説明

パルスチューブ冷凍機

【課題】パルスチューブ冷凍機において、熱交換器を有する第1段蓄冷管を流通する冷媒ガスの圧力損失を抑制する。
【解決手段】熱交換器を有する第1段蓄冷管の低温端と第1段パルス管の低温端とが接続された第1段の冷却ステージ、および第2段蓄冷管の低温端と第2段パルス管の低温端とが接続された第2段の冷却ステージを少なくとも有するパルスチューブ冷凍機であって、前記第1段蓄冷管の低温端は、前記第1段パルス管と第1の流通経路を介して連通されており、前記第2段蓄冷管と第2の流通経路を介して連通されており、前記第1の流通経路は、内部を流れる冷媒ガスが前記熱交換器と熱交換されるように構成され、前記第2の流通経路は、内部を流れる冷媒ガスが前記熱交換器をバイパスするように構成されるパルスチューブ冷凍機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスチューブ冷凍機に関し、特に多段式のパルスチューブ冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
パルスチューブ冷凍機は、極低温環境が必要となる装置、例えば、核磁気共鳴診断装置(MRI)等を冷却する際等において、広く使用されている。
【0003】
パルスチューブ冷凍機では、ガス圧縮機により圧縮された作動流体である冷媒ガス(例えば、ヘリウムガス)が蓄冷管およびパルス管に流入する動作と、ガス圧縮機により作動流体が回収されパルス管および蓄冷管から流出する動作を繰り返すことで、蓄冷管およびパルス管の低温端に寒冷が形成される。また、これらの低温端を被冷却対象である被冷却体に熱的に接触させることで、被冷却体から熱を奪うことができる。
【0004】
例えば、2段式のパルスチューブ冷凍機の場合、パルスチューブ冷凍機は、第1段および第2段の蓄冷管と、第1段および第2段のパルス管とを備える。
【0005】
通常、第1段および第2段の蓄冷管は、内部に蓄冷材を有する筒状部材(シリンダ)で構成され、第1段および第2段のパルス管は、中空のシリンダで構成される。それぞれのシリンダは、一端が高温端、他端が低温端を構成する。第1段蓄冷管と第1段パルス管の両低温端には、第1段の冷却ステージが設置され、第2段蓄冷管と第2段パルス管の両低温端には、第2段の冷却ステージが設置され、これらの冷却ステージに、被冷却体が接続される。なお、第1段蓄冷管の低温端は、第2段蓄冷管の高温端とも連通可能に接続される。
【0006】
通常、第1段および第2段のパルス管の低温端には、冷媒ガスの寒冷を熱伝達するため、熱交換器が設けられている。
【0007】
しかしながら、熱交換器を、第1段および第2段のパルス管にのみに設置した場合、第1段および第2段のパルス管の全長が長くなり、さらにはパルスチューブ冷凍機全体が大型化してしまう。そこで、装置の小型化が重要なときなどには、熱交換器の一部(または全部)を第1段および第2段の蓄冷管の低温端に設置し、これによりパルスチューブ冷凍機の寸法を抑制している(例えば特許文献1)。
【0008】
例えば、第1段蓄冷管の低温端に熱交換器を設置した場合、第1段のパルス管、および第2段のパルス管〜第2段蓄冷管を通り、流入する冷媒ガスの寒冷がこの熱交換器と熱交換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6715300B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、第1段蓄冷管の低温端に設置される熱交換器は、ガス圧縮機により、冷媒ガスが回収されるモードにおいて、第1段のパルス管から、および第2段蓄冷管を介して、第2のパルス管から第1段蓄冷管に流れる冷媒ガスの寒冷を伝達(吸収)するために使用される。
【0011】
しかしながら、第2のパルス管から、第2段蓄冷管を介して第1段蓄冷管に流れる冷媒ガスに着目した場合、この冷媒ガスから熱交換器に伝達される熱量(寒冷)は、実質上極めて少ないものと予想される。これは、この冷媒ガスは、第2段蓄冷管の高温端を通過するまでに、例えば第2段蓄冷管に含まれる蓄冷材に対して、既にある程度の寒冷を放出しており、熱交換器の位置では、もはや顕著な冷却能力を有さないためである。
【0012】
一方、熱交換器との間の熱交換の発生有無に関わらず、第2段蓄冷管41からの冷媒ガスが熱交換器を通過する以上、この熱交換器の流通前後において、冷媒ガスに所定の圧力損失が生じることは、避けられない。すなわち、第2段蓄冷管から第1段蓄冷管に流れるこの冷媒ガスについては、熱交換器との間で、実質的な熱交換をすることなく、「無駄」な圧力損失を発生させていることになる。
【0013】
さらに、このような圧力損失は、装置全体としての冷却性能の低下につながるため、できる限り抑制する必要がある。
