説明

パラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープ

【課題】高強度であるとともに、耐屈曲性および耐摩耗性のバランスに優れたパラ型芳香族コポリアミド繊維ロープを提供する。
【解決手段】重合終了時の中和度およびポリマー固有粘度(IV)を特定範囲として特定構造を有するパラ型全芳香族コポリアミドを得て、得られたポリマー溶液から形成した繊維を用いてロープを作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープに関する。さらに詳しくは、高強度であるとともに、耐屈曲性および耐摩耗性のバランスに優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、産業用途等に用いられるロープとしては、金属製のワイヤーロープが多く使用されてきた。しかしながら、金属製のワイヤーロープは、自重が重く、また柔軟性に乏しかったり、絡まり易かったりと、取扱い性に問題が生じていた。
【0003】
そこで、このような問題を解消するために、パラ型全芳香族コポリアミド繊維やパラ型全芳香族ポリアミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維等の合成繊維から成るロープが広く使用されるようになった。
しかしながら、パラ型全芳香族ポリアミド繊維や芳香族ポリエステル繊維、ポリベンザゾール繊維から製造されたロープは、その製造方法やポリマーそのものの特性に由来して、擦過等の摩擦により容易にフィブリル化したり、耐屈曲性に劣るという問題があり、使用する環境に制限があった。また、超高分子量ポリエチレン繊維から製造されたロープは、クリープ性が悪く、また、ガラス転移点が低いために高温下での使用が制限される等の問題があった。
【0004】
そこで、高い引張強度のほか、耐屈曲性や耐フィブリル化、また耐熱性や耐薬品性等の全ての特性に優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維が、ロープに適した素材として検討されている(特許文献1および2参照)。
しかしながら、これら従来のパラ型全芳香族コポリアミド繊維製ロープは、耐屈曲性や耐フィブリル性等には優れるものの、その機械的物性は十分ではなく、さらに高い機械的物性を満足するロープが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−286830号公報
【特許文献2】特開2006−207066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、高強度であるとともに、耐屈曲性および耐摩耗性のバランスに優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、重合終了時の中和度およびポリマー固有粘度(IV)を特定範囲として特定構造を有するパラ型全芳香族コポリアミドを得て、得られたポリマー溶液から形成した繊維を用いてロープを作製すれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに到達した。
【0008】
すなわち本発明は、下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)の構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドからなる繊維を含むロープであって
前記パラ型全芳香族コポリアミド繊維の引張強度が33.0〜38.0cN/dtexであるパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープである。
【0009】
【化1】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0010】
【化2】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明のロープは、高強度であるとともに、耐屈曲性および耐摩耗性のバランスに優れたパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープとなる。したがって、従来のパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープが使用できなかった過酷な環境においても、適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族コポリアミド>
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドは、下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)で示される構造反復単位からなり、1種類または2種類以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、一般に公知の方法に従って、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により得られる。このとき、該芳香族基は2個の芳香族環が酸素、硫黄、アルキル基で結合されたものであっても特に差し支えない。また、これらの2価の芳香環は、非置換またはメチル基やメチル基等の低級アルキル基や、メトキシ基、または塩素基等のハロゲン基で置換されたものであっても、複素環等が結合されたものであっても特に差し支えはなく、その置換基の種類や置換基の数は特に限定されるものではない。
【0013】
【化3】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0014】
