説明

パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドおよびその製造方法

【課題】耐薬品性に優れ、低い温度による処理であっても高いバインダー性を発現する、取り扱い性に優れたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドおよびその製造方法を提供すること。
【解決手段】重合終了時のパラ型全芳香族コポリアミドのポリマー溶液濃度を特定範囲とし、特定範囲の溶媒濃度の凝固液に剪断力を与えた状態で、ポリマー溶液を添加することでパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを形成する。すなわち、本発明は、パラ型全芳香族コポリアミドが溶媒に溶解したポリマー溶液のポリマー濃度を0.1〜2.0質量%として、剪断力を与えた凝固液に添加し凝固せしめることによりパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを形成し、このフィブリッドは、これを分散させたスラリーを抄造し、20〜150℃で蒸発させた際にフィルム様の連続相を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、耐薬品性やバインダー性に優れ、とりわけ取り扱い性に優れたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池用セパレーターや電極材、耐熱シート、ビーターシートガスケット、湿式摩擦材等の紙基材は、通常、繊維材料等の基材および必要に応じて各種機能剤や充填剤等から成り、材料を水に分散させたスラリーを作製し、それを抄造して得られる。このとき、得られる紙基材に強度を持たせたり、機能剤や充填剤等を基材に対して強固に保持させる目的で、バインダーが使用されることがある。そして、昨今の各種用途における要求性能が厳しくなる中で、バインダーについての要求性能が高くなっており、単に強度を付与したり、充填剤等を保持させる役割だけではなく、より高い耐熱性や耐薬品性が求められるようになった。
【0003】
ここで、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを主成分としてなるパラ型全芳香族ポリアミドは、高い耐熱性や耐薬品性を有し、また機械的物性に優れることが知られている。その中でもとりわけ、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドは、特に高い耐薬品性や耐熱性を有することが知られており、このため、パルプやフィブリッドについての開発が進められている。
【0004】
例えば、特許文献1および2には、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのパルプまたはフィブリッドの製造方法が記載されている。特許文献1および2に記載されたパルプまたはフィブリッドは、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドを用いているため、耐薬品性や耐熱性には優れている。しかしながら、当該パルプ又はフィブリッドを150℃以下の温度で乾燥させただけではバインダー性が非常に低く、高いバインダー性を得るためには、350℃以上の高温での熱処理や加圧処理が必要となるため、取り扱い性に問題があった。
【0005】
また特許文献3には、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを用いたパルプ状繊維の製造方法が記載されている。特許文献3に記載されたパルプ状繊維は、ポリパラフェニレンテレフタルアミドを用いているため、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに比べて耐薬品性が劣る問題があった。また、特許文献3に記載された方法を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに適用することは困難であった。
【0006】
さらに特許文献4には、粒状化したアラミドバインダーについて記載されている。しかしながら、特許文献4に記載された方法は、アラミドポリマーをアミド系溶剤に溶解させたポリマー溶液に各種機能材を分散させたスラリーを塗布し、その溶剤を蒸発させることで粒状化したアラミドバインダーを得るものであり、単体での取り扱いは困難なものであった。
したがって、耐薬品性やバインダー性に優れ、とりわけ取り扱い性を十分に満足し得るパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−003392号公報
【特許文献2】特開2007−321310号公報
【特許文献3】特表2006−525391号公報
【特許文献4】特開2008−159810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、耐薬品性に優れ、低い温度による処理であっても高いバインダー性能を発現する、取り扱い性に優れたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーをアミド系溶剤に溶解させたポリマー溶液を、剪断力を与えた凝固液に添加してパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得るに際し、ポリマー溶液のポリマー濃度を特定範囲とすることにより、耐薬品性に優れ、低い温度による処理であっても高いバインダー性能を発現する、取り扱い性に優れたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、乾燥工程を経ることなく製造したパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドであって、フィブリッドが溶解しない溶媒にフィブリッドを分散させたスラリーを抄造し、20〜150℃の範囲で溶媒を蒸発させたときに、フィルム様の連続相を形成するパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドである。
【0011】
また別の本発明は、パラ型全芳香族コポリアミドが溶媒に溶解したポリマー溶液を、剪断力を与えた凝固液に添加して凝固せしめるパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法であって、前記ポリマー溶液のポリマー濃度を0.1〜2.0質量%とし、フィブリッドの水分率を70質量%以上に保持するパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、耐薬品性に優れ、低い温度による処理であっても高いバインダー性能を発現する、取り扱い性に優れたフィブリッドとなる。このため、フィブリッドが溶解しない溶媒にフィブリッドを分散させたスラリーを抄造し、20〜150℃の範囲で溶媒を蒸発させたときに、フィルム様の連続相を形成するという特異な形態変化を起こす。
【0013】
さらに、本フィブリッドを、他の繊維材料から成る紙基材の作製にあたってバインダーとして少量添加することにより、高温での熱処理や加圧処理等を行わずとも強度が著しく向上した紙を得ることができる。
