説明

パラチノース、トレハルロースまたはその混合物の製造方法

【課題】グルコシルトランスフェラーゼを高生産する新規菌株および該新規菌株を用いて、パラチノース、トレハルロース及びその混合物を、経済的に有利に生産する方法を提供する。
【解決手段】ショ糖をパラチノースおよびトレハルロースヘ変換する能力を有する、クレブシエラ ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)、および該クレブシエラ ニューモニアをショ糖を含有する培地で培養してパラチノースおよびトレハルロースの混合物を得る工程を含む、パラチノース、トレハルロースまたはその混合物の製造方法を提供する。さらに得られた混合物よりパラチノースまたはトレハルロースを単離する工程を含む方法並びに、得られた混合物もしくは単離物へ水素添加して還元パラチノースおよび/または還元トレハルロースを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規微生物を用いたパラチノース、トレハルロース及びその混合物の製造方法、および該方法に有用な新規微生物に関する。
【背景技術】
【0002】
パラチノース及びトレハルロースは、工業的にはショ糖にグルコシルトランスフェラーゼを作用させて製造されている。具体的にはグルコシルトランスフェラーゼによりショ糖のブドウ糖と果糖の間のα−1,2結合をα−1,6結合(パラチノース)およびα−1,1結合(トレハルロース)に転移させて製造されている。
【0003】
グルコシルトランスフェラーゼは細胞膜と細胞壁の間に分泌されるペリプラズミック酵素である。パラチノース及びトレハルロースの製造に用いられるグルコシルトランスフェラーゼとしてはProtaminobacter rubrum(特許文献1)、Leuconostoc meserteroides(非特許文献1)、Serratia plymuthica(特許文献2)、Saccharomyces phaselosporous(特許文献3)、Erwinia carotovora、Erwinia rhaponitica(特許文献4)、Klebsiella oxytoca(特許文献5)等の菌株由来のものが報告されている。
【0004】
かかる菌株由来のグルコシルトランスフェラーゼをショ糖の転移反応に用いる際、効率良く目的とする生成物を得るために微生物の菌体をそのまま、又は菌体から抽出した粗酵素を担体結合法又は包括法により固定化して調製される充填槽型バイオリアクターが用いられている。一般にショ糖溶液をかかるバイオリアクターに通液する際には液温を25〜50℃程度、pHを5〜7程度、ショ糖濃度10〜70重量%程度に調整した溶液を通液している。パラチノース取得を目的とする菌株を用いた場合、ショ糖から79〜84.5%の割合でパラチノースが生成されている。得られた混合液より、晶析法やクロマト分離等の既知の方法によりパラチノースが取り出される。こうして得られるパラチノースは食品用の甘味料として用いられている。また、パラチノースとトレハルロースの混合液、又はパラチノースに対して水素添加を行うことにより、還元パラチノースが工業的に製造されている。
【0005】
既知の文献や特許に記載されている菌株の培養液当たりのグルコシルトランスフェラーゼ活性は、高いもので約30UNIT/ml程度である。培養液当たりの酵素生産性がより高い菌株を用いることにより、既存設備のままで生産量を増加させることができ、また新規設備を小規模にすることができるなど、経済的に有利な面が多い。このため、従来からより高い酵素生産性を有する菌株が望まれていた。
【0006】
【特許文献1】ドイツ特許第1049800号公報
【特許文献2】ドイツ特許第2217628号公報
【特許文献3】特開昭61-177995号公報
【特許文献4】欧州特許第1099号公報
【特許文献5】特公平6-46951号公報
【非特許文献1】Stadola, F. H. J. Am. Chemi74 (1952)3202
