説明

パラジウム化合物吸着剤およびその用途

【課題】
パラジウム化合物、還元性基を有する化合物(例えば、アミン化合物)および溶媒を含有する溶液から、還元性基を有する化合物の酸化を伴わず、安全、簡便、且つ効率的にパラジウム化合物を除去する方法を提供する。
【解決手段】
パラジウム化合物、還元性基を有する化合物(例えば、アミン化合物)および溶媒を含有する溶液と特定のゼオライトとを接触させることにより、当該溶液中のパラジウム化合物を効率よく除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元性基を有する化合物およびパラジウム化合物が溶解した溶液からパラジウム化合物を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リン系配位子とパラジウム化合物からなる触媒を用いた有機合成反応の一つとして、ブッフバルド−ハートウィッグ反応と呼ばれるC−N結合反応が知られている。当該反応は、例えば、ハロゲン化アリール化合物と1級または2級アリールアミン化合物とのカップリング反応として知られている。
【0003】
当該カップリング反応により得られる生成物は、医薬品、農薬、電子材料などの分野で特に有用である。また、当該カップリング反応においては、触媒由来のパラジウム化合物が生成物中に残留することが知られている。当該パラジウム化合物と生成物の分離は、分液操作や再沈殿操作等によって行なわれるが、当該操作では、パラジウム化合物を生成物の重量に対して100ppm未満に除去することは困難であった。
【0004】
このため、上記カップリング反応における生成物の重量に対して、パラジウム化合物含有量を100ppm未満にする方法が検討されている。例えばカップリング反応液を酸化剤で処理した後、カラムクロマトグラフィーを行う方法(例えば、特許文献1)が報告されている。しかしながら、特許文献1の方法は、過酸化水素やOXONE(過硫酸水素などからなる過硫酸水素試剤)といった酸化剤を必要とするため、還元性基を有する化合物(例えば、アミン化合物)が酸化される、設備の腐食対策が必要、暴露による作業リスクを伴う等の問題がある。また、電子材料の分野においては、微量の不純物が悪影響を与えることが知られているため、アミンオキシドのような酸化物が生成しない処理法方が求められている。
【0005】
酸化剤を用いない方法としては、活性白土やゼオライトを用いる方法(例えば、特許文献2)が報告されている。特許文献2には、反応生成物に対して15ppb以下までパラジウム量を低減できるとの記載がある。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の方法では、アリールアミン化合物とパラジウム化合物(アリールアミン化合物重量に対して160ppm)が共存する溶液からのパラジウム化合の除去率が50%未満に留まり、アリールアミン化合物重量に対して90ppm程度までしかパラジウム化合物を低減できないことが判明した。このため、更なるパラジウム化合物除去率の向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2004/108800号
【特許文献2】特開2005−324078公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、パラジウム化合物と還元性基を有する化合物(例えばアミン化合物)が溶解した溶液から、酸化剤を用いることなく、高効率でパラジウムを除去するためのパラジウム吸着剤、およびパラジウム除去方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のゼオライトと、パラジウム化合物、アリールアミン化合物および溶媒を含有する溶液とを、接触させることで、酸化剤を用いること無く、アリールアミン化合物に対するパラジウム化合物の含有量50%以上低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示す通りのパラジウム化合物吸着剤、それを用いたパラジウム化合物の除去方法、および当該方法により得られる高純度アリールアミン化合物に関する。
【0010】
[1]
シリカ/アルミナ(mol/mol)比が12〜1000のゼオライトからなるパラジウム化合物吸着剤。
【0011】
[2]
ゼオライトが、シリカ/アルミナ比(mol/mol)が20〜500のゼオライトであることを特徴とする[1]に記載のパラジウム化合物の吸着剤。
【0012】
[3]
ゼオライトがホージャサイト型ゼオライトであることを特徴とする[1]又は[2]に記載のパラジウム化合物吸着剤。
【0013】
[4]
ゼオライトがプロトン型のゼオライトであることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれかに記載のパラジウム化合物吸着剤。
【0014】
[5]
[1]乃至[4]のいずれかに記載の吸着剤と、パラジウム化合物、還元性基を有する化合物および溶媒を含有する溶液とを接触させることを特徴とするパラジウム化合物の除去方法。
【0015】
[6]
還元性基を有する化合物がアミン化合物であることを特徴とする[5]に記載のパラジウム化合物の除去方法。
【0016】
[7]
アミン化合物が、分子量または重量平均分子量が300〜1,000,000のアミン化合物であることを特徴とする[6]に記載のパラジウム化合物の除去方法。
【0017】
[8]
還元性基を有する化合物が、リン系配位子とパラジウム化合物からなる触媒を用いて合成されるアリールアミン化合物であることを特徴とする[5]乃至[7]のいずれかに記載のパラジウム化合物の除去方法。
【0018】
[9]
還元性基を有する化合物が、下記一般式(1)
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、Ar、ArおよびArは、各々独立して、置換基を有してもよいアリール基またはヘテロアリール基を表す。)
で表されるアリールアミン化合物、または一般式(2)
【0021】
【化2】

