パラゴムノキの品種判別方法及びパラゴムノキの品種判別用キット
【課題】パラゴムノキの品種を簡便かつ正確に判別可能な方法を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列からなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別するパラゴムノキの品種判別方法である。また、上記品種判別方法を実施するための品種判別用キットである。
【解決手段】特定の塩基配列からなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別するパラゴムノキの品種判別方法である。また、上記品種判別方法を実施するための品種判別用キットである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラゴムノキの簡便かつ正確な品種判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)は、天然ゴムの原料として栽培される代表的なゴムノキである。従来、パラゴムノキの品種は、葉・樹皮・樹形などの形態で判別されていた。
【0003】
しかしながら、パラゴムノキの形態による品種判別においては、実際に品種を判別し、決定するのに長期間要する。その上、このような判別法の習熟・熟練にも時間を要する。また、パラゴムノキの品種によっては外観で判別しにくい品種があったり、品種判別において誤判定が生じることがあったりした。
【0004】
一方で、近年、植物においていくつかの遺伝子工学を応用した品種判別方法が開発されてきた。これらの方法では品種間での塩基配列の違い、すなわち多型を検出することで品種判別を行っている。すなわち、遺伝子上の客観的な特徴を指標とすることから、正確な品種判定が可能となる。既に多くの商業作物においてRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphisms)法、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)法、マイクロサテライト法などの遺伝子工学を用いた品種判別方法が開発されている。
【0005】
パラゴムノキにおいては、遺伝子の多型を検出可能なDNAマーカーとして、矮性の変異体のクローンを識別可能なRAPDマーカー(非特許文献1)や、耐乾燥性の変異体のクローンの開発やスクリーニングに有用なDNAマーカー(非特許文献2)が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Venkatachalam, P. et al. "Identification, cloning and sequence analysis of a dwarf genome-specific RAPD marker in rubber tree [Hevea brasiliensis (Muell.) Arg.]" Plant Cell Rep. 2004; 23(5): 327-32.
【非特許文献2】Venkatachalam, P. et al. "Molecular cloning and sequencing of a polymorphic band from rubber tree [Hevea brasiliensis (Muell.) Arg.] : the nucleotide sequence revealed partial homology with proline-specific permease gene sequence" Current Schience 2006; 90(11): 1510-1515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際にパラゴムノキの農園において栽培されている多くの品種を効果的に判別可能な遺伝子工学的な品種判別方法は知られていない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、パラゴムノキの品種を簡便かつ正確に判別可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、パラゴムノキの品種を判別可能なDNA断片及び該DNA断片をPCR法によって安定して増幅可能なプライマーセットを見出した。さらに、前記プライマーセットを用いて増幅したDNA断片に基づいて、簡便かつ正確にパラゴムノキの品種を判別することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のパラゴムノキの品種判別方法は、配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、並びに、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別することを特徴とする。
【0011】
また、GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340からなる群から選択される少なくとも1種の品種を判別することが好ましい。
【0012】
更に、本発明のパラゴムノキの品種判別用キットは、配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、及び、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パラゴムノキの品種を簡便かつ正確に判別することができるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】各品種のPCRにより増幅したDNA断片の泳動パターンを示す泳動図である。
【図2】各品種のPCRにより増幅したDNA断片の泳動パターンを示す泳動図である。
