説明

パルスアーク溶接の磁気吹き判別方法

【課題】 パルスアーク溶接において、磁気吹きによるアークの偏向を早期に判別する。
【解決手段】ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を通電してアークを発生させ、CCDカメラCMによってアークの発生部3を撮影し、この撮影された画像データCmを処理して磁気吹きの発生を判別するパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法において、画像処理回路GCによって、ピーク期間中の画像データCmからアークの中心位置を算出すると共に、ベース期間中の画像データCmからアークの中心位置を算出し、これら両アークの中心位置のズレ量が基準値以上になったことを判別して磁気吹きの発生を判別して磁気吹き判別信号Adを出力する。このようにアークの偏向を直接画像データから判別するために、磁気吹きによるアークの偏向状態が小さいときでも磁気吹きの発生を早期に正確に判別することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCDカメラによって撮影された画像データを処理して磁気吹きの発生を判別するパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式パルスアーク溶接は、鉄鋼等の溶接に広く使用されている。このパルスアーク溶接では、ピーク期間中は臨界値以上の大電流値のピーク電流を通電し、ベース期間中は臨界値未満の小電流値のベース電流を通電し、これらの通電を1パルス周期として繰り返して溶接が行われる。パルスアーク溶接では、1パルス周期1溶滴移行状態となるので、溶滴移行状態が安定しているために、スパッタの発生が少なく、美しいビード外観を得ることができる。以下、このパルスアーク溶接について図面を参照して説明する。
【0003】
図4は、パルスアーク溶接における一般的な電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0004】
時刻t1〜t2のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤから溶滴を移行させるために臨界値以上の大電流値のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、溶接ワイヤと母材との間にアーク長に比例したピーク電圧Vpが印加する。直径1.2mmの鉄鋼ワイヤの臨界値は、280A程度である。
【0005】
時刻t2〜t3のベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないようにするために臨界値未満の小電流値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが印加する。時刻t1〜t3までの期間を1周期(パルス周期Tf)として繰り返して溶接が行われる。
【0006】
ところで、良好なパルスアーク溶接を行うためには、アーク長を適正値に維持することが重要である。アーク長を適正値に維持するために以下のようなアーク長制御(溶接電源の出力制御)が行われる。アーク長は、同図(B)で破線で示す溶接電圧平均値Vavと略比例関係にある。このために、溶接電圧平均値Vavを検出し、この検出値が適正アーク長に相当する溶接電圧設定値と等しくなるように同図(A)の破線で示す溶接電流平均値Iavを変化させる出力制御を行う。溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値よりも大きいときはアーク長が適正値よりも長いときであるので、溶接電流平均値Iavを小さくしてワイヤ溶融速度を小さくしアーク長が短くなるようにする。他方、溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値よりも小さいときはアーク長が適正値よりも短いときであるので、溶接電流平均値Iavを大きくしてワイヤ溶融速度を大きくしアーク長が長くなるようにする。上記の溶接電圧平均値Vavとしては、一般的に溶接電圧Vwをローパスフィルタを通した値(平均値、平滑値)が使用される。また、溶接電流平均値Iavを変化させる手段として、パルス周期Tfを変化させることが行われている。すなわち、溶接電圧平均値Vavが溶接電圧設定値と等しくなるようにパルス周期Tfをフィードバック制御(アーク長制御)している。このときに、ピーク期間Tp、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定される。ピーク期間Tpは1.0〜1.5ms程度に設定され、ピーク電流Ipは500〜600A程度に設定され、ベース電流Ibは20〜60A程度に設定される。ピーク期間Tpとピーク電流Ipとの組合せはユニットパルス条件と呼ばれており、1パルス周期1溶滴移行状態になるように設定される。このアーク長制御の方式は、周波数変調制御と呼ばれる。