【0014】
このため、本発明のフィブリッドは、電池用セパレーターや電極材、耐熱シート、ビーターシートガスケット、湿式摩擦材等の紙基材用途や、その他様々な産業資材用途において、非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
<パラ型全芳香族コポリアミド>
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドとは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、パラ位にてアミド結合により直接連結されたポリマーである。また、芳香族基としては、2個の芳香環が、酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものであってもよい。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。
【0017】
<パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族コポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分とを反応せしめることにより、芳香族コポリアミドのポリマー溶液を得ることができる。
【0018】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分は、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド等を挙げることができる。これらのなかでは、汎用性や繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドを用いることが最も好ましい。
【0019】
また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることもでき、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、イソフタル酸クロライド等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0020】
(芳香族ジアミン成分)
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、パラフェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロル−p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、パラビフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミン等が挙げられる芳香族環に置換基がついていたり、その他複素環等が存在していたりしても差し支えない。また、これらは1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、m−フェニレンジアミン等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0021】
これらのなかでは、汎用性や繊維の機械的物性等の観点から、p−フェニレンジアミンを単独で使用、あるいは併用することが好ましく、p−フェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。
【0022】
また、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%とする。
【0023】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0024】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0025】
[重合溶媒]
パラ型全芳香族コポリアミドを重合する際の溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として用いることも可能である。なお、用いられる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族コポリアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0026】
[中和反応]
反応終了後には、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加して、中和反応を実施することが好ましい。
【0027】
[ポリマー固有粘度(IV)]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドのポリマー固有粘度(IV)は特に限定されるものではないが、ポリマー溶液のハンドリング性や、得られるフィブリッドの形状やバインダー性能等の観点から、2.0〜5.0の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは2.5〜4.5、最も好ましくは3.0〜4.0の範囲とする。
なお、本発明における「ポリマー固有粘度(IV)」とは、重合後のポリマー溶液から単離し乾燥したポリマーを98%濃度の濃硫酸中に溶解して、ポリマー濃度=0.5g/dLの溶液を調製し、オストワルド粘度計にて30℃で測定した固有粘度をいう。
【0028】
[重合後処理等]
上記のようにして得られるパラ型全芳香族コポリアミドは、アルコール、水等の非溶媒に投入して沈殿せしめ、取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族コポリアミドを再度他の溶媒に溶解させることもできるが、重合反応によって得られたポリマー溶液を、そのまま用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族コポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記したパラ型全芳香族コポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0029】
<パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法>
次に、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法について説明する。本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造にあたっては、ポリマー濃度を特定範囲に調整したパラ型全芳香族コポリアミドのポリマー溶液を用いる。
【0030】
また、本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、「乾燥工程を経ることなく製造」することが重要である。本発明において「乾燥工程を経ることなく製造する」とは、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造過程において、フィブリッドの水分率が70質量%未満となる状況が1度もないこと(70質量%以上を保持すること)を意味する。