【図3】各品種のPCRにより増幅したDNA断片の泳動パターンを示す泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。本発明のパラゴムノキの品種判別方法は、以下に説明する8セットのプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型として用いてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別することを特徴とする。8セットのプライマーセットは、配列番号1に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号7に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号9に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号11に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号13に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、及び、配列番号15に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットである。上述したように、少なくとも2セットのプライマーセットを用いてPCRを行うことによって、パラゴムノキのゲノムDNA中の品種を判別することが可能なDNA断片が安定して増幅され、当該増幅DNA断片に基づいて、簡便かつ正確にパラゴムノキの品種を判別することができる。また、少なくとも2セットのプライマーセットを用いてパラゴムノキの品種を判別することにより、1セットのプライマーセットだけでは判別が困難な品種についても、簡便かつ正確に判別することができる。
【0016】
配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列は、パラゴムノキの品種によって長さが異なるマイクロサテライト配列を含む2つのDNA断片であり、それらを配列表の配列番号17及び18に示す。配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号19及び20に示す。配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号21及び22に示す。配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号23に示す。配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号24に示す。配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号25に示す。配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号26に示す。配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号27に示す。
【0017】
本発明のパラゴムノキの品種判別方法において、まず、パラゴムノキからPCRの鋳型として用いるゲノムDNAを抽出する。ゲノムDNAを抽出するためのパラゴムノキとしては、パラゴムノキの植物体のいずれの組織も用いてもよく、生育段階も限定されない。植物体の組織からのゲノムDNAの抽出は、常法により行うことができ、例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等によって行うことができる。また、ゲノムDNAとして粗精製のものを使用することもできる。必要に応じて、抽出したゲノムDNAを、フェノール/クロロホルム処理、クロロホルム/イソアミルアルコール処理による除蛋白、イソプロパノール沈澱、エタノール沈澱、エタノールリンス、RNase処理等の公知のDNA精製方法によって精製してもよい。
【0018】
次に、抽出したゲノムDNAを鋳型として、上述した各種プライマーセットのうち、少なくとも2セットを用いてPCRを行う。PCRは、それ自体公知の通常用いられる方法に従って行われる。反応条件は、目的の塩基配列、すなわち上述した品種判別可能なDNA断片の部分配列(配列番号17〜27)が増幅されるものであればいかなるものでもよい。
【0019】
次いで、本発明においては、PCRによって増幅されたDNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によって、パラゴムノキの品種を判別する。本発明においては、増幅断片の有無、長さ又は切断パターンのいずれか一つを基準にして品種判別を行うことができるが、より広範囲の品種に渡って品種判別が可能となるという観点から、これらの2つ以上の基準を用いて品種判別を行うことが好ましい。なお、上記プライマーセットを用いて増幅されたDNA断片の有無、長さが同じである品種間においても、ある制限酵素による切断パターンが異なれば、該切断パターンに基づいて品種判別が可能となる。例えば、配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅されたDNA断片については、制限酵素のSspIを用いて当該断片を切断し、品種を判別することができる。
【0020】
上記基準による品種判別は、具体的には以下のようにして行うことができる。増幅DNA断片の有無によって品種判別を行う場合、例えば、上記PCRによって得られた産物を、常法により電気泳動によって分離し、上記プライマーのセットを用いて増幅されたDNA断片の有無を検出することによって品種判別を行うことができる。なお、上記した配列番号1に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約140bp〜約250bpの範囲である。上記した配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約1500bp〜約2500bpの範囲である。上記した配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約500bpである。上記した配列番号7に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約800bp〜約950bpの範囲である。上記した配列番号9に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約1100bp〜約2500bpの範囲である。上記した配列番号11に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約900bpである。上記した配列番号13に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約600bp〜約1000bpの範囲である。上記した配列番号15に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約450bp〜約700bpの範囲である。
