説明

パルスレーダ装置及びその制御方法

【課題】多ピンコネクタを用いて装置を小型に実現しつつ、受信強度を超過する干渉ノイズ信号を低減し、かつ、該干渉ノイズ信号のレプリカを高速に更新し、物体検出を確実に実施することが可能なパルスレーダ装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】対象物情報検出処理を行うときは、高周波送信部110で送信信号を生成するパルス繰返し周期Tplsに第1のパルス繰返し周期Tpを設定し、レプリカ信号作成するときは、周期Tpより短いパルス繰返し周期Tplsに第2のパルス繰返し周期Tzを設定し、処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置に関し、特にインパルス信号を該装置から放射し、対象物で反射し、再び該装置で受信されるまでの往復時間を測定することで該対象物までの距離及び/または該対象物の相対速度及び/または該対象物の方位角を計測する車載パルスレーダ装置及びその制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的なパルスレーダ装置は、高周波の搬送波を変調してごく短い時間だけ搬送周波数を切り出すことにより、パルス状の送信信号を生成する高周波送信部と、高周波送信部で生成された送信信号を電波として空間に放射する送信アンテナと、送信アンテナから放射された電波が対象物で反射されて戻ってきた反射波を受信する受信アンテナと、受信アンテナから受信信号を入力してベースバンド信号にダウンコンバートする高周波受信部と、高周波受信部からベースバンド信号を入力して対象物までの距離等を算出するベースバンド部と、を備えている。
【0003】
また、高周波送信部は、所定の周波数の搬送波を生成する発振器と、発振器で生成された搬送波をパルス状に切り出すスイッチ等を有している。高周波受信部は、送信信号と受信信号との相関をとる相関器と、相関器の出力信号をベースバンド信号にダウンコンバートするためのIQミキサを有している。ベースバンド部は、高周波受信部からのベースバンド信号をアナログ信号からディジタル信号に変換するA/D変換部と、A/D変換部からのディジタル信号を処理して対象物までの距離や対象物の相対速度を算出するディジタル信号処理部と、パルスレーダ装置の制御を行う制御部を有している。制御部は、高周波送信部のスイッチや高周波受信部の相関器をオン/オフ制御している。
【0004】
パルスレーダ装置は、上記説明のように、高周波信号を処理する高周波送信部及び高周波受信部(以下では、両者を合わせてRF部という)と、低周波信号を処理するベースバンド部とを備えている。このうち、RF部は高周波に対応可能な高価な基板を用いる必要があることから、低コスト化を図るために、従来より、RF部のみを高周波に対応可能な基板に配置し、ベースバンド部は低価格の基板に配置するのが一般的である。また、別々の基板に配置されたRF部とベースバンド部とを接続する手段として、従来より寸法が小さく安価な多ピンのコネクタが用いられている。
【0005】
上記のように、別々の基板上に形成されるベースバンド部とRF部とを安価な集約された多ピンのコネクタで接続すると、制御信号が受信信号に干渉ノイズ信号として漏れこんできてしまうといった問題があった。このように、該多ピンのコネクタにおいて、副次的に発生する制御信号等の不要波が受信信号に漏れこんで干渉ノイズ信号となると、十分な受信信号強度が得られないときは、該干渉ノイズ信号に所望の受信信号が埋もれてしまうという問題がある。そこで、従来は、なるべく該多ピン間のアイソレーションを大きくして該干渉ノイズ信号の信号量を低減することで、受信強度が小さい受信信号まで検出できるようにしていた。
【0006】
さらに、このような干渉ノイズ信号は発生要因は異なるが、各種レーダ装置にも存在し、該干渉ノイズ信号を除去する技術がある。
特許文献1では、FM−CWレーダにおける、受信信号に重畳した定常的なノイズ成分(周波数やレベルの時間的変動が小さいノイズ成分)の干渉ノイズ信号低減処理が開示されている。定常的なノイズ成分を記憶し、受信信号のスペクトラム分布から差し引くことで、対象物を検出する。
また、特許文献2では、パルスレーダ装置における干渉ノイズ信号やセルフミキシングノイズ等をレプリカ信号として取得し、これを観測データから除去することで、対象物を高精度に検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−151852号公報
【特許文献2】特願2010−051681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、車載レーダでは、小型な基板に実装することが多いため、多ピンコネクタのピン間のアイソレーションを十分確保することは非常に困難であるという問題があった。また、各信号線を完全に独立した同軸線で接続することも可能であるが、RF部とベースバンド部との間の接続に複数の同軸線を用いると高コストとなると共に、機構上の取り回しが複雑になるため、製造が困難になる、といった問題があった。
【0009】
さらに特許文献1で開示された技術によれば、低レベルの干渉ノイズ信号を減算する方式であるため、受信信号よりも高いレベルの干渉ノイズ信号には適用できないという問題がある。
【0010】
また、特許文献2で開示された技術におけるノイズ信号等のレプリカ信号を取得する間は対象物の検出が実施できない、という問題がある。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、多ピンコネクタを用いて装置を小型に実現しつつ、受信強度を超過する干渉ノイズ信号を低減し、かつ、該干渉ノイズ信号のレプリカを高速に更新し、物体検出を確実に実施することが可能なパルスレーダ装置及びその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明のパルスレーダ装置の制御方法の第1の態様は、所定周波数の搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出して送信信号を生成する信号切出しステップと、前記送信信号を電波として空間に放射する送信ステップと、前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信ステップと、
受信用制御信号に従って前記受信ステップで受信した受信信号と前記送信信号との相関をとる相関ステップと、前記相関ステップの出力信号をベースバンドにダウンコンバートしてベースバンド信号を出力するダウンコンバートステップと、前記ベースバンド信号を入力してディジタル信号に変換するA/D変換ステップと、前記ディジタル信号を入力して前記ディジタル信号に含まれるノイズ信号のレプリカ信号を作成するレプリカ信号作成処理と前記ディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して前記対象物の情報を検出する対象物情報検出処理のいずれか一方を選択して行うディジタル信号処理ステップと、を有し、前記ディジタル信号処理部で前記対象物情報検出処理を行うときは前記信号切出しステップを第1のパルス繰返し周期で行わせ、前記レプリカ信号作成処理を行うときは前記信号切出しステップを前記第1のパルス繰返し周期より短い第2のパルス繰返し周期で行わせることを特徴する。