【化4】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【0015】
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維中に含まれる上記構造反復単位を含むパラ型全芳香族ポリアミドは、繊維質量全体に対して、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが最も好ましい。
【0016】
[構造反復単位の割合]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドは、前記化学構造式(1)と前記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して、前記化学構造式(2)の構造反復単位が30〜90モル%であることが好ましく、さらに好ましくは35〜85モル%、最も好ましくは40〜80モル%である。
【0017】
前記化学構造式(1)と前記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して、前記化学構造式(2)の構造反復単位が30モル%未満の場合には、ポリマーを重合する際の反応制御やポリマーIVの制御が困難になるばかりでなく、曳糸性や製糸工程通過性が著しく悪化し、得られる繊維の機械的物性が低くなる。また、前記化学構造式(2)の構造反復単位が90モル%を超える場合についても同様に、ポリマーを重合する際の反応制御やポリマーIVの制御が困難になる上、曳糸性や製糸工程通過性の悪化し、得られる繊維の物性が低くなる。
【0018】
前記化学構造式(1)と前記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して、前記化学構造式(2)の構造反復単位を30〜90モル%の範囲とする方法としては、例えば、後述するパラ型全芳香族コポリアミドの重合において、用いる芳香族ジアミンの内、前記化学構造式(2)を含む芳香族ジアミン、例えば5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを、重合に用いる芳香族ジアミン全量に対して、30〜90モル%用いる方法等が挙げられる。
【0019】
<パラ型全芳香族コポリアミドの製造方法>
本発明に用いられる、上記化学構造式(1)、および上記化学構造式(2)の構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドは、重合終了時の中和度およびポリマー固有粘度(IV)を特定範囲として、重縮合反応を行うことにより得られる。重合終了時の中和度およびポリマー固有粘度(IV)を特定範囲とする以外は、公知の方法を採用することができる。具体的には、アミド系極性溶媒を重合溶媒として、これに芳香族ジアミンを溶解させた後、この溶液に芳香族ジカルボン酸ジクロライドを添加して重縮合反応を行う。
【0020】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
〔芳香族ジカルボン酸ジクロライド〕
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸ジクロライドとしては、例えば、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド等が挙げられる。これらの中では、汎用性や繊維の機械的物性等の面から、テレフタル酸ジクロライドが最も好ましい。
【0021】
これら芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみを用いても、あるいは、2種類以上を併用してもよく、その場合の組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、パラ位以外の結合を形成するイソフタル酸ジクロライド等の成分が、少量が含まれていてもよい。
【0022】
〔芳香族ジアミン〕
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料となる芳香族ジアミンとしては、例えば、パラフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、パラビフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミン等が挙げられる。本発明においては、これらに限定されるものではなく、芳香環に置換基がついていたり、その他複素環等がついていたりしても差し支えない。なお、本発明においては、パラ位以外の結合を形成するメタフェニレンジアミン等の成分が、少量含まれていてもよい。
【0023】
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの原料としては、上記化学構造式(1)で示される構造反復単位と上記化学構造式(2)で示される構造反復単位とをそれぞれ構成するため、少なくとも2種類以上の芳香族ジアミン用いる。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性、曳糸性等の面から、パラフェニレンジアミンと5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールとの組み合わせが最も好ましい。その組成比は特に限定されるものではないが、用いる芳香族ジアミンの全量に対して、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾールを30〜90モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、35〜85モル%、最も好ましくは、40〜80モル%とする範囲である。
【0024】
[溶媒]
