パパイヤおよび白花蛇舌草の水溶性抽出成分を含む癌の予防、治療または改善のための組成物
【課題】副作用が少なく安全性の高い、癌の予防、治療または改善に有用な組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】パパイヤ(Carica papaya)の葉などの部分からの水溶性抽出成分および白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa)の葉などの部分からの水溶性抽出成分を組み合わせることにより、例えば胃癌、肺癌、膵臓癌、大腸癌などの固形癌の予防、治療または改善を有効に達成でき、この組み合わせはは副作用の少ない安全性の高いものであり、その意義は極めて高いのもである。
【解決手段】パパイヤ(Carica papaya)の葉などの部分からの水溶性抽出成分および白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa)の葉などの部分からの水溶性抽出成分を組み合わせることにより、例えば胃癌、肺癌、膵臓癌、大腸癌などの固形癌の予防、治療または改善を有効に達成でき、この組み合わせはは副作用の少ない安全性の高いものであり、その意義は極めて高いのもである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パパイヤおよび白花蛇舌草の水溶性抽出成分を含む癌の予防、治療または改善のための組成物に関する。更に詳細には、パパイヤおよび白花蛇舌草の葉を熱湯で煎じることにより抽出した成分を含有し、両者の成分の免疫賦活作用を維持しつつ、抗腫瘍活性において相乗効果を発揮する、癌の予防、治療または改善のための組成物であって、医薬用および食品用に使用できる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特に悪性腫瘍の場合、術後の寛解の保証を得るまではもちろん、外科手術だけでは腫瘍の切除が不可能であるとき、あるいは手術そのものが遂行困難なときに化学療法は必須である。しかし、化学療法において腫瘍特異性を高める事は難しく、自己の正常細胞に対する副作用が必ず付随するのが現状である。消耗した体力で副作用に直面することは心身ともに大きなダメージであることは容易に想像がつくが、いかに艱苦をともなう治療であろうとも、罹患者や周辺の人々はあらゆる苦痛や困難に対峙し、快方への望みを繋ぐのは当然である。
一方、社会には様々な代替療法の情報が氾濫している。その中には信憑性の乏しいもの、経済的な負担を強いるもの、継続的な摂取が難しいもの等も多く存在し、たとえ非現実的な情報であっても信じたくならざるを得ない状況があるのも事実である。しかしながら、本来の代替療法とはいわゆる近代医学で解明し得ないメカニズムでの疾患の治療を目指すものであり、経験則の上に、科学的考察が常に存在しなければ、その意義を認識することは難しく、快復への希望にはなりえない。
【0003】
古来より伝わる植物由来の抽出物には、ある種の疾患に効果的なものが存在する事が経験的に知られている。漢方薬として長い歴史をもつ白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa、和名:フタバムグラ)は、あかね科の一年草で我が国にも自生する植物であり、民間療法薬としての情報は比較的多い。マウスへの経口投与による、抗腫瘍効果、抗ウイルス効果、IgE産生抑制、抗寄生虫効果、などが報告されている(非特許文献1、2、3および4)。また、抗腫瘍効果を発揮する漢方薬として、半枝蓮(はんしれん、シソ科、Scutellaria Barbatae)が知られており、白花蛇舌草と半枝蓮とを組み合わせた場合の抗腫瘍効果も検討されている(非特許文献5および6)。
他方、パパイヤ(Carica Papaya)は、現在では熱帯全域に分布し、その葉には抗酸化作用のあるビタミンC、タンニンをはじめ、ビタミンA、E、K、サポニン、鉄分などが含まれ、消化補助、抗炎症効果、寄生虫駆除効果などが報告されている(非特許文献7)。更に、パパイヤの葉の抽出液成分には、抗腫瘍効果を有することも報告されている(特許文献1)。
【非特許文献1】Yoshida Y, Wang MQ, Liu JN, Shan BE, Yamashita U. Immunomodulating activity of chinese medicinal herbs and oldenlandia diffusa in particular.Int J Immunopharmacol 1997; 19(7): 359-70
【非特許文献2】Shan BE, Yoshida Y, Sugiura T, Yamashita U. Stimulating activity of chinese medicinal herbs on human lymphocytes in vitro. Int J Immunopharmacol 1999; 21(3): 149-59
【非特許文献3】Lin CC, Ng LT, Yang JJ, Hsu YF. Anti-inflammatory and hepatoprotective activity of peh-hue-juwa-chi-cao in male rats. Am J Chin Med 2002; 30(2-3): 225-34
【非特許文献4】Lin CC, Ng LT, Yang JJ. Antioxidant activity of extracts of peh-hue-juwa-chi-cao in a cell free system. Am J Chin Med 2004; 32(3): 339-49
【非特許文献5】Wong BY, Lau BH, Wan CP, Oldenlandia diffusa and Scutellaria barbata augment macrophage oxidative burst and inhibit tumor growth, Cancer Biother Radiopharm 1996; 11(1): 51-56
【非特許文献6】Yoshida Y, Wang MQ, Liu JN, Sha Yamashita U., Imunomodulating activity of Chinese medicinal herbs and Oldenlandia diffusa in particular, Int J Immunopharmacol 1997: 19(7): 359-370
【非特許文献7】Hsu S. Green tea and the skin. J Am Acad Dermatol 2005; 52(6): 1049-59
【特許文献1】国際公開第WO2006/004226A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
古来より伝わる植物由来の抽出物には、ある種の疾患に効果的なものが存在する事が経験的に知られているが、その科学的根拠は乏しく、効果の機序についても未解明な部分が多い。長期間、人間が摂取してきた植物由来抽出物は、単に経験的な知恵のみに留まらず、今後の医薬品開発に向けて重大な可能性を秘めている筈である。また、白花蛇舌草、半枝蓮、パパイヤなどから得られる抽出物が有効な薬効を発揮するものであれば、元来これら植物は食用であることから、副作用が少なく安全性の高い治療薬として期待できるものである。