【0021】
増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンによって品種判別を行う場合には、例えば、上記PCRによって得られた産物を、常法により、ある制限酵素によって処理し、電気泳動によって分離し、上記プライマーのセットを用いて増幅されたDNA断片の切断パターン(切断断片の長さ及び/又は数)を検出し、品種判別の対象である各パラゴムノキの間で当該切断パターンを比較することによって品種判別を行うことができる。なお、制限酵素を単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0022】
また、上述してきたDNA断片を増幅して品種を判別する本発明の方法と、従来の方法である、パラゴムノキの葉・樹皮・樹形などの形態で品種を判別する方法とを組合わせて品種を判別することにとり、判別の正確性を向上させることも可能である。
【0023】
本発明の品種判別方法によって判別可能なパラゴムノキの品種としては、特に限定されず、例えばGT1、PB260、RRIM600、PB330、PB340等が挙げられる。
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
(配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーの設計)
公開データベース(GenBank)の中から、パラゴムノキのゲノムDNAのマイクロサテライト配列を抽出し、互いに比較することによってAY486624とAY135656が相同配列ながらマイクロサテライトの反復回数が異なるためにマイクロサテライトを含む部分の長さが品種によって異なることを見出した。この品種によって違うマイクロサテライト配列の両側からマイクロサテライト配列を含む断片を増やせるPCRプライマーBSMS1F(配列番号1)及びBSMS1R(配列番号2)を設計した。
【0026】
(植物材料及びゲノムDNAの抽出)
パラゴムノキの農園より、GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340の各クローンの葉を採取した。これらの葉から抽出したDNAを材料として、品種判別可能なDNA断片の確認を行った。葉からのDNA抽出は、DNeasy Plant Kit(Quiagen社)を用いて行った。
【0027】
(RAPD PCRによる品種間差のあるDNA断片の増幅)
得られたパラゴムノキのゲノムDNAを鋳型とし、RAPD PCR反応を行った。このときのPCR法の反応液組成および反応条件は以下の通りである。反応液は1 x reaction buffer、0.25mM dNTP mixture、0.5 units Ex Taq DNA polymerase (Takara社)、1.25μM プライマー、25ng鋳型DNAを含み20μlとなるように水で調節した。反応サイクルは、94℃で4分間保持した後、94℃にて1分間、37℃で1.5分間、72℃で2分間の繰り返し35回行った後、72℃で7分間反応させ、その後4℃で維持した。なお、反応にはTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Gradient(タカラバイオ社)を用いた。次にPCR反応液をバイオアナライザー2100(Agilent社)を用いた電気泳動により分離して増幅断片の長さの確認を行った。品種間で増幅断片に違いが見られたPCR反応液をTOPO-TA cloning kit (Invitrogen社)によるサブクローニングを行い大腸菌に形質転換した。目的とした品種判別可能なDNA断片のサブクローニングができたプラスミドの塩基配列を、ABI3730xl(Applied Biosystems社)およびABI3100(Applied Biosystems社)を用いて決定した。以上の結果、品種判別可能なDNA断片の塩基配列は、配列番号19〜27に示すとおりであった。
【0028】
(配列番号19〜27に示す品種判別可能なDNA断片をPCRにより増幅し得るプライマーの設計)
上記のようにして得られた配列情報19及び20に示す品種判別可能なDNA断片から、DNA断片を特異的に増幅するためのプライマーセット(4-1F(配列番号3)及び4-1R(配列番号4))を設計した。また、配列情報21及び22に示すDNA断片から、DNA断片を特異的に増幅するためのプライマーセット(12-6F(配列番号5)及び12-6R(配列番号6))を設計した。更に、配列情報23〜27に示すDNA断片から、夫々のDNA断片を特異的に増幅するためのプライマーセット(31F(配列番号7)及び31R(配列番号8))、プライマーセット(45F(配列番号9)及び45R(配列番号10))、プライマーセット(62F(配列番号11)及び62R(配列番号12))、プライマーセット(68F(配列番号13)及び68R(配列番号14))、並びに、プライマーセット(77F(配列番号15)及び77R(配列番号16))を設計した。
【0029】
(品種判別可能なDNA断片のPCRによる増幅及び検出)
上述の8セットのプライマーセットのうち、3セットのプライマーセット、BSMS1F(配列番号1)及びBSMS1R(配列番号2)、4-1F(配列番号3)及び4-1R(配列番号4)、並びに、12-6F(配列番号5)及び12-6R(配列番号6)を用いて以下の反応液組成および反応条件で上述した各クローン(GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340)のゲノムDNAを鋳型にPCRを行った。反応液は1 x reaction buffer、0.2mM dNTP mixture、0.5 units Ex Taq DNA polymerase (Takara社)、各1.25μM プライマー、25ng鋳型DNAを含み20μlとなるように水で調節した。反応サイクルは、94℃で4分間保持した後、94℃にて30秒間、55℃又は60℃で30秒間、72℃で2分間の繰り返し30回行った後、72℃で7分間反応させ、その後4℃で維持した。得られたPCR産物をバイオアナライザー2100(Agilent社)を用いて電気泳動し、泳動パターンを検出し、BSMS1(BSMS1F及びBSMS1Rのプライマーセット)、HB4-1(4-1F及び4-1Rのプライマーセット)、Hb12-6(12-6F及び12-6Rのプライマーセット)の泳動図を夫々図1〜3に示す。なお、図中の矢印は、品種の判別に用いたバンドを示す。また、判別に用いたバンドの有無を以下に示す表1にまとめた。