【0013】
本発明のパルスレーダ装置の制御方法の他の態様は、前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とし、前記信号切出しステップで前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiを出力せずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号を第i番目のバックグランド信号とするとき、前記ディジタル信号処理ステップで行う前記レプリカ信号作成処理では、前記i番目の送信用制御信号Xiとして前記X1からXmまで順次選択して前記信号切出しステップで前記Xiを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号をそれぞれ第1番目から第m番目の前記バックグランド信号として取得し、さらに前記信号切出しステップで前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号を第(m+1)番目のバックグランド信号として取得し、前記第1番目から第m番目までのバックグランド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグランド信号を減算したものを(m−1)で除することによりレプリカ信号を作成し、前記対象物情報検出処理では、前記信号切出しステップで前記m個の送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して低ノイズ信号を算出し、該低ノイズ信号に基づいて前記対象物情報を検出することを特徴する。
【0014】
本発明のパルスレーダ装置の第1の態様は、所定周波数の搬送波を生成する発振器を有し、前記搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出して送信信号を生成する高周波送信部と、前記高周波送信部から前記送信信号を入力して電波として空間に放射する送信アンテナと、前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナから受信信号を入力して受信用制御信号に従って前記送信信号との相関をとる相関部と、前記相関部からの出力信号をベースバンド信号にダウンコンバートするダウンコンバート部と、を有する高周波受信部と、前記ベースバンド信号を入力してディジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部から前記ディジタル信号を入力して前記ディジタル信号に含まれるノイズ信号のレプリカ信号を作成するレプリカ信号作成処理と前記ディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して前記対象物の情報を検出する対象物情報検出処理のいずれか一方を選択して行うディジタル信号処理部と、前記送信用制御信号を前記高周波送信部に出力するとともに前記受信用制御信号を前記相関部に出力する制御部と、前記ディジタル信号処理部に対して前記対象物情報検出処理と前記レプリカ信号作成処理のいずれか一方を指示するとともに前記高周波送信部で送信信号を生成するパルス繰返し周期を前記制御部に指示するレーダ機能切替部と、を有するベースバンド部と、を備え、前記レーダ機能切替部は、前記パルス繰返し周期として前記ディジタル信号処理部に前記対象物情報検出処理を指示するときは前記制御部に第1のパルス繰返し周期を指示し、前記レプリカ信号作成処理を指示するときは前記制御部に前記第1のパルス繰返し周期より短い第2のパルス繰返し周期を指示することを特徴とする。
【0015】
本発明のパルスレーダ装置の他の態様は、前記ディジタル信号処理部は、前記対象物情報検出処理を行う対象物情報検出部と、前記レプリカ信号作成処理を行うレプリカ信号作成部と、前記レーダ機能切替部からの指示に従って前記対象物情報検出部と前記レプリカ信号作成部のいずれか一方を選択して前記A/D変換部から入力したディジタル信号を出力する選択部と、を有していることを特徴とする。
【0016】
本発明のパルスレーダ装置の他の態様は、前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とし、前記制御部から前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiを出力せずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換部から出力されるディジタル信号を第i番目のバックグランド信号とし、さらに前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換部から出力されるディジタル信号を第(m+1)番目のバックグランド信号とするとき、前記制御部は、前記レーダ機能切替部から前記第2のパルス繰返し周期の指示を入力したときは、前記i番目の送信用制御信号Xiとして前記X1からXmまで順次選択して前記高周波送信部に前記Xiを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力しさらに前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力し、前記レーダ機能切替部から前記第1のパルス繰返し周期の指示を入力したときは、前記高周波送信部に前記m個の送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力し、ディジタル信号処理部は、前記レーダ機能切替部から前記レプリカ信号作成処理の指示を入力したときは、前記A/D変換部から入力したディジタル信号を順次第1番目から第(m+1)番目の前記バックグランド信号として取得し、前記第1番目から第m番目までのバックグランド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグランド信号を減算したものを(m−1)で除することにより前記レプリカ信号を作成し、前記レーダ機能切替部から前記対象物情報検出処理の指示を入力したときは、前記A/D変換部から入力したディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して低ノイズ信号を算出し、該低ノイズ信号に基づいて前記対象物情報を検出することを特徴する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多ピンコネクタを用いて装置を小型に実現しつつ、受信強度を超過する干渉ノイズ信号を低減し、かつ、該干渉ノイズ信号のレプリカを高速に更新し、物体検出を確実に実施することが可能なパルスレーダ装置及びその制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ノイズの影響が無いときの信号の時間波形図である。
