説明

パラインフルエンザウイルスの判別方法

【課題】パラインフルエンザウイルス1型および/または3型に感染しているか否かを判別する方法を提供すること。
【解決手段】パラインフルエンザウイルス1型および/または3型のHN遺伝子領域を特異的に増幅可能なプライマー対をそれぞれ用いて遺伝子増幅反応を行い、得られた増幅反応物の電気泳動パターンを解析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラインフルエンザウイルス感染の判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学の分野では、病気の治療法の研究や薬剤の開発等の為、実験用動物を使って病気の発生、進行、快癒等のメカニズムを研究することが多く、特定の施設内において医学実験用動物を飼育している。またペットショップ等においても、特定の施設内において動物の飼育を行っている。ところが種々の原因によって、特にヒトを媒介して、このような特定施設および特定空間内の動物の一部に病気が発生すると、他の動物にも感染が拡大して甚大な損害が発生する。特に医学の分野では、意図せぬ病気に感染した動物は実験に使用できないため、高価な実験用動物が失われ、時に実験が中断するなどの多大な費用と時間を損失することとなる。このため、感染動物体を早期に発見可能な方法が求められている。
【0003】
パラインフルエンザウイルス(Parainfluenza Virus; PIVと省略する場合がある)は、パラミクソウイルス科(Paramyxoviridae)、パラミクソウイルス亜科に属するRNAウイルスである。前記ウイルスは血清型により1型から4型に分類され、1型および3型はレスピロウイルス属(Respirovirus)に、2型および4型はルブラウイルス属(Rublavirus)に大別される。前記1型としては、ヒトから分離されたヒトパラインフルエンザウイルス1型(hPIV-1)およびマウスから分離されたマウスパラインフルエンザウイルス1型(センダイウイルス、mPIV-1)が知られており、前記3型としては、ヒトパラインフルエンザウイルス3型(hPIV-3)およびウシパラインフルエンザウイルス3型(bPIV-3)が知られている。1型と3型は血清学的に近縁であるが、遺伝子レベルでは約50%の相同性しか有していない。
【0004】
hPIV-1およびhPIV-3はヒトの呼吸器感染症の原因となるウイルスで、乳幼児や高齢者に感染すると、肺炎や気管支炎などの重篤な症状を引き起こすことがある。一方、ヒト以外の動物では、hPIV-1およびhPIV-3がモルモット、ハムスター、コトンラットなどの実験小動物に感染した場合、血清中の抗体が上昇し、感受性の高いモルモットやハムスターでは肺に小病変を作ることがある。本発明者等は、実験動物施設内で飼育中のモルモットから分離したウイルスを遺伝子およびタンパク質レベルで解析した結果、モルモットがヒト由来のhPIV-3に感染し、さらにモルモットコロニー内で該ウイルスが維持され得ることを示した(非特許文献1および2参照)。
【0005】
ヒトでは、hPIV-1およびhPIV-3は年間を通して流行しており、1型は秋から春、3型は初夏から9月に集中する傾向がある。これら流行時期には、実験小動物が飼育担当者から感染する危険に曝されるため、本ウイルスの感染は「動物のヒト由来感染症」と捉えることができる。
【0006】
センダイウイルスは、実験動物に多用されるげっ歯類に強い感染性のあるウイルスとして知られている。特にマウスでは、ウイルス株によっては致死的な肺炎を起こし、またその感染力が強いために多大な損害が生ずる恐れがある。従って、マウスやラットのコロニーからは「排除されるべき病原体」と考えられ、国際的に全てのSPF(Specific Pathogen Free; 特定された微生物や寄生虫が存在しない動物)マウスおよびラットの病原体検査項目に加えられている。これに対して、hPIV-3は基本的に「モルモットやラットのヒト由来感染症」であって、SPF検査項目には加えられていない。またこれまでにセンダイウイルスがヒトに感染するとの報告はない。しかし、センダイウイルスとhPIV-1は血清学的に近縁であり、混同して使用されてきた経緯がある。また核酸レベルでおよそ75%の相同性をもち、抗原性も強く交差するためこのウイルスが本当にヒトに感染しないかどうかは疑わしい。従って、SPF動物の維持およびヒトでの病原性確認の観点から、1型と3型との鑑別は非常に重要な事項であり、その後の対応の分岐点となる。
【0007】
実験小動物におけるPIV感染について、1)センダイウイルス(またはhPIV-1)単独感染、2)hPIV-3単独感染、3)両者の混合感染、を想定することができる。SPF動物の維持の点からは、「センダイウイルス感染を否定する」ことが最優先であるが、センダイウイルスとhPIV-3が血清学的に近縁であり、酵素免疫測定法(ELISA法)などの一般的な抗体検査、市販の検出キット等ではこれらを鑑別することができない。また鑑別可能な血清学的診断法として、赤血球凝集抑制試験(HI試験)があげられるが、ウイルスを直接扱わなければならず、また新鮮なモルモットの赤血球を準備する必要があるなど、ある程度のウイルス学的知識および実験動物学的知識や手法、設備を必要とする。
【0008】
PIVを検出するのに要する時間は、感染伝播を防ぐ観点から重要な要因である。しかし、現存する血清学的検出方法では時間的に手遅れの状況になる可能性が高く、ウイルス型の区別も容易でない。また、遺伝子学的検出方法によっても、ウイルス型間の相同性の低さから、単独のウイルス型のみを検出した報告しかなされていない(非特許文献3参照)。従って、簡易、迅速にPIV-1およびPIV-3を区別して検出可能な方法が求められている。
【0009】
【非特許文献1】J. Vet. Med. Sci., 60(8), 919-922, 1998
【非特許文献2】Acta Med. Nagasaki, 46(3-4): 15-18, 2001
【非特許文献3】日本実験動物技術者協会九州支部会報, 27, 25-28, 2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み成されたもので、その解決しようとする課題は、各種動物、特に実験動物に感染するPIVを簡易かつ精度良く判別可能な方法などを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、多数のPIV-1株およびPIV-3株のゲノム配列を比較、検討し、PIV-1およびPIV-3ゲノム双方において高い相同性を示す塩基配列、ならびに同型(1型RNA同士、3型RNA同士)では高く、異型(1型RNAと3型RNA間)では低い相同性を示す塩基配列を見出し、該塩基配列に基づいて、PIV-1およびPIV-3ゲノムのHN(Hemagglutinin-neruraminidase)遺伝子領域を同時に特異的に増幅可能なプライマー、PIV-1ゲノムのHN遺伝子領域のみを特異的に増幅可能なプライマーならびにPIV-3ゲノムのHN遺伝子領域のみを特異的に増幅可能なプライマーを作製し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]動物がパラインフルエンザウイルス1型および/または3型に感染しているか否かを判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)動物試料から核酸を抽出する工程;
