説明

パティキュレート燃焼触媒材の評価方法及び同評価装置

【課題】酸素吸蔵材との関係での触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を効率良く判定できるようにする。
【解決手段】供試材として、触媒金属を含む酸素吸蔵材(パティキュレート燃焼触媒材)と該触媒金属を含まない酸素吸蔵材とを準備し(S1,S2)、各供試材に182を吸蔵させ(S3,S6)、次いで各供試材にカーボン質粉末を混合し(S4,S7)、162含有気流中で当該混合物を昇温させていくことにより、18Oを含むCO2及び18Oを含まないCO2を生成させてそれら各種CO2量の温度変化を測定し(S5,S8)、当該両供試材の各種CO2量の温度変化を比較することにより、当該触媒材のパティキュレート燃焼に対する適性を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パティキュレート燃焼触媒材の評価方法及び同評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排ガスに含まれるパティキュレート(炭素粒子を含む浮遊粒子状物質)を捕集するには、DPF(ディーゼルパティキュレートフィルタ)を排気管に装着することが有効である。このDPFは、炭化ケイ素(SiC)やコーディエライト等からなる耐熱性セラミック材が三次元網目状タイプ若しくはウォールスルータイプと呼ばれる形状に成形されており、排ガス中のパティキュレートは排ガスがDPFを通過する過程で該DPFに捕集される。エンジン運転時間に応じてDPFのパティキュレート堆積量が多くなり、その結果、エンジンの背圧が高まっていく。そのため、例えば、車両走行距離が所定値に達したときにDPFを交換したり、或いはDPFのパティキュレートを適宜強制的に燃焼させることが行なわれている。
【0003】
上記パティキュレートの強制燃焼には、バーナーを用いる方法もあるが、その場合、DPF本体の耐熱性も要求される。そこで、排ガス通路上流側からHC成分(例えば燃料)を過剰に流し、DPFよりも上流側に配置した触媒でそのHC成分を燃焼させ、その燃焼熱を利用してDPFの温度を上昇させることにより、パティキュレートを着火燃焼させる、という提案がなされている。その場合、DPFの排ガス通路面にパティキュレート燃焼触媒材として触媒金属と酸素吸蔵材とを含む触媒層を形成しておくと、その酸素吸蔵材に吸蔵された酸素と触媒金属とを利用してパティキュレートの着火燃焼を促進することができる。
【0004】
しかし、酸素吸蔵材に吸蔵された酸素と触媒金属とがパティキュレートの着火燃焼にどのように寄与しているかははっきりわかっていない。そのため、そのようなパティキュレート燃焼触媒材の研究開発は手探り状態にある。
【0005】
これに対して、酸素吸蔵材に含まれる酸素の放出特性を調べる方法についての提案はある(特許文献1参照)。それは、酸素吸蔵材に162を吸蔵飽和させた後に、これを182含有雰囲気に保持し、該雰囲気中の例えば、182濃度の経時変化を測定することにより、その酸素吸蔵材の酸素拡散係数を求めるというものである。また、酸素が飽和した酸素吸蔵材にCOを供給し、生成するCO2量に基いて酸素放出量を測定することも当該文献には記載されている。
【特許文献1】特開2005−9884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された方法では、酸素吸蔵材の酸素放出特性を知ることができるものの、その放出される酸素がパティキュレートの燃焼にどのように寄与するか、特に、酸素吸蔵材に触媒金属を担持させた場合に、その触媒金属が酸素の放出やパティキュレートの燃焼にどのように寄与するかを知ることはできない。かかる触媒金属を含む酸素吸蔵材のパティキュレート燃焼に関連する特性を知ることは、パティキュレート燃焼触媒材の研究開発に極めて重要である。このことが可能になれば、パティキュレートの大気中への放出を大幅に低減するできる技術開発に役立ち、さらにはそのようなパティキュレート燃焼触媒材を製造するときの品質管理にも役立つと考えられる。
【0007】
そこで、酸素吸蔵材に吸蔵されていた酸素及び触媒金属がパティキュレートの燃焼にどのように寄与しているかを知り、該酸素吸蔵材との関係での当該触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような課題を解決するために、触媒金属を含む酸素吸蔵材及び触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々のカーボン質粉末燃焼特性に基いて、酸素吸蔵材との関係での当該触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定するようにした。
【0009】
請求項1に係る発明は、エンジンから排出されるパティキュレートを燃焼させる触媒材として、触媒金属を含む酸素吸蔵材を準備するとともに、該触媒金属を含まない酸素吸蔵材を準備し、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材とカーボン質粉末との混合物を酸素含有雰囲気中で加熱することによりCO2を生成させる一方、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材とカーボン質粉末との混合物を酸素含有雰囲気中で加熱することによりCO2を生成させ、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材が有する上記CO2の生成に関する特性と、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材が有する上記CO2の生成に関する特性との比較により、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価方法である。