【0014】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、熱交換器を有する第1段蓄冷管を流通する冷媒ガスの圧力損失を有意に抑制することが可能な、多段式パルスチューブ冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では、熱交換器を有する第1段蓄冷管の低温端と第1段パルス管の低温端とが接続された第1段の冷却ステージ、および第2段蓄冷管の低温端と第2段パルス管の低温端とが接続された第2段の冷却ステージを少なくとも有し、内部に冷媒ガスが流通することにより、前記第1段および第2段の冷却ステージに寒冷が発現される多段式のパルスチューブ冷凍機であって、
前記第1段蓄冷管の低温端は、前記第1段パルス管と第1の流通経路を介して連通されており、前記第2段蓄冷管と第2の流通経路を介して連通されており、
前記第1の流通経路は、内部を流れる冷媒ガスが前記熱交換器と熱交換されるように構成され、
前記第2の流通経路は、内部を流れる冷媒ガスが前記熱交換器をバイパスするように構成されることを特徴とする多段式のパルスチューブ冷凍機が提供される。
【0016】
ここで、本発明による多段式のパルスチューブ冷凍機において、前記熱交換器は、前記第1段蓄冷管の内壁と、プラグ部との間に形成された隙間構造を有しても良い。
【0017】
また、本発明による多段式のパルスチューブ冷凍機において、前記第2の流通経路は、前記熱交換器を貫通するようにして設けられた貫通路であっても良い。
【0018】
また、本発明による多段式のパルスチューブ冷凍機において、前記第1段パルス管の低温端および/または第2段パルス管の低温端は、熱交換器を有しても良い。
【0019】
なお、当該多段式のパルスチューブ冷凍機は、2段式であっても良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、熱交換器を有する第1段蓄冷管を流通する冷媒ガスの圧力損失を有意に抑制することが可能な、多段式パルスチューブ冷凍機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の2段式パルスチューブ冷凍機の構成を概略的に示した図である。
【図2】本発明の2段式パルスチューブ冷凍機の構成の一例を概略的に示した図である。
【図3】本発明の2段式パルスチューブ冷凍機において、第1段蓄冷管の低温端の別の構成を拡大して示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明について詳しく説明する。
【0023】
まず、本発明によるパルスチューブ冷凍機の特徴および利点をより良く理解するため、図1を用いて、従来の2段式パルスチューブ冷凍機の構成および動作について説明する。
【0024】
図1は、従来の2段式パルスチューブ冷凍機の構成を概略的に示した図である。
【0025】
従来の2段式パルスチューブ冷凍機1は、ガス圧縮機11と、ハウジング部10と、該ハウジング部10にフランジ21を介して連結されたコールドヘッド部20とを備えている。
【0026】
ガス圧縮機11は、ハウジング部10さらにはコールドヘッド部20に、ヘリウムガス等の冷媒ガスを所定の周期で高圧流入させたり、低圧排気させたりする役割を有する。
【0027】
ハウジング部10は、ハウジング5を有し、このハウジング5内には、第1段リザーバ15A、第2段リザーバ15B、上部熱交換部材18a、19a、吸気バルブ12、排気バルブ13およびオリフィス17等が収容されている。吸気バルブ12および排気バルブ13は、ガス配管14を介して、ガス圧縮機11に接続されている。なお、ハウジング5は、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金で構成されている。
【0028】
コールドヘッド部20は、第1段蓄冷管31、第1段パルス管36、第1段の冷却ステージ30、第2段蓄冷管41、第2段パルス管46および第2段の冷却ステージ40を有する。
【0029】
第1段蓄冷管31は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ32と、その内部に充填された銅やステンレス鋼製金網等の蓄冷材33と、熱交換器60とを有する。熱交換器60は、例えば、多孔板等で構成される。第1段蓄冷管31は、フランジ21に接触、固定された高温端32aと、第1段の冷却ステージ30に接触、固定された低温端32bを有する。第1段蓄冷管31の低温端32bは、第1流通口55と、第2流通口57とを有する。
【0030】
第1段パルス管36は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ37で構成される。第1段パルス管36の高温端37aはフランジ21に接触、固定され、低温端37bは、第1段の冷却ステージ30に接触、固定されている。従って、第1段蓄冷管31の低温端32bと、第1段パルス管36の低温端37bとは、第1段の冷却ステージ30を介して接続されている。
