説明

パラ型全芳香族ポリアミド紙

【課題】延伸されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維は剛直性を有しているため、繊維を叩解してパルプを得ることが困難であり、したがって、パラ型全芳香族ポリアミドパルプを原料として紙を作製することはできなかったが、カットしたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、他素材でバインドする方法が提案されており、耐薬品性および耐熱性に優れたパラ型全芳香族ポリアミド紙を提供する。
【解決手段】単糸繊度が一定範囲にある延伸されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を材料として用いて、当該繊維をカットした短繊維を叩解してパルプを得て、得られたパルプを用いて抄紙、脱水後、熱プレスすることで紙を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族ポリアミドからなる紙に関する。さらに詳しくは、耐薬品性に優れたパラ型全芳香族ポリアミドからなる紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを主成分としてなるパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、高強度、高弾性率の特徴を有することから、様々な産業資材用途として幅広く用いられている。ここで、パラ型全芳香族ポリアミドからなる紙は、高強力で耐薬品性が高いため、シールリング材等の分野において得に有用である。
【0003】
しかしながら、延伸されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維は剛直性を有しているため、繊維を叩解してパルプを得ることが困難であり、したがって、パラ型全芳香族ポリアミドパルプを原料として紙を作製することはできなかった。そこで、パラ型全芳香族ポリアミド繊維から紙を得る方法としては、カットしたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、他素材でバインドする方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、バインド材料となる他素材には耐薬品性、耐熱性がないため、得られる紙の性能を低下させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−213694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、耐薬品性および耐熱性に優れたパラ型全芳香族ポリアミド紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。その結果、単糸繊度が一定範囲にある延伸されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を材料として用いれば、当該繊維をカットした短繊維を叩解してパルプを得ることができ、その後に抄紙、脱水後、熱プレスすることで紙を作製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、パラ型全芳香族ポリアミドからなる紙であって、
JIS A5209に準拠した耐薬品性試験において、10%の水酸化ナトリウム水溶液に100時間浸漬後の破断強力保持率が60%以上であり、40%の硫酸水溶液に100時間浸漬後の破断強力保持率が30%以上であるパラ型全芳香族ポリアミド紙である。
【0008】
また別の本発明は、上記パラ型全芳香族ポリアミド紙の製造方法であって、単糸径が10〜50dtexであり、繊維軸方向の複屈折率が0.30以上であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維を、1〜30mmにカットして短繊維を得るカット工程と、前記短繊維を0.05mm以下のクリアランスで叩解処理してパルプを得る叩解工程と、前記パルプを抄紙、脱水した後、200〜600℃で熱付与しながら100kg/cm以上の圧力でカレンダー処理して紙を作製する製紙工程と、を含むパラ型全芳香族ポリアミド紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド紙は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維から得られるパルプによって形成されるため、耐薬品性および耐熱性に優れる。このため、例えば、ガスケット、シールリング等、耐薬品性および耐熱性が必要な分野において非常に有益なものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族ポリアミド>
[構造]
本発明の紙に供する繊維を構成するパラ型全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、主としてパラ位にてアミド結合により直接連結されたポリマーである。芳香族基としては、2個の芳香環が、酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものであってもよい。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、またはクロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。
【0011】
<パラ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明の紙に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分とを反応せしめることにより、芳香族ポリアミドのポリマー溶液を得ることができる。
【0012】
[パラ型全芳香族ポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分は、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド等を挙げることができる。これらのなかでは、汎用性や繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドが最も好ましい。
