説明

パラメータ検出器、レーダ装置、誘導装置、及びパラメータ検出方法

【課題】正確なドップラ周波数の検出をすることができるパラメータ検出器、レーダ装置、誘導装置、及びパラメータ検出方法を提供する。
【解決手段】パラメータ検出器は、キャリア周波数が異なる複数の周波数バンドからなる周波数ホッピングの信号がドップラシフトを受けて周波数が変化した受信信号について、複数サンプルのベースバンド信号に変換するベースバンド変換部と、前記ベースバンド信号を、各々フーリエ変換して、周波数スペクトルを生成するフーリエ変換部と、前記周波数スペクトルを、変換後の同一時刻ビン番号に関して、周波数バンド毎に前記キャリア周波数に対応して異なる参照時刻で逆離散フーリエ変換して変換サンプル列を得る逆フーリエ変換部と、前記変換サンプル列を用いて相関行列を生成し、超解像度法によりドップラ周波数を検出する周波数検出部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ検出器、レーダ装置、誘導装置、及びパラメータ検出方法に関す
る。
【背景技術】
【0002】
レーダ測距の高解像度化の方法として合成帯域レーダがある(例えば、非特許文献1参
照)。合成帯域レーダはチャープパルスレーダの周波数を離散化し、ステップ状に周波数
を変化させて測距を行う方式である。周波数を変化させていく期間が非常に長いため、そ
の期間内に目標が移動すると、正しい検出ができないことが知られている。そのため、受
信信号のドップラ周波数から目標の移動速度を検出し、目標の検出期間中の移動分を補正
してから距離検出を行う。
【0003】
合成帯域レーダは、補正に利用した移動速度の誤差に比例した大きさのレンジ誤差を発
生させる。殆どの場合、レンジ誤差については、レンジ推定時のデータに重畳された雑音
によるレンジ変動よりも、その前段階での速度検出誤差の影響が大きい。従って、合成帯
域レーダで高いレンジ検出精度を得るためには速度検出誤差を小さくする必要がある。
【0004】
速度は、通常、同一周波数ステップの複数のパルスをフーリエ変換して、そのピークで
与えられるドップラ周波数から推定する。
【0005】
目標のドップラ周波数を検出する際、受信パワーが十分大きければ1つの周波数ステッ
プのパルス列のみから十分な精度で速度を推定することが可能である。十分な受信パワー
が得られない場合は、複数の周波数ステップでのデータを合わせて推定することによって
、精度を高める。通常は、複数の周波数ステップのスペクトルの位相を除去して、振幅や
パワーのみにしてから周波数毎に加算するノンコヒーレント加算と呼ばれる方法が採られ
ることが多い(例えば、非特許文献2参照)。位相を除去して振幅やパワーのみにするの
は、複数のスペクトルでピーク成分の位相が合う保証が無いためである。このような振幅
による加算でも、抽出したい信号以外が熱雑音などのランダムな雑音であれば、加算によ
って平均化されて凹凸を小さくでき、信号のピークを際だたせて、検出性能を向上させる
ことが可能である。
【0006】
ところで、ドップラ周波数は、目標とレーダの相対的な移動速度と送信波の周波数に比
例する。ステップ状に周波数を変化させると、ドップラ周波数もそれに比例して変化する
。従って、複数の周波数ステップのスペクトルをノンコヒーレント加算する場合、目標の
相対移動速度が非常に速い、あるいは、周波ステップ間隔が中心周波数に対して非常に大
きい場合など、同一目標のスペクトルであっても、スペクトルのピーク位置が周波数ステ
ップによって明確に異なることがある。このような場合、ノンコヒーレント加算をしてピ
ーク検出した結果を全体の中心周波数に対するドップラ周波数と仮定して、移動速度に換
算する。しかし、周波数選択性フェージングなどによって、周波数ステップ毎に受信パワ
ーが異なるような場合、全体の中心周波数に対するドップラ周波数と仮定して移動速度を
計算すると、速度誤差が大きくなることがある。
【0007】
これに対し、特許文献1では、各周波数ステップのパルス列をフーリエ変換する際に、
各周波数ステップのキャリア周波数の波長に対応して、フーリエ変換のスケールを変更す
る方法を提案している。これによると、全ての周波数ステップで同一移動速度のドップラ
周波数のピーク位置を揃えることが可能であるため、周波数ステップによってピークの高
さにばらつきがあっても、ノンコヒーレント加算の結果のピークの位置がばらつくことは
なく、安定したドップラ周波数ピーク検出、すなわち、速度検出が可能となる(例えば、
特許文献1参照)。
【0008】
一方、フーリエ変換で得られたスペクトルの分解能の限界は、目標のSNR(Signa
l Noise Ratio)とは関係無く、ほぼ、フーリエ変換前のサンプル列に適用
した窓の形状で決定し、それより小さくすることは出来ない。従って、複数の速度の異な
る目標が同時に存在した場合、その2つがフーリエ変換時にピークが分かれる程度に速度
が離れていないと、その2目標のパワーが近い場合、2つの速度の中間の速度を検出し、
その結果、合成帯域後のレンジ誤差が非常に大きくなる可能性がある。
【0009】
フーリエ変換による解像度の限界を超える方法には超解像度法がある。例えば、MUS
IC (Multiple Signal Classification)のような方
法であり、解像度がSNRに対応して向上するため、受信パワー次第では、フーリエ変換
の場合より近い2周波数の分離が可能となる。
【0010】
周波数検出にMUSICのような超解像度法を適用する場合、受信した時系列のサンプ
ル列から相関行列を生成して、その相関行列に含まれる、時系列信号のサンプル間の位相
差を推定していく。i番目の受信信号サンプル列Xが、
【数1】

【0011】
であるとする。xはサンプル、Nはそのサンプル列のサンプル個数、Tは複素共役転置
である。このような受信信号サンプル列をN個準備し、
【数2】

【0012】
のように、相関行列Rxxを生成する。Hは複素共役転置である。X(i)は、通常、検
出したい周波数解像度に基づいて、相関行列のサイズに対応するNを決定し、時系列の
サンプル列から連続してN個のサンプルを選択して生成する。各iのXまたはXX
スナップショットと呼ぶが、スナップショット間でxが互いにオーバーラップしてもよい
。このように生成した相関行列は、実質的に下式の様になっている。
【数3】

【0013】
ただし、Aはモード行列、Sは含まれる1つ以上の信号の個々のパワーを対角成分に持ち
、それ以外は0の行列、σは雑音パワー、Iは単位行列である。モード行列Aは含まれる
信号のステアリングベクトルaを列ベクトルとして持つ行列である。
【数4】

