説明

パラジウム及び白金の抽出方法

【課題】低コストで、安全且つ環境負荷の小さい、低粘性のイオン液体型抽出剤を用いて、塩酸酸性水溶液中のパラジウム及び白金を効率的に抽出・回収する方法を提供する。
【解決手段】パラジウム及び白金の抽出方法において、水に難溶性のイオン液体と液状陰イオン交換体の混合物を、パラジウム及び白金の少なくとも一方を含有する塩酸酸性水溶液と接触させ、前記パラジウム及び白金の少なくともいずれかを水相からイオン液体相に抽出する。この場合において、水に難溶性のイオン液体は、トリアルキルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム及び白金の抽出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パラジウムや白金等の白金族元素は、自動車の排ガス浄化装置などの触媒や電子部品等に利用される重要な金属元素である。精錬及びリサイクルの過程において、白金族元素を含む原料の浸出は、一般に塩素を含有する塩酸又は王水(塩酸+硝酸)によって行われるため、塩酸を含む水溶液中でPdIICl2−、PtIVCl2−などのクロロ錯体の形態で存在するこれらの金属を、選択的且つ効率的に分離する手法が必要である。その分離法として、現在は溶媒抽出法が広く用いられている。
【0003】
パラジウムの抽出では、パラジウムと錯形成する硫化ジアルキルのような中性配位子(特許文献1、2参照)や、クロロ錯体をイオン交換によって捕捉する塩化トリオクチルメチルアンモニウムのような液状陰イオン交換体(非特許文献1、2参照)が、抽出剤として用いられている。また、白金の抽出についても、リン酸トリブチルのような中性配位子(特許文献3、4参照)や、液状陰イオン交換体(特許文献5参照)が用いられている。これらの抽出剤の多くは、水に難溶性、即ち疎水性の液体であるため、そのまま単独で抽出に使用できるが、抽出剤の粘性が高い場合は疎水性の有機溶媒で希釈して用いることもある。
【0004】
近年、新しいタイプの液体として、イオン液体が注目されている。イオン液体とは、一般に融点が100 ℃又はそれよりも低い塩に対して用いられる呼称であり、陽イオン成分がイミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、四級アンモニウム誘導体であるものが多い(例えば、非特許文献3参照)。イオン液体は、通常の分子性液体に比べて揮発性が非常に低いために、燃え難く、環境中への拡散や人体への移行が小さいという特長を持つ。このため、疎水性のイオン液体を用いた金属の抽出法について、研究が行われている(例えば、非特許文献4参照)。
【0005】
イオン液体を用いた金属の抽出法では、ほとんどの場合、イオン液体自身を抽出剤として利用するのではなく、抽出剤を溶かすための希釈剤として利用している(白金族抽出の例は、非特許論文5参照)。
【0006】
また、少数ではあるが、イオン液体自身に金属イオンと結合し得る官能基を導入した機能特異的(Task−specific)なイオン液体が報告されている(白金族抽出の例は、非特許論文6、7参照)。Production of Ionic Substances社が開発したTOMATS(メチルトリオクチルアンモニウム チオサリチレート)のように、鉛や銅などの重金属抽出用イオン液体として市販されているものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−130744号公報
【特許文献2】特開2002−97527号公報
【特許文献3】特許第3480216号明細書
【特許文献4】特開平9−241768号公報
【特許文献5】特開2000−178664号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】A.Cieszynska and M.Wisniewski,Sep.Purif.Technol.,2010年,73巻,202−207頁
【非特許文献2】P.Giridhar,K.A.Venkatesan,T.G.Srinivasan and P.R.Vasudeva Rao,Hydrometallurgy,2006年,81巻,30−39頁
【非特許文献3】N.V.Plechkova and K.R.Seddon,Chem.Soc.Rev.,2008年,37巻,123−150頁
【非特許文献4】平山直紀,ぶんせき,2006年,519−523頁