また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、パラ位以外の結合を形成するイソフタル酸ジクロライド等の成分が、少量含まれていてもよい。
【0013】
(芳香族ジアミン成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、例えば、パラフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、パラビフェニレンジアミン、5−アミノ−2−(4−アミノフェニレン)ベンズイミダゾール、1,4−ジクロロパラフェニレンジアミン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。芳香族環に置換基が存在していても、あるいは、その他の複素環等が存在していても差し支えない。
また、これらは1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、パラ位以外の結合を形成するメタフェニレンジアミン等の成分が、少量含まれていてもよい。
【0014】
パラ型全芳香族ポリアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、これらの内、2種類以上を用いることが好ましい。その組み合わせとしては、汎用性や繊維の機械的物性等の観点から、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。
また、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、芳香族ジアミンの全量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%との範囲する。
【0015】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0016】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0017】
[重合溶媒]
パラ型全芳香族ポリアミドの製造に用いるアミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として用いることも可能である。なお、用いる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
本発明に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族ポリアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0018】
[中和反応]
反応終了後には、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加して、中和反応を実施することが好ましい。
【0019】
[重合後処理等]
重合して得られる芳香族ポリアミドは、アルコール、水等の非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出された芳香族ポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得られたポリマー溶液を、そのまま紡糸用溶液(ドープ)に調製して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記した芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0020】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維>
[組成]
本発明の紙に用いられるパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、パラ型全芳香族ポリアミドを主成分とするものである。繊維中に含まれるパラ型全芳香族ポリアミドは、繊維質量全体に対して、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0021】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
〔単糸繊度〕
本発明の紙の材料として用いられるパラ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、10〜50dtexの範囲である。単糸繊度が10dtexより小さい場合には、叩解した場合に、繊維同士をバインドするために必要なフィブリル化が十分得られない。単糸繊度は、15dtex以上であることが好ましく、20dtex以上であることがさらに好ましい。
【0022】
〔繊維軸方向の複屈折率Δn〕
本発明の紙の材料として用いられるパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維軸方向の複屈折率が0.30以上である。当該繊維の複屈折率が0.30より小さい場合には、得られる紙の耐薬品性が低下するため好ましくない。繊維の複屈折率は0.35以上であることが好ましく、0.40以上であることがさらに好ましい。なお、パラ型全芳香族ポリアミド繊維においては、延伸倍率が2.0倍以上である場合に、通常、繊維軸方向の複屈折率Δnが0.30以上となる。
【0023】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明の紙の材料として用いられるパラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0024】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)の調製工程]