パラ型全芳香族コポリアミドの重合に用いるアミド系極性溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと記す)、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられるが、汎用性、有害性、取扱い性、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーに対する溶解性等の観点から、NMPが最も好ましい。
【0025】
[重合終了時の中和度(中和反応)]
重合終了後、重縮合反応により系内に塩酸が発生し系内が酸性になるため、中和する目的で、水酸化カルシウム等のアルカリを添加する。中和反応により発生する塩化カルシウム等は、生成したポリマーの溶媒への溶解を高める溶解助剤として、そのまま用いることができる。このため、系内から除去する必要はない。
【0026】
本発明に用いる上記化学構造式(1)、および上記化学構造式(2)の構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドの重合においては、重合終了時の中和度を、75〜95モル%とすることが必須であり、さらに好ましくは80〜95モル%、最も好ましくは85〜95モル%の範囲とする。
なお、ここでいう中和度とは、芳香族ジカルボン酸ジクロライドと芳香族ジアミンの重縮合反応により系内に塩酸が発生し系内が酸性になるため、それを中和する目的で水酸化カルシウム等のアルカリを添加するが、その際の反応により生成した塩酸に対する、添加するアルカリの割合を指す。
【0027】
重合終了時の中和度が75%モル未満の場合には、得られるポリマー溶液が強い酸性を呈するために、貯蔵時や製糸工程等において、加水分解反応によりポリマーが分解し、得られる繊維の物性が低くなる。また、重合終了時の中和度が95%モルを超える場合、加水分解反応等によるポリマーの分解は抑制されるものの、高い物性を有する繊維を得ることが困難となる。
重合終了時の中和度を75〜95モル%の範囲とする方法としては、例えば、重合終了時に添加するアルカリの量を、重合反応により生成した塩酸に対して75〜95モル%の範囲となるように調整する方法等が挙げられる。
【0028】
[ポリマー固有粘度(IV)]
本発明に用いられる上記化学構造式(1)、および上記化学構造式(2)の構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドのポリマーIV(固有粘度)は、5.0〜7.0の範囲とすることが必須であり、さらに好ましくは5.3〜6.8の範囲、最も好ましくは5.5〜6.6の範囲とする。
なお、本発明における「ポリマー固有粘度(IV)」とは、重合後のポリマー溶液から単離し乾燥したポリマーを98%濃度の濃硫酸中に溶解して、ポリマー濃度=0.5g/dLの溶液を調製し、オストワルド粘度計にて30℃で測定した固有粘度をいう。
【0029】
ポリマー固有粘度(IV)が5.0未満の場合には、仮に重合終了時の中和度を本発明で特定する範囲内としても、十分な引張強度等の機械的物性を有する繊維が得られない。一方で、ポリマー固有粘度(IV)が7.0を超える場合には、ポリマー溶液の粘性が高くなり、ポリマー溶液を紡糸口金から吐出する際の吐出安定性が著しく悪化するばかりでなく、製糸工程での工程通過性が悪化し、繊維自体を得ることが困難となる。
【0030】
ポリマー固有粘度(IV)を5.0〜7.0の範囲とする方法としては、例えば、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーを重合する際に、添加する芳香族ジアミンの全モル数に対する芳香族ジカルボン酸ジクロライドのモル比を調整する方法等が挙げられる。なお、重合の際のモル比は、重合の状況等により異なるため特に限定されるものではないが、通常、0.98〜1.00の範囲とすることが好ましい。また重合の進行等により、芳香族ジカルボン酸ジクロライドを逐次添加する等の方法によっても、ポリマーIVを5.0〜7.0の範囲とすることが可能である。
【0031】
[重合後処理等]
得られたパラ型全芳香族コポリアミドポリマーは、NMP等のアミド系極性溶媒に溶解したポリマー溶液であり、単離することなくそのまま、製糸工程で用いることができる。このとき、パラ型全芳香族コポリアミドポリマーの濃度は、ポリマー溶液の粘度や安定性に著しく影響し、ひいては、後の製糸工程における曵糸性等に大きく影響する。このため、ポリマー濃度は、2〜10質量%の範囲に調整することが好ましい。ポリマー濃度や粘度調整をするために、得られたポリマー溶液にNMP等のアミド系極性溶媒を適量添加することができる。
【0032】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維>
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、上記のように、重合終了時の中和度およびポリマー固有粘度(IV)を特定範囲として重縮合反応を行って得たポリマーから成形することにより、以下のような物性を有する。
【0033】
[引張強度]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、その引張強度が33.0〜38.0cN/dtexの範囲となる。さらには33.5〜38.0cN/dtexの範囲、究極には34.0〜38.0cN/dtexの範囲となる。
【0034】
[単糸繊度]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミド繊維の単糸繊度は、1〜3dtexの範囲とすることが好ましい。単糸繊度が1dtex未満の繊維は、高い延伸倍率が必要となるばかりでなく、工程通過時の糸切れ等が多くなり、安定的に繊維を得ることが困難となる。一方で、単糸繊度が3dtexを超える場合には、単糸繊度が太く水洗工程において繊維中からの脱溶媒が困難となるばかりでなく、耐屈曲性が低下するため好ましくない。