【非特許文献5】P.R.Vasudeva Rao,K.A.Venkatesan and T.G.Srinivasan,Progress in Nuclear Energy,2008年,50巻,449−455頁
【非特許文献6】A.Stojanovic,D.Kogelnig,L.Fischer,S.Hann,M.Galanski,M.Groessl,R.Krachler and B.K.Keppler,Aust.J.Chem.,2010年,63巻,511−524頁
【非特許文献7】N.Papaiconomou,J.−M.Lee,J.Salminen,M. von Stosch and J.M.Prausnitz,Ind.Eng.Chem.Res.,2008年,47巻,5080−5086頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶媒抽出法では、一般に、用いる抽出剤及びそれを希釈する溶媒が、いずれも揮発性の有機化合物である。これらは人体や環境に対して有害であり、また高い引火性を示すものも多い。このため、安全で環境に優しい抽出剤・溶媒の開発が課題となっている。
【0010】
溶媒抽出法において、イオン液体を利用すれば、安全性や環境負荷に関する課題が解決される可能性がある。しかし、通常の疎水性イオン液体は、それ自身の金属抽出能力が低い。イオン液体に従来の抽出剤を溶かす方法では、使用する抽出剤に由来する引火性・有害性の問題が残る。
【0011】
金属抽出能を有する特殊なイオン液体は、その合成に手間とコストがかかる。例えば、市販のTOMATS(Sigma−Aldrich社、商品番号08354−5G−F)は、現在5gで7万円を超える高価格である。また、TOMATSは粘性が高く(粘度1500mPa・s(20℃))、希釈せずに用いることは困難である。
【0012】
従来から抽出剤として用いられている液状陰イオン交換体は、それ自身がイオン液体の一種であるが、粘性が非常に高いために、希釈剤を用いずに単独で用いることは困難である(例えば、塩化トリオクチルメチルアンモニウムの粘度2100mPa・s(25℃))。
【0013】
また、イオン液体を用いる技術全般に共通する問題点として、イオン液体のコストが高いことが挙げられる。例えば、疎水性イオン液体として最も一般的な1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(BMI・NTf)の価格は、現在5gで1〜8万円である(メーカー及びグレードにより異なる)。
【0014】
以上本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑み、低コストで、安全且つ環境負荷の小さい、低粘性のイオン液体型抽出剤を用いて、塩酸酸性水溶液中のパラジウム及び白金を効率的に抽出・回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
三級アミンのプロトン付加体(トリアルキルアンモニウムイオン)を陽イオン成分とする低粘性且つ疎水性のイオン液体に、金属抽出能を持つイオン液体(液状イオン交換体)を混合し、全成分が不揮発性の塩から成る抽出剤を調製する。これを用いて塩酸酸性水溶液に含まれるパラジウム及び白金を抽出する。また、抽出後のイオン液体相について、硝酸水溶液による逆抽出を行うことにより、パラジウム及び白金の水相への回収及びイオン液体相の再生を行う。
【発明の効果】
【0016】
本発明で用いる抽出剤は、全ての成分が塩であり、水以外の揮発性成分を含まない。従って、大気中に放出されず、直接触れない限り人体に取り込まれる可能性は少ない。また、火気を近づけても燃え難い。このため、従来の溶媒抽出法に比べて、安全性が高く、環境負荷が小さい。
【0017】
また本発明で用いるトリアルキルアンモニウム塩のイオン液体は、パラジウムと白金を高い抽出率で抽出することができる。また、従来の金属抽出能を有するイオン液体に比べて低粘性であるため、抽出剤として扱いやすい。
【0018】
この結果、低コストで、安全且つ環境負荷の小さい、低粘性のイオン液体型抽出剤を用いて、塩酸酸性水溶液中のパラジウム及び白金を効率的に抽出・回収する方法を提供することができる。
【0019】
なおトリアルキルアンモニウム塩のイオン液体を用いると、安価な原料から1段階の中和反応により高収率で得ることができる。また、使用後の抽出剤は、硝酸水溶液による洗浄操作を行うことによって、抽出能力を回復させ、再利用することができる。このため、イオン液体を用いる抽出法において、従来よりも低コストなシステムを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】TOAH・NTf−10%TOAH・NOによる塩酸溶液からの金属の抽出について、抽出率の塩酸濃度依存性を示す図。