繊維の製造にあたっては、先ず、繊維を形成するための紡糸用溶液(ポリマードープ)を調製する。紡糸用溶液(ドープ)は、パラ型全芳香族ポリアミドおよび溶媒を含むものであり、調製する方法は特に限定されるものではない。紡糸用溶液(ドープ)の調製に用いられる溶媒としては、上記したパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することが好ましい。なお、用いられる溶媒は1種単独であっても、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒であってもよい。パラ型全芳香族ポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま用いることも可能である。
【0025】
さらに、パラ型全芳香族ポリアミドの溶媒への溶解性を高める目的で、溶解助剤として無機塩を用いることもできる。無機塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化リチウム等が挙げられる。ポリマードープに対する無機塩の添加量としては特に限定されるものではないが、ポリマー溶解性向上の効果や、無機塩の溶媒への溶解度等の観点から、ポリマードープ質量に対して1〜10質量%とすることが好ましい。
また、繊維に機能性等を付与する目的で、本発明の要旨を超えない範囲において添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。添加剤等を配合する場合には、ドープの調製において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用して導入することができる。
【0026】
なお、紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度、すなわちパラ型全芳香族ポリアミドの濃度は、0.5〜30質量%の範囲とすることが好ましい。紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度が0.5質量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少ないため紡糸に必要な粘度を得ることができず、紡糸時の吐出安定性が低下してしまう。一方で、ポリマー濃度が30質量%を超える場合には、ドープの粘性が急激に増加することから紡糸時の吐出安定性が低下し、紡糸パック内の急激な圧上昇により安定した紡糸が困難となりやすい。
【0027】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、湿式法、半乾半湿式法等により繊維を成形する。例えば半乾半湿式法においては、紡糸用溶液(ドープ)を紡糸口金から吐出し、貧溶媒からなる凝固浴中で凝固させて未延伸糸を得る。本発明において用いる紡糸口金は、ホール数が2以上のものである。得られる繊維の単糸繊度を10〜50dtexの範囲にできるものであれば、穴径やノズル長、材質等は特に限定されるものではなく、曳糸性等を考慮して適宜調整することができる。
紡糸口金を通過する際のポリマードープの温度、および紡糸口金の温度は、特に限定されるものではないが、曵糸性やポリマードープの吐出圧の観点から、80〜120℃とすることが好ましい。
【0028】
次に、紡糸口金から吐出したポリマードープを、凝固液中で凝固する。このとき、紡糸口金と凝固液との温度が大きく異なる場合には、紡糸口金と凝固液とが接触するとそれぞれの温度が変化し、その結果、紡糸工程の制御が困難となる。そこで、紡糸口金と凝固液との温度が大きく異なる場合には、エアギャップを設けた半乾半湿式紡糸を行うことが好ましい。エアギャップの長さは、特に限定されるものではないが、温度の制御性、曵糸性等の観点から、5〜15mmの範囲とすることが好ましい。
ここで用いる凝固液は、例えば、NMP水溶液であり、その温度や濃度は、特に限定されるものではない。形成された糸の凝固状態や後の工程通過性等に問題がない範囲で、適宜調整することができる。
【0029】
[水洗工程]
次に、上記で得られた凝固糸を水洗する。水洗工程は、糸中に含まれるNMP等の溶媒を水に拡散させ、糸中から溶媒を除去することを目的とし、公知の方法をそのまま適用することができる。本発明に用いられる繊維は、繊度の大きいものであるため、水洗工程によって十分に残存溶媒量を低減しておくことが好ましい。残存溶媒量が高い場合には、後の工程での工程通過性や最終的に得られる紙の品位が低下する場合がある。
なお、水洗工程においては繊維束が絶えず通過するため、それにより水洗浴の溶媒濃度が高くなる問題がある。このため、溶媒を含まない水を絶えず供給し、水洗浴内の溶媒濃度を一定に保つことが好ましい。
水洗後の糸に対しては、後の乾燥工程や熱延伸工程における単繊維同士の融着を抑制する目的で、無機微粒子を付与することが好ましい。付与する無機微粒子の種類や付着量は、単繊維同士の融着を抑制できれば特に限定されるものではない。またここで付着した無機微粒子は、熱延伸工程後の除去工程において、水シャワーや圧空を吹き付けることにより、除去することができる。
【0030】
[乾燥工程]
次に、乾燥工程において、溶媒を除去した繊維を乾燥する。乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維に付着した水分を十分に除去できる条件であれば問題はないが、作業性や繊維の熱による劣化を考慮すると、150〜250℃の範囲とすることが好ましい。また、乾燥は、ローラー等の接触型の乾燥装置、あるいは、乾燥炉中に繊維を通過させる等といった非接触型の乾燥装置のいずれを用いることもできる。
【0031】
[熱延伸工程]
次いで、乾燥後の繊維を熱延伸する。この工程は、繊維の熱延伸することにより、繊維中のポリマー分子を高度に配向させ、強度を付与することを目的とする。このときの熱延伸温度は、300〜600℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは320℃〜580℃、最も好ましくは350〜550℃の範囲である。熱延伸温度が300℃未満の場合には、糸の延伸が十分に得られず好ましくない。一方で、600℃を超える場合には、ポリマーの熱分解が起こるために繊維が劣化し、高強度の糸を得ることが困難となる。
