説明

パラジウム−金合金を有する還元用触媒

【課題】還元能に優れ、水素化反応に用いた場合には高い転化率と好ましくは優れた選択性とを示す、担持パラジウム触媒を提供する。
【解決手段】導電性カーボンと、該カーボンに担持されたパラジウム−金合金とを有してなり、該合金の合金化度が50〜100%である還元用触媒。酸素還元用触媒または水素化用触媒である上記還元用触媒。固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極触媒である上記酸素還元用触媒。上記カソード電極触媒を用いた固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパラジウム−金合金を有する還元用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウムまたはパラジウムと他の金属との合金がアルミナ、カーボン等の担体に担持された担持パラジウム触媒は、不均一系の固体触媒として、オレフィン、アセチレン、ニトロ基、ケトン、アルデヒド、ニトリル等の水素化、水素、炭化水素、一酸化炭素等の酸化、オレフィンの酸化的アセトキシ化反応といった広範な用途で実用化されている。
【0003】
このような担持パラジウム触媒としては、例えば、Pd-C触媒およびPd-Al2O3触媒が開示されており、これらの触媒は加温および加圧下での水素化反応に用いることができる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】西村重夫・高木弦 著、「接触水素化反応 ―有機合成への応用―」、株式会社東京化学同人、1987年4月10日、p.34-37
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の担持パラジウム触媒は、反応によっては、還元能が低く、選択性が不十分である。そこで、本発明の目的は、還元能に優れ、水素化反応に用いた場合には高い転化率と好ましくは優れた選択性とを示す、担持パラジウム触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、ミクロのレベルにおける合金の構造を見積もる指標として合金化度に着目し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、上記課題を解決するものとして、導電性カーボンと、該カーボンに担持されたパラジウム−金合金とを有してなり、該合金の合金化度が50〜100%である還元用触媒を提供する。
【0008】
本発明の還元用触媒は、一実施形態において酸素還元用触媒であり、別の実施形態において水素化用触媒である。該酸素還元用触媒は一実施形態において固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極触媒である。
【0009】
本発明は、更に、上記カソード電極触媒を用いた固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の還元用触媒は還元能に優れており、例えば、酸素還元用触媒、更には固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極触媒として有用である。該カソード電極触媒を用いた本発明のカソード電極は、家庭用電源供給設備としての定置型電池並びに自動車用電源としての移動型電池等として期待される固体高分子電解質型燃料電池に有用である。本発明の還元用触媒は高い転化率を示す水素化用触媒としても有用であり、該水素化用触媒は、例えば、脂肪族ニトリル化合物に水素を付加して第一級アミンに転換する反応において優れた選択性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】各Pd比率(モル%)における合金結晶の面間隔dの理論値を表す近似線のグラフである。
