説明

パルス圧縮装置、レーダ装置、パルス圧縮方法、およびパルス圧縮プログラム

【課題】SN比を劣化させることなくレンジサイドローブを抑制する信号処理装置を提供する。
【解決手段】フーリエ変換部141は、入力された時間軸上の送信信号を周波数軸上の信号に変換し、送信信号のスペクトルを出力する。フーリエ変換部142は、入力された時間軸上の所望信号を周波数軸上の信号に変換し、所望信号のスペクトルを出力する。所望信号は、自乗され、自己相関スペクトル(パワースペクトル)に変換される。除算器145は、乗算器144の出力する所望信号の自己相関スペクトルを、フーリエ変換部141の出力信号である送信信号スペクトルで除算する。この除算後の信号を参照信号スペクトルとし、逆フーリエ変換部146で時間軸上の信号に変換する。この時間軸上の参照信号をFIRフィルタ147のフィルタ係数とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、受信信号のパルス圧縮を行うパルス圧縮装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダ装置等においては、距離方向の分解能を向上させるために受信信号のパルス圧縮を行うものがある(特許文献1を参照)。パルス圧縮は、リニアFM等の方式で周波数変調された送信信号を参照信号として、受信信号と参照信号との相関を求めることで、高レベルの狭いパルス幅と同等の受信信号を得るものである。パルス圧縮では、レンジサイドローブを抑えるために、ガウス関数等の窓関数を掛けた信号を用いる場合や、非直線状に周波数を変化させるノン・リニアFMチャープ方式を用いる場合等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−249398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、窓関数を掛けると、パルス幅を短くしたことと等価になり、SN比が劣化する。一方、ノン・リニアFMチャープ方式ではSN比の劣化はないが、依然としてレンジサイドローブは高く(−40dB程度にとどまる。)、これ以上の目標レベルには達しないという課題がある。
【0005】
そこで、この発明は、SN比を劣化させることなくレンジサイドローブを目標レベルにまで抑制するパルス圧縮装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のパルス圧縮装置は、信号入力部、信号生成部、およびパルス圧縮部を備えている。信号入力部は、送信信号に対する受信信号を入力する。信号生成部は、送信信号をキャンセルする成分を含む信号を生成する。パルス圧縮部は、送信信号をキャンセルする成分を含む信号と受信信号の相関を求め、前記受信信号のパルス圧縮を行う。
【0007】
この様にして相関を求めると、受信信号のうち送信信号の成分はキャンセルされることになる。例えば、信号生成部の生成する信号が、基準となる信号(所望信号)の自己相関に基づいて生成された信号であるとすると、所望信号の自己相関結果が出力されることになる。したがって、受信信号は、所望信号によってパルス圧縮されることになる。
【0008】
これにより、周波数変調された送信信号、特に、SN比を劣化させることのない送信信号(例えばノン・リニアFMチャープ方式)を用いた場合であっても、レンジサイドローブを目標レベルにまで抑制するパルス圧縮を実現することができる。
【0009】
また、本発明のパルス圧縮装置は、窓関数を掛けた所望信号を用いることで、パルス圧縮の結果を窓関数の特性に応じた多種多様な特性に制御することができる。
【0010】
なお、上述の様な参照信号は、具体的には以下の様にして生成することができる。
【0011】
(1)所望信号の自己相関スペクトルを送信信号のスペクトルで除算し、逆フーリエ変換する。
【0012】
(2)所望信号のスペクトルの振幅成分を、送信信号のスペクトルの振幅成分で除算した後に自乗し、送信信号の複素共役成分を乗算し、逆フーリエ変換する。
【0013】
(3)所望信号の自己相関スペクトルの振幅成分を、送信信号の自己相関スペクトルの振幅成分で除算し、送信信号の複素共役成分を乗算し、逆フーリエ変換する。
【発明の効果】
【0014】
この発明の信号処理装置によれば、SN比を劣化させることなくレンジサイドローブを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態のレーダ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】パルス圧縮部の構成を示すブロック図である。