【0031】
ここで、水分率を低下させる方法としては、加熱や減圧等により物理的に水分を蒸発させる方法、室温等の環境において自然蒸発させる方法等、様々な方法が存在するが、本発明においては、フィブリッドの製造工程におけるいかなる状況であっても、フィブリッドの水分率を70質量%未満としない(70質量%以上に保持する)ことが必須である。さらに好ましくはフィブリッドの水分率を80質量%未満としない(80質量%以上を保持する)こと、最も好ましくはフィブリッドの水分率を90質量%未満としない(90質量%以上を保持する)ことである。
【0032】
フィブリッドの製造工程において水分率が70質量%未満となった場合には、フィブリッド中の水分率低下によりパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドに不可逆な形態変化が起こり、フィブリッドを抄造した後に乾燥させた場合に、フィルム様の連続相を形成することが困難となる。
【0033】
[ポリマー溶液の調整工程]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法に用いられる、パラ型全芳香族コポリアミドが溶媒に溶解したポリマー溶液は、重合により得られたポリマー溶液そのままであっても、または沈殿後に溶媒に再溶解させたパラ型全芳香族コポリアミドのポリマー溶液であってもよい。しかしながら、そのポリマー濃度を、0.1〜2.0質量%とすることが必須であり、さらに好ましくは0.2〜1.8質量%、最も好ましくは0.3〜1.5質量%の範囲とする。
【0034】
ポリマー濃度が0.1質量%未満の場合には、ポリマー成分が少なすぎるために、目的とする形状や性能を有するパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得ることが困難となる。一方、2.0質量%を超える場合には、ポリマー成分が多すぎるために、目的とする形状や性能を有するパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得ることが困難となる。
【0035】
ポリマー濃度を0.1〜2.0質量%の範囲とする方法としては、例えば、上記のパラ型全芳香族コポリアミドの重合の段階で、この範囲内となるように重合溶媒量や、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分の量を調整する方法や、予め上記範囲よりも高いポリマー濃度で重合を行ったポリマー溶液を、上記範囲のポリマー濃度となるように溶媒で希釈する方法等が挙げられる。
【0036】
[凝固工程]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法においては、上述の如く調整されたポリマー溶液を、剪断力を加えた凝固液に添加して凝固させる。
【0037】
〔凝固液〕
このとき、凝固液の溶媒濃度は0〜40質量%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0〜35質量%、最も好ましくは0〜30質量%の範囲とする。凝固液の溶媒濃度が40質量%を超える場合には、凝固液の溶媒濃度が高すぎて、ポリマーを十分に凝固させることが困難となり、その結果、目的とする形状や性能を有するパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得ることが困難となる。
【0038】
凝固液の溶媒濃度を0〜40質量%の範囲とする方法としては、凝固液を準備する際の水と溶媒の量を調整する方法が挙げられる。
なお凝固液の溶媒の種類は特に限定されるものではないが、凝固の均一性や取り扱い性等の観点から、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーを溶解させた溶媒と同じ物とすることが好ましい。
また凝固液の温度は特に限定されるものではなく、凝固速度や取り扱い性等を考慮して適宜調整することができる。
【0039】
〔剪断力〕
本発明においては、凝固液に剪断力を与えることが必須である。凝固液に剪断力を与えない場合には、凝固液にポリマー溶液を添加すると、ポリマーが容易に凝集するため、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得ることが不可能となる。
凝固液に剪断力を与える方法としては特に限定されるものではなく、例えば公知の撹拌翼を高速回転させる方法や、公知のパルプ製造装置等を用いる方法が挙げられる。また、与える剪断力の大きさは特に限定されるものではなく、ポリマー溶液の濃度や得られるフィブリッドの形状等により、適宜調整することができる。
【0040】
[水洗工程]
凝固後のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、凝固液の溶媒濃度等にもよるが、多くの溶媒を含むため、必要に応じて水洗を行う。
水洗の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、凝固液中に分散したパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドスラリーをろ過して取り出し、これを再度水中に分散させて撹拌する方法等が挙げられ、本工程を複数回実施しても特に差し支えない。
【0041】
なお本発明においては、水洗工程も含めて、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの水分率を70質量%未満としない(70質量%以上に保持する)ことが必須である。水洗工程において、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの水分率を70質量%未満としない(70質量%以上に保持する)方法としては、例えば、ろ過後直ちに水中に分散させる方法等が挙げられる。
【0042】
このようにして得られたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、使用するまではその水分率を70〜99.9質量%の範囲に保持することが好ましく、その方法としては、例えば、得られたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを水中で保管する方法等が挙げられる。
なお、本発明においては、重合およびフィブリッド製造における上記以外の工程は、特に限定されるものではない。
【0043】
<パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッド>
[分散スラリー]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、該フィブリッドが溶解しない溶媒にフィブリッドを分散させたスラリーを抄造し、20〜150℃の温度範囲で溶媒を蒸発させたときに、フィルム様の連続相を形成する。
フィブリッドが溶解しない溶媒としては、20〜150℃の範囲で蒸発し、且つパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを溶解させない溶媒であれば特に限定されるものではない。取り扱い性や無害性、環境負荷等の観点から、水が最も好ましい。