【図3】不要波の信号が混入した信号の時間波形図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の制御線及び信号線を拡大して表示した拡大図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の第1ゲート部への制御信号を出力させないときのノイズ信号の時間波形図である。
【図6】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の第2ゲート部への制御信号を出力させないときのノイズ信号の時間波形図である。
【図7】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置の第1ゲート部及び第2ゲート部への制御信号を出力させないときのノイズ信号の時間波形図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るパルスレーダ装置により作成されるレプリカ信号の時間波形図である。
【図9】パルス繰り返し周期を短くしたときのノイズ信号の時間波形図である。
【図10】パルス繰り返し周期を短くしたときのレプリカ信号を除いた信号の時間波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施の形態におけるパルスレーダ装置及びその制御方法について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。本発明のパルスレーダ装置では、送信信号を生成するのにm(m≧2)個の制御信号(以下では送信用制御信号という)を用い、受信信号を処理するのに1以上の制御信号(以下では受信用制御信号という)を用いている。以下では、説明容易のために送信用制御信号を2個(m=2)とし、受信用制御信号を1個として説明するが、これに限定されず、送信用制御信号が3以上あってよく、また受信用制御信号が2以上あってもよい。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施の形態に係るパルスレーダ装置を、図1を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態のパルスレーダ装置100の構成を示すブロック図である。図1において、パルスレーダ装置100は、高周波信号を処理する高周波送信部110及び高周波受信部120と、低周波信号を処理するベースバンド部130と、電波を空間に放射するための送信アンテナ101と、対象物で反射した反射波を受信する受信アンテナ102と、を備えている。以下では、説明容易のため、パルスレーダ装置100で検出する対象物を符号Tで示す。
【0021】
高周波送信部110は、電磁波の送信信号の発生源である所定の高周波信号(搬送波)を発生させる発振器111と、発振器111で生成される高周波信号を所定の時間幅のパルス状の信号(パルス信号)に切出す第1ゲート部112及び第2ゲート部113と、を備えている。第1ゲート部112及び第2ゲート部113は、発振器111から入力する高周波信号を、例えば1[ns]幅のパルス信号に切出す回路であり、逓倍器やスイッチを用いることができる。第1ゲート部112と第2ゲート部113の2つの信号切出し回路を用いることで、シャープに成型されたパルス信号を生成することができる。第2ゲート部113から出力されるパルス状の送信信号は送信アンテナ101に伝送され、送信アンテナ101から電波として空中に放射される。
【0022】
高周波受信部120は、受信アンテナ102で受信された受信信号を入力して送信信号との相関をとる相関器121と、相関器121から出力される信号を発振器111から入力した搬送波でダウンコンバートするIQミキサ122とを備えている。IQミキサ122は、I成分のベースバンド信号にダウンコンバートするための第1ミキサ123、Q成分のベースバンド信号にダウンコンバートするための第2ミキサ124、及び発振器111から入力した搬送波を90度の位相差を付加して第1ミキサ123並びに第2ミキサ124に出力する移相器125を有している。相関器121は、受信信号から測定距離毎の信号を取り出し、これを第1ミキサ123及び第2ミキサ124に出力している。
【0023】
ベースバンド部130は、第1ミキサ123及び第2ミキサ124でダウンコンバートされたベースバンド信号のI成分及びQ成分を入力してディジタル信号に変換するA/D変換部131と、A/D変換部131からのディジタル信号を複素信号処理(複素フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform))して対象物Tの情報を算出するディジタル信号処理部132と、パルスレーダ装置100の動作を制御する制御部133と、記憶部134とを備え、さらにディジタル信号処理部132及び制御部133の動作を切り替えるためのレーダ機能切替部135を備えている。
【0024】
制御部133は、レーダ機能切替部135からの切替指令に従って、高周波部品である第1ゲート部112、第2ゲート部113、及び相関器121のそれぞれの電源をオン/オフ制御している。レーダ機能切替部135からの切替指令に従って、制御部133が第1ゲート部112及び第2ゲート部113の電源をともにオンにしたときに、高周波送信部110から送信信号が出力される。制御部133で生成される制御信号は、例えば1[ns]幅の信号である。
【0025】
本実施形態のパルスレーダ装置100では、本来の対象物情報を検出するための信号処理に加えて、ノイズ信号のレプリカ信号を作成するための信号処理を行っている。対象物情報検出の処理とレプリカ信号作成の処理を行うために、ディジタル信号処理部132には選択部132a、対象物情報検出部132b、及びレプリカ信号作成部132cが設けられている。選択部132aは、レーダ機能切替部135からの切替指令に従って対象物情報検出部132bとレプリカ信号作成部132cのいずれか一方にA/D変換部から入力したディジタル信号を出力する。
【0026】
パルスレーダ装置100では、1つのパルス状の電波を送信アンテナ101から送出し、探知距離内にある対象物で反射されて返ってきたパルスを受信アンテナ102で受信しており、送信から受信までに要した時間から対象物までの距離を算出している。受信するパルスの信号強度は非常に低いため、S/Nを向上させるために数回の受信パルスの信号を積分して用いている。また、対象物が移動しているときは受信パルスにドップラー成分が含まれることから、所定の時間内のデータをFFT処理することで、ドップラー成分を取得して対象物の速度を算出している。FFT処理用のデータを取得する間は、所定のパルス繰返し周期(第1のパルス繰返し周期Tpとする)でパルスを送出し続ける。
【0027】
