説明

パルスオキシメトリおよびパルスオキシメータ

【課題】測定される透過光の脈動波形について、その山谷の判定をすることなく、透過光の時系列データ全体を用いることにより、体動の影響を消去すると共に、動脈血酸素飽和度(SaO2)の測定精度の改善に寄与することができるパルスオキシメトリおよびパルスオキシメータを提供する。
【解決手段】発光素子により複数個の異なる波長の光をそれぞれ生体組織に照射し、前記生体組織を透過または反射した光を受光素子により受光してそれぞれ電気信号に変換し、前記受光素子により得られる電気信号の時系列データを時間的に区分し、区分された時系列データについて異なる2波長間の回帰直線の傾斜値をそれぞれ算出し、算出された傾斜値にもとづいてSaO2を計算し、所定時間区分毎のSaO2のヒストグラムに基づいてSaO2の最頻値を求めることによって、体動の影響を消去した動脈血の酸素飽和度を求めることを特徴とするパルスオキシメトリ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈拍による組織内動脈血の血液量変動を利用することにより、動脈血の酸素飽和度(SaO2)を連続的無侵襲的に測定するためのパルスオキシメトリおよびこれを実施するパルスオキシメータに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、パルスオキシメトリと呼ばれる手法では、動脈血の酸素飽和度(SaO2)を求める場合において、次のような手順が一般的に使用されている。
(1)複数の波長により組織透過光を連続測定する。
(2)測定される組織透過光の脈動の山と谷とを判定し、それぞれの透過光をL+ΔL,
Lとする。
(3)ΔA≡log[(L+ΔL)/L]≒ΔL/Lを求める。
(4)Φij≡ΔAi/ΔAjを求める。
(5)ΦijはSaO2とほぼ1対1で対応するので、これをSaO2に換算する。
【0003】
現在市販されている動脈血の酸素飽和度を測定する装置の多くは2波長を用いており、前記ΦijをSaO2に換算するに際し、変換表を使用している。変換表の使用については、2波長式の装置の場合には特に問題はない。しかし、測定精度を向上させるために、より多くの波長を使用する装置の場合、理論的かつ実験的に得られた計算式によることが必要である。
【0004】
例えば、本出願人は、先に、脈拍による動脈の血液量変動を利用して、連続的無侵襲的に動脈血の酸素飽和度を測定する装置として、5個の異なる波長の光をそれぞれ生体組織に照射する5波長式のパルスオキシメータを提案した(特許文献1参照)。
【0005】
すなわち、前記特許文献1に記載のパルスオキシメータは、5個の異なる波長の光をそれぞれ生体組織に照射する発光部と、前記発光部から発せられ生体組織を透過または反射した光を受光してそれぞれ電気信号に変換する受光部と、前記受光部から出力される各波長の透過光または反射光の変動分に基づいてそれぞれ生体組織に対する減光度変動分を求める減光度変動分計算部と、前記減光度変動分計算部で得られた5個の減光度変動分についてそれぞれ相互の比を少なくとも4個求める減光度変動分比計算部と、前記減光度変動分比計算部で得られる減光度変動分比に基づいて動脈血酸素飽和度、静脈血酸素飽和度、動脈血と静脈血との変動分の比および組織項の4個を未知数とし血中の酸素飽和度を計算する酸素飽和度計算部とを備え、静脈血の変動および組織の変動の影響を消去して動脈血の酸素飽和度を求めるように構成したことを特徴とするものである。
【0006】
従って、このような構成からなる前記特許文献1に記載のパルスオキシメータは、静脈血が何等かの原因で拍動している場合に、その影響を確実に消去して、動脈血の酸素飽和度を時間的遅れおよび平滑化を生じることなく高精度に測定することができるものである。また、脈波が小さくてパルスオキシメトリが不可能であるような場合に、意図的に体動を与えて、その際に含まれる動脈血の酸素飽和度を求めることが可能となる。さらに、静脈血の酸素飽和度についても、同時に測定することができるという利点を有している。
【0007】
パルスオキシメトリにおける長年の問題は、体動等の機械的外乱によって透過光が乱れることである。すなわち、透過光の外乱により測定された脈動波形の山谷を適切に見出すことが困難になる。
