説明

パルスチューブ冷凍機

【課題】蓄冷管とパルス管の間の空間での対流の発生を抑制する。
【解決手段】蓄冷管およびパルス管と、雰囲気ガスの凝縮機能を備え、前記蓄冷管および前記パルス管の低温端の冷却ステージとして機能する凝縮器とを有するパルスチューブ冷凍機において、前記凝縮器内の流通路を介して、蓄冷管の低温端とパルス管の低温端とが接続され、前記凝縮器は、相互に対向する第1の表面および第2の表面を有し、第1の表面には、前記流通路の第1端および第2端用の2つの開口が設けられ、第2の表面は、該第2の表面から延在する複数の溝を有し、前記蓄冷管またはパルス管の軸方向と平行な方向から見たとき、前記流通路の2つの開口の中心を結ぶ直線上に中心を有する円であって、前記2つの開口を包含する最小の円または前記2つの開口と内接する円の領域内では、前記溝は、前記第1の表面まで貫通されていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスチューブ冷凍機に関し、特に、雰囲気ガスの凝縮機能を有するパルスチューブ冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より極低温環境が必要となる装置、例えば、核磁気共鳴診断装置(MRI)等を冷却する際には、パルスチューブ冷凍機が使用されている。
【0003】
パルスチューブ冷凍機では、圧縮機により圧縮された作動流体である冷媒ガス(例えば、ヘリウムガス)が蓄冷管およびパルス管に流入する動作と、作動流体が圧縮機により回収され、パルス管および蓄冷管から流出する動作を繰り返すことで、蓄冷管およびパルス管の低温端に寒冷が形成される。これらの低温端には冷却ステージが設置され、この冷却ステージを、被冷却対象である被冷却体に熱的に接触させることで、被冷却体から熱を奪うことができる。
【0004】
例えば、パルスチューブ冷凍機がMRI用クライオスタットに適用される場合、パルスチューブ冷凍機の冷却ステージは、MRI磁石が収容された液体ヘリウム槽と連通する空間内に配置され、これにより、MRI磁石が極低温に冷却される。
【0005】
なお、MRI磁石を極低温に維持し続けるためには、熱交換によって気化した分の液体ヘリウムを絶えず液体ヘリウム槽に補給する必要がある。そこで、通常の場合、気化したヘリウムガスを再度液体状態に戻すため、冷却ステージ近傍(例えば、冷却ステージの直下)には、凝縮器が設置される。また、特許文献1には、そのような凝縮器を冷却ステージと一体構成したパルスチューブ冷凍機が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−214717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
凝縮器は、ヘリウムガスとの熱接触の機会が高まるほど、凝縮効率(ヘリウムガスの冷却効率)が向上する。このため、通常の場合、凝縮器には、表面積を増加させるための多数の溝が設けられる。
【0008】
図1には、そのような多数の溝を有し、冷却ステージとしても機能する凝縮器の模式的な斜視図を示す。
【0009】
図1において、冷却ステージでもある凝縮器60は、上面2と下面3とを有し、上面2は、蓄冷管41の低温端42bおよびパルス管46の低温端47bと接続される。蓄冷管41の低温端42bとパルス管46の低温端47bとは、凝縮器60内に形成されたガス流通路48により連通される。また、凝縮器60は、図の上下に貫通した多数の貫通溝10を有し、これにより、凝縮器60の表面積が増加する。
【0010】
なお、図1には示されていないが、凝縮器60は、断熱容器内に収容されている。また、凝縮器60の下面3の下側には、MRI磁石が収容された液体ヘリウム槽が設けられている。このため、ハウジング内は、ヘリウムガス雰囲気となっている。
【0011】
液体ヘリウム槽中の液体ヘリウムは、MRI磁石との熱交換により温度が上昇すると、気化してヘリウムガスとなる。このヘリウムガスは、凝縮器60と接触した際に再度冷却され、液体となり、液体ヘリウム槽に戻る。従って、凝縮器60により、液体ヘリウム槽には、常時気化したヘリウムを補充する分の液体ヘリウムが供給され、これによりMRI磁石の極低温(例えば4K程度)が維持される。
【0012】