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、グルコシルトランスフェラーゼを高生産する新規菌株を提供すること、および該新規菌株を用いて、パラチノース、トレハルロース及びその混合物を、経済的に有利に生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは砂糖工場、でんぷん工場、食品工場などの土壌、廃棄物等、有機物を多く含む試料を分離源としてパラチノース生産性のある微生物の探索を行い、ショ糖をパラチノースとトレハルロースに変換するグルコシルトランスフェラーゼ活性が極めて高い菌を発見し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち本発明は、ショ糖をパラチノース及びトレハルロースに変換する能力を有するクレブシエラ ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)に属する新規微生物を提供する。
【0010】
本発明はさらに、ショ糖をパラチノース及びトレハルロースヘ変換する能力を有するクレブシエラ ニューモニアに属する微生物をショ糖を含有する培地で培養してパラチノースおよびトレハルロースの混合物を得る工程を含む、パラチノース、トレハルロースまたはこれらの混合物の製造方法を提供する。本態様において、クレブシエラ ニューモニアに属する微生物は特に好ましくは適当な担体に菌体を固定化して用いられる。
【0011】
本発明はさらに、クレブシエラ ニューモニアに属する微生物由来のグルコシルトランスフェラーゼをショ糖溶液へ作用させてパラチノースおよびトレハルロースの混合物を得る工程を含む、パラチノース、トレハルロースまたはこれらの混合物の製造方法を提供する。本態様においてグルコシルトランスフェラーゼとしては、好ましくは固定化したものが用いられる。
【0012】
本発明はさらに、上記により得られるパラチノースおよびトレハルロースの混合物からパラチノースまたはトレハルロースを分離することを特徴とする、パラチノースまたはトレハルロースの製造方法を提供する。
【0013】
本発明はまた、上記方法により得られるパラチノース、トレハルロースまたはその混合物に水素添加する工程を含む、還元パラチノース、還元トレハルロースまたはその混合物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のグルコシルトランスフェラーゼ産生菌は、菌体当りの酵素生産量が多いため、少ない培養量で多くのパラチノースを工業的に生産することができる。また、菌体を固定化してバイオリアクターを作成する場合は、リアクターサイズの縮小により設備を小さくすることができ、それに伴い薬品費等のコストが大幅に削減できるため、低コストでパラチノース又はトレハルロース及びその混合物を生産することができる。
【発明の実施の形態】
【0015】
本発明者らがパラチノース及びトレハルロースの生産能を有する新規菌株を発見するに至ったスクリーニング法は、以下の通りである。スクリーニング試料は、砂糖工場、澱粉工場、食品工場などの、土壌、廃棄物などの有機物を多く含むものから採取した。
【0016】
培養は試験管に表1に示す液体培地1を5ml投入し、これを滅菌した後、生理食塩水に土壌試料を懸濁させた上清を1白金耳接種し、30℃、120rpmにて24時間振とう培養を行った。
【0017】
【表1】

培養終了後、懸濁波を適当な希釈倍率で希釈し、200μlを5%ショ糖を含む固体培地に塗布した。固体培地の処方は表2の通りである。
【0018】
【表2】

【0019】
固体培地へ塗布したものを、30℃で48時間培養して、pH5.0の環境下で増殖し得る微生物を選択した。培養終了後、コロニーが発生した近傍の固体培地を切り出し、脱イオン水中で磨砕して得た抽出液を白金耳で採取し、TLC(薄層クロマトグラフィー)プレートにスポットした。これを展開後、発色させてパラチノースの生成を示すスポットが認められたコロニーを、グルコシルトランスフェラーゼ生産菌として選択した。
【0020】
グルコシルトランスフェラーゼ生産菌として選択したコロニーを1白金耳取り、500mlの坂ロフラスコに表3に示す液体培地2を100ml投入したものへ植菌した。これを30℃、120rpmにて24時間振とう培養したものを前培養液とした。
【0021】

【0022】
液体培地2と同じ培地1.5Lを2L容ジヤーファンメンターへ投入し、ここへ1%の前培養液を植菌し、30℃、500rpm、1vvmで12時間培養した。
【0023】
得られたグルコシルトランスフェラーゼ生産菌が、ショ糖をパラチノースおよびトレハルロースヘ変換する能力を測定した。
【0024】
1)培養