【0044】
[加重平均繊維長]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、未乾燥状態の加重平均繊維長(LL)が、0.3〜1.5mmの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、0.4〜1.4mm、最も好ましくは0.5〜1.3mmの範囲である。
【0045】
[水分率]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、使用するまでの未乾燥状態の水分率が70〜99.9質量%の範囲であることが好ましい。さらに好ましくは80〜99.9質量%、最も好ましくは90〜99.9質量%の範囲である。未乾燥状態の水分率が70質量%未満となる場合には、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの形態が不可逆的に変化するため、本フィブリッドを抄造した後に乾燥させた場合に、フィルム様の連続相を形成する特性を維持することが困難となる。
【0046】
[乾燥時の収縮率]
本発明のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドは、乾燥時の収縮率が20〜70%の範囲となる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに何等限定されるものではない。
【0048】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0049】
(1)ポリマー固有粘度(IV)
重合により得られたポリマーを単離し乾燥後、98%濃硫酸に溶解し、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
温度 :30℃
ポリマー濃度 :0.5g/dL
粘度計 :オストワルド粘度計
【0050】
(2)加重平均繊維長(LL)
繊維長測定装置(Metso automation社製、商品名:Pulp Expert、型式:FS300)を用いて測定した。
【0051】
(3)水分率
JIS L1013に準拠し、下記式により水分率を算出した。
水分率(%)=(W−W)/W×100
(W:乾燥前質量(g)、W:乾燥後質量(g))
【0052】
(4)収縮率
フィブリッドを水に分散させたスラリーを作成し、下記の状況になるように抄紙を実施した。その後、下記条件で乾燥を行い、乾燥前後の面積からフィブリッドの収縮率を算出した。
[測定条件]
目付け :100g/m
抄紙後の面積 :10cm×10cm
乾燥条件 :120℃×24時間
【0053】
(5)抄紙乾燥後の形態
(4)で得られた乾燥後の紙について、連続相を形成しているかどうかを目視で判定した。なお判定基準は下記の通りとした。
[判定基準]
○ :紙全体的に連続相を形成し、且つフィブリッド形態が完全になくなっている
△ :紙の一部で連続相を形成し、且つフィブリッド形態が一部なくなっている
× :紙全体的に連続相は確認できず、且つフィブリッド形態が残っている
【0054】
(6)バインダー性能
繊維材料として、ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド繊維を高度にフィブリル化させたアラミドパルプ(商品名「トワロン1097」、帝人アラミド社製、加重平均繊維長:0.96mm)を用い、フィブリッドを下記割合で混合した水分散スラリーを作製し、下記の状況になるように抄紙後、乾燥を実施して紙基材を作製した。
[抄紙条件]
組成(質量比) :トワロン1097/フィブリッド=90/10
乾燥条件 :120℃×24時間
目付け :100g/m
面積 :250mm×250mm
次いで、引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、紙試験用チャックを用いて、JIS L8113の手順に基づき、以下の条件で烈断長(km)を測定した。
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :幅20mm×長さ100mm
試験速度 :100mm/分
チャック間距離 :50mm
【0055】
(7)耐薬品性
繊維材料として、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の短繊維(商品名「テクノーラT320」、帝人テクノプロダクツ社製、長さ:3mm、単糸繊度:1.67dtex)を用い、フィブリッドを下記割合で混合した水分散スラリーを作製し、下記の状況になるように抄紙後、乾燥を実施して紙基材を作製した。
[抄紙条件]
組成(質量比) :テクノーラT320/フィブリッド=90/10
乾燥条件 :120℃×24時間
目付け :100g/m
面積 :250mm×250mm
次いで、得られた紙を塩酸水溶液に下記条件で浸漬し、水洗後に乾燥を実施した。その後、塩酸水溶液浸漬前後の紙の烈断長を(6)と同条件で測定し、耐薬品性試験前後の強度保持率を、下記式により算出した
[浸漬条件]
塩酸濃度 :20質量%
温度 :20℃
時間 :100時間
強度保持率(%)=(T−T)/T×100
(T:塩酸水溶液浸漬前の烈断長(km)、T:塩酸水溶液浸漬後の烈断長(km))
【0056】
<実施例1>
[パラ型全芳香族コポリアミドの製造]
NMPに溶解させたパラフェニレンジアミン27質量部と3,4’−ジアミノジフェニルエーテル50質量部に、テレフタル酸ジクロライド100質量部を添加し、公知の方法により重縮合反応を行い、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのポリマー溶液を得た。このときのポリマー濃度は6質量%、ポリマー固有粘度(IV)は3.38であった。
さらに、得られたポリマー溶液にNMPを添加しながら撹拌し、ポリマー濃度を0.5質量%に希釈して、フィブリッド作製用ポリマー溶液を得た。
【0057】
[パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造]
次に、溶媒濃度が0%の凝固液を用いて、公知のアンカー型撹拌翼を500rpmで撹拌させた状態とし、上記で得られたフィブリッド作製用ポリマー溶液を添加し、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造した。
引き続き、ろ過を行い、再度水に分散させる手順を2回実施して水洗し、最終的にパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得た。このとき、ろ過後直ちに水中に分散させ、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの水分率を70質量%未満としなかった(70質量%以上に保持した)。
得られたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの各種物性、乾燥後の形態、バインダー性能、耐薬品性につき、表1に示す。
【0058】
<実施例2>