(b)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)工程(b)で得られた増幅反応物を解析する工程。
[2]動物がパラインフルエンザウイルス1型および/または3型に感染しているか否かを判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)動物試料から核酸を抽出する工程;
(b−1)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能な1次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;
(b−2)工程(b−1)で得られた1次増幅反応物および工程(b−1)の1次プライマー対よりも内側のHN遺伝子領域を増幅可能な2次プライマー対を用いて2次増幅反応を行う工程;
(c−1)工程(b−2)で得られた2次増幅反応物を制限酵素により切断し、電気泳動に供する工程;ならびに
(c−2)工程(c−1)で得られた電気泳動パターンを解析する工程。
[3]上記工程(b)または工程(b−1)の遺伝子増幅反応が、逆転写反応および該反応産物に対するポリメラーゼ連鎖反応からなるものである、[1]または[2]に記載の方法。
[4]動物がげっ歯類である、[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
[5]上記工程(a)の動物試料が唾液または涙液である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6]上記工程(c−1)の制限酵素がMfeIおよび/またはHaeIIIである、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[7]動物がパラインフルエンザウイルス1型および/または3型に感染し得る環境にあるか否かを判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)動物を飼育する閉鎖空間内の排気用装置に設けられたフィルターから核酸を抽出する工程;
(b)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)工程(b)で得られた増幅反応物を解析する工程。
[8]上記工程(b)の遺伝子増幅反応が、逆転写反応および該反応産物に対するポリメラーゼ連鎖反応からなることを特徴とする、[7]記載の方法。
[9]動物がげっ歯類である、[7]または[8]記載の方法。
[10]パラインフルエンザウイルス1型および/または3型のウイルス保有者を判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)ヒトの生体試料から核酸を抽出する工程
(b)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)工程(b)で得られた増幅反応物を解析する工程。
[11]上記工程(b)の遺伝子増幅反応が、逆転写反応および該反応産物に対するポリメラーゼ連鎖反応からなることを特徴とする、[10]記載の方法。
[12]上記工程(a)の試料が唾液または涙液である、[10]記載の方法。
[13]パラインフルエンザウイルス1型および3型のHN遺伝子領域を増幅可能な、配列番号1および2で示されるプライマー対。
[14]パラインフルエンザウイルス1型のHN遺伝子領域を増幅可能な、配列番号3および4で示されるプライマー対。
[15]パラインフルエンザウイルス3型のHN遺伝子領域を増幅可能な、配列番号5および6で示されるプライマー対。
[16]配列番号1〜6で示されるプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のプライマー対を含む、パラインフルエンザウイルス検出用キット。
[17]検出対象がヒトまたはげっ歯類である[16]記載のキット。
【発明の効果】
【0013】
本発明の、動物がPIV-1および/またはPIV-3に感染しているか否かを判別する方法は遺伝子増幅反応を行うことを特徴とし、該方法は特別なウイルス学的知識、手法を必要としない。特に当技術分野で広く普及しているポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で行った場合には、多くの実験室で適用可能である点で非常に有用である。
【0014】
本発明で行う遺伝子増幅反応において、本発明により提供される配列番号1〜6で示されるプライマーからなる群より選ばれるプライマー対を使用すると、PIV感染の早期判定が可能となるだけでなく、従来法では識別が困難であったPIV-1とPIV-3を区別して検出することが可能となる。
【0015】
本発明の判別方法によると、動物体そのものからだけでなく動物飼育室内の換気装置等に取り付けられたフィルター等から得た核酸を用いてPIVゲノムの存否および1型/3型の判別が可能であり、PIVの早期発見や空気感染の有無の判断に役立ち、感染の拡大を未然に防止することが可能となる。
【0016】
さらに本発明の判別方法によると、ヒト試料を用いることによりPIV保有者を判別することができ、特に動物飼育の現場において、PIV保有者の隔離等の対策を事前に講じることができる。
【0017】
さらに本発明のPIV検出用キットは本発明の判別方法に好適に利用することができ、動物(げっ歯類)だけでなくヒトに対しても適用可能である点で有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、遺伝子増幅反応に基づくパラインフルエンザウイルス1型および/または3型の判別方法を提供し、用いる試料により3つの態様に分けられる。
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.動物がPIVに感染しているか否かを判別する方法
本態様は、下記の工程:
(a)動物試料から核酸を抽出する工程;
(b)上記核酸およびPIVのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)上記増幅反応により得られた増幅反応物を解析する工程;