【図2】Pd比率が90モル%であるパラジウム−金合金について、波長1.540598ÅのX線(Cu-Kα線)を使用して得られたXRDパターンである。
【図3】Pd比率が90モル%であるパラジウム−金合金について、波長1.540598ÅのX線(Cu-Kα線)を使用して得られた別のXRDパターンである。
【図4】各触媒の回転数1600rpmにおける電流−電位曲線を示すグラフである。図中の(A)〜(D)はそれぞれサンプルA〜Dに対応し、(E)はパラジウム担持カーボン触媒に対応する。
【図5】合金化度と酸素還元電流との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(1)還元用触媒
1−1.パラジウム−金合金担持カーボンの形成
導電性カーボン担体としては、例えば、アセチレンブラック系及びファーネスブラック系のカーボン粉末が適する。担持させるパラジウム−金合金において、パラジウムと金とのモル比は、好ましくは9.5:0.5〜7:3である。
【0013】
パラジウム−金合金担持カーボンは次のようにして形成することができる。
・導電性カーボン粉末を純水に均一に分散させる。
・担持させる合金はパラジウム塩と金塩との混合溶液を原料に用いる。パラジウム塩として塩化パラジウム酸ナトリウム、塩化パラジウム、硝酸パラジウム等を用い、金塩として塩化金酸、塩化金酸ナトリウム等を用い、担持させる合金の総重量が触媒重量の好ましくは10〜40重量%、より好ましくは20〜30重量%となるように秤量する。
・化学吸着法により導電性カーボン担体にパラジウムイオンおよび金イオンを吸着させる。
・次に、これら導電性カーボン上に担持された金属イオンを化学的に還元する。還元剤にはヒドラジン、ホルムアルデヒド、ギ酸ナトリウム、ギ酸等を用いる事ができる。
【0014】
以上の工程により、導電性カーボン担体上にパラジウム−金合金からなる粒子を形成することができる。
【0015】
1−2.合金化度
・本発明の還元用触媒において、パラジウム−金合金の合金化度は、通常、50〜100%であり、好ましくは70〜100%であり、より好ましくは80〜100%であり、更により好ましくは90〜100%である。該合金化度が上記下限値未満であると、得られる触媒は還元能に劣る場合がある。
【0016】
本明細書において、パラジウム−金合金の合金化度とはX線回折(XRD)データ、具体的には(220)面のピークトップポジションおよび面間隔dの実測値から以下のとおりにして測定される指標である。言い換えると、パラジウム−金合金触媒は、X線回折における回折パターンを用いてその結晶構造を判別することが可能であり、パラジウムまたは金単独の固有回折角2θから算出した面間隔dからのズレの大きさを、調製によって得られた合金状態の面間隔dと理想的合金状態の面間隔dとについて比較し、これらのズレの大きさの比をVegardの法則に従って、触媒中に存在するパラジウムまたは金のモル分率で按分した値が触媒全体の合金化度の指標として用いられる。
【0017】
まず、基準となるデータを表1に示す。これは、純粋なパラジウム(Pd比率100モル%)および純粋な金(Pd比率0モル%)のおのおのについて、波長1.540598ÅのX線(Cu-Kα線)を使用してXRDパターンを得、その結果をブラッグの条件式:
2dsinθ = nλ
(ただし、n=1, λ=1.540598Å)
に当てはめて得たものである。
【0018】
【表1】