【0014】
ωはその信号の角周波数、Tはサンプル間隔である。従って、ステアリングベクトルは
、信号のサンプル間の位相差を規定するベクトルであって、MUSICなどの推定法は、
ステアリングベクトル、周波数検出の場合には、ステアリングベクトルの各要素間の位相
差を求める方法といえる。
【0015】
通常の周波数検出MUSICでは、前述のように非常に長いサンプル列から複数のスナ
ップショットを取り出して、推定を行うので、全てのスナップショットで同一の信号を規
定するステアリングベクトルは同一である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2006−516736号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Donald R. Wehner、 “High−Resolution Radar、” ch.5、 Artech House Radar Library Series (1994)
【非特許文献2】稲葉「多周波ステップICWレーダによる多目標分離法」信学技報SANE2005−1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
合成帯域レーダに周波数検出MUSICを適用する場合、受信パワーが非常に高く、か
つ、同一周波数ステップのパルス数が多ければ、それをN個ずつに区切って、複数のス
ナップショットを得て、各々の周波数ステップ毎に別々の相関行列を生成し、個々に推定
を行っていく方法がとれる。しかし、フーリエ変換では解像度が不足するような場合には
、同一周波数ステップのパルス数は多くないことが多い。
【0019】
また、フーリエ変換の場合と同様に、1周波数ステップのパルスのみでは受信パワーが
十分でないことが多い。このような場合、1周波数ステップの全パルスを1つのスナップ
ショットとみなしてXとし、N個のスナップショットとして、複数の周波数ステップ分
の受信パルス列を利用したい。あるいは、1周波数ステップのパルス列から複数のスナッ
プショットをとるにしても、それを全周波数ステップ分加算して相関行列としたい。しか
し、そのようにして(式2)と同様に相関行列を生成すると、前述のように、周波数ステ
ップ毎に同一目標のドップラ周波数が異なるため、(式4)のωが周波数ステップ毎に異
なってしまう。すなわち、同一信号のステアリングベクトルがスナップショット毎に異な
ってしまう。
【0020】
受信信号のSNRが非常に小さい場合には、このようにして得た相関行列でも、MUS
IC検出時に同一目標のピークは1つに収束するが、非常にぼやけたピークとなり、検出
精度は低い。SNRが高い場合、前述のように超解像度法は解像度がSNRに対応して改
善するため、複数の周波数ステップのドップラ周波数をそれぞれ別の到来波とみなしてし
まい、同一目標によるドップラ周波数のピークが複数に分裂する。その結果、やはり正確
なドップラ周波数の検出が出来なくなる。
【0021】
そこで本発明は、上記の課題を解決することが出来るパラメータ検出器、レーダ装置、
誘導装置、及びパラメータ検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成する為に請求項1記載のパラメータ検出器は、キャリア周波数が異なる
複数の周波数バンドからなる周波数ホッピングの信号がドップラシフトを受けて周波数が
変化した受信信号について、各周波数バンドの受信信号を、各々、当該周波数バンドの送
信時周波数との差周波数を有する複数サンプルのベースバンド信号に変換するベースバン
ド変換部と、前記各周波数バンドの複数サンプルからなるベースバンド信号を各々フーリ
エ変換して、周波数スペクトルを生成するフーリエ変換部と、前記周波数スペクトルを変
換後の同一時刻ビン番号に関して、周波数バンド毎に前記キャリア周波数に対応して異な
る参照時刻で逆離散フーリエ変換して変換サンプル列を得る逆フーリエ変換部と、
前記複数の周波数バンドに対応する逆離散フーリエ変換された前記変換サンプル列を用い
て相関行列を生成し、超解像度法によりドップラ周波数を検出する周波数検出部と、を有
することを特徴とする。
【0023】
また、請求項2記載のパラメータ検出器は、前記逆フーリエ変換部は、複数の前記参照
時刻の間隔が、いずれかの周波数バンドのキャリア周波数に対して前記複数サンプルのベ
ースバンド信号の時刻間隔と等しくなるよう参照時刻を設定することを特徴とする請求項
1記載のパラメータ検出器。
【0024】
また、請求項3記載のパラメータ検出器は、キャリア周波数が異なる複数の周波数バン
ドからなる周波数ホッピングの信号がドップラシフトを受けて周波数が変化した受信信号
について、各周波数バンドの受信信号を、各々、当該周波数バンドの送信時周波数との差
周波数を有する複数サンプルのベースバンド信号に変換するベースバンド変換部と、前記
各周波数バンドの複数サンプルからなるベースバンド信号を、変換後の同一周波数ビン番
号に関して、周波数バンド毎に前記キャリア周波数の波長に対応して異なる参照周波数で
離散フーリエ変換して周波数スペクトルを生成するフーリエ変換部と、前記周波数スペク
トルを逆フーリエ変換して変換サンプル列を得る逆フーリエ変換部と、逆フーリエ変換さ
れた複数の周波数バンドに対応する前記変換サンプル列を用いて相関行列を生成し超解像
度法によりドップラ周波数を検出する周波数検出部と、
を有することを特徴とする。
【0025】
また、請求項4記載のパラメータ検出器は、前記フーリエ変換部は、フーリエ変換後の
複数の周波数ビンに対応する前記参照周波数の範囲を前記複数の周波数バンドの中心周波
数、または、前記複数の周波数バンドの中央の周波数バンドに対して、前記複数サンプル
のベースバンド信号の時刻間隔に対応して決定する周波数となるように決定することを特
徴とする請求項3記載のパラメータ検出器。
【0026】
また、請求項5記載のパラメータ検出器は、一系列の前記変換サンプル列のサンプル個
数は、一系列の前記複数サンプルのベースバンド信号のサンプル個数と等しいことを特徴
とする請求項3記載のパラメータ検出器。
【0027】
また、請求項6記載のパラメータ検出器は、前記超解像度法は、MUSICであること
を特徴とする請求項1記載乃至請求項4記載のパラメータ検出器。
【0028】
また、請求項7記載のパラメータ検出器は、前記ドップラ周波数からドップラシフトの
原因となる移動速度を計算する移動速度計算部を更に有することを特徴とする請求項1記
載乃至請求項6記載のパラメータ検出器。
【0029】
また、請求項8記載のステップ周波数合成帯域型のレーダ装置は、 中心周波数を前記
複数の周波数バンドに対応してステップ状に変化させた複数のパルスの目標からの反射波
を受信する受信部と、請求項7記載のパラメータ検出器と、を有し、前記ベースバンド変
換部は、前記パルスを復調し、復調後のパルスからパルス代表値を抽出して前記複数サン
プルのベースバンド信号とし、さらに、前記推定した移動速度に基づいて前記各周波数バ
ンドの周波数ステップ代表値を抽出し、前記推定した移動速度に基づいて前記周波数ステ
ップ代表値を補正し、前記補正後の周波数ステップ代表値から前記目標のレンジを推定す
るレンジ推定部を、有することを特徴とする。
【0030】
また、請求項9記載の誘導装置は、請求項8記載のレーダ装置から出力される移動速度
およびレンジを用いて誘導飛翔体を誘導するための制御信号を生成することを特徴とする

【0031】
また、請求項10記載のパラメータ検出器は、入力された複数のサンプル列から、複数
のスナップショットを生成するスナップショット生成部と、前記複数のスナップショット
から相関行列を生成して、検出対象の情報を超解像度法により推定する超解像度法実行部
と、を有し、各サンプル列に含まれる前記検出対象の情報を示すパラメータの値が、同一
検出対象であってもサンプル列によって異なっており、かつ、前記パラメータの値が同一
検出対象についてサンプル列毎に異なる比率が既知であるとき、前記スナップショット生
成部は、前記複数のサンプル列に少なくとも1回のフーリエ変換、または、逆フーリエ変
換を施し、そのうち少なくとも1回の前記変換の際に、前記比率に対応して変換のスケー
ルを変更して前記複数のスナップショットを得ることを特徴とする。
【0032】
また、請求項11記載のパラメータ検出器は、前記超解像度法は、MUSIC、ESP
RIT、MODEの何れかであることを特徴とする請求項10記載のパラメータ検出器。
【0033】
また、請求項12記載のパラメータ検出器は、前記検出対象の情報は、速度、距離、或
いは角度の何れかであり、前記パラメータは、周波数、時刻、アンテナ間隔に対する遅延
量の比であることを特徴とする請求項10記載のパラメータ検出器。
【0034】
また、請求項13記載のパラメータ検出方法は、入力された複数のサンプル列から複数
のスナップショットを生成し、前記複数のスナップショットから相関行列を生成して検出
対象の情報を超解像度法により推定するパラメータ検出方法において、各サンプル列に含
まれる前記検出対象の情報を示すパラメータの値が、同一検出対象であってもサンプル列
によって異なっており、かつ、前記パラメータの値が同一検出対象についてサンプル列毎
に異なる比率が既知であるとき、
前記複数のサンプル列に少なくとも1回のフーリエ変換、または、逆フーリエ変換を施し
て前記複数のスナップショットを得て、そのうち少なくとも1回の前記変換の際に前記比
率に対応して変換のスケールを変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、高い解像度でパラメータを推定することが出来るパラメータ検出器、
レーダ装置、誘導装置、及びパラメータ検出方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態1に係るドップラ周波数検出器の構成を示す図。
【図2】本発明の実施の形態1に係る合成帯域レーダのパルスの並びの例を示す模式図。
【図3】本発明の実施の形態1に係るベースバンド変換部の詳細を示す図。
【図4】本発明の実施の形態1に係る速度検出器15の構成を示す図。
【図5】ドップラ周波数を推定するスペクトラムの例を示す図。
【図6】ドップラ周波数を推定するスペクトラムの例を示す図。
【図7】本発明の実施の形態1、及び実施の形態2に係るドップラ周波数検出器の動作処理を示すフローチャート。
【図8】実施の形態1に係るドップラ周波数の検出を説明するための模式図。
【図9】本発明の実施の形態2に係るドップラ周波数検出器の構成を示す図。
【図10】本発明の実施形態2を説明するための図。
【図11】ドップラ周波数を推定するスペクトラムの例を示す図。
【図12】本発明の実施の形態3に係るレーダ装置の構成を示す図。
【図13】本発明の実施の形態3に係る誘導装置の構成を示す図。
【図14】本発明の実施の形態4に係るパラメータ検出器の構成を示す図。
【図15】本発明の実施の形態4に係るパラメータ検出器の動作処理を示すフローチャート。
【図16】本発明の実施の形態5に係るパラメータ検出器の構成を示す図。
【図17】本発明の実施の形態5に係るパラメータ検出器の動作処理を示すフローチャート。
【図18】本発明の実施の形態5に係るパラメータ検出器の構成を示す図。
【図19】本発明の実施の形態5に係るパラメータ検出器の動作処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0038】
(実施の形態1)
実施の形態1について説明する。なお、本発明の特徴および動作に直接関連する部分の
みを示しそれ以外は省略している。
【0039】
図1は、本発明の実施の形態1に係るドップラ周波数検出器1の構成を示す図であり、
ドップラ周波数を検出する場合の構成である。
【0040】
ドップラ周波数検出器1には、周波数ホッピングやステップ周波数合成帯域レーダなど
の複数のキャリア周波数に対して同じ移動速度によってドップラシフトを与えられた受信
信号が入力される。これはベースバンド変換部2によって、キャリア周波数を除去された
ドップラシフト分のみのベースバンド信号に変換される。この時、各キャリア周波数の周
波数バンドについて、等時間間隔で取得された複数のサンプルによるベースバンド信号が
出力される。
【0041】
これは、FFT部3によって、同一の周波数バンドについて、通常のフーリエ変換、例
えばFFT(高速フーリエ変換)によって、各々、周波数スペクトルに変換される。各周
波数バンドのスペクトルは、ピーク整合IDFT(Inverse Discrete
Fourier Transform)部4に入力される。ピーク整合IDFT部4には
、端子26から別途、変換スケールが入力されている。変換スケールには、受信信号の元
となる送信波のキャリア周波数が、周波数ホッピングやステップ周波数合成帯域レーダな
どによって、周波数バンドによってどのような比率となっているかが記述されている。
【0042】
ピーク整合IDFT部4は、入力された変換スケールに基づいて、周波数バンド毎に逆
フーリエ変換を行う際の変換カーネルにおける参照時刻を変えて逆離散フーリエ変換する
。1つの周波数バンドについて、複数の参照時刻で逆離散フーリエ変換を行い、変換サン
プル列を得る。周波数推定部5では、相関行列生成部6にて、全周波数バンドの変換サン
プル列による行列を加算する形で相関行列を生成し、超解像度法実行部7にてMUSIC
などの方法によってドップラ周波数推定を行い、その結果を出力する。
【0043】
このようにすることによって、超解像度法によってドップラ周波数を推定する際、複数
種類のキャリア周波数があっても、全てのスナップショットで同一移動速度に対するステ
アリングベクトルを等しくでき、高い解像度、精度でのドップラ周波数推定が可能になる

