説明

パラジウム合金めっき液およびめっき方法

【課題】Pd−Au合金めっき液に関して、めっき液としての安定性に優れ、かつ、電流密度に対して安定した共析率のめっき皮膜を得ることが可能なパラジウム金合金(Pd−Au合金)めっき液を提供すること。
【解決手段】本発明によるパラジウム金合金めっき液は、可溶性パラジウム塩と、可溶性金塩と、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のものと、サッカリンおよびサッカリンナトリウムからなる群より選択される1以上のものとの組合せからなる結晶調整剤とを含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、パラジウム合金めっき液およびそれを用いためっき方法に関する。より詳しくは本発明は、電気めっき用のパラジウム金合金めっき液、およびそれを用いためっき方法に関する。
【0002】
背景技術
一般的に、パラジウム合金めっきは、水素を選択的に吸収して透過する性質を持つことから、水素分離膜としても利用されており、燃料電池普及に伴う高純度水素の需要にこたえ得る材料として注目されている。
【0003】
また、電子産業においては電気スイッチの接合部の電導性を増加させ、一般装飾および工業用品に優れた耐食性、耐摩耗性を有することから、パラジウム合金めっきは広く使用されている。一方、半導体装置のリードフレームやプリント回路基板、コネクターなどは、通常、銀めっきをした後に半田付けを行うが、この際に種々の問題点、例えば、銀めっきをした部分の変色、銅の酸化膜の形成、半導体チップ(ダイ)との接触時の樹脂広がり現象、成形時の密着不良、半田めっきによる重金属の放出などの問題が発生する。
【0004】
これまでに、このような需要にこたえ得るパラジウム合金めっき液は多様に研究開発されており、この中でもPd−Au合金めっきは 有望なものとして検討が行われている。
【0005】
例えば、米国特許第4048023号明細書(特許文献1)には、アミンを含むパラジウム塩化物と、亜硫酸金アルカリとを含むPd−Au合金めっき液が開示されている。しかしながら、この組成でめっきを行った場合、めっき液中の亜硫酸金錯体の安定性が十分でない場合があり、めっき液中で金の自己分解を起こして、異常析出が発生してしまう場合がある。
【0006】
米国特許第4741818号明細書(特許文献2)には、アミンを含むパラジウム化合物と、合金成分金属および錯化剤(ケリダミン酸、オロト酸、2−ピロリドン−5−カルボン酸等)とを含むパラジウム合金めっき液用の電解質が開示されている。しかしながら、この組成でめっきを行った場合、安定した共析率の合金めっき皮膜を得ることが難しく、めっき皮膜は内部応力の増加によって、はがれや割れが発生するなどの技術的問題点を長ずる場合があった。このため、めっき液としては好適な条件を満たすものとは言い難い面があった。
【0007】
特開2008−081765号公報(特許文献3)に、パラジウム錯体と、金塩とを含むパラジウム金(Pd−Au)合金めっき液であって、前記パラジウム錯体の配位子として、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン等の中性アミノ酸を用いることを特徴とするパラジウム金合金めっき液が開示されている。しかしながら、この組成でめっきを行った場合、電流密度によってPd−Au合金めっきの共析率が変化してしまい、安定した共析率の合金めっき皮膜を得ることが困難であった。このため、めっき液としては好適な条件を満たすものとは言い難い面があった。
【0008】
特開平9−209164号公報(特許文献4)および特開平8−053791号公報(特許文献5)には、ジクロロテトラアンモニウムパラジウムと、シアン化金(I)カリウム、リン酸アンモニウム、4−オキソ−ペンタン酸、およびベンゼンスルホナートを含むPd−Au合金めっき液が開示されている。しかしながら、シアンを含有するめっき液は、その毒性のために取り扱いに特別な注意を必要とし、廃棄する場合も無毒化のための特別な操作を必要とする。また、この合金めっき液でめっきを行うと、パラジウムは析出せず、金めっきしかされないことが判明している。これは、シアン化金(I)カリウムは電気分解によって金とシアン化カリウムに分解され、金はめっきに消費されるため、めっき液中にはシアン化カリウムだけが残ることとなる。このシアン化カリウムがジクロロテトラアンミンパラジウムを分解し、より安定な化合物であるシアン化パラジウムとなる。このシアン化パラジウムは安定な化合物であるため、電気分解されず、めっきをすることが困難な化合物となる。このため、十分なPd−Au合金めっき皮膜を得る観点からは、これら文献に開示のめっき液は必ずしも十分なものとは言い難かった。
【0009】
前記で挙げたPd−Au合金めっき液では、めっき液が不安定で析出が生じてしまう場合や、安定した共析率でめっき膜を形成することができない場合、めっき膜表面が均一とならない場合、めっきを行う環境が良好でない場合などあり、めっき液として好適な条件を満たすものではなかった。