【0010】
すなわち、上記各混合物を酸素含有雰囲気中で加熱してCO2を生成させたときの、触媒金属を含む酸素吸蔵材が有するCO2の生成に関する特性と、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材が有する上記CO2の生成に関する特性とに差違があるとき、その差違は触媒金属の有無によるものである。そして、そのCO2の生成に関する特性はパティキュレート燃焼特性に対応する。よって、当該特性の比較により、上記触媒金属が酸素吸蔵材との関係でパティキュレート燃焼に有効に働くか否か、換言すれば、該酸素吸蔵材との関係での当該触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することできる。
【0011】
従って、酸素吸蔵材や触媒金属の種類を変えて複数の組み合わせについて、パティキュレート燃焼に対する適性をみることにより、それらの組み合わせの良否を判定することができる。或いは、酸素吸蔵材と触媒金属との量比を適宜変更してパティキュレート燃焼に対する適性をみることにより、最適な量比を求めることが可能になる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1において、
上記CO2の生成は、上記混合物を酸素含有気流中で昇温させていくことにより行ない、
上記CO2の生成に関する特性として、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2及び上記酸素含有雰囲気中の酸素が反応して生成するCO2を合わせたトータルCO2生成量の温度変化と、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成する吸蔵材関与CO2生成量の温度変化とのうちの少なくとも一方を求め、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材による上記の少なくとも一方のCO2生成量と上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材による上記の少なくとも一方のCO2生成量との差の温度変化を求め、該CO2生成量差の温度変化に基いて、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とする。
【0013】
すなわち、トータルCO2生成量差の温度変化をみるようにすれば、当該触媒金属を酸素吸蔵材に組み合わせることにより、パティキュレートの燃焼性がどのような温度においてどの程度良好になるかを判定することができる。一方、吸蔵材関与CO2生成量差の温度変化をみるようにすれば、該酸素吸蔵材から放出される酸素がパティキュレート燃焼にどのような温度でどの程度有効に働くか、換言すれば、触媒金属を含ませることによって、酸素吸蔵材から放出される酸素がパティキュレート燃焼にどのような温度でどのように関与するようになるかを判定することができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項2において、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材及び上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々に18Oを含む酸素を吸蔵させた後に上記カーボン質粉末を混合し、
上記混合物の酸素含有雰囲気中での加熱は、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させていくことによって行ない、
上記CO2の生成に関する特性として、上記昇温によって生成する上記18Oを含むCO2量に基いて、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2生成量の温度変化を求めることを特徴とする。
【0015】
すなわち、酸素吸蔵材に18Oを含む酸素を吸蔵させた後、上記混合物の酸素含有雰囲気中での加熱を、18Oを含まない酸素含有気流中で行なうから、それによって生成する18Oを含むCO2は、酸素吸蔵材から放出された酸素がカーボン質粉末と反応してなるものである。よって、上記18Oを含むCO2の生成量に基いて、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2生成量の温度変化を求めることができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項3において、
さらに、上記触媒金属を含む酸素吸蔵材及び上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々の上記18Oを含むCO2生成量差の温度変化と、上記18Oを含まないCO2生成量差の温度変化とに基いて、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とする。
【0017】