【0044】
次に、ステップ周波数合成帯域レーダを例にとって、具体的な動作処理を説明する。図
2は合成帯域レーダのパルスの並びの模式図である。1つの周波数ステップでN個のパ
ルスを送信する。パルス繰り返し周期(PRI:Pulse Repeat Inter
val)はTである。周波数ステップ間隔はfstpであり、この間隔でキャリア周波
数が異なるN個ずつのパルス列をN周波数ステップ分送信する。1CPI(Cohe
rent Pulse Interval:コヒーレント処理周期)はN・N個のパ
ルスからなる。これらのパルス列は、目標に当たって反射して受信される。
【0045】
合成帯域レーダでは、まず、各周波数ステップの受信信号がその周波数ステップのロー
カル信号でベースバンドにダウンコンバート(D/C)される。図3にベースバンド変換
部2の詳細を示す。ダウンコンバージョン部8において、受信パルス列がそれぞれの周波
数ステップのローカル信号でダウンコンバートされ、ドップラ周波数を中心周波数として
持つ信号に変換される。次に、A/D変換部9にてデジタル信号に変換される。続いて、
復調部10によって、パルスの復調が行われる。パルスの復調によって、1回の合成帯域
処理のために、1パルス1点のパルス代表値が抽出され、ベースバンド信号として出力さ
れる。
【0046】
パルスの復調は、短パルス型レーダであれば、ゲート期間内の積分、チャープパルス型
レーダであれば、パルス圧縮と、レンジビンの選択、符号拡散型レーダであれば、遅延の
選択と逆拡散である。なお、短パルス1パルスが初めから1サンプルでサンプリングされ
るような仕様である場合、復調処理は必ずしも必要ではない。
【0047】
なお、ドップラ周波数が中心周波数となるようなダウンコンバージョンは、必ずしもA
/D変換部9の前でなくともよい。例えば、アナログ部で低い中間周波数までダウンコン
バージョンしておいて、A/D変換し、その後、デジタル部の内部でドップラ周波数が中
間周波数となるようにダウンコンバージョンしてもよい。また、デジタルサンプリングの
ような方法で、A/D変換とダウンコンバージョンを同時に行っても良い。
【0048】
また、図3で行われるような復調はレーダに限らない。本実施の形態の適用対象が通信
用信号である場合でも、必要に応じて復調を行って、パルス代表値に相当する複数のサン
プル列を得ても良い。
【0049】
合成帯域レーダの例では、このようにして得られたパルス代表値は、次式のように書け
る。
【数5】

【0050】
ただし、Aは振幅、φは周波数ステップi毎に異なる位相であり、後段で合成帯域に利
用する項である。周波数ステップ内のフーリエ変換には関係しないので詳細は省略する。
【0051】
kは1周波数ステップ内のパルス番号であり、0から始まる。
【0052】
ここで、Fは次式のように書ける。
【数6】

【0053】
である。vは目標の相対移動速度、cは光速である。f0iは各周波数ステップiの送信
時キャリア周波数である。ここで、簡略化のために、フーリエ変換に関連する最後の項
【数7】

【0054】
のみを取り出し、考えていく。
【0055】
同一周波数ステップのN個のパルスを通常のFFTに掛けた結果のスペクトルの周波
数ビン番号mのフーリエ変換係数Cm、iは、次式のようになる。
【数8】

【0056】
mは0〜N−1である。(式8)は、F=mでexpの肩が0となることから、そこ
にピークを持つスペクトルであることが分かる。mが整数の場合、必ずしもFと一致す
ることはなく、多くの場合、整数の周波数ビンとビンの間のFに一致する周波数に真の
ピークが存在する。従って、周波数ステップi毎に、異なる周波数にピークが存在するこ
とが分かる。
【0057】
次に、このようにして得られたフーリエ変換係数列Cm、iを逆離散フーリエ変換する
ことを考える。その際、周波数Fに存在する周波数ピークの信号が逆離散フーリエ変換
後にiによらず同一波長になっているように逆離散フーリエ変換する。
【0058】
m、iは1周波数ステップについてN個のサンプルを有するが、これを逆離散フー
リエ変換後に1フレームの長さが周波数ステップi毎に異なるN+n(〜)となるよう
に変換することによって、Fそれぞれに対応する変換後の波長を等しくする方法を考え
る。
【0059】
通常の逆フーリエ変換を行う場合、逆フーリエ変換後の波長、すなわち、その周波数の
正弦波の1周期に対応するサンプル数はN/Fである。当然、殆どの場合整数では無
い。変換後の1フレームをN+n(〜)とすれば、Fの波長に相当するサンプル数が
全ての周波数ステップで同一になるとすると、
【数9】

【0060】
と書ける。ただし、b′はiによらない定数である。Fは周波数ステップ番号0のF
である。Cは、fstp/f00であり、f00は0番目の周波数ステップのキャリア
周波数である。b′は、周波数ステップに依存しない値であればどのような値でもよいが
、ここでは、仮にb′=Nとおくと、n(〜)を解くことが出来て、
【数10】

【0061】
となり、N+n(〜)が、周波数ステップのキャリア周波数に比例した値となる。この
ようなn(〜)を利用した逆離散フーリエ変換のカーネルは次式のようになる。
【数11】

【0062】
k(〜)は、逆離散フーリエ変換後の時刻ビンを決定するパラメータである。
【数12】

【0063】
が逆離散フーリエ変換時の参照時刻となる。同一のk(〜)に対してi毎に異なる参照時刻
となっている。通常の逆フーリエ変換では、参照時刻は整数である。ここでは、逆離散フ
ーリエ変換後におおよそ元のサンプル列に近い時間間隔の変換サンプル列を得るため、参
照時刻が特定の周波数ステップで整数となるようにk(〜)を決定する。
【数13】

