説明

パラジウム分離剤、並びにその製造方法及び用途

【課題】低濃度から高濃度のパラジウムイオンを含有する溶液から短時間で、且つ、高選択率でパラジウムイオンが分離できるパラジウム分離剤、及びパラジウムの分離方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される官能基が担体に結合しているパラジウム分離剤を用いる。


(1)(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。Zはアミド結合を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の金属イオンを含有する溶液からパラジウムイオンを選択的に吸着し、パラジウムの分離回収を可能にするパラジウム分離剤、その製造方法、及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用触媒、自動車排ガス浄化触媒及び多くの電化製品には、パラジウム、白金、ロジウム等の貴金属が用いられている。これらの貴金属は高価であり、資源としても有用であることから、従来から使用後に回収して再利用する、すなわちリサイクルすることが行われている。最近では、資源保全の要求が高まり、貴金属のリサイクルの重要性が一層増加している。
【0003】
貴金属を回収するために、沈殿分離法、イオン交換法、電解析出法、溶媒抽出法、吸着法等の方法が開発されており、これらのうち溶媒抽出法が経済性及び操作性の点から広く採用されている。
【0004】
溶媒抽出法は、パラジウムイオンが溶解した水相とパラジウムイオン抽出剤が溶解した有機相を液−液接触させることでパラジウムイオンを有機相側に抽出する抽出工程と、有機相側に抽出されたパラジウムイオンと逆抽出剤が溶解した水相とを接触させることでパラジウムイオンを水相側に逆抽出する逆抽出工程からなる(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0005】
しかしながら、当該溶媒抽出法では、多量の有機溶媒を使用することから、安全性や環境負荷の面で課題を有する。また、当該抽出法の抽出剤として一般的に用いられる、ジオクチルスルフィド、ジヘキシルスルフィド等のジスルフィド化合物は酸化されやすい為、繰り返しの使用には課題を有する。
【0006】
この様な課題を解決する方法として、S近傍にアミド基を導入してジアルキルスルフィドの構造を改良し、ジスルフィド化合物の酸化を防止した、繰り返し使用を可能とするパラジウム分離剤が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、このパラジウム分離剤でも、高濃度パラジウムイオン含有溶液からのパラジウム分離の選択率が不十分であり、低濃度から高濃度の範囲のパラジウムイオン溶液から短時間で、且つ、高選択率でパラジウムが分離できる分離剤、及びパラジウムの分離方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−279264号公報
【特許文献2】特開2010−59533公報
【特許文献3】国際公開第2005−083131号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであって、低濃度から高濃度の範囲のパラジウム溶液から短時間で、且つ、高選択率でパラジウムが分離できるパラジウム分離剤、及びパラジウムの分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本発明で示す新規のパラジウム分離剤、特に、パラジウム分離剤中のS元素とN元素のS/N(元素比)が高いパラジウム分離剤が、従来公知のパラジウム分離剤に比べて、高濃度パラジウム溶液から短時間で、且つ、高選択率でパラジウムを分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の要旨を有するものである。
[1]一般式(1)
【0012】
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。Zはアミド結合を表す。)
で示される官能基が担体に結合しているパラジウム分離剤。
[2]一般式(1)で示される官能基が、一般式(2)
【0013】
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、n=1〜4の整数を表す。)
で示される官能基である上記[1]に記載のパラジウム分離剤。
[3]一般式(1)又は(2)で示される官能基が、メチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を介して担体に結合している上記[1]又は[2]に記載のパラジウム分離剤。
[4]一般式(1)又は(2)で示される官能基が、n−プロピレン基を介して担体に結合している上記[3]に記載のパラジウム分離剤。
[5]一般式(1)又は(2)におけるRが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、フェニル基、又はベンジル基である上記[1]乃至[4]のいずれかに記載のパラジウム分離剤。
[6]一般式(1)又は(2)において、nが1の整数である上記[1]乃至[5]のいずれかに記載のパラジウム分離剤。
[7]担体が無機担体である上記[1]乃至[6]のいずれかに記載のパラジウム分離剤。
[8]無機担体がシリカゲルである上記[7]に記載のパラジウム分離剤。
[9]パラジウム分離剤に含まれるS元素とN元素の元素比(S/N)が0.94〜1.00であり、且つ、担体の平均細孔径が2μm以上である上記[1]乃至[8]のいずれかに記載のパラジウム分離剤。
[10]一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物と、アミノ基を有する担体とを反応させて一般式(1)で示される官能基が担体に結合しているパラジウム分離剤を得ることを特徴とするパラジウム分離剤の製造方法。
【0014】
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。Zはアミド結合を表す。)
【0015】
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
[11]アミノ基を有する担体が、一般式(4)で示されるアミノ基を有するシランカップリング剤と担体とを反応させて得られたものであることを特徴とする上記[10]に記載のパラジウム分離剤の製造方法。