【0035】
[単糸数]
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミド繊維の単糸数は、50〜1000本の範囲とすることが好ましい。単糸数が50本未満の場合には、繊維の繊度が小さいため、繊維を使用するにあたって合糸等の別の工程が必要となる。一方で、1000本を超える場合には、単糸数が増えることに起因して、凝固不良等の問題が発生する他、走行する繊維束のハンドリング性も悪化するため、得られる繊維の品質および生産性の両者において好ましくない。
【0036】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法>
次に、本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造方法について説明する。繊維の製造にあたっては、先に得られたパラ型全芳香族コポリアミドのポリマー溶液をそのまま用いることも可能であり、ハンドリング性や紡糸口金からの吐出安定性を考慮し、80〜120℃に加熱したパラ型全芳香族コポリアミドの溶液を用いる。
【0037】
[凝固工程]
先ず、公知の半乾半湿式法を適用し、紡糸口金からエアギャップを介してポリマー溶液を凝固液中に吐出して凝固させる凝固工程を実施する。
【0038】
〔紡糸口金の孔径〕
用いる紡糸口金の孔径は特に限定されるものではないが、吐出安定性や曳糸性等の観点から、0.05〜0.3mmとすることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.25mmの範囲とする。
【0039】
〔紡糸口金の孔数〕
紡糸口金の孔数は、50〜1000とすることが好ましく、さらに好ましくは100〜500の範囲とする。孔数が50未満の場合には、得られた繊維の繊度が小さく、得られた繊維を使用するにあたって合糸等の別の工程が必要になり、生産性が悪くなる。一方で、1000を超える場合には、単糸数が増えることに起因して、単糸毎の均一な凝固が困難となり、凝固不良等の問題が発生して得られる繊維の品質が低下する他、走行する繊維束のハンドリング性も悪化するため、生産面においても好ましくない。
【0040】
〔紡糸ドラフト〕
紡糸ドラフトは、特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的物性や製糸工程における工程通過性、また得られる繊維の単糸繊度を調整する等の観点から、1.5〜8の範囲とすることが好ましい。
なおここで言う「紡糸ドラフト」とは、ポリマードープが紡糸口金から吐出される際の線速度に対する、凝固工程後に配置した引き取りローラーでの引き取り速度の割合を表す。
【0041】
[延伸工程]
凝固工程を実施して凝固糸束を得た後は、得られた凝固糸束を延伸に付す延伸工程を実施する。延伸にあたっては、例えば、高濃度のNMP水溶液中で繊維束を可塑化し、可塑化状態にして行うことができる。
延伸工程における延伸倍率は特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的物性や製糸工程における工程通過性、また得られる繊維の単糸繊度を調整する等の観点から、1.2〜2.0倍の範囲とすることが好ましい。
また、本延伸工程における延伸張力についても特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的物性や製糸工程における工程通過性等の観点から、単糸あたりの張力を10〜25mN/filの範囲とすることが好ましい。
【0042】
[水洗工程]
延伸後の繊維束は、高濃度のNMPを含むため、繊維束からNMPを除く目的で水洗を行う。繊維束の水洗方法については、特に限定されるものではなく、公知の水洗方法をそのまま適用することができる。水洗後の繊維束中の残存溶媒量は、特に限定されるものではないが、乾燥工程や熱処理工程での工程通過性や最終的に得られる繊維の色相への影響等の観点から5000ppm以下とすることが好ましい。
【0043】
[乾燥工程]
水洗後の繊維束は、多くの水分を含むため、繊維束から水分を除くために乾燥を行う。繊維束の乾燥方法については、特に限定されるものではなく、公知の乾燥方法をそのまま適用することができる。乾燥する際の温度は、水分が十分に除去できる温度であれば特に限定されるものではないが、乾燥効率や乾燥による繊維の劣化等の観点から、100〜200℃の範囲とすることが好ましい。
【0044】
[熱処理工程]
最後に、高配向化、高結晶化する目的で、繊維束に熱処理を行う。繊維束の熱処理方法については特に限定されるものではなく、公知の熱処理方法をそのまま適用することができるが、最終的に得られる繊維の色相への影響や機械的物性等の観点から、窒素等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましく、その際の酸素濃度を2000ppm以下にすることが好ましい。
また熱処理温度は、特に限定されるものではないが、最終的に得られる繊維の色相への影響や機械的物性等の観点から、350〜500℃の範囲とすることが好ましい。
また熱処理工程における熱処理張力は、特に限定されるものではないが、熱処理工程での工程通過性や最終的に得られる繊維の機械的物性等への観点から、3〜10mN/filの範囲とすることが好ましい。
【0045】