【0064】
は、k(〜)を決定する特定の周波数ステップ番号である。iは0〜N−1のいず
れでもよく、とりあえず、全体の中心周波数に対応するN/2に最も近い整数とする。
【0065】
もちろん、このk(〜)の決定法は便宜的なものであり、変換サンプルの時間間隔が元のサ
ンプル列の時間間隔と異なっていて良いならば、(式13)からずれた値でもよい。kは
逆離散フーリエ変換後の時刻ビン番号、すなわち、サンプル番号である。このkの値に対
応してk(〜)を決定し、それに基づいて、(式11)のように各周波数ステップ毎に異な
る変換カーネルで逆離散フーリエ変換する。その結果、逆離散フーリエ変換後に、全ての
周波数ステップでFが同一の波長、すなわち、同一の1周期のサンプル数を持つように
なる。なお、もちろん、1周期のサンプル数は殆どの場合整数ではない。
【0066】
なお、低パルス繰り返し(Low−PRF)レーダでは、ドップラ周波数が、サンプル
間隔で決まるスペクトル周期を超えていることがある。このような場合、FFT後のスペ
クトルは何回も折り返った後のスペクトルとなっている。(式11)の変換カーネルで逆
離散フーリエ変換する際、mは折り返しがなければ0〜N−1の整数の値となるが、折
り返しがある場合には、折り返し回数×N+(0〜N−1)とする必要がある。n(
〜)は周波数ステップ毎にそのキャリア周波数に比例して値が変わるが、その比率を正
しく維持するために必要である。
【0067】
なお、本実施の形態では、フーリエ変換、逆フーリエ変換が対で適用され、最終的に元
の次元に戻る用途で利用されるため、信号の情報の一部を失わないよう、いずれの変換時
にも窓は利用しない。すなわち、矩形窓のまま変換する。
【0068】
また、もちろん、FFT、IDFTは、式の導出の過程で省略してきた(式5)中のα
まで含んだ受信サンプル列に対して行う。
【0069】
このようにして得られたサンプル列をX(i)とおいて、(式2)に基づいて相関行列
を生成する。
【0070】
このようにすることによって、相関行列の成分である全てのスナップショットで同一目
標のドップラ周波数が同一のステアリングベクトルで記述できるようになる。従って、こ
れを用いて、超解像度法を実行するとによって、高解像度なドップラ周波数推定が行える

【0071】
続いて、相関行列生成法の変形例を示す。上記の例においては、1周波数ステップをそ
のまま1スナップショットとした。従って、相関行列のサイズはN×Nである。前述
のように、超解像度法による通常の周波数推定では、同一の系列から複数のサンプル列を
切り出して複数のスナップショットとして、相関行列を生成する。
【0072】
ここでも、もし、1周波数ステップのサンプル数N個が解像度的に余裕がある値であ
るならば、1周波数ステップから複数のスナップショットを切り出してもよい。すなわち
、N個のサンプルから1系列がN−q個からなるサンプル列をスライディングさせる
ようにq+1個またはそれ以下の系列数だけ切り出して、それらを全部別のスナップショ
ットとして相関行列を生成しても良い。このようにすることによって、相関行列のSNR
比を向上させることが出来る。
【0073】
ただし、周波数推定におけるクラメル・ラオの下界によると(Rife他、”Sing
le tone parameter estimation from discre
te−time observations”、IEEE Transactions
on Information Theory、 Volume 20、 Issue
5、 pp.591 - 598、1974)、誤差の標準偏差は、SNRの1/2乗に
反比例し、サンプル数のおおよそ3/2乗に反比例する。
【0074】
従って、解像度を向上させる目的であるならば、サンプル数は相関行列サイズを大きく
することに費やした方が効果が高い。解像度的に余裕がある分のみSNR向上に回すと良
い。
【0075】
なお、行列サイズを縮小する場合でも、上記のように予めサンプル列を一定長さに切り
出すのではなく、N×Nの相関行列を生成した後、空間平均化してもよい。前方空間
平均化であれば、予め一定長さに切り出した場合と全く同じ相関行列が得られる。
【0076】
前方後方空間平均化を適用するならば、後方空間平均化が加わる分だけ雑音の平滑化効
果が期待でき、SNRがより向上する。また、NがNより大きく、N×Nの相関
行列ではランクがフルにならないような場合にも、このような方法を利用すると良い。
【0077】
さらに、N×Nの相関行列で超解像度法を行う場合でも、サイズを変えずに、前方
後方空間平均化を適用することで、SNRを向上させることが出来る。前方後方空間平均
化では、
【数14】

【0078】
とおいて、(式2)によるRxxをRxxfと置き、
【数15】

【0079】
とする。*は複素共役である。これらを平均化して、
【数16】

【0080】
を得る。通常は、Rxxfbからサブアレーに相当する相関行列を複数切り出して平均化
を行うが、サイズを変えない場合には、Rxxfbをそのまま改めてRxxとして、超解
像度法に掛ける。元の行列をJで挟み込むことによって、行列の上下左右が入れ替わった
行列が生成される。
【0081】
周波数推定の場合のように、ステアリングベクトルが一定の位相間隔の要素で表される
場合、信号成分はJで挟み込んでもほぼ同じものが生成されて、加算時にはコヒーレント
に加算されるが、雑音は、上下左右が反転した行列となって、加算時に全く異なる雑音の
加算となるため、パワーによる加算となる。従って、SNRは倍に向上する。
【0082】
このようにして得た相関行列で超解像度法によってドップラ周波数を推定する。超解像
度法には、種々の方法がある。比較的使いやすく、また、性能が高いものでは、前述した
MUSICの他に、ESPRIT(Estimation of Signal Par
ameters via Rotational Invariance Techni
ques)、MODE(method of direction estimatio
n)がある。
【0083】
これらは、最小ノルム法と比較して誤検出が少なく、周波数推定の場合のようにステア
リングベクトルが一定の位相間隔の等振幅の要素列で表される場合には、多項式の根の形
で求めることができ、比較的計算量が少ない。もちろん、MUSICの場合には、ステア
リングベクトルをスキャンするSpectral−MUSICを用いても良い。
【0084】
以下に、以上のようにして得た相関行列を用いて、MUSICによって周波数推定を行
った結果を示す。その効果を視覚的に示すため、Spectral−MUSICによる推
定を行った。
【0085】
Spectral−MUSICでは下記のような処理を行う。まず、得られた相関行列
を固有値分解し、N系列の固有ベクトル列を得る。これを対応する固有値の大きさでソ
ートする。予め雑音部分空間のサイズを決定しておくか、MDL(Minimum De
scription Length)、AIC(赤池情報量基準)などの波数推定法を用
いて、含まれる有意な波の数を推定し、相関行列の列数からその波の数を引いたベクトル
数を雑音部分空間のサイズとする。これをLとする。ソートした複数の固有ベクトル列
のうち、対応する固有値の大きさが小さい方から、L個の固有ベクトル列を並べた行列
をEとする。MUSICのコスト関数はEを用いて次式のように表される。
【数17】