【0007】
パルスアーク溶接を含む消耗電極式アーク溶接においては、アーク及び母材を通電する溶接電流によってアーク周辺部に磁界が形成されて、この磁界からアークは力を受けて偏向する場合がある。このような状態を、一般的に磁気吹き又はアークブローと呼んでいる。磁気吹きが発生するかは、母材に通電する溶接電流によって形成される磁界の形態によって決まる。溶接している部分が母材の端部から離れているときには、磁界は対称形状に形成されることが多いために、アークは磁界から偏った力を受けることがないので、磁気吹きは発生しにくい。他方、溶接している部分が母材の端部に近いときは、磁界は非対称形状に形成されるために、アークは磁界から偏った力を受けることになり、磁気吹きが発生しやすくなる。したがって、母材の端部の近くとなることが多い溶接開始部分及び溶接終了部分では、磁気吹きが発生しやすい。消耗電極アークの中でも、短絡移行溶接では磁気吹きは発生しにくく、パルスアーク溶接では発生しやすい。これは、短絡移行溶接では、アーク長がパルスアーク溶接に比べて短いために、磁界からの影響を受けにくいためである。他方、パルスアーク溶接では、大電流値のピーク電流Ipが通電しているときは強い磁界が形成され、小電流値のベース電流Ibが通電しているときは弱い磁界が形成されている。パルスアーク溶接では、この磁界の強さの変化が大きいこと、かつ、ベース電流Ibが小さいので磁界から偏った力を受けると直ぐにアークが偏向すること、が原因となって磁気吹きが発生しやすい。したがって、パルスアーク溶接では、磁気吹きによるアークの偏向は、ベース期間Tb中に発生しやすい。
【0008】
図5は、磁気吹きが発生したときのアーク状態を示す図である。同図(A)に示すように、溶接ワイヤ1と母材2との間に通常のアーク3が発生している。この状態で磁気吹きが発生すると、同図(B)に示すように、アーク3は磁界からの力によって偏向し、アーク長が長くなる。さらに偏向が大きくなると、同図(C)に示すように、アークを維持することができなくなりアーク切れが発生する。パルスアーク溶接では、ピーク期間中は大電流が通電するのでアークの硬直性が強く、磁界からの力が作用してもアークはほとんど偏向しない。他方、ベース期間中は小電流が通電するのでアークの硬直性が弱く、磁界からの力によって偏向しやすい。したがって、磁気吹きが発生してアーク切れが生じるのは、ほとんどベース期間中である。磁気吹きによるアーク切れが多数回発生すると、アーク発生状態が不安定となり、スパッタの大量発生、溶接欠陥等が生じる。したがって、パルスアーク溶接においては、磁気吹きによるアーク切れを抑制することは良好な溶接品質を得るために重要である。
【0009】
図6は、パルスアーク溶接において磁気吹きが発生したときの電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0010】
時刻t1〜t2のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、臨界値以上のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に略比例したピーク電圧Vpが印加する。時刻t2以降のベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、臨界値未満のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に略比例したベース電圧Vbが印加する。
【0011】
時刻t21において、磁気吹きが発生してアークが偏向すると、同図(B)に示すように、アークの偏向に伴ってアーク長が長くなり、ベース電圧Vbが次第に上昇して大きくなる。一方、同図(A)に示すように、ベース電流Ibは定電流制御されているので一定値のままである。時刻t3において、磁気吹きによるアークの偏向がさらに大きくなると、アーク長が非常に長くなるためにアークを維持することができなくなり、アーク切れが発生する。アーク切れが発生すると、同図(A)に示すように、溶接電流Iwは通電しなくなり、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは出力最大電圧の無負荷電圧となる。
【0012】
図7は、特許文献1に開示された磁気吹きによるアーク切れを防止するための磁気吹き対策制御を示す電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。同図において時刻t1〜t3のパルス周期中は磁気吹きが発生していない安定した溶接状態のときを示しており、続く時刻t3〜t5のパルス周期中は磁気吹きが発生した溶接状態のときを示している。
【0013】
時刻t1〜t3のパルス周期中は、磁気吹きが発生していないために、安定した溶接状態にある。この期間中の動作については、上述した図4と同一であるので、説明は省略する。
【0014】