熱延伸工程における延伸倍率は、5倍〜15倍とすることが好ましいが、特にこの範囲に限定されるものではない。またこの熱延伸工程は、必要に応じて多段階に分けて行っても特に差し支えはない。
【0032】
[微粒子除去]
次いで、単繊維同士の融着を抑制する目的で予め無機微粒子を付与した場合には、除去することが好ましい。無機微粒子の除去は、必要に応じて省略することも可能であるが、無機微粒子は、繊維の色相に影響し、また、スカム発生の原因となるため、過剰に付着している場合には除去することが好ましい。
除去方法については特に限定されるものではないが、水シャワーや圧空を吹き付けることで、過剰分の無機微粒子を除去することができる。
【0033】
[巻き取り]
その後、必要に応じて、繊維に対して帯電抑制や潤滑性を付与する目的で油剤を付与し、最後にワインダーで巻き取る。付与する油剤の種類や付与する量等は、特に限定されるものではなく、公知の方法をそのまま適用することができる。また、ワインダーでの巻き取り方法についても特に限定されるものではなく、公知のワインダーを用いて、適宜巻き取り条件を調整して巻き取ることができる。
【0034】
<紙>
[構成]
本発明の紙は、上記した特定のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を構成原料の主成分として用いるものである。紙における上記した特定のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量は、50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%である。
本発明の紙を、上記した特定のパラ型全芳香族ポリアミド繊維以外の他の繊維を含む複合紙とする場合には、他の繊維としては、例えば、天然繊維、上記した特定のパラ型全芳香族ポリアミド繊維以外の有機繊維、無機繊維、金属繊維、鉱物繊維等が挙げられる。他の繊維は、1種単独であっても、2種以上を組み合わせて併用してもよく、その組み合わせ方法については特に限定されるものではない。
【0035】
[紙の製造方法]
本発明の紙を得るための製造方法は、上記した特定のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を1〜30mmにカットして短繊維を得るカット工程と、前記短繊維を0.05mm以下のクリアランスで叩解処理してパルプを得る叩解工程と、前記パルプを抄紙、脱水した後、200〜600℃で熱付与しながら100kg/cm以上の圧力でカレンダー処理して紙を作製する製紙工程と、を含む。
【0036】
(カット工程)
カット工程においては、上記した特定のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を1〜30mmにカットして、短繊維を得る。1mm未満である場合には、繊維同士をバインドするために必要なフィブリル化が十分得られない。また、30mmを超える場合には、最終的な紙としたときに平滑性が失われるため好ましくない。
カットの方法および用いる装置は特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、ギロチンカッター、ロータリーディスクカッターを用いて、繊維を所定の繊維長にカットすることができる。
【0037】
(叩解工程)
叩解工程においては、カット工程で得られた短繊維を、0.05mm以下のクリアランスで叩解処理してパルプを得る。ここで、0.05mmより大きいクリアランスで叩解処理を実施した場合には、十分なパルプ化が進行せず、その結果、バインド性能が低下し、最終的な紙としたときの強度が著しく低下する。
叩解の方法および用いる装置は特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、ディスクリファイナー等を好適に用いることができる。
【0038】
(製紙工程)
最後に、製紙工程において、叩解工程で得られたパルプを抄紙、脱水した後、200〜600℃で熱付与しながら100kg/cm以上の圧力でカレンダー処理して紙を作製する。熱処理温度が200℃未満の場合には、得られる紙の強度が不十分となる。また、600℃より高い温度では、構成するポリマーが分解するため紙の強度が低下する。
抄紙および脱水の方法および用いる装置については特に限定されるものではなく、公知の抄糸機を用いて公知の方法によって実施することができる。
また、熱付与、カレンダー処理の方法および用いる装置についても、上記の温度および圧力の範囲で実施できれば特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。
【0039】
[紙を構成するパルプの形態]
本発明の紙を構成するパルプの形態は、特に限定されるものではないが、比表面積が0.05〜10.0m/gの範囲であることが好ましい。さらに好ましくは、0.08〜8.0m/gの範囲であり、0.1〜5.0m/gの範囲であることが最も好ましい。
パルプの比表面積が0.05m/g未満では、パルプ同士のバインド能力が得られず、紙としての性能が得られないばかりか、表面の平滑性が失われて紙としての品質が著しく悪いものとなる。一方で、比表面積が10.0m/gより大きい場合には、十分な強力を有する紙を得ることが困難となる。
【0040】
[紙の用途]
本発明の紙は、耐薬品性および耐熱性を有するため、当該性能が要求されるガスケット、シールリング等の分野において、好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに何等限定されるものではない。
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
【0042】
(1)固有粘度(IV)
98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液を、オストワルド粘度管にて30℃の温度で測定した。
(2)繊維の繊度
得られた繊維を、公知の検尺機を用いて100m巻き取り、その質量を測定した。得られた質量に100を乗じた値を、10000mあたりの繊度(dtex)として算出した。
(3)繊維軸方向の複屈折率Δn
偏光顕微鏡(ニコン社製、商品名:ECLIPSE E600W POL)を使用し、緑色光線(波長546nm)を用いて干渉縞法によって測定した。