【0086】
コスト関数がピークを示すωをサーチする。ステアリングベクトルa(ω)は(式4)で
記述した通りであるが、ただし、本実施の形態では、ドップラ周波数が全ての周波数ステ
ップで共通に見えるように周波数ステップ毎に実質的にサンプル間隔を変えるような変換
を行っているため、Tが1つに決定しない。前述のようにk(〜)を決定するために特定
の周波数ステップiで(式13)が成立するようにしたので、周波数ステップiで通
常の逆フーリエ変換となり、TはTと等しくなる。
【0087】
実際にはピークサーチ時には、Tを直接用いる必要は無く、ω=2πfと置いて、f
×Tを0から1まで微少な間隔でスキャンすればよい。その結果得られたピークを示す
f×Tの値が、1/T(i)=1/Tで決定する周波数スペクトルの1周期の中
で、iの周波数ステップに対するドップラ周波数のピークの相対的な位置を示すので、
そこからドップラ周波数を求めればよい。
【0088】
なお、Low−PRFで、スペクトルが折り返っている場合には、MUSICで得られ
た結果も折り返っているので、必要な折り返し回数分、周波数を底上げして求める必要が
ある。
【0089】
サーチの結果得られたf×Tのピークをpとおくと、ドップラ周波数は、1/T
×(折り返し回数+p)であり、移動速度は1/T×(折り返し回数+p)×c/
{f00×2×(1+i×C)}となる。
【0090】
図4は、本発明の実施の形態1に係る速度検出器15の構成を示す図である。本実施の
形態のドップラ周波数検出器1または後述する実施の形態2に係るドップラ周波数検出器
11の出力から目標の移動速度を計算する。
【0091】
移動速度計算部14には、ドップラ周波数の推定結果と、そのドップラ周波数がどのキ
ャリア周波数に対応するものであるかの情報が入力され、それらから移動速度を計算し出
力する。
【0092】
このような方法によって、ドップラ周波数の推定を行った例を図5に示す。1周波数ス
テップ8パルスの合成帯域レーダで、7m/sの差の等パワー2目標が混在する場合の例
である。図5(a)は各周波数ステップをFFTし、全周波数ステップのスペクトルをノ
ンコヒーレント加算した結果のスペクトルである。8パルス、すなわち、8点のFFTで
あるが、スペクトルをなめらかに表示するため、各点の間をショートタイムFFTで補間
したので周波数ビンは32ある。2つの矢印(矢印A、B)が、2目標のドップラ周波数
のおおよその位置を示している。Low−PRFの例であり、スペクトルは数回折り返っ
ている。図5(a)では、2つの矢印の中間にピークが1つ現れただけで、2目標が全く
分離検出できていないことが分かる。
【0093】
一方、図5(b)は上述の方法でMUSICを適用した場合のMUSICスペクトラム
である。2目標に相当するピークが個々に現れており、2目標を明確に分離できているこ
とがわかる。
【0094】
図6(a)は、MUSICを行う際に本実施の形態の方式を適用せず、各周波数ステッ
プの復調パルス列からそのまま相関行列を生成した場合の例である。1目標であるので、
本来、ピークが1つのみ検出されるべきであるが、1パルス当たりのSNRが100dB
と非常に高いので、各周波数ステップのドップラ周波数ピークが別の目標として識別され
てしまい、信号部分空間の数に相当する数のピークに分裂して現れている。この状態では
、正しいドップラ周波数推定は行えない。
【0095】
図6(b)は同じ条件で、本実施の形態の構成を適用した場合のMUSICスペクトラ
ムである。1目標のピークが明確に1つになっており、精度の高い推定が可能であること
がわかる。
【0096】
本実施の形態は実際には、DSP(Digital Signal Processo
r)やFPGA(Field Programmable Gate Array)、あ
るいは通常のコンピュータ、さらにはASIC(Application Specif
ic Integrated Circuit)といったハードウェアに、デジタル回路
やプログラムという形態で実装される。従って、図1の各ブロックの機能分けは便宜上の
ものである。図7(a)は、本発明の実施の形態1に係るドップラ周波数検出器1の動作
処理を示すフローチャートである。
【0097】
本実施の形態は、初めに通常のFFTでスペクトルを得てから、ピークを整合させる逆
離散フーリエ変換にて同一移動速度のドップラシフトした受信信号のベースバンドでの波
長を全周波数ステップで揃えるようにしている。
【0098】
図8は実施の形態1に係るドップラ周波数の検出を説明するための模式図である。図8
(a)は、受信信号を各周波数ステップの送信時キャリア周波数でダウンコンバージョン
した、ドップラ周波数を中心周波数として持つベースバンド信号の波形を示している。周
波数ステップによってキャリア周波数が異なるため、同一速度の目標からの反射波であっ
ても、波長、すなわち、ドップラ周波数が異なっている。図8(b)はこれに通常のフー
リエ変換を施した場合であり、ドップラ周波数の違いによってスペクトルのピークの位置
が異なっている。上記の実施の形態では、これにピーク整合型の逆離散フーリエ変換を適
用して、図8(c)のように、時間波形で全周波数ステップで同一移動速度のドップラ周
波数が同一の波長となるように変換した。処理の流れを太い実線の矢印で示した。
【0099】
図8(d)は図8(c)の時間波形と対になるピークの揃ったスペクトルである。図8(
c)の波形をそのまま通常のフーリエ変換することで得られるスペクトルである。本実施
の形態とほぼ同じ動作は、太い破線の矢印で示すように、最初の時間波形図8(a)から
、そのドップラ周波数が全て揃うようにフーリエ変換を施して図8(d)のスペクトルを
得、そこから通常のFFTで図8(c)に到達することによっても得ることが可能である

【0100】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2について説明する。図9は、本発明の実施の形態2に係るドップ
ラ周波数検出器の構成を示す図である。なお、実施の形態1と同一構成については同一の
符号を付し重複する説明は省略する。ドップラ周波数検出器11には、周波数ホッピング
やステップ周波数合成帯域レーダなどの複数のキャリア周波数に対して同じ移動物体によ
ってドップラシフトを与えられた受信信号が入力される。これはベースバンド変換部2に
よって、キャリア周波数を除去されたドップラシフト分のみのベースバンド信号に変換さ
れる。
【0101】
これが、ピーク整合DFT部12に入力される。ピーク整合DFT部12には端子27
より別途、変換スケールが入力されている。変換スケールには、受信信号の元となる送信
波のキャリア周波数が周波数ホッピングやステップ周波数合成帯域レーダなどによって、
周波数バンドによってどのような比率となっているかが記述されている。ピーク整合DF
T部12は入力された変換スケールに基づいて、周波数バンド毎にフーリエ変換を行う際
の変換カーネルにおける参照周波数を変えて離散フーリエ変換する。1つの周波数バンド
について、複数の参照周波数で離散フーリエ変換を行いスペクトルを得る。その際、複数
の参照周波数は、ベースバンド信号のサンプル間隔で規定される周波数周期のほぼ1周期
が得られるように設定されていることが望ましい。
【0102】
得られたスペクトルは、IFFT(Inverse Fast Fourier Tr
ansform)部13にて、そのまま通常の逆フーリエ変換、すなわち、IFFTが適
用され、時間の次元に戻された変換サンプル列が生成される。変換サンプル列から、図1
と同様に周波数推定部5にて超解像度法にてドップラ周波数が推定され、その結果が出力
される。
【0103】
このようにすることによって、超解像度法によってドップラ周波数を推定する際、複数
種類のキャリア周波数があっても、全てのスナップショットで同一移動速度に対するステ
アリングベクトルをほぼ等しくすることができ、高い解像度、精度でのドップラ周波数推
定が可能になる。
【0104】
本実施の形態では、ピーク整合DFT部12で行われる離散フーリエ変換は、特許文献
1に記載された方法と同じコンセプトである。ただし、最終的に時間波形に戻したいため
、スペクトルを得た後に位相情報を捨てずに維持したまま利用する。また、利用しやすい
時間波形に戻すためには、ピーク整合DFT時の参照周波数の設定に注意が必要である。
【0105】
また、図1に示す本発明の実施の形態1の場合と異なり、参照周波数の選択の仕方を誤
ると目標が検出出来ない場合があり、良好な動作を得るためには参照周波数の選択・決定
方法には特に注意が必要である。
【0106】
次に、詳細な本発明の実施の形態2に係るドップラ周波数検出器11に係る動作処理を
説明する。(式6)までは、図1の場合と同じである。同様に、簡略化のために、次式で
表されるDFTに関連する最後の項のみを取り出して考える。
【数18】

【0107】
各周波数ステップiの変換スケールを変える、すなわち、フーリエ変換時に1フレーム
とみなす長さを変えるため、同一周波数ステップの複数サンプルの後ろにn個の0を付
加して、N+nを実質的なフレーム長とする系を考える。なお、nは必ずしも整数
ではない。これを周波数に比例するパラメータmについてフーリエ変換すると、フーリエ
変換係数C(〜)i、m
【数19】

【0108】
となる。2番目のe以降がこの離散フーリエ変換のカーネルである。なお、DFTである
のでmは必ずしも整数でなくて良い。
【0109】
DFT後に各周波数ステップのスペクトルのピークを揃えることが目的である。そのた
めには、(式19)の周波数ピークに相当する部分は次式で表されるが、
【数20】

【0110】
(式20)で表される周波数ピークに相当する部分がiによらず一定になるようにn
値を決定すればよい。Fを0番目の周波数Fを用いて表現すると、ピーク周波数は、
次式で表される。
【数21】

【0111】
ここで、
【数22】

【0112】
が、iによらず一定になるようにnの値を決定すればよい。まず、
【数23】

【0113】
と置く。bはnが負のような実現できない値にならない限り、いくつでも良い。計算を
簡便にするために、ここでは、b=1/(N)と置くと、nを解くことができて