【0019】
Pd比率が0〜100モル%の間は面間隔dの値が線形に変化すると仮定して、各Pd比率(モル%)における面間隔dの理論値を表す近似線を作成した(図1)。この近似線の式を基に、上記ブラッグの条件式から表2に示すとおり各比率におけるdと2θの理論値を算出した。
【0020】
【表2】

【0021】
以上の結果をふまえ、dの理論値および実測値から以下のとおりに合金化度を定義付けた。すなわち、下記式に示すとおり、各々の金属の合金化度を算出し、各々の金属のモル分率を考慮して合計したものをパラジウム−金合金の合金化度と定義した。

合金化度(%) = Σ(組成金属のモル分率)i・(組成金属の合金化度)i
= [Pdモル分率]・[Pdの合金化度]+[Auモル分率]・[Auの合金化度]
【0022】
上記式において、Pdモル分率は式:(Pd比率)/100により計算され、Auモル分率は式:1-Pdモル分率により計算される。
【0023】
一方、上記式において、組成金属の合金化度の算出には以下の式を用いた。

組成金属の合金化度(%)
=(|d(実測)−d(基準データ)|/{d(理論)−d(基準データ)})×100
【0024】
上記式において、d(基準データ)とは、表1に示すdの値をいう。即ち、組成金属がパラジウムである場合、d(基準データ)=1.3754Åであり、組成金属が金である場合、d(基準データ)=1.4420Åである。
【0025】
一方、上記式において、d(理論)とは図1に示す近似線から算出される値である。例えば、Pd比率が90モル%である場合、d(理論)=1.3821Åである(表2参照)。
【0026】
更に、上記式において、d(実測)とはXRD測定の結果に基づき上記のブラッグの条件式から算出される値である。XRDにおける(220)面のピークが単一のピークとして観察される場合には、そのピーク位置から算出される。これに対し、XRDにおける(220)面のピークが二つのピークとして観察される場合には、高角度側のピークをパラジウム、低角度側のピークを金に対応させて算出される。
【0027】
例えば、Pd比率が90モル%であるパラジウム−金合金について、波長1.540598ÅのX線(Cu-Kα線)を使用して図2に示すXRDパターンが得られた場合、(220)面のピークは単一のピークとして観察されるため、パラジウムおよび金のいずれについても、2θ(実測)=67.759°であり、上記ブラッグの条件式からd(実測)=1.3818Åである。よって、組成金属の合金化度は表3に示すとおりに計算され、パラジウム−金合金の合金化度は96.53%となる。
【0028】
【表3】


パラジウム−金合金の合金化度(%)
= [Pdモル分率]・[Pdの合金化度]+[Auモル分率]・[Auの合金化度]
= 0.9 × 96.10 + 0.1 × 100.43
= 96.53
【0029】