【0022】
(式中、Arは、置換基を有してもよい二価の脂肪族基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。Arは、置換基を有してもよい脂肪族基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。但し、Arが置換基を有してもよい二価の脂肪族基を表し、且つArが置換基を有してもよい脂肪族基を表すことはない。)
で表される繰り返し単位を含み、且つ重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2,000〜1,000,000の範囲であるアリールアミン化合物であることを特徴とする[5]乃至[8]のいずれかに記載のパラジウム化合物の除去方法。
【0023】
[10]
一般式(2)
【0024】
【化3】

【0025】
(式中、Arは、置換基を有してもよい二価の脂肪族基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。Arは、置換基を有してもよい脂肪族基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。但し、Arが置換基を有してもよい二価の脂肪族基を表し、且つArが置換基を有してもよい脂肪族基を表すことはない。)
で表される繰り返し単位を含み、且つ重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2,000〜1,000,000の範囲であるアリールアミン化合物であって、その重量に対して、パラジウム原子換算で30〜80ppmのパラジウム化合物を含むことを特徴とするアリールアミン化合物。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、酸化剤を用いることなく、高除去率でパラジウム化合物を除去することができる。従って、アリールアミン化合物などの還元性基を有する化合物から、当該化合物を酸化させること無く、腐食対策を必要とせず、作業リスクを伴わず、安全に、パラジウム化合物含有量の少ない高純度アリールアミン化合物などの還元性基を有する化合物を得ることができる。本発明により得られる高純度アリールアミン化合物は、特に電子材料用途(有機EL素子の正孔輸送材料や発光材料等)に適用することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のパラジウム吸着剤は特定のゼオライトからなることを特徴とする。
【0028】
本発明におけるゼオライトは、シリカ/アルミナ(mol/mol)比が12〜1000のゼオライトである。このうち、パラジウム化合物の除去性能の点で、シリカ/アルミナ(mol/mol)比20〜500のゼオライトが特に好ましい。
【0029】
ゼオライトの型としては、特に限定するものではないが、例えば、チャバサイト(CHA)、フェリエライト(FER)、ZSM−5(MFI)、モルデナイト(MOR)、ベータ(BEA)、ホージャサイト(FAU)などが挙げられる。ホージャサイトの具体例として、X型、Y型などが挙げられる。これらの型のゼオライトを1種以上使用することができ、2種以上の型のゼオライトを混合して使用しても良い。このうち、パラジウム化合物の除去性能の点で、ホージャサイト型ゼオライトが特に好ましい。
【0030】
ゼオライトとしては、天然ゼオライトであってもよいし、合成ゼオライトであってもよいが、組成や細孔の均一性の点から、合成ゼオライトが好ましい。これらのゼオライトは、市販されているものを用いても良いし、公知の方法に従い製造したものを用いても良い。これらゼオライトのカチオンタイプとしては、特に限定するものではないが、例えば、プロトン型や、ナトリウム型、カルシウム型等が挙げられるが、パラジウム化合物の除去効率の点でプロトン型が好ましい。
【0031】
ゼオライトの細孔径としては、好ましくは、0.1〜1.5nmのものを用いることができる。
【0032】
ゼオライトの形状としては、好ましくは、粒子状、粉末状、ペレット状などの形状のものを用いることができる。
【0033】
ゼオライトの平均粒径としては、特に限定するものではないが、例えば、0.1〜20.0μmのものを用いることができる。
【0034】
本発明のパラジウム化合物除去法は、特定のゼオライトと、パラジウム化合物、還元性基を有する化合物および溶媒を含有する溶液(以下、「パラジウム含有溶液」という)とを、接触させることをその特徴とする。
【0035】