従って、本発明の課題は、植物由来の抽出物を有効成分とする、癌の予防、治療または改善効果が高くかつ副作用が少なく安全性の高い組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、漢方薬として長い歴史をもつ白花蛇舌草および熱帯アメリカ原産のパパイヤ由来の水溶性抽出成分に着目し、これらの抽出物に対して、免疫学的解析を行ったところ、二者間で比較すると主に白花蛇舌草の水溶性抽出成分に免疫賦活効果が、パパイヤの水溶性抽出成分に細胞傷害活性が、有意に亢進される可能性が示された。更に、この可能性の詳細を検討した上で、両者を混合する事による補足的あるいは相乗的な効果が得られる事を期待し、解析を行った結果、両者の混合は、免疫賦活作用を維持しつつ、腫瘍細胞株に対する相乗的な傷害活性が誘導される事が確認された。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
従って、本発明は、パパイヤ(Carica papaya)の水溶性抽出成分および白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa)の水溶性抽出成分を有効成分として含有する、癌の予防、治療または改善のための組成物である。
【発明の効果】
【0006】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を有効成分とする組成物は、免疫賦活作用が維持され、腫瘍細胞株に対して、相乗的な傷害活性を発揮する。従って、本発明の組成物は、癌の予防、治療または改善効果が高くかつ副作用が少なく安全性の高い医薬品、健康食品等として有用である。また、煮沸により得られる水溶性抽出物は、いわば「煎じ薬」として一般に受け入れられやすく、比較的、病態の程度に関係なく簡便に摂取できるものである。また継続的に摂取しなければならない性格上、安全性や経済性、そして簡便性に優れている点についても有用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明では有効成分として、パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を用いる。抽出成分を得るために用いる、パパイヤおよび白花蛇舌草の組織としては、葉、根、茎、果実のいずれでもよいが、特に葉が好ましい。これらのパパイヤおよび白花蛇舌草の組織を乾燥し、得られる乾燥物を水あるいは熱湯に加えて、長時間沸騰させ、得られる煎じ液を有効成分として用いる。また、パパイヤおよび白花蛇舌草の葉などの組織を乾燥させることなく、そのまま水あるいは熱湯に加えて沸騰させて煎じ液を得ることもできる。より具体的には、例えばパパイヤおよび白花蛇舌草の葉を、日光の下で通常1日から2日間放置して乾燥させて乾燥物を得る。この乾燥した葉の5gから100g程度の量を、通常50mlから1000ml、好ましくは100mlから500mlの水あるいは熱湯に加えて、通常30分間から5時間、好ましくは、1時間から2時間沸騰しながら煮るのが好ましい。煮る際に用いる容器は、金属製の容器ではないガラス製、木製、プラスチック製などの容器が好ましい。沸騰させた後は、60℃から70℃程度の温度に保ち、50mlから250ml程度に濃縮するのが好ましい。次いで、濾過して、葉を取り除いた後に、更に、60℃から70℃程度の温度に保ち、25mlから125ml程度に濃縮するのが好ましい。次いで、高速遠心分離機にて遠心分離し、上清を回収して、孔径の異なる複数の無菌濾過フィルターに順次通過させ、最終濃度を13mlから63ml程度に調整して、目的とする水溶性抽出成分を好ましく得ることができる。
【0008】
かくして得られる、パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を混合することにより本発明の組成物を得ることができる。パパイヤの水溶性抽出成分と白花蛇舌草の水溶性抽出成分との混合割合は、体積比で1:4から4:1が好ましく、更には、2:1から4:1が好ましく、特に3:1から4:1が好ましい。なお、この体積比は、パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分を、それぞれ等量の葉から等量の水を用いて同じ条件で抽出した水溶性抽出成分を基準にした場合の体積比である。
【0009】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者の混合物をそのまま服用して、癌の予防、治療または改善用の医薬として用いることができる。また、この混合物をドリンク剤用の通常使用される適当な成分と混合してドリンク剤として服用することもできる。あるいは、この混合物を、必要に応じて乾燥させた後に、散剤、錠剤などに通常使用される賦形剤等に加えて常法により散剤、錠剤などの形態にして服用することもできる。
【0010】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者の混合物は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品などに用いることもできる。パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者の混合物に、通常使用される配合物、例えば、安定化剤、保存剤、着色剤、香料、ビタミンなどを添加して、通常の方法により、ドリンク剤、粉末剤、液剤、錠剤、散剤などの形態に加工して、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品などとして用いることができる。
【0011】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を含む本発明の組成物は、特に、固型癌を予防、治療または改善するために有効であり、固型癌としては、例えば、肺大細胞癌、肺腺癌、肺臓癌、乳癌、子宮頸癌、肺中皮癌、膵臓癌でなどが挙げられる。これらの癌の予防、治療または改善のための投与量は、パパイヤの水溶性抽出成分と白花蛇舌草の水溶性抽出成分の混合物を、一日当たり通常100mlから750mlの量を1ヶ月から3ヶ月わたって毎日服用するのが好ましい。また、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品などとして食用する場合にも、同様に、パパイヤの水溶性抽出成分と白花蛇舌草の水溶性抽出成分の混合物を、一日当たり通常100mlから750mlの量を1ヶ月から3ヶ月わたって毎日食用するのが好ましい。
【0012】
以下に、実施例および試験例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例および試験例に限定されるものではない。
実施例1
パパイヤおよび白花蛇舌草の葉からの水溶性抽出成分の調製
パパイヤおよび白花蛇舌草の葉からの水溶性抽出液の調製は以下の方法で行った。
工程1: パパイヤおよび白花蛇舌草のそれぞれの葉を乾燥して得た茶葉20gをそれぞれ400mlの水にいれ、1時間沸騰させた。
工程2: 60−70℃を保ち、約100ml前後に約3時間かけて濃縮した。
工程3: 滅菌ガーゼで濾過し、大きな茶葉を取り除いた後に、60−70℃で約50ml前後に濃縮した。
工程4: 高速遠心分離機にて、9000rpm、20分遠心分離を行い、上清を回収した。