(4)パルプの比表面積
島津社製フローソーブII2300を使用し、BET1点法にて測定した。
(5)耐薬品性試験
〔耐アルカリ性試験〕
JIS A5209に準拠し、2cm(横幅)×5cm(試験片長)のサンプル紙を、10%の水酸化ナトリウム水溶液に100時間浸漬した。浸漬前後のサンプルについてそれぞれ、以下の測定方法により破断強力を求め、試験後サンプルの強力保持率を求めた。
〔耐酸性試験〕
JIS A5209に準拠し、2cm(横幅)×5cm(試験片長)のサンプル紙を、40%の硫酸水溶液に100時間浸漬した。浸漬前後のサンプルについてそれぞれ、以下の測定方法により破断強力を求め、試験後サンプルの強力保持率を求めた。
〔破断強力の測定方法〕
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
(測定条件)
温度 :室温
試験片 :2cm(横幅)×5cm(試験片長)
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :10mm
【0043】
<実施例1>
[パラ型全芳香族ポリアミドの製造]
パラフェニレンジアミン50質量部と3,4’−ジアミノジフェニルエーテル50質量部をNMPに溶解させ、これに、テレフタル酸ジクロライド100質量部を添加し、重縮合反応を行い、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのポリマー溶液(ドープ)を得た。このときのポリマー濃度は6質量%、ポリマーの固有粘度(IV)は3.38であった。
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造]
(紡糸・凝固工程)
穴径0.8mm、穴数が200の紡糸口金を105℃に加熱した後、105℃に加熱した上記で得られたポリマー溶液(ドープ)を吐出し、10mmのエアギャップを介して、NMP濃度30質量%の60℃の水溶液で満たされた凝固浴を通過させることにより、ポリマーが凝固した繊維束を得た。
(水洗工程)
次いで、60℃に調整した水洗浴に、凝固後の繊維束を通過させ、水洗を行った。
次いで、乾燥工程や熱延伸工程における単糸同士の融着を抑制する目的で、タルクおよびオスモスを、繊維質量に対して2質量%付着させた。
(乾燥工程・熱延伸工程)
タルクおよびオスモスが付着した繊維を、200℃の乾燥ローラーにて乾燥後、380℃で1段目の熱延伸を行った。このときの延伸倍率は2.4倍であった。その後、続けて530℃で2段目の熱延伸を行った。このときの延伸倍率は4倍であった。
(巻き取り)
最後に、延伸された繊維をワインダーで紙管に巻き取って、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。
[繊維の物性]
得られた繊維は、繊度が4000dtex、フィラメント数が200、単糸繊度が20dtex、また、繊維軸方向の複屈折率Δnは、0.41であった。
[紙の作製]
(カット工程)
得られた繊維を、ギロチンカッターにて3mmにカットし、短繊維を得た。
(叩解工程)
上記で得られた短繊維を、ディスクリファイナーにて0.02mmのクリアランスで叩解処理し、パルプを得た。得られたパルプの比表面積は、0.40m/gであった。
(製紙工程)
得られたパルプを、目付けが100g/mとなるよう脱水、抄紙し、300℃で150kg/mの圧力でカレンダー装置にて熱プレス処理を行い、パラ型全芳香族ポリアミド紙を得た。
[紙の物性]
得られた紙について、耐薬品性試験を実施した。結果を表1に示す。
【0044】
<比較例1>
実施例1と同一の方法で、単糸繊度が1.67dtexのパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維から紙を作製し、耐薬品試験を行った。結果を表1に示す。
【0045】
<比較例2>
帝人アラミド社製アラミド繊維(商品名:トワロン、銘柄:TW1097)を用いて、実施例1と同一の方法で紙を作製し、耐薬品試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド紙は、耐薬品性および耐熱性に優れているため、これらの特性が必要とされるガスケット、シールリング等の用途において特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型全芳香族ポリアミドからなる紙であって、
JIS A5209に準拠した耐薬品性試験において、10%の水酸化ナトリウム水溶液に100時間浸漬後の破断強力保持率が60%以上であり、40%の硫酸水溶液に100時間浸漬後の破断強力保持率が30%以上であるパラ型全芳香族ポリアミド紙。
【請求項2】
比表面積が0.05〜10.0m/gであるパラ型全芳香族ポリアミドパルプから形成される請求項1記載のパラ型全芳香族ポリアミド紙。
【請求項3】
前記パラ型全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1または2に記載のパラ型全芳香族ポリアミド紙。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のパラ型全芳香族ポリアミド紙の製造方法であって、
単糸径が10〜50dtexであり、繊維軸方向の複屈折率が0.30以上であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維を、1〜30mmにカットして短繊維を得るカット工程と、
前記短繊維を0.05mm以下のクリアランスで叩解処理してパルプを得る叩解工程と、
前記パルプを抄紙、脱水した後、200〜600℃で熱付与しながら100kg/cm以上の圧力でカレンダー処理して紙を作製する製紙工程と、を含むパラ型全芳香族ポリアミド紙の製造方法。

【公開番号】特開2013−7128(P2013−7128A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139442(P2011−139442)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】