【0030】
【表1】
+:識別バンドが出現する -:識別バンドが出現しない
【0031】
表1の結果から明らかなように、4-1および12-6のプライマーセットを用いて、タッピング開始直後の収量の多いPB系統の3品種と、タッピング開始直後の収量が多くないRRIM600、および収量の少なめなGT1を区別することができる。さらにBSMS1のプライマーセットを用いて、PB系統3品種をそれぞれ区別することができる。このように複数のプライマーセットを用いてPCRにより増幅して得られた結果によって精度の高い品種判別が可能であることが明らかとなった。なお、図中、色の薄いバンドは非特異的な増幅に由来するものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、天然ゴムの生産分野において、天然ゴムの原料となるパラゴムノキの品種判別方法として有用である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラゴムノキの簡便かつ正確な品種判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)は、天然ゴムの原料として栽培される代表的なゴムノキである。従来、パラゴムノキの品種は、葉・樹皮・樹形などの形態で判別されていた。
【0003】
しかしながら、パラゴムノキの形態による品種判別においては、実際に品種を判別し、決定するのに長期間要する。その上、このような判別法の習熟・熟練にも時間を要する。また、パラゴムノキの品種によっては外観で判別しにくい品種があったり、品種判別において誤判定が生じることがあったりした。
【0004】
一方で、近年、植物においていくつかの遺伝子工学を応用した品種判別方法が開発されてきた。これらの方法では品種間での塩基配列の違い、すなわち多型を検出することで品種判別を行っている。すなわち、遺伝子上の客観的な特徴を指標とすることから、正確な品種判定が可能となる。既に多くの商業作物においてRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法、RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphisms)法、AFLP(Amplified Fragment Length Polymorphisms)法、マイクロサテライト法などの遺伝子工学を用いた品種判別方法が開発されている。
【0005】
パラゴムノキにおいては、遺伝子の多型を検出可能なDNAマーカーとして、矮性の変異体のクローンを識別可能なRAPDマーカー(非特許文献1)や、耐乾燥性の変異体のクローンの開発やスクリーニングに有用なDNAマーカー(非特許文献2)が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Venkatachalam, P. et al. "Identification, cloning and sequence analysis of a dwarf genome-specific RAPD marker in rubber tree [Hevea brasiliensis (Muell.) Arg.]" Plant Cell Rep. 2004; 23(5): 327-32.
【非特許文献2】Venkatachalam, P. et al. "Molecular cloning and sequencing of a polymorphic band from rubber tree [Hevea brasiliensis (Muell.) Arg.] : the nucleotide sequence revealed partial homology with proline-specific permease gene sequence" Current Schience 2006; 90(11): 1510-1515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際にパラゴムノキの農園において栽培されている多くの品種を効果的に判別可能な遺伝子工学的な品種判別方法は知られていない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、パラゴムノキの品種を簡便かつ正確に判別可能な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、パラゴムノキの品種を判別可能なDNA断片及び該DNA断片をPCR法によって安定して増幅可能なプライマーセットを見出した。さらに、前記プライマーセットを用いて増幅したDNA断片に基づいて、簡便かつ正確にパラゴムノキの品種を判別することが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明のパラゴムノキの品種判別方法は、配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、並びに、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別することを特徴とする。
【0011】
また、GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340からなる群から選択される少なくとも1種の品種を判別することが好ましい。
【0012】
更に、本発明のパラゴムノキの品種判別用キットは、配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、及び、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、パラゴムノキの品種を簡便かつ正確に判別することができるという有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】各品種のPCRにより増幅したDNA断片の泳動パターンを示す泳動図である。
【図2】各品種のPCRにより増幅したDNA断片の泳動パターンを示す泳動図である。