【0008】
このような問題を解消する対策として、従来において提案ないし採用されている手法は、正しいSaO2の値を前後のデータから推定するという統計的手法である。しかし、この場合には、次のような問題を生じる。
(1)大きな時間遅れを生じるので、例えばSaO2が低下し始めたことを見出すのが遅れる。
(2)SaO2の変化が平滑化されるので、例えばSaO2が激しく低下した場合にも、どの程度であったかが不明である。
【0009】
このような従来のパルスオキシメトリ手法においては、患者に対してSaO2の変化を早く見出して、早く対処することが、今後さらに期待されることであり、このようなパルスオキシメトリ手法本来の特長を生かすには、前述したような問題を解決しなくてはならないことである。
また、患者の体動が非常に激しい場合、測定される透過光の脈動波形の山谷の判定に基づく従来のパルスオキシメトリ手法では、十分な測定結果が得られないことが判明した。
【0010】
このような観点から、本出願人は、測定される透過光の脈動波形について、測定される透過光の信号全体を用いることにより、動脈血の酸素飽和度(SaO2)を適正に測定することができる、時間区分パルスオキシメトリおよびパルスオキシメータの開発に成功し、特許出願を行った(特許文献2参照)。
【0011】
前記特許文献2に記載される発明においては、測定される透過光の脈動波形の山谷の点だけでなく、透過光の時系列データ全体を用いることにより、前記測定波形の山谷の判定の必要がなくなることである。すなわち、前記特許文献2に記載される発明は、発光素子により複数個の異なる波長の光をそれぞれ生体組織に照射し、前記生体組織を透過または反射した光を受光素子により受光してそれぞれ電気信号に変換し、前記受光素子により得られる電気信号の時系列データを時間的に区分し、区分された時系列データについて異なる2波長間の回帰直線の傾斜値をそれぞれ算出し、算出された傾斜値をそれぞれSaO2に換算後、平滑して、体動による影響を消去した動脈血の酸素飽和度を求めることを特徴とするものである。
【0012】
従って、前記特許文献2に記載される発明によれば、測定される透過光の脈動波形について、その山谷の判定をすることなく、透過光の時系列データ全体を用いることにより、体動の影響を消去すると共に、動脈血酸素飽和度(SaO2)の測定精度の改善に寄与し、測定部位の自由度拡大を図ることができるものである。
【0013】
【特許文献1】特開2005−95606号公報
【特許文献2】特開2007−90047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、測定される透過光の脈動波形について、透過光の時系列データ全体を用いることにより、体動の影響を消去すると共に、動脈血酸素飽和度(SaO2)の測定精度の更なる改善に寄与することができるパルスオキシメトリおよびパルスオキシメータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の目的を達成するため、本発明の請求項1に記載のパルスオキシメトリは、発光素子により複数個の異なる波長の光をそれぞれ生体組織に照射し、前記生体組織を透過または反射した光を受光素子により受光してそれぞれ電気信号に変換し、前記受光素子により得られる電気信号の時系列データを時間的に区分し、区分された時系列データについて異なる2波長間の回帰直線の傾斜値をそれぞれ算出し、算出された傾斜値に基づいてSaO2を計算し、所定時間区分毎のSaO2のヒストグラムに基づいてSaO2の最頻値を求めることによって、体動の影響を消去した動脈血の酸素飽和度を求めることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項2に記載のパルスオキシメトリは、前記受光素子により得られる電気信号の時系列データをフイルタに通して低周波成分を遮断し、この電気信号の時系列データを時間的に区分して、以降の処理を行うことを特徴とする。
【0017】