【0031】
第1段の冷却ステージ30には、その内部に第1の流通経路38が形成されており、この第1の流通経路38は、前述の第1段蓄冷管31の低温端32bに設けられた第1流通口55に接続されている。第1段の冷却ステージ30は、図示しない被冷却対象に熱的および機械的に接続され、寒冷が被冷却対象に取り出される。
【0032】
また、第2段蓄冷管41は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ42と、その内部に充填された球状の鉛や磁性材料等からなる蓄冷材43とを有する。第2段蓄冷管41の高温端42aは、第1段の冷却ステージ30に接触、固定され、低温端42bは、第2段の冷却ステージ40に接触、固定されている。第2段蓄冷管41の低温端42bは、例えば多孔板等で構成された熱交換器49を有する。なお、第2段蓄冷管41は、前述の第1段蓄冷管31の低温端32bの第2流通口57に接続された第2の流通経路58を介して、第1段蓄冷管31とガスの流通が可能となるように接続されている。
【0033】
第2段パルス管46は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ47で構成される。第2段パルス管46の高温端47aは、フランジ21に接触、固定され、低温端47bは、第2段の冷却ステージ40に接触、固定されている。
【0034】
第2段の冷却ステージ40には、その内部にガス流路48が形成されており、これにより、第2段パルス管46の低温端47bと第2段蓄冷管41の低温端42bとが、ガス流路48を介して接続される。第2段の冷却ステージ40は、図示しない被冷却対象に熱的および機械的に接続され、寒冷が被冷却対象に取り出される。
【0035】
パルスチューブ冷凍機1では、ガス圧縮機11から、高圧の冷媒ガスが吸気バルブ12およびガス流路14を介して第1段蓄冷管31に供給され、また、第1段蓄冷管31から低圧の冷媒ガスがガス流路14および排気バルブ13を介してガス圧縮機11に排気される。第1段パルス管36の高温端37aは、上部熱交換部材18aおよびオリフィス17を介して、第1段リザーバ15Aまで接続されている。また、第2段パルス管46の高温端47aは、熱交換器19aおよびオリフィス17を介して、第2段リザーバ15Bまで接続されている。オリフィス17は、第1段パルス管36および第2段パルス管46において、周期的に変化する冷媒ガスの圧力変動と体積変化との位相差を調整する役割を果たす。
【0036】
次に、このように構成された2段式パルスチューブ冷凍機1の動作を説明する。まず、第1の作動モードでは、吸気バルブ12が開状態、排気バルブ13が閉状態になり、高圧の冷媒ガスが、ガス圧縮機11から第1段蓄冷管31に流入する。第1段蓄冷管31内に流入した冷媒ガスは、蓄冷材33により冷却されて温度を下げながら、熱交換器60を通過する。さらに、熱交換器60を通過した冷媒ガスの一部は、第1段蓄冷管31の低温端32bに設けられた第1流通口55から、第1の流通経路38を経て、第1段パルス管36の内部に流入する。この際に、第1段パルス管36の内部に予め存在していた低圧の冷媒ガスは、流入した高圧の冷媒ガスにより圧縮される。これにより、第1段パルス管36内の冷媒ガスの圧力は、第1段リザーバ15A内の圧力よりも高くなり、冷媒ガスは、オリフィス17およびガス流路16を通って、第1段リザーバ15Aに流入する。
【0037】
また、熱交換器60を通過した冷媒ガスの他方は、第1段蓄冷管31の低温端32bの第2流通口57に接続された第2の流通経路58を介して、第2段蓄冷管41にも流入する。この冷媒ガスは、蓄冷材43によりさらに冷却されて温度を下げながら、第2段蓄冷管41の低温端42bからガス流路48を通り、第2段パルス管46の内部に流入する。この際に、第2段パルス管46の内部に予め存在していた低圧の冷媒ガスは、流入した高圧の冷媒ガスにより圧縮される。これにより、第2段パルス管46内の冷媒ガスの圧力は、第2段リザーバ15B内の圧力よりも高くなり、冷媒ガスは、オリフィス17およびガス流路16を通って、第2段リザーバ15Bに流入する。
【0038】
次に、第2の作動モードにおいて、吸気バルブ12が閉じ、排気バルブ13が開かれると、第1段パルス管36内の冷媒ガスは、第1の流通経路38および第1流通口55を通り、熱交換器60および蓄冷材33を冷却しながら、第1段蓄冷管31を通過する。同様に、第2段パルス管46内の冷媒ガスは、熱交換器49および蓄冷材43を冷却しながら、第2段蓄冷管41を通過する。また、第2段蓄冷管41を通過した冷媒ガスは、さらに第2の流通経路58および第2流通口57を介して、熱交換器60および蓄冷材33を通過する。その後、冷媒ガスは、第1段蓄冷管31の高温端32aから排気バルブ13を通り、ガス圧縮機11に戻る。
