説明

パラ型全芳香族ポリアミド繊維

【課題】引張強度を維持したままで摩擦堅牢度が改善されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】黒色を発現する芳香族ジアミン成分(黒色アミン)として、p−フェニレンジアミン酸化物とp−フェニレンジアミン30〜70モル%、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル70〜30モル%により得られる黒色着色可能なパラ型全芳香族ポリアミドを得る。黒色着色繊維はマーチンデール法により5、000回摩耗させても白化は認められない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。さらに詳しくは、繊維の引張強度を低下することなく、摩擦堅牢度が向上された、黒色のパラ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、高強度、高弾性率、高耐熱性を有するとともに、有機繊維特有のしなやかさと軽量性を併せ持つ合成繊維である。これらの特長から、パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、自動車や自動二輪および自転車用のタイヤ、自動車用歯付きベルト、コンベヤ等の補強材料、あるいは、光ファイバーケーブルの補強やロープ等、各種分野において幅広く利用されている。また、衣料分野においても、防弾チョッキや、防刃性の作業用手袋、作業服等の防護衣料、またはスポーツ衣料、さらには、燃え難さを利用した消防服等、各方面に用途を展開している。
【0003】
ここで、パラ型全芳香族ポリアミド繊維の用途の中でも特に衣料分野においては、着色が必要とされる。そして、着色した繊維を得る方法としては、繊維化後に染料を用いて染色する後染色法と、紡糸原液に顔料を添加した後に繊維化する原着法が、一般的に知られている。
しかしながら、これら従来の方法で得られる繊維を用いた繊維構造体は、摩擦堅牢度として必ずしも満足のいくレベルではなく、繰り返し洗濯することで、摩擦による繊維表面に白ボケが発生していた。
【0004】
そこで、摩擦堅牢度を向上させることを目的として、微粒子を凝集させることなく、高濃度に添加したカーボンブラック配合芳香族ポリアミド繊維が提案されている(特許文献1〜3)。
しかしながら、摩擦堅牢度を改善するためにはカーボンブラックを相当量添加する必要があり、これにより引張強度等の繊維の機械的物性が大きく低下するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−085316号公報
【特許文献2】特開平06−081211号公報
【特許文献3】特開2007−023451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、引張強度を維持したままで摩擦堅牢度が改善されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。そして、得られるパラ型全芳香族ポリアミドそのものを黒色に着色できるモノマーを用いてポリマーを製造し、得られたポリマーから繊維を得ることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、引張強度が23cN/dtex以上のパラ型全芳香族ポリアミド繊維であって、繊維から作成された繊維構造体は、JIS Z8729に従って測定したLab表色法におけるL値(明度)が24以下であり、かつJIS L1096に規定されるマーチンデール法により5,000回摩耗させた前後のL値(明度)変化が+5%以下であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、引張強度を維持したままで摩擦堅牢度が改善された繊維となる。このため、各種防護衣料用途において有用であり、とりわけ、洗濯等の摩擦回数の多い衣料分野における意義は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族ポリアミド>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されたポリマーである。また、芳香族基には、2個の芳香環が酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。なお、2価の芳香族基を直接連結するアミド結合の位置は、パラ型である。
【0011】
<パラ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)成分と芳香族ジアミン成分とを低温溶液重合、または界面重合等により反応せしめることにより得ることができる。
【0012】
[芳香族ポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド等が挙げられる。また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。これらのなかでは、汎用性や得られる繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドが好ましい。なお、本発明においては、イソフタル酸クロライド等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0013】
(芳香族ジアミン成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、p−フェニレンジアミン、2−クロル−p−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロル−p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン等を挙げることができる。これらは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、m−フェニレンジアミン等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0014】
また、本発明においては、黒色のパラ型全芳香族ポリアミドを得るために、黒色を発現する芳香族ジアミン成分(黒色アミン)を用いることが重要である。黒色を発現する芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、p−シミレン−2,5−ジアミン、クロラゾール バイオレット N、1,1’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン酸化物を挙げることができる。本発明においては、得られる繊維の黒味の観点から、p−フェニレンジアミン酸化物を用いることが特に好ましい。
【0015】
本発明においては、高温熱延伸における安定性から、p−フェニレンジアミンおよび黒色アミンと、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが好ましい。パラフェニレンジアミンおよび黒色アミンと、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、パラフェニレンジアミンと黒色アミンの組成和、および、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの組成が、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%である。
【0016】
黒色アミンとしてp−フェニレンジアミン酸化物を用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、p−フェニレンジアミンとp−フェニレンジアミン酸化物の総和に対して、p−フェニレンジアミン酸化物を0.1〜20モル%の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜15モル%の範囲、最も好ましくは1.0〜10モル%の範囲とする。