【0016】
【化5】

(式中、Xは、各々独立して、メチル基、エチル基、メトキシ基、又はエトキシ基を表し、そのうち少なくとも1つ以上がメトキシ基又はエトキシ基を表す。Yは炭素数が1〜12であり、窒素数が1〜2からなるアミノアルキル基を表す。)
[12]上記[1]乃至[9]のいずれかに記載のパラジウム分離剤と、パラジウムイオンを含有する溶液とを接触させるパラジウムイオンの吸着方法。
[13]上記[12]に記載のパラジウムイオンの吸着方法により得られる、パラジウムイオンを吸着したパラジウム分離剤と、脱着剤とを接触させるパラジウムイオンの脱離方法。
[14]前記脱着剤が、アンモニア、チオ尿素、又はメチオニンである上記[13]に記載のパラジウムイオンの脱離方法。
[15]上記[1]乃至[9]のいずれかに記載のパラジウム分離剤を充填してなるクロマトグラフィーカラム。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、パラジウムイオン選択性が高く、高塩酸濃度条件においても高いパラジウムイオン吸着量を示すパラジウム分離剤を提供することができる。
【0018】
また、本発明のパラジウム分離剤は、高濃度の白金イオンが共存する溶液から高選択的にパラジウムイオンを吸着分離することが可能であり、繰返し利用が可能で、且つ、有機溶媒を必須としない。その結果、パラジウムイオンの分離回収が、環境負荷を掛けることなく、経済的に可能となる。
【0019】
さらに、本発明は、高濃度パラジウム溶液から短時間で、且つ、高選択率でパラジウムを分離することが可能であり、従来のパラジウム分離剤に比べてパラジウムイオンを効率良く分離回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1におけるパラジウム分離剤Aの赤外分光分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
本発明におけるパラジウム分離剤は、一般式(1)で示される官能基が担体に結合していることを特徴とする。
【0023】
【化6】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。Zは、−CONH−で表わされるアミド結合を表す。)
また、一般式(1)で示される官能基が、一般式(2)で示されるパラジウム分離剤である。
【0024】
【化7】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
さらには、一般式(1)又は(2)において、nが1の整数であることが好ましい。
【0025】
一般式(1)又は(2)で表わされる官能基は、メチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を介して担体に結合していることが好ましい。
【0026】
上記の炭素数3〜8の直鎖若しくは分岐状のアルキレン基としては特に限定されないが、例えば、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等が挙げられる。これらは直鎖状であっても分枝状であっても良い。アミド基の結合位置は、アルキレン基の炭素上であれば特に限定されない。
【0027】
炭素数3〜8の環状のアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロヘキセニレン基、シクロヘキサジエニレン基、シクロオクテニレン基、シクロオクタジエニレン基等が挙げられる。該環状のアルキレン基においても、アミド基の結合位置は、シクロアルキレン基の炭素上であれば特に限定されない。
【0028】
また、炭素数6〜14のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、トリレン基、キシリレン基、クメニレン基、ベンジレン基、フェネチレン基、スチリレン基、シンナミレン基、ビフェニリレン基、フェナントリレン基等が挙げられる。該アリーレン基においても、アミド基の結合位置は、アリーレン基の炭素上であれば特に限定されない。
【0029】
これらのうち、特にn−プロピレン基が好ましい。
【0030】
一般式(1)及び(2)で示される官能基において、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表す。
【0031】
炭素数1〜18の鎖式炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基(セチル基)、ヘプタデシル基、オクタデシル基(ステアリル基)、オレイル基、エライジル基、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、1−ヘプチニル基、1−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。
【0032】
炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロオクテニル基、シクロオクタジエニル基等が挙げられる。
【0033】
炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としては、特に限定されないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ビフェニリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0034】
Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、フェニル基、ベンジル基が好ましく、中でも、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、フェニル基、ベンジル基、がより好ましく、特にエチル基、プロピル基が好ましい。
【0035】
一般式(1)及び(2)で示される官能基において、nは1〜4の整数を表し、好ましくは1である。
【0036】
一般式(1)で示される官能基において、Zはアミド結合を表す。ここで、アミド結合、−CO−NH−で表わされる結合を示し、結合の向きに限定はないが、好ましくは一般式(2)で表される向きである。
【0037】