工程5: 孔径0.8、0.45、0.22・mの無菌濾過フィルターに順次通し、最終液量20mlに調製した。
工程6: 各抽出液を1mlずつ滅菌済み1.5mlチューブに分注し、4℃に保存した。
全工程を通しエンドトキシンの混入を防ぐため、すべてディスポーザブル滅菌器具を用いた。また、20gの茶葉由来の20ml濃縮液を標準濃度として、以下の検討に用いた。
【0013】
試験例1
ヒト末梢血由来単核球の分離とサイトカイン産生の測定
1.方法
健常人由来新鮮末梢血をLymphoprepTMによる比重分離法により分離した。抗ヒトCD3抗体(OKT3,1μg/ml)を固相化した96well平底プレートに、PBMC(2x105/well)を播種した。さらに可溶化抗ヒトCD28抗体(4B10)を最終濃度5μg/mlで添加した。培養液は10%FCS(Biowest)を含むRPMI1640(Sigma)を用いた。茶葉抽出液は、最終濃度200倍から800倍になる範囲で希釈し、培地中に添加した。
培養24時間後の上清を回収し、ELISA法(OptEIATM,BD)によりサイトカイン産生を測定した。また、培養後の細胞生存率は、回収した細胞をFITC−Annexin V(BD)および7−AAD(Promega)とで二重染色したのち、フローサイトメトリーにより解析した。
【0014】
2.結果
末梢血由来リンパ球に対する抽出液の免疫調節作用
(1)健常人PBMCに対する細胞死の誘導の有無
茶葉由来成分の直接的な細胞毒性を除外するために、培養後の細胞の生存率について検討した。結果を図1に示した。図1において、H.D.は白花蛇舌草の葉からの水溶性抽出成分を、C.P.はパパイヤの葉からの水溶性抽出成分を指す。以後、本明細書および図面においては、この略号を用いることもある。
抽出液200倍から800倍添加のポイントにおけるAnnexin V陽性細胞は無添加で65.4%、添加したものについても65%を下る事はなく、この濃度で24時間以内であれば生存率に直接影響する事はないものと考え、以後の解析にこの条件を決定した。
【0015】
(2)サイトカイン産生の解析
IL−2、IL−4は800倍のポイントより濃度依存的に産生が低下し、200倍で70%以上抑制された(図2)。これら細胞増殖因子の産生低下がみられた事から、細胞死という現象はまだ起きてはいないものの、PBMC中のCD3/T細胞レセプター(TCR)複合体を介した活性化に対して、ごく早期の段階より抑制が誘導されている可能性が考えられた。
IL−12p40はどちらの抽出物とも800倍のポイントで最も産生の亢進が認められ、その後濃度依存的に減少した(図3)。IL−12p70も同様であるが、C.P.よりもH.D.添加のほうが、若干誘導能が高い。IFN−γ、TNF−α、IL−10も同様の傾向が認められた(図4)。これにより、抽出成分に由来する何らかの物質が、増殖亢進には貢献しないにも拘わらず、細胞機能を亢進させる免疫賦活作用がある可能性が考えられた。これらの結果はH.D.およびC.P.両抽出物とも単独でも、混合の状態でも認められた。
【0016】
試験例2
ヒト腫瘍細胞株の培養および増殖能の測定
1.方法
固形腫瘍株として、Lu99(肺大細胞癌)、A549、PC14(肺腺癌)HepG2、Huh−7(肝臓癌)、MCF−7(乳癌)、Hela(子宮頸癌)、H2452、JMN、MESO−4(肺中皮腫)、CaPan1、Panc1(膵臓癌)を用いた。
それぞれの細胞株は10% FCSを含むRPMI1640あるいはDMEM(Sigma)にて培養した。
各腫瘍細胞株を1X104/Wellで96well 平底プレートに播種し、付着細胞に関しては十分に底面に付着させた。その後、50倍から400倍に希釈した抽出液を添加し、24時間培養した。増殖能の測定は培養終了までの18時間、[3H]−チミジンによる標識を行い放射活性を測定した。
【0017】
2.結果
A549、Lu99に関しては[3H]−チミジンの取り込みが低く、有意な結果が得られなかったため、この解析方法は適していないと考えられた。一方、取り込みの高いその他の細胞株(子宮頸がん、乳がん、肺腺がん、肺中皮腫、肝がん、膵臓がん)に関してはいずれも高濃度(50倍)で細胞増殖阻害が示されるのはもちろん、400倍の濃度に至るまでH.D.あるいはC.P.ともに増殖抑制効果が認められた(図5)。いずれの細胞株においても、H.D.よりもC.P.の方が抑制効果は高い傾向にあった。
混合添加では単独添加同様に増殖抑制を示した。最も希釈倍率の高い400倍のポイントで、単独添加と数種の比率の混合添加を比較したところ、混合する事により、子宮頸癌(図6A)、乳癌(図6B)、肝臓癌(図6C)、肺腺癌(図6D)、肺中皮腫(図6E)、膵臓癌(図6F)において相乗的に抗腫瘍効果が認められた。膵臓癌に関してはPanc−1という他の細胞株についても同様の傾向が認められたが、相乗効果の有無に言及するには[3H]−Thymidineの取り込みそのものが他の細胞株と比較して低く(図5)、適切ではないと判断した。
混合する事による相乗効果は、H.D.:C.P.比が1:3−1:4の比率で用いたときに最も高く認められた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
1.抽出液の免疫賦活作用について
活性化PBMCの増殖因子の抑制と細胞機能の亢進のみられた800倍から400倍希釈のポイントは、細胞毒性が発現する閾値を僅かに下回る濃度であったと考えられる。その濃度を上回ると、おそらく細胞に直接ダメージを与えてしまうおそれがあるであろう。しかしこれらの抽出液は経口摂取が基本であるために、生理的に高濃度で血中に存在する事は不可能である故、ここで得られた結果は整合性があり、非常に興味深いものである。
IL−12p70のサブユニットであるp40は、主に抗原提示細胞(APC)より産生されるサイトカインであり、APCの活性化により飛躍的に産生が亢進することが知られている(Brombacher F, Kastelein RA, Alber G. Novel il-12 family members shed light on the orchestration of th1 responses. Trends Immunol 2003; 24(4): 207-12)。一方、p35は広範なリンパ球より産生されることが報告されているが(Watford WT, Moriguchi M, Morinobu A, O'Shea JJ. The biology of il-12: Coordinating innate and adaptive immune responses. Cytokine Growth Factor Rev 2003; 14(5): 361-8)、これらのサブユニット同士が二量体を形成しp70として機能するためにはCD40−40Lを介する刺激が必須である事がCD40L欠損マウスにより報告されている(Cella M, Scheidegger D, Palmer-Lehmann K, Lane P, Lanzavecchia A, Alber G. Ligation of cd40 on dendritic cells triggers production of high levels of interleukin-12 and enhances t cell stimulatory capacity: T-t help via apc activation. J Exp Med 1996; 184(2): 747-52)。