【図3】同図(A)はリニアFMチャープ方式の周波数変化を示す図であり、同図(B)はノン・リニアFMチャープ方式の周波数変化を示す図である。
【図4】同図(A)はリニアFMチャープ方式の自己相関結果を示す図であり、同図(B)はノン・リニアFMチャープ方式の自己相関結果を示す図である。
【図5】パルス圧縮部の構成の他の例を示した図である。
【図6】パルス圧縮部の構成のさらに他の例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明のパルス圧縮装置(パルス圧縮部)を内蔵したレーダ装置の構成を示すブロック図である。レーダ装置は、例えば船舶に設置され、自船の周囲に電磁波を送受信し、他船等の物標を探知する装置である。本実施形態においては、レーダ装置について説明するが、本発明のパルス圧縮装置は、魚群探知機等、パルス状の信号を送受信する他の装置にも適用可能である。
【0017】
同図において、レーダ装置は、アンテナ11、送信部12、切替部13、パルス圧縮部14、および表示処理部15を備えている。
【0018】
送信部12は、半導体等の発振素子を有し、所定のタイミングでパルス状の送信信号を出力する。送信信号は、周波数変調された信号であり、例えば、図3(A)に示すように、時間経過とともに直線上に周波数が変化するリニアFMチャープ方式のパルス状信号や、図3(B)に示すように、ガウス窓関数に従って周波数が変化するノン・リニアFMチャープ方式のパルス状信号を用いる。なお、送信信号は、ドップラーシフトの影響を抑えるために、余弦成分による振幅重み付けを行ってもよい。
【0019】
送信部12から出力された送信信号は、切替部13を介してアンテナ11に伝送される。アンテナ11は、自船の周囲(所定領域)に送信信号を発射し、物標で反射したエコー信号を受信する。受信したエコー信号は、切替部13を介してパルス圧縮部14に出力される。なお、エコー信号は、A/D変換器(不図示)により、アンテナ11の受信強度に応じたデジタル信号(受信信号)に変換されて出力される。
【0020】
パルス圧縮部14は、受信信号と所定の参照信号との相関を求め、受信信号をパルス圧縮する。パルス圧縮された受信信号は、表示処理部15に出力され、受信信号のレベルや送信からの時間差に応じたレーダ画像として表示される。
【0021】
図2は、パルス圧縮部14の構成の一例を示した図である。パルス圧縮部14は、フーリエ変換部141、フーリエ変換部142、複素共役部143、乗算器144、除算器145、逆フーリエ変換部146、およびFIRフィルタ147を備えている。
【0022】
FIRフィルタ147は、受信信号のパルス圧縮を行う構成部である。従来のパルス圧縮では、FIRフィルタ147のフィルタ係数として送信信号を設定し、マッチドフィルタを実現することでパルス圧縮を行っていたが、本実施形態では、以下のようにしてフィルタ係数を設定し、パルス圧縮を行う。
【0023】
まず、フーリエ変換部141には、送信信号が入力される。送信信号は、上述した様に、リニアFMチャープ方式やノン・リニアFMチャープ方式のパルス状信号を用いる。この例では、ノン・リニアFMチャープ方式のパルス状信号を用いるものとして説明する。フーリエ変換部141は、入力された時間軸上の送信信号を周波数軸上の信号に変換し、送信信号のスペクトルを出力する。
【0024】
一方、フーリエ変換部142には、基準となる信号として自己相関結果(パルス圧縮結果)のレンジサイドローブが目標レベルとなる所望信号が入力される。例えば、目標レベルを−60dBとする場合、図3(A)に示すようなリニアFMチャープ方式のパルス状信号にガウス窓関数に従った振幅重み付けを行ったもの(図3(C)を参照)を用いる。図4(A)に示すように、ガウス窓関数に従った振幅重み付けを行ったリニアFMチャープ方式のパルス状信号は、自己相関結果のレンジサイドローブが−60dB未満の目標レベルを満たす信号である。
【0025】
フーリエ変換部142は、上記の様な所望信号(時間軸上の信号)を周波数軸上の信号に変換し、所望信号のスペクトルを出力する。
【0026】
フーリエ変換部142から出力された所望信号スペクトルは、複素共役部143および乗算器144に入力される。所望信号スペクトルは、乗算器144で複素共役部143の出力信号(所望信号の複素共役)と乗算される。これにより、所望信号は、自己相関スペクトルに変換されることになり、周波数軸上でパルス圧縮されたことになる。すなわち、乗算器144の出力信号は、時間軸上の所望信号をパルス圧縮した後にフーリエ変換した信号と等価となる。
【0027】