を含む。以下、工程ごとに説明する。
【0020】
工程(a)
工程(a)は、動物試料から核酸を抽出する工程である。
【0021】
工程(a)における動物は、PIV感染の有無を判別しようとする動物を意味する。該動物としてはPIVが感染することが現在知られまた将来知られる動物であれば特に限定しないが、マウス、ラット、モルモットおよびウサギ等の実験動物、イヌ、ネコ等のペット、ならびにウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜が好ましく、実験動物が特に好ましく、中でもマウス、ラット、モルモット等のげっ歯類が最も好ましい。
【0022】
また、本発明の対象となるPIVはいずれの動物種由来のものでも良く、特に限定されないが、実験動物への感染防止を目的とする本発明においては、ヒト由来のPIVを対象とすることが多い。
【0023】
工程(a)で使用する動物試料は、検査対象となり得る動物に由来する限り特に限定されず、またいかなる組織も想定される。このような組織としては、例えば、脳、心臓(循環器系器官)、肺(呼吸器系器官)、脾臓、腎臓、肝臓、舌、口(消化器系器官)等が挙げられる。また各組織由来の細胞(例えば、肝細胞、肺胞細胞、血管内皮細胞など)、血液(例えば、赤血球、白血球、血小板、血漿など)、リンパ液または唾液等を使用することができ、これも特に限定されない。しかし、PIVが呼吸器系疾患を引き起こす呼吸器性ウイルスである観点から、唾液(もしくは鼻腔咽頭拭い液)または涙液を用いることが特に好ましい。対象動物の細胞、血液、リンパ液、唾液または涙液等は、対象動物から常法に従って採取することができる。
【0024】
動物試料からの核酸の抽出は、特に限定されず常法に従って行うことができる。例えばウイルスRNAを抽出する場合、動物組織、または細胞を破砕して可溶化剤によって可溶化した後、変性剤によってタンパク質を除去し、エタノール等で遺伝子を沈殿させることで、動物組織、または細胞からRNAを調製することができる。該操作には、市販の抽出キットとして、ISOGEN(商品名、ニッポンジーン社製)などを好適に使用することができる。
【0025】
工程(b)
工程(b)は、工程(a)で抽出した核酸およびPIVのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程である。
【0026】
本発明における遺伝子増幅反応としては、公知の遺伝子増幅反応が制限無く用いられ、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR法)、Loop-Mediated Isothermal Amplification法(LAMP法、http://loopamp.eiken.co.jp/)、Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids法(ICAN法(登録商標)、http://takara-bio.co.jp/)などを挙げることができる。前記遺伝子増幅方法は、いずれも市販のキットを用いて製造業者の指示に従って行うことができ、蛍光色素で標識したプローブを用いることにより特定の遺伝子増幅反応物を検出し、定量することができる。
【0027】
PIVのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対は、前記遺伝子増幅反応に応じて適宜設計したものを用いることができる。
【0028】
ここで工程(b)は、好ましくは
工程(b−1);工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能な1次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程、ならびに
工程(b−2);工程(b−1)で得られた1次増幅反応物および工程(b−1)の1次プライマー対よりも内側のHN遺伝子領域を増幅可能な2次プライマー対を用いて2次増幅反応を行う工程、を含む。
【0029】
工程(b−1)においては、HN遺伝子領域を増幅可能な1次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う。また工程(b−2)においては、2次プライマー対が、1次プライマー対により増幅されるHN遺伝子領域の内側の領域を増幅可能であることが重要である。上記工程の順に該プライマー対を用いた遺伝子増幅反応を行うことによって、精度良く本発明を実施することができる。
【0030】
遺伝子増幅反応としてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を選択した場合、前記プライマー対は、1)PIV-1およびPIV-3のHN遺伝子領域を増幅可能な配列番号1および2で示されるプライマー対、2)PIV-1のHN遺伝子領域を増幅可能な配列番号3および4で示されるプライマー対、ならびに3)PIV-3のHN遺伝子領域を増幅可能な配列番号5および6で示されるプライマー対が好ましく、それぞれ次の方法で決定される。
【0031】
1)PIV-1およびPIV-3のHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対
本発明は、1次プライマー対として、PIV-1およびPIV-3のHN遺伝子領域を同時に特異的に増幅可能なプライマーを提供する。この場合、遺伝子増幅反応に使用するプライマーの塩基配列は、例えばhPIV-1およびmPIV-1(1型)37種類、ならびにhPIV-3およびmPIV-3(3型)29種類のゲノムの塩基配列をアラインメントした結果、高い相同性を示す部分に基づいて決定することができる。アラインメントの方法としては特に限定されないが、好ましくはFASTAやBLASTなどの相同性計算アルゴリズムを利用する。
【0032】
本発明においては、PIV-1およびPIV-3ゲノムのHN遺伝子領域のうち、各塩基配列間で特に高い相同性を示す塩基配列2箇所をプライマー認識部位として選択し、Forward 5’プライマーを配列番号1に示すプライマーと、Reverse 3’プライマーを配列番号2に示すプライマーとした。これを遺伝子増幅反応に用いることで、PIV-1およびPIV-3のHN遺伝子領域を同時かつ特異的に増幅することが可能となる。従って、該反応による増幅反応物はPIV-1のHN遺伝子領域の増幅反応物、PIV-3のHN遺伝子領域の増幅反応物もしくはPIV-1およびPIV-3のHN遺伝子領域の増幅反応物の混合物となり得る。
【0033】
本発明において、配列番号1および2で示される上記プライマー対を1次プライマー対の代表例とし、1次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行った結果得られる増幅反応物を1次増幅反応物と呼ぶ。