しかしながら、このような凝縮器60の構成において、液体ヘリウム槽から気化したヘリウムガスの一部は、凝縮器60に設けられた貫通溝10を通って、図1の下部空間75から、比較的容易に、蓄冷管41とパルス管46の間の空間近傍まで達してしまうという問題がある。これにより、蓄冷管41とパルス管46の間の空間のヘリウムガス流速が増え、対流熱損失が増大し、また、このような対流の発生が顕著になると、パルスチューブ冷凍機の蓄冷管41およびパルス管46の温度が変化し、パルスチューブ冷凍機全体の冷却性能が低下してしまうおそれがある。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、本発明では、凝縮器を有するタイプのパルスチューブ冷凍機であって、蓄冷管とパルス管の間の空間での対流の発生が有意に抑制されるパルスチューブ冷凍機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明では、
蓄冷管およびパルス管と、雰囲気ガスの凝縮機能を備え、前記蓄冷管および前記パルス管の低温端の冷却ステージとして機能する凝縮器とを有するパルスチューブ冷凍機であって、
前記凝縮器内に形成された流通路を介して、前記蓄冷管の低温端と前記パルス管の低温端とが接続され、
前記凝縮器は、相互に対向する第1の表面および第2の表面を有し、前記第1の表面には、前記流通路の第1端および第2端用の2つの開口が設けられ、前記第2の表面は、該第2の表面から延在する複数の溝を有し、
前記蓄冷管またはパルス管の軸方向と平行な方向から見たとき、
前記流通路の2つの開口の中心を結ぶ直線上に中心を有する円であって、前記2つの開口を包含する最小の円または前記2つの開口と内接する円の領域内において、前記溝は、前記第1の表面まで貫通されていないことを特徴とするパルスチューブ冷凍機が提供される。
【0015】
本発明によるパルスチューブ冷凍機において、前記凝縮器は、前記第1の表面と前記第2の表面をつなぐ側面を有し、
前記溝の少なくとも一つは、前記側面に開口を有しても良い。
【0016】
また、本発明によるパルスチューブ冷凍機において、前記凝縮器は、前記第1の表面と前記第2の表面をつなぐ側面を有し、
前記側面は、外周に沿った窪み部を有し、
前記溝の少なくとも一つは、前記窪み部に開口を有しても良い。
【0017】
また、本発明によるパルスチューブ冷凍機において、前記複数の溝の全ては、貫通されていなくても良い。
【0018】
また、本発明では、
雰囲気ガスの凝縮器、および該凝縮器上に設けられた冷却ステージを有し、該冷却ステージに形成された流通路を介して、蓄冷管の低温端とパルス管の低温端とが接続された、パルスチューブ冷凍機であって、
前記冷却ステージは、相互に対向する第1の表面および第2の表面を有し、前記第1の表面には、前記流通路の第1端および第2端用の2つの開口が設けられ、
前記凝縮器は、相互に対向する第3の表面および第4の表面と、前記第4の表面から延在する複数の溝とを有し、
前記凝縮器の前記第3の表面は、前記第4の表面に比べて前記冷却ステージの前記第2の表面と接近され、
前記蓄冷管またはパルス管の軸方向と平行な方向から見たとき、
前記流通路の2つの開口の中心を結ぶ直線上に中心を有する円であって、前記2つの開口を包含する最小の円または前記2つの開口と内接する円の領域内において、前記溝は、前記第1の表面まで貫通されていないことを特徴とするパルスチューブ冷凍機が提供される。
【0019】
本発明によるパルスチューブ冷凍機において、当該パルスチューブ冷凍機は、多段式のパルスチューブ冷凍機であって、
前記雰囲気ガスは、ヘリウムガスであっても良い。
【0020】
この場合、前記冷却ステージは、最低温用の冷却ステージであっても良い。
【0021】
また、本発明によるパルスチューブ冷凍機において、前記凝縮器の前記第4の表面側には、液体ヘリウム槽が設置されても良い。
【0022】
あるいは、本発明によるパルスチューブ冷凍機において、当該パルスチューブ冷凍機は、単段式のパルスチューブ冷凍機であって、
前記雰囲気ガスは、窒素ガスであっても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、凝縮器を有するタイプのパルスチューブ冷凍機であって、蓄冷管とパルス管の間の空間での対流の発生が有意に抑制されるパルスチューブ冷凍機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来のパルスチューブ冷凍機における凝縮器近傍の模式的な斜視図である。
【図2】本発明によるパルスチューブ冷凍機の一例を概略的に示した断面図である。