【図2】硝酸水溶液によるイオン液体相からの金属の逆抽出について、逆抽出率の硝酸濃度依存性を示す図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の記載の例示にのみ狭く限定されるものではない。
【0022】
本実施形態に係るパラジウム及び白金の抽出方法は、水に難溶性のイオン液体(1)と液状陰イオン交換体(2)を混合したものを抽出剤として用いる。ここで、(1)は主に希釈剤の役割を果たし、高疎水性のほか低融点・低粘性であることが好ましい。(2)は目的金属のクロロ錯体を抽出する役割を果たす。抽出剤中の(1)の含有率を大きくすれば、抽出剤の粘性が低下し、疎水性が高まる。逆に、(2)の含有率を大きくすれば、抽出能力が高まる。後述の実施例では、(1)と(2)の混合比を主に9:1(質量比)として良好な結果を得ているが、この混合比は適宜変化させることができこれに限定されない。
【0023】
金属イオンを塩酸溶液からイオン液体相へ抽出(正抽出)する際に、白金とパラジウムの抽出率を高くし、他のベースメタル(鉄、ニッケル、銅)の抽出率を低く抑えるためには、水相の塩酸濃度を0.1mol・dm−3以上1mol・dm−3以下に設定することが好ましい。塩酸濃度を11mol・dm−3以下とすることで白金とパラジウムの抽出率の低下を防止するとともに鉄の抽出率の増大を防止することができる。
【0024】
また本実施形態において、イオン液体相に抽出された白金とパラジウムは、硝酸水溶液を用いた逆抽出によって、水相へ回収することができる。この際、硝酸水溶液の硝酸濃度を高くするほど逆抽出率(水相への回収率)を高めることができる。
【実施例】
【0025】
以下、上記実施形態に係るパラジウム及び白金の抽出方法について、実際にその効果を確認した。以下に説明する。
【0026】
(実施例1)
以下に、抽出剤について詳細に説明する。後記の理由により、実施例では、(1)のイオン液体としてトリオクチルアンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(TOAH・NTf)を用いた。このイオン液体は、市販のトリオクチルアミン(TOA)とビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミン(HNTf)を混合するだけで、中和反応によって容易に生成する。生成物を水で数回洗うことにより、過剰のHNTfが除かれ、水飽和のTOAH・NTfが得られる。TOAH・NTfの基礎物性は、発明者らが測定したところ、乾燥状態で、融点3.7±0.2℃、密度1.1043±0.0003g・cm−3(25℃)、粘度200.4±0.3mPa・s(25℃)、水の溶解度1.02±0.03%(25℃)、水への溶解度(6.6±0.7)×10−6mol・dm−3(25℃)であった。
【0027】
また、本実施例では、(2)の液状陰イオン交換体として硝酸トリオクチルアンモニウム(TOAH・NO)を用いた。TOAH・NOは、例えば0.1mol・dm−3のTOAを含むジクロロメタン溶液を1mol・dm−3硝酸水溶液と振り混ぜた後、ジクロロメタン相を取り出し、減圧下で溶媒を留去・乾燥することにより得られた。乾燥させたTOAH・NTfの融点は30.7±0.1℃であり、通常の室温では固体又は粘稠な液体である。
【0028】
上記TOAH・NTfとTOAH・NOを9:1の質量比で混合したイオン液体は、乾燥状態で融点3.4±0.9℃、密度1.0834±0.0002g・cm−3(25℃)、粘度274.2±0.3mPa・s(25℃)、水の溶解度0.60±0.03%(25℃)、水への溶解度(4.2±0.7)×10−5mol・dm−3(25℃)であった。この混合物は、主成分であるTOAH・NTfと同等に、低融点・低粘性・高疎水性であり、抽出剤として扱い易い。
【0029】
(1)及び(2)にトリオクチルアンモニウム塩を用いる利点は、これらの塩が比較的安価な原料から容易に調製できることと、陽イオンが3つの長鎖アルキル基を持つために塩の疎水性が高いことである。例えば、市販のTOAとHNTfから5gのTOAH・NTfを得るのに必要な原料のコストは、約200円である。陽イオンのアルキル基はオクチル基に限定されるものではないが、塩の疎水性を保つためにはアルキル基の炭素数が大きいことが好ましい。例えば、TOAの代わりに、より安価なトリブチルアミン(TBA)の塩を用いることもできるが、TBAはTOAよりもアルキル鎖長が短いため、その塩の疎水性は低くなる。塩の疎水性が低いと、抽出時にイオン液体が水相へ移ることにより、抽出剤の損失や水相の汚染といった問題が生じる。