【0034】
2)PIV-1のHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対、および3)PIV-3のHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対
また本発明は、2次プライマー対として、1次増幅反応物の内側の部位を認識するプライマー対を提供する。これにより、1次増幅反応物を鋳型とした2次遺伝子増幅反応を行うことができ、さらに精度よく本発明を実施することができる。
【0035】
前記2次プライマー対は、PIV-1のHN遺伝子領域のみ、またはPIV-3のHN遺伝子領域のみをそれぞれ特異的に増幅可能なプライマー対であることが好ましい。この場合、遺伝子増幅反応に使用するプライマーの塩基配列は、例えば、1型37種類のゲノムの塩基配列と、3型29種類のゲノムの塩基配列とを別途アラインメントし、同型の株間(1型同士、3型同士)では高い相同性を示すが、異型の株間(1型と3型)では相同性が低い部分に基づいて決定することができる。アラインメントの方法としては特に限定されないが、好ましくはFASTAやBLASTなどの相同性計算アルゴリズムを利用する。
【0036】
本発明においては、PIV-1およびPIV-3ゲノムのHN遺伝子領域のうち、1次増幅反応物の内側の部位を認識する塩基配列であって、異型間で相同性が低く、同型間で相同性が高い塩基配列をプライマーとして選択し、1型間で相同性が高いForward 5’プライマーを配列番号3に示すプライマーと、1型間で相同性が高いReverse 3’プライマーを配列番号4に示すプライマーと、3型間で相同性が高いForward 5’プライマーを配列番号5に示すプライマーと、3型間で相同性が高いReverse 3’プライマーを配列番号6に示すプライマーとした。これらのプライマーを遺伝子増幅反応に用いることで、PIV-1およびPIV-3のHN遺伝子領域をそれぞれ特異的に増幅することが可能となる。
【0037】
本発明において、配列番号3および4で示される上記プライマー対、ならびに配列番号5および6で示される上記プライマー対を2次プライマー対の代表例とし、2次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行った結果得られる増幅反応物を2次増幅反応物と呼ぶ。
【0038】
本発明の遺伝子増幅反応においては、動物試料から抽出した核酸に対して、2次プライマー対それぞれを単独で用いる遺伝子増幅反応を行ってもよいが、1次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行い得られた1次増幅反応物および2次プライマー対を用いて、さらに2次増幅反応を行うことが好ましい。この場合、1次増幅反応物は2次増幅反応前に従来公知の方法、例えばエタノール沈殿法などで精製しておくことが好ましい。
【0039】
また、2次増幅反応に用いる2次プライマー対は配列番号3〜6で示される群より選ばれる全てのプライマー対を同時に使用することが好ましく、動物が何れのPIVに感染しているか不明の未知検体の場合、PIV-1およびPIV-3ゲノム由来のHN遺伝子領域を同時に増幅できるため特に有用である。
【0040】
本発明においては、上記遺伝子増幅反応が、逆転写反応および該反応産物に対するPCRからなるものであることが好ましい。以下、PCRを例に説明する。
【0041】
動物試料から抽出したウイルスゲノムRNA(核酸)からcDNAを得るための逆転写反応は自体公知の方法で行うことができる。例えばプライマーとして市販のoligo dTプライマー、またはランダムヘキサマーを含む市販のキットを用いて、精製したRNAを鋳型とした逆転写反応を行う。該反応は42℃〜60℃で15分間〜30分間行い、反応終了後は、95℃で2分間熱処理することにより逆転写酵素を失活させる。
【0042】
ついで、上記操作で得られたcDNAを鋳型としたPCRを行うことにより、PIVのHN遺伝子領域を増幅する。PCRには前述の配列番号1〜6で示されるプライマーからなる群より選ばれる1種類のプライマー対を用いるが、好ましくは第一に、配列番号1および2で示される1次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う。
【0043】
PCRを行う際のDNAポリメラーゼその他の試薬としては、公知のものを適宜使用することができるが、好ましくは市販のキット、例えばExTaqポリメラーゼ(商品名、タカラバイオ株式会社製)を使用する。PCRにおける温度条件は、当業者であれば経験に基づいて適切に決定することができ、特に限定されないが、1次増幅反応においては、好ましくは95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で3分間を1サイクルとして順次反応させ、好ましくはこれを30サイクル行う。また該反応の温度設定にはヒートブロック式のプログラム温度制御装置を用い、このような装置の例としては、PCR Thermal Cycler(商品名、タカラバイオ株式会社製)を挙げることができる。また、逆転写酵素を用いる反応と、PCR反応には同じ反応液を用いてもよい。
【0044】
本発明においては、上記1次増幅反応物および2次プライマー対を用いて、さらに2次増幅反応を行うことが好ましい。2次プライマー対は、1次プライマー対よりも内側のHN遺伝子領域を増幅可能なため、さらに精度良く本発明の実施が可能である。2次増幅反応におけるPCRの温度条件についても、当業者であれば経験に基づいて適切に決定することができ、特に限定されないが、PIV-1およびPIV-3の存在を同時に確認するために、好ましくは95℃で20秒間、64℃で30秒間を1サイクルとしてこれを10サイクル行い、続いて95℃で20秒間、56℃で30秒間を1サイクルとしてこれを40サイクル行う。なお、64℃は配列番号3および4で示されるプライマー対のTm値、56℃は配列番号5および6で示されるプライマー対のTm値であり、この方法によりPIV-1、PIV-3双方のHN遺伝子領域を同時に増幅することができる。また該反応の温度設定にはヒートブロック式のプログラム温度制御装置を用い、このような装置の例としては、PCR Thermal Cyclerを挙げることができる。従って、該操作を行うことで動物試料に感染し得るPIV-1およびPIV-3のHN遺伝子領域を同時に増幅することできる。
【0045】
上記増幅反応により得られる増幅反応物を後に述べる方法で解析することで、動物がPIVに感染しているか否かを判別することが可能である。
【0046】
工程(c)
工程(c)は、工程(b)で得られた増幅反応物の解析を行う工程である。
【0047】