パラジウム含有溶液におけるパラジウム化合物としては、特に限定するものではないが、具体例として、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウム(II)トリフルオロアセテート等の2価パラジウム化合物、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)クロロホルム錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、パラジウム−カーボン等の0価パラジウム化合物を挙げることができる。
【0036】
パラジウム含有溶液における還元性基を有する化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アルキルアミノ基(メチルアミノ、ジエチルアミノなど)、アリールアミノ基(フェニルアミノ、ジフェニルアミノなど)、ヘテロ環アミノ基(ベンズチアゾリルアミノ、ピロリルアミノなど)等のアミノ基を有するアミン化合物、アルキルチオ基(メチルチオなど)、アリールチオ基(1−ナフチルチオなど)、ヘテロ環チオ基(2−ピリジルチオなど)、アリールオキシ基(フェノキシなど)、アリール基(フェニル、ナフチル、アントラセニルなど)、芳香族または非芳香族のヘテロ環基(ここにヘテロ環の具体例としては、例えばテトラヒドロキノリン環、テトラヒドロイソキノリン環、テトラヒドロキノキサリン環、テトラヒドロキナゾリン環、インドリン環、インドール環、インダゾール環、カルバゾール環、フェノキサジン環、フェノチアジン環、ベンゾチアゾリン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾリン環、ピペリジン環、ピロリジン環、モルホリン環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾイミダゾリン環、ベンゾオキサゾリン環、3,4−メチレンジオキシフェニル環などが挙げられる)等の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0037】
還元性基を有する化合物におけるアミン化合物としては、特に限定するものではないが、アルキルアミン類やアリールアミン類等を挙げることができ、1級、2級または3級のいずれであってもよい。このうち、蒸留精製によるパラジウム化合物除去が困難である点で、分子量または重量平均分子量が300〜1,000,000の範囲のアミン化合物がより好ましい。また、アミン化合物が、リン系配位子とパラジウム化合物からなる触媒を用いる有機反応(以下、C−N結合反応という)の生成物の場合においても、蒸留精製によるパラジウム化合物除去が困難である点で、好ましい。
【0038】
パラジウム含有溶液における溶媒としては、特に限定されないが、具体例として、クロロホルム、ジクロロメタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。溶媒は、アミン化合物の溶解性に基づいて選択することができる。このうち、使用するアミン化合物を良く溶かす溶媒を選択することが好ましい。これらの溶媒は、2種類以上の溶媒を任意の比率で混合して用いても良いが、後処理や再利用の点から、単独で用いることが好ましい。
【0039】
パラジウム含有溶液中には、パラジウム化合物、還元性基を有する化合物、および溶媒以外の成分として金属や塩基等のその他の化合物が含まれていてもよい。
【0040】
パラジウム含有溶液が、前述の、リン配位子とパラジウム化合物からなる触媒を用いた有機合成反応の一つであるブッフバルト−ハートウィッグ反応(以下「C−N結合反応」という)の反応液である場合、反応後の反応液をそのまま用いることもできるし、希釈もしくは濃縮したもの、または反応液に後処理を施したものを用いることもできる。後処理としては、特に限定するものではないが、例えば、抽出処理、濾過処理等が挙げられる。
【0041】
C−N結合反応において、パラジウム化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、パラジウム含有溶液におけるパラジウム化合物と同じものを例示することができる。
【0042】
C−N結合反応において、リン系配位子としては、特に限定されないが、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、n−ブチル−ジ(1−アダマンチル)ホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンなどが挙げられる。
【0043】
C−N結合反応において、反応に用いる溶媒としては、有機反応を阻害しないものが好ましい。この場合、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒が好適に用いられる。これらの溶媒は、2種類以上の混合溶媒であっても良い。
【0044】
C−N結合反応の反応生成物としては、特に限定するものではないが、例えば、下記一般式(1)
【0045】
【化4】

