説明

パラ型全芳香族ポリアミド繊維

【課題】高温下での寸法安定性に優れたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供する。
【解決手段】パラ型全芳香族ポリアミド繊維中に、特定の架橋剤を特定量配合する。具体的には、芳香族カルボン酸無水物を繊維全体に対して0.1〜10重量%含有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。さらに詳しくは、高温収縮性が改善されたパラ型全芳香族ポリアミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとから製造される全芳香族ポリアミドは、耐熱性および難燃性に優れていることが知られている。そして、全芳香族ポリアミド繊維は、これらの特性が必要とされる分野、例えば、フィルター、電子部品などの産業用途や、防護衣などの防災安全衣料用途などに用いられている。
【0003】
なかでも、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、その優れた耐熱性、難燃性、自己消化性に加えて、糸質が衣料用繊維、例えば綿、羊毛などの天然繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリルなどの合成繊維によく似ているため、加工性、着心地、洗濯性、衣裳性などの面から、従来使用されていたガラス繊維、石綿繊維、フェノール樹脂繊維、金属箔コーティング素材などよりも、防護衣を形成するための素材として優れていることが認められている。
【0004】
しかしながら、現有の全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣は、高温の炎または火の玉に接触した際に、防護衣の収縮により防護衣内の人体に著しい火傷を負わせる場合があった。具体的には、高温の炎または火の玉との接触により防護衣が収縮すると、防護衣と人体との間に存在する空気層が減少し、その結果、防護衣と人体との密着が起こりやすくなり、人体に著しい火傷を負わせる原因となっていた。このため、防護衣の構成材料となる全芳香族ポリアミド繊維には、高温収縮性の抑制が望まれていた。
【0005】
したがって、全芳香族ポリアミド繊維製の防護衣には、素材の高温収縮性を抑制し、熱防護性能を飛躍的に向上することが望まれており、防護衣を構成する全芳香族ポリアミド繊維には、低い高温収縮性の両立が求められていた。
ここで、全芳香族ポリアミド繊維の熱防護性能を改善する方法としては、ポリマーにハロゲン原子含有の有機リン化合物を配合する方法が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、本方法によれば耐炎性の改善は可能であるが、火炎暴露時に発現する繊維収縮については、未だ改善されるものではなかった。
【0006】
また、全芳香族ポリアミドと、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリスルフィドスルホンなどの可溶性樹脂とをブレンドした、高温での寸法安定性に優れた繊維が提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、高温の炎または火の玉に接触した際の素材の収縮、すなわち極めて高温下での収縮現象については、未だ満足できるレベルではなかった。
【0007】
さらに、別の手法として、架橋構造を作成して火炎暴露時の耐火性を向上させる方法が検討されている。このような方法としては、例えば、全芳香族ポリアミド繊維を、IV、VおよびVI族のハライドおよび/またはオキシハライドを含有する不活性雰囲気下で高温熱処理して架橋構造を形成させる方法(特許文献3参照)、ハロゲン置換されたホスファゼンを含有する不活性雰囲気下で高温熱処理して架橋構造を形成させる方法(特許文献4参照)、高温空気の雰囲気下で繊維を長時間処理して酸化架橋を形成させる方法(特許文献5、6参照)などが提案されている。しかしながら、何れの場合も、高温且つ長時間の工程を有するため、実質的に生産性が悪いという問題があった。
【0008】
また、硫黄を配合することにより架橋構造を形成した全芳香族ポリアミド繊維も提案されている(特許文献7参照)。しかしながら本繊維は、モジュラスの向上は見られるものの、高温収縮性については未だ満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭53−122817号公報
【特許文献2】特開平5−321026号公報
【特許文献3】特公昭47−5436号公報
【特許文献4】特開昭49−132398号公報
【特許文献5】特公昭46−419号公報
【特許文献6】特開昭49−35614号公報
【特許文献7】特表2000−512694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のごとき従来技術を背景になされたものであり、その目的とするところは、高温下での寸法安定性に優れたパラ型全芳香族ポリアミド繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の架橋剤を繊維中に特定量配合したパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、高温下の寸法安定性に優れたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、芳香族カルボン酸無水物を繊維全体に対して0.1〜10重量%含有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、高温下での寸法安定性を飛躍的に向上させることができる。このため、これらの特性が必要とされる各種の繊維製品を提供することができ、なかでも、防護服を構成する繊維として特に有益である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<パラ型全芳香族ポリアミド>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、アミド結合により直接連結されたポリマーである。また、芳香族基には、2個の芳香環が酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基等の低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。なお、2価の芳香族基を直接連結するアミド結合の位置は、パラ型である。
【0014】
このようなパラ型全芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド、テレフタル酸成分と3,4’−ジアミノジフェニルエーテル成分およびパラフェニレンジアミン成分とが共重合されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド、テレフタル酸成分とフェニルベンゾイミダゾール骨格を有する芳香族ジアミン成分およびパラフェニジレンジアミン成分とが共重合されたコポリパラフェニレン・フェニルベンゾイミダゾール・テレフタルアミド等を挙げることができる。なお、本発明の繊維を構成するパラ型全芳香族ポリアミドは、1種単独であっても、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、パラ型全芳香族ポリアミドを主成分とする繊維を意味する。ここで、「主成分」とは、得られるパラ型全芳香族ポリアミド繊維全体に対して、50質量%より大きく100質量%の範囲であることを意味する。なお、本発明においては、パラ型全芳香族ポリアミドが100質量%であることが特に好ましい。