本発明の請求項3に記載のパルスオキシメトリは、前記区分された時系列データについて異なる2波長間の相関をそれぞれ算出し、相関が一定以下の場合の前記2波長間の回帰直線の傾斜値(Φi2)を削除することを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項4に記載のパルスオキシメトリは、SaO2のヒストグラムに平滑化処理を加え、これに基づいてSaO2の最頻値を求め、以降の処理を行うことを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項5に記載のパルスオキシメータは、複数個の異なる波長の光を生体組織に照射する発光部と、前記発光部から発せられ生体組織を透過または反射した光を受光して、電気信号に変換する受光部と、前記受光部から変換出力される各波長の透過光または反射光の電気信号からなる時系列データを一定時間毎に区分する処理装置と、区分された時間毎の前記時系列データについて異なる2波長間の回帰直線の傾斜値をそれぞれ算出する傾斜値演算装置と、前記算出された傾斜値に基づいてSaO2を計算する計算装置と、所定時間区分毎のSaO2のヒストグラムに基づいてSaO2の最頻値を求める最頻値演算装置と、を備え、体動の影響を消去した動脈血の酸素飽和度を求めるように構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のパルスオキシメトリおよびパルスオキシメータによれば、測定される透過光の脈動波形について、その山谷の判定をすることなく、透過光の時系列データ全体を用いることにより、体動の影響を消去すると共に、動脈血酸素飽和度(SaO2)の測定精度の改善に寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明に係るパルスオキシメトリの実施例につき、これを実施するパルスオキシメータの装置構成との関係において、添付図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0022】
I.パルスオキシメータの装置構成の概要
図1は、本発明に係るパルスオキシメトリを実施するパルスオキシメータとしての装置構成を示す概略説明図である。すなわち、図1において、参照符号10は発光部を示し、それぞれ5個の異なる波長の光をそれぞれ生体組織に照射する5個の発光素子LED1〜LED5が設けられている。参照符号12は前記発光部10から発せられる光によって照射される生体組織を示す。参照符号14は受光部を示し、前記生体組織12を透過した光を受光する受光素子PDと、電流電圧変換器16と、AD変換器18とから構成されている。
【0023】
参照符号20は記憶部を示し、前記受光部14の受光素子PDにより得られた透過光信号を、波長毎にそれぞれ時系列的に一時記憶する透過光信号一時記憶器20A〜20Eにより構成されている。例えば、これら記憶器毎に、1秒当たり60個の透過光信号が記憶される。
【0024】
参照符号30は計算部を示し、前記透過光信号一時記憶器20A〜20Eにおいてそれぞれ時系列的に一時記憶された透過光信号L1〜L5に基づいて、(1)前記透過光信号L1〜L5を一定時間毎に区分し、(2)次いで一定時間毎に区分された透過光信号L1〜L5の時系列データについて異なる波長の時系列データ相互の回帰直線の傾斜値を算出し、(3)算出された傾斜値に基づいてSaO2(動脈血酸素飽和度)を計算し、(4)更に相関係数を計算し、相関係数が一定値以下の場合の傾斜値を削除し、残ったSaO2でヒストグラムを作成し、(5)ヒストグラムの最頻値をSp02値とする処理を行う。
【0025】
なお、参照符号22はタイミング器を示し、前記発光部10の各発光素子LED1〜LED5による発光タイミングと、前記記憶部20の各透過光信号一時記憶器20A〜20Eにおける透過光信号の記憶保持タイミングとの制御を行うように構成される。
【0026】
図2は、前記計算部30としての酸素飽和度計算器において前述した計算処理を行うためのシステム構成図を示すものである。すなわち、図2において、参照符号32は透過光信号の区分記憶部を示し、前記透過光信号一時記憶器20A〜20Eから入力される透過光信号L1〜L5を、一定時間(例えば、0.2秒)毎に区分して、この区分された時間毎にそれぞれ透過光信号を時系列的に逐次記憶する区分記憶回路32A〜32Eとして構成されている。