除算器145は、乗算器144の出力信号である所望信号の自己相関スペクトルを、フーリエ変換部141の出力信号である送信信号スペクトルで除算する。この除算後の信号を参照信号スペクトルとし、逆フーリエ変換部146で時間軸上の参照信号に変換する。この時間軸上の参照信号をFIRフィルタ147のフィルタ係数とする。これにより、FIRフィルタ147では、受信信号と参照信号の相関が求められる。
【0028】
ここで、参照信号は、所望信号の自己相関を送信信号で除算したものであるから、送信信号をキャンセルする成分を含んだ信号である。つまり、FIRフィルタ147は、送信信号をキャンセルする逆フィルタの機能を有することになる。したがって、受信信号と参照信号の相関を求めると、受信信号のうち送信信号の成分がキャンセルされ、所望信号の自己相関が出力されることになる。したがって、受信信号は、所望信号によってパルス圧縮されることになり、レンジサイドローブを目標レベルにまで抑制するパルス圧縮を実現することができる。
【0029】
これにより、どの様な変調方式の送信信号を用いた場合であっても、レンジサイドローブを目標レベルにまで抑制するパルス圧縮を実現することができる。例えば、図4(B)に示すように、SN比の劣化は少ないが、自己相関結果のレンジサイドローブのレベルが−40dB程度であるノン・リニアFMチャープ方式の送信信号を用いた場合であっても、パルス圧縮後のレンジサイドローブを−60dB程度にまで抑制することができる。無論、リニアFMチャープ方式の送信信号を用いた場合であっても同様に、レンジサイドローブを目標レベルにまで抑制することができる。例えば、ドップラーシフトの影響が大きい魚群探知機等では、リニアFMチャープ方式の送信信号を用い、レーダ装置ではノン・リニアFMチャープ方式の送信信号を用いる、という態様を実現することが可能である。
【0030】
また、上記実施形態では、所望信号はガウス窓関数に従った振幅重み付けを行う例を示したが、他の窓関数を用いてもよい。本実施形態におけるパルス圧縮後の受信信号は、所望信号の自己相関結果に準じたものとなるため、パルス圧縮の結果を窓関数の特性に応じた多種多様な特性に制御することができる。
【0031】
なお、参照信号(送信信号をキャンセルする成分を含んだ信号)は、以下のようにして生成することも可能である。
【0032】
図5は、パルス圧縮部14の構成の他の例を示した図である。この例におけるパルス圧縮部14は、フーリエ変換部141の出力信号(送信信号スペクトル)が複素共役部153および乗算器154に入力され、自己相関スペクトルに変換される。
【0033】
そして、検波器156は、送信信号の自己相関スペクトルを入力し、振幅成分を抽出する。また、検波器155は、所望信号の自己相関スペクトルを入力し、振幅成分を抽出する。
【0034】
除算器145は、検波器155の出力信号(所望信号の自己相関スペクトルの振幅成分)を、検波器156の出力信号(送信信号の自己相関スペクトルの振幅成分)で除算する。乗算部157は、この除算後の信号に送信信号スペクトルの複素共役成分(位相情報が含まれた複素信号)を乗算し、参照信号スペクトルを生成する。そして、逆フーリエ変換部146で時間軸上の参照信号に変換し、FIRフィルタ147のフィルタ係数とする。この様に、各信号を振幅成分と位相成分に分け、送信信号の自己相関スペクトルの振幅成分だけを用いて逆特性を算出し、最後に位相成分を乗算することでも、図2に示した例と同様の参照信号を生成することができる。
【0035】
次に、図6は、パルス圧縮部14の構成のさらに他の例を示した図である。この例におけるパルス圧縮部14は、フーリエ変換部141の出力信号(送信信号スペクトル)が検波器156に入力され、フーリエ変換部142の出力信号(所望信号スペクトル)が検波器155に入力される。そして、除算器145は、所望信号のスペクトルの振幅成分を、送信信号のスペクトルの振幅成分で除算し、乗算器158は、除算器145の出力信号を自乗する。乗算器157は、この自乗後の信号に送信信号スペクトルの複素共役成分(位相情報が含まれた複素信号)を乗算し、参照信号スペクトルを生成する。そして、逆フーリエ変換部146で時間軸上の参照信号に変換し、FIRフィルタ147のフィルタ係数とする。
【0036】
所望信号のスペクトルの振幅成分を送信信号のスペクトルの振幅成分で除算した後に自乗すると、所望信号のスペクトルの振幅成分を自乗したものを送信信号のスペクトルの振幅成分の自乗したもので除算したことになり、所望信号の自己相関スペクトルの振幅成分を送信信号の自己相関スペクトルの振幅成分で除算したことと等価となる。したがって、この場合においても、図2に示した例と同様の参照信号を生成することができる。