担体としては、溶媒に不溶性のものであれば特に制限なく用いることができる。使用できる担体としては、特に限定されないが、例えば、シリカゲル、アルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄、酸化銅、ガラス、珪砂、タルク、マイカ、クレイ、ウォラスナイト等の無機担体;スチレンポリマー、スチレン−ジビニルベンゼン架橋体等のポリスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン;ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等のアクリル系ポリマー;ポリリジン粒子、ポリビニルアミン粒子、ポリメチルグルタミン酸、ポリビニルアルコール等の有機担体;等が挙げられる。これらの担体のうち、耐薬品性や価格の点で、無機担体が好ましく、汎用性が高い点でシリカゲルが特に好ましい。
【0038】
担体の形状としては、球状(例えば、球状粒子等)、粒状、繊維状、顆粒状、モノリスカラム、中空糸、膜状(例えば、平膜)等の、一般的に分離基材として使用される形状が利用可能である。特に限定するものではないが、これらのうち、球状、膜状、粒状、顆粒状又は繊維状のものが好ましい。球状、粒状又は顆粒状担体は、カラム法やバッチ法で使用する際、その使用体積を任意に設定できることから、特に好ましく用いられる。
【0039】
球状、粒状又は顆粒状担体の粒子サイズとしては、特に限定するものではないが、例えば、平均粒径1μm〜10mmの範囲のものを用いることができ、このうち、操作性と吸着容量の点で2μm〜1mmの範囲が好ましい。
【0040】
パラジウム分離剤に含まれるS元素とN元素の元素比(S/N)は、例えば、元素分析を行うことにより算出することができる。元素比(S/N)は特に限定するものではないが、0.94〜1.00のものが好ましい。0.94よりも値が低い場合、パラジウムイオン選択率が低くなる場合がある。
【0041】
担体の平均細孔径は、例えば、BET法で算出することができる。平均細孔径は特に限定するものではないが、2μm以上のものが好ましい。2μmよりも小さい場合、パラジウムイオン吸着量が低くなる場合がある。
【0042】
上記一般式(1)の官能基がアミド結合によって担体に結合しているパラジウム分離剤、又は一般式(2)で示される官能基が担体に結合しているパラジウム分離剤の製造法としては、特に限定するものではないが、例えば、以下の方法を挙げることができる。すなわち、後述するアミノ基を有する担体(以下、「アミノ化担体」という)と、下記一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物とを反応させる(以下、「固定化反応」という)ことによって製造することができる。
【0043】
【化8】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
ここで用いる一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物としては、アンモニウム塩、アルカリ金属塩等のスルフィド含有カルボン酸塩、カルボン酸メチルエステルやカルボン酸エチルエステル等のエステル化物、又は2分子のスルフィド含有カルボン酸化合物が脱水縮合した酸無水物であっても良い。
【0044】
アミノ化担体としては、特に限定されないが、市販品を用いることもできるし、前述した担体を一般公知の方法によってアミノ化したものを用いることもできる。
【0045】
アミノ化担体の具体例として、特に限定されないが、例えば、アミノ化シリカゲル、アミノ化アルミナ、アミノ化ジルコニア、アミノ化チタニア、アミノ化マグネシア、アミノ化ガラスなどのアミノ化無機担体、アミノ化スチレン−ジビニルベンゼン架橋体、ポリアリルアミン粒子、ポリリジン粒子、ポリビニルアミン粒子、アミノ化ポリメチルグルタミン酸、アミノ化ポリビニルアルコール等を挙げることができる。
【0046】
アミノ化無機担体等は、特に限定するものではないが、例えば、前述した無機担体とアミノ基を有するシランカップリング剤とを混合し、反応させること(以下、「シランカップリング反応」という)等によって製造することができる。
【0047】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、特に限定するものではないが、例えば、一般式(4)で示されるシランカップリング剤が挙げられる。
【0048】
【化9】

(式中、Xは各々独立して、メチル基、エチル基、メトキシ基、又はエトキシ基を表し、そのうち少なくとも1つ以上がメトキシ基又はエトキシ基を表す。Yは炭素数が1〜12であり、窒素数が1〜2からなるアミノアルキル基を表す。)
一般式(4)において、Yで表される、炭素数が1〜12であり、窒素数が1〜2からなるアミノアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、6−アミノヘキシル基、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピル基、N−6−(アミノヘキシル)−3−アミノプロピル基等が挙げられる。
【0049】
シランカップリング反応におけるアミノ基を有するシランカップリング剤の使用量としては、特に限定されないが、例えば、担体1kgに対し、0.1〜10モルの範囲から選ばれる。このうち、アミノ基の導入効率及び経済性の点で、0.5〜5モルの範囲が好ましい。
【0050】
上記のシランカップリング反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害するものでなければ特に制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒が好ましく用いられる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、アミノ基を有するシランカップリング剤に対し、通常、2〜40重量部、好ましくは4〜15重量部である。
【0051】
シランカップリング反応における反応温度は、0〜200℃の範囲が好ましく、30〜110℃がより好ましい。この温度範囲であればシランカップリング反応が十分に進行する。
【0052】
シランカップリング反応における反応時間は、アミノ基を有するシランカップリング剤の濃度、及び反応温度等によって変化するが、通常、数分〜24時間の範囲で行われる。
【0053】
シランカップリング反応によって得られたアミノ化担体は、ろ過、洗浄操作によって、反応液中の他の成分から容易に分離することができる。
【0054】