【0027】
また、参照符号34は、回帰直線の傾斜値計算部を示し、前記透過光信号の区分記憶部32にそれぞれ記憶された一定時間毎に区分された透過光信号L1〜L5について回帰直線の傾斜値Φ12、Φ32、Φ42、Φ52をそれぞれ算出する傾斜値計算回路34a、34b、34c、34dとして構成されている。
【0028】
参照符号36は、前記傾斜値計算回路34a、34b、34c、34dにより得られた回帰直線の傾斜値Φ12、Φ32、Φ42、Φ52に関して連立方程式の解としてSaO2値を求める第1計算回路を示す。この場合、前記第1計算回路により得られた連立方程式の解としての値を5wSall と名付ける。
【0029】
そして、参照符号38は、連立方程式の解として得られたSaO2について、所定時間区分(例えば、5秒)毎にそのヒストグラムを求め、その最頻値を決定するための第2計算回路を示す。従って、前記第2計算回路38において、血中の酸素飽和度[SpO2]が算出される。
【0030】
さらに、より良い精度を得るためには、次のような方法を付加すれば好適である。
<1> Li あるいは logLi について、低周波成分を除去する。
<2> Φi2を、2データ間の相関に基づいて選別する。
<3> ヒストグラムに平滑化を加える。
【0031】
II.パルスオキシメータの計算処理操作
次に、前述したパルスオキシメータの装置構成による動脈血の酸素飽和度の計算処理操作、すなわち本発明に係るパルスオキシメトリについて、前記パルスオキシメータの作用と共に説明する。
【0032】
(1)透過光信号の時間区分処理
まず、発光部10の5個の発光素子LED1〜LED5を、それぞれタイミング器22の信号に基づいて、順次交互に異なる波長λ1,λ2,λ3,λ4,λ5で発光させる。これにより、生体組織12を透過した光を受光部14で受信して、発光素子LED1〜LED5の各波長に対応して、各透過光信号L1,L2,L3,L4,L5を、それぞれ所定のタイミングで記憶部20の各透過光信号一時記憶器20A〜20Eに記憶保持する。(図1参照)。
【0033】
このようにして、前記透過光信号一時記憶器20A〜20Eにそれぞれ記憶保持された透過光信号L1〜L5は、前記計算部30における区分記憶部32の各区分記憶回路32A〜32Eに入力されて、一定時間(例えば、0.2秒)毎に区分され、この区分された時間毎にそれぞれ透過光信号を時系列的に逐次記憶される(図2参照)。
【0034】
(2)時間区分された透過光信号に関する回帰直線の傾斜値を求める計算処理
血中の酸素飽和度(SpO2)の計算は、例えば5波長の透過光について得られる減光度変動分(ΔAi)に基づき、これら減光度変動分の比(Φij:i,jは波長)を用いて、次式により求められる。
なお、透過光の脈動を構成する要素は、動脈血(a)、静脈血(v)および血液以外の組織すなわち純組織(t)である。
【0035】
Φij≡ΔAi/ΔAj
=[√Eai(Eai+F)+√Evi(Evi+F)*V+Exi]
/[√Eaj(Eaj+F)+√Evj(Evj+F)*V+Exj]
但し、
ΔAi≡log[(Li+ΔLi)/Li]≒ΔLi/Li
Eai≡SaEoi+(1―Sa)Eri
Evi≡SvEoi+(1―Sv)Eri
V≡ΔDv/ΔDa
Exi≡ZtiΔDt/(HbΔDa)≡AiEx2+Bi
【0036】
上記式において、Liは組織透過光、ΔAiは減光度の変化分、Eoiは酸素化ヘモグロビンの吸光係数、Eriは脱酸素ヘモグロビンの吸光係数、Saは動脈血の酸素飽和度(SaO2)、Svは末梢静脈血の酸素飽和度(SvO2)、ΔDaは動脈血の実効的厚みの変化分、ΔDvは静脈血の実効的厚みの変化分、ΔDtは純組織の実効的厚みの変化分、Ztiは純組織の減光の定数、Ex2は第2波長におけるExiの値、Ai,Biは組織定数(実測で決定される)である。
従って、上記式において、未知数はSa、Sv、V、Ex2の4個である。
【0037】