【0017】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0018】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0019】
[重合溶媒]
パラ型全芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、用いられる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0020】
本発明に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族ポリアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0021】
[その他重合条件等]
生成するパラ型全芳香族ポリアミドの溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時のいずれかに、一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
【0022】
また、パラ型全芳香族ポリアミドの末端は、封止することもできる。末端封止剤を用いて末端を封止する場合には、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アニリンおよびその置換体等を末端封止剤として用いることができる。
また、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために、脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩等を併用することもできる。
【0023】
反応の終了後は、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加し、中和反応を実施してもよい。
【0024】
[重合後処理等]
上記のようにして得られるパラ型全芳香族ポリアミドは、アルコール、水等の非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族ポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得たポリマー溶液をそのまま紡糸用溶液(ドープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記パラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0025】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下の方法が挙げられる。
【0026】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整工程]
本発明の繊維の製造においては、先ず、繊維を形成するための紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する。紡糸用溶液(ドープ)は、パラ型全芳香族ポリアミドおよび溶媒を含むものであり、調整する方法は特に限定されるものではない。
【0027】
紡糸用溶液(ドープ)の調製に用いられる溶媒としては、上記したパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することが好ましい。なお、用いられる溶媒は1種単独であっても、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒であってもよい。本発明の製造方法においては、パラ型全芳香族ポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま用いることも可能である。
【0028】
さらに、パラ型全芳香族ポリアミドの溶媒への溶解性を高める目的で、溶解助剤として無機塩を用いることもできる。無機塩としては、例えば、塩化カルシウム、塩化リチウム等が挙げられる。ポリマードープに対する無機塩の添加量としては特に限定されるものではないが、ポリマー溶解性向上の効果や、無機塩の溶媒への溶解度等の観点から、ポリマードープ質量に対して1〜10質量%とすることが好ましい。
【0029】
また、繊維に機能性等を付与する目的で、本発明の要旨を超えない範囲において添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。添加剤等を配合する場合には、ドープの調整において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用して導入することができる。
【0030】
なお、紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度、すなわちパラ型全芳香族ポリアミドの濃度は、0.5質量%以上30質量%以下の範囲とすることが好ましい。紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度が0.5質量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少ないため紡糸に必要な粘度を得ることができず、紡糸時の吐出安定性が低下してしまう。一方で、ポリマー濃度が30質量%を超える場合には、ドープの粘性が急激に増加することから紡糸時の吐出安定性が低下し、紡糸パック内の急激な圧上昇により安定した紡糸が困難となりやすい。
【0031】
[紡糸・凝固]
紡糸・凝固工程においては、上述の如く調整された紡糸用溶液(ドープ)を用いて、湿式紡糸法またはエアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて凝固糸を形成する。
【0032】
凝固浴としては、パラ型全芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られる全芳香族ポリアミド凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては水、良溶媒としてはパラ型全芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いることが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、パラ型全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60の範囲とすることが好ましい。
【0033】
[その他の工程]
凝固液から凝固糸条を引き上げた後は、公知の方法によって、最終的なパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。例えば、水洗工程を実施して形成された未延伸糸から溶媒を除去し、必要に応じて延伸を実施し、乾燥工程等を経た後に必要に応じて延伸することにより配向させ、最終的な繊維を得ることができる。
【0034】
[延伸工程]
本発明の繊維は、延伸配向されていることが好ましい。延伸の方法としては特に限定されるものではなく、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸のみならず、乾燥糸状態での加熱延伸等、いずれでもよい。また、延伸倍率については特に制限はないが、5倍以上であることが好ましく、8倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率を制御することにより、得られるパラ型全芳香族ポリアミド繊維の伸度および強度を制御することができる。
熱延伸を実施する場合には、その温度は、パラ型全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、好ましくは300〜600℃、さらに好ましくは350〜550℃とし、また、延伸倍率は好ましくは10倍以上、さらに好ましくは10〜15倍とする。
