説明

パラジウム合金めっき液及びそのめっき液を用いためっき方法。

【課題】 本発明は、パラジウム合金めっき液に関し、めっき液の安定性が高く、所定の合金組成のめっき膜を安定して形成することが可能なパラジウム合金めっき液を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、パラジウム錯体と、金属塩とを含有するパラジウム合金めっき液において、前記パラジウム錯体は、配位子として、中性アミノ酸であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシンのうち1種以上が配位することを特徴とするパラジウム合金めっき液に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラジウム合金めっき液及びそのめっき液を用いためっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラジウム合金めっきは、歯科用や装飾用のめっき、触媒、電気接点等に用いられる他、水素を選択的に吸収・透過する性質を持つことから水素分離膜としても利用されている。水素分離膜としては、パラジウムの単独めっきを用いた場合、水素脆化が起こりやすいものとなるため、水素透過性能を維持しつつ耐久性を向上させるため、Pd−Ag合金、Pd−Au合金、Pd−Cu合金のめっき膜を用いることが知られている。
【0003】
このようなパラジウム合金めっきに用いるめっき液としては、特許文献1に、アミンを含むパラジウム塩化物と、亜硫酸の金塩とを含むPd−Au合金めっき液が示されている。特許文献2には、パラジウムイオン、銀イオンの他、硝酸イオン、硫酸イオンの少なくとも1種を含み、アンモニアによりpHを調整したPd−Ag合金めっき液が示されている。特許文献3には、可溶性パラジウム塩、可溶性銅塩、導電性化合物、ピリジン環含有化合物、可溶性半金属化合物を含有するPd−Cu合金めっき液が示されている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4048023号明細書
【特許文献2】特開2005−256129号公報
【特許文献3】特開2000−303199号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や特許文献2のように、めっき液中にアンモニアを含む場合には、めっき作業中にアンモニアの揮発等が発生しやすく、めっき液のpHを維持しにくい傾向があった。めっき液のpHが不安定となると、パラジウム等の析出が生じる場合があり、めっき膜中の合金組成が変動する傾向があった。
【0006】
また、特許文献2については、硝酸イオン、銀イオン、及びアンモニアが反応して、爆発性のある雷銀が生じることがあり、特許文献3では、可溶性半金属としてセレン等を含むことから、毒性を有する場合があり、めっきを行う作業環境が良好でないことがあった。
【0007】
このように、上記した特許文献1〜3のパラジウム合金めっき液では、めっき液が不安定で析出が生じてしまう場合や、安定した共析率でめっき膜を形成することができない場合、めっき膜表面が均一とならない場合、めっきを行う環境が良好でない場合などがあり、めっき液として好適な条件を全て満たすようなものではなかった。
【0008】
そこで本発明は、パラジウム合金めっき液に関し、めっき液の安定性が高く、所定の合金組成のめっき膜を安定して形成することが可能なパラジウム合金めっき液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、パラジウム錯体と、金属塩とを含有するパラジウム合金めっき液において、前記パラジウム錯体は、配位子として、中性アミノ酸であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシンのうち1種以上が配位することを特徴とするパラジウム合金めっき液に関する。
【0010】
本発明のめっき液は、パラジウム錯体の配位子として前記中性アミノ酸を用いることから、pHの変動が抑制され、沈殿物の析出等が発生しにくいものである。従って、パラジウムと金属塩とを、一定の割合で均一なめっき膜として析出させることが可能となる。めっき膜が均一である場合、機械的強度が強く、水素分離膜として好適である。また、シアン等の毒物を使用していないことから、環境負荷も少ないめっき液である。
【0011】
尚、中性アミノ酸として一般的に知られているものとしては、本発明に示すものの他に、システイン、メチオニン、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン等のアミノ酸があるが、システインやメチオニン等の硫黄を含むアミノ酸を用いた場合には、めっき膜の外観が均一でなくなる場合があり、イソロイシン、フェニルアラニン、トリプトファン等は、水に対する溶解性がきわめて低いため、本発明においては好適でない。
【0012】
そして、パラジウム錯体は、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、水酸化パラジウム、酸化パラジウムのうち1種以上のパラジウム塩と、前記中性アミノ酸とを溶媒中に分散させて形成されたものであることが好ましい。当該パラジウム塩によれば、パラジウム錯体を安定して形成することが可能となるからである。
