説明

パラレル式ハイブリッド車両制御方法及びパラレル式ハイブリッド車両制御装置

【課題】エンジン走行とモータ走行の切り換え時のトルク変動を小さくするパラレル式ハイブリッド車両の制御方法及び制御装置を提供する。
【解決手段】エンジン走行からモータ走行への切り換え時に、エンジン回転速度を維持したままエンジンを無負荷運転し、このときの図示トルクから摩擦トルク推定値を推定し、過去のエンジン走行中のエンジン状態から摩擦トルク計算値を計算し、摩擦トルク計算値と摩擦トルク推定値との差分に基づいて摩擦トルク補正値を求め、モータ走行からエンジン走行への切り換え時に、エンジンへの要求トルクに摩擦トルク計算値と摩擦トルク補正値を加算して目標図示トルクとし、図示トルクが目標図示トルクとなるように燃料噴射量を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン走行とモータ走行の切り換え時のトルク変動を小さくするパラレル式ハイブリッド車両の制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにより走行する車両において、エンジンが軽負荷のとき、燃焼によって発生するエンジン図示トルク(以下、図示トルクという)に対してエンジン摩擦トルク(以下、摩擦トルクという)が相対的に大きいため、摩擦トルクによってエンジンの熱効率が悪化し、燃費が低下する。
【0003】
摩擦トルクの要因には、ピストンの摩擦、クランク軸受けの摩擦、動弁系の摩擦がある。摩擦トルクは、エンジン温度、エンジン個体差、経時変化によってバラツキが大きい。
【0004】
これに対し、エンジンとモータにより走行するパラレル式ハイブリッド車両は、エンジン走行とモータ走行が切り換えできるように構成される。パラレル式ハイブリッド車両では、エンジンの熱効率が悪化する軽負荷時にモータ走行することで、燃費を向上させることができる。パラレル式ハイブリッド車両では、エンジン走行からモータ走行に切り換える条件とモータ走行からエンジン走行に切り換える条件が設定されており、条件が満たされると切り換え制御が行われる。
【0005】
ここで、エンジンから取り出される出力トルクであるエンジン正味トルク(以下、正味トルクという)と、図示トルクと、摩擦トルクとの関係は、
正味トルク=図示トルク−摩擦トルク
となる。すなわち、図示トルクから摩擦トルクを差し引いた正味トルクがエンジンから取り出される。エンジン走行では、エンジンから取り出される正味トルクで車両が駆動されるので、
エンジンによる車両駆動トルク=正味トルク
となる。
【0006】
エンジン走行とモータ走行の切り換えの途中段階では、エンジンとモータの両方で車両が駆動されるので、車両が受ける車両駆動トルクは、
車両駆動トルク=エンジンによる車両駆動トルク
+モータによる車両駆動トルク
となる。
【0007】
図5に示されるように、従来のパラレル式ハイブリッド車両制御装置51は、エンジンを制御するエンジン制御ECU52と、変速機を制御するAMT制御ECU53と、モータを制御するモータ制御ECU54と、各ECUを統合して制御する統合ECU55とを備える。エンジン制御ECU52は、統合ECUから指令されたエンジン要求トルクに基づき、エンジン要求トルクとエンジン回転速度とで参照される噴射量マップから燃料噴射量を求めるものである。AMT制御ECU53は、統合ECU55から指令されたギア段に基づいて変速機及びクラッチのアクチュエータを動作させてギア段変更を行うものである。モータ制御ECU54は、統合ECU55から指令されたモータ要求トルクに応じてモータへの印加電力を制御するものである。
【0008】
統合ECU55には、ドライバ操作アクセル開度(アクセル位置)とエンジン回転速度とで参照されるドライバ要求トルクマップ56と、ドライバ要求トルクを含むいくつかのエンジンパラメータで表されるエンジン状態に基づいてエンジン走行とモータ走行の切り換え及び要求トルク配分を行うエネルギマネジメント部57とを備える。
【0009】