【符号の説明】
【0037】
11…アンテナ
12…送信部
13…切替部
14…パルス圧縮部
15…表示処理部
141…フーリエ変換部
142…フーリエ変換部
143…複素共役部
144…乗算器
145…除算器
146…逆フーリエ変換部
147…FIRフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号に対する受信信号を入力する信号入力部と、
前記送信信号をキャンセルする成分を含む信号を生成する信号生成部と、
前記信号生成部の生成した信号と前記受信信号との相関を求め、前記受信信号のパルス圧縮を行うパルス圧縮部と、
を備えたパルス圧縮装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置において、
前記信号生成部の生成する信号は、基準となる信号の自己相関に基づいて生成された信号であることを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の信号処理装置において、
前記基準となる信号は、所定の窓関数を乗算した信号であることを特徴とするパルス圧縮装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のパルス圧縮装置において、
前記送信信号は、周波数変調された信号であることを特徴とするパルス圧縮装置。
【請求項5】
請求項4に記載のパルス圧縮装置において、
前記送信信号は、ノン・リニアFMチャープ方式のパルス状信号であることを特徴とするパルス圧縮装置。
【請求項6】
請求項2乃至請求項5のいずれかに記載のパルス圧縮装置において、
前記信号生成部は、前記基準となる信号の自己相関スペクトルを生成するスペクトル生成手段と、
前記送信信号のスペクトルの除算成分を生成する除算手段と、
スペクトルを逆フーリエ変換する逆フーリエ変換手段と、を備えたことを特徴とするパルス圧縮装置。
【請求項7】
請求項2乃至請求項5のいずれかに記載のパルス圧縮装置において、
前記信号生成部は、前記基準となる信号のスペクトルの振幅成分、および前記送信信号のスペクトルの振幅成分を生成する振幅成分生成手段と、
前記送信信号のスペクトルの振幅成分の除算成分を生成する除算手段と、
前記基準となる信号のスペクトルの振幅成分を自乗する自乗手段と、
前記送信信号の複素共役成分を乗算する乗算手段と、
スペクトルを逆フーリエ変換する逆フーリエ変換手段と、を備えたことを特徴とするパルス圧縮装置。
【請求項8】
請求項2乃至請求項5のいずれかに記載のパルス圧縮装置において、
前記信号生成部は、前記基準となる信号の自己相関スペクトルの振幅成分、および前記送信信号の自己相関スペクトルの振幅成分を生成する振幅成分生成手段と
前記送信信号の自己相関スペクトルの振幅成分の除算成分を生成する除算手段と、
前記送信信号の複素共役成分を乗算する乗算手段と、
スペクトルを逆フーリエ変換する逆フーリエ変換手段と、を備えたことを特徴とするパルス圧縮装置。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれかに記載のパルス圧縮装置と、
前記送信信号を方位毎に発射し、物標からのエコー信号を受信して前記受信信号を出力するアンテナと、
前記パルス圧縮された受信信号に基づいて、前記物標の表示を行う表示部と、
を備えたレーダ装置。
【請求項10】
送信信号に対する受信信号を入力する信号入力ステップと、
前記送信信号をキャンセルする成分を含む信号を生成する信号生成ステップと、
前記信号生成ステップで生成した信号と前記受信信号との相関を求め、前記受信信号のパルス圧縮を行うパルス圧縮ステップと、
を備えたことを特徴とするパルス圧縮方法。
【請求項11】
送信信号に対する受信信号を入力する信号入力ステップと、
前記送信信号をキャンセルする成分を含む信号を生成する信号生成ステップと、
前記信号生成ステップで生成した信号と前記受信信号との相関を求め、前記受信信号のパルス圧縮を行うパルス圧縮ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とするパルス圧縮プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−247615(P2011−247615A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118107(P2010−118107)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】