【0010】
このため、前記した要請に応えうるものであって、めっき液としての安定性および安全性に優れ、電流密度に対して安定した共析率の合金めっき皮膜を得ることができる、Pd−Au合金めっき液のさらなる開発が望まれていた。
【0011】
【特許文献1】米国特許第4048023号明細書
【特許文献2】米国特許第4741818号明細書
【特許文献3】特開2008−081765号公報
【特許文献4】特開平9−209164号公報
【特許文献5】特開平8−053791号公報
【発明の概要】
【0012】
本発明者等は今般、可溶性パラジウム塩と可溶性金塩に加えて、特定の結晶調整剤の組合せを添加することによって、めっき液の安定性と安全性に優れ、かつ、電流密度に対して安定した共析率のめっき皮膜を得ることができる、Pd−Au合金めっき液を得る事に成功した。またここで使用する結晶調整剤にさらに特定の表面調整剤を使用することで、その効果をより顕著にすることにも成功した。本発明はこれら知見に基づくものである。
【0013】
よって、本発明は、Pd−Au合金めっき液に関して、めっき液としての安定性に優れ、かつ、電流密度に対して安定した共析率のめっき皮膜を得ることが可能なパラジウム金合金(Pd−Au合金)めっき液を提供することを目的とする。
【0014】
本発明によるパラジウム金合金めっき液は、
可溶性パラジウム塩と、
可溶性金塩と、
メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のものと、サッカリンおよびサッカリンナトリウムからなる群より選択される1以上のものとの組合せからなる、結晶調整剤と
を含んでなることを特徴とする。
【0015】
本発明の一つの好ましい態様によれば、本発明によるめっき液において、可溶性パラジウム塩は、パラジウムのアンミン錯塩の、塩化物、臭化物、ヨウ化物、亜硝酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩および硫酸塩からなる群から選択されるものである。
【0016】
本発明の別の一つの好ましい態様によれば、本発明によるめっき液において、可溶性金塩は、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金アンモニウム、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、塩化金酸カリウムからなる群から選択されるものである。
【0017】
本発明の一つのより好ましい態様によれば、本発明によるめっき液は、
可溶性パラジウム塩をパラジウム量換算として1〜60g/Lと、
可溶性金塩を金量換算として1〜60g/Lと、
結晶調整剤を0.1〜150g/L
の量で含んでなる。
【0018】
本発明のより好ましい態様によれば、本発明によるめっき液は、グルコース、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、シクロデキストリン、グリコーゲン、アミロペクチン、アミロース、デンプン、およびセルロースからなる群より選択される表面調整剤をさらに含んでなる。より好ましくは、該めっき液は、前記表面調整剤を0.1〜50g/Lの量で含んでなる。
【0019】
本発明のさらに好ましい態様によれば、本発明によるめっき液は、電導性化合物をさらに含んでなる。さらにより好ましくは、ここで、電導性化合物は、アルカリ金属またはアンモニアの硝酸塩、塩化物、臭化物、硫酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、ホウ酸塩、酒石酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群より選択されるものである。
【0020】
本発明によるパラジウム金合金めっき方法は、本発明によるめっき液を用いてめっき浴を用意し、次いで
該めっき浴中において、浴温度を10〜80℃、陰極電流密度を0.1〜60A/dm、pH7〜10の条件下で、基材を電気めっき処理することによって、該基材上にめっき皮膜を形成させることを含んでなる。
【0021】
本発明の別の態様によれば、本発明によるめっき製品は、本発明によるパラジウム金合金めっき液を用いて、基材を電気めっき処理することによって形成されてなるものである。
【0022】
本発明のパラジウム金合金めっき液は、安定性および安全性に優れるものであり、このめっき液によれば、電流密度に対して安定した共析率のパラジウム−金めっき皮膜を得ることができ、良好なめっき外観をもつめっき面を容易に提供することができる。本発明のめっき液は、半田濡れ性能やワイヤボンディング性能にも優れたものであり、優れた電子部品を提供するために有益なものである。本発明によれば、安定したパラジウム−金合金めっき皮膜を容易かつ迅速提供することができるため、製造のコストダウンに有益であり、また、電子部品のさらなる軽薄短小化等を推進することも可能となる。