【数24】

【0114】
となる。(式10)では、N+n(〜)は周波数ステップのキャリア周波数に比例した
が、ここでは、N+nは周波数ステップのキャリア周波数に反比例している。すなわ
ち、周波数ではなく波長に比例している。
【0115】
幾つか適切なmを選んで、(式19)のフーリエ変換を各周波数ステップのパルス列に
対して行うことによって、ピークの揃ったDFT結果を得ることができる。なお、DFT
は、式の導出の過程で省略してきた(式5)中のαまで含んだ受信サンプル列に対して行
う。
【0116】
図10に本発明の実施の形態2に係るピーク整合DFT部12によって得られるスペク
トルを示す。図10(a)は複数の周波数ステップのパルス列を通常のFFTでスペクト
ルに変換したものを、全周波数ステップ分重ね書きしたものであるが、目標の条件を周波
数選択性フェージングが発生する条件としたため、周波数ステップによって受信パワーが
異なっている。ピークを合わせずにそのままノンコヒーレント加算すると、ピーク位置は
パワーの強い周波数ステップのピーク位置に近づく。加算結果のピークを中心周波数に対
するドップラ周波数とみなして推定を行うと誤差が増大する。
【0117】
なお、SNRは100dBと十分に高い。図10(b)は、ピーク整合DFTを適用し
た場合であり、全ての周波数ステップでピーク位置が揃っておりノンコヒーレント加算を
行っても、周波数ステップ毎のパワーの強弱が問題にならないことが分かる。なお、図1
0(b)の横軸の次元はFFTビン番号ではなくmであるため、上段の図とは横軸の範囲
が異なっている。
【0118】
MUSICに適用する相関行列を得るためには、ピーク整合DFTで得られたスペクト
ルを逆フーリエ変換する必要がある。図10(b)のmは、ノンコヒーレント加算してピ
ーク検出を行う分には、ピークを含む範囲に限定して適当な間隔(不等間隔でも良い)で
設定すればよかった。
【0119】
しかし、逆フーリエ変換してMUSICにかけた際に、本来のドップラ周波数検出範囲
に含まれる全ての周波数成分が含まれているようにし、かつ、範囲の端にある信号がほぼ
不連続にならないように検出するには、mの範囲をFFTを適用した際のドップラ周波数
折り返しの1周期に合わせる必要がある。また、通常の逆フーリエ変換を適用するために
は、mは等間隔でなければならない。さらに、望ましくは逆フーリエ変換を高速なIFF
Tで行うためには、その数が2の冪乗であると良い。
【0120】
なお、ピーク整合を行わない場合は、いずれの周波数でも折り返し範囲は1/Tであ
るが、ピーク整合DFTは周波数ステップ毎にスケールを変える変換であるため、例えば
、周波数ステップ0で1/Tに相当するようにmの範囲を決定しても、そのmの範囲は
他の周波数ステップに対しては1/Tから若干ずれた値となる。(式24)のnを利
用した場合、mはある移動速度vに対応して、次式で表される。
【数25】

【0121】
ここで、fd、iはi番目の周波数ステップに対応するドップラ周波数である。周波数ス
テップiで、1/Tの折り返し範囲に相当するm範囲をmとすると、mはfd、
に1/Tを代入して、
【数26】

【0122】
となる。一方、mの範囲は でないキャリア周波数、すなわちiでない周波数ステッ
プのキャリア周波数に対しては、1/Tの周波数範囲には対応しなくなる。(式25)
の左辺をmと置き、fd、iをその周波数ステップでのmに対応する周波数範囲f
ep、iと置き直すと、
【数27】

【0123】
となる。これよりfrep、iは下記のようになる。
【数28】

【0124】
すなわち、各周波数ステップ毎のキャリア周波数に比例する形で、mに対応する周波
数が大きくなっていく。iより番号の小さい周波数ステップではmに対応する範囲は
1/Tより小さいため、スペクトルの端が欠けるような状態となり、それより番号の大
きい周波数ステップでは、mに対応する範囲は1/Tより大きいためスペクトルの始
まりと終わりに小さい範囲であるが同じ成分が現れることになる。
【0125】
これをIFFTした際、欠けがあればその成分がIFFT後の波形から抜けているし、
重複があれば2重に出てくることになる。1周波数ステップのパルス数が少なく1目標の
ドップラ周波数成分が広がる範囲が比較的広い場合には、このような欠けや重複はパルス
列に対する変調として働く。すなわち、ステアリングベクトルの各要素の振幅が1でない
値でばらついたり、位相間隔が不均等になるなどして、推定に悪影響を与える。
【0126】
従って、全体を平均的に1/Tに近づけるため、iは中央の周波数ステップに対応
する番号とするとよい。または、全体の帯域幅の中央近辺の周波数に対してmが規定さ
れるようにすると良い。
【0127】
このようにして求めたmの範囲を2の冪乗のポイントで等間隔にサンプルする。m
の開始点は、検出したい目標のドップラ周波数を含むように決定すればよく、必ずしも、
本来のスペクトルの折り返しの開始点と一致する必要はない。従って、予めある程度、目
標のドップラ周波数の目安があるならば、その値が範囲の中央近辺にくるように、開始点
を定めると良い。
【0128】
また、mの範囲で2の冪乗の点でサンプルした結果をIFFTすると、その結果の有
効点数は、元の各周波数ステップのパルス数の点数となり、後は全てほぼ0になる。従っ
て、元がパルス数Nであるならば、N点サンプルするとよい。それ以下の点数では必
要な情報が落ちてしまい、それ以上の点数では計算負荷ばかりが増大し効果がない。IF
FTの点数を2の冪乗にするためには、Nを2の冪乗にすると良い。
【0129】
このようにして、各周波数ステップについて、それぞれN点ずつピーク整合DFTを
適用してスペクトルを生成したならば、これらを再度IFFTして時間波形に戻す。ただ
し、その際は、N点のスペクトルをN点の時間波形に変換する通常のIFFTで良い
。周波数ステップ毎に逆フーリエ変換カーネルを変えることはしない。これによって、各
周波数ステップで同一目標のドップラ周波数が揃ったパルス列に変換できる。
【0130】
実施の形態1と同様に本実施の形態でも、フーリエ変換、逆フーリエ変換は、元の時間
波形の次元に戻す様に行われるため、変換の際には窓を掛けず、矩形窓のまま変換を行う

【0131】
得られた変換パルス列から相関行列を生成して、超解像度法によってドップラ周波数推
定する処理は、図1の形態と同様なので詳細は省略する。ただし、mの範囲の開始点を
任意に設定したため、超解像度法で得られたピークの位置pからドップラ周波数や移動
速度を計算する式が若干変化する。ドップラ周波数はm開始点に対応する周波数+1/
×p、移動速度はこれにc/{f00×2×(1+i×C)}を掛けた値とな
る。
【0132】
図11は、図5と同様の目標条件でドップラ周波数推定を行った結果である。図11(
a)は、図5(a)と同様にFFTの結果であり、2目標が全く分離出来ていない。図1
1(b)は本実施の形態の方法によって推定を行った結果であり、2目標が明確に分離出
来ている。なお、図11(b)では、中央近辺の目標がmの範囲のほぼ中央にあるよう
に、mの開始点を決定したため、図11(a)とは、ピークの位置が異なっている。
【0133】
なお、図5、及び図11ともに(b)は、便宜的にFFTの場合と横軸を合わせて表示
している。どちらも、本来は、f×Tの0〜1の範囲となっている。なお、本発明の実
施の形態2に係る周波数検出器11の動作処理を示すフローチャートを図7(b)に示す