500mlの坂ロフラスコに表4に示す液体培地3を100ml投入し、オートクレープで120℃、20分間滅菌処理を行った。クレブシエラ ニューモニアSP18−97−4株を1白金耳植菌し、30℃、140rpmにて15時間、レシプロ型シェーカーにて振とう培養(前培養)した。
得られた前培養液を同一の液体培地が1.5L入った2Lのジャーファンメーターに1%植菌し、30℃、500rpm、1vvmで12時間本培養して、本培養液を得た。
【0025】
【表4】

【0026】
2)パラチノースおよびトレハルロースの生産量の測定方法
上記で得られた培養液1mlと25%ショ糖液4mlを混合攪拌した後、30℃の恒温槽で1時間パラチノースの生産反応を行った。煮沸することによって反応を終了し、遠心機で反応波中の菌体画分の除去を行った。
得られた上清中のパラチノースおよびトレハルロースの生成量をソモギ・ネルソン法で還元力を測定し、これをパラチノース量に換算して1分あたりに生成される還元糖量(μmol/ml)を酵素活性とした。
【0027】
このスクリーニングにより、特にパラチノースおよびトレハルロース生成能の高い4つの菌株、SP18−97−4、KB36−98−4、NK32−98−33、NK33−98−8が得られた。各菌株の菌学的性質について、Bergey’s manual of Systematic Bacteriology 第2巻(Williams & Wilkins社、1986年出版)を参照して調べたところ、これらの菌はいずれも、クレブシエラ ニューモニアに属する新規な微生物であることが判明した。
【0028】
得られた菌株のうち、特に活性が高かったのは、砂糖キビの搾りカス堆積場より採取したSP18−97−4株である。SP18−97−4株、KB36−98−4株、NK32−98−33株、NK33−98−8株の菌学的性質は以下の通りであった。
【0029】
【表5−1】


【表5−2】

【0030】
上記のうち、最も還元糖産生能の高かったSP18−97−4株を独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターヘ平成18年8月24日に寄託し、受託番号NITE BP−258を得た。
【0031】
本発明はさらに、受託番号NITE BP−258の菌株を変異させて得られ、ショ糖をパラチノースおよびトレハルロースヘ変換する能力を有する、クレブシエラ ニューモニアに属する変異株も提供する。変異の方法としては、一般に用いられる紫外線照射法、薬剤処理法、γ線照射法などいずれを用いて行ってもよい。
【0032】
例えば、紫外線照射法では予め選抜した菌株に菌が完全に死滅しない程度に一定時間紫外線を照射し、その後生存している菌株の中からパラチノースおよびトレハルロース生産能が向上した菌株を選択する。
又、薬剤処理法に用いられる薬剤は特に限定的ではないが、ニトロソグアニジン、エチルメタンスルホネートなどが用いられる。
変異誘導した菌株より、上記と同様のスクリーニング方法にて、容易にパラチノースおよびトレハルロース生産能の高いものを選択、確認することができる。選択にあたっては、増殖が早いものであって、さらにパラチノースの製造を目的とする場合にはTLCにてパラチノースのスポットが濃く、トレハルロースのスポットが薄いものを選ぶとよい。
【0033】
本発明はさらに、クレブシエラ ニューモニアに属する微生物を培養して得られる菌体または該菌体より採取される酵素を用いて、ショ糖をパラチノースおよびトレハルロースの混合物に変換させる方法を提供する。
【0034】
本発明の方法に用いられるクレブシエラ ニューモニアに属する微生物は、ショ糖をパラチノースとトレハルロースヘ変換するグルコシルトランスフェラーゼを産生するものであり、実施例1に記載した測定方法において1白金耳を30mlの培地に接種して30℃で15時間培養し、次いでそのうちの15mlを1.5Lの培地に接種して30℃にてさらに24時間培養したものの1mlを4mlの25%ショ糖溶液中へ添加して60分間培養して得られる菌体懸濁液1mlあたりのユニット数が50以上であるものが好ましい。
かかるクレブシエラ ニューモニアに属する微生物としては、上記のごとき適当なスクリーニングによって選択されたものであっても、スクリーニングによって選択されたものへ突然変異を誘発して得られるものであってもいずれも好適に用いられる。
【0035】
クレブシエラ ニューモニアに属する微生物の菌株を増殖させ、グルコシルトランスフェラーゼを産生させる方法について、以下に述べる。