本工程により、動物がPIVに感染しているか否かを判別することが可能となる。解析方法としては、増幅反応物の有無を確認する方法、増幅反応物の電気泳動パターンを解析する方法、制限酵素により切断された増幅反応物の電気泳動パターンを解析する方法、増幅反応物の塩基配列を解析する方法などが挙げられる。
【0048】
第一に、PCRの結果得られる増幅反応物の有無を確認することにより、動物がPIVに感染しているか否かを判別することができる。増幅反応物の有無の確認は、常法に従って行うことができる。例えば当該技術分野で通常用いられる方法である、ゲル電気泳動、サザンブロット、ドット/スロットブロット、シーケンス解析等の従来公知な、および将来発明され得る解析方法を用いることができるが、本発明を簡便に利用する観点から、アガロースゲル電気泳動およびそれに続くゲル染色によって増幅反応物の確認をすることが好ましい。ゲル染色の方法としては、好ましくはエチジウムブロマイドで染色する方法を用いることができ、この場合には、染色したゲルを紫外光下で観察して増幅反応物を検出することができる。
【0049】
増幅反応物の有無を確認した結果、増幅反応物が存在する場合には、動物がPIVに感染している可能性が高いと判定することができる。例えば1次プライマー対を用いたPCRを行った結果、増幅反応物が得られたことが確認された場合には動物がPIVに感染している可能性が高いと判別することができる。一方増幅反応物が存在しない場合には動物がPIVに感染していない可能性もあると判別することができる。さらに2次プライマー対を用いたPCRを行った後にも増幅反応物が存在しない場合には動物がPIVに感染していない可能性が極めて高い。
【0050】
第二に、動物が1型/3型の何れのPIVに感染しているか否かをさらに判別するためには、増幅反応物の特徴を解析する必要がある。これには増幅反応物の電気泳動パターンを解析する方法、制限酵素により切断された増幅反応物の電気泳動パターンを解析する方法、増幅反応物の塩基配列を解読する方法などが挙げられるが、増幅反応物の電気泳動パターンおよび制限酵素により切断された増幅反応物の電気泳動パターンにより解析するのが好ましい。また、分析の対象となる増幅反応物は1次増幅反応物でも2次増幅反応物であってもよいが、2次増幅反応物であることが好ましい。
【0051】
増幅断片の電気泳動パターンを解析する場合、アガロースゲル、Metaphorゲル等で電気泳動し、次いでエチジウムブロマイドでゲル染色する方法で特定サイズのバンドの有無を検出することができる。ここで「特定サイズ」とは、PIV-1、PIV-3それぞれに由来する2次増幅反応物の塩基配列の長さを意味する。
【0052】
例えば2次プライマー対として配列番号3および4に示されるプライマー対ならびに配列番号5および6に示されるプライマー対を同時に使用した場合、PIV-1に由来する2次増幅反応物の特定サイズは521 bpであり、PIV-3に由来する2次増幅反応物の特定サイズは809 bpである。該特定サイズの遺伝子の有無を電気泳動により分子量マーカーを基準に検出することによって、動物が何れの型のPIVに感染しているのか、両方に感染しているのか、または全く感染していないのかを判別することが可能である。
【0053】
また本発明においては特に、対象動物が何れの型のPIVに感染しているか否かをさらに確認する方法として、制限酵素により切断された増幅反応物を電気泳動に供し、その電気泳動パターンを解析する方法が好ましく用いられる。なお、本明細書において制限酵素により切断された増幅反応物の断片のことを制限断片と呼ぶ。
【0054】
この際使用する制限酵素としては、増幅反応物を切断し、PIV-1とPIV-3とで異なる長さの制限断片を得るものであれば特に限定されない。ただし、1種類の制限酵素でこの条件を満たすものは見あたらず、同時にPIV-1およびPIV-3を判別する場合は、複数の酵素を利用することになる。この場合、酵素反応の温度条件および緩衝液の種類が同一の酵素を選択することとなり、利用可能な酵素は自ずと限定される。このような制限酵素としては、例えば本発明で開示された配列番号3および4で示される2次プライマー対を使用したPCRにより得られたPIV-1由来の増幅反応物を切断し得、配列番号5および6で示される2次プライマー対を使用したPCRにより得られたPIV-3由来の増幅反応物を切断し得ない制限酵素(例えば、MfeI等)、ならびに本発明で開示された配列番号5および6で示される2次プライマー対を使用したPCRにより得られたPIV-3由来の増幅反応物を切断し得、配列番号3および4で示される2次プライマー対を使用したPCRにより得られたPIV-1由来の増幅反応物を切断し得ない制限酵素(例えば、HaeIII等)を使用することができる。
【0055】
これらの制限酵素は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。上記酵素を使用した場合、MfeIで処理された制限断片(PIV-1のNH遺伝子領域由来)は344塩基対および177塩基対であり、Hae IIIで処理された制限断片(PIV-3のNH遺伝子領域由来)は566塩基対および243塩基対である。各制限断片の存在およびサイズは、例えば前述したアガロースゲル電気泳動に供し、エチジウムブロマイドで染色することで得られる電気泳動パターンを解析することにより確認することができる。従って、制限断片のサイズとその有無を、分子量マーカーを基準に検出することによって動物が何れの型のPIVに感染しているか否かをさらに精度よく判別することができる。
【0056】
2.動物がPIV-1および/またはPIV-3に感染し得る環境にあるか否かを判別する方法
本態様は、下記の工程:
(a)動物を飼育する閉鎖空間内の排気用装置に設けられたフィルターから核酸を抽出する工程;
(b)上記核酸およびPIVのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)上記増幅反応により得られた増幅反応物を解析する工程;
を含む。以下、工程ごとに説明する。
【0057】
工程(a):核酸抽出工程
【0058】
工程(a)における動物は、PIV感染の有無を判別しようとする動物を意味する。該動物としてはPIVが感染することが現在知られまた将来知られる動物であれば特に限定しないが、マウス、ラット、モルモットおよびウサギ等の実験動物、イヌ、ネコ等のペット、ならびにウシ、ブタ、ニワトリ等の家畜が好ましく、実験動物が特に好ましく、中でもマウス、ラット、モルモット等のげっ歯類が最も好ましい。対象となるPIVとしてはいずれの動物種由来のものでも良く、特に限定されないが、ヒト由来のPIVを対象とすることが多い。
【0059】