この場合、適当な5波長で組織透過光を測定して、上記式に関し4元連立方程式を立て、それらの解としてSaを求めることができる。なお、前記5波長としては、例えばλ1=805nm、λ2=875nm、λ3=660nm、λ4=700nm、λ5=730nmが好ましい波長選択の一例である。
【0038】
そこで、本発明の時間区分オキシメトリにおいては、前記区分記憶回路32において、それぞれ時間区分されて記憶された5波長(λ1〜λ5)の透過光信号L1〜L5に基づいて、それぞれ回帰直線の傾斜値(Φij:但し、i,jは波長)を次式により求める。すなわち、この場合の傾斜値(Φij)は、前記のΦij=ΔAi/ΔAjに相当するものである。なお、次式において、nは時間区分内のデータの個数、tは区分された時間(例えば、0.2秒)、Σは時間区分内のデータについての和である。
【0039】
Φij≡{nΣ[Li(t)*Lj(t)]−ΣLi(t)*ΣLj(t)}
/{nΣLj(t)2 −[ΣLj(t)]2
【0040】
(3)傾斜値に関する連立方程式の解を求める計算処理
前記式に基づいて、それぞれ5波長(λ1〜λ5)の組織透過光についての回帰直線の傾斜値(Φ12、Φ32、Φ42、Φ52)に関する4元連立方程式を立て、それらの解としてSaを求める計算を行う(図2参照)。
【0041】
III.計算処理の例
前述した本発明に係るパルスオキシメトリに基づいて,被験者による実測データについて動脈血酸素飽和度(SaO2)を計算した例を、従来のパルスオキシメトリによる場合と比較し、それぞれの測定結果を示すグラフと共に説明する。
【0042】
被験者の指尖に発光部10および受光部14を装着して、次のような呼吸を行った:
<1> 空気呼吸。
<2> 息こらえによってSaO2を低下。
<3> 再び空気呼吸。
<4> 酸素呼吸によってSaO2を上昇。
【0043】
<1>の途中から、手でスポンジを握る動作をランンダムに行った。この体動を<4>の途中まで継続した。
なお、この体動する手とは反対の手にも、同様の発光部および受光部を装着し、こちらは静止を保って、これを参照データとした。
【0044】
図3は、静止側において、拍毎に山谷を判定して、5波長計算によって求めたSpO2の結果を示すものである。すなわち、図3によれば、呼吸の変化に基づくSaO2の変化が良く示されている。なお、呼吸の変更時点と体動の開始、終了の時点をグラフ中では縦棒で示している。
【0045】
図4は、体動側において、拍毎に山谷を判定して、5波長計算によって求めたSpO2の結果を示すものである。図4においては、SpO2は大きく乱れているが、これが体動の影響である。
【0046】
図5は、体動側について、本発明の方法によって0.2秒毎に求めたSpO2の分布特性を示すものである。すなわち、図5は、次のような処理の結果を示す図である。
<1> 透過光信号Liを対数変換してlogLiとした。
<2> logLiの低周波成分を除去した。具体的には、0.1秒毎のlogLi平均値をlogLiから差し引いた。
<3> 0.2秒毎に、logLi (i=1,3,4,5) とlogL2との回帰直線の傾斜Φi2を求めた。
<4> 0.2秒毎に、logLi (i=1,3,4,5) とlogL2との相関係数Ri2を求め、R12*R32*R42*R52=PRを求めた。
<5> PR<0.9の場合のΦi2を削除した。
<6> 残ったΦi2を連立方程式に基づいてSaO2に換算した。これを5wSallと名付ける。
<7> 5wSallを5秒毎に時間区分し、各5秒区間のヒストグラムを求めた。
<8> ヒストグラムについて平滑化を行った。なお、図6は、このようなヒストグラムの表示例を示すものである。
<9> 5wSall のヒストグラムに基づいて最頻値を決定した。
<10> その結果をSpO2として出力した。すなわち、図7は、体動側について求めたSpO2の変化を示すものである。
【0047】
このように、本発明のパルスオキシメトリによれば、体動の影響は十分に消去され、しかもSaO2の急激な変化が明確に測定されている。特に、SaO2の低下の始まる時点が早く見出せることが確認された。
【0048】