重合により得られたポリマー溶液を、NMPを用いてポリマー濃度を0.1質量%に希釈したフィブリッド作製用ポリマー溶液とした以外は、実施例1と同じ手法でパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造した。得られたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの各種物性、乾燥後の形態、バインダー性能、耐薬品性につき、表1に示す。
【0059】
<実施例3>
重合により得られたポリマー溶液を、NMPを用いてポリマー濃度を1.0質量%に希釈したフィブリッド作製用ポリマー溶液とした以外は、実施例1と同じ手法でパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造した。得られたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの各種物性、乾燥後の形態、バインダー性能、耐薬品性につき、表1に示す。
【0060】
<比較例1>
重合により得られたポリマー溶液を、NMPを用いてポリマー濃度を0.05質量%に希釈したフィブリッド作製用ポリマー溶液とした以外は、実施例1と同じ手法でパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造した。得られたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの各種物性を、表1に示す。しかしながら、乾燥後の形態、バインダー性能、耐薬品性については、得られたフィブリッドの繊維長が短すぎるために、抄紙時に金属製メッシュ下に大半が脱落してしまい、一部物性を測定することができず、また測定できたとしても正確な測定を行うことが困難であった。
【0061】
<比較例2>
重合により得られたポリマー溶液を、ポリマー濃度を6質量%のままフィブリッド作製用ポリマー溶液として用いた以外は、実施例1と同じ手法でパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造しようと試みた。しかしながら、ポリマー溶液を凝固液に添加した直後に凝集体を形成し、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得ることができなかった。
【0062】
<比較例3>
パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造した後、ろ過を行い、再度水に分散させて水洗する工程において、1回目の水洗後にろ過を行った後、そのまま室温で24時間放置して自然乾燥させる乾燥工程を経て、水分率を45.1%まで低下させ、その後に、再度水に分散させて水洗を行った以外は、実施例1と同じ手法でパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造しようと試みた。
しかしながら、水分率を45.1%まで下げた時点で、フィブリッド同士が強固に凝集し、再度水に分散させてもその凝集が解消しなかったため、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを得ることができなかった。
【0063】
<比較例4>
特開2003−3392号公報の実施例2に準拠し、芳香族コポリアミドパルプを製造した。得られた芳香族コポリアミドパルプの各種物性、乾燥後の形態、バインダー性能、耐薬品性につき、表1に示す。
【0064】
<比較例5>
特開2007−321310号公報の実施例1に準拠し、パラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造した。得られたパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの各種物性、乾燥後の形態、バインダー性能、耐薬品性につき、表1に示す。
【0065】
<比較例6>
特表2006−525391号公報の実施例2に準拠し、ポリパラフェニレンテレフタルアミドから成るパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドを製造した。得られたポリパラフェニレンテレフタルアミドフィブリッドの各種物性、乾燥後の形態、バインダー性能、耐薬品性につき、表1に示す。
【0066】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のフィブリッドは、耐薬品性に優れ、低い温度による処理であっても高いバインダー性能を発現する、取り扱い性に優れたフィブリッドとなる。このため、本発明のフィブリッドは、様々な産業資材として有用であり、とりわけ、電池用セパレーターや電極材、耐熱シート、ビーターシートガスケット、湿式摩擦材等の紙基材用途において、特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乾燥工程を経ることなく製造したパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドであって、
フィブリッドが溶解しない溶媒にフィブリッドを分散させたスラリーを抄造し、20〜150℃の範囲で溶媒を蒸発させたときに、フィルム様の連続相を形成するパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッド。
【請求項2】
前記パラ型全芳香族コポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1記載のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッド。
【請求項3】
未乾燥状態のフィブリッドの加重平均繊維長(LL)が、0.3〜1.5mmの範囲である請求項1または2記載のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッド。
【請求項4】
未乾燥状態のフィブリッドの水分率が、70〜99.9質量%の範囲である請求項1〜3いずれか記載のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッド。
【請求項5】
乾燥時の収縮率が、20〜70%の範囲である請求項1〜4いずれか記載のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッド。
【請求項6】
パラ型全芳香族コポリアミドが溶媒に溶解したポリマー溶液を、剪断力を与えた凝固液に添加して凝固せしめるパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法であって、
前記ポリマー溶液のポリマー濃度を0.1〜2.0質量%とし、
フィブリッドの水分率を70質量%以上に保持するパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法。
【請求項7】
前記凝固液の溶媒濃度を、0〜40質量%とする請求項6記載のパラ型全芳香族コポリアミドフィブリッドの製造方法。

【公開番号】特開2012−67425(P2012−67425A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215274(P2010−215274)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】