時刻t3〜t4のピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpが印加する。時刻t4からベース期間Tbが開始し、同図(A)に示すように、ベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、通常値のベース電圧Vbが印加する。このベース期間Tb中の時刻t41において、磁気吹きが発生してアークが偏向したためにアーク長が長くなり、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbが上昇して高くなる。そして、時刻t42において、ベース電圧Vbの値が、破線で示す予め定めた基準電圧値Vt以上になる。ベース電圧値Vbが上記の基準電圧値Vt以上になったことを判別すると、同図(A)に示すように、ベース電流Ibの値を通常値よりも増加させて200A以上にする。時刻t42〜t43の期間中は、ベース電圧値Vbが上記の基準電圧値Vt以上になっている。この期間中は、同図(A)に示すように、200A以上に増加されたベース電流が通電する。
【0015】
時刻t42〜t43の期間中は、ベース電流Ibの値が200A以上に増加するので、アークがワイヤ送給方向に発生する性質である硬直性が強くなるために、アークの偏向が正常な状態に戻されることになる。このために、同図(B)に示すように、時刻t43において、ベース電圧値Vbは上記の基準電圧値Vt未満になり、その後は急速に減少して通常値に戻る。したがって、磁気吹きは、時刻t41に発生して、時刻t43の直後に解消される。時刻t43において、同図(A)に示すように、ベース電流Ibの値は通常値に戻る。時刻t43〜t5の残りのベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibの値は通常値のままであり、同図(B)に示すように、通常値のベース電圧値Vbが印加する。この期間のアークは、磁気吹きが発生していないので、安定した状態にある。
【0016】
上記において、基準電圧値Vtは、磁気吹きが発生していない状態でのベース電圧値Vbの変動を考慮して、溶接条件に応じて適正値に設定される。例えば、ベース電圧Vbの変動は、ピーク電圧値Vpまで及ぶことはないので、基準電圧値Vtをピーク電圧値Vpに近い値に設定する。また、ベース電圧Vbと基準電圧値Vtとの比較にあたって、ヒステリシスを持たせるようにしても良い。すなわち、ベース電圧Vbが通常値から上昇していくときの基準値を第1基準電圧値Vt1とし、ベース電圧Vbが一旦Vt1以上になりその後に下降するときの基準値を第2基準電圧値Vt2とするものである。このときに、Vt1>Vt2である。また、ベース電圧Vbの上昇率(微分値=dVw/dt)が基準値に達したことによって磁気吹きの発生を判別し、その後にベース電圧Vbの下降率が基準値に達したことによって磁気吹きの解消を判別するようにしても良い。ベース電圧Vbの上昇による従来から行われている種々の磁気吹きの発生の判別方法を使用することができる。上記の増加したベース電流値は、200〜500A程度の範囲で、アークの偏向を修正することができる値に実験によって設定される。
【0017】
このような磁気吹き対策制御を行うことによって、磁気吹きによるアーク切れを防止することができる。
【0018】
また、開先部、アーク発生部、溶融池等をCCDカメラによって撮影し、この撮影した画像データを処理して溶接トーチを溶接線に倣わせることが行われている(例えば、特許文献2参照)。さらには、画像データを処理してアーク発生状態を検出し、送給速度、溶接電圧、溶接速度等の溶接条件を溶接中に適正化することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2004−268081号公報
【特許文献2】特開2003−220470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述した従来技術では、ベース電圧の上昇によって磁気吹きによるアークの偏向を判別してベース電流を200A以上に増加させることによって、アーク切れの発生を防止している。しかし、ベース電圧の上昇による磁気吹き判別方法では、磁気吹きによってアークが大きく偏向してアーク長が長くなった状態を判別していることになる。これは、ベース電圧は磁気吹きによるアークの偏向が発生していなくても、送給速度の変動、ワイヤ突出し長さの変動、溶融池の不規則な運動等の種々な外乱によってアーク長が変動することに伴ってベース電圧も変動する。このような外乱によるベース電圧の上昇とは区別して磁気吹きの発生を判別するためには、上述した基準電圧値Vtを大きな値に設定する必要がある。この結果、磁気吹きによってアークが大きく偏向した状態で溶接を行うことになるために、ビード外観が悪くなる場合が生じる。すなわち、従来技術では、磁気吹きによるアーク切れに伴うビード外観の著しい悪化を防止することができるが、ビード外観がある程度悪くなることは避けられなかった。
【0021】