【図3】各品種のPCRにより増幅したDNA断片の泳動パターンを示す泳動図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明について詳細に説明する。本発明のパラゴムノキの品種判別方法は、以下に説明する8セットのプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型として用いてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別することを特徴とする。8セットのプライマーセットは、配列番号1に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号7に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号9に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号11に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、配列番号13に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセット、及び、配列番号15に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットである。上述したように、少なくとも2セットのプライマーセットを用いてPCRを行うことによって、パラゴムノキのゲノムDNA中の品種を判別することが可能なDNA断片が安定して増幅され、当該増幅DNA断片に基づいて、簡便かつ正確にパラゴムノキの品種を判別することができる。また、少なくとも2セットのプライマーセットを用いてパラゴムノキの品種を判別することにより、1セットのプライマーセットだけでは判別が困難な品種についても、簡便かつ正確に判別することができる。
【0016】
配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列は、パラゴムノキの品種によって長さが異なるマイクロサテライト配列を含む2つのDNA断片であり、それらを配列表の配列番号17及び18に示す。配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号19及び20に示す。配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号21及び22に示す。配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号23に示す。配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号24に示す。配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号25に示す。配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号26に示す。配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅可能であり、品種判別可能なDNA断片の部分配列を、配列表の配列番号27に示す。
【0017】
本発明のパラゴムノキの品種判別方法において、まず、パラゴムノキからPCRの鋳型として用いるゲノムDNAを抽出する。ゲノムDNAを抽出するためのパラゴムノキとしては、パラゴムノキの植物体のいずれの組織も用いてもよく、生育段階も限定されない。植物体の組織からのゲノムDNAの抽出は、常法により行うことができ、例えば、フェノール抽出法、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)法、アルカリSDS法等によって行うことができる。また、ゲノムDNAとして粗精製のものを使用することもできる。必要に応じて、抽出したゲノムDNAを、フェノール/クロロホルム処理、クロロホルム/イソアミルアルコール処理による除蛋白、イソプロパノール沈澱、エタノール沈澱、エタノールリンス、RNase処理等の公知のDNA精製方法によって精製してもよい。
【0018】
次に、抽出したゲノムDNAを鋳型として、上述した各種プライマーセットのうち、少なくとも2セットを用いてPCRを行う。PCRは、それ自体公知の通常用いられる方法に従って行われる。反応条件は、目的の塩基配列、すなわち上述した品種判別可能なDNA断片の部分配列(配列番号17〜27)が増幅されるものであればいかなるものでもよい。
【0019】
次いで、本発明においては、PCRによって増幅されたDNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によって、パラゴムノキの品種を判別する。本発明においては、増幅断片の有無、長さ又は切断パターンのいずれか一つを基準にして品種判別を行うことができるが、より広範囲の品種に渡って品種判別が可能となるという観点から、これらの2つ以上の基準を用いて品種判別を行うことが好ましい。なお、上記プライマーセットを用いて増幅されたDNA断片の有無、長さが同じである品種間においても、ある制限酵素による切断パターンが異なれば、該切断パターンに基づいて品種判別が可能となる。例えば、配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いて増幅されたDNA断片については、制限酵素のSspIを用いて当該断片を切断し、品種を判別することができる。
【0020】