選択した菌株を適当な細胞培養用培地で培養する。用いられる培地は炭素源として1〜30%のショ糖、マルトース、フルクトース、グルコース、パラチノース、トレハルロース等の単糖又は二糖を含有しているものが好ましい。その中でもショ糖、パラチノース又はフルクトースを用いると培養液当たりのグルコシルトランスフェラーゼ活性が高くなり、特に好ましい。
【0036】
培地の窒素源としては、窒素含有の無機塩である硝酸塩やアンモニウム塩等、有機窒素化合物のコーンスティープリカー(C.S.L.)、ポリペプトン、酵母エキス、大豆エキス、肉エキス等を用いることができる。特に、コーンスティープリカーと酵母エキスを1〜6%添加すると、酵素生産性が高くなるため好ましい。
【0037】
無機塩類としては、特に酵素発現に影響を与えるものはないが、リン酸や塩化ナトリウム等、通常細胞培養に用いられる成分を添加しても良い。培地にはその他の細胞培養に通常用いられる成分を、本発明の目的を損なわない範囲で適宜添加してもよい。
【0038】
クレブシエラ ニューモニアに属する微生物にグルコシルトランスフェラーゼを産生させるための培地はpH6〜8.5に調整することが望ましい。培地を滅菌し、ここへ菌を接種して培養する。培養温度は25〜35℃の範囲とすることが望ましい。菌を接種した後、上記条件下で9〜24時間静置、振とう又は通気攪拌しながら培養を行って得られる菌体中に、グルコシルトランスフェラーゼが多く含まれる。
【0039】
本発明のパラチノース及びトレハルロースの混合物の製造方法の一態様においては、上記のごとく得られるグルコシルトランスフェラーゼ酵素を含有する菌体を、ショ糖を含有する培地で培養して、培地中にパラチノースおよびトレハルロースを蓄積させる。かかる態様において、上述のごとく得られる菌株を含有する培養液から、遠沈機や濾過膜等の常套の方法によって培地を除き、得られる菌体を、下に述べるごとくショ糖含有培地に添加して培養すればよい。
【0040】
菌体は、固定化して用いてもよい。本態様においては、得られた菌体培養液から、遠沈機や濾過膜等の常套の方法によって培地を除き、濃縮菌体を固定化担体に包括固定したものを用いるのが扱いやすく好ましい。固定化した菌体を用いる場合には、例えば固定化菌体をバイオリアクターに充填し、ここヘショ糖溶液を連続的に通じて反応させて、ショ糖からパラチノース及びトレハルロースヘの変換反応を行えばよい。
【0041】
別の態様においては、グルコシルトランスフェラーゼ酵素を菌体から抽出して用いてもよい。グルコシルトランスフェラーゼの抽出にあたっては、培地成分を除いた菌体培養物を、常套の手段、例えば菌体破砕装置、例えば超音波、フレンチプレス、ミルなど、又は薬剤、例えば界面活性剤、溶菌酵素などに供し、菌体の細胞壁を破砕すればよい。破砕された菌体から抽出された酵素を塩析やイオン交換等により粗精製したものを用いればよい。
【0042】
抽出したグルコシルトランスフェラーゼを用いてパラチノース及びトレハルロースを生産させる場合、粗精製した酵素をそのままで用いても、あるいは常套の手段にて固定化したものを用いてもよい。所望により粗精製した酵素をさらに精製して用いてもよい。
【0043】
本発明において、パラチノース及びトレハルロース生産反応は好適には、ショ糖10〜70%、好ましくは30〜55%を含有する水溶液もしくは菌体培養用の培地に菌体、固定化菌体、菌体抽出酵素もしくは固定化した菌体抽出酵素を添加し、25〜40℃、pH4.5〜7の範囲でショ糖が2%以下になるまで反応させる。反応により、反応液中のショ糖がパラチノース及びトレハルロースの混合物へと変換される。
本発明のクレブシエラ ニューモニアに属する微生物の産生するグルコシルトランスフェラーゼは、従来公知のものと比して高いパラチノース及びトレハルロースヘの転換効率を示し、効率良く目的とする混合物を得ることができる。
【0044】
パラチノースおよびトレハルロースのいずれかあるいは両方をそれぞれ単離したものとして調製する場合、反応により得られる混合液を既知の方法で精製、濃縮、晶析して結晶パラチノースもしくはトレハルロースを得ることができる。従って本発明の方法により得られるパラチノースおよびトレハルロースの混合物から、パラチノースおよび/またはトレハルロースを単離、精製する工程を含む、パラチノースおよび/またはトレハルロースの製造方法もまた、本発明の範囲に含まれる。
【0045】