以上、本発明の好適な実施例について説明したが、本発明は前記実施例に限定されることなく、例えば5波長を用いる場合について説明したが、波長がそれよりも多い場合にも、あるいは少ない場合にも適用できるばかりでなく、測定対象としては、血中のCOヘモグロビンや体外から注入した色素の希釈状態等の動脈血と共に拍動するもの全ての測定に適用することができる。また時間区分の間隔はそれぞれの目的に応じて適宜変更でき、その他本発明の精神を逸脱しない範囲内において、多くの設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に係るパルスオキシメトリを実施するパルスオキシメータとしての装置構成を示す概略構成図である。
【図2】図1に示すパルスオキシメータの計算部におけるパルスオキシメトリのシステム構成を示す説明図である。
【図3】静止側において、拍毎に山谷を判定し、5波長計算によって求めたSpO2の変化を示す波形図である。
【図4】体動側において、拍毎に山谷を判定し、5波長計算によって求めたSpO2の変化を示す波形図である。
【図5】体動側において、時間区分毎に求めた5wSallの変化を示す波形図である。
【図6】本発明に係るパルスオキシメトリにおけるヒストグラムの表示例を示す波形図である。
【図7】本発明に係るパルスオキシメトリにより、体動側について求めたSpO2の変化を示す波形図である。
【符号の説明】
【0050】
10 発光部
12 生体組織
14 受光部
16 電流電圧変換器
18 AD変換器
20 記憶部
20A〜20E 透過光信号一時記憶器
22 タイミング器
30 計算部
32 透過光信号の区分記憶部
32A〜32E 区分記憶回路
34 回帰直線の傾斜値計算部
34a〜34d 傾斜値計算回路
36 第1計算回路
38 第2計算回路
LED1〜LED5 発光素子
PD 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子により複数個の異なる波長の光をそれぞれ生体組織に照射し、
前記生体組織を透過または反射した光を受光素子により受光してそれぞれ電気信号に変換し、
前記受光素子により得られる電気信号の時系列データを時間的に区分し、
区分された時系列データについて異なる2波長間の回帰直線の傾斜値をそれぞれ算出し、
算出された傾斜値に基づいてSaO2を計算し、
所定時間区分毎のSaO2のヒストグラムに基づいてSaO2の最頻値を求めることによって、体動の影響を消去した動脈血の酸素飽和度を求めることを特徴とするパルスオキシメトリ。
【請求項2】
前記受光素子により得られる電気信号の時系列データをフイルタに通して低周波成分を遮断し、この電気信号の時系列データを時間的に区分して、以降の処理を行うことを特徴とする請求項1記載のパルスオキシメトリ。
【請求項3】
前記区分された時系列データについて異なる2波長間の相関をそれぞれ算出し、相関が一定以下の場合の前記2波長間の回帰直線の傾斜値(Φi2)を削除することを特徴とする請求項1または2記載のパルスオキシメトリ。
【請求項4】
SaO2のヒストグラムに平滑化処理を加え、これに基づいてSaO2の最頻値を求め、以降の処理を行うことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のパルスオキシメトリ。
【請求項5】
複数個の異なる波長の光を生体組織に照射する発光部と、
前記発光部から発せられ生体組織を透過または反射した光を受光して、電気信号に変換する受光部と、
前記受光部から変換出力される各波長の透過光または反射光の電気信号からなる時系列データを一定時間毎に区分する処理装置と、
区分された時間毎の前記時系列データについて異なる2波長間の回帰直線の傾斜値をそれぞれ算出する傾斜値演算装置と、
前記算出された傾斜値に基づいてSaO2を計算する計算装置と、
所定時間区分毎のSaO2のヒストグラムに基づいてSaO2の最頻値を求める最頻値演算装置と、を備え、体動の影響を消去した動脈血の酸素飽和度を求めるように構成することを特徴とするパルスオキシメータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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