【0046】
(式中、Ar、ArおよびArは、各々独立して、置換基を有してもよいアリール基、またはヘテロアリール基を表す。)
で表されるアリールアミン化合物、または一般式(2)
【0047】
【化5】

【0048】
(式中、Arは、置換基を有してもよい二価の脂肪族基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。Arは、置換基を有してもよい脂肪族基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。但し、Arが置換基を有してもよい二価の脂肪族基を表し、且つArが置換基を有してもよい脂肪族基を表すことはない。)
で表される繰り返し単位を含み、且つ重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2,000〜1,000,000の範囲であるアリールアミン化合物が挙げられる。
【0049】
一般式(1)において示されるAr、ArおよびArは、各々独立して、置換基を有してもよいアリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0050】
置換基を有してもよいアリール基としては、置換基を有してもよい炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、特に限定するものではないが、フェニル基、トリル基、メトキシフェニル基、n−ブチルフェニル基、t−ブチルフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基、フルオロフェニル基、シアノフェニル基、ジフェニルアミノフェニル基、フリルフェニル基、ジフェニリル基、ターフェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、6−フェニルヘキシルフェニル基、等を例示することができる。
【0051】
置換基を有してもよいヘテロアリール基としては、置換基を有してもよい炭素数3〜24のヘテロアリール基であることが好ましく、特に限定するものではないが、ピリジル基、メチルピリジル基、シアノピリジル基、フェニルピリジル基、カルバゾリル基、チエニル基、ビチエニル基、フリル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基等を例示することができる。
【0052】
一般式(2)において示されるArは、置換基を有してもよい二価の脂肪族基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。
【0053】
置換基を有してもよい二価の脂肪族基としては、置換基を有してもよい炭素数1〜18の二価の脂肪族基が好ましく、特に限定するものではないが、メチレン基、エチレン基、フェニルエチレン基、プロピレン基、ヘキシレン基等を例示することができる。
【0054】
置換基を有してもよいアリーレン基としては、置換基を有してもよい炭素数6〜24のアリーレン基が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、ベンゼンジイル基、トルエンジイル基、メトキシベンゼンジイル基、n−ブチルベンゼンジイル基、トリフルオロメチルベンゼンジイル基、フルオロベンゼンジイル基、シアノベンゼンジイル基、ジフェニルアミノベンゼンジイル基、ジフェニルジイル基、ターフェニルジイル基、ナフタレンジイル基、フルオレンジイル基、メチレンフェニレン基、エチレンフェニレン基、ブチレンフェニレン基、メチレンナフチレン基、メチレンジフェニルジイル基等を例示することができる。