しかしながら、いわば「未精製」の状態の抽出液由来成分は、天然由来の様々な物質が含まれており、単なる「異物」として自然免疫応答で認識される可能性は捨て難い。「異物」として直接APCに刺激を入れた結果、p40の産生を上昇させる事は十分に考えられ、その可能性を排除するために精製法、あるいは希釈倍率などに十分な考慮をした。その結果、p40産生とp70産生が相関して上昇する結果が得られ、APCの活性化のみならずT−APC、あるいはT−B細胞間の獲得免疫応答の修飾に関与している可能性がここで示された。さらに、TNF−αやIFN−γ等の炎症性サイトカインも、後に続く免疫応答を修飾していく重要な因子である。特に、これらのサイトカインのもつ抗腫瘍効果に期待したい。また、IL−12p70に相関してIFN−γおよびTNF−αが誘導されている点より、Th1誘導能を有する物質の関与も予測できた。
【0019】
2.抽出液の抗腫瘍効果について
固形腫瘍細胞株にみられた増殖抑制は、適切な解析方法はなかったものの、検鏡により細胞死の誘導が一因であると判断された。そして、これらの細胞株を用いた場合に、図8に示したように混合液による相乗効果が認められ、細胞傷害を誘導する何らかの因子が混合する事により増強する可能性が考えられた。
また付着細胞の場合、抽出液が培養プレート底面への接着を直接阻害する事をさけるために、完全に接着させた後に添加することが必須であった。抽出液による接着阻害効果そのものも、細胞−細胞間、あるいは細胞−細胞外基質間との接着を抑制し、in vivoで期待される腫瘍の増大や転移を抑制する抗腫瘍効果の一因として貢献する可能性も考えられた。
【0020】
3.まとめ
本試験例によりH.D.およびC.Pが単独でも細胞増殖抑制作用と免疫賦活効果を持っている事、さらにその効果は混合液にした場合、相殺されることなく、相乗的に機能することが明示された。本試験例の解析では固形腫瘍細胞株に対する細胞傷害活性に二液を混合する有用性が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】抗CD3抗体(1μg/ml)を固相化した96穴平底プレートに2x105 cell/ウェルの濃度でPBMCを播種し、可溶化抗CD28抗体(5μg/ml)を添加した。培養開始時にH.D.、C.P.単独、あるいはH.D.+C.P.の混合液(H.D.:C.P.=1:1,1:4,4:1)を添加した。24時間後に細胞を回収し、FITC−annexin Vと7−AADとで二重染色し、フローサイトメトリーで解析した。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍)、Y軸はFITC−annexin V陽性細胞のパーセンテージを示したものである。
【図2】H.D.またはC.P.あるいはそれらの混合液存在下での上清中のサイトカインを(A)IL−2、(B)IL−4についてELISA法により検討した。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍希釈)、Y軸はサイトカイン濃度を示したものである。データは代表的な2ドナーについての結果を示した。
【図3】H.D.またはC.P.あるいはそれらの混合液存在下での上清中のサイトカインを(A)IL−12p40、(B)IL−12p70についてELISA法により検討した。Aに示した上段のデータは無刺激のPBMC、下段のデータはCD3+CD28刺激存在下で、抽出液添加を行っている。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍希釈)、Y軸はサイトカイン濃度を示したものである。データは代表的な2ドナーについての結果を示した。
【図4】H.D.またはC.P.あるいはそれらの混合液存在下での上清中のサイトカインを(A)IFN−γ、(B)TNF−α(C)IL−10についてELISA法により検討した。BおよびCに示した上段のデータは無刺激のPBMC、下段のデータはCD3+CD28刺激存在下で、抽出液添加を行っている。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍希釈)、Y軸はサイトカイン濃度を示したものである。データは代表的な2ドナーについての結果を示した。
【図5】H.D.またはC.P.抽出液存在下での組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを検討した。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、400倍から50倍希釈)、Y軸は放射活性を示したものである。データは三回の実験より、代表的な一例についての結果を示した。
【図6A】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。子宮頸癌(Hela)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6B】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。乳癌(MCF−7)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6C】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。肝臓癌(HepG2,Huh−7)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6D】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。肺腺癌(PC−14)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6E】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。肺中皮腫(JMN,H2452)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6F】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。膵臓癌(CaPan−1)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、パパイヤおよび白花蛇舌草の水溶性抽出成分を含む癌の予防、治療または改善のための組成物に関する。更に詳細には、パパイヤおよび白花蛇舌草の葉を熱湯で煎じることにより抽出した成分を含有し、両者の成分の免疫賦活作用を維持しつつ、抗腫瘍活性において相乗効果を発揮する、癌の予防、治療または改善のための組成物であって、医薬用および食品用に使用できる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特に悪性腫瘍の場合、術後の寛解の保証を得るまではもちろん、外科手術だけでは腫瘍の切除が不可能であるとき、あるいは手術そのものが遂行困難なときに化学療法は必須である。しかし、化学療法において腫瘍特異性を高める事は難しく、自己の正常細胞に対する副作用が必ず付随するのが現状である。消耗した体力で副作用に直面することは心身ともに大きなダメージであることは容易に想像がつくが、いかに艱苦をともなう治療であろうとも、罹患者や周辺の人々はあらゆる苦痛や困難に対峙し、快方への望みを繋ぐのは当然である。