本発明においては、上記化学構造式(1)および上記化学構造式(2)の構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドを製造する際に、重合終了時の中和度およびポリマー固有粘度(IV)を特定範囲として得たポリマーから作製された繊維を用いさえすれば、重合および製糸におけるその他の工程は、特に限定されるものではない。熱処理後の繊維束には、使用する用途等に応じて油剤や加工剤等を付与しても特に差し支えない。なお、各工程における条件は特に限定されるものではなく、公知の工程条件を基に、曳糸性や工程通過性、得られる繊維の色相や機械的物性、品位等の観点から、適宜選択することができる。
【0046】
<パラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープの製造>
本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープは、上記の重合終了時の中和度およびポリマー固有粘度(IV)を特定範囲として得た、上記化学構造式(1)、および上記化学構造式(2)の構造反復単位を含むポリマーから作製されたパラ型全芳香族コポリアミド繊維を用いて製造する。
【0047】
ロープを製造する方法やロープの構造は特に限定されるものではなく、例えば、撚り合わせロープや、網索ロープ、延縄等、公知のロープ製造方法をそのまま適用することができ、用途や目的に合わせてその構造を適宜選択することができる。
例えば、パラ型全芳香族コポリアミド繊維を複数本引き揃えたものに下撚りを掛け、さらにこれら複数本を束ねて上撚りをかけてロープを得る方法が挙げられる。撚り数や撚り構造は特に限定されるものではなく、目的や用途に応じて適宜選択することができる。また、パラ型全芳香族コポリアミド繊維のみを用いても、必要に応じて他の複数種の繊維と組み合わせても特に差し支えない。
【0048】
また、本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープは、必要に応じて、耐候性や耐フィブリル性等をさらに高める目的で、油剤や難燃剤、耐候剤を付与したり、ポリエステル樹脂や、アクリル樹脂、ABS樹脂等の樹脂で被覆することもでき、後加工方法は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに何等限定されるものではない。
【0050】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
(1)繊維の繊度
得られた繊維を、公知の検尺機を用いて100m巻き取り、その質量を測定した。得られた質量に100を乗じた値を10000mあたりの質量、即ち繊度(dtex)として算出した。
(2)繊維の引張強度
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :75cm
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :500mm
(3)繊維の耐屈曲性
MIT屈曲試験機を用い、以下の条件で屈曲させた際の破断までの屈曲回数を測定した。
[測定条件]
荷重 :繊度(dtex)に0.05を乗じた値(g)
屈曲部形状 :R=0.5mm
屈曲角 :270°
サイクル数 :160回/分
(4)繊維の摩耗試験
摩擦試験機(大栄科学精器製作所製、商品名:高速型糸摩擦抱合力試験機、型式:TM−200 1A)を用い、JIS L1095のうち摩耗強さを測定するB法に準拠した摩耗試験により、以下の条件で破断までの摩耗回数を測定した。
[測定条件]
試験長 :20cm
荷重 :繊度(dtex)×0.2g
摩擦角度 :110°
磨耗回数 :試行回数10回の平均値(小数点以下四捨五入)
(5)ロープ強度
万能試験機(エーアンドディ社製、商品名:TENSIRON、型式:CR−7000)により、ロープ試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :75cm
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :500mm
【0051】
<実施例1>
[パラ型全芳香族コポリアミドの製造]
公知の方法により、NMPに溶解したパラフェニレンジアミン16.3質量部と5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール79.0質量部に、テレフタル酸ジクロライド100質量部を添加し、重縮合反応を行った。反応が十分進行した後、ポリマーIVの調整を行うためにテレフタル酸ジクロライド1.3質量部を添加した。ポリマーIVの調整の後、重合終了時に、中和剤として水酸化カルシウム34.2質量部を添加し、パラ型全芳香族コポリアミドポリマー溶液を得た。このときの中和度は92.6モル%であり、得られたポリマー溶液のポリマー濃度は4.5質量%であり、ポリマーIVは5.97であった。
【0052】
[パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造]
孔径0.20mm、孔数が300の紡糸口金を105℃に加熱した後、105℃に加熱した上記で得られたポリマー溶液を吐出し、半乾半湿式法により10mmのエアギャップを介して、NMP濃度が40質量%、50℃の水溶液で満たした凝固浴を通過させ、凝固糸束を得た。このときの紡糸ドラフトは、5.2とした。
引き続き、得られた凝固糸束を、NMP濃度が72質量%、20℃の水溶液で満たした可塑化浴に通過させて可塑化状態にし、次いで可塑化延伸を行った。可塑化延伸倍率は1.48倍、また延伸張力は19.5mN/filとした。
続いて、延伸工程通過後の繊維束を十分に水洗し、200℃の乾燥ローラーにて乾燥を行うことにより、乾燥糸を得た。
その後、非接触熱処理装置を用い、炉内酸素濃度を300ppm、炉内温度を460℃の条件で熱処理を行い、最後にワインダーで巻き取り、最終的にパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得た。