一方、Pd比率が90モル%であるパラジウム−金合金について、波長1.540598ÅのX線(Cu-Kα線)を使用して図3に示すXRDパターンが得られた場合、(220)面のピークは二つのピークとして観察されるため、パラジウムについては2θ(実測)=68.162°と対応させ、金については2θ(実測)=65.215°と対応させる。よって、上記ブラッグの条件式から、パラジウムについてはd(実測)=1.3746Åであり、金についてはd(実測)=1.4294Åであるので、組成金属の合金化度は表4に示すとおりに計算され、パラジウム−金合金の合金化度は11.78%となる。
【0030】
【表4】


パラジウム−金合金の合金化度(%)= 0.9 × 10.75 + 0.1 × 21.02 =11.78
【0031】
合金化度は以下のとおりにして調整することができる。即ち、上記「1−1.パラジウム−金合金担持カーボンの形成」において、還元剤添加時のpHを調整することにより、合金化度を調整することができる。該pHは、好ましくは9.0〜13.0、より好ましくは10.0〜13.0、更により好ましくは11.0〜13.0である。該pHが上記範囲内であると、得られるパラジウム−金合金の合金化度を50〜100%の範囲内に調整することが容易である。pHの調整には公知のpH調整剤を特に制限なく用いることができる。pH調整剤としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0032】
1−3.触媒の用途
本発明の触媒を用いることのできる還元反応は特に限定されず、例えば、酸素還元反応;オレフィン、アセチレン、ニトロ基、ケトン、アルデヒド、ニトリル等の水素化反応;ベンジルエーテル、ベンジルエステル、ベンジルオキシカルボニル基等の水素化分解反応が挙げられる。
【0033】
・酸素還元用触媒
本発明の触媒が酸素還元反応に用いられる酸素還元用触媒である場合、その例としては固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極触媒が挙げられる。
【0034】
・水素化用触媒
本発明の触媒が水素化反応に用いられる水素化用触媒である場合、該水素化としては、例えば、脂肪族ニトリル化合物に水素を付加して第一級アミンに転換する反応が挙げられる。
【0035】
ニトリルからアミンへの接触水素化反応は種々の金属触媒(Co、Ni、Rh、Pd、Pt等)で進行する。しかしながら、下記式に示すとおり、第一級アミンの生成に伴って、第二級及び第三級アミンも容易に生成することが知られている。これらアミンの割合は触媒、温度、圧力、溶媒など反応条件によって大きく異なり、第一級アミンを主に得たいときは触媒及び反応条件の選択が重要となる。例えば、高温での反応はアンモニアの脱離を伴う縮合が促進されるため、第二級並びに第三級アミンが有利に生成する。一方、過剰のアンモニア存在下では、イミン中間体と第一級アミンが反応し第二級アミンが生成するステップへの平衡が抑制され、結果的に第二級及び第三級アミンの生成が減少する。その他、酸性溶媒中または無水酢酸のようなアシル化溶媒中で反応を行うことで、第一級アミンを主に生成することができる。これは、酸と生成した第一級アミンとの間でアンモニウム塩が形成され、イミン中間体へのアミンの付加が抑えられるためであると考えられる。
【0036】
【化1】