【0039】
ここで、第1段パルス管36および第2段パルス管46は、それぞれ、オリフィス17を介して、第1段リザーバ15Aおよび第2段リザーバ15Bと接続されているため、冷媒ガスの圧力変動の位相と、冷媒ガスの体積変化の位相とは、一定の位相差で変化する。この位相差により、第1段パルス管36の低温端37bおよび第2段パルス管46の低温端47bにおいて、冷媒ガスの膨張による寒冷が発生する。パルスチューブ冷凍機1は、上記の動作が反復されることで冷凍機として機能する。
【0040】
しかしながら、このようなパルスチューブ冷凍機1の構成では、以下のような問題が生じ得る。
【0041】
前述のように、第2の作動モードでは、第2段蓄冷管41内の冷媒ガスは、第1段蓄冷管31を介してガス圧縮機11に戻る際に、第2の流通経路58および第2流通口57を通過した後、熱交換器60を通って、第1段蓄冷管31内を移動することになる。
【0042】
しかしながら、第2段蓄冷管41の高温端42aを通過した冷媒ガスは、蓄冷材43に対して、既にある程度の寒冷を放出しているため、第2の流通経路58〜熱交換器60の位置では、もはや顕著な冷却能力を有さない状態となっている。換言すれば、熱交換器60の位置では、冷媒ガスは、熱交換器60とあまり変わらない温度(例えば、40K程度)になっており、このため、冷媒ガスがこの熱交換器60を冷却する効果は、ほとんどないと言える。
【0043】
一方、熱交換器60での熱交換の有無に関わらず、第2の作動モードにおいて、第2段蓄冷管41内の冷媒ガスが熱交換器60を通過する以上、この熱交換器60の流通前後において、冷媒ガスに圧力損失が生じることは、避けられない。従って、第2段蓄冷管41から、第2の流通経路58を介して、第2流通口57を通過する冷媒ガスについては、冷媒ガスが熱交換器60を通過する度に、冷媒ガスに「無駄」な圧力損失が発生することになる。さらに、このような「無駄」な圧力損失は、装置全体の冷却能力の低下につながるため、できるだけ抑制する必要がある。
【0044】
本発明は、このような問題を解決することを目的として提案されたものであり、本発明では、このような第1段蓄冷管31の低温端32bを通る冷媒ガスの「無駄」な圧力損失を有意に抑制することが可能なパルスチューブ冷凍機が提供される。
【0045】
以下、図2を参照して、本発明の特徴について説明する。
【0046】
図2には、本発明に係る2段式のパルスチューブ冷凍機の概略構成図を示す。なお、図2において、図1の構成部材と実質的に対応する構成部材には、図1の参照符号に100を加えた参照符号が示されていることに留意する必要がある。
【0047】
図2に示すように、本発明による2段式パルスチューブ冷凍機100も、前述の2段式パルスチューブ冷凍機1と同様、ガス圧縮機111と、ハウジング部110と、該ハウジング部110にフランジ121を介して連結されたコールドヘッド部120とを備えている。従って、本発明の2段式パルスチューブ冷凍機100において、前述の構成部材と同様の構成部材については、繰り返し説明しない。
【0048】
ただし、本発明の2段式パルスチューブ冷凍機100では、以下に詳しく説明するように、第1段蓄冷管131の構造が、前述の第1段蓄冷管31とは大きく異なるという特徴を有する。
【0049】
本発明の2段式パルスチューブ冷凍機100では、熱交換器160を有する第1段蓄冷管131の低温端132bは、第1流通口155と、第2流通口157とを有する。ここで、第1流通口155は、実質的に前述の2段式パルスチューブ冷凍機1の第1流通口55に相当し、第1段ステージの内部に設けられた第1の流通経路138と接続されている。一方、第2流通口157は、熱交換器160を貫通するように設けられた貫通路159と接続されており、このため貫通路159は、第2の流通経路158とも接続される。換言すれば、第2の流通経路158は、貫通路159により、熱交換器160をバイパスする構造となっている。
【0050】
従って、第2段蓄冷管141から第1段蓄冷管131に移動する冷媒ガスは、第2の流通経路158を通り、第2流通口157および貫通路159を介して、熱交換器160を通らずに、第2段蓄冷管141内に流通される。なお、第1段パルス管136から、第1段蓄冷管131に移動する冷媒ガスは、従来通り、第1の流通経路138および第1流通口155を介して熱交換器160を通り、第1段パルス管136内に流通される。
【0051】
このような第1段蓄冷管131〜第2段蓄冷管141の構成では、第2の作動モードにおいて、第2段蓄冷管41内の冷媒ガスは、熱交換器160を通らないようにバイパスされ、すなわちこの冷媒ガスは、第2の流通経路158および第2流通口157を介して、第1段蓄冷管31内に流入することが可能となる。従って、前述のような冷媒ガスの「無駄」な圧力損失を有意に抑制することができる。
