可能である。SFとCF ガスを合わせた圧力は0.1MPaとした。CF ガスの混合量は表4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
(実験結果)
実験結果を図10に示す。図の縦軸はFTIRの出力(Absorbance:吸光度)であり、ガスの濃度に対応した値を示す。図中の△で示すものが吸着剤適用前、●で示すものが吸着剤適用後のCF の吸光度である。吸着剤適用前後のCF の吸光度にはほとんど差がないことがわかる。これはCF が吸着剤にほとんど吸着されていないことを意味する。したがって、実器において導電性グリース塗布部における部分放電によってCF が発生した場合、タンク内ガスのサンプリング調査によって不具合の発生を検出できる可能性が見出された。
【0042】
以上の実験結果から、SF分解ガス分析に基づくGIS通電接触部の部分放電検出法を検討した。主な成果を以下にまとめる。
(1) GISにおいて使用されているグリースを用い、GISの接点を模擬したグリース塗布電極において部分放電を発生させ、生成されたSF分解ガスをFTIR により定性分析した。この結果、いずれの場合もSF、SO、SO、SO の他、グリースに由来する炭素(C)を含むCF が生成されることが明らかになった。
(2) ガスクロマトグラフによる定量分析の結果、部分放電の発生時間を比較的短時間である2時間とした場合でも、8.8ppmのCF が検出された。したがって、ごく短時間の部分放電でもCFが生成されるものと考えられる。尚、ガスクロマトグラフによる定量分析におけるCF の感度はppb オーダーである。
(3) GISにおいて使用されている吸着剤(合成ゼオライト系吸着剤「登録商標:ゼオラム」)のCF 吸着特性を検証した。この結果、CF は合成ゼオライト系吸着剤(登録商標:ゼオラム」にほとんど吸着されないことが確認された(図10)。
以上の結果により、GISの接点において部分放電が発生した場合には、導電性グリースに由来するCF が発生し、CF は吸着剤に吸着されないことから、GIS内のガス分析によって部分放電の発生を検出できる可能性が見出された。
【0043】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0044】
1 実験タンク
2 グリース
3 PDセンサー
4 SFガス
5 高電圧側平板電極
6 接地側電極板
7 接地側針電極
8 吸着剤ユニット
9 分析用ガス採取ボンベ
10 フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)
11 真空ポンプ
12 真空ゲージ
13 ドライポンプ
14 流量計
15 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッファーを備えない接点の少なくとも可動部に導電性グリースを塗布したSF6ガスで絶縁した開閉器の異常状態を検出する方法において、前記接点の異常を検出する指標となるモニターガスとして前記グリース由来のCFを用いることを特徴とするガス絶縁開閉器の異常検出方法。
【請求項2】
前記CFが閾値を越えたときに接点の損耗等が起きたと判断して接点を交換するものであるガス絶縁開閉器の保守方法。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−34531(P2012−34531A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−173499(P2010−173499)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】