【発明の具体的説明】
【0023】
パラジウム金合金めっき液
本発明によるパラジウム金合金めっき液は、前記したように、可溶性パラジウム塩と、可溶性金塩と、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のものと、サッカリンおよびサッカリンナトリウムからなる群より選択される1以上のものとの組合せからなる、結晶調整剤とを含んでなることを特徴とする。すなわち、本発明においては、前記した特定の組合せからなる結晶調整剤を少なくとも含んでなるものである。ここで、結晶調整剤は、金属結晶の成長方向を一定方向に整える働きを有するものであり、その結果光沢を有するめっき外観を得るために有利である。このため、結晶調整剤は「光沢剤」(ブライトナー)としても働き得るものである。必要であれば、前記した結晶調整剤(光沢剤)に加えて、公知の光沢剤等をさらに使用しても良い。
なお、前記したものの内、例えば、メタ重亜硫酸ナトリウムは、別名として、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、または、酸性亜硫酸ソーダとも言い換えることができ、これは他の成分(メタ重亜硫酸カリウムまたはメタ重亜硫酸アンモニウム)についても同様に言い換えることができる。
【0024】
本発明の好ましい態様によれば、本発明によるめっき液において、結晶調整剤を0.1〜150g/Lの量、より好ましくは1〜120g/Lの量、さらに好ましくは4〜100g/Lの量で含んでなる。ここで、結晶調整剤中、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のものについては、めっき液に対して、好ましくは0.05〜100g/Lの量、より好ましくは0.5〜80g/Lの量で含まれる。また、結晶調整剤中、サッカリンおよびサッカリンナトリウムからなる群より選択される1以上のものについては、めっき液に対して、好ましくは0.05〜50g/Lの量、より好ましくは0.5〜40g/Lの量で含まれる。さらに、結晶調整剤中において、メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のものと、サッカリンおよびサッカリンナトリウムからなる群より選択される1以上のものとの重量比は、好ましくは1:1〜50:1であり、より好ましくは2:1〜20:1である。
【0025】
可溶性パラジウム塩
本発明において用られる可溶性パラジウム塩としては、めっき液に対して可溶性であって、かつ、めっき液中にパラジウムイオンを供給することができるものであれば特に制限はなく、例えば、パラジウムのアンミン錯塩類、硝酸塩、硫酸塩、塩化物等が使用可能である。
【0026】
このうち、パラジウムのアンミン錯塩類としては、パラジウムのアンミン錯塩の、塩化物、臭化物、ヨウ化物、亜硝酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩または硫酸塩等が好適なものとして挙げることができる。また、前記アンミン錯塩としては、ジアミン錯塩またはテトラアンミン錯塩が好ましいものとして挙げることができる。
【0027】
可溶性パラジウム塩の具体例としては、ジクロロテトラアンミンパラジウム(Pd(NH)Cl)、ジブロモテトラアンミンパラジウム(Pd(NH)Br)、ジイオドテトラアンミンパラジウム(Pd(NH))、ジナイトライトテトラアンミンパラジウム(Pd(NH)(ONO))、ジナイトレイトテトラアンミンパラジウム(Pd(NH)(NO))、ジサルファイトテトラアンミンパラジウム(Pd(NH)(SO))、ジサルフェイトテトラアンミンパラジウム(Pd(NH)(SO))、ジニトロテトラアンミンパラジウム(Pd(NH)(NO))のようなテトラアンミンパラジウム化合物;および、ジクロロジアミンパラジウム(Pd(NH)Cl)、ジブロモジアンミンパラジウム(Pd(NH)Br)、ジイオドジアミンパラジウム(Pd(NH))、ジナイトライトジアンミンパラジウム(Pd(NH)(ONO))、ジナイトレイトジアンミンパラジウム(Pd(NH)(NO))、ジサルファイトジアミンパラジウム(Pd(NH)(SO))、ジサルフェイトジアミンパラジウム(Pd(NH)(SO))、ジニトロジアミンパラジウム(Pd(NH)(NO))のようなジアミンパラジウム化合物、さらには、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、また2種以上を併用して用いてもよい。
【0028】
本発明のさらに好ましい態様によれば、可溶性パラジウム塩は、ジクロロテトラアンミンパラジウム、ジクロロジアミンパラジウム、ジニトロテトラアンミンパラジウム、ジニトロジアミンパラジウム、ジブロモテトラアンミンパラジウム、ジブロモジアミンパラジウム、ジイオドテトラアンミンパラジウム、ジイオドジアミンパラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウムからなる群から選択されるものである。