図示しないが、パラレル式ハイブリッド車両では、エンジンがクラッチを介して変速機のインプットシャフトに連結されており、変速機のカウンタシャフトまたはアウトプットシャフトに対してモータのシャフトが連結されている。モータ走行では、クラッチを切断状態にしてモータによる車両駆動が行われ、エンジン走行では、クラッチを接続状態にしてエンジンによる車両駆動が行われる。切換の過渡期には、クラッチを接続状態にしてエンジンとモータによる車両駆動が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−285038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、エンジン走行とモータ走行の切り換えを行ったとき、トルク変動が生じると、車両速度が一時的に変動して好ましくない。したがって、エンジン走行とモータ走行との切り換えに際し、エンジン走行時のエンジンによる車両駆動トルク(以下、エンジントルクという)と、モータ走行時のモータによる車両駆動トルク(以下、モータトルクという)とが同じになるよう制御してトルク変動を解消するのが望ましい。
【0012】
しかし、一般に、モータトルクを目標値に制御する場合は制御精度が高いのに対し、エンジントルクを目標値に制御する場合は、摩擦トルクのバラツキが大きいことの影響により、制御精度が低い。これによって、エンジントルクが目標値から逸脱すると、エンジン走行とモータ走行の切り換え時にトルク変動が生じてしまう。なお、エンジン状態に基づいて摩擦トルクを計算し、摩擦トルク計算値で要求トルクを補正することができる。しかし、摩擦トルクのバラツキが大きいために実際の摩擦トルク(実摩擦トルク)が摩擦トルク計算値と異なるときには補正が不十分となる。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、エンジン走行とモータ走行の切り換え時のトルク変動を小さくするパラレル式ハイブリッド車両の制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明のパラレル式ハイブリッド車両制御方法は、エンジン走行からモータ走行への切り換え時に、エンジン回転速度を維持したままエンジンを無負荷運転し、このときの図示トルクから摩擦トルク推定値を推定し、過去のエンジン走行中のエンジン状態から摩擦トルク計算値を計算し、摩擦トルク計算値と摩擦トルク推定値との差分に基づいて摩擦トルク補正値を求め、モータ走行からエンジン走行への切り換え時に、エンジンへの要求トルクに摩擦トルク計算値と摩擦トルク補正値を加算して目標図示トルクとし、図示トルクが目標図示トルクとなるように燃料噴射量を制御するものである。
【0015】
本発明のパラレル式ハイブリッド車両制御装置は、エンジン走行とモータ走行を切り換えるパラレル式ハイブリッド車両の制御装置において、エンジン走行からモータ走行への切り換え時に、エンジン回転速度を維持したままエンジンを無負荷運転し、このときの図示トルクから摩擦トルク推定値を推定する摩擦トルク推定値推定部と、過去のエンジン走行中のエンジン状態から摩擦トルク計算値を計算する摩擦トルク計算値計算部と、摩擦トルク計算値と摩擦トルク推定値との差分に基づいて摩擦トルク補正値を計算する摩擦トルク補正値計算部と、モータ走行からエンジン走行への切り換え時に、エンジンへの要求トルクに摩擦トルク計算値と摩擦トルク補正値を加算して目標図示トルクとし、図示トルクが目標図示トルクとなるように燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御部とを備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明は次の如き優れた効果を発揮する。
【0017】
(1)エンジン走行とモータ走行の切り換え時のトルク変動を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態を示すパラレル式ハイブリッド車両制御装置のエンジン制御部分のブロック構成図である。
【図2】従来技術において要求トルクとエンジントルクとが一致する場合のタイミングチャートである。