【0030】
また、原理的には、トリアルキルアンモニウム塩の代わりに、イオン液体としてよく知られる四級アンモニウム塩や、イミダゾリウム塩などの他の陽イオンの塩を用いることもできる。ただしこれらのイオン液体はより高価である。また、BMI・NTfは、TOAH・NTfに比べて、パラジウムと白金に対する抽出能力が低い。
【0031】
(1)の陰イオン成分は、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドイオン(NTf)以外であってもよいが、水相へ溶け出し難い高疎水性イオンであることが好ましい。NTfは、低粘性・低融点・高疎水性のイオン液体を生成し易いという点で、最適である。
【0032】
(2)の陰イオン成分は、硝酸イオン以外であってもよいが、水相中の金属のクロロ錯イオンとの交換を促進するためには、親水性の高いイオンでなければならない。この陰イオン成分は、塩酸溶液からの金属の正抽出過程において、水相中のクロロ錯イオンや塩化物イオンとの交換により、一部が水相へ移行する。また、硝酸水溶液を用いた金属の逆抽出過程においては、水相中の硝酸イオンの一部がイオン液体相へ移行する。本発明では、逆抽出過程において同時に抽出剤が再生されるシステムを構築するために、(2)の陰イオン成分を硝酸イオンとしている。この場合、正抽出過程においてイオン液体相中の硝酸イオンが減少しても、逆抽出過程において補填されるため、抽出剤の組成及び抽出能力は元の状態に回復する。
【0033】
(パラジウム及び白金の抽出)
TOAH・NTfとTOAH・NOの質量比9:1混合物(以下、「TOAH・NTf−10%TOAH・NO」という。)を抽出剤として、0.1mol・dm−3塩酸からのパラジウム(II価)及び白金(IV価)(初濃度は各々1.0×10−3mol・dm−3、5.4×10−3mol・dm−3)の抽出を行った。なお、イオン液体相(抽出剤)と水相(塩酸溶液)の体積比は1:2、抽出時間(振り混ぜ時間)は1時間、温度は25℃とした。
【0034】
抽出後の水相中の金属濃度を黒鉛炉原子吸光分析法で測定し、以下の式(数1)によって抽出率を求めた。その結果、パラジウムと白金の抽出率は、それぞれ99.8%と92.5%であった。この抽出剤を用いることによって、塩酸溶液中のパラジウムと白金をほぼ定量的に抽出できることが示された。
【0035】
【数1】

【0036】
(実施例2)
本実施例では、イオン液体としてTOAH・NTfの代わりに、市販のBMI・NTfを使用したことを除いて、実施例1と同様の抽出を行った。その結果、パラジウムが50.2%、白金が87.3%抽出された。これより、イオン液体としてBMI・NTfを用いると、TOAH・NTfを用いた場合(実施例1)に比べて、抽出率が低下することが示された。
【0037】
(比較例1)
本比較礼では、TOAH・NOを加えずに、TOAH・NTf又はBMI・NTfのみを用いて、実施例1と同様の抽出を行った。その結果、TOAH・NTfの場合は、パラジウムが89.1%、白金が76.0%抽出された。BMI・NTfの場合は、パラジウムが2.5%、白金が51.2%抽出された。いずれも実施例1及び実施例2のTOAH・NOを加えた場合に比べて、抽出率は低かった。これより、TOAH・NOの添加が、抽出率を高めるために重要であることが示された。
【0038】
(実施例3)
本実施例では、TOAH・NTf−TOAH・NO系について、イオン液体相のTOAH・NO含有率が抽出能力に及ぼす影響を調べた。イオン液体相の組成以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。ここで分配比は、イオン液体相中の金属濃度と水相中の金属濃度の比であり、以下の式(数2)によって算出した。
【0039】
【数2】

【0040】
【表1】

【0041】
上記表1において、分配比の値から、TOAH・NO含有率が高くなるほど抽出能力が増大することが明示された。抽出率については、その値がいずれも大きい(100%に近い)ためにTOAH・NO含有率の影響は小さかったが、イオン液体相/水相の体積比をより小さく設定した場合には、TOAH・NO含有率の影響がより顕著に表れると考えられる。