【0055】
置換基を有してもよいヘテロアリーレン基としては、置換基を有してもよい炭素数3〜24のヘテロアリーレン基が好ましく、特に限定するものではないが、例えば、ピリジンジイル基、メチルピリジンジイル基、フェニルピリジンジイル基、カルバゾールジイル基、チオフェンジイル基、フランジイル基、ジベンゾフランジイル基、ジベンゾチオフェンジイル基、メチレンピリジンジイル基、フェニレンピリジンジイル基等を例示することができる。
【0056】
また、一般式(2)において示されるArは、置換基を有してもよい脂肪族基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。
【0057】
置換基を有してもよい脂肪族基としては、置換基を有してもよい炭素数1〜18の脂肪族基が好ましく、特に限定するものではないが、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、メチルベンジル基、メトキシベンジル基、フルオロベンジル基、フェネチル基、フェニルヘキシル基等を例示することができる。
【0058】
置換基を有してもよいアリール基としては、特に限定するものではないが、例えば、Ar、Ar、およびArで示した置換基を有してもよいアリール基と同じ置換基を挙げるこることができる。
【0059】
置換基を有してもよいヘテロアリール基としては、特に限定するものではないが、例えば、Ar、Ar、およびArで示した置換基を有してもよいヘテロアリール基と同じ置換基を挙げるこることができる。
【0060】
パラジウム含有液における還元性基を有する化合物の濃度としては、特に限定するものではないが、0.2〜40重量%の範囲から選ばれ、溶液粘度および処理効率の点から、0.5〜10重量%の範囲がより好ましい。パラジウム含有溶液における還元性基を有する化合物濃度が0.2〜40重量%の範囲から外れる場合は、溶媒留去等の方法により濃縮する、または任意の溶媒を添加して希釈することにより、当該還元性基を有する化合物の濃度調整を行うことができる。
【0061】
ゼオライトとパラジウム含有溶液とを接触させる方法としては、特に限定するものではないが、ゼオライトとパラジウム含有溶液とを容器中で混合し、所定の時間接触させた後、例えば、濾過や遠心分離等の通常の分離手段によりゼオライトを分離する方法(ボディーフィード法)や、当該ゼオライトを充填した塔内に、パラジウム含有溶液を通液する方法等が挙げられる。ボディーフィード法で濾過する場合、セライト等を濾過助剤として用いてもよい。
【0062】
ゼオライトの使用量としては、特に限定するものではないが、パラジウム含有溶液中の還元性基を有する化合物に対して、1〜200重量倍、好ましくは2〜100重量倍である。1重量倍以上とすることにより高いパラジウム化合物除去効率が得られ、また、200重量倍以下とすることが、経済的に好ましい。
【0063】
ゼオライトとパラジウム含有溶液とを接触させる温度は、特に限定するものではないが、通常−10〜170℃、好ましくは、0〜150℃である。
【0064】
ゼオライトとパラジウム含有溶液とを接触させる時間は、特に限定するものではないが、0.1〜5時間、好ましくは、0.5〜2時間である。
【0065】
以上の操作により、還元性基を有する化合物からパラジウム化合物を高除去率で除去することができる。より具体的には、一般式(2)
【0066】
【化6】