【0035】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の物性>
[引張強度]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、高いほど好ましいが、黒色アミンの組成を上げるにつれて強度は低下の傾向があり、23cN/dtex未満では高強度繊維としての特長が不足する。このため、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、23cN/dtex以上とすることが好ましく、さらに好ましくは、24cN/dtex以上である。
【0036】
[伸度]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の伸度は、3.0%以上であることが好ましい。3.0%未満の場合には、撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、撚糸時の強力利用率が低下する。このため、例えば耐久性が特に要求される使用用途に用いた場合に、耐久性が不足する場合がある。伸度は、好ましくは3.5〜5.0%の範囲である。
【0037】
[単糸繊度]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、好ましくは0.5〜50dtexの範囲、さらに好ましくは1.0〜10dtexの範囲である。0.5dtex未満の場合には、製糸性が不安定となる場合がある。また、繊維の比表面積が大きくなるので、耐光劣化を受け易い。一方、50dtexを超える場合には、繊維の比表面積は小さくなり、耐光劣化を受けにくいが、反面、比表面積が小さいために製糸工程において凝固が不完全になりやすく、その結果、紡糸や延伸工程での工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすくなる。
【0038】
<繊維構造体の物性>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維から作製された繊維構造体の物性を、以下に示す。
【0039】
[明度(L値)]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維から作製された繊維構造体の明度(L値)は、24以下である。23.5以下であることが好ましく、23以下であることが特に好ましい。明度(L値)が24以下であれば、所望の黒色を有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維製品となる。
【0040】
[明度(L値)変化率]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、引張強度を維持したままで摩擦堅牢度が改善されたものである。すなわち、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維から得られる繊維構造物は、繰り返しの洗濯等による摩擦に対しても繊維表面に白ボケが発生することを抑制できる。
【0041】
具体的には、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維から作製された繊維構造体は、JIS L1096に規定されるE法(マーチンデール法)により、5,000回の摩耗試験を実施した後の明度(L値)変化率が、+5%以下である。+4.5%以下であることが好ましく、+4%以下であることが特に好ましい。明度(L値)変化率が5%以下であれば、所望の摩擦堅牢度を有する繊維製品とすることができる。
【0042】
なお、本発明における「明度(L値)変化率」は、JIS L1096に規定されるE法(マーチンデール法)により、5,000回の摩耗試験を実施した前後のサンプルについて明度(L値)を測定し、下式により算出するものとする。
(明度変化率)=((摩耗試験後L値)−(摩耗試験前L値))/(摩耗試験前L値)×100
【0043】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の用途>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、織物、編物、不織布等の布帛のほか、組紐、ロープ、撚糸コード、ヤーン、綿等の繊維構造物を構成することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0045】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法で測定・評価を実施した。
[固有粘度(IV)]
98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液について30℃で測定した。
[明度(L値)]
測定機器としてMINOLTA社製、色彩色差計CR−200を用いて、JIS Z8729に定められるLab表示法による明度(L値)の測定を実施した。
[明度(L値)変化率]
JIS L 1096に規定されるE法(マーチンデール法)により、5,000回の摩耗試験を実施し、試験前後のサンプルについて上記の明度(L値)を測定した。明度変化率は、下式により算出した。
(明度変化率)=((摩耗試験後L値)−(摩耗試験前L値))/(摩耗試験前L値)×100
[繊度]
JIS−L−1015に準じ、測定した。
[繊維の引張強度]
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
(測定条件)
温度 :室温
測定試料長 :500mm
チャック引張速度 :250mm/分
初荷重 :0.2cN/dtex
【0046】
<実施例1>
[パラ型全芳香族ポリアミドの製造]
(ジアミン溶液の調整)
錨形攪拌翼を有する混合槽に、p−フェニレンジアミン1.35gを秤量して投入し、大気下で220℃に加熱して3時間攪拌し、黒色を発現する芳香族ジアミン成分(黒色アミン)とした。室温に冷却した後に窒素で内部をフローし、水分率約20ppmのN−メチル−2−ピロリドン(以降「NMP」と称す)2.0Lを投入し、p−フェニレンジアミン25.62gと3,4’−ジアミノジフェニルエーテル49.89gとを精秤して投入して溶解させ、ジアミン溶液を得た。
【0047】
(重合)
得られたジアミン溶液を20℃に冷却し、攪拌しながら、テレフタル酸クロライド100.68gを精秤して投入して60分間の攪拌を実施した後、70℃に昇温してさらに60分間の攪拌を実施し、重合反応を行なった。続いて、水酸化カルシウム22.5%を含有するNMPスラリー163.90gを投入し、70℃で60分間の攪拌を続けて、pH4.8のコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド溶液を得た。得られたポリマーの固有粘度(IV)は3.6、ポリマー濃度は6%であった。
【0048】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作製]
得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド溶液を紡糸用溶液として用い、孔数25ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出して凝固させた後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で10倍に延伸した後巻き取り、黒色のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0049】
[織物の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を紡績糸(20/2)とし、2/1綾織に織成した織物(目付け150g/m)を作成した。続いて、公知の方法で精練処理を実施し、織物表面にある糊剤、油剤を除去した。得られた織物の物性を表1に示す。
【0050】
<実施例2>
[パラ型全芳香族ポリアミドの製造]