【0037】
本発明の水素化用触媒は、脂肪族ニトリル化合物に水素を付加してアミンに転換する反応において、第一級アミン合成の選択性を著しく向上させることができる。
【0038】
(2)固体高分子電解質型燃料電池用電極
アノード電極及びカソード電極はガス拡散層の上に触媒層を調製し、高分子電解質のイオン交換膜に両触媒層を対面させ、加圧成型によりイオン交換膜−電極接合体(MEA)が形成される。両電極は以下の調製法により成形される。
【0039】
ガス拡散層は導電性カーボンと分散剤を混練し、撥水性を保持する為にテフロン(登録商標)水溶液を加え、導電性カーボンシートに塗布したものを乾燥する。
【0040】
その後、ホットプレス機によりプレスしてシート状に成型する。
【0041】
触媒層は触媒と純水を混練し、その他常法に従い、ナフィオン溶液等を加え、更に混練した後に上記ガス拡散層上にコートする。
【0042】
その後、乾燥しガス拡散層の上に触媒層を形成する。
【0043】
以上により電極シートが調製される。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0045】
(1)パラジウム−金合金担持カーボン触媒の調製
純水2.5Lを用い、触媒担体となるアセチレンブラック44 gを分散させ、得られた分散液を95℃まで加熱し、均一の触媒担体懸濁液を調製した。別に純水500mlを準備し、塩化パラジウム酸ナトリウムをパラジウム換算で15.8gと塩化金酸を金換算で3.3g溶解し、パラジウム塩および金塩の混合溶液を調製した。次に前記触媒担体懸濁液にパラジウム塩および金塩の混合溶液を滴下して新たに懸濁液を得た。この新たに得た懸濁液を室温まで降温した。さらに、純水500mlを用い、ホルムアルデヒドと水酸化カリウムを溶解させて還元剤溶液を得、この還元剤溶液を上記で室温まで降温した懸濁液へ60分かけて滴下した。滴下後50℃まで加熱し、還元を行った。
こうして、触媒担体であるアセチレンブラックの表面にパラジウムおよび金の粒子を担持した。
反応液を冷却後、固形物をろ過し洗浄した。
その後、乾燥を約70℃の大気中で行い、その後粉砕し、担体であるアセチレンブラック上にパラジウム−金合金を担持した触媒を得た。
なお、上記還元剤溶液のpHを13.0、11.0、10.0および8.0に調整してそれぞれサンプルA〜Dを得た。
【0046】
本調製ではパラジウムと金との理論量比はモル比で9:1であり、ICP分析法による担持比率は触媒重量に対してパラジウム25重量%、金5.2重量%であった。
尚、同モル比が8:2、7:3である場合についても調製した。
【0047】
(2)合金化度の測定
上記(1)で得られたサンプルA〜Dについて、XRD測定を行い、XRDパターンを得た。これらのXRDパターンにおける(220)面のピークを観察したところ、サンプルA〜Cについては単一のピークであったのに対し、サンプルDについては二つのピークであった。サンプルDでは、高角度側のピークをパラジウムに、低角度側のピークを金に対応させた。(220)面のピーク位置から合金化度を算出した。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
(3)酸素還元能の評価
パラジウム−金合金担持カーボン触媒の酸素還元能を評価するため、上記サンプルA〜Dについて回転ディスク電極による酸素還元活性の評価を行った。評価装置には電気化学測定システム(HZ-3000)(北斗電工)を用いた。回転電極装置は北斗電工製の回転電極、同制御装置、同電解セルにより構成される。電極調製は、回転電極に装着されたグラッシーカーボンディスク電極に以下の手順で触媒を塗布することにより行った。なお、比較用の触媒として、30重量%パラジウム担持カーボン触媒(サンプルEとする)も用いた。
【0050】
1.触媒10mgと純水5mlと5重量%のナフィオン溶液(Aldrich社製)20μlを加えた溶液を予め調製し、15分間超音波分散を行った。
2.上記溶液をグラッシーカーボン上へ10μl滴下した。
3.一晩室温にて乾燥させた。
【0051】
評価条件は以下の通りである。
1.電解液に0.1M過塩素酸を用い、参照電極に銀/塩化銀電極、対極には白金黒付白金メッシュを使用した。
2.電解液をアルゴンガスで30分以上脱気した後、回転電極を浸し、可逆水素電位で走査電位範囲85mV〜1085 mVの範囲で、走査速度を50 mV/secとして電極の前処理を行なった。
3.その後、走査電位を可逆水素電位で135mV〜1085mV、走査速度を10mV/secとして、回転数1600rpmにおける電流−電位曲線を測定した。
4.電解液を酸素ガスで15分以上飽和し、走査電位を可逆水素電位で135mV〜1085mV、走査速度を10mV/secとして、回転数1600rpmにおける電流−電位曲線を測定した。
【0052】
図4に各触媒の回転数1600rpmにおける電流−電位曲線を示す。図4のグラフ中の各電位における電流値は、各電位において上記の評価条件項目4で得られた電流値から評価条件項目3で得られた電流値を引いたものである。
評価条件項目4で得られる電流値は、酸素還元電流に加え、金属触媒粒子、すなわち、パラジウム−金合金粒子またはパラジウム粒子の表面の酸化物を還元する電流を含む。よって、真の酸素還元電流を評価するためには、金属触媒粒子表面の酸化物を還元する電流を除くことが必要である。そのための方法として、上記のとおり、評価条件項目4で得られた電流値から評価条件項目3で得られた電流値を引くことにより、真の酸素還元電流とした。
【0053】
酸素還元能の指標として、可逆水素電位で0.85Vにおける酸素還元電流を基準とした。該酸素還元電流の値を各触媒について表6に示す。また、図5は、表6に示す結果を図示したものであり、合金化度と酸素還元電流との関係を表すグラフである。酸素還元電流は絶対値が大きいほど好ましい。
【0054】
【表6】