固定化反応における、一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物の使用量は、アミノ化担体の窒素含有量に対し1〜10倍モルとすることが好ましく、1.2〜3倍モルがより好ましい。当該スルフィド含有カルボン酸化合物の使用量が、アミノ化担体の窒素含有量に対し1倍モル以上であれば、固定化反応が十分に進行し、10倍モル以下であれば、経済的に好ましい。
【0055】
固定化反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒としては、反応を阻害するものでなければ特に制限はないが、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が好ましく用いられる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物に対し、通常、2〜40重量部、好ましくは3〜15重量部である。
【0056】
固定化反応においては、反応液に反応促進剤を添加することもできる。反応促進剤としては、特に限定されないが、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、ジフェニルリン酸アジド、ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリスジメチルアミノホスホニウムクロリド、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド等の脱水縮合剤、又は3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸、4−トリフルオロメチルフェニルボロン酸、3,4,5−トリフルオロフェニルボロン酸、3−ニトロフェニルボロン酸等のボロン酸誘導体が挙げられる。これらの脱水縮合剤又はボロン酸誘導体は、市販の試薬をそのまま使用することができる。
【0057】
脱水縮合剤の使用量としては、一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物1モルに対し、1〜10倍モルの範囲から選ばれ、反応促進効果と経済性の点から1〜3倍モルの範囲が好ましい。脱水縮合剤を用いる場合は、反応性を向上させる目的で、さらに1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシスクシンイミド等の添加剤を添加しても良い。
【0058】
これら添加剤の使用量としては、一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物1モルに対し、1〜10倍モルの範囲から選ばれ、反応促進効果と経済性の点から1〜3倍モルの範囲が好ましい。
【0059】
また、ボロン酸誘導体の使用量は、一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物1モルに対し、0.0001〜1倍モルの範囲から選ばれ、反応促進効果と経済性の点から0.001〜0.5倍モルの範囲が好ましく、0.005〜0.1倍モルの範囲がさらに好ましい。
【0060】
固定化反応における反応温度は、0〜200℃の範囲が好ましく、100〜180℃の範囲がより好ましい。
【0061】
固定化反応における反応時間は、一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物及び反応促進剤の濃度、並びに反応温度等によって変化するが、通常、数分〜24時間の範囲である。
【0062】
上記の固定化反応によって得られたパラジウム分離剤は、ろ過、洗浄、乾燥等の操作によって、反応液中の他の成分から、容易に分離することができる。
【0063】
本発明のパラジウム分離剤は、上記した製造方法以外の方法でも製造することができる。
【0064】
上記した方法以外の製造方法としては、例えば、2−アミノエチルメチルスルフィド、2−アミノエチルエチルスルフィド、3−アミノプロピルメチルスルフィド等のような、一般式(5)で示されるスルフィド含有アミン化合物と、カルボキシル基を有する担体を反応させる製造方法が挙げられる。この際、反応条件としては、一般的な反応条件を用いることができるが、上述した反応条件と類似の反応条件を採用することが好ましい。
【0065】
【化10】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
一般式(5)で示されるスルフィド含有アミン化合物は、塩酸塩や臭素酸塩などの塩類として用いても良い。
【0066】
カルボキシル基を有する担体としては、一般公知のカルボキシル基を有する担体を用いても良い。また、公知の方法を用いて、公知の担体表面にカルボキシル基を導入した担体を用いることもできる。このとき、カルボキシル基はカルボキシメチル基やカルボキシエチル基のようにエステル化されていても良い。
【0067】
一般的に公知のカルボキシル基を有する担体としては、特に限定するものではないが、例えば、カルボキシル基を有するシリカゲル(例えば、SCカルボキシル基修飾シリカマイクロスフィア、ニップンテクノクラスタ社製)やカルボキシル基を有するイオン交換樹脂などを挙げることができる。
【0068】
また、上記以外の製造方法として、特に限定するものではないが、例えば、一般式(1)又は(2)で示される置換基を有するスルフィド含有カルボン酸化合物を、公知の方法で、担体に化学結合させる方法を用いることもできる。例えば、限定するものではないが、一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物と一般式(4)で示されるアミノ基を有するシランカップリング剤の反応物を無機担体と反応させる方法が挙げられる。
【0069】
次いで、本発明のパラジウムイオンの吸着方法及び脱着方法について説明する。
【0070】
本発明のパラジウム分離剤によるパラジウムイオンの吸着は、パラジウム分離剤とパラジウムイオンを含有する溶液とを接触させることで行われる。
【0071】
パラジウムイオンを含有する溶液と本発明のパラジウム分離剤とを接触させる方法としては、特に限定するものではないが、例えば、パラジウムイオンを含有する溶液とパラジウム分離剤とを混合したスラリーを調製し、これを攪拌する方法(流動床)が挙げられる。また、パラジウム分離剤をカラム等に充填し、パラジウムイオンを含有する溶液を流通して接触させる方法(固定床)が挙げられる。
【0072】
