説明

パルスドップラレーダ装置

【課題】急峻な振幅特性を得ることができ、不要信号付近の目標及び微弱信号の目標の検出性能を飛躍的に向上することができるパルスドップラレーダ装置を得る。
【解決手段】A/D変換後の受信信号に対して低サイドローブのウェイティング処理を施す低サイドローブウェイティング処理器6と、低サイドローブウェイティング処理後の信号に対してFFT処理を施し、周波数軸信号に変換する周波数分析器7と、FFT処理後の信号に対し不要信号の除去をする不要信号除去処理器8と、不要信号除去後の信号に対してIFFT処理を施し、時間軸信号に復元する時間軸分析器9と、IFFT処理後の信号に対し、低損失のウェイティング処理を施す低損失ウェイティング処理器10と、低損失ウェイティング処理後の信号に対してFFT処理を施し、周波数軸信号に変換する周波数分析器11と、FFT処理後の信号を元に目標を捜索、検出する目標検出器12とを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、捜索、追尾レーダ装置において、少ないサンプル数であっても微弱信号の目標、もしくは不要信号付近の目標を検出することが可能なパルスドップラレーダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の捜索、追尾用パルスドップラレーダ装置について図6から図9までを参照しながら説明する。図6は、従来のパルスドップラレーダ装置の構成及び動作の流れを示す図である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図6において、従来のパルスドップラレーダ装置は、送信機91と、送受信切替器92と、アンテナ93と、受信機94と、A/D変換器95と、不要信号除去フィルタ96と、低損失ウェイティング処理器97と、周波数分析器98と、目標検出器99とが設けられている。
【0004】
図6に示すように、送信機91より発生した送信パルスは、送受信切替器92を経てアンテナ93から電波として目標へ放射される。目標で反射された電波は、アンテナ93で再び受信され、送受信切替器92を経て受信機94へ入力される。その入力信号を受信機94により増幅、位相検波し、A/D変換器95によりデジタルビデオ信号に変換される。次に、デジタルビデオに変換された信号に対して、不要信号除去フィルタ96により時間軸で不要信号除去フィルタ処理を行ない、不要信号を除去する。次に、低損失ウェイティング処理器97で低損失のウェイティングを行ない、FFT時の境界の影響を低減する。さらに、ウェイティング後の信号に対して、周波数分析器98でFFT処理を行ない、時間軸信号から周波数軸信号に変換する。標準的なパルスドップラレーダ装置では、この周波数軸信号における振幅情報を利用して、目標検出器99で目標検出処理をおこなう。
【0005】
上記の目標検出手法を使用した場合、目標検出時の振幅特性は、およそ図7のようになる。図7において、S10は目標信号を示す。
【0006】
図6に示した目標検出処理を行なう場合、次の問題がある。レーダ信号処理の場合、サンプル数が限られているため、時間軸での不要信号除去フィルタを行なう際に、その特性を最大限生かすことができず、結果として急峻な周波数特性を得ることができないという点である。これにより、不要信号付近に存在する目標信号の振幅も低減させてしまうため、結果的に微弱信号目標が不要信号に埋もれてしまい、微弱信号目標の検出が困難となる問題が発生する。
【0007】
例えば、時間軸フィルタとして3パルスキャンセラフィルタ、低損失ウェイティングとしてHammingWindow関数を使用し、図6の手法を用いて、不要信号から離れた目標と、不要信号付近の目標の2目標を捜索する場合、目標検出時の振幅特性は図8のように得られる。図8において、S11は不要信号から離れた目標の振幅、S12は不要信号付近の目標の振幅である。この図8を見ると、不要信号から離れた目標S11に対し、不要信号付近の目標S12は振幅のレベルが下がっていることがわかる。この状態では、さらに不要信号に近づいたり、振幅が元々微弱であったりする場合は、検出が不可能になってしまう。
【0008】
さらに、時間軸でのフィルタ処理を行なったことにより、フィルタの周波数特性に起因する振幅変調がかかってしまい、FFT処理後に補正処理を行なう必要が生じる。
【0009】
他方、時間軸での不要信号除去フィルタ処理を行なわない場合、周波数分析を使用して目標検出を行なう際に、不要信号のサイドローブが目標検出領域に現れてしまい、目標検出の精度が著しく低下する。
【0010】
このとき、目標が微弱信号目標であった場合の周波数分析結果は、およそ図9に示す形となる。図9において、S13は目標信号、S14はクラッタである。目標信号S13が不要信号のサイドローブに完全に埋まっているため、検出が不可能な状態となっている。
【0011】
【特許文献1】特開平8−15421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したような従来のパルスドップラレーダ装置では、不要信号除去のために、時間軸のフィルタ処理を行なう必要があるが、サンプル数の少なさから、時間軸フィルタの性能を十分に生かすことができず、結果的に不要波信号付近の目標や、微弱信号目標の検出が困難であるという問題点があった。