本発明の方法により得られるパラチノース及びトレハルロースの混合物より、還元パラチノースを調製することができる。還元パラチノースの調製には、上記のごとく得られた混合物より単離した結晶パラチノースを再溶解した溶液に水素添加を行えばよい。または得られるパラチノース及びトレハルロース混合液に対して常套の方法にて水素添加を行い、次いで還元トレハルロースをクロマト分離により除去して還元パラチノースを得てもよい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳述する。
実施例1
本発明のクレブシエラ ニューモニアSP18−97−4株のグルコシルトランスフェラーゼ活性を測定した。比較例として既知のパラチノース、トレハルロース生産能を有する菌株の酵素活性値を示した。
【0047】
(菌体の調製)
前培養:
ショ糖10g/100ml、C.S.L(コーススティープリカー)5g/100ml、NaCl 1g/100ml、NaHPO 0.15g/100ml、MgSO・7HO 0.1g/100mlを含有する水溶液をNaOHでpH7に調整した。0.5L容の坂ロフラスコヘ培地30mlを投入し、オートクレープで120℃、20分間滅菌処理を行った。滅菌した培地ヘクレブシエラ ニューモニアSP18−97−4株を1白金耳植菌し、30℃、140rpm、15時間レシプロ型シェーカーにて振とう培養した。
【0048】
本培養:
得られた前培養液15mlを上記と同一の液体培地が1.5L入った2Lジャーファーメンター中(滅菌済み)に植菌し、30℃、500rpm、1vvmで24時間培養して、菌体懸濁液を調製した。
【0049】
(測定方法)
上記で本培養により得られた菌体懸濁液1mlと25%ショ糖溶液4mlを混合し、30℃で1時間反応後、熱湯に入れ酵素反応を止めた。反応液中のパラチノース及びトレハルロースの量をソモギ・ネルソン法によって測定し、グルコシルトランスフェラーゼ活性を算出した。なお、パラチノース及びトレハルロースの量は、還元糖とした場合の量として算出した。
【0050】
(結果)
培養液のグルコシルトランスフェラーゼ活性は83UNIT/mlであった。なお、ここでグルコシルトランスフェラーゼ活性の1UNITは、pH6.0の20%ショ糖溶液中で、30℃、60分間変換反応させたときに、還元糖量として換算したパラチノース及びトレハルロースの合計量を1分間に1μmol増加させる酵素活性をいう。
【0051】
同様にして他の3菌株についても酵素生産力を調べた。結果を表6に示す。
本発明のクレブシエラ ニューモニアSP18−97−4株は、既知のパラチノース、トレハルロース生産能を有する菌株に比べ、その酵素生産性において2倍以上の高い活性を示した。既知のパラチノース、トレハルロース生産能を有する菌株との酵素活性値の比較を表6に示す。尚、表中、比較例の酵素活性値は、各菌株が記載されている文献中の測定値を用いた。
【0052】
また、クレブシエラ ニューモニアSP18−97−4株を上記の「本培養」の条件で培養した際の、培養液あたりの酵素活性、及び培養液濁度の経時変化を図1に示す。
【0053】
【表6】

※表中の値は、1分間に培養液1mlがショ糖から変換することのできたパラチノース及ぴトレハルロース量(μmol)を還元糖換算した値を示した。
【0054】
実施例2
実施例1で24時間本培養をした後の菌体懸濁液を遠心分離器(15000×g、20分間)により集菌し、50mM(mol/l)りん酸Na緩衝液pH6中へ懸濁した。50mM(mol/l)りん酸緩衝液pH5.5に50%(w/w)のショ糖を溶解し、40℃に保ちながら4UNIT/g・ショ糖となるように、菌体懸濁液を添加し、ゆっくりと攪拌しながら26時間反応を行った。
反応終了後、遠心分離器により菌体を除き、上清液を高速液体クロマトグラフィーで成分分析を行ったところ全糖分に占めるショ糖、パラチノース、トレハルロース、単糖の比率は、それぞれ、2%、82.5%、11.0%、4.5%であった。
【0055】
実施例3