従って、上記18Oを含むCO2生成量差の温度変化と、上記18Oを含まないCO2生成量差の温度変化との比較から、触媒金属の効果がどのような温度でどのように現れるかを知ることができ、酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性の判定に有利になる。
【0018】
請求項5に係る発明は、エンジンから排出されるパティキュレートを燃焼させる触媒材としての触媒金属を含む酸素吸蔵材に、18Oを含む酸素を吸蔵させた後に、カーボン質粉末を混合し、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させて生成する18Oを含むCO2量を測定し、
上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材に、18Oを含む酸素を吸蔵させた後に、カーボン質粉末を混合し、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させて生成する18Oを含むCO2量を測定し、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材によるカーボン質粉末の燃焼によって生成した18Oを含むCO2量と、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材によるカーボン質粉末の燃焼によって生成した18Oを含むCO2量との差の温度変化を求め、
上記生成CO2量差の温度変化に基いて、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価方法である。
【0019】
従って、触媒金属を含むことによって、酸素吸蔵材から放出される酸素がパティキュレート燃焼にどのような温度でどのように働くかを判定することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、エンジンから排出されるパティキュレートを燃焼させる触媒材としての触媒金属を含む酸素吸蔵材と、該触媒金属を含まない酸素吸蔵材との各々を供試材として、該両供試材によるカーボン質粉末の燃焼特性を比較して当該触媒材のパティキュレート燃焼に対する適性を判定するためのパティキュレート燃焼触媒材の評価装置であって、
上記供試材及びカーボン質粉末を収容し、該供試材の存在下でカーボン質粉末を燃焼させる反応容器と、
上記反応容器に182を供給して上記供試材に吸蔵させるための182供給源と、
上記反応容器中の上記182吸蔵後の供試材及び上記カーボン質粉末との混合物に162を含むガスを供給する162供給源と、
上記反応容器中での上記カーボン質粉末の燃焼によって生成する18Oを含むCO2量と18Oを含まないCO2量とを分析するための、上記反応容器に接続された質量分析器とを備えていることを特徴とする。
【0021】
従って、反応容器に供試材を収容した状態で182供給源から182を供給することにより、その供試材の酸素吸蔵材に182を吸蔵させることができる。次いでこの供試材にカーボン質粉末を混合し、162供給源から162を供給してカーボン質粉末を燃焼させることにより、CO2を生成させることができる。そして、その生成するCO2の質量を測定することにより、そのCO2に含まれる18Oの量を求めることができる。つまり、供試材中の酸素吸蔵材から放出された18Oとの反応によって生成したCO2量を求めることができる。そうして、上記両供試材、すなわち、触媒金属を含む酸素吸蔵材と、該触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々について、上記18Oとの反応によって生成したCO2量を求め、これを比較することにより、酸素吸蔵材との関係での触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、請求項1に係る発明によれば、触媒金属を含む酸素吸蔵材とカーボン質粉末との混合物を酸素含有雰囲気中で加熱することによりCO2を生成させる一方、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材とカーボン質粉末との混合物を酸素含有雰囲気中で加熱することによりCO2を生成させ、各々のCO2の生成に関する特性を比較するようにしたから、酸素吸蔵材との関係での触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を効率良く判定することができる。
【0023】
請求項2に係る発明によれば、上記CO2の生成は、上記混合物を酸素含有気流中で昇温させていくことにより行ない、酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2及び酸素含有雰囲気中の酸素が反応して生成するCO2を合わせたCO2生成量の温度変化と、酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2量の温度変化とのうちの少なくとも一方を求めるようにしたから、酸素吸蔵材に触媒金属を含ませることによって、どのような温度でどのようにパティキュレートの燃焼性が向上するかを効率良く判定することができる。
【0024】