また工程(a)における「動物を飼育する閉鎖空間」としては、実験動物飼育室、実験動物のゲージ、ペットショップ、一般的な住宅(動物と同居している場合)など特に限定されるものではなく、PIVに感染する可能性のある動物が存在する閉鎖空間である限りどこでもよい。また、「排気用装置」についても特に限定されるものではない。
【0060】
さらに工程(a)における「排気用装置に設けられたフィルター」としては、PIVなどのウイルス、微生物、それらが付着した空気中の浮遊物などを回収できるものである限り特に限定されないが、例えば、帯電不織布(バクテリアや花粉を防ぐマスク材として使用されている)が挙げられる。この帯電不織布は、帯電した極細繊維で形成され、微粒子を静電気の作用で吸着し、微生物の遺伝子断片までも捕集することが可能である。
【0061】
ついで、該フィルターを溶出液に浸漬し、吸着物を溶出させる。溶出液としては、吸着物の溶出を促進する性質、微生物遺伝子の変性を防ぐと共にその増殖を防止する性質などが要求され、好ましくは界面活性剤、TEフェノール、クロロホルム、イソアミルアルコールの混合液などが用いられる。続いて溶出した吸着物から核酸を抽出するが、これは常法に従って行うことができる。
【0062】
工程(b)、(c)
工程(b)は工程(a)で抽出した核酸およびPIVのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程であり、工程(c)は上記増幅反応により得られた増幅反応物を解析する工程であるが、これらの工程は前述した「1.動物がPIVに感染しているか否かを判別する方法」の工程(b)および工程(c)と同様の方法で行うことができる。
【0063】
なお、本発明における該遺伝子増幅反応としては前述した公知の遺伝子増幅反応を制限無く用いることができるが、逆転写反応および該反応産物に対するPCRからなるものであることが好ましい。
【0064】
3.PIV-1および/またはPIV-3のウイルス保有者を判別する方法
本態様は、下記の工程:
(a)ヒトの生体試料から核酸を抽出する工程;
(b)上記核酸およびPIVのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)上記増幅反応により得られた増幅反応物を解析する工程;
を含む。以下、工程ごとに説明する。
【0065】
工程(a):核酸抽出工程
工程(a)におけるヒトとしては、PIVに感染している、PIVの感染の可能性が疑われるなど、PIVのウイルス保有者である可能性を有する限り特に限定されず、またヒトの生体試料としては検査対象となり得るヒトに由来する限り特に限定されず、またいかなる組織も想定される。このような組織としては、例えば、脳、心臓(循環器系器官)、肺(呼吸器系器官)、脾臓、腎臓、肝臓、舌、口(消化器系器官)等が挙げられる。また各組織由来の細胞(例えば、肝細胞、肺胞細胞、血管内皮細胞など)、血液(例えば、赤血球、白血球、血小板、血漿など)、リンパ液または唾液等を使用することができ、これも特に限定されない。しかし、PIVが呼吸器系疾患を引き起こす呼吸器性ウイルスである観点から、唾液(もしくは鼻腔咽頭拭い液)または涙液を用いることが特に好ましい。またこれらは、常法に従って採取することができる。
【0066】
ヒトの生体試料からの核酸の抽出は、特に限定されず常法に従って行うことができる。例えばウイルスRNAを抽出する場合、ヒト組織、または細胞を破砕して可溶化剤によって可溶化した後、変性剤によってタンパク質を除去し、エタノール等で遺伝子を沈殿させることで、ヒト組織、または細胞からRNAを調製することができる。該操作には、市販の抽出キットとして、ISOGEN(商品名、ニッポンジーン社製)などを好適に使用することができる。
【0067】
工程(b)、(c)
工程(b)は工程(a)で抽出した核酸およびPIVのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程であり、工程(c)は上記増幅反応により得られた増幅反応物を解析する工程であるが、これらの工程は前述した「1.動物がPIVに感染しているか否かを判別する方法」の工程(b)および工程(c)と同様の方法で行うことができる。
【0068】
なお、本発明における該遺伝子増幅反応としては前述した公知の遺伝子増幅反応が制限無く用いることができるが、逆転写反応および該反応産物に対するPCRからなるものであることが好ましい。
【0069】
4.パラインフルエンザウイルス検出用キット
さらに本発明は、配列番号1〜6で示されるプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のプライマー対を含むPIV検出用キットを提供する。
【0070】
該プライマーは本明細書中に示される目的に応じたプライマーであり得る。例えば配列番号1および2で示されるプライマー(1次増幅反応用)、配列番号3および4で示されるプライマー(2次増幅反応用/PIV-1検出用)および配列番号5および6で示されるプライマー(2次増幅反応用/PIV-3検出用)の全てを含む場合、PIV-1とPIV-3を同時に判別検査することが可能なキットを得ることができる。
【0071】
また本キットには、ウイルスゲノムRNAを得る工程、cDNAに逆転写する工程、遺伝子増幅反応および増幅反応物を検出する工程等に必要な試薬であって、本発明を実施する上で必要なものを含んでいてもよい。試薬としては特に限定されず、例えばISOGENなどのRNA精製試薬、逆転写酵素、RNaseフリー水などの逆転写反応試薬、エタノール、フェノールおよびトリクロロメタンなどの遺伝子精製試薬、DNAポリメラーゼ、dNTP、塩化マグネシウム水溶液、トリス緩衝液などの遺伝子増幅反応用試薬などが挙げられる。さらに本キット中に1またはそれ以上の異なるキットを同梱してもよく、該キットは既存のキットであっても、将来販売されるキットであってもよい。例えば従来公知の抗体検査キット(「モニライザHVJ」(商品名)、わかもと製薬社製)と組み合わせることで更に感度よくHIVを検出することも可能であるし、他のウイルスゲノムRNAのcDNAを特異的に認識するプライマーキットを同梱することでPIVを含む複数のウイルスが検出可能なキットとすることもできる。
【0072】
さらに、本キットには検査動物の生活環境(例えば、動物飼育室)下でウイルスを捕集する器具および試薬が含まれていてもよく、該器具等は効率よくPIVを捕集できるものであれば特に限定されないが、例えば特開2005-102686号公報に開示される微生物捕集フィルターが挙げられる。
【0073】
本発明で提供されるPIV検出用PCRキットは、種々の動物におけるPIV遺伝子診断キットとすることができ、その対象となる動物はPIV-1またはPIV-3に感染し得る限り特に限定されないが、該キットの汎用性の観点からは、検出対象がヒトおよびげっ歯類であることが好ましい。また、対象となるPIVとしてはいずれの動物種由来のものでも良く、特に限定されないが、ヒト由来のPIVを対象とすることが多い。