上記したパラジウムイオンの吸着方法において、本発明のパラジウム分離剤と接触させるパラジウムイオンを含有する溶液としては、特に限定されないが、例えば、自動車排ガス処理触媒や宝飾品を溶解した溶液や、白金族金属の湿式精錬工程における酸浸出後の溶液が挙げられる。
【0073】
上記したパラジウムイオンを含む溶液は、パラジウムイオンの他に、白金イオン、ロジウムイオン等の白金族金属イオン、銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン等の卑金属イオンを含有していても良い。この溶液を本発明のパラジウム分離剤と接触させると、パラジウムイオンを選択的に吸着することが可能となる。
【0074】
パラジウムイオンを含有する溶液としては、特に限定するものではないが、環境負荷の点で、水溶液が好ましく用いられる。
【0075】
パラジウムイオンを含む溶液の液性としては、特に限定されないが、酸性であることが好ましい。パラジウムイオンを含む溶液を酸性にするために用いられる酸としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。このうち、塩酸がパラジウムイオンの酸浸出液として用いられるため、特に好ましい。
【0076】
パラジウムイオンを含む溶液における酸濃度としては、特に限定するものではないが、0.1〜10mol/L(リットル)の範囲が好ましく、0.1〜5mol/Lの範囲がより好ましい。この範囲の酸濃度であれば、パラジウム分離剤の吸着効率を損なうことなくパラジウムイオンの吸着を行うことができる。
【0077】
パラジウムイオンの吸着方法において、本発明のパラジウム分離剤の使用量は、上記パラジウムイオンを含む溶液中のパラジウムイオン1モルに対し、パラジウム分離剤中の硫黄量が0.1〜100倍モルになる量とすることが好ましく、0.5〜10倍モルになる量とすることがより好ましい。
【0078】
パラジウムイオンを吸着した本発明のパラジウム分離剤からパラジウムイオンを脱離する方法としては、上記パラジウムイオンを吸着したパラジウム分離剤と脱着剤とを接触させることで行われる。
【0079】
パラジウムイオンを吸着したパラジウム分離剤と脱着剤とを接触させる方法としては、特に限定するものではないが、例えば、パラジウムイオンの吸着方法と同じ条件下での接触を挙げることができる。
【0080】
パラジウムイオンの脱離方法において用いられる脱着剤としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア、チオ尿素、メチオニン、エチレンジアミン等が挙げられる。このうち、脱離効率及び脱離速度の点ではチオ尿素又はメチオニンが好ましく、経済性の点ではアンモニアが好ましい。これらの脱着剤は、担体の物性によって適切なものを選択することが好ましい。
【0081】
脱着剤は、液体の場合は市販品をそのまま用いることもできるし、任意の溶媒に溶解した溶液として用いることもできる。脱着剤溶液として用いる場合、特に限定するものではないが、例えば、有機溶液、有機−水混合溶液、水溶液又は酸性水溶液等として用いることができる。このうち、環境負荷の点で水溶液又は酸性水溶液として用いることが好ましい。また、酸性水溶液とする場合は、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸を用いることができる。酸性水溶液の酸濃度としては、0.1〜10mol/Lの範囲が好ましく、0.1〜3mol/Lの範囲がより好ましい。
【0082】
脱着剤溶液の脱着剤濃度としては、特に限定されないが、例えば、1〜99重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲で選ばれる。
【0083】
脱着剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、本発明で使用したパラジウム分離剤中の硫黄量1モルに対して、2〜10000倍モルの範囲であり、5〜1000倍モルの範囲が、脱離効率及び経済性の点で好ましい。
【0084】
上記の脱離方法を行うことによって、脱着したパラジウムイオンを含む脱着液(以下、パラジウムイオン脱着液という)が得られる。
【0085】
パラジウムイオン脱着液中のパラジウムイオンは、還元処理やキレート剤の添加などの従来公知の方法により、金属パラジウム又はパラジウム錯体として沈殿させることができ、さらに、濾過などの方法により、回収することができる。
【0086】
パラジウムイオン脱着液の還元処理方法としては、目的や設備に応じて種々の方法を用いることができる。例えば、電気分解による電解還元法や水素化硼素化合物等の還元剤を添加する化学的還元方法が挙げられる。このうち、操作の容易性及びコストの面から電気分解による電解還元法が好ましい。
【0087】
パラジウムイオン脱着液の還元処理は、酸性条件、中性条件、及び塩基性条件のいずれの条件でも実施可能であるが、パラジウムイオンの還元効率及び設備の腐食性を抑える点から、pH6以上8以下の中性条件が好ましい。パラジウムイオン脱着液の中和剤としては、特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重曹、消石灰などの無機塩基化合物を好ましく用いることができる。中でも水酸化ナトリウムが中和剤としてより好ましく用いられる。
【0088】
パラジウムイオン脱着液の還元処理の操作は、通常、常圧、大気雰囲気下で実施されるが、加圧又は減圧条件、不活性ガス雰囲気下で実施することもできる。該還元処理の操作は、通常4〜100℃の温度範囲で実施されるが、10〜50℃の温度範囲がより好ましい。
【0089】
金属パラジウム又はパラジウム錯体の沈殿物のろ過方法としては、例えば、メンブレンフィルター、ろ紙、ろ布、グラスフィルター等を用いる方法が挙げられるが、操作の容易性から、メンブレンフィルター又はろ紙によるろ過が好ましい。
【0090】
ろ過により得られた金属パラジウム又はパラジウム錯体の沈殿物は、パラジウムの融点以上に加熱して溶融させることで、99.9%以上の高純度の金属パラジウムとして分離することができる。
【0091】
以上の操作によって、本発明のパラジウム分離剤を用いて、パラジウムの分離回収が行われる。
【0092】
本発明のパラジウム分離剤は、操作性、輸送性、及び繰り返し利用の点から、カラムなどに充填して用いることが好ましい。
【0093】