さらに、本発明においては、アミド系溶剤等に可溶であるため成形加工性に優れ、熱延伸を施すことにより強度や弾性率等の特性を著しく向上できることから、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミドを用いることが好ましい。
【0016】
<パラ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分と芳香族ジアミン成分とを低温溶液重合、または界面重合等により反応せしめることにより得ることができる。
【0017】
[パラ型芳香族ポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライド等が挙げられる。また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。これらのなかでは、汎用性や得られる繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドが好ましい。なお、本発明においては、イソフタル酸クロライド等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0018】
(芳香族ジアミン成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、p−フェニレンジアミン、2−クロル−p−フェニレンジアミン、2,5−ジクロルp−フェニレンジアミン、2,6−ジクロル−p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン等を挙げることができる。これらは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、m−フェニレンジアミン等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0019】
本発明においては、パラ型全芳香族ポリアミドとしてコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレン・テレフタルアミドを用いることが好ましいため、p−フェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いることが好ましい。その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、パラフェニレンジアミンの組成、および、3,4’−ジアミノジフェニルエーテルの組成を、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%である。
【0020】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0021】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0022】
[重合溶媒]
パラ型全芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等の水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコール等の水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、用いられる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
本発明に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族ポリアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0023】
[その他重合条件等]
生成するパラ型全芳香族ポリアミドの溶解性を挙げるために、重合前、途中、終了時のいずれかに、一般に公知の無機塩を適当量添加しても差し支えない。このような無機塩としては、例えば、塩化リチウム、塩化カルシウム等が挙げられる。
また、パラ型全芳香族ポリアミドの末端は、封止することもできる。末端封止剤を用いて末端を封止する場合には、例えば、フタル酸クロライドおよびその置換体、アニリンおよびその置換体等を末端封止剤として用いることができる。
また、生成する塩化水素のごとき酸を捕捉するために、脂肪族や芳香族のアミン、第4級アンモニウム塩等を併用することもできる。
反応の終了後は、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加し、中和反応を実施してもよい。
【0024】
[重合後処理等]
上記のようにして得られるパラ型全芳香族ポリアミドは、アルコール、水等の非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族ポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得たポリマー溶液をそのまま紡糸用溶液(ドープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族ポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記パラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0025】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得る方法としては、例えば、湿式紡糸法または半乾半湿式紡糸法を採用する方法が挙げられる。
【0026】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)]
(組成)
本発明の繊維を得るためには、先ず、パラ型全芳香族ポリアミド、芳香族カルボン酸無水物、および溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する。
紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、パラ型全芳香族ポリアミド溶液と、芳香族カルボン酸無水物溶液とを混合する方法が挙げられる。
【0027】
(芳香族カルボン酸無水物)
本発明で用いられる芳香族カルボン酸無水物は、熱処理を含む製糸段階でパラ型全芳香族ポリアミドの少なくとも一部を架橋させる機能を有するものである。芳香族ポリカルボン酸の無水物であればその種類を問わないが、芳香族ポリアミドとの親和性の観点から、なかでも、ピロメリット酸無水物(1,2,4,5‐ベンゼンテトラカルボン酸二無水物)が特に好ましい。
【0028】
(芳香族カルボン酸無水物の含有量)
紡糸用溶液(ポリマードープ)における芳香族カルボン酸無水物の含有量は、パラ型全芳香族ポリアミドおよび芳香族カルボン酸無水物の合計に対して、0.1〜10質量%であり、好ましくは0.5〜5質量%の範囲である。本発明においては、このような少量の配合量であっても、得られる繊維の高温収縮性を改善することができる。含有量が0.1質量%未満では、所定の高温低収縮性が発現しない。一方、10質量%を超える場合には、繊維成形性が乏しくなり好ましくない。また、本発明の目的である高温収縮性の改善が発現しにくくなる。
【0029】
(溶媒)