【0134】
本実施の形態では、サンプル列から、超解像度法に適用する変換サンプル列を得る過程
で、一旦、スペクトルに変換する。そこで、図1、図9の実施の形態ともに、もし、検出
すべきドップラ周波数の予想が予め付いているならば、スペクトルに変換した時点で、予
想される周波数の周辺以外の成分をフィルタして除去してもよい。すなわち、検出したい
成分の広がりや変動を考慮した範囲の外は、スペクトルにした段階で0に置き換える。こ
のようにすることによって、SNRを向上させ、推定精度を高めることが出来る。
【0135】
0に置き換える替わりに、必要な成分以外の周波数を変換・逆変換に含めないことも可
能である。すなわち、本発明の実施の形態1であれば、逆離散フーリエ変換を行う際に、
周波数の範囲を必要な周波数範囲に限定する。DFTであるので、参照時刻の点数は、周
波数の点数には影響を受けない。必要な数だけ、等間隔になるように指定すればよく、周
波数の範囲を制限しても変換サンプル列の点数が不足することはない。ただし、k(〜)は
整数でないkに対応するようになる。本発明の実施の形態2であれば、離散フーリエ変換
を行う際に、必要な周波数の周辺のみ参照周波数を設定するようにして、同様に処理すれ
ばよい。これらの場合には、推定後にドップラ周波数を得る際の1周期の値、サンプル間
隔、周期の開始点などがこれまでの説明と異なるので、必要に応じて修正すると良い。
【0136】
さらに、スケール変更をフーリエ変換、逆フーリエ変換のいずれか一方を選択して行う
のではなく、各変換でそれぞれスケール変更の一部を行って、フーリエ変換、逆フーリエ
変換の双方が終了した時点でスケール変更が完了するようにしても良い。
【0137】
さらに、合成帯域レーダのパルスの並びは図2のようであると説明したが、非特許文献
2に記載されたような、1周波数ステップ1パルスで全周波数ステップを掃引し、これを
繰り返すような形態にも問題なく適用できる。この場合、同一周波数ステップの入力サン
プル列の時間間隔が、PRIであるTではなく、1掃引の周期になる。
【0138】
(実施の形態3)
続いて、実施の形態3について説明する。図12は、本発明の実施の形態3に係るレー
ダ装置23の構成を示す図である。なお、実施の形態1、及び実施の形態2と同一構成に
ついては同一の符号を付し重複する説明は省略する。本実施の形態ではドップラ周波数検
出器1、或いはドップラ周波数検出器11を合成帯域レーダに適用した場合の実施の形態
である。
【0139】
レーダ装置23は合成帯域レーダである。周波数制御部28は、発振器17に対して、
例えば、図2のような順序とタイミングで発振周波数を切り換える指示を出す。送信部1
8は、その発振器出力を受けて、図2のようなパルス列を生成する。生成されたパルス列
は、サーキュレータ29を介して、アンテナ16から電波として放射される。目標で反射
して返ってきた反射波は、アンテナ16で受信され、サーキュレータ29を介して受信R
F部19に入力される。受信RF部19では、増幅器で増幅され、また、必要な帯域が濾
波される。場合によっては、発振器17に同期した異なる周波数のローカル信号によって
、第1中間周波数にダウンコンバートされる。得られた信号はドップラ検出器1または1
1に入力する。ドップラ検出器1または11には、各パルスのドップラ周波数成分が中心
周波数となるように、発振器17からのローカル信号が入力されている。仮に、受信RF
部19で第1中間周波数にダウンコンバートされているならば、発振器17に同期した異
なる周波数のローカル信号が入力される。ドップラ検出器1または11には、さらに、周
波数制御部28から、送信周波数に関する情報が変換スケールとして入力されている。な
お、変換スケールは、決定後、不変であるならば、予めドップラ検出器1または11の内
部に記憶しておいても良い。
【0140】
ドップラ検出器1または11が推定したドップラ周波数は、移動速度計算部14に入力
される。移動速度計算部14は、これより、その目標の相対移動速度を計算する。ドップ
ラ検出器1または11はさらに、得られた各周波数ステップの周波数スペクトルまたは各
周波数ステップの復調パルス列を周波数ステップ代表値抽出部20に入力する。周波数ス
テップ代表値抽出部20は、入力された周波数スペクトルまたは復調パルス列から、移動
速度計算部14から入力された移動速度に基づいて、1周波数ステップ1点の周波数ステ
ップ代表値を抽出する。周波数ステップ代表値抽出は、基本的には、各周波数ステップの
スペクトルのピーク、あるいは、移動速度からピークと推測される周波数の複素振幅を抽
出する処理である。
【0141】
スペクトルが十分に細かい周波数間隔で計算されているならば、その移動速度から計算
される各周波数ステップのドップラ周波数に最も近いピークの複素振幅でよい。スペクト
ルが粗い間隔でしか計算されていないならば、その移動速度から計算されるドップラ周波
数に対応する複素振幅を、復調パルス列から離散フーリエ変換によって求めても良い。
【0142】
抽出された周波数ステップ代表値は、補正部21に入力される。補正部21には、移動
速度計算部14から移動速度が入力されており、それに基づいて、目標の移動に伴うパル
ス間の時刻ずれが補正される。補正された結果はレンジ計算部22に入力される。レンジ
計算部22では、通常、入力された周波数ステップ代表値をIFFTして、そのピークを
検出してレンジを計算する。なお、殆どの場合、IFFT、FFTとピーク検出で求めら
れるパラメータは、MUSICなどの超解像度法でも推定出来るので、IFFTの代わり
にMUSICなどの超解像度法でピークを求めてレンジを計算しても良い。SNR次第で
は、超解像度法の方がより近接した複数目標を分離出来る可能性がある。基本的な原理は
、従来例で説明した周波数検出MUSICを時刻検出に変形するものである。このように
計算されたレンジはレーダ装置23の出力として、必要に応じてドップラ周波数または移
動速度とともに出力される。
【0143】
このようなレーダ装置23は、飛翔体を誘導するための誘導情報を生成する電波シーカ
として利用されることがある。図13に示すように誘導情報を生成する誘導装置25内で
は、本願のレーダ装置23から出力された、レンジ、移動速度に関する情報が誘導信号生
成部24に入力される。
【0144】
なお、誘導に必要な角度情報は、必要に応じて、レーダ装置23の内部か、レーダ装置
23から出力された合成帯域IFFT後波形ピークの複素値に基づいて、誘導信号生成部
24内で生成される。その場合、電波の到来角を推定するための複数アンテナなどの構成
が誘導装置25内に組み込まれている必要があるが、本願の発明の内容とは直接関係しな
いため、説明を省略する。
【0145】
誘導信号生成部24では、レーダ装置23から入力された情報に基づいて、飛翔体を誘
導するための制御信号である誘導信号を生成し、飛翔体の飛翔方向、速度を制御する図示
しない駆動部を制御する。
【0146】
本発明の適用範囲はレーダに限らない。周波数が変化する比率は既知であるが、具体的
な数値が未知である場合にその数値を検出する用途に使用できる。例えば、周波数ホッピ
ング信号を他端末が出力しているが、自端末とは発振器が同期していないような場合に、
他端末の信号を受信して、超解像度法によって周波数を推定するような場合に適用できる