【0074】
さらに、本発明において採用され得る各種の操作、例えば、RNAの抽出、DNAまたはDNA断片の合成、切断、削除、付加または結合を目的とする酵素処理、RNAまたはDNAの単離、精製、複製、選択、増幅などで、特に本明細書に記載されていない操作はいずれも常法に従うことができる(分子遺伝学実験法、共立出版(株)1983年発行;PCRテクノロジー、宝酒造(株)1990年発行など参照)。またこれらのDNAなどは必要に応じて適宜常法に従い修飾して用いることもできる。
【0075】
なお、本明細書において、アミノ酸、ペプチド、塩基配列、核酸、制限酵素、その他に関する略号による表示は、IUPACおよびIUPAC-IUBによる命名法またはその規定、および「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(平成9年3月、特許庁調整課審査基準室)に従うものとする。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を示してさらに具体的に本発明を説明する。以下は代表的な実施例を示すものでこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0077】
[実施例1]PIV遺伝子のアラインメントとプライマー設計
既に公知であるヒトPIV-1(37分離株)ゲノムRNA、ヒトPIV-3(29分離株)ゲノムRNAの塩基配列をそれぞれ比較し、全体として高い相同性を示す塩基配列、PIV-1、PIV-3ゲノムRNA特異的に高い相同性を示す塩基配列を見出し、合成した。該プライマーの塩基配列を下記に示す。また、対応するゲノム中の位置を図1に示す。
F1:TKGCDAAYTGYATWRCAWCYACHTGTAC (配列番号1)
R1:TTVARGTGRCAYTCWGGRTABAGDATGTC (配列番号2)
F2:GAGWCAMTYACHRRWYTAATVAGRCAAGA (配列番号3)
R2:CAYGATHTCCKRTTGTCGTTGATGTCATA (配列番号4)
F3:ACCAAGRCTTCTYACAATTCAGAGTCATGT (配列番号5)
R3:GCYTGATTRCAGTCTCTYTGYGTTTT (配列番号6)
【0078】
[実施例2]PIV-1およびPIV-3ゲノムRNAの検出
(1)PIV培養上清液からのRNAの抽出
PIV-1としてNIH株、Z株、MN株およびM-73株を、PIV-3として65-899株、C243株(human)、910N株、YN株(bovine)およびGP株(Guinea Pig)を使用した。
【0079】
PIV培養上清液200μlに変性液(4Mチオ硫酸グアニジン、25mMクエン酸ナトリウム、0.1M 2-メルカプトエタノール、0.5% N-ラウリルサルコシン)を500μl加え、さらに3M 酢酸ナトリウム33μl、フェノール500μl、クロロホルム100μlを加えよく混合した。氷上で15分間静置し、4℃、12,000 rpmで20分間遠心分離した。この上清を取り出し、イソプロパノール750μlと混合し、零下30℃で30分間静置した。これを4℃、15,000 rpmで10分間遠心分離し、上清除去ののち、70%エタノールを加えて4℃、15,000 rpmで1分間遠心分離した。上清を除去し、沈殿物を乾燥し、RNaseフリー水15μlに溶解し、これをRNA溶液とした。混入しているDNAの除去は、診断感度を低下させるため行わなかった。
【0080】
(2)逆転写反応および1次遺伝子増幅反応
上記9種のウイルスのRNAに対して、上記配列番号1および2で示されるプライマー対を使用した逆転写反応およびPCRを実施した。該反応は、逆転写酵素M-MuLV(商品名、インビトロジェン株式会社製)およびEx Taqポリメラーゼを使用し、以下の条件で行った。
すなわち、まずRNA溶液2μlに精製水7.7μlを加え、65℃で5分間静置ののち氷上で急冷し、RNAを変性させた。この溶液に、5×RT緩衝液4μl、DTT(終濃度0.01M)、dNTPs(終濃度1mM)、プライマー(配列番号1および2、終濃度各40nM)、RNaseインヒビター0.5μl(50 Unit)、逆転写酵素M-MuLV 1.0μl(200 Unit)を加えて総容量20μlとし、37℃で1時間反応させてcDNAを得た。これをMicrospin S-300HRカラム(アマシャムバイオサイエンス株式会社製)に通過させて精製cDNAとした。
精製cDNA 1μlに10×Ex Taqポリメラーゼ緩衝液 2μl、dNTPs(終濃度 0.2mM)、上記1次プライマー対(終濃度各20nM)、Ex Taqポリメラーゼ 0.1μl、精製水14.5μlを加えて最終容量20μlとし、PCR Thermal Cyclerを用いて95℃で30秒、55℃で30秒および72℃で3分のサイクルを30サイクル行い、DNA増幅断片を得た。
【0081】
(3)2次遺伝子増幅反応
(2)で得られた1次増幅反応物を鋳型とし、配列番号3〜6で示される2次プライマー対を用いてPCRを実施した。
すなわち、1次増幅反応物 0.5μlに10×Ex Taqポリメラーゼ緩衝液 1μl、dNTPs(終濃度 0.2mM)、上記2次プライマー対(終濃度各20nM)、Ex Taqポリメラーゼ 0.05μl、精製水6.9μlを加えて最終容量10μlとした。PCR Thermal Cyclerを用いて95℃で20秒、64℃で30秒のサイクルを10サイクル、次いで95℃で20秒、56℃で30秒のサイクルを40サイクル連続して行い、2次増幅反応物を得た。
【0082】
(4)2次増幅反応物の解析
得られた2次増幅反応物は、1%アガロースゲルまたは4% MetaPhorゲル中で電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色し、UV照射装置上で画像解析装置を使用してゲルの写真撮影を行い、増幅断片の検出を行った。なお、電気泳動前に2次増幅反応物を制限酵素により消化する場合は、制限酵素の製造業者の指示する条件に従って行った。
【0083】
電気泳動の結果を図2から図4に示す。なお、図2中、レーンMは分子量マーカー、レーン1はPIV-1(NIH株)およびPIV-3(65-899株)由来の2次増幅反応物、レーン2はPIV-1由来の2次増幅反応物、レーン3はPIV-3由来の2次増幅反応物を表す。
【0084】
また図3中、レーンMは分子量マーカー、レーン1から4はPIV-1由来の2次増幅反応物[レーン1:NIH('59)、レーン2:Z(’55)、レーン3:MN('54)、レーン4:M-73]、レーン5から9はPIV-3由来の2次増幅反応物[レーン5:65-899、レーン6:C243('57)、レーン7:910N、レーン8:YN、レーン9:GP('92)]を表す。