使用周波数帯域が超広帯域なパルス状の電波を放出するパルスレーダでは、送信平均電力の上限を制限する規定スペクトラムが電波法で設定されている。本実施形態のパルスレーダ装置100では、送信されるパルスの電圧とパルス繰返し周期Tpから決まる送信平均電力が電波法を満たすように設計されている。
【0028】
また、本実施形態のパルスレーダ装置100は、対象物情報の検出処理に加えてレプリカ信号の作成処理も行っている。レプリカ信号の作成処理では、対象物情報の検出処理を行う場合と同様の動作を制御条件を変えて行っており、その間は対象物情報の検出処理を行うことができない。そこで、レプリカ信号の作成にかかる処理時間を短縮することが要求されるが、これを実現するために本実施形態では、レプリカ信号作成処理の間は高周波送信部110で生成される送信信号のパルス繰返し周期(第2のパルス繰返し周期Tzとする)を、対象物情報検出の処理を行うときのパルス繰返し周期Tpよりも短くする(Tz<Tp)。これにより、レーダ機能を損なうことなくレプリカ信号を逐次更新して対象物情報の検出を高精度に行えるようにすることが可能となる。
【0029】
パルスレーダ装置では、放射するパルスの繰返し周期を短くすると送信平均電力が増加し、送信平均電力の規定スペクトラムを超えてしまうおそれがある。しかし、本実施形態のレプリカ信号の作成方法では、後述するように、レプリカ信号を作成する間は高周波送信部110から送信信号が出力されないように第1ゲート部112及び第2ゲート部113を制御している。そのため、レプリカ信号の作成処理の間だけパルスの繰返し周期を短くしても、送信平均電力が規定スペクトラムを超えることはない。
【0030】
一方、パルス繰返し周期を短くするのに伴って、パルスレーダ装置100による最大探知距離も短くなる。一例として、パルス繰返し周期Tpを例えば1[μs]とすると、パルスレーダ装置100による探知距離は最大150[m]となる。これに対し、レプリカ信号作成時のパルス繰返し周期Tzを、例えばTpの半分の0.5[μs]とすると、75[m]の距離までのレプリカ信号しか得られないことになる。しかし、遠距離の対象物に対しては高い精度を必ずしも必要としないことから、遠距離に対するレプリカ信号を不要とすることができる場合には、パルス繰返し周期Tzを短くすることができる。
【0031】
また、レプリカ信号は、後述の図8に示すように、遠方になるほどその振幅も小さくなる傾向がある。そのため、遠距離に対するレプリカ信号を作成しない場合でも、対象物情報の検出精度に大きな影響を与えないと考えられる。例えば、パルス繰返し周期TzをTpの1/4まで短縮すると、37.5[m]までのレプリカ信号しか得られなくなるが、それより遠方に対するレプリカ信号の影響が小さいと判断できるときは、37.5[m]より遠方に対しては受信信号からレプリカ信号を減算しないようにすることができる。
【0032】
本実施形態のパルスレーダ装置100において、対象物情報を検出するための制御方法を以下に説明する。パルスレーダ装置100では、高周波送信部110において例えばパルス幅1[ns]のパルス信号が所定のパルス繰返し周期Tpで生成され、これが送信信号として送信アンテナ101から放射される。パルス繰返し周期Tpを例えば1[μs]とすると、パルスレーダ装置100による探知距離は最大150mとなる。また、受信アンテナ102で受信された受信信号は、高周波受信部120でベースバンド信号にダウンコンバートされてベースバンド部130に出力される。ベースバンド部130では、ベースバンド信号がA/D変換部131でディジタル信号に変換された後、ディジタル信号処理部132に入力される。
【0033】
パルスレーダ装置100は、所定の探知距離範囲内の対象物情報を検出するために、パルス繰返し周期Tpで送信信号を複数放射し、それぞれの反射波である受信信号を処理して探知距離範囲内の全距離データを取得している。そして、この全距離データからディジタル信号処理部132で対象物情報を検出している。探知距離範囲内の全距離データを取得する方法として、例えば等価サンプリングの方法を用いることができる。
【0034】
上記のように構成された本実施形態のパルスレーダ装置100では、高周波送信部110及び高周波受信部120を構成する各部品が数十GHz帯の周波数で動作するのに対し、ベースバンド部130を構成する各部品は高々2GHz程度の周波数で動作する。このように、高周波送信部110及び高周波受信部120の動作周波数とベースバンド部130の動作周波数とが大きく異なることから、それぞれの周波数帯用に設計された別の基板上に形成するのが好ましい。本実施形態では、高周波送信部110及び高周波受信部120を高周波用基板103上に形成し、ベースバンド部130を低周波用基板104上に形成している。また、高周波信号を送受信する送信アンテナ101及び受信アンテナ102についても、高周波用基板103上に配置している。
【0035】
高周波用に用いる基板は低周波用の基板に比べて高価であることから、本実施形態では高価な高周波用基板103上に高周波送信部110、高周波受信部120、送信アンテナ101、及び受信アンテナ102のみを配置し、低周波信号を処理するベースバンド部130については、低価格な低周波用基板104上に配置している。これにより、パルスレーダ装置100のコスト低減を図ることができる。
【0036】
上記説明のように、パルスレーダ装置100の各部品を高周波用基板103と低周波用基板104に分けて配置するには、高周波用基板103上の部品と低周波用基板104上の部品とを電気的に接続する手段が必要となる。本実施形態のパルスレーダ装置100では、従来より用いられている低価格で小型の多ピンのコネクタ105を用いることができる。低周波用基板104上の制御部133から出力される制御信号は、コネクタ105を経由して高周波用基板103上の高周波送信部110及び高周波受信部120に伝送され、高周波用基板103上の高周波受信部120から出力されるベースバンド信号は、コネクタ105を経由して低周波用基板104上のベースバンド部130に伝送される。
【0037】
このように、高周波用基板103と低周波用基板104との間で、従来の多ピンのコネクタ105を用いて制御信号とベースバンド信号の受け渡しを行うと、対象物Tの情報を有する信号強度の低いベースバンド信号に制御信号からの干渉ノイズ信号が混入してしまう。また、発振器111から出力された搬送波が、IQミキサ122を通過して相関器121で反射され、再びIQミキサ122でダウンコンバートされて生じるセルフミキシングノイズもベースバンド信号に混入する。特に、対象物Tが遠方にある場合には、それからの反射信号の振幅レベルが小さくなるため、上記の干渉ノイズ信号やセルフミキシングノイズに隠れてしまうおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態のパルスレーダ装置100では、コネクタ105を通過するベースバンド信号に混入されるノイズ等の不要波のレプリカ信号を作成し、対象物Tの検出時にベースバンド信号から該レプリカ信号を除去するようにしている。このような干渉ノイズ信号やセルフミキシングノイズ等の不要波は、例えば周辺温度が変化したり振動等が加わることで変化してしまうことが考えられる。そのため、不要波のレプリカ信号を逐次更新して用いるようにするのが好ましく、例えば定期的に更新するようにするのがよい。