上記基準による品種判別は、具体的には以下のようにして行うことができる。増幅DNA断片の有無によって品種判別を行う場合、例えば、上記PCRによって得られた産物を、常法により電気泳動によって分離し、上記プライマーのセットを用いて増幅されたDNA断片の有無を検出することによって品種判別を行うことができる。なお、上記した配列番号1に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約140bp〜約250bpの範囲である。上記した配列番号3に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約1500bp〜約2500bpの範囲である。上記した配列番号5に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約500bpである。上記した配列番号7に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約800bp〜約950bpの範囲である。上記した配列番号9に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約1100bp〜約2500bpの範囲である。上記した配列番号11に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約900bpである。上記した配列番号13に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約600bp〜約1000bpの範囲である。上記した配列番号15に示す塩基配列からなるプライマーと配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーとを組み合わせたプライマーセットを用いてPCRによって増幅されるDNA断片の長さは通常約450bp〜約700bpの範囲である。
【0021】
増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンによって品種判別を行う場合には、例えば、上記PCRによって得られた産物を、常法により、ある制限酵素によって処理し、電気泳動によって分離し、上記プライマーのセットを用いて増幅されたDNA断片の切断パターン(切断断片の長さ及び/又は数)を検出し、品種判別の対象である各パラゴムノキの間で当該切断パターンを比較することによって品種判別を行うことができる。なお、制限酵素を単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0022】
また、上述してきたDNA断片を増幅して品種を判別する本発明の方法と、従来の方法である、パラゴムノキの葉・樹皮・樹形などの形態で品種を判別する方法とを組合わせて品種を判別することにとり、判別の正確性を向上させることも可能である。
【0023】
本発明の品種判別方法によって判別可能なパラゴムノキの品種としては、特に限定されず、例えばGT1、PB260、RRIM600、PB330、PB340等が挙げられる。
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
(配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーの設計)
公開データベース(GenBank)の中から、パラゴムノキのゲノムDNAのマイクロサテライト配列を抽出し、互いに比較することによってAY486624とAY135656が相同配列ながらマイクロサテライトの反復回数が異なるためにマイクロサテライトを含む部分の長さが品種によって異なることを見出した。この品種によって違うマイクロサテライト配列の両側からマイクロサテライト配列を含む断片を増やせるPCRプライマーBSMS1F(配列番号1)及びBSMS1R(配列番号2)を設計した。
【0026】
(植物材料及びゲノムDNAの抽出)
パラゴムノキの農園より、GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340の各クローンの葉を採取した。これらの葉から抽出したDNAを材料として、品種判別可能なDNA断片の確認を行った。葉からのDNA抽出は、DNeasy Plant Kit(Quiagen社)を用いて行った。
【0027】
(RAPD PCRによる品種間差のあるDNA断片の増幅)
得られたパラゴムノキのゲノムDNAを鋳型とし、RAPD PCR反応を行った。このときのPCR法の反応液組成および反応条件は以下の通りである。反応液は1 x reaction buffer、0.25mM dNTP mixture、0.5 units Ex Taq DNA polymerase (Takara社)、1.25μM プライマー、25ng鋳型DNAを含み20μlとなるように水で調節した。反応サイクルは、94℃で4分間保持した後、94℃にて1分間、37℃で1.5分間、72℃で2分間の繰り返し35回行った後、72℃で7分間反応させ、その後4℃で維持した。なお、反応にはTaKaRa PCR Thermal Cycler Dice(登録商標) Gradient(タカラバイオ社)を用いた。次にPCR反応液をバイオアナライザー2100(Agilent社)を用いた電気泳動により分離して増幅断片の長さの確認を行った。品種間で増幅断片に違いが見られたPCR反応液をTOPO-TA cloning kit (Invitrogen社)によるサブクローニングを行い大腸菌に形質転換した。目的とした品種判別可能なDNA断片のサブクローニングができたプラスミドの塩基配列を、ABI3730xl(Applied Biosystems社)およびABI3100(Applied Biosystems社)を用いて決定した。以上の結果、品種判別可能なDNA断片の塩基配列は、配列番号19〜27に示すとおりであった。
【0028】
(配列番号19〜27に示す品種判別可能なDNA断片をPCRにより増幅し得るプライマーの設計)
上記のようにして得られた配列情報19及び20に示す品種判別可能なDNA断片から、DNA断片を特異的に増幅するためのプライマーセット(4-1F(配列番号3)及び4-1R(配列番号4))を設計した。また、配列情報21及び22に示すDNA断片から、DNA断片を特異的に増幅するためのプライマーセット(12-6F(配列番号5)及び12-6R(配列番号6))を設計した。更に、配列情報23〜27に示すDNA断片から、夫々のDNA断片を特異的に増幅するためのプライマーセット(31F(配列番号7)及び31R(配列番号8))、プライマーセット(45F(配列番号9)及び45R(配列番号10))、プライマーセット(62F(配列番号11)及び62R(配列番号12))、プライマーセット(68F(配列番号13)及び68R(配列番号14))、並びに、プライマーセット(77F(配列番号15)及び77R(配列番号16))を設計した。
【0029】
(品種判別可能なDNA断片のPCRによる増幅及び検出)