【0085】
また図4中、レーンMは分子量マーカー、レーン1はPIV-1(NIH株)およびPIV-3(65-899株)由来の2次増幅反応物、レーン2はPIV-1由来の2次増幅反応物、レーン3はPIV-3由来の2次増幅反応物、レーン4はPIV-1およびPIV-3由来の2次増幅反応物をMfe IおよびHae IIIで処理したもの、レーン5はPIV-1由来の2次増幅反応物をMfe IおよびHae IIIで処理したもの、レーン6はPIV-3由来の2次増幅反応物をMfe IおよびHae IIIで処理したものを表す。
【0086】
以上の結果から、本発明のプライマーは同一の増幅反応条件において、1型と3型のいずれの鋳型からも遺伝子の増幅が可能であり、増幅断片または制限断片を電気泳動に供することで、どちらの型のPIVに感染しているかを判別可能であることが分かる。また、両鋳型が混合している場合でも判別可能であることも分かる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1はPIV遺伝子の構造および本発明で提供されるプライマーが認識する配列を示した図である。矢印は本発明のプライマーの認識部位を示す。
【図2】図2は2次増幅反応物の1%アガロースゲルにおける電気泳動の写真である。
【図3】図3は9株のPIV(PIV-1:4株、PIV-3:5株)を用いたPCR産物の電気泳動の写真である。
【図4】図4は制限酵素処理した2次増幅反応物の電気泳動の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物がパラインフルエンザウイルス1型および/または3型に感染しているか否かを判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)動物試料から核酸を抽出する工程;
(b)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)工程(b)で得られた増幅反応物を解析する工程。
【請求項2】
動物がパラインフルエンザウイルス1型および/または3型に感染しているか否かを判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)動物試料から核酸を抽出する工程;
(b−1)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能な1次プライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;
(b−2)工程(b−1)で得られた1次増幅反応物および工程(b−1)の1次プライマー対よりも内側のHN遺伝子領域を増幅可能な2次プライマー対を用いて2次増幅反応を行う工程;
(c−1)工程(b−2)で得られた2次増幅反応物を制限酵素により切断し、電気泳動に供する工程;ならびに
(c−2)工程(c−1)で得られた電気泳動パターンを解析する工程。
【請求項3】
上記工程(b)または工程(b−1)の遺伝子増幅反応が、逆転写反応および該反応産物に対するポリメラーゼ連鎖反応からなるものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
動物がげっ歯類である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記工程(a)の動物試料が唾液または涙液である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記工程(c−1)の制限酵素がMfeIおよび/またはHaeIIIである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
動物がパラインフルエンザウイルス1型および/または3型に感染し得る環境にあるか否かを判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)動物を飼育する閉鎖空間内の排気用装置に設けられたフィルターから核酸を抽出する工程;
(b)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)工程(b)で得られた増幅反応物を解析する工程。
【請求項8】
上記工程(b)の遺伝子増幅反応が、逆転写反応および該反応産物に対するポリメラーゼ連鎖反応からなることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項9】
動物がげっ歯類である、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
パラインフルエンザウイルス1型および/または3型のウイルス保有者を判別する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする方法:
(a)ヒトの生体試料から核酸を抽出する工程
(b)工程(a)で抽出した核酸およびパラインフルエンザウイルスのHN遺伝子領域を増幅可能なプライマー対を用いて遺伝子増幅反応を行う工程;ならびに
(c)工程(b)で得られた増幅反応物を解析する工程。
【請求項11】
上記工程(b)の遺伝子増幅反応が、逆転写反応および該反応産物に対するポリメラーゼ連鎖反応からなることを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
上記工程(a)の試料が唾液または涙液である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
パラインフルエンザウイルス1型および3型のHN遺伝子領域を増幅可能な、配列番号1および2で示されるプライマー対。
【請求項14】
パラインフルエンザウイルス1型のHN遺伝子領域を増幅可能な、配列番号3および4で示されるプライマー対。
【請求項15】
パラインフルエンザウイルス3型のHN遺伝子領域を増幅可能な、配列番号5および6で示されるプライマー対。
【請求項16】
配列番号1〜6で示されるプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のプライマー対を含む、パラインフルエンザウイルス検出用キット。
【請求項17】
検出対象がヒトまたはげっ歯類である請求項16記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−129923(P2007−129923A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324069(P2005−324069)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】