得られたパラ型全芳香族コポリアミド繊維は、繊度が560dtex、フィラメント数が300であった。得られた繊維の引張強度、破断までの屈曲回数および磨耗回数を、表1に示す。
【0053】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープの製造]
上記で得られた繊維を、10本合糸して束ね、リング撚糸機を用いてZ方向に75回/mの下撚りを掛けた後、得られた繊維束を2本合糸してさらにS方向に50回/mの上撚りを掛けることで、総繊度が11200dtex、径が1.67mmのロープを得た。得られたロープの強度を表1に示す。
【0054】
<比較例1>
[パラ型全芳香族コポリアミド繊維の製造]
特開2006−207066の実施例1に準拠し、パラ型全芳香族コポリアミド繊維を作製した。得られた繊維の引張強度、破断までの屈曲回数および磨耗回数を、表1に示す。
【0055】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープの製造]
得られた繊維を用いて、実施例1と同様にしてパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープを作製した。得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープは、総繊度が11000dtex、径が1.64mmであった。得られたロープの強度を表1に示す。
【0056】
<比較例2>
市販のパラ型全芳香族コポリアミド繊維であるテクノーラ(帝人テクノプロダクツ社製)を、ロープを作製するための繊維としてそのまま用いた。用いた繊維の引張強度、破断までの屈曲回数および磨耗回数を、表1に示す。
テクノーラ繊維を用いて、実施例1と同様にしてパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープを作製した。得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープは、総繊度が11000dtex、径が1.62mmであった。得られたロープの強度を表1に示す。
【0057】
<比較例3>
市販のパラ型全芳香族ポリアミド繊維であるトワロン(帝人アラミド社製)を、ロープを作製するための繊維としてそのまま用いた。用いた繊維の引張強度、破断までの屈曲回数および磨耗回数を、表1に示す。
トワロン繊維を用いて、実施例1と同様にしてパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープを作製した。得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープは、総繊度が11000dtex、径が1.59mmであった。得られたロープの強度を表1に示す。
【0058】
<比較例4>
市販のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であるザイロン(東洋紡社製)を、ロープを作製するための繊維としてそのまま用いた。用いた繊維の引張強度、破断までの屈曲回数および磨耗回数を、表1に示す。
ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維を用いて、実施例1と同様にしてパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープを作製した。総得られた繊維ロープは、繊度が11000dtex、径が1.55mmであった。得られたロープの強度を表1に示す。
【0059】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維ロープは、高強度であるとともに、耐屈曲性および耐摩耗性のバランスに優れたロープとなる。このため、本発明のパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープは、様々な環境で使用されるロープとして非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学構造式(1)、および下記化学構造式(2)の構造反復単位を含むパラ型全芳香族コポリアミドからなる繊維を含むロープであって
前記パラ型全芳香族コポリアミド繊維の引張強度が33.0〜38.0cN/dtexであるパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープ。
【化1】

(ArおよびArは独立であり、非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【化2】

(Arは非置換あるいは置換された2価の芳香族基である。)
【請求項2】
前記パラ型全芳香族コポリアミドは、前記化学構造式(1)と前記化学構造式(2)の構造反復単位の合計に対して、前記化学構造式(2)の構造反復単位が30〜90モル%である請求項1記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープ。
【請求項3】
前記パラ型全芳香族コポリアミド繊維は、単糸繊度が1〜3dtexである請求項1または2に記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープ。
【請求項4】
前記パラ型全芳香族コポリアミド繊維は、単糸数が50〜1000本である請求項1〜3いずれか記載のパラ型全芳香族コポリアミド繊維ロープ。

【公開番号】特開2012−241298(P2012−241298A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113660(P2011−113660)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】