請求項3に係る発明によれば、触媒金属を含む酸素吸蔵材及び触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々に18Oを含む酸素を吸蔵させた後にカーボン質粉末を混合し、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させていき、これによって生成する上記18Oを含むCO2量に基いて、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2生成量の温度変化を求めるようにしたから、酸素吸蔵材から放出される酸素がパティキュレート燃焼にどのような温度でどの程度有効に働くか、換言すれば、触媒金属を含ませることによって、酸素吸蔵材から放出される酸素がパティキュレート燃焼にどのような温度でどのように関与するようになるかを効率良く判定することができる。
【0025】
請求項4に係る発明によれば、請求項3において、さらに、触媒金属を含む酸素吸蔵材及び触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々の上記18Oを含むCO2生成量差の温度変化と、上記18Oを含まないCO2生成量差の温度変化とを求めるようにしたから、触媒金属の効果がどのような温度でどのように現れるかを知ることができ、酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定に有利になる。
【0026】
請求項5に係る発明によれば、触媒金属を含む酸素吸蔵材及び触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々について、18Oを含む酸素を吸蔵させた後にカーボン質粉末を混合し、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させて生成する18Oを含むCO2量を測定して両CO2量差の温度変化を求めるようにしたから、触媒金属を含むことによって、酸素吸蔵材から放出される酸素がパティキュレート燃焼にどのような温度でどのように働くかを効率良く判定することができる。
【0027】
請求項6に係る発明によれば、供試材及びカーボン質粉末を収容し、該供試材の存在下でカーボン質粉末を燃焼させる反応容器と、該反応容器に182を供給して上記供試材に吸蔵させるための182供給源と、該反応容器中の上記182吸蔵後の供試材及び上記カーボン質粉末との混合物に162を含むガスを供給する162供給源と、該反応容器中での上記カーボン質粉末の燃焼によって生成するCO2を分析するための質量分析器とを備えているから、触媒金属を含む酸素吸蔵材及び該触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々について、酸素吸蔵材から放出された18Oとの反応によって生成したCO2量を求めることができ、その生成CO2量の比較により、酸素吸蔵材との関係での触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を効率良く判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
図1はパティキュレート燃焼触媒材の評価装置を示す。同装置は、2つのサンプル設置部1,2、これらサンプル設置部1,2に182162、Heの各ガスを供給するためのガス供給源3〜5、サンプル設置部1,2から流出するガスの質量を分析するための四重極質量分析器6、並びに分析結果を演算表示する演算表示部7を備えている。
【0030】
3つのガス供給源3〜5各々とサンプル設置部1,2とは、各ガスの供給流量を調節するMFC(マスフローコントローラ)8〜10と、それらのガスを両サンプル設置部1,2に対して選択的に切り換えて供給するための電磁切換弁11とを介して接続されている。各サンプル設置部1,2には、電磁切換弁11より分岐して延びるガス供給管12と、カーボン質粉末(無定形炭素、グラファイト、その他の微粉状炭素を含有する粉末)をサンプル設置部1,2に供給するためのカーボン供給管13とが接続されている。そのカーボン供給管13には開閉弁14が設けられている。
【0031】
各サンプル設置部1,2より延びるガス流出管15には開閉弁16が設けられている。この両ガス流出管15が接続された集合管17から分析用管18が分岐し、この分析用管18に上記四重極質量分析器6を介してターボ分子ポンプ19及びロータリポンプ20が接続されている。分析用管18の分岐部には、分析器側へのガス流入量を調節するための調節弁21が設けられている。
【0032】
演算表示部7には、各サンプル設置部1,2からの温度情報、並びに質量分析器6によるガス分析結果情報が与えられる。この演算表示部7では、当該温度情報及びガス分析結果情報に基づいて、サンプル設置部1,2から流出する各種のガス量(強度)の温度変化、並びに両サンプル設置部1,2から流出するガス量の差の温度変化を演算表示する。
【0033】
サンプル設置部1,2の具体的な構造は図2に示されている。同図において、25は供試材26を収容する反応容器であり、ヒータ(図示省略)を備えた加熱容器27に収められている。反応容器25は入口と出口とを備えた管状のもの(サンプル管)である。反応容器25の入口側に設けられたフレキシブルチューブ28にガス供給管12及びカーボン供給管13が接続され、その出口側に設けられたフレキシブルチューブ29にガス流出管15が接続されている。反応容器25を収めた加熱容器27は、供試材26とカーボン質粉末31とを混合するための振動台32に支持されている。加熱容器27には演算表示部7に温度情報を出力する温度計33が設けられている。
【0034】