【0013】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的は、不要信号を除去して目標信号を検出する際の手段に、時間軸フィルタを使用せず、低サイドローブウェイティング処理を施して周波数軸上で不要信号の除去を行なうことにより、急峻な振幅特性を得ることができ、不要信号付近の目標及び微弱信号の目標の検出性能を飛躍的に向上することができるパルスドップラレーダ装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係るパルスドップラレーダ装置は、アンテナを介して目標に向け送信パルスを放射し、目標で反射された電波を受信し信号処理を施して目標を検出するパルスドップラレーダ装置であって、A/D変換後の受信信号に対して低サイドローブのウェイティング処理を施す低サイドローブウェイティング処理器と、低サイドローブウェイティング処理後の信号に対してFFT処理を施し、周波数軸信号に変換する第1の周波数分析器と、FFT処理後の信号に対し不要信号の除去をする不要信号除去処理器とを設けたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明に係るパルスドップラレーダ装置は、急峻な振幅特性を得ることができ、不要信号付近の目標及び微弱信号の目標の検出性能を飛躍的に向上することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置について図1から図5までを参照しながら説明する。図1は、この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置の構成及び動作の流れを示す図である。なお、以降では、各図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0017】
図1において、この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置は、目標に向け放射する送信パルスを発生させる送信機1と、送信、受信の切り替えを行う送受信切替器2と、送信パルスを電波として目標に放射させるアンテナ3と、目標で反射された電波をアンテナ3を介して受信する受信機4と、受信信号をA/D変換するA/D変換器5と、A/D変換後の信号に対して低サイドローブのウェイティング処理を施す低サイドローブウェイティング処理器6と、低サイドローブウェイティング処理後の信号に対してFFT処理を施し、周波数軸信号に変換する周波数分析器7と、FFT処理後の信号に対し不要信号の除去をする不要信号除去処理器8と、不要信号除去後の信号に対してIFFT処理を施し、時間軸信号に復元する時間軸分析器9と、IFFT処理後の信号に対し、低損失のウェイティング処理を施す低損失ウェイティング処理器10と、低損失ウェイティング処理後の信号に対してFFT処理を施し、周波数軸信号に変換する周波数分析器11と、FFT処理後の信号を元に目標を捜索、検出する目標検出器12とが設けられている。
【0018】
つぎに、この実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置の動作について図面を参照しながら説明する。
【0019】
図1において、送信機1より発生した送信パルスは、送受信切替器2を経てアンテナ3から電波として目標へ放射される。また、目標で反射された電波は、アンテナ3で再び受信され、送受信切替器2を経て受信機4へ入力される。
【0020】
その入力信号を受信機4により増幅、位相検波し、A/D変換器5によりデジタルビデオ信号に変換される。次に、デジタルビデオに変換された信号に対し、低サイドローブウェイティング処理器6で、低サイドローブで若干損失の大きいウェイティング処理、例えばNuttall Window関数を使用したウェイティングを行い、その後、周波数分析器7でFFT処理を行い、周波数軸変換を行なう。このときの周波数軸における振幅特性は、図2のようになる。
【0021】
図2は、この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置の低サイドローブウェイティング処理後の周波数分析結果を示す図である。図2において、S1は目標信号を示す。
【0022】
この状態から、不要信号除去処理器8で、不要信号の除去を行ない、時間軸分析器9によりIFFT処理を行い再び時間軸信号に戻す。以上までが不要信号除去の処理である。
【0023】
ここからは従来手法と同様に、低損失ウェイティング処理器10で、例えばHamming Window関数等を使用した低損失ウェイティングを行ない、FFT時の境界の影響を低減する。その後、周波数分析器11で再びFFT処理を行い、周波数軸信号へと変換し、この信号を元に目標検出器12で目標検出を行なう。このときの周波数軸における振幅特性は、図3のようになる。
【0024】
図3は、この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置の低損失ウェイティング処理後の周波数分析結果を示す図である。図3において、S2は目標信号を示す。
【0025】
本実施の形態を用いて、不要信号から離れた目標と、不要信号付近の目標の2目標を捜索する場合、低サイドローブウェイティング後の振幅特性は図4のように、また、低損失ウェイティング後の振幅特性は図5のように得られる。なお、周波数軸上での不要信号除去は、適当なノイズレベルで不要信号をブランキングすることでおこなう。