一方、社会には様々な代替療法の情報が氾濫している。その中には信憑性の乏しいもの、経済的な負担を強いるもの、継続的な摂取が難しいもの等も多く存在し、たとえ非現実的な情報であっても信じたくならざるを得ない状況があるのも事実である。しかしながら、本来の代替療法とはいわゆる近代医学で解明し得ないメカニズムでの疾患の治療を目指すものであり、経験則の上に、科学的考察が常に存在しなければ、その意義を認識することは難しく、快復への希望にはなりえない。
【0003】
古来より伝わる植物由来の抽出物には、ある種の疾患に効果的なものが存在する事が経験的に知られている。漢方薬として長い歴史をもつ白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa、和名:フタバムグラ)は、あかね科の一年草で我が国にも自生する植物であり、民間療法薬としての情報は比較的多い。マウスへの経口投与による、抗腫瘍効果、抗ウイルス効果、IgE産生抑制、抗寄生虫効果、などが報告されている(非特許文献1、2、3および4)。また、抗腫瘍効果を発揮する漢方薬として、半枝蓮(はんしれん、シソ科、Scutellaria Barbatae)が知られており、白花蛇舌草と半枝蓮とを組み合わせた場合の抗腫瘍効果も検討されている(非特許文献5および6)。
他方、パパイヤ(Carica Papaya)は、現在では熱帯全域に分布し、その葉には抗酸化作用のあるビタミンC、タンニンをはじめ、ビタミンA、E、K、サポニン、鉄分などが含まれ、消化補助、抗炎症効果、寄生虫駆除効果などが報告されている(非特許文献7)。更に、パパイヤの葉の抽出液成分には、抗腫瘍効果を有することも報告されている(特許文献1)。
【非特許文献1】Yoshida Y, Wang MQ, Liu JN, Shan BE, Yamashita U. Immunomodulating activity of chinese medicinal herbs and oldenlandia diffusa in particular.Int J Immunopharmacol 1997; 19(7): 359-70
【非特許文献2】Shan BE, Yoshida Y, Sugiura T, Yamashita U. Stimulating activity of chinese medicinal herbs on human lymphocytes in vitro. Int J Immunopharmacol 1999; 21(3): 149-59
【非特許文献3】Lin CC, Ng LT, Yang JJ, Hsu YF. Anti-inflammatory and hepatoprotective activity of peh-hue-juwa-chi-cao in male rats. Am J Chin Med 2002; 30(2-3): 225-34
【非特許文献4】Lin CC, Ng LT, Yang JJ. Antioxidant activity of extracts of peh-hue-juwa-chi-cao in a cell free system. Am J Chin Med 2004; 32(3): 339-49
【非特許文献5】Wong BY, Lau BH, Wan CP, Oldenlandia diffusa and Scutellaria barbata augment macrophage oxidative burst and inhibit tumor growth, Cancer Biother Radiopharm 1996; 11(1): 51-56
【非特許文献6】Yoshida Y, Wang MQ, Liu JN, Sha Yamashita U., Imunomodulating activity of Chinese medicinal herbs and Oldenlandia diffusa in particular, Int J Immunopharmacol 1997: 19(7): 359-370
【非特許文献7】Hsu S. Green tea and the skin. J Am Acad Dermatol 2005; 52(6): 1049-59
【特許文献1】国際公開第WO2006/004226A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
古来より伝わる植物由来の抽出物には、ある種の疾患に効果的なものが存在する事が経験的に知られているが、その科学的根拠は乏しく、効果の機序についても未解明な部分が多い。長期間、人間が摂取してきた植物由来抽出物は、単に経験的な知恵のみに留まらず、今後の医薬品開発に向けて重大な可能性を秘めている筈である。また、白花蛇舌草、半枝蓮、パパイヤなどから得られる抽出物が有効な薬効を発揮するものであれば、元来これら植物は食用であることから、副作用が少なく安全性の高い治療薬として期待できるものである。
従って、本発明の課題は、植物由来の抽出物を有効成分とする、癌の予防、治療または改善効果が高くかつ副作用が少なく安全性の高い組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、漢方薬として長い歴史をもつ白花蛇舌草および熱帯アメリカ原産のパパイヤ由来の水溶性抽出成分に着目し、これらの抽出物に対して、免疫学的解析を行ったところ、二者間で比較すると主に白花蛇舌草の水溶性抽出成分に免疫賦活効果が、パパイヤの水溶性抽出成分に細胞傷害活性が、有意に亢進される可能性が示された。更に、この可能性の詳細を検討した上で、両者を混合する事による補足的あるいは相乗的な効果が得られる事を期待し、解析を行った結果、両者の混合は、免疫賦活作用を維持しつつ、腫瘍細胞株に対する相乗的な傷害活性が誘導される事が確認された。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
従って、本発明は、パパイヤ(Carica papaya)の水溶性抽出成分および白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa)の水溶性抽出成分を有効成分として含有する、癌の予防、治療または改善のための組成物である。
【発明の効果】
【0006】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を有効成分とする組成物は、免疫賦活作用が維持され、腫瘍細胞株に対して、相乗的な傷害活性を発揮する。従って、本発明の組成物は、癌の予防、治療または改善効果が高くかつ副作用が少なく安全性の高い医薬品、健康食品等として有用である。また、煮沸により得られる水溶性抽出物は、いわば「煎じ薬」として一般に受け入れられやすく、比較的、病態の程度に関係なく簡便に摂取できるものである。また継続的に摂取しなければならない性格上、安全性や経済性、そして簡便性に優れている点についても有用性が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明を詳細に説明する。