図3はパティキュレート燃焼触媒材の評価方法の一例を示すステップ図である。S1,S2はサンプル設置部1,2の各反応容器25に供試材26を仕込む準備ステップである。すなわち、反応容器25の入口又は出口のフレキシブルチューブ28を外して供試材26を入れた後、フレキシブルチューブ28を元通り嵌める。本例では、サンプル設置部1の反応容器25に触媒金属を担持していないOSC材(酸素吸蔵材のこと。以下、同じ。)を収容し(S1)、サンプル設置部2の反応容器25にパティキュレートを燃焼させる触媒材として、触媒金属Ptを担持させたOSC材を収容した(S2)。
【0035】
ステップS1に続くステップS3では、サンプル設置部1の反応容器25にHeで希釈した182ガスを供給し、該反応容器25に収容されたOSC材に182ガスを吸蔵させる。すなわち、サンプル設置部1の出口側開閉弁16を開、サンプル設置部2の出口側開閉弁16を閉とし、質量分析器6側へ所定量のガスが流れるように調節弁21を制御する。一方、182ガス供給源3及びHeガス供給源5から各ガスがサンプル設置部1の反応容器25に供給され、162供給源4からはガスが供給されないように、MFC8〜10を調節し、電磁切換弁11をガスがサンプル設置部1の方へ流れるように制御する。そうして、Heで希釈した182ガスをサンプル設置部1の反応容器25に供給しながら、加熱容器27の温度を漸次上昇させていくことにより、OSC材に182ガスを吸蔵させる。182ガス濃度は例えば2.5容量%とする。
【0036】
また、182ガスを反応容器25に供給しながら、加熱容器27の温度を漸次上昇させて行く過程で、質量分析器6で得られるガス分析データ及び温度計33の温度データを演算表示部7に入力する。この場合、質量分析器6では、182ガス量、162ガス量及び1618Oガス量の各温度変化を分析することになる。
【0037】
OSC材に182ガスが吸蔵飽和した後、182ガス供給源3及びHeガス供給源5のMSC8,10を閉とする。また、加熱容器27の温度を室温まで低下させる。182ガスの吸蔵飽和が完了したか否かは、演算表示部7で得られる182ガス流量(強度)が定常状態になったことを確認することによって判定することができる。
【0038】
続くステップS4において、サンプル設置部1のカーボン供給管13の開閉弁14を開として、カーボン質粉末31を反応容器25内に供給する。そして、振動台32を振動させてそのカーボン質粉末31をOSC材に混合する。その混合質量比は、例えば、カーボン質粉末:OSC材=1:4とする。
【0039】
続くステップS5において、162ガス供給源4及びHeガス供給源5のMSC9,10を開として、サンプル設置部1の反応容器25にHeで希釈した162ガスを供給しながら、加熱容器27の温度を漸次上昇させていく。162ガス濃度は例えば10容量%とする。一方、質量分析器6で得られるガス分析データ及び温度計33の温度データを演算表示部7に入力する。この場合、質量分析器6では、18Oを含むCO2(C182、C1618O)ガス量及びC162ガス量の各温度変化を分析することになる。
【0040】
上記サンプル設置部1のOSC材について、そのCO2ガスの分析が終了すると、次にサンプル設置部2の反応容器25に収容した触媒金属を担持したOSC材について、同様の操作を行なう。すなわち、今度はサンプル設置部1の出口側開閉弁16を閉、サンプル設置部2の出口側開閉弁16を開とする一方、電磁切換弁11をガスがサンプル設置部2の方へ流れるように制御する。そうして、サンプル設置部1のOSC材について行なったのと同じ操作により、サンプル設置部2の触媒金属を担持したOSC材について、182ガスの吸蔵(ステップS6)、カーボン質粉末の混合(ステップS7)及びCO2ガス量の分析(ステップS8)を先と同じ条件で行なう。
【0041】
しかる後、ステップS9において、演算表示部7により、触媒金属を担持していないOSC材と触媒金属を担持したOSC材との、上記18Oを含むCO2ガス量及びC162ガス量の差の各温度変化を演算し表示する。
【0042】
なお、上記例では、先に触媒金属を担持していないOSC材についてCO2量の分析を行なった後に、触媒金属を担持したOSC材について同様の分析を行なうようにしたが、その順番は逆であってもよい。
【0043】
図4〜図6は質量分析結果を示すグラフである。供試材は、触媒金属を担持していないOSC材がCe0.9Pr0.12の複酸化物であり(図4,5の「Pt担持なし」)、触媒金属を担持したOSC材(パティキュレート燃焼触媒材)がCe0.9Pr0.12に触媒金属としてPtを2質量%担持したものである(図4,5のPt担持(2質量%))。OSC材は共沈法によって調製し、Ptは蒸発乾固法によって担持させた。また、いずれの供試材も大気雰囲気で800℃の温度に24時間保持するエージングを施した後に上述の分析を行なった。また、カーボン質粉末としてはカーボンブラック粉末を用いた。
【0044】
図4は182ガス吸蔵ステップS3,S6の質量分析結果を示す。温度が上昇するにつれて、182強度が低下していき、162及び1618Oの強度が上昇していることから、182ガスが162に置換してOSC材に吸蔵されていくことがわかる。また、高温になると、182強度が上昇していくことから、OSC材の182ガスが飽和に向かっていることがわかる。1618OはOSC材から放出される16Oと気流中の18Oとが反応して生成した酸素である。また、OSC材内部の酸素原子のみで構成される162の増加が、気流中の酸素原子を含む1618Oよりも多い。従って、O2の置換反応においては、気流中の酸素原子は、OSC材表面に吸着後、一旦内部に取り込まれやすく、すでにOSC材内部に存在していた酸素原子が優先的に放出される機構をとっていると考えられる。