【0039】
不要波のレプリカ信号の一例を、図2、3を用いて説明する。図2は、高周波送信部110で生成されたパルス信号を送信アンテナ101から放射し、対象物Tで反射された反射波を受信アンテナ102で受信してディジタル信号処理部132で処理した信号10の一例を示す時間波形図である(なお、横軸は時間に対応した距離を表している。以下、図3、図5〜9においても同様とする。)。同図に示す信号10の波形は、ノイズの影響を受けていないときの波形である。また、図3は、図2に示す信号10に上記の不要波の信号が混入したときの時間波形図を示す。符号11の信号は、コネクタ105でベースバンド信号に混入する干渉ノイズ信号を模式的に示したものであり、符号12の信号は、セルフミキシングノイズを模式的に示したものである。
【0040】
本実施形態では、図3に示す干渉ノイズ信号11とセルフミキシング信号12を合わせた不要波のレプリカ信号を適宜作成し、これを記憶部134に保存する。そして、パルスレーダ装置100を動作させて対象物Tを検出するときは、コネクタ105を経由してベースバンド部130に入力され、ディジタル信号処理部132で処理された信号から上記のレプリカ信号を差し引くことで、図2に示すような信号(低ノイズ信号)を取得する。
【0041】
図1において、制御部133から第1ゲート部112に出力される制御信号(第1制御信号)及びそれを伝送する制御線(第1制御線)をそれぞれA、aとし、制御部133から第2ゲート部113に出力される制御信号(第2制御信号)及びそれを伝送する制御線(第2制御線)をそれぞれB、bとし、制御部133から相関器121に出力される制御信号(第3制御信号)及びそれを伝送する制御線(第3制御線)をそれぞれC、cとする。制御信号A、Bは、それぞれ第1ゲート部112、第2ゲート部113の電源をオン/オフ制御し、制御信号Cは相関器121の電源をオン/オフ制御している。ここでは、送信用制御信号を第1制御信号と第2制御信号の2つとし、受信用制御信号を第3制御信号の1つとしている。本発明のパルスレーダ装置及びその制御方法は、送信用制御信号及び受信用制御信号の数が上記のものに限定されるものではなく、それぞれにさらに多くの制御信号があってもよい。
【0042】
また、IQミキサ122の第1ミキサ123からA/D変換部131に出力されるベースバンド信号(I成分)及びそれを伝送する信号線をそれぞれD、dとし、第2ミキサ124からA/D変換部131に出力されるベースバンド信号(Q成分)及びそれを伝送する信号線をそれぞれE、eとする。上記の制御線a、b、c、及び信号線d、eは、いずれもコネクタ105の異なるピンを経由している。
【0043】
以下では、パルスレーダ装置100により対象物情報を検出するときの動作について、図1を用いてさらに詳細に説明する。対象物情報検出の処理を行うときは、まずレーダ機能切替部135から制御部133及びディジタル信号処理部132の選択部132aに、対象物情報検出を指示する切替指令が送信される。制御部133は、レーダ機能切替部135から対象物情報検出を指示する切替指令を入力すると、制御線a、bを介して適切なタイミングで制御信号A、Bを第1ゲート部112及び第2ゲート部113に出力する。制御信号A、Bにより第1ゲート部112及び第2ゲート部113の電源が略1[ns]の間投入されると、発振器111で生成された搬送波が1[ns]のパルス幅に切り出される。これにより、所定周波数の搬送波による1[ns]幅パルスの送信信号が生成され、これが送信アンテナ101に送出されて電波として空中に放射される。放射された電波は、距離Lだけ離れた位置にある対象物Tで反射され、受信アンテナ102で受信される。
【0044】
また、レーダ機能切替部135からの切替指令により制御部133から制御線cを介して所定のタイミングで相関器121に制御信号Cが出力されると、相関器121の電源が投入されて受信アンテナ102で受信された受信信号と送信信号との相関がとられる。相関器121から出力される信号は、IQミキサ122で複素ベースバンド信号にダウンコンバートされる。第1ミキサ123及び第2ミキサ124でダウンコンバートされたそれぞれのベースバンド信号D、Eは、信号線d、eを介してベースバンド部130のA/D変換部131に入力され、ここでディジタル信号に変換される。
【0045】
A/D変換部131で変換されたディジタル信号は、ディジタル信号処理部132の選択部132aに入力され、レーダ機能切替部135からの切替指令に従ってディジタル信号を対象物情報検出部132bに出力する。対象物情報検出部132bでは、選択部132aから入力したディジタル信号をもとに、複素信号処理を行って対象物Tに係る位置情報や相対速度情報等の対象物情報を算出する。
【0046】
図1に示す制御線a、b、c、及び信号線d、eは、高周波用基板103と低周波用基板104との間をコネクタ105で接続されている。コネクタ105の各ピン(端子)はむき出しの状態にあるため、各端子を流れる信号は微小なレベルではあるが、他の端子に回り込んで干渉してしまう。制御線a、b、cを流れる制御信号A、B、Cは、RF部品(第1ゲート部112、第2ゲート部113、相関器121)をオン/オフ駆動するための信号であり、例えば2〜3[V]程度の信号強度を有している。これに対し、信号線d、eを流れるベースバンド信号D、Eは、対象物Tから反射してきた強度の低い信号をダウンコンバートした信号であり、非常に強度の低い信号である。そのため、制御信号A、B、Cはベースバンド信号D、Eに比べて相対的に非常に高い強度の信号となっており、コネクタ105において制御線a、b、cから信号線d、eに制御信号A、B、Cが漏れ込んでしまう。
【0047】
パルスレーダ装置100における上記の各制御線及び信号線を拡大して図4に示す。同図では、コネクタ105において、制御線a、b、cから信号線d、eに回り込む信号を、それぞれ干渉ノイズ信号α、β、γとしている。干渉ノイズ信号α、β、γは、信号線d、eを通過するベースバンド信号D、Eとほぼ同等の強度を有する信号となる。図4では、発振器111から出力されてIQミキサ122を通過し、相関器121で反射されて再びIQミキサ122でダウンコンバートされるセルフミキシングノイズを、符号δで示している。このセルフミキシングノイズδも、ベースバンド信号D、Eに混入する。ここで、干渉ノイズ信号α、β、γがベースバンド信号D、Eと合成されるが、その信号強度は、A/D変換部131で飽和しないレベルなるように、つまり各制御信号とベースバンド信号とが出来るだけアイソレーションが取れるように多ピンコネクタを流れる信号の配置は考慮している。
【0048】