そこで、本発明では、磁気吹きによるアークの偏向状態が小さいときでも磁気吹きの発生を正確に判別することができるパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を通電してアークを発生させ、CCDカメラによって前記アークの発生部を撮影し、この撮影された画像データを処理して磁気吹きの発生を判別するパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法において、
前記ピーク期間中の前期画像データから前記アークの中心位置を算出し、前記ベース期間中の前記画像データから前記アークの中心位置を算出し、これら両アークの中心位置のズレ量が基準値以上になったことを判別して磁気吹きの発生を判別する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法である。
【0023】
請求項2の発明は、前記磁気吹きの発生を判別したときは警報を発する、
ことを特徴とする請求項1記載のパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法である。
【0024】
請求項3の発明は、前記磁気吹きの発生を判別したときは前記ベース電流を増加させる、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ピーク期間中の画像データからアークの中心位置を算出し、ベース期間中の画像データからアークの中心位置を算出し、これら両アークの中心位置のズレ量(偏向量)が基準値以上になったことを判別して磁気吹きの発生を判別する。このようにアークの偏向を直接画像データから判別するために、磁気吹きによるアークの偏向状態が小さいときでも磁気吹きの発生を正確に判別することができる。磁気吹きが判別されたときには、溶接条件の見直し、母材側ケーブルの接続位置の見直し等によって磁気吹きの発生が生じないようにすることができる。このために、良好な溶接品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法を実施するための溶接装置のブロック図である。
【図2】図1の画像処理回路GCにおいて、第1画像メモリに保存されているピーク期間中の画像データからアークの中心位置を算出する処理を説明するための図である。
【図3】図1の画像処理回路GCにおいて、第2画像メモリに保存されているベース期間中の画像データからアークの中心位置を算出する処理を説明するための図である。
【図4】従来技術におけるパルスアーク溶接の電流・電圧波形図である。
【図5】従来技術において磁気吹きが発生したときのアーク状態を示す図である。
【図6】従来技術の、パルスアーク溶接において磁気吹きが発生したときの電流・電圧波形図である。
【図7】従来技術における磁気吹きによるアーク切れを防止するための磁気吹き対策制御を示す電流・電圧波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0028】
図1は、本発明の実施の形態に係るパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法を実施するための溶接装置のブロック図である。以下、同図を参照して、各ブロックについて説明する。
【0029】
溶接電源PSは、一般的な消耗電極式パルスアーク溶接用の溶接電源であり、インバータ制御方式のものが使用される。
【0030】
溶接トーチ4から溶接ワイヤ1が定速で送給される。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間に溶接電源PSからの出力が供給されて、溶接電圧Vwが印加される。溶接ワイヤ1と母材2との間には、溶接電流Iwが通電するアーク3が発生して、溶接が行われる。溶接電流Iw及び溶接電圧Vwの波形は、図4で上述したとおりである。すなわち、ピーク期間Tp中はピーク電流Ipが通電してピーク電圧Vpが印加し、ベース期間Tb中はベース電流Ibが通電してベース電圧Vbが印加する。
【0031】
CCDカメラCMは、溶接方向前方からアーク発生部が撮影できるように溶接トーチ4に取り付けられている。このCCDカメラCMは、後述する撮影開始信号Gsが入力(Highレベル)されると、アーク発生部を1コマだけ撮影して、その画像データCmを出力する。このときのシャッター速度は、ピーク期間及びベース期間の長さを考慮して、0.5〜2ms程度に設定される。このCCDカメラCMのレンズにはフィルタが装着されている。このフィルタは、非常に強いアーク光を減衰させて、アーク発生状態を鮮明に撮影するために装着される。