【図3】本発明によるパルスチューブ冷凍機の凝縮器の一例を示した断面図である。
【図4】本発明によるパルスチューブ冷凍機の凝縮器の別の一例を示した上面図および底面図である。
【図5】本発明によるパルスチューブ冷凍機の凝縮器の別の一例を模式的に示した斜視図である。
【図6】本発明によるパルスチューブ冷凍機の凝縮器の別の一例を模式的に示した斜視図である。
【図7】本発明によるパルスチューブ冷凍機の凝縮器の別の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明についてより詳しく説明する。
【0026】
図2には、本発明によるパルスチューブ冷凍機の概略的な構成断面図を示す。図2の例では、本発明によるパルスチューブ冷凍機は、2段式のパルスチューブ冷凍機である。
【0027】
図2に示すように、本発明による2段式パルスチューブ冷凍機100は、圧縮機111と、上部ハウジング部110と、該上部ハウジング部110にフランジ121を介して連結されたコールドヘッド部120とを備えている。
【0028】
上部ハウジング部110は、筐体105を有し、この筐体105内には、第1段リザーバ115A、第2段リザーバ115B、開閉バルブ112、開閉バルブ113、およびオリフィス117等が収容されている。開閉バルブ112および開閉バルブ113は、配管114を介して、圧縮機111に接続されている。
【0029】
コールドヘッド部120は、第1段蓄冷管131、第1段パルス管136、第1段冷却ステージ130、第2段蓄冷管141、第2段パルス管146、および第2段冷却ステージ160を有する。
【0030】
第1段蓄冷管131は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ132と、その内部に充填された銅やステンレス鋼製金網等の蓄冷材133からなる。第1段パルス管136は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ137からなる。これらのシリンダ132、137の高温端132a、137aはフランジ121に固定され、これらのシリンダ132、137の低温端132b、137bは、第1段冷却ステージ130に接続されている。第1段パルス管136の高温端137aには、熱交換器118aが設置され、低温端137bには、熱交換器118bが設置されている。第1段冷却ステージ130には、その内部にガス流通路138が形成されており、第1段パルス管136の低温端137bと第1段蓄冷管131の低温端132bとは、ガス流通路138を介して接続されている。
【0031】
また、第2段蓄冷管141は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ142と、その内部に充填された銅やステンレス鋼製金網等の蓄冷材143からなる。第2段パルス管146は、例えばステンレス鋼の中空状のシリンダ147からなる。第2段蓄冷管141の高温端142aは、第1段冷却ステージ130を介して、第1段蓄冷管131のシリンダ132の低温端132bに接続され、第2段蓄冷管141の低温端142bは、第2段冷却ステージ160に接続されている。第2段パルス管146の高温端147aは、フランジ121に固定され、低温端147bは、第2段冷却ステージ160に接続されている。第2段パルス管146の高温端147aには、熱交換器119aが設置され、第2段パルス管146の低温端147bには、熱交換器119bが設置されている。第2段冷却ステージ160には、その内部にガス流通路148が形成されており、第2段パルス管146の低温端147bと第2段蓄冷管141の低温端142bとは、ガス流通路148を介して接続されている。
【0032】
パルスチューブ冷凍機100では、圧縮機111から、高圧の冷媒ガスが開閉バルブ112および配管114を介して第1段蓄冷管131に供給され、また、第1段蓄冷管131から低圧の冷媒ガスが配管114および開閉バルブ113を介して圧縮機111に排出される。第1段パルス管136の高温端137aには、オリフィス117および配管116を介して、第1段リザーバ115Aが接続されている。また、第2段パルス管146の高温端147aには、オリフィス117および配管116を介して、第2段リザーバ115Bが接続されている。オリフィス117は、第1段パルス管136および第2段パルス管146において、周期的に変化する冷媒ガスの圧力変動と体積変化との位相差を調整する役割を果たす。