本実施形態のパルスレーダ装置100では、ベースバンド信号D、Eに混入する上記の各ノイズを含む不要波のレプリカ信号を適宜作成して更新するために、パルスレーダ装置100の使用開始時や使用中に逐次、制御線a、b、cを介して第1ゲート部112、第2ゲート部113、及び相関器121を適当なタイミングで動作させる。そして、得られた不要波のレプリカ信号を記憶部134に記憶しておき、対象物Tの検出時に、受信信号をダウンコンバートしたベースバンド信号D、Eからレプリカ信号を差し引くことで各ノイズを除去する。
【0049】
以下では、図5〜8を用いて不要波のレプリカ信号の作成方法について説明する。図5〜8は、本実施形態のパルスレーダ装置の制御方法により取得されるノイズ信号及びレプリカ信号の一例を示す図である。不要波のレプリカ信号を作成するにあたっては、送信アンテナ101から送信電波を空中に放射してしまうと、何らかの対象物で送信電波が反射されて受信アンテナ102で受信されてしまうおそれがある。このような反射波を受信してしまうと、不要波のみのレプリカ信号を作成することができなくなる。そこで、不要波のレプリカ信号を作成するときは、送信アンテナ101から送信電波が放射されないようにしている。
【0050】
レプリカ信号を作成するときは、レーダ機能切替部135から制御部133及びディジタル信号処理部132の選択部132aにレプリカ信号作成への切替指令が送信される。また、制御部133に対しては、まず第1段階のレプリカ信号作成を指示する信号がレーダ機能切替部135から出力される。これにより、制御部133は、第1段階のレプリカ信号作成として、制御線b、cに制御信号B、Cを流しつつ、制御線aを流れる制御信号Aの出力を停止させてレーダを動作させる。パルスレーダ装置100では、第1ゲート部112と第2ゲート部113がともに電源オンにされたときのみパルス信号が送信アンテナ101に出力される。そのため、レーダを動作させたときに制御信号Aが第1ゲート部112に出力されないと、パルス信号が送信アンテナ101に出力されない。これにより、受信アンテナ102も反射波を受信することはない。
【0051】
その結果、ディジタル信号処理部132には、制御信号B、Cが信号線d、eに混入したそれぞれの干渉ノイズ信号β、γと、セルフミキシングノイズδを合成したノイズ信号(β+γ+δ)が入力され、選択部132aの選択によりこれがレプリカ信号作成部132cに出力される。レプリカ信号作成部132cは、ノイズ信号(β+γ+δ)を信号処理して図5に例示するようなノイズ信号を取得する。図5は、ノイズ信号(β+γ+δ)の時間波形の一例を示す図である。レプリカ信号作成部132cで処理して得られたノイズ信号(β+γ+δ)は、第1バックグラウンド信号として記憶部134に保存される。
【0052】
第1段階のレプリカ信号作成が終了すると、次にレーダ機能切替部135から制御部133に対して第2段階のレプリカ信号作成を指示する信号が出力される。制御部133は、第2段階のレプリカ信号作成として、制御線a、cに制御信号A、Cを流しつつ、制御線bを流れる制御信号Bの出力を停止させてレーダを動作させる。この場合、第1ゲート部112のみが電源オンにされ、第2ゲート部113は電源オンされないことから、やはりパルス信号が送信アンテナ101に出力されない。これにより、受信アンテナ102も反射波を受信することはない。
【0053】
その結果、ディジタル信号処理部132には、制御信号A、Cが信号線d、eに混入したそれぞれ干渉ノイズ信号α、γと、セルフミキシングノイズδを合成したノイズ信号(α+γ+δ)が入力され、選択部132aの選択によりこれがレプリカ信号作成部132cに出力される。レプリカ信号作成部132cは、ノイズ信号(α+γ+δ)を信号処理して図6に例示するようなノイズ信号を取得する。図6は、ノイズ信号(α+γ+δ)の時間波形の一例を示す図である。レプリカ信号作成部132cで処理して得られたノイズ信号(α+γ+δ)は、第2バックグラウンド信号として記憶部134に保存されているノイズ信号(β+γ+δ)に加算される。
【0054】
第2段階のレプリカ信号作成が終了すると、レーダ機能切替部135はさらに制御部133に対して第3段階のレプリカ信号作成を指示する信号を出力する。制御部133は、第3段階のレプリカ信号作成として、制御線cに制御信号Cを流しつつ、制御線a、bを流れる制御信号A、Bの両方とも出力停止させてレーダを動作させる。この場合も、パルス信号が送信アンテナ101に出力されない。これにより、受信アンテナ102も反射波を受信することはない。
【0055】
その結果、ディジタル信号処理部132には、制御信号Cが信号線d、eに混入した干渉ノイズ信号γと、セルフミキシングノイズδを合成したノイズ信号(γ+δ)が入力され、選択部132aの選択によりこれがレプリカ信号作成部132cに出力される。レプリカ信号作成部132cは、ノイズ信号(γ+δ)を信号処理される。これにより、図7に例示するようなノイズ信号を取得する。図7は、ノイズ信号(γ+δ)の時間波形の一例を示す図を示す。レプリカ信号作成部132cで処理して得られたノイズ信号(γ+δ)は、第3バックグラウンド信号として記憶部134に保存されているノイズ信号から減算される。
【0056】
上記のように、第1バックグラウンド信号のノイズ信号(β+γ+δ)に第2バックグラウンド信号のノイズ信号(α+γ+δ)を加算し、これから第3バックグラウンド信号のノイズ信号(γ+δ)を減算することで、次式のように、全ての不要波を合せたノイズ信号が算出される。
(β+γ+δ)+(α+γ+δ)−(γ+δ)= α+β+γ+δ
上記のようにして、記憶部134には干渉ノイズ信号α、β、γ、及びセルフミキシングノイズδを合成したノイズ信号のレプリカ信号(α+β+γ+δ)が保存される。レプリカ信号(α+β+γ+δ)の時間波形は、図5の時間波形と図6の時間波形を加算し、これから図7の時間波形を減算することで得られる。この場合のレプリカ信号(α+β+γ+δ)の時間波形を図8に示す。
【0057】
上記で説明したように、不要波のレプリカ信号を作成するには、通常の対象物情報検出と同様のレーダ動作を3回行う必要がある。送信用制御信号がm個あるときは、不要波のレプリカ信号を作成するためのレーダ動作を(m+1)回行う必要がある。1回の対象物情報検出の処理、あるいは1つのバックグラウンド信号を取得する処理において測定距離の異なる距離データあるいは距離データ毎ノイズ信号をNr組取得するとし、単位サンプリング処理部132aで1組の距離データあるいは距離データ毎ノイズ信号を取得するのに要する時間を単位サンプリング時間Tuとするとき、1回の対象物情報検出の処理あるいは1つのバックグラウンド信号の取得に要する時間(第1の期間Tsとする)は、Tu×Nrとなる。一例として、単位サンプリング時間Tuを4[ms]とし、距離データの組数Nrを20とすると、対象物情報検出の処理に必要となる時間Tsは、4[ms]×20=80[ms]となる。
【0058】
また、不要波のレプリカ信号を作成するには、距離データ毎ノイズ信号の取得をNr×3回行う必要があり、対象物情報検出の処理に要する時間Tsの3倍に相当する80[ms]×3=240[ms](=Trとする)の時間がかかる。この間は、対象物情報検出の処理を行うことができなくなることから、レプリカ信号の作成を逐次行うと対象物情報を適切に検出できなくなり、レーダ機能を大きく損なってしまう。