【0032】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。期間判別回路STは、この電流検出信号Idの値がしきい値未満のときはLowレベル(ベース期間)となり、以上のときはHighレベル(ピーク期間)となる期間判別信号Stを出力する。しきい値は300A程度に設定される。撮影開始回路GSは、この期間判別信号Stを入力として、期間判別信号StがHighレベルに変化すると短時間Highレベルになり、Lowレベルに変化すると短時間Highレベルになる撮影開始信号Gsを出力する。画像処理回路GCは、上記の期間判別信号St及び上記の画像データCmを入力として、期間判別信号StがHighレベルのときは画像データCmを第1画像メモリに保存し、期間判別信号StがLowレベルのときは画像データCmを第2画像メモリに保存し、下記の画像処理を行い、磁気吹き判別信号Adを出力する。
1) 第1画像メモリに保存されている画像データを図2で後述するように処理して、ピーク期間中のアークの中心位置を算出する。
2) 第2画像メモリに保存されている画像データを図3で後述するように処理して、ベース期間中のアークの中心位置を算出する。
3) ピーク期間中のアークの中心位置とベース期間中のアークの中心位置との偏向量(ズレ量)が基準値未満のときは磁気吹きが発生していないと判別してLowレベルとなる磁気吹き判別信号Adを出力し、偏向量が基準値以上のときは磁気吹きが発生していると判別してHighレベルとなる磁気吹き判別信号Adを出力する。
【0033】
警報回路ARは、上記の磁気吹き判別信号Adを入力として、磁気吹き判別信号AdがHighレベルのときは表示灯、ブザー等によって警報を発する。この警報によって、オペレータは磁気吹きの発生を早期に確実に認識することができる。また、磁気吹き判別信号Adを、ロボット溶接にあってはロボット制御装置又はネットワークを介して溶接工程を管理しているコンピュータに送信するようにしても良い。磁気吹き判別信号AdがHighレベル(磁気吹き発生)になった場合には、溶接条件の見直し、母材側ケーブルの接続位置の見直し等を行い、磁気吹きが発生しないようにする。さらには、磁気吹き判別信号AdがHighレベルになったときは、溶接を停止するようにする場合もある。
【0034】
上記の溶接電源PSは、上記の磁気吹き判別信号Adを入力として、磁気吹き判別信号AdがHighレベル(磁気吹き発生)のときは溶接電流Iwを形成するベース電流Ibの値を増加させるようにしても良い。増加されたベース電流Ibの値は、80〜100A程度である。本発明では、従来技術に比べてアークの偏向が小さい状態を早期に判別することができる。このために、アークの偏向を修正するためのベース電流の増加値を小さくすることができる。この結果、ベース電流の増加によるビードへの影響は小さくなる。
【0035】
上記の撮影開始回路GS及び上記の画像処理回路GCと同等の処理を、パーソナルコンピュータによって行うようにしても良い。また、両回路を、上記の溶接電源PS又はロボット溶接にあってはロボット制御装置に内蔵しても良い。
【0036】
図2は、上述した画像処理回路GCにおいて、第1画像メモリに保存されているピーク期間中の画像データからアークの中心位置を算出する処理を説明するための図である。同図において、画像データは、X軸方向(左右方向)に510画素、Y軸方向(上下方向)に510画素から形成されている。したがって、左上の画素の座標は(0,0)となり、右下の画素の座標は(510,510)となる。画素の座標は、(x,y)によって特定することができる。同図の画像はアーク発生状態を溶接進行方向の前方から撮影したものである。同図において、実線で描かれているアーク3が実際の画像であり、破線で描かれている溶接ワイヤ1及び母材2はアークの発生位置を分かりやすくするために追加している。アーク3は、実際の画像ではその内部も輝度が大きい状態(明るい状態)であるが、図面を分かりやすくするために、その輪郭のみを描いている。溶接継手は、重ね継手の場合であり、下板に重ねられた上板の端部が非溶接部(溶接線位置P)となる。
【0037】
画像において、アーク3の発生部は、輝度が大きい状態にある。そこで、Y軸方向の各画素の輝度が、予め定めた基準輝度以上であるときはアーク3の発生部であると判別することができる。この判別をY軸方向に1ずつ移動しながら行うと、アーク3の全体の発生部を認識することができる。そして、認識したアーク3の左側輪郭線における一番左下の画素位置をQ1点とする。このQ1点の座標(qx1,qy1)を算出する。同様に、アーク3の右側輪郭線における一番右下の画素位置をR1点とする。このR1点の座標(rx1,ry1)を算出する。そして、Q1点とR1点とのX軸方向の真ん中であるアーク3の中心位置C1を、下式で定義する。
C1=(qx1+rx1)/2
【0038】
上述したように、ピーク期間中は大電流値のピーク電流が通電しているので、アークの硬直性が大きくなり、アークは変更しにくい。このために、ピーク期間中のアークの中心位置C1は、溶接線位置Pと略一致することになる。
【0039】
図3は、上述した画像処理回路GCにおいて、第2画像メモリに保存されているベース期間中の画像データからアークの中心位置を算出する処理を説明するための図である。同図は、ベース期間中に磁気吹きによってアーク3が左方向に偏向している場合である。同図は、上述した図2と対応しているので、同一事項についての説明は省略する。以下、同図を参照して、図2とは異なる点について説明する。