本発明では有効成分として、パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を用いる。抽出成分を得るために用いる、パパイヤおよび白花蛇舌草の組織としては、葉、根、茎、果実のいずれでもよいが、特に葉が好ましい。これらのパパイヤおよび白花蛇舌草の組織を乾燥し、得られる乾燥物を水あるいは熱湯に加えて、長時間沸騰させ、得られる煎じ液を有効成分として用いる。また、パパイヤおよび白花蛇舌草の葉などの組織を乾燥させることなく、そのまま水あるいは熱湯に加えて沸騰させて煎じ液を得ることもできる。より具体的には、例えばパパイヤおよび白花蛇舌草の葉を、日光の下で通常1日から2日間放置して乾燥させて乾燥物を得る。この乾燥した葉の5gから100g程度の量を、通常50mlから1000ml、好ましくは100mlから500mlの水あるいは熱湯に加えて、通常30分間から5時間、好ましくは、1時間から2時間沸騰しながら煮るのが好ましい。煮る際に用いる容器は、金属製の容器ではないガラス製、木製、プラスチック製などの容器が好ましい。沸騰させた後は、60℃から70℃程度の温度に保ち、50mlから250ml程度に濃縮するのが好ましい。次いで、濾過して、葉を取り除いた後に、更に、60℃から70℃程度の温度に保ち、25mlから125ml程度に濃縮するのが好ましい。次いで、高速遠心分離機にて遠心分離し、上清を回収して、孔径の異なる複数の無菌濾過フィルターに順次通過させ、最終濃度を13mlから63ml程度に調整して、目的とする水溶性抽出成分を好ましく得ることができる。
【0008】
かくして得られる、パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を混合することにより本発明の組成物を得ることができる。パパイヤの水溶性抽出成分と白花蛇舌草の水溶性抽出成分との混合割合は、体積比で1:4から4:1が好ましく、更には、2:1から4:1が好ましく、特に3:1から4:1が好ましい。なお、この体積比は、パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分を、それぞれ等量の葉から等量の水を用いて同じ条件で抽出した水溶性抽出成分を基準にした場合の体積比である。
【0009】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者の混合物をそのまま服用して、癌の予防、治療または改善用の医薬として用いることができる。また、この混合物をドリンク剤用の通常使用される適当な成分と混合してドリンク剤として服用することもできる。あるいは、この混合物を、必要に応じて乾燥させた後に、散剤、錠剤などに通常使用される賦形剤等に加えて常法により散剤、錠剤などの形態にして服用することもできる。
【0010】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者の混合物は、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品などに用いることもできる。パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者の混合物に、通常使用される配合物、例えば、安定化剤、保存剤、着色剤、香料、ビタミンなどを添加して、通常の方法により、ドリンク剤、粉末剤、液剤、錠剤、散剤などの形態に加工して、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品などとして用いることができる。
【0011】
パパイヤの水溶性抽出成分および白花蛇舌草の水溶性抽出成分の両者を含む本発明の組成物は、特に、固型癌を予防、治療または改善するために有効であり、固型癌としては、例えば、肺大細胞癌、肺腺癌、肺臓癌、乳癌、子宮頸癌、肺中皮癌、膵臓癌でなどが挙げられる。これらの癌の予防、治療または改善のための投与量は、パパイヤの水溶性抽出成分と白花蛇舌草の水溶性抽出成分の混合物を、一日当たり通常100mlから750mlの量を1ヶ月から3ヶ月わたって毎日服用するのが好ましい。また、健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品、経腸栄養食品などとして食用する場合にも、同様に、パパイヤの水溶性抽出成分と白花蛇舌草の水溶性抽出成分の混合物を、一日当たり通常100mlから750mlの量を1ヶ月から3ヶ月わたって毎日食用するのが好ましい。
【0012】
以下に、実施例および試験例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例および試験例に限定されるものではない。
実施例1
パパイヤおよび白花蛇舌草の葉からの水溶性抽出成分の調製
パパイヤおよび白花蛇舌草の葉からの水溶性抽出液の調製は以下の方法で行った。
工程1: パパイヤおよび白花蛇舌草のそれぞれの葉を乾燥して得た茶葉20gをそれぞれ400mlの水にいれ、1時間沸騰させた。
工程2: 60−70℃を保ち、約100ml前後に約3時間かけて濃縮した。
工程3: 滅菌ガーゼで濾過し、大きな茶葉を取り除いた後に、60−70℃で約50ml前後に濃縮した。
工程4: 高速遠心分離機にて、9000rpm、20分遠心分離を行い、上清を回収した。
工程5: 孔径0.8、0.45、0.22・mの無菌濾過フィルターに順次通し、最終液量20mlに調製した。
工程6: 各抽出液を1mlずつ滅菌済み1.5mlチューブに分注し、4℃に保存した。
全工程を通しエンドトキシンの混入を防ぐため、すべてディスポーザブル滅菌器具を用いた。また、20gの茶葉由来の20ml濃縮液を標準濃度として、以下の検討に用いた。
【0013】
試験例1
ヒト末梢血由来単核球の分離とサイトカイン産生の測定
1.方法
健常人由来新鮮末梢血をLymphoprepTMによる比重分離法により分離した。抗ヒトCD3抗体(OKT3,1μg/ml)を固相化した96well平底プレートに、PBMC(2x105/well)を播種した。さらに可溶化抗ヒトCD28抗体(4B10)を最終濃度5μg/mlで添加した。培養液は10%FCS(Biowest)を含むRPMI1640(Sigma)を用いた。茶葉抽出液は、最終濃度200倍から800倍になる範囲で希釈し、培地中に添加した。
培養24時間後の上清を回収し、ELISA法(OptEIATM,BD)によりサイトカイン産生を測定した。また、培養後の細胞生存率は、回収した細胞をFITC−Annexin V(BD)および7−AAD(Promega)とで二重染色したのち、フローサイトメトリーにより解析した。
【0014】
2.結果
末梢血由来リンパ球に対する抽出液の免疫調節作用
(1)健常人PBMCに対する細胞死の誘導の有無
茶葉由来成分の直接的な細胞毒性を除外するために、培養後の細胞の生存率について検討した。結果を図1に示した。図1において、H.D.は白花蛇舌草の葉からの水溶性抽出成分を、C.P.はパパイヤの葉からの水溶性抽出成分を指す。以後、本明細書および図面においては、この略号を用いることもある。
抽出液200倍から800倍添加のポイントにおけるAnnexin V陽性細胞は無添加で65.4%、添加したものについても65%を下る事はなく、この濃度で24時間以内であれば生存率に直接影響する事はないものと考え、以後の解析にこの条件を決定した。
【0015】
(2)サイトカイン産生の解析
IL−2、IL−4は800倍のポイントより濃度依存的に産生が低下し、200倍で70%以上抑制された(図2)。これら細胞増殖因子の産生低下がみられた事から、細胞死という現象はまだ起きてはいないものの、PBMC中のCD3/T細胞レセプター(TCR)複合体を介した活性化に対して、ごく早期の段階より抑制が誘導されている可能性が考えられた。