【0067】
(式中、Arは、置換基を有してもよい二価の脂肪族基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。Arは、置換基を有してもよい脂肪族基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。但し、Arが置換基を有してもよい二価の脂肪族基を表し、且つArが置換基を有してもよい脂肪族基を表すことはない。)
で表される繰り返し単位を含み、且つ重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2,000〜1,000,000の範囲であるアリールアミン化合物の重量に対して、パラジウム原子換算で30〜80ppmのパラジウム化合物を含む、当該アリールアミン化合物を製造することができる。
【0068】
当該アリールアミン化合物は、有機EL素子などに特に有用であるが、アリールアミン化合物の重量に対するパラジウム化合物含有量が顕著に低い為、素子性能に与える悪影響を低く抑えることができる。
【実施例】
【0069】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
なお、ゼオライトについては、いずれも市販品(東ソー社製)を用いた。
【0071】
調製例1 アリールアミンポリマー(13)の合成
冷却管、温度計を装着した300mL四つ口丸底フラスコに、室温下、4,4’−ジヨードビフェニル 8.12g(20.0mmol)、4−n−ブチルアニリン 3.04g(20.4mmol)、ナトリウム−tert−ブトキシド 7.69g(80.0mmol;ヨウ素原子に対して2倍モル)およびo−キシレン 80mLを仕込んだ。この混合液に、予め窒素雰囲気下で調製したトリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム 92.0mg(0.10mmol;ヨウ素原子に対して0.25mol%)およびトリ−tert−ブチルホスフィン 161.8mg(0.80mmol;パラジウム原子に対して4倍モル)のo−キシレン(10mL)溶液を添加した。その後、窒素雰囲気下、温度を120℃まで昇温し、120℃で加熱攪拌しながら3時間熟成した。
【0072】
この後、4−n−ブチルアニリン 0.60g(4.00mmol)を添加し、更に3時間反応を行った。次いで、ブロモベンゼン 2.52g(16.0mmol)を添加し、120℃で加熱攪拌しながら3時間熟成した。
【0073】
反応終了後、この反応混合物を約80℃まで冷却した後、90%アセトン水溶液(2000mL)の攪拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、アセトン、水、アセトンの順番で洗浄した後、真空下、100℃で6時間の減圧乾燥をして、淡黄色粉体Aを5.71g得た。
【0074】
得られた淡黄色粉体A 5.71gをクロロベンゼン 285.5gに溶解し、2.0重量パーセントのクロロベンゼン溶液を調製し、セライト545 57gを敷いたグラスフィルターを通してろ過した。得られたクロロベンゼン溶液を4.0重量パーセントまで減圧濃縮し、アセトン(2000mL)の攪拌溶液へゆっくり加えた。ろ過により固体をろ別回収し、減圧乾燥して、淡黄色粉体Bを5.14g得た。(トータル収率86%)。
【0075】
得られた淡黄色粉体Bを核磁気共鳴分析装置(バリアン社製 Gemini200)および元素分析により測定したところ、下記一般式(13)で表されるアリールアミンポリマーであることが確認された。元素分析の結果を表1に示した。
【0076】
また、アリールアミンポリマーをGPC(装置:HLC−8220GPC;カラム:TSKgel SuperH3000−TSKgel SuperH2000−TSKgelSuperH1000(いずれも東ソー製)にて分析(移動相:THF)した結果、ポリスチレン換算で重量平均分子量35,900および数平均分子量21,000(分散度1.7)であった。
【0077】
また、アリールアミンポリマーを硫酸と硝酸とで湿式分解し、ICP−AES(ICP発光分光分析装置、パーキンエルマー社製、Optima5300DV)にてPd含有量を定量したところ、アリールアミンポリマーの重量に対して、パラジウムが160ppm含まれていた。
【0078】
【表1】