ここで、紡糸用溶液(ポリマードープ)を構成する溶媒としては、上記したパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することができる。なお、用いられる溶媒は、1種単独であっても2種以上を併用してもよい。パラ型全芳香族ポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から、当該ポリマーを単離することなく、そのまま用いることも可能である。なお、パラ型全芳香族ポリアミド溶液と芳香族カルボン酸無水物溶液とを混合する場合には、紡糸上、用いられる溶媒は同一であることが好ましい。
【0030】
(調製方法)
パラ型全芳香族ポリアミド溶液と芳香族カルボン酸無水物溶液とを混合して紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する場合には、添加する芳香族カルボン酸無水物溶液をパラ型全芳香族ポリアミド溶液に均一に溶解させる必要がある。芳香族カルボン酸無水物溶液の添加方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、芳香族カルボン酸無水物溶液を一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が挙げられる。
【0031】
さらには、添加する芳香族カルボン酸無水物溶液に、あらかじめパラ型全芳香族ポリアミド溶液を少量添加しておくことが効果的である。具体的には、芳香族カルボン酸無水物100質量%に対して、パラ型全芳香族ポリアミドを好ましくは1.0〜10.0質量%含有する芳香族カルボン酸無水物溶液を作成し、この芳香族カルボン酸無水物溶液とパラ型全芳香族ポリアミド溶液とを混合する。パラ型全芳香族ポリアミドが芳香族カルボン酸無水物100質量部に対して1.0質量%未満となる場合には、パラ型全芳香族ポリアミド溶液中に芳香族カルボン酸無水物を均一に溶解することが困難となる。一方、パラ型全芳香族ポリアミドが芳香族カルボン酸無水物100質量%に対して10.0質量%を超える場合には、芳香族カルボン酸無水物の溶解が困難となる。
【0032】
(固形分濃度)
紡糸用溶液(ポリマードープ)の固形分濃度(パラ型全芳香族ポリアミドおよび芳香族カルボン酸無水物の合計濃度)は、1〜20質量%とすることが好ましく、3〜15質量%程度とすることがさらに好ましい。固形分濃度が1質量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、固形分濃度が20質量%を超える場合には、ノズルから吐出する際に流動が不安定になりやすく、安定的に紡糸することが困難となる。
【0033】
(その他成分)
なお、本発明においては、繊維に機能性等を付与する目的で、物性を損なわない範囲で、添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。添加剤等を配合する場合には、ドープの調整において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用して導入する方法が挙げられる。
【0034】
[紡糸・凝固]
本発明の繊維の製造においては、上述の如く調整された紡糸用溶液(ポリマードープ)を用いて、湿式紡糸法またはエアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて凝固糸を形成する。
凝固浴液としては、パラ型全芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られる全芳香族ポリアミド凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては水、良溶媒としては紡糸用溶液(ポリマードープ)を構成する溶媒を用いることが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、パラ型全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60の範囲とすることが好ましい。
【0035】
[その他の工程]
凝固液から凝固糸条を引き上げた後は、公知の方法によって、最終的な芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。例えば、水洗工程を実施して形成された未延伸糸から溶媒を除去し、乾燥工程等を経た後に必要に応じて延伸することにより配向させ、最終的な繊維を得ることができる。
【0036】
[延伸工程]
本発明の繊維は、延伸配向されていることが好ましい。延伸の方法としては特に限定されるものではなく、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸のみならず、乾燥糸状態での加熱延伸等、いずれでもよい。また、延伸倍率については特に制限はないが、5倍以上であることが好ましく、8倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率を制御することにより、得られる芳香族ポリアミド繊維の伸度および強度を制御することができる。
【0037】
本発明の繊維は、広角X線回折により求めた結晶配向度が89%以上、結晶化度が74%以上と、高度に配向および結晶化していることが好ましい。結晶配向度および結晶化度のどちらか一方または両方が低い場合には、得られる繊維の機械的物性が不充分となりやすい。
熱延伸を実施する場合には、その温度は、全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、好ましくは300〜600℃、さらに好ましくは350〜550℃とし、また、延伸倍率は好ましくは10倍以上、さらに好ましくは10〜15倍とする。
【0038】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、特定の架橋剤が特定量配合されることにより、高温下での寸法安定性に極めて優れる。
【0039】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
(500℃乾熱収縮率)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の500℃乾熱収縮率は、低い程好ましいが、5%以下であることが好ましい。なお、添加量10.0質量%までは、添加する芳香族カルボン酸無水物の濃度が上がるにつれて、乾熱収縮率は低下する傾向がある。乾熱収縮率は、5%以下であることがさらに好ましく、4%以下であることが最も好ましい。
なお、本発明における500℃乾熱収縮率とは、以下の方法で得られる値ある。
【0040】
〔500℃乾熱収縮率の測定方法〕
500℃雰囲気下における乾燥熱処理を10分間実施し、実施前の繊維長Loおよび実施後の繊維長Lを用いて、下記式により計算される(S)を乾熱収縮率とする。
S(%)=[(Lo−L)/L] × 100
【0041】
(引張強度)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、高い程好ましいが、添加する芳香族カルボン酸無水物の濃度を上げるにつれて強度は低下の傾向がある。引張強度が22cN/dtex未満では、高強度繊維としての特長が不足するため、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、22cN/dtex以上とすることが好ましく、さらに好ましくは、23cN/dtex以上である。
【0042】