【0033】
パルスチューブ冷凍機100のコールドヘッド部120において、フランジ121〜第1段冷却ステージ130までの間の空間は、ヘリウムガスが充填された第1の断熱容器150内に収容されている。
【0034】
また、パルスチューブ冷凍機100のコールドヘッド部120において、第1段冷却ステージ130〜第2段冷却ステージ160までの間の空間(上部空間165)は、第2の断熱容器152内に収容されている。また、第2の断熱容器152は、液体ヘリウム槽153が収容された、第2段冷却ステージ160の下側の空間(下部空間175)を備えている。液体ヘリウム槽153中には、液体ヘリウム154およびMRI磁石155が収容されている。液体ヘリウム槽153は、下部空間175を介して、第2段冷却ステージ160と対向するようにして、第2の断熱容器152中に設置される。
【0035】
第2段冷却ステージ160は、凝縮器としても機能する。従って、以下の説明では、第2段冷却ステージ160は、凝縮器160とも称する。
【0036】
次に、このように構成されるパルスチューブ冷凍機100の動作を簡単に説明する。まず、開閉バルブ112が開状態、開閉バルブ113が閉状態になると、高圧の冷媒ガスが、圧縮機111から第1段蓄冷管131に流入する。第1段蓄冷管131内に流入した冷媒ガスは、蓄冷材133により冷却されて温度を下げながら、第1段蓄冷管131の低温端132bからガス流通路138を通り、第1段パルス管136の内部に流入する。この際に、第1段パルス管136の内部に予め存在していた低圧の冷媒ガスは、流入した高圧の冷媒ガスにより圧縮される。これにより、第1段パルス管136内の冷媒ガスの圧力は、第1段リザーバ115A内の圧力よりも高くなり、冷媒ガスは、オリフィス117および配管116を通って、第1段リザーバ115Aに流入する。
【0037】
また、第1段蓄冷管131で冷却された高圧の冷媒ガスの一部は、第2段蓄冷管141にも流入する。この冷媒ガスは、蓄冷材143によりさらに冷却されて温度を下げながら、第2段蓄冷管141の低温端142bからガス流通路148を通り、第2段パルス管146の内部に流入する。この際に、第2段パルス管146の内部に予め存在していた低圧の冷媒ガスは、流入した高圧の冷媒ガスにより圧縮される。これにより、第2段パルス管146内の冷媒ガスの圧力は、第2段リザーバ115B内の圧力よりも高くなり、冷媒ガスは、オリフィス117および配管116を通って、第2段リザーバ115Bに流入する。
【0038】
次に、開閉バルブ112を閉じ、開閉バルブ113を開くと、第1段パルス管136および第2段パルス管146内の冷媒ガスは、それぞれ、蓄冷材133および143を冷却しながら、第1段蓄冷管131および第2段蓄冷管141を通過する。また、第2段蓄冷管141を通過した冷媒ガスは、さらに第1段蓄冷管131を通過する。その後、冷媒ガスは、第1段蓄冷管131の高温端132aから開閉バルブ113を通り、圧縮機111に戻る。ここで、第1段パルス管136および第2段パルス管146は、それぞれ、オリフィス117を介して、第1段リザーバ115Aおよび第2段リザーバ115Bと接続されているため、冷媒ガスの圧力変動の位相と、冷媒ガスの体積変化の位相とは、一定の位相差で変化する。この位相差により、第1段パルス管136の低温端137bおよび第2段パルス管146の低温端147bにおいて、冷媒ガスの膨張による寒冷が発生する。パルスチューブ冷凍機100は、上記の動作が反復されることで冷凍機として機能する。
【0039】
ここで、液体ヘリウム槽153内の液体ヘリウム154の一部は、MRI磁石155との熱交換により気化するため、下部空間175および下部空間175と連通された上部空間165は、ヘリウムガス雰囲気となっている。また、このヘリウムガスは、冷却ステージ160すなわち凝縮器160に接触すると、再度熱を奪われて冷却されて液化し、液体ヘリウム槽153に戻る。このような循環サイクルにより、液体ヘリウム槽153には、気化した分の液体ヘリウムが逐次補充され、MRI磁石155を極低温に維持することができる。
【0040】
ここで、凝縮器は、ヘリウムガスとの熱接触の機会が高まるほど、凝縮効率(ヘリウムガスの冷却効率)が向上する。このため、通常の場合、凝縮器には、表面積を増加させるための多数の溝が設けられる。
【0041】