【0040】
画像において、アーク3の発生部は、輝度が大きい状態にある。そこで、Y軸方向の各画素の輝度が、上記の基準輝度以上であるときはアーク3の発生部であると判別することができる。この判別をY軸方向に1ずつ移動しながら行うと、アーク3の全体の発生部を認識することができる。そして、認識したアーク3の左側輪郭線における一番左下の画素位置をQ2点とする。このQ2点の座標(qx2,qy2)を算出する。同様に、アーク3の右側輪郭線における一番右下の画素位置をR2点とする。このR2点の座標(rx2,ry2)を算出する。そして、Q2点とR2点とのX軸方向の真ん中であるアーク3の中心位置C2を、下式で定義する。
C2=(qx2+rx2)/2
【0041】
ここで、偏向量ΔCを下式で定義する。
ΔC=|C2−C1|
そして、この偏向量ΔCが予め定めた基準値以上であるときは、アークが偏向していると判別する。基準値は、ベース期間中のアーク3が偏向していないときの中心位置C2と、偏向しているときの中心位置C2とを比較する実験を行って決定する。継手形状、送給速度、溶接速度等に応じてアークの形状が変化するので、基準値もそれに伴って適正値に変化させる。
【0042】
同図は上述したように、左方向にアーク3が偏向している場合であるので、アークの中心位置C2は、上記のピーク期間中のアークの中心位置C1に比べて小さな値となる。そして、偏向量ΔCが基準値以上となっているために、アークが偏向していると判別される。ピーク期間中のアークの輝度とベース期間中のアークの輝度とは異なるので、上記の基準輝度を両社で異なる値に設定しても良い。
【0043】
上述した実施の形態によれば、ピーク期間中の画像データからアークの中心位置を算出し、ベース期間中の画像データからアークの中心位置を算出し、これら両アークの中心位置のズレ量(偏向量)が基準値以上になったことを判別して磁気吹きの発生を判別する。このようにアークの偏向を直接画像データから判別するために、磁気吹きによるアークの偏向状態が小さいときでも磁気吹きの発生を正確に判別することができる。磁気吹きが判別されたときには、溶接条件の見直し、母材側ケーブルの接続位置の見直し等によって磁気吹きの発生が生じないようにすることができる。このために、良好な溶接品質を得ることができる。また、警報を発することによって、オペレータに磁気吹きの発生を早期に確実に認識させることができる。さらには、アークの偏向が小さい状態で判別し、ベース電流をビード外観に悪影響がない程度に増加させることで、磁気吹きによるアークの偏向を正常状態に戻すことができる。
【符号の説明】
【0044】
1 溶接ワイヤ
2 母材
3 アーク
4 溶接トーチ
AR 警報回路
C1 ピーク期間中のアークの中心位置
C2 ベース期間中のアークの中心位置
CM カメラ
Cm 画像データ
GC 画像処理回路
GS 撮影開始回路
Gs 撮影開始信号
Iav 溶接電流平均値
Ib ベース電流
ID 電流検出回路
Id 電流検出信号
Ip ピーク電流
Iw 溶接電流
P 溶接線位置
PS 溶接電源
ST 期間判別回路
St 期間判別信号
Tb ベース期間
Tf パルス周期
Tp ピーク期間
Vav 溶接電圧平均値
Vb ベース電圧
Vp ピーク電圧
Vt 基準電圧値
Vw 溶接電圧
ΔC 偏向量(ズレ量)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク期間中のピーク電流及びベース期間中のベース電流を通電してアークを発生させ、CCDカメラによって前記アークの発生部を撮影し、この撮影された画像データを処理して磁気吹きの発生を判別するパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法において、
前記ピーク期間中の前期画像データから前記アークの中心位置を算出し、前記ベース期間中の前記画像データから前記アークの中心位置を算出し、これら両アークの中心位置のズレ量が基準値以上になったことを判別して磁気吹きの発生を判別する、
ことを特徴とするパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法。
【請求項2】
前記磁気吹きの発生を判別したときは警報を発する、
ことを特徴とする請求項1記載のパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法。
【請求項3】
前記磁気吹きの発生を判別したときは前記ベース電流を増加させる、
ことを特徴とする請求項1又は2記載のパルスアーク溶接の磁気吹き判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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