【0029】
本発明において、可溶性パラジウム塩は、めっき液中にパラジウム量換算として、好ましくは1〜60g/L、より好ましくは2〜20g/L含まれる。なお、ここで、例えば「可溶性パラジウム塩がパラジウム量換算として1〜60g/L」とは、調製するめっき液中のパラジウム(Pd)量が1〜60g/Lとなるような量の可溶性パラジウム塩量のことをいう。
【0030】
可溶性金塩
本発明において用られる可溶性金塩としては、めっき液に対して可溶性であって、かつ、めっき液中に金イオンを供給することができるものであれば特に制限はない。例えば、可溶性金塩は、金の塩化物、臭化物、硝酸塩、ビス(チオスルファト)金酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、亜硫酸金塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)、塩化金酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)等が使用可能である。
【0031】
本発明のさらに好ましい態様によれば、可溶性金塩は、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金アンモニウム、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、塩化金酸カリウムからなる群から選択されるものである。
【0032】
本発明において、可溶性金塩は、めっき液中に金量換算として、好ましくは1〜60g/L、より好ましくは2〜20g/L含まれる。なお、ここで、例えば「可溶性金塩が金量換算として1〜60g/L」とは、調製するめっき液中の金(Au)量が1〜60g/Lとなるような量の可溶性金塩量のことをいう。
【0033】
電導性化合物
本発明によるパラジウム金合金めっき液は、電導性化合物をさらに含んでなることが好ましい。本発明において電導性化合物とは、めっき液の電導性、およびめっき効率を向上させるために加えられるものであって、めっき処理に有害とならないものであれば、特に制限はない。例えば、各種単純塩、強酸、および強塩基等が電導性化合物として使用可能である。よって、本発明に用いる電導性化合物としては、電解により物性に悪影響を与えるような副生成物を生じるものが包含されることは望ましくない。このように、本発明によるめっき液は、長期間にわたって安定な物性を示すことができるものである。
【0034】
本発明のより好ましい態様によれば、本発明によるめっき液は、電導性化合物をさらに含んでなる。さらに好ましくは、電導性化合物は、アルカリ金属またはアンモニアの硝酸塩、塩化物、臭化物、硫酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、ホウ酸塩、酒石酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群より選択されるものである。さらにより好ましくは、アルカリ金属またはアンモニアの硝酸塩、塩化物、硫酸塩、およびリン酸塩から選択されるものである。また、前記アルカリ金属としては、カリウムおよびナトリウムが好適なものとして挙げられる。
【0035】
電導性化合物の具体例としては、硝酸アンモニウム、硝酸カリウム、もしくは硝酸ナトリウムのような硝酸塩、塩化アンモニウム、塩化カリウム、もしくは塩化ナトリウムのような塩化物、臭化アンモニウム、臭化カリウム、臭化ナトリウムのような臭化物、硫酸アンモニウム、硫酸カリウム、もしくは硫酸ナトリウムのような硫酸塩、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、もしくはリン酸ナトリウムのようなリン酸塩、シュウ酸アンモニウム、シュウ酸カリウム、もしくはシュウ酸ナトリウムのようなシュウ酸塩、酒石酸アンモニウム、酒石酸カリウム、もしくは酒石酸ナトリウムのような酒石酸塩、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、もしくは水酸化ナトリウムのような水酸化物、ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ホウ酸カリウム、もしくはホウ酸ナトリウムのようなホウ酸塩、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、もしくは炭酸ナトリウムのような炭酸塩等が挙げられる。
これらの塩は単独で用いてもよく、2種以上併用して用いてもよい。
【0036】
本発明において電導性化合物は、めっき液中に、好ましくは0.1〜500g/L、より好ましくは20〜400g/L、さらに好ましくは50〜350g/L、配合することができる。
【0037】
表面調整剤
本発明によるめっき液は、表面調整剤をさらに含んでなることができる。ここで表面調整剤とは、金属結晶の表面の凹凸を整えるために添加する薬品のことであって、レベリング剤とも言うものである。表面調整剤を添加することは、形成されるめっき皮膜表面の外観を向上させる上で有利である。