IL−12p40はどちらの抽出物とも800倍のポイントで最も産生の亢進が認められ、その後濃度依存的に減少した(図3)。IL−12p70も同様であるが、C.P.よりもH.D.添加のほうが、若干誘導能が高い。IFN−γ、TNF−α、IL−10も同様の傾向が認められた(図4)。これにより、抽出成分に由来する何らかの物質が、増殖亢進には貢献しないにも拘わらず、細胞機能を亢進させる免疫賦活作用がある可能性が考えられた。これらの結果はH.D.およびC.P.両抽出物とも単独でも、混合の状態でも認められた。
【0016】
試験例2
ヒト腫瘍細胞株の培養および増殖能の測定
1.方法
固形腫瘍株として、Lu99(肺大細胞癌)、A549、PC14(肺腺癌)HepG2、Huh−7(肝臓癌)、MCF−7(乳癌)、Hela(子宮頸癌)、H2452、JMN、MESO−4(肺中皮腫)、CaPan1、Panc1(膵臓癌)を用いた。
それぞれの細胞株は10% FCSを含むRPMI1640あるいはDMEM(Sigma)にて培養した。
各腫瘍細胞株を1X104/Wellで96well 平底プレートに播種し、付着細胞に関しては十分に底面に付着させた。その後、50倍から400倍に希釈した抽出液を添加し、24時間培養した。増殖能の測定は培養終了までの18時間、[3H]−チミジンによる標識を行い放射活性を測定した。
【0017】
2.結果
A549、Lu99に関しては[3H]−チミジンの取り込みが低く、有意な結果が得られなかったため、この解析方法は適していないと考えられた。一方、取り込みの高いその他の細胞株(子宮頸がん、乳がん、肺腺がん、肺中皮腫、肝がん、膵臓がん)に関してはいずれも高濃度(50倍)で細胞増殖阻害が示されるのはもちろん、400倍の濃度に至るまでH.D.あるいはC.P.ともに増殖抑制効果が認められた(図5)。いずれの細胞株においても、H.D.よりもC.P.の方が抑制効果は高い傾向にあった。
混合添加では単独添加同様に増殖抑制を示した。最も希釈倍率の高い400倍のポイントで、単独添加と数種の比率の混合添加を比較したところ、混合する事により、子宮頸癌(図6A)、乳癌(図6B)、肝臓癌(図6C)、肺腺癌(図6D)、肺中皮腫(図6E)、膵臓癌(図6F)において相乗的に抗腫瘍効果が認められた。膵臓癌に関してはPanc−1という他の細胞株についても同様の傾向が認められたが、相乗効果の有無に言及するには[3H]−Thymidineの取り込みそのものが他の細胞株と比較して低く(図5)、適切ではないと判断した。
混合する事による相乗効果は、H.D.:C.P.比が1:3−1:4の比率で用いたときに最も高く認められた。
【産業上の利用可能性】
【0018】
1.抽出液の免疫賦活作用について
活性化PBMCの増殖因子の抑制と細胞機能の亢進のみられた800倍から400倍希釈のポイントは、細胞毒性が発現する閾値を僅かに下回る濃度であったと考えられる。その濃度を上回ると、おそらく細胞に直接ダメージを与えてしまうおそれがあるであろう。しかしこれらの抽出液は経口摂取が基本であるために、生理的に高濃度で血中に存在する事は不可能である故、ここで得られた結果は整合性があり、非常に興味深いものである。
IL−12p70のサブユニットであるp40は、主に抗原提示細胞(APC)より産生されるサイトカインであり、APCの活性化により飛躍的に産生が亢進することが知られている(Brombacher F, Kastelein RA, Alber G. Novel il-12 family members shed light on the orchestration of th1 responses. Trends Immunol 2003; 24(4): 207-12)。一方、p35は広範なリンパ球より産生されることが報告されているが(Watford WT, Moriguchi M, Morinobu A, O'Shea JJ. The biology of il-12: Coordinating innate and adaptive immune responses. Cytokine Growth Factor Rev 2003; 14(5): 361-8)、これらのサブユニット同士が二量体を形成しp70として機能するためにはCD40−40Lを介する刺激が必須である事がCD40L欠損マウスにより報告されている(Cella M, Scheidegger D, Palmer-Lehmann K, Lane P, Lanzavecchia A, Alber G. Ligation of cd40 on dendritic cells triggers production of high levels of interleukin-12 and enhances t cell stimulatory capacity: T-t help via apc activation. J Exp Med 1996; 184(2): 747-52)。
しかしながら、いわば「未精製」の状態の抽出液由来成分は、天然由来の様々な物質が含まれており、単なる「異物」として自然免疫応答で認識される可能性は捨て難い。「異物」として直接APCに刺激を入れた結果、p40の産生を上昇させる事は十分に考えられ、その可能性を排除するために精製法、あるいは希釈倍率などに十分な考慮をした。その結果、p40産生とp70産生が相関して上昇する結果が得られ、APCの活性化のみならずT−APC、あるいはT−B細胞間の獲得免疫応答の修飾に関与している可能性がここで示された。さらに、TNF−αやIFN−γ等の炎症性サイトカインも、後に続く免疫応答を修飾していく重要な因子である。特に、これらのサイトカインのもつ抗腫瘍効果に期待したい。また、IL−12p70に相関してIFN−γおよびTNF−αが誘導されている点より、Th1誘導能を有する物質の関与も予測できた。
【0019】
2.抽出液の抗腫瘍効果について
固形腫瘍細胞株にみられた増殖抑制は、適切な解析方法はなかったものの、検鏡により細胞死の誘導が一因であると判断された。そして、これらの細胞株を用いた場合に、図8に示したように混合液による相乗効果が認められ、細胞傷害を誘導する何らかの因子が混合する事により増強する可能性が考えられた。
また付着細胞の場合、抽出液が培養プレート底面への接着を直接阻害する事をさけるために、完全に接着させた後に添加することが必須であった。抽出液による接着阻害効果そのものも、細胞−細胞間、あるいは細胞−細胞外基質間との接着を抑制し、in vivoで期待される腫瘍の増大や転移を抑制する抗腫瘍効果の一因として貢献する可能性も考えられた。
【0020】
3.まとめ
本試験例によりH.D.およびC.Pが単独でも細胞増殖抑制作用と免疫賦活効果を持っている事、さらにその効果は混合液にした場合、相殺されることなく、相乗的に機能することが明示された。本試験例の解析では固形腫瘍細胞株に対する細胞傷害活性に二液を混合する有用性が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】抗CD3抗体(1μg/ml)を固相化した96穴平底プレートに2x105 cell/ウェルの濃度でPBMCを播種し、可溶化抗CD28抗体(5μg/ml)を添加した。培養開始時にH.D.、C.P.単独、あるいはH.D.+C.P.の混合液(H.D.:C.P.=1:1,1:4,4:1)を添加した。24時間後に細胞を回収し、FITC−annexin Vと7−AADとで二重染色し、フローサイトメトリーで解析した。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍)、Y軸はFITC−annexin V陽性細胞のパーセンテージを示したものである。