【図3】従来技術において要求トルクとエンジントルクとが一致しない場合のタイミングチャートである。
【図4】本発明により不具合が補正された場合のタイミングチャートである。
【図5】従来のパラレル式ハイブリッド車両制御装置の全体ブロック構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】
本発明は、図5で説明したパラレル式ハイブリッド車両制御装置51のエンジン制御ECU52の内部を改良したものであり、その改良されたエンジン制御部分を図1に示す。
【0021】
図1に示されるように、本発明のパラレル式ハイブリッド車両制御装置1は、エンジン走行からモータ走行への切り換え時に、エンジン回転速度を維持したままエンジンを無負荷運転し、このときの図示トルク(燃料噴射量とエンジン回転速度とにより図示トルクマップを参照して求められる;公知)から摩擦トルク推定値を推定する摩擦トルク推定値推定部2と、過去のエンジン走行中のエンジン状態(エンジン回転速度、エンジン温度、燃料噴射量)から公知の計算式により摩擦トルク計算値を計算する摩擦トルク計算値計算部3と、摩擦トルク計算値と摩擦トルク推定値との差分に基づいて摩擦トルク補正値を計算する摩擦トルク補正値計算部4と、モータ走行からエンジン走行への切り換え時に、エンジンへの要求トルクに摩擦トルク計算値と摩擦トルク補正値を加算して目標図示トルクとし、図示トルクが目標図示トルクとなるように燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御部5とを備える。
【0022】
エネルギマネジメント部57(図5参照)は、下記のモータ走行開始AND条件1〜3をチェックし、モータ走行開始AND条件1〜3が全て満たされるときクラッチを切断状態にし、エンジンを停止またはアイドル状態とし、モータ走行する。モータ走行では、
モータ要求トルク=ドライバ要求トルク
エンジン要求トルク=0(停止またはアイドル状態)
という制御が行われることになる。
【0023】
ここで、モータ走行開始AND条件は、
条件1.要求トルクとエンジン回転速度とで参照されるエンジン熱効率が閾値(例えば、20%)未満であること、すなわち
エンジン熱効率<閾値
条件2.バッテリ充電状態がモータ走行開始可能な状態であること、すなわち
バッテリSOC>モータ走行開始バッテリSOC下限値
条件3.ドライバに急加速の意志がないこと、すなわち
ドライバ操作アクセル開度の差分値<加速判定アクセル開度差分下限値
である。
【0024】
エネルギマネジメント部57は、次のモータ走行終了OR条件1〜3をチェックし、モータ走行終了OR条件が1つでも満たされるときエンジンの回転速度を車両側に合わせてクラッチを接続状態にしてエンジン走行に戻る。
【0025】
ここで、モータ走行終了OR条件は、
条件1.要求トルクがモータ走行に適した値より大きいこと、すなわち
要求トルク>モータ走行終了要求トルクしきい値
条件2.バッテリ充電状態(SOC)がモータ走行を終了しなくてはならない状態であること、すなわち
バッテリSOC<モータ走行終了バッテリSOC下限値
条件3.ドライバに急加速の意志があること、すなわち
ドライバ操作アクセル開度の差分値>加速判定アクセル開度差分下限値
である。
【0026】
エネルギマネジメント部57は、次の手順でエンジン走行からモータ走行に切り換える。
ステップS11.モータ走行開始AND条件1〜3が全て満たされたことにより、モータ走行開始を判定する。
ステップS12.エンジントルクを減少させ、モータトルクを増加させる。
ステップS13.エンジントルクが0になったら、エンジン回転速度を維持したままクラッチを切り始める。
ステップS14.クラッチが切断状態になったら、エンジンをモータ走行直前のエンジン回転速度で無負荷運転し、この無負荷運転中に後述する摩擦トルク推定を行い、摩擦トルク推定が終了後、エンジンをアイドル状態にする。
ステップS15.エンジンを停止させるかどうかを判定する。
ステップS16.エンジンを停止させる。