上述の8セットのプライマーセットのうち、3セットのプライマーセット、BSMS1F(配列番号1)及びBSMS1R(配列番号2)、4-1F(配列番号3)及び4-1R(配列番号4)、並びに、12-6F(配列番号5)及び12-6R(配列番号6)を用いて以下の反応液組成および反応条件で上述した各クローン(GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340)のゲノムDNAを鋳型にPCRを行った。反応液は1 x reaction buffer、0.2mM dNTP mixture、0.5 units Ex Taq DNA polymerase (Takara社)、各1.25μM プライマー、25ng鋳型DNAを含み20μlとなるように水で調節した。反応サイクルは、94℃で4分間保持した後、94℃にて30秒間、55℃又は60℃で30秒間、72℃で2分間の繰り返し30回行った後、72℃で7分間反応させ、その後4℃で維持した。得られたPCR産物をバイオアナライザー2100(Agilent社)を用いて電気泳動し、泳動パターンを検出し、BSMS1(BSMS1F及びBSMS1Rのプライマーセット)、HB4-1(4-1F及び4-1Rのプライマーセット)、Hb12-6(12-6F及び12-6Rのプライマーセット)の泳動図を夫々図1〜3に示す。なお、図中の矢印は、品種の判別に用いたバンドを示す。また、判別に用いたバンドの有無を以下に示す表1にまとめた。
【0030】
【表1】
+:識別バンドが出現する -:識別バンドが出現しない
【0031】
表1の結果から明らかなように、4-1および12-6のプライマーセットを用いて、タッピング開始直後の収量の多いPB系統の3品種と、タッピング開始直後の収量が多くないRRIM600、および収量の少なめなGT1を区別することができる。さらにBSMS1のプライマーセットを用いて、PB系統3品種をそれぞれ区別することができる。このように複数のプライマーセットを用いてPCRにより増幅して得られた結果によって精度の高い品種判別が可能であることが明らかとなった。なお、図中、色の薄いバンドは非特異的な増幅に由来するものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、天然ゴムの生産分野において、天然ゴムの原料となるパラゴムノキの品種判別方法として有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、並びに、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別することを特徴とするパラゴムノキの品種判別方法。
【請求項2】
GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340からなる群から選択される少なくとも1種の品種を判別する、請求項1に記載のパラゴムノキの品種判別方法。
【請求項3】
配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、及び、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを含むことを特徴とするパラゴムノキの品種判別用キット。
【請求項1】
配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、並びに、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを用いて、パラゴムノキから抽出されたゲノムDNAを鋳型としてPCRを行うことによって得られた増幅DNA断片の有無、該増幅DNA断片の長さ及び該増幅DNA断片の制限酵素による切断パターンの少なくとも1の基準によってパラゴムノキの品種を判別することを特徴とするパラゴムノキの品種判別方法。
【請求項2】
GT1、RRIM600、PB260、PB330及びPB340からなる群から選択される少なくとも1種の品種を判別する、請求項1に記載のパラゴムノキの品種判別方法。
【請求項3】
配列番号1及び配列番号2に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号3及び配列番号4に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号5及び配列番号6に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号7及び配列番号8に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号9及び配列番号10に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号11及び配列番号12に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、配列番号13及び配列番号14に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセット、及び、配列番号15及び配列番号16に示す塩基配列からなるプライマーからなるプライマーセットのうち、少なくとも2セットのプライマーセットを含むことを特徴とするパラゴムノキの品種判別用キット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図2】
【図3】
【公開番号】特開2010−161951(P2010−161951A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−5164(P2009−5164)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(594201744)バダン ペングカジアン ダン ペネラパン テクノロジ (13)
【氏名又は名称原語表記】Badan Pengkajian Dan Penerapan Teknologi
【住所又は居所原語表記】Jl. M. H. Thamrin No.8, Jakarta 10340, Indonesia
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(594201744)バダン ペングカジアン ダン ペネラパン テクノロジ (13)
【氏名又は名称原語表記】Badan Pengkajian Dan Penerapan Teknologi
【住所又は居所原語表記】Jl. M. H. Thamrin No.8, Jakarta 10340, Indonesia
【Fターム(参考)】
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