【0045】
そうして、Pt担持OSC材では、182強度の低下及び162強度の上昇が、Pt担持なしOSC材よりも低温側で始まっている。上述したように、すでにOSC材内部に存在していた酸素原子が該OSC材から優先的に放出され反応に関わりやすいことを考慮すると、C1618OはOSC材内部に存在していた酸素原子によってカーボンが燃焼して生成したものと考えることができる。このことから、当該OSC材にPtを担持させると、気流中の酸素とOSC材内部の酸素が置換され易くなることがわかる。
【0046】
図5はステップS5,S8の質量分析(各種CO2強度の測定)結果を示し、図6はPt担持OSC材のCO2強度からPt担持なしOSC材のCO2強度を差し引いた強度差についての結果を示す。
【0047】
図5によれば、温度が上昇するにつれて、各種CO2強度が上昇していくが、18Oを含むCO2(C182、C1618O)強度の上昇がC162強度よりも低温側で始まっていることから、OSC材から放出される酸素(18O)の方が気流中の酸素(16O)よりもパティキュレートを燃焼させ易いことがわかる。また、高温側では、C182及びC1618Oの強度が低下し始め、C162強度が急上昇している。これは、OSC材に吸蔵されていた酸素量が少なくなったこと、そして、カーボン質粉末の燃焼が始まった後は気流中酸素によっても該カーボン質粉末の燃焼が良く進むことを示している。
【0048】
Pt担持OSC材とPt担持なしOSC材とを比較すると、図5によれば、C182及びC1618Oの強度上昇はPt担持OSC材の方がPt担持なしOSC材よりも低温側から始まっている。特にC182強度の低温側からの上昇が顕著である。このことは、図6のC182強度差からも明らかである。従って、当該OSC材にPtを担持させると、OSC材から放出される酸素によるパティキュレートの燃焼が進み易くなり、その燃焼開始温度が低下することがわかる。
【0049】
図6の18Oを含むCO2(C182、C1618O)強度差とC162強度差とをみると、当該OSC材にPtを担持させると、高温側では気流中酸素によるパティキュレート燃焼促進が顕著になることがわかる。
【0050】
図6の1点鎖線は、18Oを含むCO2(C182、C1618O)強度とC162強度とを合わせたトータルCO2強度について、Pt担持OSC材からPt担持なしOSC材を差し引いたトータルCO2強度差のデータである。このトータルCO2強度差の温度変化から、当該OSC材にPtを担持させると、パティキュレートの燃焼性が全体としてどの程度高まるか、Ptを担持した効果がどの温度範囲で得られるか、特に低温側では何℃から効果が現れるかがわかる。
【0051】
また、上記例はOSC材としてのCe0.9Pr0.12の複酸化物とPtとの組み合わせに関するが、他の酸素吸蔵材とPtとの組み合わせ、或いは上記複酸化物と他の触媒金属との組み合わせについて、上記と同様の評価を行ない、各組み合わせについて評価結果を比較することにより、例えば低温燃焼性を高めるためには、どのような組み合わせを検討していくべきか、或いは短時間でパティキュレートの燃焼を完了させるためには、どのような組み合わせを検討していくべきか、いう研究開発の指針を比較的短時間で得ることができるようになる。また、OSC材と触媒金属との量比に関しても、いくつかの組み合わせを同様に評価することにより、最適な量比にするための指針を得ることが容易になる。
【0052】
なお、上記例では、182を供試材に吸蔵させたが、162を吸蔵させてカーボン質粉末の燃焼によるCO2量を測定するようにしてもい。
【0053】
また、図1に示す評価装置ではサンプル設置部を2つ設けているが、これを一つにして反応容器内の供試材を入れ替えることによって、複数の供試材について評価を順次行うようにしてもよく、或いは3以上のサンプル設置部を設け、それらを切り換えて複数の供試材について評価を行うようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るパティキュレート燃焼触媒材の評価装置の一例を示すブロック図である。
【図2】同評価装置のサンプル設置部の構成を示す図である。
【図3】本発明に係るパティキュレート燃焼触媒材の評価方法の一例を示すステップ図である。
【図4】OSC材に酸素を吸蔵させたときの各種O2強度の温度変化を示すグラフ図である。
【図5】カーボン質粉末を燃焼させたときに生成する各種CO2強度の温度変化を示すグラフ図である。
【図6】OSC材に触媒金属を担持させたケースと担持させないケースとの、上記各種CO2の強度差の温度変化を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0055】
1,2 サンプル設置部
3〜5 ガス供給源
6 質量分析器
7 演算表示部
25 反応容器
26 供試材