(注)パラジウム担持カーボン触媒
【0055】
表6に示す通り、合金化度が96.53%または85.85%という高い値であるパラジウム−金合金担持カーボン触媒(サンプルAおよびB)は、パラジウム担持カーボン触媒と比較して、高い酸素還元電位を示しており、酸素還元能に優れている(図5)。一方、合金化度が64.50%または11.78%という低い値であるパラジウム−金合金担持カーボン触媒(サンプルCおよびD)は、パラジウム担持カーボン触媒と比較して、酸素還元電位が低く、酸素還元能に劣っている。
【0056】
合金化度の低いパラジウム−金合金担持カーボン触媒においては、酸素還元能の低い金粒子が合金化せずにパラジウム粒子の近傍に存在することが考えられ、パラジウムによる酸素還元反応を阻害している可能性が示唆される。一方、合金化度の高いパラジウム−金合金担持カーボン触媒においては、合金化によりパラジウムの電子状態が変化したものと考えられ、その結果として、パラジウム単独の場合よりも優れた酸素還元能が発揮されたものと考えられる。
【0057】
(4)脂肪族ニトリル化合物の選択水添反応
表7に示す反応条件下、吉草酸ニトリルの水添反応を実施した。
【0058】
【表7】

【0059】
吉草酸ニトリル(3.4 g)をモデル基質として用いた。反応容器に基質と溶媒50 mlを投入し懸濁させた。次に、基質に対して触媒中の金属量が0.44 mol%となる量の触媒を投入し、水素雰囲気下(0.15 MPa=1.48 atm)、50℃で撹拌した。3時間後、得られた反応液を純水とヘキサンで分液・抽出した(酢酸を溶媒としている場合には、予め苛性ソーダ溶液で中和した後、分液・抽出を行った)。最後に、上層(ヘキサン層)に内部標準物質であるニトロベンゼンを適当量添加し、サンプリングした。サンプリング試料をガスクロマトグラフィー(GC)にて分析した。なお、吉草酸ニトリルの水添反応は下記式のとおりに進行し、式中に示すアミン1〜3が生成する。
【0060】
【化2】

【0061】
表8に、用いた触媒および溶媒の組み合わせならびに転化率および選択性の測定結果を示す。ここで、転化率は消費された基質と反応前の基質との重量比であり、選択性は得られたアミン1〜3のモル比である。
【0062】
【表8】

(注)MeOH:メタノール、THF:テトラヒドロフラン、AcOH:酢酸
【0063】
まず始めに、10重量%Pd/カーボンを触媒とし、MeOH、THF、及びAcOHを反応溶媒として水添反応を実施した。その結果、MeOH、THF中では原料が残存し、かつ目的とする第一級アミン類は全く生成していないことが判明した(実験1および2)。一方、AcOH中では、転化率・選択性共に劇的な向上が認められた(実験3)。これは先に説明したとおり、合成中間体であるイミンへの第一級アミンの付加が抑制された効果と考えられる。
【0064】
次に、AcOH溶媒中、30重量%Pd/カーボンを用いて水添反応を実施したところ、実験3と同等の活性であった(実験4)。一方、30重量%Au/カーボンではニトリルの水素化は全く進行しなかった(実験5)。このことから、金はシアノ基に対する還元活性を全く有していないことが判明した。
【0065】
次に、合金化度が96.53%という高い値である25重量%Pd-5.2重量%Au/カーボン(上記サンプルA)を用いて測定したところ、第一級アミンの選択性が72%まで向上した(実験7)。本合金による効果を確認すべく、合金化度が11.78%という低い値である25重量%Pd-5.2重量%Au/カーボン(上記サンプルD)を用いて同様に測定したところ、選択性は29%と大きく低下することが判明した(実験8)。これは合金となっていない不活性な金粒子がパラジウムの活性点を阻害しているためと考えられる。さらに、30重量%Pd/カーボンと30%Au/カーボンを触媒重量に対してPd25重量%、Au5.2重量%という担持比率で混合し、同様に測定したところ、合金化度の低い25重量%Pd-5.2重量%Au/カーボンと同等の成績であった(実験6および8)。これらの知見から、ただパラジウムと金が混合しているだけでは活性が低下してしまうが、パラジウムと金が合金化することでパラジウムの電子状態が変化した結果、第一級アミン合成の選択性が向上したと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性カーボンと、該カーボンに担持されたパラジウム−金合金とを有してなり、該合金の合金化度が50〜100%である還元用触媒。
【請求項2】
酸素還元用触媒である請求項1に係る触媒。
【請求項3】
固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極触媒である請求項2に係る触媒。
【請求項4】
水素化用触媒である請求項1に係る触媒。
【請求項5】
前記水素化が脂肪族ニトリル化合物に水素を付加して第一級アミンに転換する反応である請求項4に係る触媒。
【請求項6】
前記合金の量が該触媒重量に対して10〜40重量%である請求項1〜5のいずれか1項に係る触媒。
【請求項7】
請求項3に係る触媒を用いた固体高分子電解質型燃料電池用カソード電極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−91109(P2012−91109A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240341(P2010−240341)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000228198)エヌ・イーケムキャット株式会社 (87)
【Fターム(参考)】