【0013】
一方、パラジウムと合金化する金属の金属塩は、金塩、銀塩、銅塩のいずれかであることが好ましく、それぞれの亜硫酸化物、塩化物、水酸化物等を利用することができる。具体的には、金塩としては、亜硫酸金塩、塩化金酸、水酸化金塩のいずれか1種以上を用いることができる。また、銀塩としては、硝酸銀、チオ硫酸銀、銅塩としては、硫酸銅が利用可能である。
【0014】
ここで、前記した中性アミノ酸は、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩の形態のものを使用することも可能である。また、溶媒は、水であることが好ましい。
【0015】
本発明のパラジウム合金めっき液は、上記した中性アミノ酸、パラジウム及び金属塩を、以下の濃度で含有していることが好ましい。
【0016】
中性アミノ酸は、めっき液中の濃度で0.1〜2.0mol/Lであることが好ましい。錯体を形成してパラジウムを安定化し、沈殿等を抑制することが可能となるからである。0.1mol/L未満の場合には、充分に錯体が形成できない場合があり、2.0mol/Lを超えると完全に溶解せずに析出物を生じる場合があるからである。
【0017】
パラジウム濃度は、Pd換算で1〜30g/Lであることが好ましい。パラジウム濃度は、1g/L未満の場合、めっきを行う際において、パラジウム濃度に対する電流密度が過剰となり、めっき膜が局所的に形成されて、表面が粗くなる場合があるからであり、30g/Lを超えると完全に溶解せずに析出物を生じる場合があるからである。
【0018】
金属塩の濃度は、金属換算で0.1〜30g/Lであることが好ましい。0.1g/L未満では、パラジウムと金属とを共析させることが困難な傾向があり、30g/Lを超えると、完全に溶解せずに析出物を生じる場合がある。
【0019】
また、本発明のパラジウム合金めっき液は、上記したパラジウム錯体と金属塩に加え、安定化剤や、緩衝剤を含むものであっても良い。
【0020】
安定化剤は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウムの1種以上を用いることが好ましく、安定性の高いめっき液とすることができる。また、安定化剤の濃度は、めっき液に対する濃度が、1〜200g/Lであることが好ましい。1g/L未満では、充分にめっき液を安定化することが困難な傾向があり、200g/Lを超えると、完全に溶解せずに析出物を生じる場合があるからである。
【0021】
緩衝剤としては、リン酸塩、ほう酸塩、炭酸塩等の無機塩か、乳酸、クエン酸、マロン酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸の1種以上を使用することができる。緩衝剤を添加すると、めっき液のpH安定性が高まることから、めっき液を、より安定したものとすることができる。また、めっき液中の緩衝剤の濃度は、0.1g/L〜200g/Lであることが望ましい。0.1g/Lより少ない場合には、pHを安定に維持する効果が低い傾向があり、200g/Lを超えると、完全に溶解せずに析出物を生じる場合があるからである。
【0022】
以上で説明した本発明のパラジウム合金めっき液を用いためっき方法としては、pH6〜10、温度30〜80℃、電流密度0.1〜7.0A/dmの条件でめっき処理することが好ましい。pH6未満では、形成しためっき膜にクラックを生じる場合があり、pH10を超えると、めっき膜の外観が焼けた状態となる傾向がある。また、液温が30℃未満であるとパラジウムと、金属共に析出しない場合があり、80℃を超えると、めっき液が不安定となる傾向があるからである。そして、電流密度については、0.1A/dm未満であると、析出物の外観が不均一となる場合があり、7A/dmを超えると、析出物の外観が焼けた状態になる傾向となる。但し、この電流密度の設定については、めっき攪拌の有無等の条件により異なる。
【0023】
ここで、上記しためっき方法により得られためっき膜中、パラジウムの共析率は、40〜90wt%であることが好ましい。この範囲内であれば、水素透過膜として、水素透過性能及び耐久性が良好だからである。尚、めっき液中のアミノ酸の濃度を0.1〜1.0mol/L、パラジウムの濃度を5〜30g/L、金属塩中の金属の濃度を0.1〜30g/Lとし、めっき処理をpH6〜10、温度30〜80℃、電流密度0.1〜7.0A/dmで行った場合、めっき膜中のパラジウムの共析率を40〜90wt%とすることができる。
【0024】
また、上記しためっき方法により得られためっき膜は、水素透過性能及び耐久性を良好なものとすることができるため、水素分離膜として好適である。
【発明の効果】
【0025】
以上で説明したように、本発明のパラジウム合金めっき液は、安定性の高いめっき液であり、外観の均一なめっき膜を形成することができる。また、形成しためっき膜中のパラジウムの共析率を、40〜90wt%とすることができ、水素分離膜として好適である。また、装飾用のめっきとしても使用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明における最良の実施形態について説明する。
【0027】
実施例1〜実施例5:パラジウム錯体の配位子としてセリン、バリン、アラニン、グリシン、ロイシンの中性アミノ酸を用いて、表1のようなめっき液組成及び条件でめっき処理を行った。
【0028】
【表1】