【0052】
また前述のように、第2の作動モードにおいて、第2段蓄冷管141の高温端142aから第1段蓄冷管131の方に戻る冷媒ガスは、蓄冷材143に対して、既にある程度の寒冷を放出しているため、既に冷却能力の大部分を喪失している(例えば、冷媒ガス温度40K程度)。従って、冷媒ガスが熱交換器160をバイパスするように流通路を構成しても、これにより、熱交換器160の位置での熱伝達効率が実質的に低下することはない。
【0053】
このように、本発明では、第1段蓄冷管131の低温端32bにおいて、従来の熱伝達性能を維持したまま、低温端32bを通る冷媒ガスの「無駄」な圧力損失を有意に抑制することが可能となる。
【0054】
以上の説明では、本発明によるパルスチューブ冷凍機100の第1の作動モードにおける冷媒ガスの流れについて、説明を省略した。しかしながら、本発明では、第1の作動モードにおいても、熱交換器160を通る冷媒ガスの圧力損失が有意に抑制されることは明らかであろう。
【0055】
また、図2(および図1)では、第1段蓄冷管131の低温端132bに配置される熱交換器160の一例として、多孔板を採用した場合を例に、本発明の特徴について説明した。しかしながら、熱交換器160の態様は、これに限られるものではない。熱交換器160は、例えば、スリットを有する板状部材であっても良く、あるいは第1段蓄冷管141の内壁との間に隙間を形成することにより構成されたもの(いわゆる「クリアランスタイプ)の熱交換器)であっても良い。
【0056】
図3には、本発明による2段式パルスチューブ冷凍機において、別の構成を有する第1段蓄冷管131'の低温端132b'の近傍の拡大模式図を示す。この図には、熱交換器として、「クリアランスタイプ」の熱交換器160'を採用した場合の例が示されている。
【0057】
図3に示すように、第1段蓄冷管131'の低温端132b'は、熱交換器160'を有する。この熱交換器160'は、中央部分のプラグ部160bと、隙間160aとを有し、隙間160aは、第1段蓄冷管131'の内壁とプラグ部160bの外周の間に沿って、円周状に形成されるように構成される。隙間160aは、第1流通口155'を介して第1の流通経路138'と接続されている。また、この熱交換器160'のプラグ部160bには、貫通路159'が形成されており、該貫通路159'は、第2流通口157'を介して、第2の流通経路158'に接続される。
【0058】
このような構成の場合、第2の作動モードでは、第2段蓄冷管141'内の冷媒ガスは、図において矢印IIで示されるように、熱交換器160'を通らず、すなわち第2の流通経路158'および貫通路159'を介して、第1段蓄冷管131'内に流入される。従って、この場合も、第2段蓄冷管141'内の冷媒ガスが熱交換器160'を通ることにより生じ得る「無駄」な圧力損失を有意に抑制することができる。
【0059】
以上、2段式のパルスチューブ冷凍機を例に、本発明による特徴および効果を説明した。しかしながら、本発明は、2段式のパルスチューブ冷凍機に限られるものではなく、3段以上の多段式のパルスチューブ冷凍機にも適用することができることは、当業者には明らかである。
【0060】
また、前述の記載では、第1段蓄冷管131(および第2段蓄冷管141)のみが熱交換器160(および149)を有する場合を例に、本発明の特徴を説明した。しかしながら、第1段蓄冷管131(および第2段蓄冷管141)に設置された熱交換器160(および149)の一部が、第1段パルス管136(および第2段パルス管146)の方に移行されても良い。この場合、第1段蓄冷管131(および第2段蓄冷管141)に設置される熱交換器160の量(高さ)が抑制されるため、パルスチューブ冷凍機全体の寸法を小型化することができる。
【実施例】
【0061】
本発明の効果を定量的に確認するため、従来のパルスチューブ冷凍機および本発明によるパルスチューブ冷凍機において、冷媒ガスが第1段蓄冷管の熱交換器を通過する前後の圧力差(すなわち圧力損失ΔP)を試算した。また、第1段蓄冷管の熱交換器の温度と該熱交換器の位置での冷媒ガスの温度の間の温度差ΔTを試算した。なお、従来のパルスチューブ冷凍機の構造としては、図1に示すパルスチューブ冷凍機1において、熱交換器60が「クリアランスタイプ」のものであると仮定した(以下、「例1」と称する)。また、本発明によるパルスチューブ冷凍機の構造としては、図2のパルスチューブ冷凍機100において、熱交換器160が「クリアランスタイプ」のもの(すなわち図3の構造)であると仮定した(以下、「例2」と称する)。
【0062】
計算には、以下の表1に示す前提条件を使用した。
【0063】
【表1】