実施例1で24時間の本培養をした後の菌体懸濁液1Lを遠心分離器(15000×g、20分間)により集菌し、50mM(mol/l)りん酸Na緩衝液pH6(250ml)中へ懸濁した。得られた懸濁液をフレンチプレス(1500bar)にかけ、菌体破砕液を得た。20〜60%の硫安塩析を行い、遠沈後の沈殿を50mM(mol/l)りん酸緩衝液pH6.0で懸濁した。これを粗酵素液として用い、ショ糖からパラチノース及びトレハルロースの混合物への変換反応を行った。即ち、50mM(mol/l)りん酸緩衝液pH5.5に50%(w/w)のショ糖を溶解し、40℃に保温した。そこへ、4UNIT/g・ショ糖になるように、粗酵素液を添加し、ゆっくりと攪拌しながら29時間反応を行った。反応後液を高速液体クロマトグラフィーで成分分析を行ったところ、全糖量中のショ糖、パラチノース、トレハルロース、単糖の比率はそれぞれ、2%、82.5%、11.0%、4.5%であった。
【0056】
実施例4
実施例1で24時間の本培養した後の菌体懸濁液340mlを遠心分離器(15000×g、20分)により集菌し、50mM(mol/l)りん酸Na緩衝液pH6(23ml)中に懸濁した。この懸濁液23mlと4%アルギン酸Na(23ml)を混合した液を注射器様の容器に入れ、3%塩化カルシウム溶液中に滴下し、ビーズ状菌体20.0gを得た。このビーズ状菌体20.0gに、2%ポリエチレンイミン20.0gを添加、10分間浸漬させた。濾過によりビーズ状菌体を回収し、0.5%グルタルアルデヒド67mlを添加して、25℃にて30分間保持した。その後、濾過、水洗し、固定化酵素20.0g(85U/g)を得た。
【0057】
得られた固定化酵素を1.5×60cmのカラムに充填し、40%(w/w)のショ糖溶液を40℃で流速16.2ml/HR(SV0.5h−1)で通液した。溶出液を高速液体クロマトグラフィーで成分分析を行ったところ、全糖量中のショ糖、パラチノース、トレハルロース、単糖の比率はそれぞれ0.5%、82.8%、12.2%。4.5%であった。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】クレブシエラ ニューモニアSP18−97−4株による培養時間ごとの培養液当りの酵素活性及び培養液濁度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショ糖をパラチノースおよびトレハルロースヘ変換する能力を有する、クレブシエラ ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)。
【請求項2】
クレブシエラ ニューモニア(Klebsiella pneumoniae)SP18−97−4株(受託番号NITE BP−258)またはショ糖をパラチノースおよびトレハルロースへ変換する能力を有するその変異株。
【請求項3】
請求項1または2記載のクレブシエラ ニューモニアをショ糖を含有する培地で培養してパラチノースおよびトレハルロースの混合物を得る工程を含む、パラチノース、トレハルロースまたはその混合物の製造方法。
【請求項4】
クレブシエラ ニューモニアが固定化されたものである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
請求項1または2記載のクレブシエラ ニューモニア培養物より得られるグルコシルトランスフェラーゼヘショ糖溶液を作用させてパラチノースおよびトレハルロースの混合物を得る工程を含む、パラチノース、トレハルロースまたはその混合物の製造方法。
【請求項6】
グルコシルトランスフェラーゼが固定化されたものである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項3〜6いずれかにより得られるパラチノースとトレハルロースの混合物から、パラチノースを分離することを特徴とする、パラチノースの製造方法。
【請求項8】
請求項3〜6いずれかにより得られるパラチノースとトレハルロースの混合物から、トレハルロースを分離することを特徴とする、トレハルロースの製造方法。
【請求項9】
請求項3〜8いずれかにより得られるパラチノース、トレハルロースまたはその混合物に水素添加する工程を含む、還元パラチノース、還元トレハルロースまたはその混合物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−79533(P2008−79533A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262405(P2006−262405)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(506327508)マヒドン・ユニバーシティ (1)
【出願人】(000189659)上野製薬株式会社 (76)
【Fターム(参考)】