(ジアミン溶液の調整)
錨形攪拌翼を有する混合槽に、p−フェニレンジアミン2.70gを秤量して投入し、大気下で220℃に加熱して3時間攪拌し、黒色を発現する芳香族ジアミン成分(黒色アミン)とした。室温に冷却した後に窒素で内部をフローし、水分率約20ppmのNMP2.0Lを投入し、p−フェニレンジアミン24.27gと3,4’−ジアミノジフェニルエーテル49.89gとを精秤して投入して溶解させ、ジアミン溶液を得た。
【0051】
(重合)
得られたジアミン溶液を用いて、実施例1と同様にパラ型全芳香族ポリアミド溶液を得た。得られたポリマーの固有粘度(IV)は3.3であった。
【0052】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作製・]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド溶液を紡糸用溶液として用いて、実施例1と同様にパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0053】
[織物の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、実施例1と同様に織物を作製した。得られた織物の物性を表1に示す。
【0054】
<実施例3>
[パラ型全芳香族ポリアミドの製造]
(ジアミン溶液の調整)
錨形攪拌翼を有する混合槽に、p−フェニレンジアミン0.27gを秤量して投入し、大気下で220℃に加熱して3時間攪拌し、黒色を発現する芳香族ジアミン成分(黒色アミン)とした。室温に冷却した後に窒素で内部をフローし、水分率約20ppmのNMP2.0Lを投入し、p−フェニレンジアミン26.70gと3,4’−ジアミノジフェニルエーテル49.89gとを精秤して投入して溶解させ、ジアミン溶液を得た。
【0055】
(重合)
得られたジアミン溶液を用いて、実施例1と同様にパラ型全芳香族ポリアミド溶液を得た。得られたポリマーの固有粘度(IV)は3.5であった。
【0056】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド溶液を紡糸用溶液として用いて、実施例1と同様にパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0057】
[織物の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、実施例1と同様に織物を作製した。得られた織物の物性を表1に示す。
【0058】
<比較例1>
[パラ型全芳香族ポリアミドの製造]
(ジアミン溶液の調整)
錨形攪拌翼を有する混合槽に、窒素で内部をフローし、水分率約20ppmのNMP2.0Lを投入し、p−フェニレンジアミン26.97gと3,4’−ジアミノジフェニルエーテル49.89gとを精秤して投入して溶解させ、ジアミン溶液を得た。
【0059】
(重合)
得られたジアミン溶液を20℃に冷却し、攪拌しながら、テレフタル酸クロライド100.68gを精秤して投入して60分間の攪拌を実施した後に、70℃に昇温してさらに60分間の攪拌を実施し、重合反応を行なった。続いて、水酸化カルシウム22.5%を含有するNMPスラリー163.90gを投入して、70℃で60分間攪拌を続けて、pH4.8のコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド溶液を得た。得られたポリマーの固有粘度(IV)は3.4、ポリマー濃度は6%であった。
得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド溶液に、カーボンブラックのNMP分散液(大日精化工業株式会社製、MPS−1100 Black(T))を、ポリマーに対してカーボンブラック量が5質量%となるように加え、続いて、浅田鉄工株式会社製プラネタリーミキサー(製品名PVM−5)を用いて、80℃にて2時間加熱、混練し、カーボンブラック含有パラ型全芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0060】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作製]
得られたカーボンブラック含有パラ型全芳香族ポリアミド溶液を紡糸用溶液として用い、孔数25ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出して凝固させた後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で10倍に延伸した後巻き取り、黒色のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0061】
[織物の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、実施例1と同様に織物を作製した。得られた織物の物性を表1に示す。
【0062】
<比較例2>
[パラ型全芳香族ポリアミドの製造]
カーボンブラックの含有量を10質量%とした以外は、比較例1と同様の方法で、カーボンブラックが分散したパラ型全芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0063】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド溶液を紡糸用溶液として用いて、実施例1と同様にパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0064】
[織物の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、実施例1と同様に織物を作製した。得られた織物の物性を表1に示す。
【0065】
<比較例3>
[パラ型全芳香族ポリアミドの製造]
カーボンブラックの含有量を15質量%とした以外は、比較例1と同様の方法で、カーボンブラックが分散したパラ型全芳香族ポリアミド溶液を得た。
【0066】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド溶液を紡糸用溶液として用いて、実施例1と同様にパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0067】
[織物の作製]
得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を用いて、実施例1と同様に織物を作製した。得られた織物の物性を表1に示す。
【0068】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
引張強度が23cN/dtex以上のパラ型全芳香族ポリアミド繊維であって、
繊維から作製された繊維構造体は、Lab表色法におけるL値(明度)が24以下であり、かつJIS L1096に規定されるE法(マーチンデール法)により5,000回摩耗させた前後のL値(明度)変化率が+5%以下であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
伸度が3.0%以上である請求項1記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
パラ型全芳香族ポリアミドが、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1または2記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2012−241297(P2012−241297A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−113659(P2011−113659)
【出願日】平成23年5月20日(2011.5.20)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】