【0079】
【化7】

【0080】
得られた式(13)で表されるアリールアミンポリマー 4.00gをクロロベンゼン 196.0gに溶解させ、2.0重量%の溶液を調製した。これを溶液Aとする。
【0081】
実施例1
50mLの丸底フラスコに、室温、窒素雰囲気下、溶液A 15.0g(トリアリールアミンポリマー含量 0.3g)とY型ゼオライト(プロトン型、細孔径 0.74nm、シリカ/アルミナ比 13.8mol/mol、平均粒子径(D50) 6.4μm) 1.20g(アリールアミンポリマーに対して4.0重量倍)仕込み、室温、窒素雰囲気下でφ4×10mmの回転子で2時間撹拌した。混合液をセライト545を通じてろ過してY型ゼオライトを含む固形分を除いた。得られたろ液を、攪拌しながらアセトン(300mL)中にゆっくり加えたところ、微細な結晶が析出した。ろ紙を用いたろ過により結晶を単離し、減圧乾燥して、淡黄色粉体のアリールアミンポリマー 0.24gを得た。(回収率80%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0082】
実施例2
実施例1のY型ゼオライトをプロトン型、細孔径 0.74nm、シリカ/アルミナ比 28.0mol/mol、平均粒子径(D50) 2.8μmのY型ゼオライトに変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率83%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0083】
実施例3
実施例1のY型ゼオライトをプロトン型、細孔径 0.74nm、シリカ/アルミナ比 96.0mol/mol、平均粒子径(D50) 2.4μmのY型ゼオライトに変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率83%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0084】
実施例4
実施例1のY型ゼオライトをプロトン型、細孔径 0.74nm、シリカ/アルミナ比 470mol/mol、平均粒子径(D50) 5.2μmのY型ゼオライトに変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率70%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0085】
比較例1
実施例1のY型ゼオライトをプロトン型、細孔径 0.74nm、シリカ/アルミナ比 6.0mol/mol、平均粒子径(D50) 7.2μmのY型ゼオライトに変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率83%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0086】
比較例2
実施例1のY型ゼオライトをプロトン型、細孔径 0.74nm、シリカ/アルミナ比 10.4mol/mol、平均粒子径(D50) 5.7μmのY型ゼオライトに変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率87%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0087】
比較例3
実施例1のY型ゼオライトを塩基性活性アルミナ(メルク社製、活性度90、粒子径0.063〜0.200mm)に変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率85%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0088】
比較例4
実施例1のY型ゼオライトをシリカゲル(和光純薬社製、製品名ワコーゲルC−100、粒子径150〜425μm)に変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率87%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0089】
比較例5
実施例1のY型ゼオライトを酸化マグネシウム(関東化学社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率82%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0090】
比較例6
実施例1のY型ゼオライトをセライト545(キシダ化学社製)に変更した以外は実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率82%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表2に示した。
【0091】
シリカ/アルミナ比6〜11の範囲では、パラジウム除去率は44%程度であったが、12〜1000の範囲では、パラジウム除去率が50%以上に達し、且つシリカ/アルミナ比の上昇に伴ってパラジウム除去率が顕著に向上することが分かった。
【0092】
【表2】

【0093】
調製例2 アリールアミンポリマー(14)の合成
調製例1の4−n−ブチルアニリンを2−フェニルエチルアミンに変更した以外は、実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーの淡黄色粉体Cを3.60g取得した(トータル収率66%)。ポリスチレン換算で重量平均分子量14,100および数平均分子量8,300(分散度1.7)であった。得られた淡黄色粉体Cを核磁気共鳴分析装置により測定したところ、下記式(14)で表されるアリールアミンポリマーであることが確認された。
【0094】
また、調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表3に示した。
【0095】
【化8】

【0096】
淡黄色粉体C 0.30gをクロロベンゼン 14.7gに溶解させ、2.0重量%の溶液を調製した。これを溶液Bとする。
調製例3 アリールアミンポリマー(15)の合成
調製例1の4,4’−ジヨードビフェニルを4,4’’−ジヨードターフェニルに変更した以外は、実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーの淡黄色粉体Dを6.38g取得した(トータル収率85%)。ポリスチレン換算で重量平均分子量40,500および数平均分子量25,300(分散度1.6)であった。得られた淡黄色粉体Dを核磁気共鳴分析装置により測定したところ、下記式(15)で表されるアリールアミンポリマーであることが確認された。
【0097】
また、調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表3に示した。
【0098】
【化9】

【0099】
淡黄色粉体D 0.30gをクロロベンゼン 14.7gに溶解させ、2.0重量%の溶液を調製した。これを溶液Cとする。
調製例4 アリールアミンポリマー(16)の合成
調整例1の4,4’−ジヨードビフェニルを2,7−ジブロモ−9,9−ジ−n−オクチルフルオレンに変更した以外は、実施例1と同様にしてアリールアミンポリマーの淡黄色粉体Eを7.50g取得した(トータル収率70%)。ポリスチレン換算で重量平均分子量28,700および数平均分子量15,900(分散度1.8)であった。得られた淡黄色粉体Eを核磁気共鳴分析装置により測定したところ、下記式(16)で表されるアリールアミンポリマーであることが確認された。
【0100】
また、調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表3に示した。
【0101】
【化10】