本発明のパラジウム分離剤を充填するカラムとしては、耐酸性、耐塩基性、及び耐薬品性に優れる素材によるものが好ましく、例えば、ガラス製やアクリル樹脂製が好ましく用いられる。当該カラムとしては、市販品を用いることができる。
【0094】
本発明のパラジウム分離剤は、既存又は市販の吸着分離装置と組み合わせて使用することもでき、さらには、任意に送液装置などと組み合わせて使用することもできる。
【実施例】
【0095】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定して解釈されるものではない。
(分析方法)
1.パラジウム分離剤の赤外分光分析は、フーリエ変換赤外分光光度計(System 2000、Perkin Elmaer社製)で行った。
【0096】
2.水溶液中のパラジウムイオン濃度は、ICP発光分光分析装置(OPTIMA3300DV、Perkin Elmaer社製)で測定した。
【0097】
3.窒素含有量は、全自動元素分析装置(2400II、パーキンエルマージャパン社製)で測定した。
【0098】
4.硫黄含有量は、イオンクロマトグラフィー法で測定した。イオンクロマトグラフィー測定は、以下の前処理、装置、及び測定条件で行った。
【0099】
前処理: 試料を自動試料燃焼装置(AQF−100、三菱化学アナリティック社製)に導入し、燃焼生成したSO2−を吸着液(内部標準物質PO)に捕集した。
【0100】
測定装置: 東ソー社製 IC−2001
分離カラム: TSKgel SuperIC−AP(4.6mmΦ×150mm)
検出器: 電気伝導検出器
溶離液: 2.7mmol/L NaHCO 及び 1.8mmol/L NaCO
5.パラジウム分離剤の平均細孔径は、日本BEL社製の測定装置(型式:BELSORP−mini)を用い、BET法に則り、窒素吸着法で測定した。
【0101】
6.パラジウム分離剤の平均粒子径は、日機装社製のマイクロトラックMT3300を用い、レーザー回折法で測定した。
【0102】
実施例1 パラジウム分離剤Aの調製
ディーン・スターク装置付き50mLナス型フラスコに、表面をアミノプロピル基で修飾されたシリカゲル(関東化学社製、商品名:シリカゲル60(球状)NH2) 2.00g(窒素含有量4.28mmol)、(エチルチオ)酢酸 1.03g(8.56mmol)、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸 54mg(0.21mmol)、及びキシレン 20gを量り取り、18時間加熱還流した。室温まで冷却した後、反応混合物をろ過し、ろ取した固体をメタノールで洗浄してパラジウム分離剤を得た(パラジウム分離剤Aとする)。
【0103】
得られたパラジウム分離剤の赤外分光分析を行った結果、アミド結合に由来する1653cm−1の吸収スペクトルが確認された。得られたパラジウム分離剤Aの1g中の硫黄含有量は1.6mmolであった。
【0104】
実施例2 パラジウム分離剤Bの調製
実施例1において、(エチルチオ)酢酸 1.03gの代わりにチオジグリコール酸 1.29g(8.56mmol)を用いる以外は、実施例1と同様にしてパラジウム分離剤を得た(パラジウム分離剤Bとする)。
【0105】
赤外分光分析を行った結果、1653cm−1の吸収スペクトルが確認された。得られたパラジウム分離剤Bの1g中の硫黄含有量は1.4mmolであった。
【0106】
実施例3 パラジウム分離剤Cの調製
ディーン・スターク装置付き50mLナス型フラスコに、表面を3−(エチレンジアミノ)プロピル基で修飾したシリカゲル(Aldrich社製、商品名:3−(エチレンジアミノ)プロピル官能基化シリカゲル) 1.00g(窒素含有量3.02mmol)、(エチルチオ)酢酸 0.73g(6.04mmol)、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸 39mg(0.15mmol)、及びキシレン 20gを量り取り、18時間加熱還流した。室温まで冷却した後、反応混合物をろ過し、ろ取した固体をメタノールで洗浄して、パラジウム分離剤を得た(パラジウム分離剤Cとする)。
【0107】
赤外分光分析を行った結果、1653cm−1の吸収スペクトルが確認された。得られたパラジウム分離剤Cの1g中の硫黄含有量は1.3mmolであった。
【0108】
実施例4
パラジウム分離剤A 0.2gを水に分散させた後、ガラス製のカラム(内径5mm、長さ100mm)に充填した。パラジウムイオンと白金イオンを各々400mg/L含む1mol/L塩酸水溶液を、カラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して、金属イオンの吸着を行った。その後、水20mLを通液(流速36mL/Hr)してカラムを洗浄した後、5重量%の濃度のチオ尿素を含む1mol/L塩酸水溶液を、カラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して、パラジウム分離剤Aに吸着された金属イオンの脱着を行った。得られたカラム流出液(以下、回収液と称する)中のパラジウムイオン濃度は395mg/L、白金イオン濃度は6mg/Lであり、パラジウムイオンが高選択的に分離回収された。なお、回収液中のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオン吸着量を算出したところ、パラジウム分離剤Aの1g当たり98.7mgであった。
【0109】
実施例5
実施例4において、パラジウム分離剤A 0.2gの代わりにパラジウム分離剤B 0.2gを用いる以外は、実施例4と同様にして、パラジウムイオンの分離回収を行った。その結果、回収液中のパラジウムイオン濃度は356mg/L、白金イオン濃度は2mg/Lであり、パラジウムイオンが高選択的に分離回収された。なお、上記回収液中のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオン吸着量を算出したところ、パラジウム分離剤Bの1g当たり88.9mgであった。
【0110】
実施例6
実施例4において、パラジウム分離剤A 0.2gの代わりにパラジウム分離剤C 0.2gを用いる以外は、実施例4と同様にして、パラジウムイオンの分離回収を行った。その結果、回収液中のパラジウムイオン濃度は314mg/L、白金イオン濃度は18mg/Lであり、パラジウムイオンが高選択的に分離回収された。なお、上記回収液中のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオン吸着量を算出したところ、パラジウム分離剤Cの1g当たり78.5mgであった。