【0038】
表面調整剤としては、例えば、公知のエタノール、ブタンジオール、グリセリン、エチルセルソルブのようなアルコール類、グルコース、ショ糖、デンプン、グルコースと果糖の混合物である異性化糖のようなOH基を有する有機化合物、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、のようなCHO基を有する有機化合物、アセトン、ピナンコリン、メシチルオキシド、アセトフェノン、シクロヘキサノンのようなCO基を有する有機化合物、および、メチルアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、ピピリジンなどのアミン類のようなNを有する有機化合物が挙げられる。
【0039】
本発明の好ましい態様においては、本発明によるめっき液は、グルコース、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、シクロデキストリン、グリコーゲン、アミロペクチン、アミロース、デンプン、およびセルロースからなる群より選択される表面調整剤をさらに含んでなる。より好ましくは、表面調整剤は、グルコース、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、またはトレハロースであり、さらに好ましくは、スクロース、ラクトース、セロビオースである。これら特定の表面調整剤は、本発明において使用される前述の特定の結晶調整剤(光沢剤)と組み合わせて使用することで、本発明により得られる効果をさらに大幅に向上させることができる。
【0040】
本発明において表面調整剤は、めっき液中に、好ましくは0.1〜50g/L、より好ましくは2〜40g/L、さらに好ましくは4〜20g/L、配合することができる。
【0041】
他の任意成分
本発明のめっき液は、必要に応じて、他の任意成分をさらに含んでなることができる。このような他の任意成分としては、例えば、錯化剤、pH調整剤、界面活性剤、緩衝剤、分散剤等が挙げられる。
【0042】
本発明において使用可能な錯化剤としては、めっき液中の金属成分の還元析出を防止する性質を有するものであれば、特に制限は無い。例えば、亜硫酸、グリオキシル酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、オキソコハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、イソクエン酸およびこれらの塩類からなる郡から選択されるものが、錯化剤として好適に例示される。より好ましくは、亜硫酸、グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、リンゴ酸、クエン酸、およびこれらの塩類から選択されるものであり、さらに好ましくは亜硫酸、クエン酸およびその塩類である。ここで、これらの塩類とは、例えば、グリコール酸等のアルカリ金属塩(例えば、カリウム塩またはナトリウム塩)、アルカリ金属土類塩、またはアンモニウム塩等のことをいう。
【0043】
本発明において錯化剤は、めっき液中に、好ましくは0.1〜300g/L、より好ましくは5〜200g/L、配合することができる。
【0044】
本発明によるめっき液においては、該液のpHを調整する目的で、pH調整剤をさらに含んでなることができる。pH調整剤は、めっき液の調整時(建浴時)およびめっき処理過程のいずれにおいても適宜、適量添加することができる。本発明において、pH調整剤はめっき液のpHを調整することができるものであれば特に制限は無いが、例えば、希硫酸、希塩酸、希硝酸、硫酸、塩酸、硝酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等が好適なものとして用いることができる。
【0045】
本発明のめっき液のpHは通常7〜10の範囲内であり、7〜9の範囲内に調整されることが好ましい。
【0046】
また、本発明のめっき液においては、液のpHを一定の範囲に維持する目的などのために、緩衝剤をさらに含んでなることができる。このような、緩衝剤としては、めっき液に包含される可溶性パラジウム塩、可溶性金塩、さらには特定の結晶調整剤等の他の成分に影響を及ぼすものでない限り、特に制限はなく、慣用の緩衝剤を適宜選択して用いることができる。
【0047】
本発明によるめっき液はまた、界面活性剤をさらに含んでなることができる。このような界面活性剤としては、公知の非イオン界面活性剤およびカチオン界面活性剤が挙げられる。さらに本発明によるめっき液は、分散剤をさらに含んでなることができる。分散剤は、めっき液の他の成分に影響を及ぼすものでない限り、慣用の分散剤を適宜選択して用いることができる。
【0048】
めっき処理