しかしながら、前述のように、図1のような構成の凝縮器60の場合、液体ヘリウム槽から気化したヘリウムガスの一部は、凝縮器60に設けられた貫通溝10を通って、図1の下部空間75から、第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間近傍まで、比較的簡単に達してしまう。その結果、上部空間65の第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間において、ヘリウムガス流速が増え、対流熱損失が増大するようになる。また、このような対流の発生が顕著になると、パルスチューブ冷凍機の蓄冷管41およびパルス管46の温度が変化し、パルスチューブ冷凍機全体の冷却性能が低下するおそれがある。
【0042】
これに対して、本発明では、凝縮器160は、気化したヘリウムガスが、凝縮器160内に設けられた溝を介して、対流発生が問題となる第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間近傍に、簡単に供給されることがないように構造化されている。このため、本発明では、第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間での対流の発生が有意に抑制される。
【0043】
図3には、本発明によるパルスチューブ冷凍機100の第2段冷却ステージ160として使用される凝縮器160の模式的な断面図の一例を示す。図3において、第2段蓄冷管141および第2段パルス管146等の部材は、省略されている。また、第2段蓄冷管141の低温端142bと第2段パルス管146の低温端147bを接続するガス流通路148も、明確化のため省略されている。
【0044】
図3に示すように、凝縮器160は、表面積を増加させるため、多数の溝110を有する。これらの溝110は、凝縮器160の下面103に開口を有し、凝縮器160の上面102に向かって延在している。ただし、溝110は、上面102まで貫通されておらず、非貫通溝となっている。
【0045】
このような凝縮器160の場合、図1に示したような凝縮器60とは異なり、ヘリウムガスは、凝縮器160の溝110を介して、下部空間175から上部空間165まで、直接流通することはできない。従って、本発明では、第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間での対流の発生を有意に抑制することができ、パルスチューブ冷凍機全体の冷却性能が低下することを抑制することができる。なお、この場合、上部空間165と下部空間175の間のヘリウムガスの流通は、第2段冷却ステージ160の外周部(すなわち、第2の断熱容器152の内壁と第2段冷却ステージ160との間の隙間)を介して行われる。
【0046】
ここで、図3に示した凝縮器160の例では、凝縮器160の上面102は、鉛直方向に対して略水平な平面を有する。しかしながら、凝縮器160において、上面102は、水平方向に対してある角度だけ傾斜された表面であっても良く、あるいは「円錐」形状または「円錐台」形状の表面を有しても良い。この場合、凝縮器160の上面102で凝縮した液体ヘリウムを、液体ヘリウム槽153の方に落下させることが容易になる。
【0047】
また、図3に示した凝縮器160の例では、凝縮器160に形成された溝110は、全てが非貫通溝となっている。しかしながら、本発明において、凝縮器160の溝110の形成状態は、このような態様に限られるものではない。
【0048】
図4には、本発明における凝縮器の別の例を示す。図4の上図は、凝縮器160−2の上面図に相当し、図4の下図は、凝縮器160−2の底面図に相当する。すなわち、図4の上図には、凝縮器160−2の上面102が示されており、図4の下図は、凝縮器160−2の下面103が示されている。なお、明確化のため、図4の上図には、第2段蓄冷管141の低温端142b部分の輪郭と、第2段蓄冷管146の低温端147b部分の輪郭が、それぞれ破線の円で示されている。また、両図において、ガス流通路148が破線で示されている。
【0049】
図4に示すように、凝縮器160−2は、2種類の溝110aおよび110bを有する。第1の溝110aは、非貫通溝であり、凝縮器160−2の上面102側では、開口されていない。一方、第2の溝110bは、貫通溝であり、凝縮器160−2の下面103から上面102まで貫通している。
【0050】