31 カーボン質粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出されるパティキュレートを燃焼させる触媒材として、触媒金属を含む酸素吸蔵材を準備するとともに、該触媒金属を含まない酸素吸蔵材を準備し、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材とカーボン質粉末との混合物を酸素含有雰囲気中で加熱することによりCO2を生成させる一方、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材とカーボン質粉末との混合物を酸素含有雰囲気中で加熱することによりCO2を生成させ、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材が有する上記CO2の生成に関する特性と、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材が有する上記CO2の生成に関する特性との比較により、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記CO2の生成は、上記混合物を酸素含有気流中で昇温させていくことにより行ない、
上記CO2の生成に関する特性として、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2及び上記酸素含有雰囲気中の酸素が反応して生成するCO2を合わせたトータルCO2生成量の温度変化と、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成する吸蔵材関与CO2生成量の温度変化とのうちの少なくとも一方を求め、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材による上記の少なくとも一方のCO2生成量と上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材による上記の少なくとも一方のCO2生成量との差の温度変化を求め、該CO2生成量差の温度変化に基いて、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材及び上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々に18Oを含む酸素を吸蔵させた後に上記カーボン質粉末を混合し、
上記混合物の酸素含有雰囲気中での加熱は、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させていくことによって行ない、
上記CO2の生成に関する特性として、上記昇温によって生成する上記18Oを含むCO2量に基いて、上記酸素吸蔵材から放出された酸素が反応して生成するCO2生成量の温度変化を求めることを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価方法。
【請求項4】
請求項3において、
さらに、上記触媒金属を含む酸素吸蔵材及び上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材各々の上記18Oを含むCO2生成量差と、上記18Oを含まないCO2生成量差との比較に基いて、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価方法。
【請求項5】
エンジンから排出されるパティキュレートを燃焼させる触媒材としての触媒金属を含む酸素吸蔵材に、18Oを含む酸素を吸蔵させた後に、カーボン質粉末を混合し、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させて、生成する18Oを含むCO2量を測定し、
上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材に、18Oを含む酸素を吸蔵させた後に、カーボン質粉末を混合し、18Oを含まない酸素含有気流中で当該混合物を昇温させて生成する18Oを含むCO2量を測定し、
上記触媒金属を含む酸素吸蔵材によるカーボン質粉末の燃焼によって生成した18Oを含むCO2量と、上記触媒金属を含まない酸素吸蔵材によるカーボン質粉末の燃焼によって生成した18Oを含むCO2量との差の温度変化を求め、
上記生成CO2量差の温度変化に基いて、上記酸素吸蔵材との関係での上記触媒金属のパティキュレート燃焼に対する適性を判定することを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価方法。
【請求項6】
エンジンから排出されるパティキュレートを燃焼させる触媒材としての触媒金属を含む酸素吸蔵材と、該触媒金属を含まない酸素吸蔵材との各々を供試材として、該両供試材によるカーボン質粉末の燃焼特性を比較して当該触媒材のパティキュレート燃焼に対する適性を判定するためのパティキュレート燃焼触媒材の評価装置であって、
上記供試材及びカーボン質粉末を収容し、該供試材の存在下でカーボン質粉末を燃焼させる反応容器と、
上記反応容器に182を供給して上記供試材に吸蔵させるための182供給源と、
上記反応容器中の上記182吸蔵後の供試材及び上記カーボン質粉末との混合物に162を含むガスを供給する162供給源と、
上記反応容器中での上記カーボン質粉末の燃焼によって生成する18Oを含むCO2量と18Oを含まないCO2量とを分析するための、上記反応容器に接続された質量分析器とを備えていることを特徴とするパティキュレート燃焼触媒材の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−212336(P2007−212336A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33753(P2006−33753)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】