なお、表1には、各前提条件の欄の明確化のため、各部材に参照番号を付記した。ただし、各項目に記載されている部材の参照番号は、図2および図3の記載に基づくものである。従って、図1に示すパルスチューブ冷凍機1を想定した例1の場合は、表1の参照符号と、使用部材の参照符号とは一致しない。しかしながら、この場合であっても、表1において参照符号が付された各部材が図1のどの部材と対応しているかは、明らかであろう。
【0064】
まず、表1の前提条件の下、以下の式(1)を用いて、第1の作動モードにおいて、高圧の冷媒ガスが第1段蓄冷管の熱交換器(160')を経て、第1段パルス管(例1の場合、さらに第2段蓄冷管)の方に向かって流出する際に生じる、冷媒ガスの圧力損失ΔPh(kPa)を算出した。

ΔPh=0.5×f×L/Dh×ρ×v (1)

ここで、fは、摩擦係数であり、Reをレイノルズ数として、以下の式(2)で表される:

f=4×0.0791×Re0.25 (2)

L(mm)は、熱交換器(160')の高さである。またDhは、水力直径(mm)であり、隙間160aの幅dの2倍である。ρ(g/mm)は、熱交換器(160')の位置での冷媒ガスの密度(g/mm)であり、表1のP、PおよびT、Tから求められる。また、v(mm/sec)は、熱交換器(160')の位置での冷媒ガスの流速であり、表1のvおよびvから求められる。なおレイノルズ数Reは、以下の式(3)から求められる:

Re=ρ×v×Dh/μ (3)

ここで、μは、熱交換器(160')の位置での冷媒ガスの粘度である。
【0065】
計算の結果、例1の場合、ΔPh=35.6kPaとなり、例2の場合、ΔPh=10.6kPaが得られた。
【0066】
次に、同様に、以下の式(4)を用いて、第2の作動モードにおいて、第1段パルス管(例1の場合、さらに第2段蓄冷管)から、低圧の冷媒ガスが第1段蓄冷管の熱交換器(160')を流通した際に生じる、冷媒ガスの圧力損失ΔPl(kPa)を算出した。

ΔPl=0.5×f×L/Dh×ρ×v (4)

計算の結果、例1の場合、ΔPl=36.1kPaとなり、例2の場合、ΔPl=10.7kPaが得られた。
【0067】
以上の結果を用いて、1サイクル全体での冷媒ガスの総圧力損失ΔPは、式(5)から求められる:

ΔP=ΔPh+ΔPl (5)

一方、熱交換器(160')の温度と該熱交換器の位置での冷媒ガスの温度の間の温度差ΔTは、表1の前提条件から、以下の式(4)を用いて算出される:

ΔT=Qc/K1 (6)

ここで、Qc(W)は、第1段冷却ステージ(130)の冷凍能力であり(ここではQc=40W)、K1(W/K)は、以下の式(7)で表される伝熱係数である。

K1=α×Ah (7)

ここで、Ah(mm)は、熱交換面積であり、熱交換器(160')の表面積から求めることができる。また、αは、

α=0.023×Re0.8×Pr0.35×λ/Dh (8)

で表される。ここで、Prは、プラントル数であり(Pr=0.72)、λ(W/m・K)は、熱交換器(160')の熱伝導率であり、ここではλ=0.044W/m・Kである。

以上の計算によって得られたΔPおよびΔTの結果を、まとめて表2に示す。
【0068】
【表2】

この結果から、例1では、第1段蓄冷管内の熱交換器前後の1サイクル分の圧力損失ΔPは、71.7kPa程度であるのに対して、例2では、圧力損失ΔPが21.3kPaまで抑制されていることがわかる。また、例1では、熱交換器と該熱交換器の位置での冷媒ガスの温度差ΔTは、0.3K程度であり、例2の温度差ΔT=0.5Kとほとんど変わらないことがわかる。
【0069】
このように、冷媒ガスを第2段蓄冷管から第1段蓄冷管に流通させる際(あるいはその逆の流通の際)に、冷媒ガスが熱交換器をバイパスするように、冷媒ガスの流通路を構成することにより、熱交換器の位置での熱伝達効率を実質的に低下させずに、第1段蓄冷管内の熱交換器前後における圧力損失を有意に抑制することができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、多段式のパルスチューブ冷凍機に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 従来のパルスチューブ冷凍機
5、105 ハウジング
10、110 ハウジング部
11、111 ガス圧縮機
12、121 吸気バルブ
13、131 排気バルブ
15A、115A 第1段リザーバ
15B、115B 第2段リザーバ
17、117 オリフィス
20、120 コールドヘッド部
21、121 フランジ
30、130 第1段の冷却ステージ
31、131 第1段蓄冷管
33、43 蓄冷材
36、136 第1段パルス管
38、138 第1の流通経路
40、140 第2段の冷却ステージ
41、141 第2段蓄冷管
46、146 第2段パルス管
48、148 ガス流路
55、155 第1流通口
57、157 第2流通口
58、158 第2の流通経路
60、160 熱交換器
100 本発明のパルスチューブ冷凍機
159 貫通路
160a 隙間
160b プラグ部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器を有する第1段蓄冷管の低温端と第1段パルス管の低温端とが接続された第1段の冷却ステージ、および第2段蓄冷管の低温端と第2段パルス管の低温端とが接続された第2段の冷却ステージを少なくとも有し、内部に冷媒ガスが流通することにより、前記第1段および第2段の冷却ステージに寒冷が発現される多段式のパルスチューブ冷凍機であって、
前記第1段蓄冷管の低温端は、前記第1段パルス管と第1の流通経路を介して連通されており、前記第2段蓄冷管と第2の流通経路を介して連通されており、
前記第1の流通経路は、内部を流れる冷媒ガスが前記熱交換器と熱交換されるように構成され、
前記第2の流通経路は、内部を流れる冷媒ガスが前記熱交換器をバイパスするように構成されることを特徴とする多段式のパルスチューブ冷凍機。
【請求項2】
前記熱交換器は、前記第1段蓄冷管の内壁と、プラグ部との間に形成された隙間構造を有することを特徴とする請求項1に記載の多段式のパルスチューブ冷凍機。
【請求項3】
前記第2の流通経路は、前記熱交換器を貫通するようにして設けられた貫通路であることを特徴とする請求項1または2に記載の多段式のパルスチューブ冷凍機。
【請求項4】
前記第1段パルス管の低温端および/または第2段パルス管の低温端は、熱交換器を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一つに記載の多段式のパルスチューブ冷凍機。
【請求項5】
当該多段式のパルスチューブ冷凍機は、2段式であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載の多段式のパルスチューブ冷凍機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−243113(P2010−243113A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94309(P2009−94309)
【出願日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)