第1の溝110aは、設置場所は、特に限定されず、ガス流通路148と干渉しない位置であれば、いかなる位置に設置しても良い。これに対して、第2の溝110bは、曲線Rで示した線で区画される領域Sの外側のみに設置される。
【0051】
なお、図4において、曲線Rは、凝縮器160−2を上から(または下から)見たとき、上面102に形成されたガス流通路148の2つの開口148A、148Bの中心O1、O2を結ぶ直線L上に中心Oを有する円であり、この円は、ガス流通路148の2つの開口148A、148Bと内接している。ただし、一般に、ガス流通路148の2つの開口148A、148Bが円以外の形状を有する場合、曲線Rは、2つの開口148A、148Bを包含する最小の円である。
【0052】
このように構成された溝110a、110bを有する凝縮器160−2においても、前述のような本発明の効果が得られることは明らかであろう。この凝縮器160−2においても、対流発生が問題となる第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間近傍に、凝縮器160−2内を貫通したヘリウムガスが直接供給されることがないからである。
【0053】
このことからも明らかなように、本発明において重要なことは、領域Sの内側に、貫通溝110bが形成されていないことであり、これが満たされる限り、溝110の配置は、特に限られない。また、溝110の形態(貫通溝または非貫通溝)も、特に限られない。
【0054】
ただし、第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間での対流抑制の観点からは、貫通溝110bの数を抑制するほど、より大きな効果が得られることは言うまでもない。
【0055】
図5には、本発明における凝縮器のさらに別の例を示す。図において、明確化のため、ガス流通路148は、省略されている。この凝縮器160−3では、各溝110cは、凝縮器160−3の下面103と、側面104とに開口部を有し、「逆L字型」の「エルボー」形状に形成されている。なお、各溝110cにおいて、横方向に延伸する部分と縦方向に延伸する部分は、必ずしも90゜の角度で直交している必要はない。また、各溝110cは、「逆L字型」の「エルボー」形状以外の形状を有しても良く、各溝110cは、例えば側面104から下面103まで、略直線的に延伸していても良い。
【0056】
また、図には、「逆L字型」の「エルボー」形状の溝110cしか示されていないが、凝縮器160−3は、この他に、下面103に開口を有する複数の非貫通溝を有しても良い。また、前述のように、領域S(図5には示されていない)の外側であれば、貫通溝を有しても良い。
【0057】
このような構成においても、対流発生が問題となる第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間近傍に、凝縮器160−3内を貫通したヘリウムガスが直接供給されることがないため、前述の効果を得ることができる。
【0058】
図6には、本発明における凝縮器のさらに別の例を示す。図において、明確化のため、ガス流通路148は、省略されている。この凝縮器160−4は、中央部分に窪み部190を有する側面104を有する。すなわち、凝縮器160−4には、窪み部190により、第1の部分210(窪み部190の上側部分)および第2の部分220(窪み部190の下側部分)が形成される。第1の部分210には、凝縮器190−4の上面102および下面103と平行な水平面215が形成される。第2の部分220には、凝縮器190−4の上面102および下面103と平行な水平面225が形成される。また、第2の部分220は、多数の貫通溝110dを有し、これらの貫通溝は、下面103から、水平面225まで貫通している。
【0059】
なお、図には、第2の部分220に形成された貫通溝110dしか示されていないが、第2の部分220は、この他に、下面103に開口を有する複数の非貫通溝を有しても良い。また、第1の部分210が水平面215に開口を有する複数の非貫通溝を有しても良い。さらに、第1の部分210は、前述の領域S(図6には示されていない)の外側であれば、貫通溝を有しても良い。
【0060】
このような構成においても、対流発生が問題となる第2段蓄冷管141と第2段パルス管146の間の空間近傍に、凝縮器160−4内を貫通したヘリウムガスが直接供給されることがないため、前述の効果を得ることができる。
【0061】