【0042】
(実施例4)
本実施例では、TOAH・NTf−10%TOAH・NO系について、水相の塩酸濃度が抽出能力に及ぼす影響を調べた。水相の塩酸濃度以外は、実施例1と同様に行った。また本実施例では、金属イオンとして鉄(III価)、ニッケル(II価)、銅(II価)についても同様に行なった(初濃度は各々1.1×10−3mol・dm−3、1.0×10−3mol・dm−3、9.5×10−4mol・dm−3)。結果を図1に示す。
【0043】
図1の結果から、パラジウムと白金は、水相中の塩酸濃度が低いほどより高く抽出されることが確認された。また、塩酸濃度0.1mol・dm−3では、鉄とニッケルはほとんど抽出されず、銅も10%しか抽出されなかった。従って、この条件では、これらのベースメタルからパラジウムと白金を分離することが可能であることが確認できた。
【0044】
(実施例5)
パラジウムと白金を抽出した後のイオン液体相について、硝酸水溶液と振り混ぜることによって、これらの金属を水相(硝酸水溶液)へ逆抽出できるかどうか検討した。水相の硝酸濃度は0.1〜8.0mol・dm−3、イオン液体相と水相の体積比は1:2、振り混ぜ時間は1時間、温度は25℃とした。逆抽出率を以下の式(数3)から算出した。結果を図2に示す。
【0045】
【数3】

【0046】
図2の結果から、パラジウムよりも白金のほうが逆抽出され易いこと、またどちらの金属の場合も、水相中の硝酸濃度が高いほど逆抽出され易いことが確認された。本実施例の条件では、パラジウムと白金の水相への回収率が、最大で各々47%と86%(硝酸濃度8.0mol・dm−3のとき)であった。逆抽出の回数を増やすこと、イオン液体相に対する水相の体積比を大きくすることによって、回収率を更に高めることが可能であると考えられる。
【0047】
(実施例6)
本実施例では、イオン液体相を抽出剤として繰返し利用できるかどうか確認するため、次のような実験を行った。まず、TOAH・NTf−10%TOAH・NOを抽出剤に用いて、0.1mol・dm−3塩酸からのパラジウムの正抽出を行った後、1.0mol・dm−3硝酸水溶液を用いて、イオン液体相からのパラジウムの逆抽出を2回行った(サイクル1)。本実施例の条件は、上記実施例1、実施例5の場合と同様とした。次に、この抽出操作後のイオン液体相を用いて、同じ一連の操作、即ち正抽出1回と逆抽出2回を行った(サイクル2)。この後のイオン液体相について、更にもう一度同じ操作を行った(サイクル3)。その結果、各サイクルにおける正抽出時のパラジウムの抽出率は、いずれも99.7%で同一であった。つまり、このイオン液体相の抽出能は、正抽出と逆抽出を繰り返しても変化しないことが確認された。
【0048】
以上、これら実施例、比較例によって、本発明の効果を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、パラジウム及び白金の抽出方法として産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に難溶性のイオン液体と液状陰イオン交換体の混合物を、パラジウム及び白金の少なくとも一方を含有する塩酸酸性水溶液と接触させ、前記パラジウム及び白金の少なくともいずれかを水相からイオン液体相に抽出するパラジウム及び白金の抽出方法。
【請求項2】
前記水に難溶性のイオン液体は、トリアルキルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミドを含む請求項1に記載のパラジウム及び白金の抽出方法。
【請求項3】
前記液状陰イオン交換体は、硝酸トリアルキルアンモニウムを含む請求項1に記載のパラジウム及び白金の抽出方法。
【請求項4】
抽出した前記イオン液体相を硝酸水溶液と接触させることにより、パラジウム及び白金を水相に逆抽出する請求項1に記載のパラジウムおよび白金の抽出方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−149318(P2012−149318A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10091(P2011−10091)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 日本分析化学第59年会 講演要旨集、平成22年9月1日発行
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】