ただし、ステップS15、S16は、モータ走行中にエンジンを停止する仕様のときに実行される。
【0027】
エネルギマネジメント部57は、次の手順でモータ走行からエンジン走行に切り換える。
ステップS21.モータ走行終了OR条件が1つでも満たされたことにより、モータ走行終了を判定する。
ステップS22.エンジンが停止している場合はエンジンを始動する。
ただし、ステップS22は、モータ走行中にエンジンを停止する仕様のときに実行される。
ステップS23.エンジン回転速度をインプットシャフト回転速度に同期させる。
ステップS24.エンジン回転速度がインプットシャフト回転速度に同期したら、クラッチを接続する。
ステップS25.クラッチが接続したらモータトルクを減少させ、エンジントルクを増加させる。
ステップS26.モータトルクが0になったら、エンジン走行への遷移を終了する。
【0028】
本発明のパラレル式ハイブリッド車両制御装置1による摩擦トルクの補正は、次の手順で行われる。
ステップS1.摩擦トルク推定値推定部2は、エンジン無負荷運転時の燃料噴射量とエンジン回転速度とにより図示トルクマップを参照して図示トルクを求め、図示トルクを摩擦トルク推定値とし保存する。エンジン無負荷運転時には、
正味トルク=0
であるので、
摩擦トルク推定値=図示トルク
となる。
ステップS2.摩擦トルク計算値計算部3にて、公知の計算式により前回のエンジン走行中のエンジン状態(エンジン回転速度、エンジン温度、燃料噴射量)から摩擦トルク計算値を計算して保存する。
ステップS3.摩擦トルク補正値計算部4は、ステップS2で保存した摩擦トルク計算値とステップS1で保存した摩擦トルク推定値とから今回の摩擦トルク補正値を計算して保存する。摩擦トルク補正値は、摩擦トルク計算値と摩擦トルク推定値との差分値である。すなわち、
摩擦トルク補正値=(摩擦トルク推定値−摩擦トルク計算値)
ステップS4.燃料噴射量制御部5は、次回の切り換え制御で、摩擦トルク補正値を使って燃料噴射量を算出する。具体的には、現在のエンジン走行中の要求トルクに摩擦トルク計算値と摩擦トルク補正値を加算して目標図示トルクとし、図示トルクを燃料噴射量に変換する図示トルク燃料噴射量変換マップを目標図示トルクで参照して燃料噴射量を得る。
【0029】
以下、本発明のパラレル式ハイブリッド車両制御装置1の動作について説明する。
【0030】
図2は、従来技術において要求トルクとエンジントルクが一致する場合のタイミングチャートである。
【0031】
エンジン走行中(t0〜t1)は、一点鎖線で示したエンジントルクが所定値を示しており、エンジントルクは要求トルクに等しい。一方、破線で示したモータトルクは0である。
【0032】
モータ走行の開始時(t1)、エンジン走行からモータ走行への切り換えが行われる。エンジン走行からモータ走行への切り換え時(t1〜t2)は、燃料噴射量が漸減されることによりエンジントルクが漸減する。これに呼応してモータトルクが漸増されることで、エンジントルクとモータトルクの和である総合の車両駆動トルクは、一定であり、要求トルクに等しい。
【0033】
エンジントルクが0になると(t2)、エンジン回転速度を維持したまま、クラッチの切断が開始される。クラッチが切断状態になると(t3)、燃料噴射が停止されてエンジン回転速度が低下する。エンジンがアイドル状態になると(t4)、その後はアイドル状態が維持される。t2以降、モータトルクが所定値を示しており、モータトルクは要求トルクに等しい。一方、エンジントルクは0である。
【0034】
その後、モータ走行終了が判定されると、エンジン回転速度をインプットシャフト回転速度に同期させる回転合わせが開始される(t5)。同期が達成されると(t6)、クラッチの接続が開始される。クラッチの接続が終了した時点(t7)では、エンジンから取り出される出力トルクはないため、エンジントルクは0である。
【0035】
モータ走行からエンジン走行への切り換え時(t7〜t8)は、燃料噴射量が漸増されることによりエンジントルクが漸増する。これに呼応してモータトルクが漸減されることで、エンジントルクとモータトルクの和である総合の車両駆動トルクは、一定であり、要求トルクに等しい。モータトルクが0になり(t8)、エンジン走行が再開される。