図7には、本発明における凝縮器のさらに別の例を示す。図7において、明確化のため、ガス流通路148は、省略されている。この凝縮器160−5は、前述の凝縮器160−4と同様に構成される。ただし、この凝縮器160−5の場合、第2の部分220(窪み部190の下側部分)には、窪み部190の側部230に開口を有する複数の「逆L字型」の「エルボー」形状の貫通溝110eが形成される。なお、図7には、さらに複数の貫通溝110dが示されているが、これらの貫通溝110dは、形成されていなくても良い。また、図6の凝縮器160−4と同様、第2の部分220は、この他に、下面103に開口を有する複数の非貫通溝を有しても良い。また、第1の部分210が水平面215に開口を有する複数の非貫通溝を有しても良い。
【0062】
以上、パルスチューブ冷凍機として、2段式の装置を例に掲げ、本発明の特徴を説明した。しかしながら、本発明において、パルスチューブ冷凍機は、3段以上の多段式または単段式のものであっても良い。
【0063】
また、上記記載では、第1の断熱容器150、第2の断熱容器152内の雰囲気ガスとして、ヘリウムガスが使用される場合を例に、本発明の特徴を説明した。しかしながら、各断熱容器内の雰囲気は、ヘリウムガス以外の雰囲気であっても良い。例えば単段式のパルスチューブ冷凍機では、冷却ステージの温度は、40K〜50K程度であるため、雰囲気ガスとして窒素ガスを使用することができる。この場合、液体ヘリウム槽は、液体窒素槽に置換される。
【0064】
また、上記記載では、凝縮器と冷却ステージが一体構成される場合を例に説明した。しかしながら、凝縮器と冷却ステージは、別個の部材であっても良い。この場合、図2において、冷却ステージの下側に、凝縮器が当接されても良い。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0066】
実際に、図2の構成の2段式パルスチューブ冷凍機を運転して、第1段冷却ステージと第2段冷却ステージの温度を計測し、本発明の効果を把握した。
【0067】
凝縮器には、図1の構成のもの、すなわち、凝縮器の下面から上面まで、これらの平面に対して略垂直に延在する多数の貫通溝を有するもの(実験1)、および図3の構成のもの、すなわち凝縮器の下面からこの面に対して略垂直に延在するが、上面まで貫通されていないものを使用した(実験2)。実験1、2において、溝の数および配置は、同じにした。溝の総数は、約30個とし、溝の直径は、いずれも約4mmとした。溝は、パルス管と蓄冷管用のガス流通路が形成されている領域を避けながらも、なるべく等間隔に配置した。なお、第1および第2の断熱容器150、152内の雰囲気ガスとしては、ヘリウムガスを使用した。
【0068】
表1には、得られた結果を示す。
【0069】
【表1】

この表に示すように、第1段冷却ステージの熱負荷を30Wとし、第2段冷却ステージの
熱負荷を1.0Wとした場合、実験1では、第1段冷却ステージの温度が45.9Kとな
り、第2段冷却ステージの温度が4.35Kとなった。一方、実験2では、第1段冷却ステージの温度が45.5Kとなり、第2段冷却ステージの温度が4.31Kとなった。
【0070】
この結果から、本発明の凝縮器の構成により、第2段冷却ステージの温度が有意に低下することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、雰囲気ガスの凝縮器を備える各種蓄冷式冷凍機、例えば、雰囲気ガスの凝縮器を備えるパルスチューブ冷凍機等に適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
2 凝縮器の上面
3 凝縮器の下面
10 貫通溝
41 蓄冷管
42b 蓄冷管の低温端
46 パルス管
47b パルス管の低温端
48 ガス流通路
65 上部空間
75 下部空間
100 パルスチューブ冷凍機
102 凝縮器の上面
103 凝縮器の下面
104 凝縮器の側面
105 筐体
110 上部ハウジング部
111 圧縮機
112 開閉バルブ
113 開閉バルブ
114、116 配管
115A 第1段リザーバ
115B 第2段リザーバ
117 オリフィス
118a、118b、119a、119b 熱交換器
120 コールドヘッド部
121 フランジ
130 第1段冷却ステージ
131 第1段蓄冷管
132、137、142、147 シリンダ
132a、137a 高温端
132b、137b 低温端
133 蓄冷材
136 第1段パルス管