【図2】H.D.またはC.P.あるいはそれらの混合液存在下での上清中のサイトカインを(A)IL−2、(B)IL−4についてELISA法により検討した。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍希釈)、Y軸はサイトカイン濃度を示したものである。データは代表的な2ドナーについての結果を示した。
【図3】H.D.またはC.P.あるいはそれらの混合液存在下での上清中のサイトカインを(A)IL−12p40、(B)IL−12p70についてELISA法により検討した。Aに示した上段のデータは無刺激のPBMC、下段のデータはCD3+CD28刺激存在下で、抽出液添加を行っている。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍希釈)、Y軸はサイトカイン濃度を示したものである。データは代表的な2ドナーについての結果を示した。
【図4】H.D.またはC.P.あるいはそれらの混合液存在下での上清中のサイトカインを(A)IFN−γ、(B)TNF−α(C)IL−10についてELISA法により検討した。BおよびCに示した上段のデータは無刺激のPBMC、下段のデータはCD3+CD28刺激存在下で、抽出液添加を行っている。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、800倍から200倍希釈)、Y軸はサイトカイン濃度を示したものである。データは代表的な2ドナーについての結果を示した。
【図5】H.D.またはC.P.抽出液存在下での組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを検討した。X軸は各抽出液の希釈濃度(無添加および、400倍から50倍希釈)、Y軸は放射活性を示したものである。データは三回の実験より、代表的な一例についての結果を示した。
【図6A】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。子宮頸癌(Hela)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6B】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。乳癌(MCF−7)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6C】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。肝臓癌(HepG2,Huh−7)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6D】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。肺腺癌(PC−14)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6E】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。肺中皮腫(JMN,H2452)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【図6F】H.D.またはC.P.の400倍希釈の抽出液存在下における組織由来腫瘍細胞株の24時間培養後の3[H]−チミジンの取り込みを無添加、単独添加、混合添加で比較した。グラフの数値は放射活性を示している。膵臓癌(CaPan−1)の腫瘍細胞株を用いた。データは三回の実験より、代表的な例についての結果を示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パパイヤ(Carica papaya)の水溶性抽出成分および白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa)の水溶性抽出成分を有効成分として含有する、癌の予防、治療または改善のための組成物。
【請求項2】
パパイヤの水溶性抽出成分が、パパイヤの葉を熱湯で煎じることにより抽出した成分である請求項1の組成物。
【請求項3】
白花蛇舌草の水溶性抽出成分が、白花蛇舌草の葉を熱湯で煎じることにより抽出した成分である請求項1または2の組成物。
【請求項4】
固型癌を予防、治療または改善するための請求項1から3のいずれかの組成物。
【請求項5】
固型癌が、肺大細胞癌、肺腺癌、肺臓癌、乳癌、子宮頸癌、肺中皮癌または膵臓癌である請求項4の組成物。
【請求項6】
医薬用組成物である請求項1から5のいずれかの組成物。
【請求項7】
食品用組成物である請求項1から5のいずれかの組成物。
【請求項8】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品または経腸栄養食品である請求項7の組成物。
【請求項9】
ドリンク剤、散剤または錠剤の形態にある請求項7または8の組成物。
【請求項1】
パパイヤ(Carica papaya)の水溶性抽出成分および白花蛇舌草(Hedyotis Diffusa)の水溶性抽出成分を有効成分として含有する、癌の予防、治療または改善のための組成物。
【請求項2】
パパイヤの水溶性抽出成分が、パパイヤの葉を熱湯で煎じることにより抽出した成分である請求項1の組成物。
【請求項3】
白花蛇舌草の水溶性抽出成分が、白花蛇舌草の葉を熱湯で煎じることにより抽出した成分である請求項1または2の組成物。
【請求項4】
固型癌を予防、治療または改善するための請求項1から3のいずれかの組成物。
【請求項5】
固型癌が、肺大細胞癌、肺腺癌、肺臓癌、乳癌、子宮頸癌、肺中皮癌または膵臓癌である請求項4の組成物。
【請求項6】
医薬用組成物である請求項1から5のいずれかの組成物。
【請求項7】
食品用組成物である請求項1から5のいずれかの組成物。
【請求項8】
健康食品、機能性食品、特定保健用食品、栄養補助食品または経腸栄養食品である請求項7の組成物。
【請求項9】
ドリンク剤、散剤または錠剤の形態にある請求項7または8の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図6F】
【公開番号】特開2008−214299(P2008−214299A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56537(P2007−56537)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(505426532)イノバティスファーマ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(505426532)イノバティスファーマ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】
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