(伸度)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の伸度は、3.0%以上であることが好ましい。3.0%未満の場合には、撚糸して使用する場合に撚り歪が大きくなり、撚糸時の強力利用率が低下する。このため、例えば耐久性が特に要求される用途に用いた場合に、高強力耐久性が問題となる場合がある。伸度は、好ましくは3.5〜5.0%の範囲である。
【0043】
(単糸繊度)
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、好ましくは0.5〜50dtexの範囲、さらに好ましくは1.0〜10dtexの範囲である。0.5dtex未満の場合には、製糸性が不安定となる場合がある。一方、50dtexを超える場合には、比表面積が小さいために製糸工程において凝固が不完全になりやすく、その結果、紡糸や延伸工程での工程調子が乱れやすく、物性も低下しやすくなる。
【0044】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の用途]
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、織物、編物、不織布等の布帛のほか、組紐、ロープ、撚糸コード、ヤーン、綿等の繊維構造物とすることができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく具体的に説明する。ただし、これらの実施例および比較例は本発明の理解を助けるためのものであって、これらの記載によって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0046】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、以下の項目について、以下の方法で測定・評価を実施した。
[固有粘度(IV)]
98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dLの溶液について30℃で測定した。
[500℃乾熱収縮率]
500℃雰囲気下における乾燥熱処理を10分間実施し、実施前の繊維長Loおよび実施後の繊維長Lを用いて、下記式により計算される(S)を乾熱収縮率とした。
S(%)=[(Lo−L)/L] × 100
[繊度]
JIS−L−1015に準じ、測定した。
[繊維の引張強度]
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)を用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
(測定条件)
温度 :室温
測定試料長 :500mm
チャック引張速度 :250mm/分
初荷重 :0.2cN/dtex
【0047】
<実施例1>
[パラ型全芳香族ポリアミド紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整]
錨形攪拌翼を有する混合槽に、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)190gにピロメリット酸無水物10gを加え、室温にて1時間撹拌して溶解させて芳香族カルボン酸無水物溶液を得た。
得られた芳香族カルボン酸無水物溶液を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(固有粘度(IV)3.4)の濃度6質量%のNMP溶液中に添加し、60℃にて60分間の攪拌を実施して紡糸用溶液(ポリマードープ)を得た。このとき、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよびピリメリット酸無水物の合計量に対するピロメリット酸無水物の配合量は、5質量%となるようにした。
【0048】
[パラ型全芳香族ポリアミド繊維の作製]
得られた紡糸用溶液(ポリマードープ)を用い、孔数25ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出して凝固させた後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で10倍に延伸した後に巻き取り、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0049】
<実施例2>
ピロメリット酸無水物の含有量を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよびピリメリット酸無水物の合計量に対して0.1質量%とした以外は、実施例1と同様の方法でパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0050】
<実施例3>
ピロメリット酸無水物の含有量を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよびピリメリット酸無水物の合計量に対して10質量%とした以外は、実施例1と同様の方法でパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0051】
<比較例1>
ピロメリット酸無水物を未添加とした以外は、実施例1と同様の方法で、パラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0052】
<比較例2>
ピロメリット酸無水物の含有量を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよびピリメリット酸無水物の合計量に対して15質量%とした以外は、実施例1と同様の方法でパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0053】
<比較例3>
ピロメリット酸無水物の含有量を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよびピリメリット酸無水物の合計量に対して0.05質量%とした以外は、実施例1と同様の方法でパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0054】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族カルボン酸無水物を繊維全体に対して0.1〜10質量%含有するパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項2】
500℃乾熱収縮率が5%以下である請求項1記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項3】
引張強度が22cN/dtex以上である請求項1または2記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。
【請求項4】
パラ型全芳香族ポリアミドがコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドである請求項1〜3いずれかに記載のパラ型全芳香族ポリアミド繊維。

【公開番号】特開2013−112919(P2013−112919A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261962(P2011−261962)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】