【0036】
エンジン走行からモータ走行へ、モータ走行からエンジン走行へと切り換えが行われても、車両駆動トルクの変動がなく、全時間にわたり車両速度が目標車両速度に維持されており、安定な走行が実現されている。
【0037】
図3は、従来技術において、摩擦トルクのバラツキにより、大きな実摩擦トルクが生じているために、要求トルクとエンジントルクが一致しない場合のタイミングチャートである。
【0038】
エンジン走行中(t0〜t1)は、エンジントルクが所定値を示しているが、要求トルクはそれより大きい。エンジンには要求トルクに応じた燃料噴射量の燃料が噴射されるので、エンジンの図示トルクは要求トルクに制御される。要求トルクから実摩擦トルクを差し引いた分を実トルク(エンジンから実際に取り出される出力トルク)とすると、実トルクとエンジントルク(車両駆動トルク)が等しい。要求トルクが大きくなっている原因は、ドライバが安定な走行を望んでおり、アクセルを踏み増してドライバ要求トルクを増加させて車両速度を目標車両速度に合わせ込んでいるからである。つまり、要求トルクを実摩擦トルクに相当する分だけ増加させることで、図示トルクが増加し、車両速度を目標車両速度に追従させるだけの実トルクを得ている。燃料噴射量は、図2のレベルに比べてΔq増加している。
【0039】
しかし、エンジン走行からモータ走行への切り換え時(t1〜t2)になると、燃料噴射量が漸減されることによりエンジントルクが漸減し、これに呼応してモータトルクが漸増される。このとき、モータトルクは、要求トルクを目標として漸増されるので、仮に実トルクを目標とした場合に比べて多く増加する。よって、エンジントルクとモータトルクの和である総合の車両駆動トルクは、エンジン走行中のエンジントルクよりも大きくなる(矢印A)。総合の車両駆動トルクが車両速度を目標車両速度に維持するのに必要なトルクより大きいために、車両速度が目標車両速度より高まる(矢印B)。
【0040】
これに対して、ドライバは、加速度あるいは車両速度増加を感じてアクセルを踏み減らすので、要求トルクが減少する(矢印C)。この結果、総合の車両駆動トルクが減少し(矢印D)、車両速度が目標車両速度に戻り始め(矢印E)、やがて走行が安定する。その後のモータ走行では、モータトルクは、高い制御精度で要求トルクに一致する。
【0041】
モータ走行からエンジン走行への切り換え時(t7〜t8)になると、モータトルクが漸減され、エンジントルクが漸増される。このとき、要求トルクはモータ走行中と同じに維持され、前回のエンジン走行中の要求トルクよりも小さいため、エンジントルクは十分に増加せず、傾斜が図2の場合に比べて緩やかである。よって、エンジントルクとモータトルクの和である総合の車両駆動トルクは、モータ走行中のモータトルクよりも小さくなる(矢印F)。総合の車両駆動トルクが車両速度を目標車両速度に維持するのに必要なトルクより小さいために、車両速度が目標車両速度を下回る(矢印G)。
【0042】
これに対して、ドライバが減速度あるいは車両速度減少を感じてアクセルを踏み増すため、要求トルクが増加する(矢印H)。この結果、総合の車両駆動トルクが増加し(矢印J)、車両速度が目標車両速度に戻り始める(矢印K)。
【0043】
このように、摩擦トルクのバラツキにより、実摩擦トルクが摩擦トルク計算値より大きくなってエンジントルクが目標とする駆動トルクから逸脱すると、安定な走行を望むドライバのアクセル操作によって、エンジン走行とモータ走行とで要求トルクが異なることになる。このため、エンジン走行とモータ走行の切り換え時にトルク変動が生じて車両速度が変動する。
【0044】
図4は、本発明により図3で示した不具合が補正された場合のタイミングチャートである。
【0045】
摩擦トルク補正値を学習する以前のエンジン走行中(t0〜t1)は、図3で説明したのと同様に、実摩擦トルクに相当する分だけ要求トルクを増加させることで、車両速度を目標車両速度に追従させるだけの実トルクを得ている。
【0046】