本発明のパラジウム金合金めっき液を用いて電気めっき処理を行う場合には、典型的には、前記したように、めっき液のpHを7〜10の範囲内、好ましくは7〜9の範囲内に調整する。また、めっき液の温度は、典型的には10〜80℃、好ましくは30〜70℃、より好ましくは45℃〜65℃の範囲内に調整し、パラジウム金合金めっき処理を行うことが好ましい。
さらに、めっき処理における陰極電流密度は、典型的には0.1〜60A/dm、好ましくは0.2〜20A/dm、より好ましくは0.5〜10A/dmである。
また、形成されるパラジウムめっき層の厚みは、特に制限はされないが、適用される電流密度およびめっき時間等により適宜変更することができる。
【0049】
本発明のめっき液は、慣用のめっき処理方法を必要に応じて適用することによって、めっき処理を実施することができる。したがって、めっき処理の過程において、めっき液を適宜撹拌しながらめっき処理を行ってもよく、また、必要に応じてめっき液の濾過処理をめっき処理と同時もしくはその前後に行ってもよい。さらに、めっき処理の進行に伴って、めっき液中のパラジウム濃度や金濃度が低下した場合には、該めっき液に可溶性パラジウム塩成分のみ、あるいは可溶性金成分のみ、さらにはそれらの組合せを添加してめっき処理を続けることもできる。
【0050】
本発明のめっき液によってめっきを行う基材としては、例えば、プリント配線基板、リードフレーム材、印刷回路基板、コネクター類、一般装飾品、各種工業用品、電気接点材、摺動接点材、めがねフレームなどが挙げられる。
【0051】
また、本発明の別の一つの態様においては、前記したパラジウムめっき液を用いてめっき浴を用意し、該めっき浴中において、浴温度を10〜80℃、陰極電流密度を0.1〜60A/dm、pH7〜10の条件下で、基材を電気めっき処理することによって、該基材上にめっき皮膜を形成させることを含んでなる、パラジウム金合金めっき方法が提供される。
【0052】
さらに、本発明の別の態様においては、前記したパラジウム金合金めっき液を用いて、基材を電気めっきすることによって形成されたパラジウムめっき製品も提供される。好ましくはこのめっき製品は前記めっき方法により形成されたものである。
【実施例】
【0053】
以下において、本発明を下記の実施例によって詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0054】
(1) めっき液の調製
表1に示した組成に従って、実施例1〜5と比較例1〜7の各めっき液を調製した。
なお、比較例6は、特開2008−81765号公報(特許文献3)の実施例1に記載のめっき液に相当し、比較例7は、特開平9−209164号公報(特許文献4)実施例組成物2のめっき液に相当し、さらに、比較例8は、特開平8−53791号公報(特許文献5)の実施例1のめっき液に相当する。
【0055】
(2) 評価サンプルの調製および電流密度とめっき外観の相関
次に、得られた各めっき液用に、試験基材としてハルセル銅板を使用し、予め無光沢Niめっきを1μm施した。次いで、得られた基材に対して、前記各めっき液の浴中において、めっき液を攪拌しながら、表1のめっき条件で、10秒間、めっき処理を行い、めっき層を得、これをめっき液についての評価サンプルとした。まためっき処理時の電流密度を、表1のめっき条件以外にも、0.5、1、5、および10A/dmでとした各場合全てについて、めっきを行い、評価サンプルを得た。
【0056】
得られた各評価サンプルのめっき皮膜の外観を目視で下記の基準に基づいて評価した。
・評価基準:
○: 均一で良好な外観であった。
×: 表面にはがれや割れが確認された。
【0057】
結果は表2に示される通りであった。
【0058】
(3) 皮膜中への共析量の測定
前記(2)で得られた各評価サンプルのパラジウム金合金めっき被膜中への共析量を、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、型番SPS−5520)を用いて測定した。
【0059】
結果は表3および図1に示されるとおりであった。
結果から、本発明によるめっき液では、電流密度の変化に対して、共析率の変動が殆ど無く、共析率の推移は安定していた。すなわち本発明によるめっき液によれば、電流密度に対して安定な共析率を得ることができる。
【0060】
(4) 半田濡れ性の評価(ゼロクロスタイム(ZCT)試験)
各評価サンプルを所定の加熱温度条件(350±2℃)下に一定時間保持することによって、高温の熱履歴を加えた後、半田浴(63%スズ−37%鉛、液温230±5℃)に浸漬してから、該半田浴より受ける力が0(ゼロ)になるまでの所要時間(ゼロクロスタイム(秒))を測定し、半田濡れ性を、下記の基準に基づいて評価した。
なおゼロクロスタイムが短いほど、半田濡れ性に優れていること意味する。
【0061】
・評価基準:
○: 加熱温度350度180秒保持後のゼロクロスタイムが1秒以内であった。
×: ゼロクロスタイムが1秒以上であった。
【0062】
結果は表4に示されるとおりであった。
【0063】
(5) ワイヤーボンディング性の評価