【0111】
実施例7
パラジウム分離剤Aの0.1gを水に分散させた後、ガラス製のカラム(内径5mm、長さ100mm)に充填した。金属標準液及び塩酸水溶液を用いて調製した、表1に示す濃度の各種金属イオンを含有する1mol/L塩酸水溶液(以下、被検液という)を、カラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して金属イオンの吸着を行った。次に、水20mLを通液(流速36mL/Hr)してカラムを洗浄した後、5重量%の濃度のチオ尿素を含む1mol/L塩酸水溶液を、カラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して金属イオンの脱着を行った。得られた回収液中の金属イオン濃度を測定した結果を表1に示す。以上の操作により、パラジウムイオンが高選択的に分離回収された。なお、上記回収液中のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオン吸着量を算出したところ、パラジウム分離剤Aの1g当たり94.5mgであった。
【0112】
【表1】

実施例8
パラジウム分離剤Aの0.1gを水に分散させた後、ガラス製のカラム(内径5mm、長さ100mm)に充填した。パラジウムイオンと白金イオンを各々200mg/L含む1mol/L塩酸水溶液を、カラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して金属イオンの吸着を行った。次いで、水 20mLを通液(流速36mL/Hr)してカラムを洗浄した後、5重量%の濃度のチオ尿素を含む1mol/L塩酸水溶液を、カラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して金属イオンの脱着を行った。得られた回収液中のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオン吸着量を算出した。その後、水 20mLを通液(流速36mL/Hr)してカラムを洗浄した。以上のパラジウムイオンに対する分離回収操作を1サイクルとして、連続5サイクルのパラジウムイオンの分離回収を行い、パラジウム分離剤Aの耐久性を評価した。その結果、表2に示すように、各サイクルにおいて、毎回パラジウムイオンが高選択的に分離回収された。また、連続サイクルにおいて、パラジウムイオン吸着量の低下がなく、パラジウム分離剤Aは繰返し利用が可能であった。
【0113】
【表2】

実施例9
実施例4において、吸着操作時の被検液塩酸濃度を5mol/Lとする以外は、実施例4と同様にして、パラジウムイオンの分離回収を行った。その結果、回収液中のパラジウムイオン濃度は396mg/L、白金イオン濃度は3mg/Lであり、パラジウムイオンが高選択的に分離回収された。なお、上記回収液中のパラジウムイオン濃度からパラジウムイオン吸着量を算出したところ、パラジウム分離剤Aの1g当たり99.0mgであった。
【0114】
実施例10
(1)実施例11〜20に使用したパラジウム分離剤の調製
官能基の担体への結合を含めて摸式的に示した化学式(6)のパラジウム分離剤は、以下の方法に従って調製した。また、同様にして種々のS/N(元素比)を有するパラジウム分離剤も調製した。
【0115】
【化11】

ディーン・スターク装置付き500mLナス型フラスコに、各種シリカゲル(富士シリシア化学社製、商品名:PSQ60B、PSQ100B、PSQ60AB、MB4B30−50、MB4B30−200) 100g、水 5g、及びo(オルト)−キシレン 200gを量り取り、60℃で激しく攪拌しながら、予め調製しておいた3−アミノプロピルトリメトキシシラン 35.9gとo−キシレン 35.9gの混合溶液を10分間かけて滴下した後、90℃まで昇温し、1時間攪拌した。次に110℃まで昇温し、1.5時間攪拌した。ディーン・スターク装置に溜まったメタノール、o−キシレン、及び水の混合溶液は系外に廃棄した。
【0116】
次に、3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニルボロン酸 0.005g、及び所定量の(エチルチオ)酢酸を量り取り、激しく攪拌しながら、2〜24時間加熱還流した。室温まで冷却した後、反応混合物をろ過し、ろ取した固体をメタノールで洗浄してパラジウム分離剤を得た。
(2)実施例21〜27に使用したパラジウム分離剤の調製
官能基の担体への結合を含めて摸式的に示した化学式(7)のパラジウム分離剤は、以下の方法に従って調製した。また、同様にして種々の置換基を有するパラジウム分離剤も調製した。
【0117】
【化12】

実施例11〜20において使用した(エチルチオ)酢酸の代わりに、対応する種々のカルボン酸を用いる以外は、実施例11〜20と同様にしてパラジウム分離剤を得た。
【0118】
実施例11〜27
実施例10の(1)及び(2)で得られた各パラジウム分離剤のパラジウム分離性能として、パラジウムイオンの飽和吸着量及び選択吸着率についての評価を行った。
【0119】
なお、分離性能の評価に用いた吸着液A及びBは以下のとおりである。
【0120】
吸着液A;パラジウム(II)イオンが200mg/L、白金(IV)イオンが200mg/Lの1M塩酸溶液。
【0121】
吸着液B;パラジウム(II)イオンが6000mg/L、白金(IV)イオンが30000mg/Lの1M塩酸溶液。
【0122】
また、パラジウム選択率は、以下の計算式により算出した。
【0123】
Pd選択率(%)=カラム流出液中のパラジウムイオン量÷(カラム流出液中のパラジウムイオン量+カラム流出液中の白金イオン量)×100%
(1)パラジウムイオン飽和吸着量
各パラジウム分離剤 0.22gを30mLのガラス製容器に精秤し、1000mg/Lのパラジウム標準液(和光純薬社製) 20mLを加え、2時間攪拌した。得られた溶液中のパラジウムイオン濃度を測定し、各パラジウム分離剤のパラジウムイオン飽和吸着量を算出した。
(2)パラジウムイオンの選択吸着率
各パラジウム分離剤 0.2gを水に分散させた後、ガラス製のカラム(内径5mm、長さ100mm)に充填した。パラジウムイオンと白金イオンを所定濃度含む吸着液A又は吸着液Bを、カラム上部から36mL/時の流速で通液して、金属イオンの吸着を行い、カラム出口の液組成が元の吸着液の組成と同一になった時点で通液を停止した。次に、水 20mLを36mL/Hrの流速で通液してカラムを洗浄した後、5重量%の濃度のチオ尿素を含む1moL/L塩酸水溶液を、カラム上部から36mL/Hrの流速で50mL通液して、各パラジウム分離剤に吸着された金属イオンの脱着を行った。得られたカラム流出液中のパラジウムイオン濃度と白金イオン濃度から、各パラジウム分離剤へのパラジウムイオンの選択吸着率を算出した。