そこで、本実施形態のパルスレーダ装置100では、レプリカ信号作成の処理を行う間は高周波送信部110で送信信号を生成するパルス繰返し周期Tzを、対象物情報検出の処理を行うときのパルス繰返し周期Tpよりも短くしており、これにより対象物情報の検索処理に与える影響をできるだけ低減している。
【0059】
例えば、周期Tz=1/2×Tpと、パルス繰返し周期を半分で実行することで、単位サンプリング時間Tuが2[ms]となるので、上記240[ms]かかっていたレプリカ信号を生成する時間が半分のTr=120[ms]ですむようになる。つまり、TzをTpの1/N倍にすれば、レプリカ信号を生成する時間Trは1/Nになる。ただし、周期Tzが短くなると、生成できるレプリカ信号の距離情報が短縮され、より遠い場所のレプリカ信号を生成できなくなる。しかし、遠距離の対象物に対しては高い精度を必ずしも必要としないことから、遠距離に対するレプリカ信号を不要とすることができる場合には問題にならない。
【0060】
また、レプリカ信号の更新は、レーダの開始時や定期的な時間で行うのが望ましいが、対象物情報の更新周期Tcとしたとき、例えばTcを100[ms]とし、周期Tz=1/4×Tpとすると、上記Trが60[ms]ですむが、更新周期Tcが100[ms]に対しTrが60[ms]と、レーダとして機能しなくなる時間が長いと思われる場合は、レプリカ生成を部分的に生成するようにし、レプリカ更新において一回当たりのレプリカ生成時間を短くしても良い。一例として、レプリカ生成を3段階に分け、一回辺りのレプリカ生成時間Tr=60[ms]/3=20[ms]とすると、レーダとしての機能を大幅に損なうことは無くなる。
【0061】
一例として、パルス繰り返し周期TplsをTpからTz(<Tp)に短くしたときに得られる探知距離及びレプリカ信号の情報を、図9、10を用いて説明する。パルス繰り返し周期を短くすると探知距離が短くなることから、レプリカ信号の情報も短くなった探知距離に相当する部分しか得られない。その結果、図5〜8に示したレプリカ信号の情報は、図9(a)〜(d)に示すように、セルフミキシングノイズδの一部までしか得られない。
この場合、図10(a)に示すように、遠方で干渉信号が残ってしまい、ここに対象物からの反射波があった場合検出しにくくなる。しかしながら、このような場合は、レーダーに対し相対速度が無い状態、つまり一定の距離をずっと保ちながらいる対象物なので、危険の対象物ではない。また、その距離にある対象物の相対速度の検出が行われる場合、例えば図10(b)に示すような近づく対象物に対しては、干渉信号とは分離されて検出できるので、特に問題は無い。
【0062】
なお、本実施形態のディジタル信号処理部132の処理では、相対速度を算出するため に、入力信号に対して複素信号処理(FFT処理)を行って対象物のドップラー成分を算出している。上記説明のパルスレーダ装置100内で生じるノイズ信号はいずれも定常的なノイズであることから、ノイズ信号α、β、γ、δにはいずれもドップラー成分が含まれておらず、相対速度0に相当する0[Hz]成分のみである。
【0063】
これより、ディジタル信号処理部132の処理で得られる第1〜第3バックグランド信号は、相対速度0に相当する0[Hz]成分のノイズ信号のみであり、レプリカ信号(α+β+γ+δ)のフーリエ変換データも、相対速度0に相当する0[Hz]成分のみである。従って、A/D変換部131から入力した信号を複素信号処理して得られる0[Hz]成分に対してのみレプリカ信号(α+β+γ+δ)を減算してもよい。
【0064】
また、対象物の相対速度を測定する必要がない場合には、ディジタル信号処理部132では上記FFT処理を行う必要はなく、各距離ゲート内に対象物の信号が検出されるかどうかだけを判断させてもよい。さらに、対象物の相対速度を測定する必要がない場合であっても、S/N比改善のためにディジタル信号処理部132で上記FFT処理を行い、各距離ゲート内に対象物の信号が検出されるかどうかだけを判断させてもよい。これらの場合にも、制御部133から制御信号A、B、Cが出力された場合に得られる各距離ゲートのデータから、レプリカ信号(α+β+γ+δ)の対応する距離ゲートのデータを差し引くことによって低ノイズ信号が得られるので、これに基づいて対象物の検出を確実に行うことができる。
【0065】
上記説明のように、本発明のパルスレーダ装置によれば、ノイズ信号のレプリカ信号を短時間に作成することができ、対象物情報の検出処理に与える影響を低減して高精度に対象物情報を検出することができる。
【0066】
上記実施形態のパルスレーダ装置では、送受信アンテナとも1つずつ有しているが、これに限定されるものではない。例えば、位相モノパルス方式で位相角を測定するパルスレーダ装置では、受信アンテナを2つ備える必要があるが、このようなパルスレーダ装置においても同様にしてノイズ信号のレプリカ信号を作成し、これを受信信号から除去することができる。
【0067】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係るパルスレーダ装置及びその制御方法の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態におけるパルスレーダ装置及びその制御方法の細部構成及び詳細な動作などに関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0068】
100 パルスレーダ装置
101 送信アンテナ
102 受信アンテナ
103 高周波用基板
104 低周波用基板
105 コネクタ
110 高周波送信部
111 発振器
112 第1ゲート部
113 第2ゲート部
120 高周波受信部
121 相関器
122 IQミキサ
123 第1ミキサ
124 第2ミキサ
125 移相器
130 ベースバンド部
131 A/D変換部
132 ディジタル信号処理部
132a 選択部
132b 対象物情報検出部
132c レプリカ信号作成部
133 制御部
134 記憶部
135 レーダ機能切替部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周波数の搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出して送信信号を生成する信号切出しステップと、
前記送信信号を電波として空間に放射する送信ステップと、
前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信ステップと、
受信用制御信号に従って前記受信ステップで受信した受信信号と前記送信信号との相関をとる相関ステップと、
前記相関ステップの出力信号をベースバンドにダウンコンバートしてベースバンド信号を出力するダウンコンバートステップと、
前記ベースバンド信号を入力してディジタル信号に変換するA/D変換ステップと、