【0147】
また、周波数に限らずパルスの時刻を推定する場合にも適用できる。パルス時刻が変化
する割合は既知であるが、その絶対的な時刻は不明であるような場合に適用できる。また
、距離と時刻の次元は定数のかけ算の関係にあるので、同様に、距離検出にも利用できる
。さらに、一様リニアアンテナアレイに入力する1つの到来波の周波数が周波数ホッピン
グなどの理由によって、時間によって大きく変化し、アンテナアレイのアンテナ間隔を定
義する波長を一意に決められないような場合にも適用できる。
【0148】
このように、本発明は、入力された複数のサンプル列が以下のような条件を満たす場合
に適用できる。すなわち、(1)ステアリングベクトルの各要素間の位相が等間隔である
こと、すなわち、フーリエ変換または逆フーリエ変換に適したサンプルの並びであること
、(2)当初得られるサンプル列では、サンプル列毎にそのステアリングベクトル要素間
の位相間隔が異なっており、そのままでは正しい相関行列が作れないが、位相間隔が異な
る割合が既知であること、である。このような場合、本発明を適用することによって、超
解像度法による推定を高精度化することが可能となる。
【0149】
(実施の形態4)
図14は本発明の実施の形態4に係るパラメータ検出器106の構成を示す図である。
【0150】
図14のパラメータ検出器106に、上記のような条件を満たした複数のサンプル列が入
力される。サンプル列はスナップショット生成部107に入力される。まず、変換部10
8において、通常のフーリエ変換または逆フーリエ変換が適用される。
【0151】
その結果は、スケール可変変換部103に入力され、変換部108で施した変換がフー
リエ変換である場合には、スケールを可変にした逆離散フーリエ変換、変換部108で施
した変換が逆フーリエ変換である場合には、スケールを可変にした離散フーリエ変換が施
されて、元のサンプル列と同じ次元の変換サンプル列を生成する。スナップショット計算
部104では、このような変換サンプル列から必要に応じて適切な長さのサンプル列を切
り出して、スナップショットを生成する。そのままの長さでよい場合には、スナップショ
ット計算部104は何もしない。超解像度法実行部105は、生成したスナップショット
を相関行列の形にして、超解像度法を実行し、周波数、時刻、角度などのパラメータを出
力する。図15は、本発明の実施の形態3に係るパラメータ検出器106の動作処理を示
すフローチャートである。
【0152】
(実施の形態5)
図16は、本発明の実施の形態5に係るパラメータ検出器109の構成を示す図である
。図14に示す本発明の実施の形態4に係るパラメータ検出器106とは変換部108と
スケール可変変換部103との位置が逆になっている。パラメータ検出器109に入力す
る同様のサンプル列はスナップショット生成部110において、まず、スケール可変変換
を受ける。スケール可変は、スケール可変の離散フーリエ変換または、スケール可変の逆
離散フーリエ変換である。スケール可変変換部103での変換が離散フーリエ変換である
場合、変換部108では逆フーリエ変換、スケール可変変換部103での変換が逆離散フ
ーリエ変換である場合には、変換部108ではフーリエ変換が行われる。それ以降は図1
4と同様である。図17は、図16に対応したフローチャートである。
【0153】
なお、元々入力されるサンプル列と異なる次元で、相関行列を生成したい場合がある。
【0154】
すなわち、上述の合成帯域レーダの例であれば、パラメータ検出器に入力されるサンプル
列がパルス列ではなく、既に何かの前処理で、スペクトルになっている場合である。これ
までの例は、必ず、フーリエ変換と逆フーリエ変換がセットになっていたが、次元が異な
る状態で入力されるような場合には、変換はいずれか1回で良く、スケールを可変にした
離散タイプの変換を1回行えばよい。
【0155】
この場合、パラメータ検出器101は図18に示す構成となる。パラメータ検出器10
1に入力されるサンプル列は、前処理で既に何かの変換を受けているか、あるいは、受信
の時点で次元が異なっているサンプル列である。これが、スケール可変変換部103でス
ケール可変の離散フーリエ変換か逆離散フーリエ変換を受ける。フーリエ変換か逆変換か
は、入力されるサンプル列の次元によって異なる。変換を受けて得られた変換サンプル列
は、図14、図16と同様に、スナップショットにされ、相関行列にされ、超解像度推定
されて、推定パラメータが出力される。図19は、図18に示すパラメータ検出器101
に対応する動作処理のフローチャートである。
【0156】
なお、本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその
要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示
されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば
、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異
なる実施の形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0157】
1 ドップラ周波数検出器
2 ベースバンド変換部
3 FFT部
4 ピーク整合IDFT部
5 周波数推定部
6 相関行列生成部
7 超解像度法実行部
8 ダウンコンバージョン部
9 A/D変換部
10 復調部
11 ドップラ周波数検出器
12 ピーク整合DFT部
13 IFFT部
14 移動速度計算部
15 速度検出器
16 アンテナ
17 発振器
18 送信部
19 受信RF部
20 周は数ステップ代表値抽出部
21 補正部
22 レンジ計算部
23 レーダ装置
24 誘導信号生成部
25 誘導装置
26、27 変換スケール入力端子
28 周波数制御部
29 サーキュレータ
101 パラメータ検出器
102 スナップショット生成部
103 スケール可変変換部
104 スナップショット計算部
105 超解像度法実行部
106 パラメータ検出器
107 スナップショット生成部
108 変換部
109 パラメータ検出器
110 スナップショット生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリア周波数が異なる複数の周波数バンドからなる周波数ホッピングの信号がドップ
ラシフトを受けて周波数が変化した受信信号について、各周波数バンドの受信信号を、各
々、当該周波数バンドの送信時周波数との差周波数を有する複数サンプルのベースバンド
信号に変換するベースバンド変換部と、
前記各周波数バンドの複数サンプルからなるベースバンド信号を各々フーリエ変換して、
周波数スペクトルを生成するフーリエ変換部と、
前記周波数スペクトルを変換後の同一時刻ビン番号に関して、周波数バンド毎に前記キャ
リア周波数に対応して異なる参照時刻で逆離散フーリエ変換して変換サンプル列を得る逆
フーリエ変換部と、
前記複数の周波数バンドに対応する逆離散フーリエ変換された前記変換サンプル列を用い
て相関行列を生成し、超解像度法によりドップラ周波数を検出する周波数検出部と、
を有することを特徴とするパラメータ検出器。
【請求項2】
前記逆フーリエ変換部は、
複数の前記参照時刻の間隔が、いずれかの周波数バンドのキャリア周波数に対して前記複
数サンプルのベースバンド信号の時刻間隔と等しくなるよう参照時刻を設定することを特
徴とする請求項1記載のパラメータ検出器。
【請求項3】
キャリア周波数が異なる複数の周波数バンドからなる周波数ホッピングの信号がドップ
ラシフトを受けて周波数が変化した受信信号について、各周波数バンドの受信信号を、各
々、当該周波数バンドの送信時周波数との差周波数を有する複数サンプルのベースバンド
信号に変換するベースバンド変換部と、
前記各周波数バンドの複数サンプルからなるベースバンド信号を、変換後の同一周波数ビ
ン番号に関して、周波数バンド毎に前記キャリア周波数の波長に対応して異なる参照周波
数で離散フーリエ変換して周波数スペクトルを生成するフーリエ変換部と、
前記周波数スペクトルを逆フーリエ変換して変換サンプル列を得る逆フーリエ変換部と、
逆フーリエ変換された複数の周波数バンドに対応する前記変換サンプル列を用いて相関行
列を生成し超解像度法によりドップラ周波数を検出する周波数検出部と、
を有することを特徴とするパラメータ検出器。
【請求項4】
前記フーリエ変換部は、
フーリエ変換後の複数の周波数ビンに対応する前記参照周波数の範囲を前記複数の周波数
バンドの中心周波数、または、前記複数の周波数バンドの中央の周波数バンドに対して、
前記複数サンプルのベースバンド信号の時刻間隔に対応して決定する周波数となるように
決定することを特徴とする請求項3記載のパラメータ検出器。
【請求項5】
一系列の前記変換サンプル列のサンプル個数は、一系列の前記複数サンプルのベースバ
ンド信号のサンプル個数と等しいことを特徴とする請求項3記載のパラメータ検出器。
【請求項6】
前記超解像度法は、
MUSICであることを特徴とする請求項1記載乃至請求項4記載のパラメータ検出器。
【請求項7】
前記ドップラ周波数からドップラシフトの原因となる移動速度を計算する移動速度計算
部を更に有することを特徴とする請求項1記載乃至請求項6記載のパラメータ検出器。
【請求項8】
中心周波数を前記複数の周波数バンドに対応してステップ状に変化させた複数のパルス
の目標からの反射波を受信する受信部と、
請求項7記載のパラメータ検出器と、
を有し、
前記ベースバンド変換部は、
前記パルスを復調し、復調後のパルスからパルス代表値を抽出して前記複数サンプルのベ
ースバンド信号とし、
さらに、
前記推定した移動速度に基づいて前記各周波数バンドの周波数ステップ代表値を抽出し、
前記推定した移動速度に基づいて前記周波数ステップ代表値を補正し、前記補正後の周波
数ステップ代表値から前記目標のレンジを推定するレンジ推定部を、
有することを特徴とするステップ周波数合成帯域型のレーダ装置。
【請求項9】
請求項8記載のレーダ装置から出力される移動速度およびレンジを用いて誘導飛翔体を
誘導するための制御信号を生成することを特徴とする誘導装置。
【請求項10】
入力された複数のサンプル列から、複数のスナップショットを生成するスナップショッ
ト生成部と、
前記複数のスナップショットから相関行列を生成して、検出対象の情報を超解像度法によ
り推定する超解像度法実行部と、
を有し、
各サンプル列に含まれる前記検出対象の情報を示すパラメータの値が、同一検出対象であ
ってもサンプル列によって異なっており、かつ、前記パラメータの値が同一検出対象につ
いてサンプル列毎に異なる比率が既知であるとき、
前記スナップショット生成部は、
前記複数のサンプル列に少なくとも1回のフーリエ変換、または、逆フーリエ変換を施し
、そのうち少なくとも1回の前記変換の際に、前記比率に対応して変換のスケールを変更
して前記複数のスナップショットを得ることを特徴とするパラメータ検出器。
【請求項11】
前記超解像度法は、
MUSIC、ESPRIT、MODEの何れかであることを特徴とする請求項10記載の
パラメータ検出器。
【請求項12】
前記検出対象の情報は、
速度、距離、或いは角度の何れかであり、
前記パラメータは、
周波数、時刻、アンテナ間隔に対する遅延量の比であることを特徴とする請求項10記載
のパラメータ検出器。
【請求項13】
入力された複数のサンプル列から複数のスナップショットを生成し、前記複数のスナッ
プショットから相関行列を生成して検出対象の情報を超解像度法により推定するパラメー
タ検出方法において、
各サンプル列に含まれる前記検出対象の情報を示すパラメータの値が、同一検出対象であ
ってもサンプル列によって異なっており、かつ、前記パラメータの値が同一検出対象につ
いてサンプル列毎に異なる比率が既知であるとき、
前記複数のサンプル列に少なくとも1回のフーリエ変換、または、逆フーリエ変換を施し
て前記複数のスナップショットを得て、そのうち少なくとも1回の前記変換の際に前記比
率に対応して変換のスケールを変更することを特徴とするパラメータ検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−78187(P2012−78187A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−223193(P2010−223193)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】