【0124】
表3及び表4に、実施例10の(1)及び(2)で得た各パラジウム分離剤の硫黄含有量等の諸物性値、及びパラジウム分離性能の評価結果をまとめて示す。
【0125】
【表3】

【0126】
【表4】

表3から明らかな様に、実施例11〜17は、パラジウム分離剤のS/N(元素比)が0.94以上、且つ、担体の平均細孔径が2μm以上であるパラジウム分離剤であり、パラジウムイオンや白金イオン濃度が低い吸着液Aでのパラジウム選択率が99.4%以上であり、パラジウムイオンや白金イオン濃度が高い吸着液Bにおいても、パラジウム選択率が95%以上であり、高い選択性を示した。
【0127】
一方、実施例18〜20は、パラジウム分離剤のS/N(元素比)が0.94未満、又は担体の平均細孔径が1μm未満であり、パラジウムイオンや白金イオン濃度が低い吸着液Aではほぼ良好なパラジウムイオン選択性を示すが、パラジウムイオンや白金イオン濃度が高い吸着液Bにおいては、パラジウム選択率は93%未満となり、選択性は実施例1〜17に比べ、若干低下した。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明のパラジウム分離剤は、パラジウムイオンを含む溶液から、短時間でパラジウムイオンを高い選択率で分離でき、さらに、繰り返し使用が可能であり、経済的にも環境保全上からも貴金属回収分野において広範に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される官能基が担体に結合していることを特徴とするパラジウム分離剤。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。Zは、アミド結合を表す。)
【請求項2】
一般式(1)で示される官能基が、一般式(2)で示される官能基であることを特徴とする請求項1に記載のパラジウム分離剤。
【化2】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、n=1〜4の整数を表す。)
【請求項3】
一般式(1)又は(2)で示される官能基が、メチレン基、エチレン基、炭素数3〜8の直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を介して担体に結合していることを特徴とする請求項1又は2に記載のパラジウム分離剤。
【請求項4】
一般式(1)又は(2)で示される官能基が、n−プロピレン基を介して担体に結合していることを特徴とする請求項3に記載のパラジウム分離剤。
【請求項5】
一般式(1)又は(2)におけるRが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、フェニル基、又はベンジル基である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のパラジウム分離剤。
【請求項6】
一般式(1)又は(2)において、nが1の整数であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のパラジウム分離剤。
【請求項7】
担体が無機担体であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のパラジウム分離剤。
【請求項8】
無機担体がシリカゲルであることを特徴とする請求項7に記載のパラジウム分離剤。
【請求項9】
パラジウム分離剤に含まれるS元素とN元素の元素比(S/N)が0.94〜1.00であり、且つ、担体の平均細孔径が2μm以上であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載のパラジウム分離剤。
【請求項10】
一般式(3)で示されるスルフィド含有カルボン酸化合物と、アミノ基を有する担体とを反応させて一般式(1)で示される官能基が担体に結合しているパラジウム分離剤を得ることを特徴とするパラジウム分離剤の製造方法。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。Zは、−NHCO−を表す。)
【化4】

(式中、Rは炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、炭素数6〜14の芳香族炭化水素基、カルボキシメチル基、又はカルボキシエチル基を表し、nは1〜4の整数を表す。)
【請求項11】
アミノ基を有する担体が、一般式(4)で示されるアミノ基を有するシランカップリング剤と担体とを反応させて得られたものであることを特徴とする請求項10に記載のパラジウム分離剤の製造方法。
【化5】

(式中、Xは、各々独立して、メチル基、エチル基、メトキシ基、又はエトキシ基を表し、そのうち少なくとも1つ以上がメトキシ基又はエトキシ基を表す。Yは炭素数が1〜12であり、窒素数が1〜2からなるアミノアルキル基を表す。)
【請求項12】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のパラジウム分離剤と、パラジウムイオンを含有する溶液とを接触させることを特徴とするパラジウムイオンの吸着方法。
【請求項13】
請求項12に記載のパラジウムイオンの吸着方法により得られる、パラジウムイオンを吸着したパラジウム分離剤と、脱着剤とを接触させることを特徴とするパラジウムイオンの脱離方法。
【請求項14】
前記脱着剤が、アンモニア、チオ尿素、又はメチオニンである請求項13に記載のパラジウムイオンの脱離方法。
【請求項15】
請求項1乃至9のいずれか1項に記載のパラジウム分離剤を充填してなることを特徴とするクロマトグラフィーカラム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−91849(P2013−91849A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−223413(P2012−223413)
【出願日】平成24年10月5日(2012.10.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】