【0026】
図4は、この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置において、不要信号から離れた目標と、不要信号付近の目標の2目標を捜索する場合の低サイドローブウェイティング後の振幅特性を示す図である。図4において、S3は不要信号から離れた目標の振幅、S4は不要信号付近の目標の振幅である。
【0027】
また、図5は、この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置において、不要信号から離れた目標と、不要信号付近の目標の2目標を捜索する場合の低損失ウェイティング後の振幅特性を示す図である。図5において、S5は不要信号から離れた目標の振幅、S6は不要信号付近の目標の振幅である。
【0028】
従来装置の特性を示す図9と、本実施の形態の特性を示す図2を比較すると、図9では不要信号のサイドローブに目標信号S13が覆われており、検出不能である。一方、図2では目標信号S1が検出可能な状態になっていることが明らかである。
【0029】
また、従来装置の特性を示す図8と、本実施の形態の特性を示す図4及び図5を比較すると、不要信号付近の目標S4、S6も、不要信号から離れた目標S3、S5と同程度の振幅レベルを保持していることから、本実施の形態に係る光検出器が、時間軸でのフィルタ処理を行なった場合に比べて、明らかに検出性能が向上していることが見て取れる。
【0030】
上述したように、本実施の形態によれば、不要信号を除去して目標信号を検出する際の手段に、時間軸フィルタを使用せず、低サイドローブウェイティング処理を施して周波数軸上で不要信号の除去を行なうことにより、従来手法と比べて、急峻な振幅特性を得ることができ、不要信号付近の目標および微弱信号の目標の検出性能が飛躍的に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置の構成及び動作の流れを示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置の低サイドローブウェイティング処理後の周波数分析結果を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置の低損失ウェイティング処理後の周波数分析結果を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置において、不要信号から離れた目標と、不要信号付近の目標の2目標を捜索する場合の低サイドローブウェイティング後の振幅特性を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係るパルスドップラレーダ装置において、不要信号から離れた目標と、不要信号付近の目標の2目標を捜索する場合の低損失ウェイティング後の振幅特性を示す図である。
【図6】従来のパルスドップラレーダ装置の構成及び動作の流れを示す図である。
【図7】従来のパルスドップラレーダ装置の周波数軸での目標検出時振幅を示す図である。
【図8】従来のパルスドップラレーダ装置において、不要信号から離れた目標と、不要信号付近の目標の2目標を捜索する場合の周波数軸での目標検出時振幅を示す図である。
【図9】従来のパルスドップラレーダ装置の時間軸によるフィルタを行なわない場合の周波数軸での目標検出時振幅を示す図である。
【符号の説明】
【0032】
1 送信機、2 送受信切替器、3 アンテナ、4 受信機、5 A/D変換器、6 低サイドローブウェイティング処理器、7 周波数分析器、8 不要信号除去処理器、9 時間軸分析器、10 低損失ウェイティング処理器、11 周波数分析器、12 目標検出器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナを介して目標に向け送信パルスを放射し、目標で反射された電波を受信し信号処理を施して目標を検出するパルスドップラレーダ装置であって、
A/D変換後の受信信号に対して低サイドローブのウェイティング処理を施す低サイドローブウェイティング処理器と、
低サイドローブウェイティング処理後の信号に対してFFT処理を施し、周波数軸信号に変換する第1の周波数分析器と、
FFT処理後の信号に対し不要信号の除去をする不要信号除去処理器と
を備えたことを特徴とするパルスドップラレーダ装置。
【請求項2】
不要信号除去後の信号に対してIFFT処理を施し、時間軸信号に復元する時間軸分析器と、
IFFT処理後の信号に対し、低損失のウェイティング処理を施す低損失ウェイティング処理器と、
低損失ウェイティング処理後の信号に対してFFT処理を施し、周波数軸信号に変換する第2の周波数分析器と、
FFT処理後の信号を元に目標を捜索、検出する目標検出器とをさらに備えた
ことを特徴とする請求項1記載のパルスドップラレーダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−249373(P2008−249373A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−88077(P2007−88077)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】