138 ガス流通路
141 第2段蓄冷管
142a、147a 高温端
142b、147b 低温端
143 蓄冷材
146 第2段パルス管
148 ガス流通路
150 第1の断熱容器
152 第2の断熱容器
153 液体ヘリウム槽
154 液体ヘリウム
155 MRI磁石
160 第2段冷却ステージ、凝縮器
165 上部空間
175 下部空間
190 窪み部
210 第1の部分
215 第1の部分の水平面
220 第2の部分
225 第2の部分の水平面
230 窪み部の側部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄冷管およびパルス管と、雰囲気ガスの凝縮機能を備え、前記蓄冷管および前記パルス管の低温端の冷却ステージとして機能する凝縮器とを有するパルスチューブ冷凍機であって、
前記凝縮器内に形成された流通路を介して、前記蓄冷管の低温端と前記パルス管の低温端とが接続され、
前記凝縮器は、相互に対向する第1の表面および第2の表面を有し、前記第1の表面には、前記流通路の第1端および第2端用の2つの開口が設けられ、前記第2の表面は、該第2の表面から延在する複数の溝を有し、
前記蓄冷管またはパルス管の軸方向と平行な方向から見たとき、
前記流通路の2つの開口の中心を結ぶ直線上に中心を有する円であって、前記2つの開口を包含する最小の円または前記2つの開口と内接する円の領域内において、前記溝は、前記第1の表面まで貫通されていないことを特徴とするパルスチューブ冷凍機。
【請求項2】
前記凝縮器は、前記第1の表面と前記第2の表面をつなぐ側面を有し、
前記溝の少なくとも一つは、前記側面に開口を有することを特徴とする請求項1に記載のパルスチューブ冷凍機。
【請求項3】
前記凝縮器は、前記第1の表面と前記第2の表面をつなぐ側面を有し、
前記側面は、外周に沿った窪み部を有し、
前記溝の少なくとも一つは、前記窪み部に開口を有することを特徴とする請求項1に記載のパルスチューブ冷凍機。
【請求項4】
前記複数の溝の全ては、貫通されていないことを特徴とする請求項1に記載のパルスチューブ冷凍機。
【請求項5】
雰囲気ガスの凝縮器、および該凝縮器上に設けられた冷却ステージを有し、該冷却ステージに形成された流通路を介して、蓄冷管の低温端とパルス管の低温端とが接続された、パルスチューブ冷凍機であって、
前記冷却ステージは、相互に対向する第1の表面および第2の表面を有し、前記第1の表面には、前記流通路の第1端および第2端用の2つの開口が設けられ、
前記凝縮器は、相互に対向する第3の表面および第4の表面と、前記第4の表面から延在する複数の溝とを有し、
前記凝縮器の前記第3の表面は、前記第4の表面に比べて前記冷却ステージの前記第2の表面と接近され、
前記蓄冷管またはパルス管の軸方向と平行な方向から見たとき、
前記流通路の2つの開口の中心を結ぶ直線上に中心を有する円であって、前記2つの開口を包含する最小の円または前記2つの開口と内接する円の領域内において、前記溝は、前記第1の表面まで貫通されていないことを特徴とするパルスチューブ冷凍機。
【請求項6】
当該パルスチューブ冷凍機は、多段式のパルスチューブ冷凍機であって、
前記雰囲気ガスは、ヘリウムガスであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のパルスチューブ冷凍機。
【請求項7】
前記冷却ステージは、最低温用の冷却ステージであることを特徴とする請求項6に記載のパルスチューブ冷凍機。
【請求項8】
前記凝縮器の前記第2の表面側には、液体ヘリウム槽が設置されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のパルスチューブ冷凍機。
【請求項9】
当該パルスチューブ冷凍機は、単段式のパルスチューブ冷凍機であって、
前記雰囲気ガスは、窒素ガスであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載のパルスチューブ冷凍機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−179808(P2011−179808A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283708(P2010−283708)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)