本発明のめっき液のワイヤーボンディング性を評価するためにワイヤープル試験を行った。具体的には、ボンディングされた金ワイヤー、アルミワイヤー、銅ワイヤー等の下に適当なフックを入れ、下から上へ垂直にワイヤーをプルテストして破断した時の強度および破断個所のモードの観察をした。
評価は、MIL−STD−883(MIL規格)、METHOD2011、Test Condition−Dの条件に従って行った。
25μmφの金ワイヤーを使用し、各評価サンプルについて、ワイヤープル試験を行った。ワイヤープル試験にはボンディングテスタ(DAGE社製、型番:Series−4000)を用い測定した。
ワイヤープル試験において、下記基準のように、ワイヤー引張フックを掛けた箇所にてワイヤーが破断したモードを良好(○)とし、めっき表面またはめっき皮膜と下地との界面で破断したモードを不良(×)と評価した。
【0064】
・評価基準:
○: ワイヤー引張フック部でワイヤー破断した。
×: Pd−Au合金めっき層と下地界面で破断した。
【0065】
結果は表4に示されるとおりであった。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1と実施例2の評価サンプルのパラジウム金合金めっき被膜中の共析量の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性パラジウム塩と、
可溶性金塩と、
メタ重亜硫酸カリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムおよびメタ重亜硫酸アンモニウムからなる群より選択される1以上のものと、サッカリンおよびサッカリンナトリウムからなる群より選択される1以上のものとの組合せからなる、結晶調整剤と
を含んでなることを特徴とする、パラジウム金合金めっき液。
【請求項2】
可溶性パラジウム塩が、パラジウムのアンミン錯塩の、塩化物、臭化物、ヨウ化物、亜硝酸塩、硝酸塩、亜硫酸塩および硫酸塩からなる群から選択されるものである、請求項1に記載のめっき液。
【請求項3】
可溶性金塩が、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金アンモニウム、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、塩化金酸カリウムからなる群から選択されるものである、請求項1または2に記載のめっき液。
【請求項4】
可溶性パラジウム塩をパラジウム量換算として1〜60g/Lと、
可溶性金塩を金量換算として1〜60g/Lと、
結晶調整剤を0.1〜150g/L
の量で含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のめっき液。
【請求項5】
グルコース、マルトース、スクロース、ラクトース、セロビオース、トレハロース、シクロデキストリン、グリコーゲン、アミロペクチン、アミロース、デンプン、およびセルロースからなる群より選択される表面調整剤をさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載のめっき液。
【請求項6】
表面調整剤を0.1〜50g/Lの量で含んでなる、請求項5に記載のめっき液。
【請求項7】
電導性化合物をさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載のめっき液。
【請求項8】
電導性化合物が、アルカリ金属またはアンモニアの硝酸塩、塩化物、臭化物、硫酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、ホウ酸塩、酒石酸塩、炭酸塩およびリン酸塩からなる群より選択されるものである、請求項7に記載のめっき液。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のめっき液を用いてめっき浴を用意し、次いで
該めっき浴中において、浴温度を10〜80℃、陰極電流密度を0.1〜60A/dm、pH7〜10の条件下で、基材を電気めっき処理することによって、該基材上にめっき皮膜を形成させることを含んでなる、パラジウム金合金めっき方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のパラジウム金合金めっき液を用いて、基材を電気めっき処理することによって形成された、めっき製品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−84178(P2010−84178A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−253337(P2008−253337)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(596133201)松田産業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】