前記ディジタル信号を入力して前記ディジタル信号に含まれるノイズ信号のレプリカ信号を作成するレプリカ信号作成処理と前記ディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して前記対象物の情報を検出する対象物情報検出処理のいずれか一方を選択して行うディジタル信号処理ステップと、を有し、
前記ディジタル信号処理部で前記対象物情報検出処理を行うときは前記信号切出しステップを第1のパルス繰返し周期で行わせ、前記レプリカ信号作成処理を行うときは前記信号切出しステップを前記第1のパルス繰返し周期より短い第2のパルス繰返し周期で行わせる
ことを特徴するパルスレーダ装置の制御方法。
【請求項2】
前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とし、前記信号切出しステップで前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiを出力せずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号を第i番目のバックグランド信号とするとき、
前記ディジタル信号処理ステップで行う前記レプリカ信号作成処理では、
前記i番目の送信用制御信号Xiとして前記X1からXmまで順次選択して前記信号切出しステップで前記Xiを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号をそれぞれ第1番目から第m番目の前記バックグランド信号として取得し、さらに前記信号切出しステップで前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号を第(m+1)番目のバックグランド信号として取得し、前記第1番目から第m番目までのバックグランド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグランド信号を減算したものを(m−1)で除することによりレプリカ信号を作成し、
前記対象物情報検出処理では、
前記信号切出しステップで前記m個の送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換ステップで得られるディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して低ノイズ信号を算出し、該低ノイズ信号に基づいて前記対象物情報を検出する
ことを特徴する請求項1に記載のパルスレーダ装置の制御方法。
【請求項3】
所定周波数の搬送波を生成する発振器を有し、前記搬送波を2以上の送信用制御信号に従ってパルス状に切出して送信信号を生成する高周波送信部と、
前記高周波送信部から前記送信信号を入力して電波として空間に放射する送信アンテナと、
前記電波が対象物で反射された反射波を受信する受信アンテナと、
前記受信アンテナから受信信号を入力して受信用制御信号に従って前記送信信号との相関をとる相関部と、前記相関部からの出力信号をベースバンド信号にダウンコンバートするダウンコンバート部と、を有する高周波受信部と、
前記ベースバンド信号を入力してディジタル信号に変換するA/D変換部と、前記A/D変換部から前記ディジタル信号を入力して前記ディジタル信号に含まれるノイズ信号のレプリカ信号を作成するレプリカ信号作成処理と前記ディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して前記対象物の情報を検出する対象物情報検出処理のいずれか一方を選択して行うディジタル信号処理部と、前記送信用制御信号を前記高周波送信部に出力するとともに前記受信用制御信号を前記相関部に出力する制御部と、前記ディジタル信号処理部に対して前記対象物情報検出処理と前記レプリカ信号作成処理のいずれか一方を指示するとともに前記高周波送信部で送信信号を生成するパルス繰返し周期を前記制御部に指示するレーダ機能切替部と、を有するベースバンド部と、を備え、
前記レーダ機能切替部は、前記パルス繰返し周期として前記ディジタル信号処理部に前記対象物情報検出処理を指示するときは前記制御部に第1のパルス繰返し周期を指示し、前記レプリカ信号作成処理を指示するときは前記制御部に前記第1のパルス繰返し周期より短い第2のパルス繰返し周期を指示する
ことを特徴とするパルスレーダ装置。
【請求項4】
前記ディジタル信号処理部は、
前記対象物情報検出処理を行う対象物情報検出部と、前記レプリカ信号作成処理を行うレプリカ信号作成部と、前記レーダ機能切替部からの指示に従って前記対象物情報検出部と前記レプリカ信号作成部のいずれか一方を選択して前記A/D変換部から入力したディジタル信号を出力する選択部と、を有している
ことを特徴とする請求項3に記載のパルスレーダ装置。
【請求項5】
前記送信用制御信号をX1〜Xm(m≧2)とし、前記制御部から前記送信用制御信号のうちi番目の送信用制御信号Xiを出力せずこれを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換部から出力されるディジタル信号を第i番目のバックグランド信号とし、さらに前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力したときに前記A/D変換部から出力されるディジタル信号を第(m+1)番目のバックグランド信号とするとき、
前記制御部は、
前記レーダ機能切替部から前記第2のパルス繰返し周期の指示を入力したときは、前記i番目の送信用制御信号Xiとして前記X1からXmまで順次選択して前記高周波送信部に前記Xiを除く前記送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力しさらに前記m個の送信用制御信号のすべてを出力せず前記受信用制御信号を出力し、
前記レーダ機能切替部から前記第1のパルス繰返し周期の指示を入力したときは、前記高周波送信部に前記m個の送信用制御信号及び前記受信用制御信号を出力し、
ディジタル信号処理部は、
前記レーダ機能切替部から前記レプリカ信号作成処理の指示を入力したときは、前記A/D変換部から入力したディジタル信号を順次第1番目から第(m+1)番目の前記バックグランド信号として取得し、前記第1番目から第m番目までのバックグランド信号を加算して前記第(m+1)番目のバックグランド信号を減算したものを(m−1)で除することにより前記レプリカ信号を作成し、
前記レーダ機能切替部から前記対象物情報検出処理の指示を入力したときは、前記A/D変換部から入力したディジタル信号から前記レプリカ信号を減算して低ノイズ信号を算出し、該低ノイズ信号に基づいて前記対象物情報を検出する
ことを特徴する請求項3または4に記載のパルスレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−202949(P2012−202949A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70482(P2011−70482)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河AS株式会社 (571)
【Fターム(参考)】