エンジン走行からモータ走行への切り換え時(t1〜t2)も、図3で説明したのと同様に、矢印A、B、C、D、Eの変動が生じ、その後のモータ走行では、モータトルクが高い制御精度で要求トルクに一致する。
【0047】
本発明のパラレル式ハイブリッド車両制御装置1では、前回のエンジン走行中(t0〜t1)の摩擦トルク計算値が保存され、今回のモータ走行中における回転速度維持エンジン無負荷運転時(t3〜t3a)の図示トルクが摩擦トルク推定値として保存される。
【0048】
次回の切り換え制御(t7〜t8)において、摩擦トルク補正値による補正が行われる。要求トルクが補正によって増大されるので、エンジントルクが漸増される傾斜が図3の場合よりも大きくなる。このため、エンジントルクとモータトルクの和である総合の車両駆動トルクは、一定に維持される(矢印P)。総合の車両駆動トルクが一定であるので、車両速度が目標車両速度に維持される(矢印Q)。
【0049】
次回のエンジン走行(t8〜)では、燃料噴射量がΔq増加されることにより、車両速度が目標車両速度に維持される。
【0050】
図3の従来技術では、エンジン走行からモータ走行に切り換えるとき、トルク変動及び車両速度変動が生じたが、図4のように本発明では、エンジン走行からモータ走行に切り換えるとき、要求トルクを補正するので、トルク変動及び車両速度変動が生じない。これにより、ドライバは、アクセルを踏み増したり、踏み減らしたりする操作をすることなく安定な走行を継続することができ、運転が快適になる。
【0051】
以上説明したように、本発明のパラレル式ハイブリッド車両の制御方法及び制御装置1によれば、摩擦トルクのバラツキによって発生するエンジン走行とモータ走行の切り換え時のトルク変動を小さくすることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 パラレル式ハイブリッド車両制御装置
2 摩擦トルク推定値推定部
3 摩擦トルク計算値計算部
4 摩擦トルク補正値計算部
5 燃料噴射量制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン走行からモータ走行への切り換え時に、
エンジン回転速度を維持したままエンジンを無負荷運転し、
このときの図示トルクから摩擦トルク推定値を推定し、
過去のエンジン走行中のエンジン状態から摩擦トルク計算値を計算し、
摩擦トルク計算値と摩擦トルク推定値との差分に基づいて摩擦トルク補正値を求め、
モータ走行からエンジン走行への切り換え時に、エンジンへの要求トルクに摩擦トルク計算値と摩擦トルク補正値を加算して目標図示トルクとし、
図示トルクが目標図示トルクとなるように燃料噴射量を制御することを特徴とするパラレル式ハイブリッド車両制御方法。
【請求項2】
エンジン走行とモータ走行を切り換えるパラレル式ハイブリッド車両の制御装置において、
エンジン走行からモータ走行への切り換え時に、エンジン回転速度を維持したままエンジンを無負荷運転し、このときの図示トルクから摩擦トルク推定値を推定する摩擦トルク推定値推定部と、
過去のエンジン走行中のエンジン状態から摩擦トルク計算値を計算する摩擦トルク計算値計算部と、
摩擦トルク計算値と摩擦トルク推定値との差分に基づいて摩擦トルク補正値を計算する摩擦トルク補正値計算部と、
モータ走行からエンジン走行への切り換え時に、エンジンへの要求トルクに摩擦トルク計算値と摩擦トルク補正値を加算して目標図示トルクとし、図示トルクが目標図示トルクとなるように燃料噴射量を制御する燃料噴射量制御部とを備えることを特徴とするパラレル式ハイブリッド車両の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−82288(P2013−82288A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−222751(P2011−222751)
【出願日】平成23年10月7日(2011.10.7)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】