【0102】
淡黄色粉体E 0.30gをクロロベンゼン 14.7gに溶解させ、2.0重量%の溶液を調製した。これを溶液Dとする。
実施例5
実施例3において、溶液Aを溶液Bに変更した以外は実施例3と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率84%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表3に示した。
実施例6
実施例3において、溶液Aを溶液Cに変更した以外は実施例3と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率89%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表3に示した。
実施例7
実施例3において、溶液Aを溶液Dに変更した以外は実施例3と同様にしてアリールアミンポリマーを取得した(回収率80%)。調整例1と同様の操作により、Pd含有量を定量した。結果を表3に示した。
【0103】
窒素原子上に脂肪族置換基を有するアリールアミンポリマー、および有さないアリールアミンポリマーいずれにおいても50%以上の除去率でパラジウム化合物を除去することができた。
【0104】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ/アルミナ(mol/mol)比が12〜1000のゼオライトからなるパラジウム化合物吸着剤。
【請求項2】
ゼオライトが、シリカ/アルミナ比(mol/mol)が20〜500のゼオライトであることを特徴とする請求項1に記載のパラジウム化合物の吸着剤。
【請求項3】
ゼオライトがホージャサイト型ゼオライトであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のパラジウム化合物吸着剤。
【請求項4】
ゼオライトがプロトン型のゼオライトであることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパラジウム化合物吸着剤。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の吸着剤と、パラジウム化合物、還元性基を有する化合物および溶媒を含有する溶液とを接触させることを特徴とするパラジウム化合物の除去方法。
【請求項6】
還元性基を有する化合物がアミン化合物であることを特徴とする請求項5に記載のパラジウム化合物の除去方法。
【請求項7】
アミン化合物が、分子量または重量平均分子量が300〜1,000,000のアミン化合物であることを特徴とする請求項6に記載のパラジウム化合物の除去方法。
【請求項8】
還元性基を有する化合物が、リン系配位子とパラジウム化合物からなる触媒を用いて合成されるアリールアミン化合物であることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれかに記載のパラジウム化合物の除去方法。
【請求項9】
還元性基を有する化合物が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Ar、ArおよびArは、各々独立して、置換基を有してもよいアリール基またはヘテロアリール基を表す。)
で表されるアリールアミン化合物、または一般式(2)
【化2】

(式中、Arは、置換基を有してもよい二価の脂肪族基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。Arは、置換基を有してもよい脂肪族基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。但し、Arが置換基を有してもよい二価の脂肪族基を表し、且つArが置換基を有してもよい脂肪族基を表すことはない。)
で表される繰り返し単位を含み、且つ重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2,000〜1,000,000の範囲であるアリールアミン化合物であることを特徴とする請求項5乃至請求項8のいずれかに記載のパラジウム化合物の除去方法。
【請求項10】
一般式(2)
【化3】

(式中、Arは、置換基を有してもよい二価の脂肪族基、アリーレン基、またはヘテロアリーレン基を表す。Arは、置換基を有してもよい脂肪族基、アリール基、またはヘテロアリール基を表す。但し、Arが置換基を有してもよい二価の脂肪族基を表し、且つArが置換基を有してもよい脂肪族基を表すことはない。)
で表される繰り返し単位を含み、且つ重量平均分子量が、ポリスチレン換算で2,000〜1,000,000の範囲であるアリールアミン化合物であって、その重量に対して、パラジウム原子換算で30〜80ppmのパラジウム化合物を含むことを特徴とするアリールアミン化合物。

【公開番号】特開2013−91057(P2013−91057A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−268196(P2011−268196)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】