【0029】
従来例:パラジウム塩として、ジアミンジクロロパラジウムを用いて、表2に記載のめっき液組成及び条件でめっき処理を行った。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例6〜7:金属塩として、銀塩、銅塩、コバルト塩、鉄塩を用いて、表3のようなめっき液組成及び条件でめっき処理を行った。
【0032】
【表3】

【0033】
めっき処理完了後、形成した合金薄膜について、膜の外観を目視にて観察した上で、ICP発光分析装置を用いて、王水に溶解しためっき皮膜中のパラジウムイオンと各金属イオン濃度との共析率(wt%)を測定した。結果を表4及び表5に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
表4より、実施例1〜5で形成された合金膜は、外観が均一で良好なものであった。また、めっき膜の共析率についても、パラジウムが40〜90wt%の範囲内で、良好なPd−Au合金膜が形成できた。一方、従来例のめっき液では、めっき作業中に沈殿物が発生し、形成しためっき膜は表面に凹凸のある不均一なものであった。また、めっき膜の共析率は、パラジウムが20wt%であった。
【0036】
【表5】

【0037】
表5より、金属塩として硝酸銀を用いた実施例6や、硝酸銅を用いた実施例7のいずれも、形成された合金膜は、外観が均一で良好なものであった。また、共析率についても、パラジウムが40〜90wt%の範囲内で、良好なPd−Ag又はPd−Cu合金膜が形成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム錯体と、金属塩とを含有するパラジウム合金めっき液において、
前記パラジウム錯体は、配位子として、中性アミノ酸であるグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、トレオニン、アスパラギン、グルタミン、チロシンのうち1種以上が配位することを特徴とするパラジウム合金めっき液。
【請求項2】
パラジウム錯体は、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、水酸化パラジウム、酸化パラジウムのうち1種以上のパラジウム塩と、前記中性アミノ酸とを溶媒中に分散させて形成されたものである請求項1に記載のパラジウム合金めっき液。
【請求項3】
金属塩は、金塩、銀塩、銅塩のいずれかである請求項1又は請求項2に記載のパラジウム合金めっき液。
【請求項4】
中性アミノ酸が、0.1〜2.0mol/Lである請求項1〜3のいずれかに記載のパラジウム合金めっき液。
【請求項5】
パラジウム濃度は、Pd換算で1〜30g/Lである請求項1〜4のいずれかに記載のパラジウム合金めっき液。
【請求項6】
金属塩の濃度は、金属換算で0.1〜30g/Lである請求項1〜5のいずれかに記載のパラジウム合金めっき液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のパラジウム合金めっき液を使用し、pH6〜pH10、温度30〜80℃、電流密度0.1〜7.0A/dmの条件で行うパラジウム合金めっき方法。
【請求項8】
請求項7に記載のパラジウム合金めっき方法により形成された水素分離膜。

【公開番号】特開2008−81765(P2008−81765A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260829(P2006−260829)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】